刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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今回は管理局側視点です(ま、間延びちゃうわ)。この辺がムズ過ぎるから過度な期待はせんでくだちい。
1月2月はちと時間取れんですたい・・・


第46話 刹那の輝き

先程の隠世からの現象は日本全土に起きていたため、刀剣類管理局本部でも同等の現象が起きていた。その直後に朱音がマスコミを横須賀港に集め、投降するという暴挙に出たという知らせを聞いて皆が混乱している。

 

その現象により結芽が本部へ帰投する時間がかなり早まり、直に戻ってくるということだ。

先程まで格納庫にてヴァルチャーを装備していたトゥームスに呼び出されて会話をしていた栄人はその時のやりとりを思い返しながらかなり焦った様子でヘリの発着場まで駆けていく。

 

(結芽ちゃん・・・まさかそんなことになってるなんて・・・あの子に会って本当のことを聞きたい・・・結芽ちゃん・・・・)

 

その表情には暗い影が落ちており、焦り、不安、ショック。様々な感情が見て取れる。

 

・・時は少し前に遡る。

 

ヴァルチャーに呼び出されて格納庫に来ると、トゥームスは既にヴァルチャーを解除して生身の状態になりヘルメットを隣に置き、テーブルの上に座ったまま姿勢を崩すという非常に行儀の悪い態度で待ち構えていた。

時折貧乏ゆすりをしている様を見るにかなり不機嫌であるのが見て取れる。

 

「来たぞ」

 

「あぁ、気やがったか。ま、適当に座れや。ここには俺らしかいねえし見張りの類もいねぇ。てめぇがしてくださりやがった失態は誰にも漏れねえから安心しな」

 

どうやら誰もいない所に呼び出したのは、栄人がパラディンにした細工は管理局側からすればとてつもない裏切り行為に抵触する行為であるとも言えるため雇主に極力配慮した結果だろう。

適当に格納庫内の箱に腰掛けるのを確認するとトゥームスは嫌味ったらしい口調を崩さずに話を続ける。

 

「まずだ・・・坊ちゃんよぉ、テメェはまず何がしてぇんだ?ネズミ共を取っ捕まえるために俺とパラディンを嗾けておきながらテメェのダチだっつーガキ共は攻撃しねえように細工するなんて随分舐めた真似してくれたじゃねぇかおい」

 

トゥームスが腹を立てているのは後少しで彼らを捕まえられたかも知れないのに装備の使用権限を持つ栄人のみが可能なパラディンへの細工。顔認証のシステムで舞衣と可奈美は攻撃しないように設定していたことについてだ。

 

虚を突いて彼らを攻撃出来たのなら残党の内1人でも捕まえられたのではないか、敵の戦力を削ぐことが出来たのではないか。何より実際に可奈美達が戦う様を目撃している身としては即座に手を打ちたかった身としては雇い主とはいえ説明も無しに私情を挟まれたことは腹が立つため、信頼がないのは分かるがそんな甘いことを言ってはいられない状況下でそのような行動を取った理由が聞きたい。というものだ。

 

一方、自分が細工をした事はいずれはバレたかも知れないが未だに自分は管理局に協力する会社の人間として反逆者と戦うか、友達を逃すかという狭間で迷っていたから大した意味は無いのかも知れないがせめて彼女達だけでも、少しの間だけでも管理局の人間にテロリストとして扱われ、処理される前に逃げて欲しいという想いもあってパラディンに細工をした。

管理局に協力する会社の人間としての立場、彼らの友人という立場、その2つに板挟みになりながら矛盾した行動を取っている自分は情けなく思っているが自分は簡単に立場に背ける立場じゃない。彼らのように選ぶ権利すら与えられていないに等しい状況だからだ。

 

しかし、雇い、命令を出しておきながら私情を挟んで足を引っ張ってしまったことは申し訳ないとも思っている上に何も喋らないのは不誠実ではあるため、震える喉から声を絞り出して眼前の相手に向けて言葉を向ける。

 

「管理局は既に2人をテロリストの一員として見なしてる。捕まったら2人はテロリストとして相応の扱いをされてしまう・・・国家に背いた人間を管理局は許しはしない・・・確実に殺される。だから、せめて2人だけでも一分一秒でもいいから少しでも長く逃げて欲しくてだから・・」

 

「はっ!てめぇの頭はハッピーセットかよボケガキが!・・・これだからゆとり丸出し頭のガキはムカつくんだよ」

 

次の瞬間に栄人の顔の横を風を切る音を立てながら長身の男の長い脚が横切って背後の壁に靴底が激突し、格納庫に轟音を響き渡らせる。

トゥームスが当てるつもりはさらさら無いがあまりにも中途半端なスタンスで私情を挟み、既に手段を選んではいられない状況であるにも関わらずに未だに甘い事を言っている様に腹が立ってしまったため、ついカッとなって彼の背後の壁に蹴りを入れる。

強い衝撃とビリビリとした空気の中、突如背後で大きい音がしたので目を見開いて驚いている。

 

そんな彼の様子を知るや否や制服のネクタイを掴んで引っ張り、威圧しながら話を続ける。その気迫に押されて蛇に睨まれたカエルと言った具合に硬直してしまうが視線は逸らさない。というかこちらに向けて来る怒気を纏った視線を前にして身動きが取れない。

 

「てめぇ状況分かってんのか?ダチだか何だか知らねぇが奴らは既に他国と共謀して国家転覆企むテロリスト共の仲間入りしてんだよ、仮に騙されていようがいまいがな。そんな奴等から国を守んのが管理局様とてめぇの会社の仕事だろうが」

 

