刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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あけおめことよろです。話があまり進まんです、スマソ。


第45話 Back in Black

スパイダーセンスに強大な反応を示した矢先に皆が会議室に集合している。

恐らくこの現象が起きたことで皆の状況を確かめるためにこの場に集まったのだと考えられる。

ハッピーとフリードマンと颯太は特に何も起きていない。強いて違う所を挙げるとすればスパイダーセンスが働いて危機を察知しているため颯太の腕毛が逆立っているということくらいか。

 

しかし、女性陣は違う。

6人や累や朱音を含めて身体から前後に虚ろな虚像としてまるで幽体離脱をしているかのように自分と同じ姿が映し出されている。

側から見れば分散しているようにも見える奇怪な現象だ。

 

「どうした!?」

 

皆が各々に自分に起きている現象に困惑していると直後に何事も無かったかのように虚ろな虚像は消えて元通りに戻る。

 

「グランパとハッピーとソウタンは何ともなっていませんデシタネ」

 

「僕の方はスパイダーセンスがこれまでに無い程強烈な反応を示しました。何かこう・・・ヤバい予感でムズムズして来る感じ」

 

男性陣には特に何も起きてはいないが危機察知能力であるスパイダーセンスが働いていることを知るとフリードマンは思い出したかのように語り始める。記憶の底に閉まっていた20年前の出来事が扉を開いたようだ。

 

「この現象は刀使達にしか起こらない。以前同じ現象が確認されたことがある。20年前の事だ・・・おそらく幽世で何か大きな変化が起こったのだろう。そして大荒魂が出現した」

 

20年前に大災厄の出現に居合わせたフリードマンの記憶ではタンカーでノロを輸送する最中にも現に今女性陣に起きていた現象を目の当たりにしたことを思い出した。その直後にタギツヒメ が覚醒したこと。

その20年前と同じ現象が起きていることを鑑みるに大災厄の予兆であると察知できる。

 

一向の緊迫した状況から朱音は刻一刻と迫る最悪な状況に対してどのように行動し、民衆に知らせるかを思案するとすぐさま自分も行動に移そうとし、沈黙を破る。

 

「これは国家レベルの災害です。一刻の猶予もありません。この事をすぐにでも人々に報せなければ・・・真っ直ぐ横須賀に向かいます。報道陣を集められますか?そこで私が全ての真実を語ります。折神家が隠してきたこと。そしてタギツヒメのことを」

 

朱音としては真実を国民に伝え、逃げるように促し、かなり距離はあるが最も近い横須賀で緊急会見を開くことを提案する。だが、その行為にはかなりのリスクが伴う。フリードマンはそれを理解しているため釘を刺す。

 

「それが明らかになれば最早この国だけで済む問題ではなくなるかもしれないな。だが折神紫がそれを許すとは思えん。最悪の場合もあり得ます」

 

フリードマンの言う通りそのことを公にすれば紫がすぐ様日本中の虐殺を開始しかねない。それだけでなく国外から攻撃を仕掛けられて更なる被害を生む可能性もゼロとは言い切れない。

しかし、朱音の決意は固く真剣な表情で己の犠牲をも厭わない覚悟を伝える。

 

「私に何が起きようと舞草には協力者がたくさんいます」

 

「駄目です!朱音様の代わりはいません!」

 

「逆に言えばあなたさえ無事ならチェックメイトにはならない」

 

朱音という折神家の人間と言う強い発言力を持つ人物は大勢に反旗を翻す組織に置いて唯一の交渉人。シンボルとも言える存在だろう。

だからこそ、累とフリードマンは朱音に危ない橋を渡らせる訳には行かないとしている。

朱音さえ生きているのならば舞草は黙殺されることもなく完全なる積みにはならないと言える。朱音が唯一の彼らの発言権のようなものだからだ。

 

そんな大人達が言葉を交わす中、既に紫と戦うことを決めた面々は自身の決断を伝えるため、それらを代表して姫和が口を開く。

 

「ならば横須賀から私達は別行動をとります。折神紫を討てば全てが終わる』

 

「攻撃は最大の防御といいマス!」

 

