刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
話の都合上ちょくちょく主が凡ミスしますが13歳の未熟な中坊ということでご容赦ください。
颯太がスパイダーマンになってから1年後、2年生に進級して以降もスパイダーマンとしての活動を続け、時に犯罪者や荒魂と戦うヒーロー活動と学校生活の二重生活は中学生の颯太には激務であり、行動をメディアで咎められたりSNSで悪く書き込まれることもあり何度も嫌になった事もあるが叔父から教わった「大いなる力には大いなる責任が伴う」このモットーを貫くために奮闘していた。そして、親愛なる隣人スパイダーマンは美濃関周辺の町に現れる神出鬼没の覆面ヒーロー又はご当地ヒーローのような存在となっていた
ある日の放課後
コンピューター室
五月になり、毎年折神家で開催される「折神家御前試合」への代表に選抜された衛藤可奈美と柳瀬舞衣。
友人である颯太と針井栄人、通称ハリーは二人が代表に選出されたことを当人達から携帯へメッセージが来たのを確認した。
「へえ~衛藤と柳瀬、代表に決まったっぽいな」
「ほんとだ、でもあの二人なら代表に選ばれても不思議じゃないよ。」
「だな、たまに手合わせすると結構良いとこまで行くけど最近あいつらには中々勝てねえや」
作業を進めながら雑談する二人。
二人は舞衣と可奈美に祝福やら激励するメッセージを送り、向こうからありがとうのスタンプが送られてくる。
明後日には刀剣課と希望者で颯太もハリーも応援に行くことになっている。
そして、颯太は放課後に町の見回りを行うために課題を早々に終わらせようと手を早めていた。
「しっかしキーボード打つの速いなぁ颯太。前衛藤が手が迅移してるみたいとか言ってたぞ」
「昔からパソコンいじりも好きなだけ…よし、終わった。」
課題を早急に終わらせ席を立つ颯太。これから1度部屋に戻り、スーツを中に着用し、私服に着替えて町の見回りに行くつもりだ。
「んじゃ、僕先に帰るよ」
「ああ」
軽いやり取りをして部屋に戻り、スーツを中に着込み、私服をその上から着用する。
校門を抜け、しばらく歩いて町の人気の無いごみ置き場がある路地裏に入り込み誰もいないことを確認すると上に来ていた私服を脱ぎマスクを被るり、右腕には腕時計、左腕には小型のリストバンド型のウェブシューターを装着する。
そこには美濃関周辺に現れる覆面ヒーロースパイダーマンの姿があった。
来ていた私服をリュックにつめ込み、リュックを壁に向かって放り投げ、ウェブシューターのクモ糸を当てて壁に貼り付ける。
そして、ビルと同じ高さまでジャンプし屋上で町を見渡し気合いを入れるために深呼吸をする。
「お仕事開始だ」
ビルの屋上から飛び、建物に向かってクモ糸を飛ばし、ウェブシューターから放たれた糸の端を掴み「フォー!」という軽快な掛け声と共に町の上空を飛び回る。
駐輪場にてチェーンロックを強引に破壊し自転車を盗み、周囲に気など配らずに歩道を爆走していく男。
男の一連の行動を見逃さなかったスパイダーマンはクモ糸を建物に貼り付け男の目の前で着地する。
自転車を盗んだ男は驚いて急停止する。
「ちょっとこれ持ってて」
驚いている男の様子も歯牙にもかけず男の服に糸を貼り付ける
「ありがと」
スパイダーマンが手を放した瞬間に男の体は建物に貼り付いていた糸の方向に引っ張られ男の体は持ち上げられ、宙吊りにされた状態となる。
「ねえ!これ誰の自転車ー!?」
男が手放した自転車をキャッチし道行く人達に声をかけるが持ち主はこの場にいないようなのでペンを通行人に貸してもらい、「これはあなたの自転車? P.Sスパイダーマン」と書いて貼り付け駐輪場まで戻す。