既に状況は変わっている。まだ数日前の御前試合で紫を襲撃した姫和に咄嗟に協力した可奈美も早めに捕まえられたのならまだギリギリ庇えなくも無かったり、その反逆者一味であるスパイダーマンに沙耶香と共に付いて行って管理局から離反する行動をとった舞衣もまだスパイダーマンや舞草に騙されている可能性も無くは無いとして庇えない物でも無かった。

だが今は違う。彼らは長年反抗の牙を研ぎ続け、他国と結託してテロ行為を画策している舞草の一員として管理局に見なされてしまった。

 

日本では他国と共謀したてテロ行為を行なった者は死刑に相当するものであり管理局にそう見なされてしまった以上、未成年とはいえ2人共捕まれば只では済まない。

現に対刀使用の装備を搭載したパラディンや御刀に反応するファインダーを搭載し、STTに特殊装備を持たせた所を鑑みるに荒魂として処理するつもりだったのだろう。

 

「で、奴等は長い年月を掛けててめぇらに反抗するために牙を研いで大将の首を狙ってやがった正真正銘ぶっ潰さなきゃならねえ国の敵だっつーのにダチだから、捕まって欲しくねぇから何もしねぇならまだしも私情を挟んで逃すだぁ?戦いをバカにすんのも大概にしろや」

 

既に彼1人がどう足掻いた所でどうこう出来る問題では無いのだが、それならそれでどちらの味方もせず何もしないでも、管理局から離反して彼らの側に着くでもいいし、管理局の人間として彼らと戦い務めを果たしても良い筈だ。

だが、管理局の人間としてパラディンやヴァルチャーを送り出しつつも彼女達を捕まって欲しく無いから逃すという筋が通っていないというスタンスは看過出来なかったためつい感情的になってしまう。

 

「・・・・・・」

 

トゥームスに投げかけられた言葉の圧に押されてつい押し黙ってしまう。自分のどっちつかずの中途半端なスタンスは会社だけで無く管理局にも迷惑を掛けかねない行為であり、それを堂々と突き付けられたからだ。

友達と戦いたく無い、だが会社の人間として戦わなければいけない。

 

可奈美と舞衣の事も大事だが、会社の経営を支えてくれている管理局の長である最大のクライアントである紫、無表情で何を考えているか読めず現状最も接しにくいが職務に忠実で真面目であり丁寧に接してくれる夜見、昔から知っていて実姉のように慕っている寿々花、面倒見が良く凛々しくて気の良い人物で素直に尊敬できる真希、この苦境の中でそのことを払拭してくれる結芽。

 

自分の立場もあるが新しく知り合った人達のことも大事になっており裏切ることができない状況に立たされ未だに自分の身の振り方を決められずにいたのでトゥームスからぶつけられる言葉が突き刺さってしまい何も言えなくなってしまっていた。

 

そんな様子を知ってかトゥームスは先程まで怒鳴り散らすパワハラ上司のような態度から一転して掴んでいたネクタイを離してやる。

硬直している最中に急に手を離されたためバランスが取れないままゆらりと身体が揺れながら尻餅をついてしまう。

 

「はぁ・・・どうしようもねぇ野郎だなテメェは。いいか?今のてめぇの半端なスタンスが気に食わねぇから教えてやる」

 

トゥームスはため息をつきながら唖然としている栄人に向けて小言を吐き始める。決して老婆心では無く単なる嫌味でしか無いことは様子から伝わっては来るのだが。

 

「立場がどうだのダチと戦いたくねーだのうだうだ理屈っぽく決めんのを有耶無耶にしてっからこうなんだよ。あのガキ共を逃した所で捕まる時間が先延ばしになっただけ。遅かれ早かれ奴らがテロリスト扱いなのは同じだ。問題を先延ばしにしても何も解決はしねぇんだよ」

 

 

「そんなの・・・分かってるって」

 

 

「はぁお〜ん?なら今すぐ連中をぶっ潰すか管理局様を裏切るか決めてみろよ」

 

「それは・・・」

 

トゥームスに突きつけられた選択肢はかなり両極端ではあるが今の自分にある数少ない選択肢ではあるだろう。だが、そのような大事な決断はすぐには下せない。自分には立ち場や大切な人たちがいるのだから。

 

「ほら、決められねぇ。てめぇは立場に背く度胸も無ければ連中と戦う勇気も無ぇ。全員に良い顔して嫌われないようにしたいんだろうがそんなもん幻想なんだよ、この世界ではな。てめぇに良くしてれる奴もいりゃあ俺みたくてめぇが気に食わねぇ奴もいる」

 

言われた言葉がまさに図星であったため、押し黙ってしまう。

自分はいつも皆の前では都合のいい顔をして御曹司針井栄人でなければならなかった。そのために上っ面を取り繕わなければならなかったのだが最早どちらかに譲歩していられる状況では無くなってしまったため、それが崩壊の序章を迎えたのだろう。

 

トゥームスはそんな中皆が皆納得出来る選択などないことを。世の中は不平等であり誰もが皆幸福になれる等幻想に過ぎない。誰かを幸福にするのなら選ばれなかった誰かぎ不幸になるのだという自身の人生経験で培って来たことが表情から伝わって来る。

 

 

「全員が全員納得できる選択なんて出来る訳がねぇ、個人の幸せも他人からの評価も平等なんかじゃねぇのよ。大将やスタークのように金と権力を持ってる奴等はやりたい放題、てめぇのように安全な場所でふんぞり返ってることが許されてる奴もいれば、俺たちみてぇな貧乏人のように連中の食べ残しを食うしかねぇ奴等もいる。立場の格差のように人格も違えば価値観も違う。だからこそ衝突し、納得できねぇから戦争は起きるのさ。てめぇの考えや立場に従ってそれが正しいと思い込んでる奴らのおかげでなぁ」