「アイツを止めないと最低でも日本中の人が死ぬ。僕は彼女達に賛成です」

 

脳筋な考え方であるが言葉を持ってしても対話できる相手ではない上に時間もあまり残されていない。姫和の言う通り根源である紫を倒せば、日本の壊滅を阻止できる上にこの最悪な状況を打破する最善の行動と言えるだろう。

皆の表情からは強い闘志、そして覚悟が伝わってくる。

 

「…止めても無駄なようだね。朱音様といい君達といい・・・」

 

フリードマンも皆の硬い決意を聞いて、子供達に戦いを押し付けてしまうことへの罪悪感に苛まれながら浮かない表情をしている。

しかし、ここからが最大の問題。医務室でハッピーが言っていたように倒すと決意するのは良いが今何をするか、どうやってそこまで行くのか?

何事も段取りが必要だというのはまさにこのこと。

薫も些か疑問には思っていたようでそのことを追求してくる。

 

「ところでどうやって折神紫の下に辿り着く?」

 

「え?それは…」

 

横須賀に着いてもマスコミを集める以上はそのことを聞きつけた管理局本部に待ち伏せされるのがオチだ。何より鎌倉である本部に辿り着くまではかなり距離がある。走って行ったら間に合わない上に陸にも敵だらけ。尚且つ頼みの綱であるトニーとも連絡が取れないとなるとより具体的な方法を考える必要が出て来る。

 

悩む一向。颯太も自分も前に里から鎌倉までアイアンマンに運んで貰ったが連絡が取れない以上確実な方法とは言えないだろう。だが、あともう少し。もう少し頭を捻れば何か思い付きそうだがうまく言い表せない。

ここ数日色々あり過ぎたのもあるが、どうしで引っ掛かる所がある。どこで見た?いつ頃見た?そんな思考を逡巡させているとここ数日起きた出来事から逆算して1つの方法に辿り着いた可奈美が口を開く。

 

「ねぇ・・アレ、使えないかな?」

 

可奈美の発言に皆ピンと来なかったようで少しポカンとしているが颯太もようやく引っ掛かっていたことが1つの線となって繋がった。そうだ、山中でエレンと薫に入団テストと称して試された時に空から降ってきたアレがあったことを思い出した。

可奈美の考えを理解した颯太は指を鳴らして親指を立てる。

 

「・・・あっ!そっか!それがあった!ナイス!僕も似たような事したのにすっかり忘れてたよ」

 

颯太の急変したかのように皆困惑しているが、2人だけで納得されてもこちらはイマイチピンと来ない。薫がぶっきらぼうに説明を求めてくる。

 

「おい、お前らだけで納得すんなよどういうことだよ?」

 

思ったよりテンションが上がって普段とは違うような振る舞いをしてしまい、皆の注目を集めてしまっている。注目されている上に人前で発言するのはどうも苦手なためか恥ずかしそうにしているが思い至った結論を伝えることに専念する。

 

「あー・・・シンフォギアってアニメ知ってる?その中でさ、ミサイルは乗り物って言って、それに乗って目的地まで行くの」

 

「あーあのミサイルの上に乗る奴か」

 

「なるほど、S装備の射出コンテナか。あれなら何とか人も入れるし目的地まで飛べるって訳か」

 

日本で放送されているアニメの中に飛行する物体にに乗り、目的地まで移動するという戦法があることを説明するとフリードマンも合点が行く。

エレンと薫を3人の入団テストに向かわせた際にS装備の射出コンテナを飛ばした事を。コンテナの大きさも人間が普通に入れる大きさでもあるためこの中に入り、潜水艦から射出することができれば地上にいる敵と接敵せず、且つ早急に目的地まで辿り着けるということを。

 

光明が指してくるが、説明をした颯太がどこか不安な要素があるのか少し浮かない表情をしている。里の襲撃の際に経験したことが懸念となっているからだ。

 

「あー・・・でもこの方法一番確実ではあるんどけど1個だけデカい問題があって・・・」

 

「やっぱりあのドローンが・・・」

 