その後はこの辺りに来たのは初めての外国人のカップルに英語で道を教えたり、木から降りられなくなった子供を助けたりしていた。
ビルの屋上にてマスクを上の方へと押し上げ口の辺りのみを露出させ外国人のカップルから貰ったサンドイッチを頬張りながら町の様子を眺めていると少し離れた辺りの銀行から発砲音が聞こえたため、すぐさま向かうと大型のトラックに乗った集団が銀行を襲撃し、現金を持ち出して逃走していた。
パトカー数台が追跡していたが暴走した大型トラックは道行く車を薙ぎ倒し、パトカーも巨体に弾かれ回転しながら電柱に激突したり、玉突き事故を起こして前に進めない等追跡は困難を極めていた。
すると高速でトラックに接近する赤い何かを確認する警官。
「頼むぞスパイディ!」
「オッケー!」
そのままトラックのコンテナに乗り移るスパイダーマン。
素手でコンテナの扉をこじ開け、武装して待機していた銀行強盗に向けてウェブシューターから糸を発射して武器を奪い投げ捨てる。
強盗が放心している隙に足に糸を放ち、くくりつけて走行中のトラックのコンテナから投げ飛ばして街灯に糸を繋げて吊るし上げる。吊るし上げられた強盗仲間は警察に拘束された。
次にトラックの運転手をどうにかするために再度コンテナの上に乗り、両手足で這いながら運転席まで移動する。
「やっほー、Mr.犯罪者?僕スパイダーマン。後ろの人達は観念したから諦めなよー」
「てめえ!」
運転席の窓をノックしながら上から顔を出すスパイダーマン。運転席の窓を開けアサルトライフルを発砲してくる運転手。
銃を構えた瞬間に全身の毛が逆立つようなゾワリとした感覚、スパイダーセンスが発動し、上半身を反らすことで回避するスパイダーマン。その際にウェブシューターからクモ糸を発射するが狙いが逸れて助手席の強盗に当たる。そしてすかさず右腕のウェブシューターのスイッチをいじる。
「早速試すか新機能!でも充電減るからあんましやりたく無いんだけど…くらえ!電気ショックウェブ!」
クモ糸にも様々な機能を着けた方がより効果的と考え、半年もの時間をかけてウェブシューターを改造し稼働時間が48時間の充電式になるという欠点を抱えたがクモ糸のバリエーションを増やしたスパイダーマン。
相手を殺さずに失神させる為に新しく改造したウェブシューターの機能、電気ショックウェブを選択した。
スイッチをいじるとクモ糸から電流が流れ、糸に触れていた助手席の強盗に電気ショックを与えて失神させる。
「あのさぁ、最近流行んないよ銀行強盗なんて!時代は仮想通貨だしね、銀行に金あっただけラッキー!」
次に運転手を止めようとしたが前に停車してある車を弾き飛ばし車体が揺れ体勢が崩れかける。車が飛ばされた方向を確認すると見知った顔を見かける。
可奈美と舞衣だ。恐らく明後日の御前試合で宿泊する際に必要な必需品でも買いに来ていたのだろう。
二人とも刀使であるため迅移などで回避はできると思われるが逃げ惑う人々があまりにも多く、うち一人が可奈美と衝突し反動で愛刀の御刀「千鳥」を落としてしまう。更に別の逃げ惑う通行人に千鳥が蹴られて遠くへ行ってしまう。
「あーやばいな…ごめんちょい待ってて!」
内心かなり焦っているがこんな時こそ冷静に。思考を切り換え急いでトラックから飛び降りるスパイダーマン。
急いで千鳥を拾おうとするが間に合わない、 舞衣も迅移を発動しようとしたが通行人達に押されて身動きが取れず、距離も離されていく。
「可奈美ちゃん…っ!」
「くっ…!」
このままでは弾き飛ばされた車に激突する。誰もがそう思って目を瞑っていたが一向に痛みは無い。