(ま、そんな奴らを煽って武器を売り捌いて戦いを引き起こしてんのは俺らなんだけどなっ⭐︎)

 

トゥームスが戦争の中で生きてきたのも、不平等の中で幸福な誰かが出した残骸やゴミをハゲタカのように漁り、生きるためには手段を選ばずにはいられなかったからなのだと。時には誰かの人格や価値観、それらを利用し、自分たちが戦いを起こしてでも武器を漁り、敵を殺して日銭を稼ぐしかなかったからこそ今の栄人のどっちつかずで中途半端なスタンスが人一倍腹が立ったのだ。

だが、一方的な説教だけではぬるま湯に浸かりまくった甘ちゃんは理解しない。時には年上らしいく諭さなければ甘ちゃんには響かないからだ。

 

「だが、そんな中で唯一誰しにも与えられていて金じゃ手に入らねぇ平等なもんがある。それは時間だ、今こうしている間にも時間が進み、各々がテメェに与えられた時間の中で生きて行動してる。人間で最も大事なのはその限られた時間の中でテメェのやることを決める事、これだけは揺らがねぇ」

 

先程とは打って変わって口が悪いのは変わらないが多少は穏やかな雰囲気になりながら話を続ける。

頭のネジは飛んでいるがやはりここだけは必ず大切にしていることなのだからだらうか。

 

「俺が生きてきた戦場ってのはまさに地獄でな。常に弾が飛び交い爆風が舞ってやがった。そん中で一瞬でもチキったり迷ったりした奴は即座にあの世逝きだ・・・いいかクソガキ、生きるってのは戦いだ。そして、何より大事なのはテメェのやることをちゃっちゃっと決めることだ。テメェみたいな甘ちゃんが戦場に出たら10回はドタマぶち抜かれてんぞ」

 

「分かった・・・」

 

自分は常に少しでも迷ったら死ぬ戦場で生きてきた。その中で最も大切なのは決められた時間の中でやるべき事を決断し、選択する事。

これは我々人間が生きていく中で常に強いられていること。例え些細なことであろうが我々は常に物事を自分なりに決断し、行動して生きている。

 

「ま、何を取るにせよ少なからず男が決めた事に横から外野がくっだらねぇことごちゃごちゃ抜かして来るかも知れねぇが気にすんな。細けぇことなんか一々気にしてもしょうがねぇし、テメェはテメェの決めた事やりゃいんだよ。くだらねぇ揚げ足取って偉そうにゴチャゴチャ抜かす連中は『うるせぇバーカ』って鼻で笑ってやる位でちょうどいいんだ、その方が前向きになれるだろ?w」

 

あまりらしくないことをペラペラと喋ったせいかこういう堅苦しい雰囲気が好きではないからなのかは不明だがフォローのつもりなのか重苦しい空気を変えるために軽い口調で茶化し始める。

 

確かに仕事をする上でストレスが無い仕事など存在せず、一々物事を真面目に受け取りすぎるといつかはパンクしてしまうこともあるのだろうがそこまでお気楽にはなれないと思い冷静にツッコミを返す。

 

「それはお前が軽過ぎるだけだ」

 

「それを言っちゃあお終いよ。まぁ、俺が言いたかったのはテメェが行動出来ねぇのは理屈っぽくグダグダと考えすぎでいつまでたっても準備が終わんねぇからだ。やることはさっさと決めて行動しろ。チャリンコが漕ぎ出したら少しの力で進んでくように決めてから行動したら後はなるようになるだ。老害からは以上ってことで」

 

「・・・用が済んだならもう行く。席を長時間は空けられ無いからな」

 

話が終わったようなので格納庫から本部へ戻ろうと踵を返すとトゥームスはわざと聞こえるようにとぼけた感じで思い出したかのように言葉を紡ぐ。

 

「・・・あーそうだったー。一個大事な事言うの忘れてたぜー」

 

「まだ何かあるのか?」

 

トゥームスの言葉に振り返り、視線が合うとそのまま話を続けて来る。

 

「里の殲滅戦に増援に来たあのガキ、知ってるよな?」

 

「彼女がどうかしたのか?」

 

結芽のことを話題に出され何事かと思っているが結芽とトゥームスに何か関連でもあるのかと思っているとトゥームスの口からは予想外の言葉が発せられる。

 

「あのガキ・・・・もう長くねぇだろうなぁ。多分数日もしねぇであの世逝きだぜ」

 

「・・・・っ!?お前冗談でも言って良いことと悪いことがあるぞ・・っ!」

 

流石にそのような発言を看過出来なかったので詰め寄るとトゥームスは飄々とした態度を崩さずにヴァルチャーのヘルメットを持ってヘルメット内部に記録されているHUDに接続して例の証拠映像を見せて来る。

 

「流石の俺でも冗談でこんなこと言わねぇさ、現に証拠も残ってるしな」

 

「なんだと」

 

「ヴァルチャーのヘルメットに内蔵されてるカメラの記録映像に残ってる。ここだここ」

 

記録映像を巻き戻すと結芽が神社の境内に立っている姿が映し出される。

 

『ゴフッ!』

 

直後に急に口元を押さえて咳き込み始め、掌には拳大の血溜まりが出来ていた。

専門的な知識名がなくともこれがただ事では無い事は理解できるだろう。

あまりにもショッキングな出来事であるため、思わず目を見開いたまま硬直してしまう。

 

「そんな・・・結芽ちゃん・・・」

 