舞衣にパラディンがこの突入におけるかなりの不安要素であるこを懸念しているのを察知されている。

颯太はパラディンと交戦したからこそ空中を自在に飛び回り、尚且つ破壊力の高い砲撃や衝撃波を撃ってくるその脅威っぷりを体感している。これがもし、飛行中に襲って来るとなるとかなりの脅威になると察しているのだ。

だが、それ以上に気になることがあるので里で感じたこと。それでいて更に懸念すべき要素があることを伝える。

 

「そうなんだよ・・・僕らを追って来たのは全部倒せたとは思うんだけどアレだけとは限らない。それに里での戦闘で気になってたのがドローンを操っている奴が見つけられなかったことなんだ。本来なら操ってる奴を探し出して一気に叩きたかったんだけどどこを探してもいなかったし、僕らの行く場所がまるで分かるかのようにドローンを向かわせて来た」

 

ドローンのように操り手の指示に従い群れを為して行動する敵の場合、指示を出している。または大元を叩くことで無力化することが常道手段ではあるが操り手はどこを探しても見つけられず自分たちの居場所を的確に把握していたことは気になったがあの時は離脱を優先するあまり意識する余裕はなかった。

しかし、今になって見るとかなり不自然ではあった。

 

ならば、操り手はどこにいた?という話になる。そこで後からではあるが自分なりにここ数日間戦った敵の中でそれが容易に行える相手が1人いたことを思い出し、自分なりの答えを出す。

その場にいて体験した可奈美と姫和も薄々勘付いて来たようで表情が険しくなって行く。大方予想通りだろう。

 

「だから、操っていた奴は僕らが簡単には届かない場所、且つ里全体が見渡せる場所・・・上空から見ていたんだって僕は思う。ビッグバードが治っているとしたら途中で撃墜される可能性も高いと思う。多分だけど里の場所を簡単に特定した奴が読んでいないとは思えない。それに飛んでいる途中で撃墜されるってのもヤバいんだけどもし本殿よりも遠い場所で堕ちたらタイムロスでこっちの負けの可能性も0じゃない」

 

颯太はパラディンを操っていた相手はヴァルチャーである可能性を指摘し、一晩で舞草の里を壊滅させ関連する人物達を捕獲し始める手腕を持つ紫がコンテナでの上空からの突入を予期しているとしたら移動中は無防備になってしまうため、撃墜される可能性もゼロではないということだ。

その話をすることで空気が重くなってしまっている中実際に高速で飛行するヴァルチャーを見ている姫和は対抗策はあるのかを尋ねて来る。この方法以外に今自分たちが取れる手段はほぼ無い。藁にもすがる想いなのだろう。

 

「ならどうする気だ」

 

「誰か・・・空飛ぶコンテナの上に乗ってもバランスを保てる人間がコンテナの上に乗って奴等の攻撃から守る必要が・・・何で皆僕を見るのさ?」

 

対抗策を客観的に思い付く限り考えていると一同の視線が一気にこちらの方に向く。現にその条件に当て嵌まる人物が目の前にいるからだろう。

 

「いや、いるじゃねーか。その人材が」

 

「颯太はクモみたいに色々な所に引っ付ける」

 

「それでいて雑技団みたいなバランス感覚デース」

 

「それに遠くの敵を狙える武器もあるよね」

 

薫、沙耶香、エレン、可奈美に自分が言っていたことに合致するのは自分であり更にスパイダーマンにはそれに見合う条件が整っていることを指摘されて素で焦って素っ頓狂な声を上げてしまうが言い出しっぺは自分である上にこの作戦を行うのであれば必要なことであるため、皆ために出来る地に足を着けた選択だと思い承諾する。

 

「うぐっ・・・言い出しっぺは僕だしね。し、心配するなお、俺がついてる」

 

「一人称、ブレてる」

 

「お願いね、颯太君」

 

しかし、コンテナの上に乗り、皆を敵の本拠地まで護衛するまではいいにせよ里でパラディンと戦闘をしたからこそ生じる懸念がある。

 

