刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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色々と忙しくて遅れました、スマソ。

ヴェノム2のタイトルが発表! Venom:Let There Be Carnage……元ネタは聖書の光あれから来ていているらしいですが……でも延期した上で来年の6月なのは辛いですね……。


第51話 入り乱れる戦局

可奈美と姫和を祭壇まで先行させ、夜見を前にして沙耶香と舞衣は対峙していた。

夜見の実力は未知数ではあるが、彼女は自身の身体に御刀で切り傷を入れることで傷口から小型の蝶型荒魂を生成し、それを群勢にして索敵や遠距離攻撃も可能という特殊な戦い方が出来る。

 

尚且つ大量に呼び出すことによって物量による広範囲攻撃が可能な彼女を何としても抑えるという選択は間違いなく正解と言えるだろう。

 

だが、実際に思っていてもやれるかは別問題であり彼女が生成する小型荒魂の群勢は容赦無く舞衣と沙耶香に襲い掛かって来る。

 

トニーの手によって改造が加えられているS装備であるためこちらに近付く前に掌からのリパルサーと同時に衝撃を衝撃で当てる事で散らすことが出来るがすぐに陣形を立て直して来る為迎撃に時間を取られてしまい、未だに有効打は出せていない。

 

その証拠に夜見は涼しい顔をしたまま、こちらを見下ろしている。

 

肩で息をしながら背中合わせで互いを守りながら夜見を抑え、次にどうするかを考えている2人に対し、奥の襖の方からこの場に似合わないヒール音が聞こえて来る。

 

「沙・耶・香〜♪」

 

その靴音と共に現れた人物はねっとりとした口調。だが、どこか甘だるいような声色で沙耶香の名前を呼ぶ。

自分の名前を呼ばれたからという事もあるがよく知る人物の声であったため、沙耶香は反応してそちらに振り向く。

 

その声の主は鎌府女学院学長、高津雪那だ。

どうやら、横須賀港からコンテナの発射と同時に急いでここまで引き返して来たようだ。

非戦闘員であるため、この場に似つかわしくないがそれでも隠しきれない存在感を放ち、こちらに向かって歩みを進めて来る。

 

「折神朱音のくだらない小芝居に付き合わされたけど無理して戻ってきてよかったわ」

 

同じく眼前にいる夜見と舞衣のことはガン無視であり視界に入っていても石ころ程度にしか気に掛けていないのか沙耶香に向けて一方的に話を進めてくる。

 

「沙耶香、あなたに会えた。やっとあなたも紫様の御力を受け入れる気になったのね。それに免じて先日の我儘は許してあげましょう」

 

一方的に、それでいて沙耶香が自分のために戻って来たと思っているかのような口ぶりで話を続ける雪那。真意は分からないが揺さぶりを掛けるためとも言えなくも無いのかも知れない。

 

その直後、雪那が耳に付けているヘッドセットに通信が入る。どうやら、プライベートチャンネルに直接連絡を入れられる人物であるためそれなりに関わりのある人物なのだろう。

 

その人物からの通信が入ると雪那は今良いところなのにとでも言いたげに舌打ちをしながらヘッドセット越しの声の主に対して表情を憎々しげに歪める。

 

どうやら、聞いた感じは若い男性の声の様だ。雪那は声の主を知っている為か心底うざったそうに表情を歪めている。

その相手である研究者は自分に対し、結芽とは別ベクトルで無礼な態度を取る相手であるため気分が悪いのだろう。

 

『高津学長、早急に避難してください。非戦闘員で戦闘力のない貴女が前線に出ても皐月女史の負担にしかなりません。というか死にたいんですかね?』

(………まあ、別にそれでもいいけど)

 

雪那に対して慇懃無礼な態度は崩してはいないが、確かに非戦闘員である雪那が出ても何か役に立てる訳でもなくむしろ彼女を庇いながら戦わなければならないため、夜見の負担にしかならないということは事実だ。

最悪、戦闘に巻き込まれて死亡という結末を辿る事もあり得なくは無い。それだけ非合理的な行動を行なっているということは理解しているが今はそんなことを言っている場合では無い。

自分が見出した最良の器であり、優秀な道具である沙耶香が戻ってきたのだ。こちらに引き込めれば戦力の増強にも繋がると思っているため雪那は研究者に対して尊大な態度を崩さない。