「俺長い間次々に人が死んでく戦場にいたから分かるんだよなぁ、人間がそろそろ死ぬっていう兆候っていうか予感?みたいなのがな」

 

「敵の攻撃をまともに受けた訳じゃないのにこの吐血量・・・結芽ちゃんずっと限界が近かったってことなのか・・・?」

 

トゥームスは長年戦場で多くの人の死を目の前で目撃してきた。今は大分慣れてしまっているので「あぁ、こいつそろそろ死ぬだろうな」と直感で分かる時がある。結芽からもそのような気配を感じ取ったのだろう。

 

「多分そうだろうな。ずっと墓穴に片足突っ込んだまま戦ってたんだろうよ。あのガキを早くに送り込んでりゃもっと早くテロリスト共を殲滅出来たのに今になって送り出したってなると何度も出撃に耐えられる肉体じゃねぇ、ガタが来てるってことだろうな」

 

「・・・言いたい事は分かった。だが、何故俺に態々教えた?」

 

「まぁ、テメェには迷惑掛けたしこの国では報連相が大事なんだろ?」

 

冷静に淡々と結芽が中々出撃の命令が降りなかった理由を考察した内容を話す。それが栄人の神経を逆撫でするがトゥームスはその調子のまま理由を説明してくる。

 

「おいおいそんな睨むなよ、あのガキが限界なのと俺は関係ねぇだろ?あのガキと親しそうなテメェに教えんのは気が引けたけど大事な連絡を怠って後でグチグチ言われるのはウゼェし何も教えねぇであのガキと今生の別れになって泣かれても寝付けが良くねぇからだよ」

 

トゥームスなりに多少は配慮した結果であるため言い方が悪いのは問題だが確かに知らされない方が辛かったかも知れない。

 

「で?テメェはどうすんだ?」

 

「えっ・・・?」

 

「言っただろうが大事なのはテメェのやることはちゃっちゃっと決めることだってな。今がその時だ」

 

人にはいずれ何かを決断し、選択しなければならない時が来る。それを拒み前には進まなかった栄人にも今しかない。限られた時間の中で物事を決めなければならない時が来てしまった。

そんな中今すべきことを逡巡して自分なりに答えを出す。

 

「・・・・もうすぐ結芽ちゃんが戻って来る・・・彼女に会って話をする。そして本当のことを聞く」

 

「うーん・・・まぁ、目先しか見えてねぇからぼちぼち50点ってとこだがウジウジ悩んで何もしねぇよりは良い。オラ、こんなとこで油売ってねぇでとっとと行きな。俺は大将に言われた持ち場に戻る」

 

目先しか見えていない如何にも子供らしい選択だとは思ったがこれまで親や紫の言う通りに生きてきた人間が出せる答えなど今はそんなものだよなと思うことにし、早く行くように促してくる。

 

「すまない」

 

「・・・・命短し何とやらだっけかなぁ。せいぜい励めよ若者、おじさんは応援しちゃうぞぉ」

 

栄人が走って結芽が帰投する屋上のヘリポートに向けて移動するとトゥームスはヴァルチャーのヘルメットを人差し指の上に乗せてバスケットボールのように回し、途中で掴んで止めた後にくるりんぱで頭に被り、戦闘に向けて準備を開始しするのであった。

 

時は現在に戻り、結芽を乗せたヘリはヘリポートの上に着地しドアから結芽が降りてこちらに向けて走ってくる。

ヘリのパイロットは栄人と結芽に軽くお辞儀をするとシートベルトを外して機体から降りて去っていく。

 

 

「結芽ちゃん・・・・」

 

「ハリーおにーさん、お仕事はいいの?ま、いいや。色々話したいことがあるんだ!私敵の拠点を壊滅させたんだよ、スゴいでしょ!・・・おにーさん?」

 

結芽はこちらに駆け寄って来て自分が成果を上げたことを褒めて欲しいのか目を輝かせてる。先程の現象によりこれから更に自分の力を証明する機会が来たと察知したのでウキウキしているというのもあるからだろう。

 

「結芽ちゃん、今から俺が聞くことに正直に答えてくれ」

 

「な、何?そんなマジになっちゃって・・・」

 

そのあまりにも真剣に結芽を見つめる視線に一瞬戸惑っているが、直後に最も本人の口から聞きたくないが聞かなければいけないことを問いかけてくる。

 

「結芽ちゃん、もう身体が限界だって本当なの?」

 

「・・・・っ!?誰から聞いたの?」

 

予想だにしなかったこと、いや、最も彼には知られたく無かったことを彼の口から伝えられたことで驚いて目を見開いてしまうが自分の身体の事は自分が一番分かっている。だから知られてしまった事は彼にとっても自分にとっても必ずしも良いことだとは思え無かったので知られたく無かったのだ。

 

「トゥームスが装備してたヴァルチャーのヘルメットのカメラに掌に拳大の血を吐血してる君の姿が映ってたのを見た。敵の攻撃を一発も被弾してないのにアレだけ吐血するってのは専門的な知識が無くても分かる。君には何か抱えてる物があるんだって・・・だから、本当のことを君から聞きたい、出来るなら力にだってなりたい。だって結芽ちゃんは俺の・・・大事な友達だから」

 

彼女と接したこの数日間、過ごした時間は決して長くは無かったが彼女といる間だけは自分にのし掛かる辛いことを忘れられた。彼女の影響を受けて自分も彼女のように強い意志を持ちたいと思うようになった。

そんな彼女が何かを抱えている。どこかに行ってしまう。だから力になりたい、友だからというだけでなく胸の奥でつっかえている想いが張り裂けそうだが口に出してしまったらより辛くなってしまう気がしていた。