「わ、分かったよ。ただ、やるにせよあのドローンは今の僕のウェブシューターの電気ショックウェブの電圧じゃ大した効いて無かったのが不安要素だな。でも海水に浸かってたドローンはショートさせられた・・・電圧さえ上げられれば皆を守りながらアイツを一撃で倒して戦いやすく出来るかも!あーでもそんな電力簡単に用意出来ないか・・・うーん」

 

今自分に課せられた最大な任務は皆を鎌倉まで送り届けること。しかし、ハイテクスーツのウェブシューターの電圧ならば恐らくパラディンを一撃でショートさせる程の威力となりどこで戦うにせよ有効に働くことは想像できるが今のウェブシューターの電力では不可能であることは戦闘で実証済み。そして、それ程の電力を今すぐ用意するなど不可能であると思い思い悩んでいると会話を聞いていたハッピーが思い出したかのように口を開く。

 

「大量の電力ならあるぞ」

 

「えっ?」

 

ハッピーの発言により一気に視線が向く。

一度に皆の視線が集まったことにより注目されてしまうが淡々と、大量の電力を確保出来る根拠を説明する。

実は舞草が使用しているこの潜水艦はアメリカ海軍の所属でありフリードマンの知人から貸し与えられた物だ。

そして、製造元はどこで、誰が作ったのか?という話になる。

 

「この艦の所属はアメリカ海軍だが製造元はウチの会社だ。動力には発電所以上の電力を誇る大型のアークリアクターを使用してる。そして、電力が切れても予備の電力、または極地においても電力を持ち歩いて確保できるように超小型化したアークリアクターがある」

 

この船の製造元はまさかのスターク・インダストリーズ製。そして、動力にはプラズマ技術を用いた半永久機関アークリアクター。アイアンマン の動力にも用いられている物がこの船に搭載されている。

それだけでなく予備電力や持ち運べるように超小型化したリアクターまで存在するというのだ。

そこで、颯太も思い付く。超小型化されているとは言え発電所並の電力を持つリアクター・・・自然と突破口が見えて来たのかテンションが上がって上ずった口調になる。

 

「それをウェブシューターの電力にしてアイツをショートさせられる電圧に変換できれば・・・よし!早速やらないと、作戦開始まで時間も後数時間くらいしかない。後は溶接の道具と半田付け用具一式、それにヘルメットと防護服がいるな」

 

現地に着いたとしてもパラディンの伏兵が待ち伏せしていないとも限らない。ならばこの改造は早急に行わなければ行かないと判断して言うや否や善は急げとばかりに行動が早くなった颯太はウェブシューターの改造をしなければと急いで必要な物のリストを整理しているとフリードマンに横から声を掛けられる。

 

「坊や、この艦にはS装備のメンテナンスを行うラボがあるからそれら一式は揃っている。そして、僕も手を貸そう。効率が上がるよ」

 

「私も手伝うよ。これでも大手S装備開発会社の技術者なんだから」

 

「累さん、博士・・・。ありがとうございます!じゃあ早速・・・」

 

時間も人手も足りない最中フリードマンと累に協力して貰えるというのは非常にありがたい物であるため安堵の涙が出そうになったが時間も勿体無いので以前潜水艦に初めて乗った際にS装備を見せられながら組織の全体像を説明された部屋まで移動する。どうやら装備をメンテナンスするためのラボだったようだ。

颯太とフリードマンと累が室内に入る中皆は少し離れた入り口のあたりで3人の様子を見ている。

 

「坊や、まずはウェブシューターの全体像を決めよう。リアクターを埋め込む以上形はある程度初期段階から想定しないと行けない。いつもなら紙に図面を書くことから始めていたんだろうがこのラボのホログラフィックプリンターなら一瞬で読み込んで大まかな形から入れる筈だ。ウェブシューターを置きたまえ、内蔵データから必要なものを選べるよ」

 

フリードマンが指差しているのはスキャンした物を読み取って3Dのホログラフへと変換するプリンターのようだ。これでまずは設計の大まかな形を早い段階で決めることが出来るのだろう。

ウェブシューターをプリンターのガラス面に置くと一瞬の内にスキャンが始まり、ウェブシューターの形状、構造、構成する素材を読み取ったホログラフがまるで目の前にあるかのように投影される。