疑問に思って恐る恐る目を開ける
「間に合った…や、やぁ無事かい?お嬢さん」
寸での所で車を押え、軽々と持ち上げているスパイダーマンが立っていた。
「よいしょっと」
持ち上げていた車をそっと置くスパイダーマン。目の前の光景を信じられなそうに見ている可奈美。そして、何より噂になってから約1年経過して初めて対面するスパイダーマンに身近な誰かに似ている、昔から知っているような感覚に襲われるが気のせいだ、有り得ないと割り切る。
「えっと、あなたが…噂のスパイダーマンさん?」
「コスチュームでバレた?そうそうこれ、大事な物だろ?」
スパイダーマンであることを軽い口調で肯定し、ウェブシューターから発した糸で千鳥を回収して手渡す。
「千鳥!あ、ありがとうございます!」
受け取った千鳥を大事そうに胸元で抱き抱える可奈美の後ろから走ってくる舞衣。
「あの…妹達だけでなく友人まで…っ!本当に何とお礼したらいいか…っ!」
息を切らしながら感謝の言葉を述べて頭を下げてくる姿に戸惑ったスパイダーマンだがすぐに自分が次に何をすべきなのかを思い出す。
「お礼なんていいよ。君達が笑顔でいてくれること、それが最大の報酬だ!じゃあ僕強盗追わないとだから!また会おう!お嬢さん達!」
今こうしている間にも強盗の乗ったトラックとの距離は離されていくため二人の頭を軽く撫でた後、逃げ切れられる前に捕まえるために建物に向けて糸を飛ばして再度飛び上がるスパイダーマン。
その様子を可奈美と舞衣は呆然と見送っていた。
「ねえ舞衣ちゃん…」
「な、何?」
「スパイダーマンさんの声ってどっかで聞いたことない?」
「私も…あんな口調で話す人なんて知り合いにいないけど誰かに似てるような…」
(それにあの腕時計どこかで…)
「うーん、分かんないなー。昔から知ってるような感じがするんだけどピンと来ないと言うか…」
どこかで聞いたことがあるような身近な誰かの声に似ているような気がするが、作ったような軽い口調、明るいトーンで話す男性等自分達の周囲にはあまりいないため思い当たる節がなく悶々とする二人、これ以上考えても仕方ないと、買い物の帰りであったためそのまま寮へと帰ることにした。
一方逃走中のトラックに追い付き、フロントガラスに貼り付くスパイダーマン。
「さぁ終わりだ観念しろ!」
「終わるのはてめえだクモ野郎!」
「そうかよ!」
フロントガラスを叩き割ろうと何度かフロントガラスを殴るスパイダーマン。殴る度にヒビが割れていきもう少しで割れると思った矢先、またしてもスパイダーセンスが発動する。振り向くとスパイダーマンの後ろに走行中の市営バスに近付いていた。
トラックとの衝突は避けられない。なら転倒を防がなくては…。そう判断したスパイダーマンはトラックの正面から飛びバスの反対側で着地する。
トラックとバスが衝突し、バスが傾いて転倒仕掛けるがスパイダーマンはバスに背を向け倒れかかるバスを押さえて踏ん張る。
「ぐおおおおおおっ!」
あまりの重さと衝撃で道路が削れ、潰されかけるが踏みとどまりバスの転倒を防ぐことに成功した。
バスの乗客達にケガ人がいないことを確認すると、トラックが大破したため運転していた強盗がトラックから降りて逃げ出そうとしていた。
それを見逃さずに建物に向けて糸を飛ばし、糸の端を掴んで移動しながら強盗を追うスパイダーマン。
強盗が1度足を止め、アサルトライフルを発砲してくるが空中で身をよじらせて回避しながら強盗に接近し、そのまま飛び蹴りを入れて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた強盗が壁に激突したと同時に糸を飛ばして壁に貼り付ける。