 

「おにーさん・・・はぁ・・・もう言い逃れは出来ないかー。あーあ、おにーさんには知られたくなかったんだけどなー」

 

結芽は栄人の結芽を本気で心配し、本当のことを知りたいのだなという事が伝わって来たので知られた事は少し遺憾であるため多少投げやりな態度が出てしまうが自分のことを話さなければいけないと覚悟を決めて続ける。

 

「結芽ちゃん・・・話してくれる?」

 

「分かったよ、話せば良いんでしょ話せば・・・ゴフッ!」

 

結芽が会話の最中に急に跪いて咳き込み始めて口元を抑えている。心配になって自分も他に膝をつけて結芽に駆け寄ると結芽の掌にはやはりヴァルチャーの記録映像で見た通り拳大の血溜まりが出来ている。

 

「結芽ちゃん・・・っ!?血が・・・」

 

「あぁ・・・これね。私、もう長くは生きられないんだ。ううん。もう死んでてもおかしくないのかな・・・多分、今日が最後になるかも」

 

「そんな・・・やっぱりダメだ!早く病院に行かないと・・・っ!ウチが世界中から治せる医師を探す!金もウチが全部出す!だから・・・」

 

結芽の口から語られる現実はあまりにも残酷であった。栄人も冷静さを事欠いてすぐにでも自分の家の資金で医師を探すと言うが残念ながら結芽は既に知っている。どう足掻いてももう既に自分は限界だと言うことに。

結芽は栄人には視線を向けずに掌の血溜まりに映る自分の顔を見ながら自嘲気味に話始める。

 

「ごめん、気持ちは嬉しいけどそれはもう試したんだ。でも、結局私の病気は治せない病気でさ・・・もう、何年も前になるかな。小さい頃にニッカリ青江に認められて神童って呼ばれる位強くて、それで綾小路に編入したんだ・・・でも入学式の時」

 

かつて結芽が小学校低学年の頃、ニッカリ青江に認められ、神童と呼ばれる程剣術の腕前も上達して行きその才能を認められ順風満帆な人生を歩む・・・筈だった。

編入した際の入学式の日、校門の前で急な胸の痛みに襲われて倒れ込み緊急搬送された。

 

「この原因不明の不治の病が分かってそれからはずっと入院したまま・・・日に日に私の身体は弱って行って、両親も私から離れて行って・・・私はもう死ぬのを待つだけだった・・・けど、ある日紫様が私の前に現れた」

 

その日以降、長い入院生活が始まった。身体が日に日に動かせなくなって行くほど弱って行き、最初の内は見舞いに来ていた両親もついには来なくなった。

既に強い刀使では無くなった彼女を見限ったのか弱って行く自分の娘を見ているのが耐えられなかった。それは彼らにしか分からないがまだ幼い彼女の心にトドメを刺すには充分だったと言える。

 

そんなある日、自分の所属していた綾小路の学長である相楽学長と共に訪れた

折神紫。

彼女は冷静に病床に伏せながら虚な視線でこちらを見つめる結芽に向けて橙色の蠢く液体の入ったアンプルを掌の上に乗せて究極の選択を迫ってくる。

 

『選ぶがいい』

 

その口から伝えられた言葉は全てに絶望していた彼女にとって救いのように感じられた。

 

『このまま朽ち果て、誰の記憶からも消え失せるか、刹那でも光り輝き、その煌めきをお前を見捨てた者達に焼きつけるか』

 

紫の提示して来た選択はこのまま死を受け入れ、自分を諦めた両親や周囲の人間たちの記憶から消え死んだ1人の人間として生を終えるか、短い間だとしても自分の生きていた証を残すのか。

 

そして、彼女は後者を選んだ。

 

だが、彼女の意地なのか彼に拒絶されたく無いからなのか自分の・・・いや、自分たち親衛隊は改造したノロのアンプルを体内に入れているという事を口には出さなかった。

自分たちは死んだとしたら人間として死ねるかも分からないという事実を伝えたら辛くなると思い、この事だけは言えなかった。

 

「私は紫様のお陰で今もこうしてここにいる。私は決めた、私は私の命が無くなるその瞬間まで戦い続ける。私を忘れた奴らに、私の存在を刻み付けて私が生きた証を残したい。それから私は親衛隊に入って、おにーさんに出会ってここまで来た。どう?引いた?・・・なんで泣くの?」

 

結芽はややヤケになりながら、これまでの経緯を聞いただけでも彼が自分を拒絶するかも知れないと思い自嘲気味に真実を告げる。

そして、これまで視線を逸らしてしたが彼の方へ視線を向けると目尻から涙を流して結芽を見つめる栄人の姿だった。

 

「だって、そんなの悲し過ぎるじゃねぇか・・・君は俺より年下なのにまだまだ未来だってある筈だったのに・・・」

 

「何?同情なんていらないんだけど!」

 

「違う・・・そうじゃない。悔しいんだよ・・・友達になれたのに君に何もしてあげられない自分が・・・君は既に自分の生き方を決めてたのに俺は何も知らずに立場に縛られて迷ったままだったことが・・・」

 

彼の涙を流した理由。結芽の、それしか選ぶ道が無かったこと。だが、それ以上に自分の無力さを突き付けられたからだ。

自分はこれまで何不自由なく生活して来た。父親の経営する会社が日本でも有数な企業でありゲームも発売日よりも前に手に入り、高度な英才教育だって受け幸せな世界で守られて来ただけの存在だということを思い知らせる。