 

そのままホログラフに投影されたウェブシューターに触れ、直後に必要な材料、これから改造するに当たって削っていく必要がある部分を選定するためにこなれた手付きで動かして行く。その動作はまるで初めて動かしているとは思えない程スムーズであり手慣れている様子であった。

 

「んーと、違う違う違う・・・これはいらないな。リアクターが場所を占めるからなるべくパーツはコンパクトにしないと」

 

今思うと何だかんだで皆が颯太がウェブシューターを作成するのを目撃するのは初めてであるため普段の頼りない感じでもなく、マスクで顔を隠した冗談ばかりを言う陽気さでも無く、1人のメカニックとしての真剣な表情はまた新鮮な物に感じた。

 

一方でハッピーはそのこなれた手付き、時折専門用語を用いながらフリードマンと累と意見交換やアドバイスを受け、それでいて的確に部品を選定していく1人のメカニックとしての姿を見て、よく知るある人物がスーツを作成する場面を思い浮かべてつい笑みが溢れてしまう。

 

「やべえ・・・3人が何か話してるか全然分かんねえ」

 

「専門用語ばかりで流石にな・・・」

 

「頭から煙出そう〜」

 

「私ちょっとは分かりマース!」

 

3人のやり取りは技術者ではなく戦闘員である彼女達からすればまるで別の国の言語のように聞こえてしまうため凄いことが起きているのは理解できるがヤムチャ視点のように置いてけぼりにされてしまっている。

 

直後に颯太が新しく改造するウェブシューターのサイズを合わせるために投影されている腕の形のホログラフに手を通すと手の形に合うようにフィットする。これでサイズ調整は終わりだ。

 

「あー・・・何?」

 

皆の視線が注がれていることにようやく気付く程集中していたのか素朴な表情で問いかけて来る。

 

一方で舞衣はかつて自分のしたアドバイスは今でも彼の背中を押し、支えになっていることを目の当たりにして言葉では言い表せないような不思議な感覚になりながらも自分たちでは手伝えることは無さそうな上に自分たちも英気を養うために現地での作戦を考えたり準備をしようと思い立ち、皆を部屋に戻らせようとして退室して行く。

 

「ううん、続けて。じゃあ、邪魔にならないように私達は部屋に戻ろっか」

 

「うん・・・」

 

ハッピーは颯太の最悪な状況下の中にいながらも限られた時間の中で地に足を着けて行動し、自分の持てる力で諦めずに脅威に挑み続ける意志を感じ取りつつ、腕にホログラフを通した姿を見ると一度不敵な笑みを浮かべる。

そして、横須賀に向けて舵を切るためにすぐ近くの操舵室へと入ってく。それと同時に壁に取り付けられているボタンを押す。

 

「・・・よし、改造は任した、作業用BGMは任せろ。お前らスーパーナチュラルってドラマ知ってるか?妖怪退治って言ったらこの曲だろ!」

 

これから戦いの渦中へ行く最中ウェブシューターの改造の場を盛り上げるため。そして、皆の英気を養う為にミュージックを掛ける。

 

20年前の大災厄の日、命を掛けて戦った人達の想いを、使命を受け継ぎ、再びタギツヒメ という脅威に立ち向かう為に彼の地へと戻る若者達に相応しいと思う曲を流す。

各場所に取り付けられたスピーカーを通して船内全体に重低音のギターとドラム音の前奏が響き渡る。トニーが好きなバンドの曲『Back in Black』だ。

 

フリードマンとエレンはその曲を知っている為一瞬驚いて目を見開くとフィーリングが合ったのかテンションが上がりながら颯太が即座にスパナを軽く宙に投げてキャッチしながらノリノリで反応する。

 

「あっ、叔父さんも前に聞いてた曲だ!いいよねコレ」

 

「まぁ、私的には今は移民の歌かJust A Girl な気分デスが・・・」(ま、確かにこっちの方が今の私たちにマッチしてマスネ)

 