「一丁上がりっと、あっ逮捕の方よろしくー」
掃除を終えたかのような感覚で手を叩き、近くにいた警官に声をかけそのまま飛び去るスパイダーマン。
辺りはすっかり暗くなり、もう夕飯の時間だ。帰らないと怪しまれると思い寮へと帰ることにした。
しかし、着替を入れたリュックを置いた路地裏に戻るとごみ置き場のごみと同時にリュックも持ち去られていたため、着替えることもできずコスチュームのまま帰ることになったスパイダーマン。
これで服を無くすのは4度目だ、今度はもっと見つかりにくい所に隠そうと意気消沈しながら歩いていく。
校門の前に着くと校内に咲いている木に飛び移り、自分の部屋がある寮まで身を隠しながら進むしかなく、このときばかりは衣装を色合いが目立つカラーリングにした自分を恨んだが迷っていても仕方ない。寮の壁をよじ登って部屋まで行くしかない。
「スネークの気持ちが少しわかって来たかも…」
周囲を警戒し、姿勢を低くしながら進み、壁に背をつける。そして夕飯の時間だからか誰も窓側の方には来ていないことを確認する。
(よしっ、今だ!)
すかさず壁に貼り付き、音を立てずに壁をよじ登って自室の窓を開け部屋に入り、足で窓を閉め天井を這いながら移動するスパイダーマン。
しかし、よく部屋の電気をつけたまま出かけるクセがあるため、気づかなかった。
何故自分は今帰ってきたのに部屋に電気がついているのかを。
そして、そのまま天井から降りて着地してマスクを外すと中性的な一見冴えない茶髪の少年の素顔が露になりスパイダーマンから中学生榛名颯太へと切り替わる。
しかし、後ろで物を落とす音が聞こえて振り替える。
そこには、颯太の部屋の窓の外からは死角になるテーブルのイスに座る美濃関学院学長羽島江麻がいたのだ。
「…っ!?」
驚きのあまり声が出ないという様子だった。
しかし、部屋の音を聞いた寮長が声をかけてくる。
「どうした?今の音?てか颯太帰ってたのか?学長お前のこと待ってたんだぞー」
「あー!何でもないです!すいません今対応します!」
かなり慌てて返事をする颯太。
慌ててスーツの上にスウェットを着る颯太。
「えっと…榛名君これはどういう…?」
「あの…学長!この事はどうか内密に!ていうか何で僕の部屋に!?」
「何がどうなってるのよ全く…貴方、私が放課後成績優秀者の学費軽減の件で来るように呼び出したのに来なかったじゃない。それで寮に行けばまだ外出中みたいだったから戻ってくるまで待たせてもらうことにしたのよ、そしたら…」
「あっ…そういやそうだった…すみません忘れてました」
課題と町の見回りをする事で頭が一杯で呼び出されていたことを完全に失念していた颯太。
この1年間何とか隠し通してきた秘密が自分のこんな凡ミスでバレた事実が更に恥ずかしさを増していく。
観念して江麻と向かい側のイスに座って話をすることにした。
「それよりその…聞いてもいいかしら?」
「はい…どうぞ…」
これから何を聞かれるのかおおよそ察しが着いているため諦めたように質問を許し目を伏せる。
「貴方があの美濃関周辺の町に現れるスパイダーマンなの?壁をよじ登って天井に貼り付く様を見て言い訳なんか出来ないわよ」
「はい、僕がスパイダーマンです…」
江麻に投げ掛けられた質問に対して素直に答える颯太。
窓から入ってくる所や天井に貼り付く様も見られたのだ認める以外に選択肢は無い。
「やっぱりそうなのね、どうしてこんな事に」
「それは…」