自分の家には金がある。そして、彼女の時間も命も、買うことも救う事が出来ない。

金や権力では完璧な解決は出来ない事態に直面され自分では彼女の力にはなる事が出来ないこと、そして自分は恵まれた場所にいながら言われた通りに生きてきた在り方は彼女の抱えている物に比べるととても小さな物に感じてしまった。

 

結芽はそんな意気消沈とした彼に向けて血の付いた部分はすぐにハンカチで拭き取った後に姿勢を地に膝をついている彼の正面から腕を回して抱き締める。

結芽なりにフォローというか彼に精神的に助けられていたことを本来なら認めたくは無かったが今しか伝えられないからこそ自分の想いを伝える。

 

「ハリーおにーさん・・・私ね、ハリーおにーさんと出会ったこの数日間とっても楽しかったんだ」

 

「えっ?」

 

結芽の言葉にハッと驚いて前を向くと結芽と自分の顔は既に目と鼻の先。以前にもこれ程までに接近した事はあった。あの時は驚きと気恥ずかしさがあったが今はそれよりも結芽の言葉を聞くのに精一杯になっている。

 

「おにーさんは限定品のストラップをくれたり、忙しい時でも時間の合間を縫って私に構ってくれた。それで一緒にいて退屈しなくて私に優しくしてくれた。おねーさん達もそうだけどおにーさんといる時本当のお兄ちゃんが出来たみたいで胸が一杯になった。もう少し、もう少しだけでいいから皆でいる時間が続いて欲しいなって思った。おにーさんにスゴいって褒めて欲しくなった。

もう少しだけ・・・この世界で生きてみたくなった」

 

御前試合の応援のついでに親衛隊に挨拶に来て、最初にあった際に限定品のストラップをくれたこと。そして親しくなってからは自分に構ってくれる。それでいて我儘を聞いてくれる。隙間の空いた心が満たされて行ったこと。この奇跡だけは時間を巻き戻してやり直せると言われても失くしたくと思える程充実していたのは事実だった。

 

だが、時間は残酷なことに皆に平等に、時計の針を刻んで行く。

まだ親衛隊の皆や栄人と過ごす時間やもう少しだけ長く続く未来まで生きてみたいが本当に残酷なことに時間は既に結芽の味方では無い。

 

結芽の口から紡がれるまだ生きていたいという願いを聞き、彼も自分なりに金で解決は出来なくとも、それでも彼女と出来る限り共にいたい。

 

そして、ついに自覚した自分の本当の気持ちを伝える。

 

「結芽ちゃん・・・じゃあ、少しでも長く生きられるように病院に行こう。きっと姐さんや獅童さんや皐月さんだって力を貸してくれる。例え少しの間だったとしても、今の立ち場を捨ててでも俺は最後まで君の側にいるよ。だって俺は・・・君のことが好きだから」

 

今は真剣に結芽だけを見つめている視線には一切の曇りはない。彼女にいつの間にか惹かれていたこと、その事実を今は嘘偽りなく告げる。

 

「ほんっと・・・ズルいなぁ。お陰でちょっと死にたく無くなっちゃったじゃん。でも・・・・」

 

その言葉と真剣な表情を向けられた結芽の鼓動は強く高なった、一瞬その言葉と提案を受け入れてしまいたいと思ったがやはり自分の中には絶対に曲げられない事がある。

 

「私はやっぱり最後まで戦いたい。誰よりも強い私を皆の記憶の中に焼き付けたい。例え明日には灰になっても、私は今日までそのために戦ってきた。そこだけは譲れない。だからごめん」

 

「そっか・・・ゴメン。もうとっくの昔に決めてたことだもんな・・・外野がとやかく言うのは筋違いだよな」

 

結芽の覚悟を、意志を聞いて彼女はやはり戦う道を選ぶのだと知ってほんの少し落胆するが、彼女がとうの昔に決めていたこと。自分がとやかく言って水を差すべきでは無い。いや、言ったとしてもこの強烈な意思は変えようも無いと悟り、眼を伏せる。

 

結芽はそんな彼に対し、ここ数日ずっと胸の内に引っ掛かっていたモヤモヤの正体が分かり自分も本当の気持ちを伝えるべきだと決意した。

 

「いいって、おにーさんが悪いんじゃないんだし。それに・・・」

 

結芽の顔があの日、室長室でポッキーゲームのように互いに目と鼻の先まで接近したあの日のように接近し、あの時は接近しただけだが今度は違う。

 

互いの唇を重ね合わせ、本当の気持ちを行動で伝えるのであった。

独特の湿っているが弾力のある柔らかい感触を他人と交わしたのは初めてであるため感触に一瞬戸惑う。

そして、結芽の行動には驚いたがきっと彼女も自分と同じ気持ちだと理解し、眼を瞑る。

 

もし、彼女が健康体であってまだこれから先の未来も生きられたのならこんな急ではなく普通に恋をして、デートをしたりしたのだろうか。

それは分からないが今はこの許された時間の中で彼女と触れ合えるであろう僅かな時間を噛み締めなければと思い彼女の気持ちを受け止める。

 

お互いの口を塞いでいる状態であったためかしばらく時が経つと少し息が苦しくなって来たのでお互いの顔を離すと結芽の顔は泣くのを我慢しているようにも見えるが心からの笑みを浮かべている。

その笑顔がとても愛おしくもあり、同時に哀しく思えた。

 

「結芽ちゃん・・・」

 

「今度はしちゃったね・・・私も好きだよハリーおにーさん。これで私のこと忘れられないでしょ?」

 

「あぁ・・・お陰で忘れられそうもないよ」

 

「はははっ。なら良かった」

 