ヘヴィメタル調な曲が流れる最中颯太、フリードマン、累の3人だけが残ったラボでは大まかな形状とサイズを決めた後に今度は具体的な改造のプランへと入って行く。

引き続き颯太がホログラフに投影されたウェブシューターを操作し、両手を広げると映像のウェブシューターが一度分解されこれから内部構造を変えて行くようだ。

 

「それじゃあ、まずは発射時のセッティング。電気ショックウェブの射出機能をinheritance(継承)。前のはバッテリーの電力が足りなかったから射出してウェブシューターから離れると威力が落ちてたけどリアクターの電力量ならデフォルトは電圧を75%アップに固定。これでドローンをショートさせられる筈。で、コンテナの上じゃクソエイムになって安定しないから発射する時は完全マニュアル操作で。風力で軌道が安定しなくなる可能性を考慮して射出時のウェブの形状を流線型に変更、これは内蔵してるバネを形に沿うように溶接する。これなら風力への抵抗を持たせつつ、射出速度をアップできる筈」

 

今回改造する際のプランはまずウェブシューターの動力をリアクターに変更。発電所並の電力を得た事によりパラディンをショートさせられる程の電力を確保した事になる。それでいて稼働時間も格段に引き上げられることだろう。

しかし、電力を上げるだけでは不十分。威力の調節も大切だ。

その電力を調整する為に極地用に持ち出す専用の小型のポータプル変電圧機を埋め込んで電気ショックウェブの電圧を調整できるように施し、OSを専用の物に書き換え、電力量の再計算を短時間で行う必要がある。

累とフリードマンがいてくれて良かったと心の底から安堵しつつ、2人に協力してもらう作業や役割分担を決めて行く。

 

「博士、ではウェブシュータにリアクター専用のモジュールを直結するのをお願いしていいですか?超精密作業をお願いしてしまってすみません・・・僕はリアクターの使用電力の再計算とパーツの溶接の作業に入るので」

 

「誰に物を言っているんだい?僕は君より年季のある技術者だよ、これくらいお茶の子さいさいさ」

 

フリードマンはすぐ様ウェブシューターのバッテリーを取り外し、先程のセッティングで計算した通りの形状になるようにリアクターのモジュールの接続を始める。数々の新技術を開発してきた天才科学者という名は伊達ではないようで半田付けで精密作業を黙々とこなして行く。

 

「累さんは電力量が前より圧倒的に多くなると電圧調整の再計算が必要になるのでそれを調整するために付属させるポータブル変電圧機のOSをこの紙に書いた通りに書き換えてください」

 

颯太がヘルメットを被りながらウェブシューターの内蔵バネを溶接し、金槌で熱したパーツを叩きながら累にOSの書き換えを依頼する。

必要になる電力量の計算と、電圧を調整するポータブル変電圧機専用のOSを即座にメモ帳十数枚程にビッシリと書き込んで机の上に貼り付けてある。

 

累はパソコンを担ぎながら机に貼られた紙を剥がして確認するとその量に驚くがすぐ様、パソコンを机の上に置いて手を高速で動かしながらキーボードに入力を開始して行く。

大手のS装備開発会社のシステム開発に携わっており、数々の技能検定で上級の資格を所持している累からすればOSの書き換え等容易いようである。

 

「オッケー!・・・ってスゴいねこの量!?ま、オラクルマスタープラチナとシスコ技術者architectの私にはこの位朝飯前だけどね!」

 

非常に優秀な協力者がいることでウェブシューターの改造作業は的確に進んで行く。それと同時に潜水艦も横須賀に向けて進行し、作戦開始の時間も迫って来る。

 

そして、自分たちは戻って来る。あの場所に・・・大荒魂のいる鎌倉に。

 

横須賀に行き、その後鎌倉に行くまでに陸にも空にも敵だらけ。自分たちを吊るし上げるために立ち塞がる敵が大勢いるだろう。

今、自分の手元にはハイテクスーツも無い、それでいてトニーとの合流もいつになるか分からない。

 

だが、先人達の想いを引き継ぎ、苦境の中で困難に挑み続ける若者達の鉄の意志は今、目覚めを迎える。




モービウスの予告のラストにめっちゃ意外な人が出てて超ビビリましたわ・・・。

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