颯太はこれまでの経緯、1年前刀剣類管理局所属の研究所での校外研修で蜘蛛に噛まれたこと、そして壁をよじ登ったり、荒魂とも戦える程の身体能力が身に付いたこと、自分のせいで叔父が殺されたことも。そして、叔父から教わった言葉を胸に困っている誰かを助けるためにスパイダーマンになったこと、全てを話した。
「そうだったのね…この事は他に誰か知っているの?」
「いいえ、学長が初めてです。」
「芽衣も知らないのね」
「もちろんです。叔父さんの事があって何とか立ち直ったのに僕が命懸けだって知ったら絶対にショックを受けます」
これまでの経緯を聞いて突拍子の無い無いようだと思ったが刀剣類管理局所属の研究所。この言葉に思い当たる節があるためある程度納得できた。
自身の同級生である颯太の叔母の芽衣は知らないという確認を取ると、確かに芽衣が知ったら卒倒するかも知れないと思いつつ話を続ける。
「分かったわ、この事は内密にしておくわ。貴方のおかげで美濃関周辺の町に住む人達が救われたもの。それに私の夫も貴方に助けてもらった事があるの」
「えっ?そうなんですか?」
「半年前に車に轢かれそうになった所を貴方に助けてもらったそうよ。本当に感謝しているわ」
「い、いいですよ感謝なんて…僕は自分のやるべきだと思った事をしてるだけで…」
内密にしておいてくれると約束をしてくれた江麻、その上で感謝の言葉を述べられて困惑してしまう颯太。
次の瞬間江麻に抱き締められ、大人の女性の香水のような匂いが鼻をくすぐる。
「貴方はとても立派だわ。でもね、忘れないで欲しいの。貴方も私の大事な生徒の1人、いつだって私は貴方のことを心配しているわ」
「だから…あまり無茶な事はしないでね、秘密を知った以上私も出来る限り貴方をサポートするわ。」
「学長……ありがとうございます」
自分の凡ミスにより秘密がバレてしまったがこれまで1人で誰にも言えず孤独に戦って来たためかまだ13歳の颯太は精神的にかなり疲弊していた。
しかし、誰かに話せたことと味方ができたことは素直に嬉しかった。
その後は放課後に出来なかった学費軽減の件の話をし、家での叔母の様子や交友関係の話等をして江麻は帰って行った。
颯太も夕飯を食し、入浴を済ませた後に明日には岐阜羽島駅で前日から御前試合の会場へと出向く可奈美と舞衣の見送りをする予定のため眠りに着いた。
翌日
ー岐阜羽島駅にてー
御前試合へ向かうため、岐阜羽島駅から鎌倉まで新幹線で向かう可奈美と舞衣を見送るために美濃関学院の制服を着た生徒数名が来ており、颯太とハリーも見送りに来ていた。
「降りる駅間違えないでよねー」
「可奈美ならあり得る」
「むしろ仮眠取ろうとして寝過ごしてそのまま終点まで行きそう」
「やりそうで怖いな…」
「あり得そうなこと言わないでよ颯ちゃん!だ、大丈夫だよ!舞衣ちゃんがいるから!」
「早速舞衣頼み~?」
「現地でもスパイダーマンが助けてくれるとは限らないんだから舞衣に心配かけちゃダメだよ、昨日もヤバかったんでしょー」
「ギクッ」
「どうした?颯太?」
「いや、何でもない」
複数で談笑している可奈美達を横に執事の柴田と舞衣が会話を交わしていた。
「あの大人しかった舞衣お嬢様が…美濃関学院の代表になられるとは…」
「柴田さんやめてください!恥ずかしい…」
長年勤めてきた主の長女の舞衣の成長が余程嬉しかったのか涙ながらに祝福する柴田。しかし、気持ちは嬉しいが友人達の前であるため大袈裟に泣くほど祝福されても恥ずかしさが勝ったのか柴田を諌める舞衣。
改札にて舞衣と可奈美は駅員に生徒手帳を見せ、確認させる。
「こっちが私のです」
「ご苦労様です!」
二人が刀使である事を確認した駅員は敬礼をしながら二人を通す。
「行ってきまーす!」