お互いの額と額を合わせて多少前髪が崩れるがお互いが同じ気持ちであった事が嬉しくて喜びでつい笑みが溢れる。

これでお互いの想いを伝えることが出来た。これでほんの少しだけ後悔が晴れる、それが少しだけ救いになる。

 

結芽と額を合わせながらもうお互いに残されている時間が少ないことを鑑みて、今自分は何をすべきか。どうあるべきかを決める決断の時が来たと思い、自分なりに出した決意を結芽に伝える。

 

「結芽ちゃん、君が最後まで戦い抜く道を選ぶって言うなら俺はもう止めない。君の意志を尊重する。たけど俺にもその手伝いをさせてくれないか?」

 

「えっ?」

 

「俺はずっと迷ってた。アイツらと戦いたくない。そう思って今日まで自分のやることにも中途半端なスタンスで挑んで今まさにテロリストの残党を逃す状況を作り出しちまった・・・連中が何らかの方法で管理局に攻めてくるのも時間の問題だと思う」

 

栄人はずっと迷い、苦悩し、彼らと敵対することも、ましては管理局に背くことも恐れていた。どちらも大切だったから……だが、もう状況は完全に変わってしまっている。

悠長なことは言ってられない。もう片方に譲歩していられない、引き返せない所まで来ているのだと実感させられる。

 

「何かが出来るなんて大層なことは言えない。でも、何もしないなんてことも出来ない。もし、局長が討たれて管理局が陥落したら・・・これまで局長が抑止力として様々な大勢を押さえ込んで来たのにその座から局長が居なくなったら、その抑え込まれてきた悪意や問題が一気に吹き出してこの国に牙を向く。アイツらと・・・衛藤と柳瀬と戦いたくはない。だけど管理局に協力する会社の人間としてそれを見過ご訳にはいかない」

 

舞衣や可奈美と戦うことは今でも嫌だ。だが、同時に長年に渡りこの国の多くの勢力を粛清し今の表面上は平和な日本を作って来たがその裏で抑圧された悪意や問題も同時に潜んでいる。

以前に紫を暗殺しようとした者や、舞草のようにテロリストと称される勢力も同時に存在していたことがその証明だろう。

 

もし紫という枷から解き放たれた時、それらの悪意は日本に牙を剥く。そうすれば訪れるのは更なる混乱と破滅だ。

紫の正体を知らず、管理局を信じる無知な人間だからこその着眼点と言えなくは無いがタギツヒメ の片棒を担いでしまっているのは皮肉か。

 

「でも、どうするの?ハリーおにーさん戦う力なんて無いのに」

 

「1つだけある。ウチの会社が開発を進めてある最新式の装備がね、それをつければ俺も親衛隊の皆さんを補助する位は出来る筈だ」

 

栄人の中には既に1つだけリスクは伴うが1つの結論は出ていた。

誰も適合者のいない。針井グループが心血を注いでいる最新式のパワードスーツ。あれこそが今自分が切れる最大のカードだ。

 

「私は群れて戦うのは好きじゃないけどまぁ・・・たまには悪くないかもね」

 

「ただ、もし、舞草が攻めて来て、その中にアイツらがいたら・・・少しだけでいいからアイツらとは話す時間をくれないか?まだあの2人だけなら庇い切れるかも知れないから・・・」

 

「しょーがないなー」

 

「じゃあ、俺は格納庫に行く。またね」

 

「うん、またね」

 

その言葉と共に互いの身体から手を離して、踵を返して特殊格納庫のある場所へと移動して行く。

結芽は無意識の内に去っていく栄人の手に向けて手を伸ばすが、名残惜しそうに途中で手を引っ込めてその背中を見つめ続ける。

 

針井グループが局内に設置させて頂いている特殊な格納庫に移動した栄人は周囲には誰もいないことを確認すると携帯電話を取り出して電話帳の欄にあった

颯太の上にある父親である能馬に連絡を取る。

報連相が大切なのもあるがこちらもこの装備を使うための交渉手段を用意しているからこその選択だろう。

 

「父上、私です」

 

『どうした?どうやらこの数日の内に多くの反乱分子を捕らえたようだな。後は残党だけか?』

 

未だに海外にいる父親は忙しそうだが日本の管理局の様子は聞いていたようであった。

 

「はい、ですが舞草の残党はまだ管理局への・・・局長への反抗の意を見せています。管理局に攻め込んで来る可能性もあり得るかと」

 

『そうか、なら局長を護衛する戦力はどうなっている?』

 

「皐月さんは負傷して今は病室にいますが親衛隊全員本部の敷地内にはいます。後は護衛の刀使が数十人程、後は数台のパラディンとヴァルチャーと夜には修理が完了さるライノとショッカーです」

 

『それだけいるなら残党に物量で押し負けることは無いだろう。お前は彼らの仲介役を引き続き行え』

 

能馬は栄人の口から伝えられる管理局の残存勢力を確認すると複数人であるならば紫を護衛出来ると考えたようどが直後に栄人から伝えられる言葉は能馬の耳を疑うものであった。

 

「私も出ます」

 

『何?どういうつもりだ?』

 

一瞬息子から伝えられた言葉に対し脳の処理が追い付かなったがあまりに真剣な声色で言っているため嘘だとは思えない。いや、コイツがまともに自分に対し意思表示してくる事が信じられなかったということもあるだろう。

 

「私も管理局の人間として戦います・・・『グリーンゴブリン』を装備して」

 

『馬鹿な!?何を考えている?お前はただの人間だ。戦う必要など無いだろう』

 