「頑張ってねー!」
「明日皆で応援に行くからねー!」
「無茶すんなよー」
改札を抜ける二人を姿が見えなくなるまで見送った後、全員で学校に戻る。
残った時間で翌日の準備をしたり、コスチュームに着替えて町の見回りをしたりして時間を潰した颯太。
夕飯の後に入浴を済ませ、眠りに着く。
深い眠りに着いた頃、体は寝ているのに意識ははっきりしている感覚に襲われる。
蜘蛛に噛まれたあの日を境に時折夢の中に出てきては話しかけてくる巨大な蜘蛛の夢だ。
最初は意味ありげに自分がどのような選択をするのか試すような事を聞いては来たものの、颯太がスパイダーマンとしての活動を決意してからは「それもまた1つの道か」と在り方に関してはあまり否定的ではないようだ。
とはいえ夢の中で話しかけてくる内容も大方は世間話ばかりで現世での人間の世界について聞いてくる好奇心旺盛な奴だと知って以降はそんなに苦手意識は無くなってきた。
「隣人、明日はお前の友の果し合いを見に遠出するのか」
「ああ…友達が御前試合の代表に選ばれて刀剣課と希望者で応援にね」
「場所は?」
「鎌倉だけど?」
明日の御前試合で友人である可奈美と舞衣の応援に行くことを教えていた。
「鎌倉か…京都ならば俺も少しは楽しめたかも知れぬが」
「京都に何か関係があるの?」
「別に…」
折角の遠出だと言うのに場所が鎌倉だと知ってあまり嬉しくなさそうにする蜘蛛。
関係性を問いただしてもはぐらかされるだけなので気にしない事にした。
「だが、鎌倉か…警戒せよ隣人。お前はそこでスパイダーマンとして重大な決断を迫られるかも知れん。俺の直感がそう告げている。」
「なにそれ、まあ本物の蜘蛛の直感がそう告げたのなら嘘では無いのかも。一応覚えとくよ」
明日の御前試合で何か起きるのか?まあ参考程度に覚えておくか。と警告された内容を頭に入れておくことにし、その後は起きるまで軽い世間話をしながら夜を明かした。
ー御前試合当日ー
折神家前
バスに揺られる長旅の末に、二人を応援するために同学年の生徒と応援の参加の希望者がバスを降りて御前試合会場の観客席に入ろうとするとハリーが引率の教師に声をかける。
「申し訳ありません先生。会場に着いた際に父の仕事の関係で折神家の関係者の方にご挨拶をするように言われているため少し外します。試合前までには戻りますので」
「分かった、気を付けてな」
「どうかしたの?ハリー」
「あぁ、うちの会社管理局に技術提供しててうちにとって御当主様はお得意様なんだ。だから会場に着いたら関係者の方に挨拶をするように言われてるんだよ。後、昔から家の付き合いで知ってる人もいてさ…だから少し外すな」
「なるほど、了解ー」
確かに以前は対荒魂用捕縛ネットの開発は失敗したようだが以降も技術提供を続けているようで、折神家は針井グループにとっての貴重な取り引き先だ。失礼の無いように挨拶をしに行くのだという。
関係者に挨拶をしに行くと行って別の入り口に入っていくハリー。随分移動がスムーズなため、何度か来たことがあるのかと思いつつ二階の観客席に移動する。
観客席に座り、周囲を見渡す。
各校の関係者がそれぞれの学校の代表を応援する為に集まっているためか会場中が声援と熱気に包まれていた。
そろそろ二人が会場に入ってくる頃かと美濃関用のスペースを一瞬見たが、まだいないようなので他の学校の様子を見る。
代表の二人とも気品のある立ち振舞いにいかにもお嬢様と言った風な雰囲気を醸し出す綾小路武芸学者。
次に鎌府女学院。代表のうち1人は颯太達よりも年下に見える無表情な少女と、もう1人は無表情な少女を睨んでいるように見える。仲は良くないのだろうか。
(怖っ…そんなに睨んでやるなって、そんな小さい子相手に…)
次は長船女学院。代表のうち1人は小柄でツインテールの気だるげな少女だ。小学生にも見えなくもないが恐らくは中学生か高校生なのだろう。
もう1人は気だるげな少女とは対照的に活発的で成長期真っ只中の颯太よりも長身に見える金髪で外人といった風貌の少女。ノリノリで素振りをしている。
「なぁ長船の制服ってなんか童貞を殺す服っぽくね?」
(やめろって…もうそれにしか見えなくなるじゃん)
等と品の無い会話が後ろから聞こえたが聞こえないフリをすることにした。
次は平城学館。代表は銀髪の少女はもう1人の代表に友好的に話しかけているがもう1人の黒髪の少女は心ここに有らずと言った具合に遠くを見つめている。
(そりゃ緊張するか、なんか如何にも真面目そうに見えるし…)
そんな二人の様子を見ていると美濃関の代表の門が開き、二人が礼をしながら入場し周囲を見渡している。先程の颯太同様周囲を観察しているのだろうか。
2階の応援席にいる自分達の存在に気付いてこちらに走ってくる。
「おーい」
「頑張れよー」
「緊張してるー?」
「緊張感してるよー!」
「緊張してるんじゃ無くてワクワクしてるだろー?」
「そう!そんな感じー!」
友人達の姿を見つけ、自分達の応援に来てくれたのだと嬉しくなったのか手を振ってくる二人。
応援に来た生徒達といつも通りのやり取りを交わすことでいくらかリラックスができたようで良かったと安心する。
ーそして、場面は変わりー
暗闇が続く通路を抜け、関係者以外は立ち入り禁止の区域の扉に二人の警備員が待ち構えている。歩いてきたハリーに声をかけるとハリーは胸のポケットからIDカードのようなものを取り出し警備員に見せる。
「こちらは関係者以外進入禁止です」
「お疲れ様です。私は針井グループの者です。本日は美濃関学院の応援でこちらに来たのですが、到着した際に関係者の方に挨拶をするように言われています。」
「分かりました。どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
IDを凝視して針井グループの跡取りという事を確認したことで通してくれた警備員に軽くお辞儀をする。
「失礼します」
ノックの後に中に入ると全員の視線がこちらを向く。
男性的に見える長身で宝塚にいそうな女が惚れる女、風貌の少女。
毛先にウェーブのかかった紅い髪の気品のある上品な令嬢といった少女。
感情が喪失していると言ってもいいほど無表情な毛先以外が白く染まっている少女。
手持ちのマスコットを握ったりしている他の少女達よりは明らかに年下の、恐らくハリーよりも年下に見える桃色の髪の少女。
全員五箇伝の制服とは異なる特殊な制服を着て、腰に御刀を帯刀している。彼女達は折神家当主の折神紫の部下、折神紫親衛隊の面々だ。
初めて見る中学生にしては大人びた雰囲気の少年に対し誰だこいつはという視線を向けるがすんなり警備員が通した辺り関係者なのだろうと察しがつく。ある1名を除いては…
紅い髪の気品のある上品な令嬢といった少女が近付いて来て声をかける。
「あら、お久しぶりですわね栄人さん。」
「姐(あね)さ…此花様。お久しぶりです。」
思わず普段通りの呼び方をしてしまいそうになるがすぐに針井グループの跡取りとしての対応に切り換え少女に挨拶をするハリー。
これがハリーと折神紫親衛隊の面々との初の邂逅となる。そして彼等の運命もまた、大きく狂い始めていたことは誰も知らない。
中学生あるあるその1。部屋の電気つけっぱで寝たり出かけたりして親に怒られるってたまにやっちゃうよね