栄人の決断、グリーンゴブリンを装備し、管理局の人間として舞草から紫を守るということだった。

能馬は息子が言っていることが理解出来なかった。彼は本来は戦いは戦闘員に任せて安全な場所で静観することが許された人間。いや、それ以前に戦う必要などないただの人間なのだから尚更だろう。

 

「仰りたいことは分かります。ですが舞草にはあのリチャード・フリードマンだけで無く更なる協力者がいます。現にスパイダーマンはハイテクなスーツを用いて集団との協力ではありますが一度はヴァルチャーやショッカーやライノを破っています。それに昨夜里での掃討作戦に置いてスパイダーマンはパラディンの軍勢を以前の物とは違う・・・恐らく特殊な力も持たないスーツで突破しました。勝負に絶対が存在しないように彼らを甘く見てはいけません。恐らく土壇場で計算外の強さを発揮するでしょう」

 

だが、この反応は想定内。今度はこちらが用意していたカードを切る。

ここ数日戦闘での報告や記録映像などで彼らの戦いぶりを見ていた上で察せられること。敵には世界有数な天才技術者がおり、ハイテクなスーツを用意してくる可能性があり、増援が来る可能性があるため人手が足りなくなる可能性があるだけでなく計算外の強さを発揮する場合もある。

管理局側も猫の手も借りたい状況に陥る可能性が高いことも明白ではあるため戦力は1人でも多い方が良いことは理解できた。

だが、それでも能馬には納得し切れないことがあった。

 

『なるほど、フリードマンが敵側にいるとなると厄介だな。言いたい事は分かるが何もお前が戦う必要は無いだろう?護身術を習い、日頃地道なトレーニングを行なっているとはいえお前は本部で安全な場所で守られていることが許されている人間だ。お前がやる必要はない・・・それに、新装備のテストパイロット達とは違ってお前に替わりはいないんだぞ』

 

彼らと違って替わりはいない。その言葉には跡継ぎという道具として必要なのか個人として替わりがいないという意味なのか正直分からないが軽く頭に来つつも今は一刻を争う状況だ。何とかコイツを説き伏せないといけない。そう思って話を続ける。

 

「父上、お気遣いは有り難いですが最早そうは言っていられ無い状況なのです。彼らが攻めて来るまで最早一刻の猶予もありません。もし、局長が彼らに討たれて管理局が陥落したらウチの最大の株主を無くすだけで無く局長が抑えつけて来た勢力の悪意が牙を向きます。それを防ぐのも我らの役目ではありませんか?」

 

能馬は栄人の言う紫が倒されると起きる問題について確かにと納得させられる部分もあったため、気が引ける上に親としても今すぐやめさせたいがその事態に陥ることは避けたいがために渋々であるが承認する。

 

『お前が会社のためにそこまで考えているとはな・・・だが、グリーンゴブリンの装備には気を付けろ。アレは装着者の脳内を特殊な状態に変性させ感情をエネルギーに変換してパワーを上げるが完成したてで何が起きるか分からないからな、戦闘の補助以外で出しゃばろうとはせず危険なら無理せず逃げろ。何度も言うが私の跡を継げるのはお前だけなのだからな』

 

「分かっております。では」

 

能馬からグリーンゴブリンの使用する権利を勝ち取り、装備をよりパワーアップさせるため今は自分専用にチューン出来るよう承認された。

 

そして、ガラスケースの中にて眠る鎧は全身を深緑色にカラーリングされ、頭部を守るフルフェイスのヘルメットマスクは分離式で取り外しも可能なようである。

西洋の民間伝承に伝わるゴブリン という精霊を模したと思われる後頭部に向けて長い頭部のヘルメットは首と連結していてフードのようにも見え、長い耳のように思える両耳のアンテナ付きのイヤーマフ。そして、顔を隠して防御する面は鬼を連想させるがメタリックなデザインだ。

 

特殊コマンドを打ち込んでスーツをケースから取り出して認証コードを入力していく。そして、装備の機動の宣言を行う。

 

「俺は管理局の人間として戦うことを決めた、国を脅かす悪意を止める!あの子と一緒に・・・グリーンゴブリン、起動!」

 

そしてオープンされたパワードスーツの鎧の中に入り、これから適合のためのシークエンスを行う。AIが装着者と装備のシンクロ率を上げよりパワーアップするために画面に大量の文字が映し出され準備が進められていく。

 

『装着者の認証を開始。スーツとのシンクロ率を上げるために装着者の細胞を摂取し、特殊細胞との融合を開始します』

 

AIの宣言の後にスーツから機器の先端が伸び始めて栄人の手の甲に密着し、細胞を摂取し、身体能力および戦闘において効率的に敵を攻撃する思考を司る特殊な細胞との融合を開始する。

 

「ぐっ!ぐあああああああ!」

 

細胞を抜き取られるだけでなく更に特殊な細胞との融合の痛みは想像を絶する物で耳や目から出血が起きる程の激痛が走る上に緑色の電流が全身を駆け回る痛みは中学生なら悲鳴をあげずにはいられないため絶叫する。

だが、自分は戦う道を選んだ。だからこの痛みにも耐えられる。先程気持ちを伝え合った結芽のことを思い浮かべれば大したことのない痛みと割り切り、耐え抜くことに成功した。

 

『承認完了。シンクロ率100%』

 

AIの機械声が淡々と新たなる戦鬼『グリーンゴブリン』の誕生を伝える。

装着者である栄人は顔色が蒼白くなっていて目眩もするが何とか意識を保ち、新たなる自分の名を、そして、共に戦う装備の名を告げる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・行くぞ、グリーンゴブリン !」

 




区切るべきだったと思ったけど1つの話として纏めたかったんやスマヌ・・・。



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