 

「黙れ研究者風情が。貴様の意見など聞いていない」

 

『やれやれ、私も皐月女史のメンテナンスに関わっている以上多少は指摘する権利があると思いますが……それに貴女、勝手にアンプルを持ち出しましたね?』

 

どうやら研究者が通信を寄越してきた理由は夜見が戦闘に出すにはまだ完全な回復はしていないという点。そして、自分が燃え盛る炎の中からシンビオートを救出するために一時的に研究室を離れている間に雪那はアンプルを持ち出していたことを把握し、それを追求するためのようだ。

 

シンビオートの安全を確保するために研究室に入り、棚の中にあるアンプルの位置を全て記憶しているため、不自然に無くなっているとなれば考えられるのは雪那だろうと結び付けられる。

研究者は不愉快そうにアンプルを入れていた棚を目を細めながら一瞥する。

 

「私も開発に関わっているんだ、問題無いだろう。貴様は必要最低限の発言以外は口にするな」

 

雪那もノロと人体の融合の研究に携わっているため研究室に入る権限は持っている。

普段から夜見に持たせている追加投与用のアンプルを急いで取り出し、更にこの間研究者が完成させた新型のアンプルも持ち去ろうとしたが更なるアップデートを重ねるために厳重なロックが施されていて持ち去ることが出来ずに汎用型のアンプルのみを持ち出したようだ。

 

研究者はそんな雪那の言動と行動に辟易しながらため息を付くことしか出来ない。

 

『はぁ……貴女に死なれると(ちょっと)困るのですがね……ならせめて無茶はしないでください。皐月女史、今の貴女は全快ではありませんので短時間での連続投与にはご注意ください』

 

夜見が研究者の言葉に頷くと雪那の前に立ち、両者を見据える。

その様子を研究者がヘッドセットの通信越しに察し、左手に収まっているアンプルに視線を落とす。

 

(…………まぁ、私の許可無く『†リザード†』を持ち出して無駄打ちしなかっただけ良しとしますか)

 

通常のアンプルとは異なり、特殊なタイプであるのか黒い蜥蜴の模様が刻印されている自身が独自に日々改良を加えているアンプルを月の光に翳して中で蠢くノロを眺めている。

 

一方で沙耶香にジリジリとにじり寄って来る雪那に対し、舞衣は睨みをきかせ、守るかのように前に出て掌にあるリパルサーの砲口を雪那に向けて独特の起動音を立てながら光を収束させて行く。

 

「沙耶香ちゃんは渡しません」

 

だが、雪那は舞衣の存在を認識していないかの如く無視しながら満面の笑みを浮かべて更に上機嫌そうな声色になっている。

まるでこちらの話など一切聞く気が無いと言わんばかりに自分の言いたいことをつらつらと並べ始めた。

 

「どうしたの沙耶香?怖いことなど何もないわ」

 

そのまま前方にいた夜見の頭を手で掴み、持ち上げながら見せつけるようにして持ち上げる。そうすることで存在を強調しているようにも見える。

 

「あなたなら決してこの失敗作のようにはならない。だから案ずることはないのよ」

 

雪那の発言に対し、舞衣と沙耶香はより表情を険しくする。それだけ非人道的で自分たちと同じ、人間の口から出る言葉とは思えなかっだからだ。

それでも、雪那は黙って頭を掴まれたまま持ち上げられされるがままになっている夜見を特に気にする間もなく右手を差し出してこちらに来るよう指示をしているジェスチャーをしている。

 

「うふふふふ、さぁ沙耶香いらっしゃい。紫様に忠を尽くす刀使に、いいえ御刀となりなさい。かつて私が振るい今はあなたの手にある妙法村正のように………それが道具のあるべき姿というものよ」

 

雪那の一方的な言い分に対し、心の底から本心で言っているのかまたは自分に言い聞かせるように言っているのかは分からないが少なくともこの場にいる人間を絶句させるには充分であったと言えるだろう。

 

そして、その2人を他所にヘッドセット越しに研究者は完全に呆れ果てながら月を見上げ、内心で雪那に対して毒突いてしまう。

 

(全く困った御仁だ。人の話を聞かず、自分の思想や無理矢理押し付けている理想が無条件で相手に伝わると思っているんだから尚更性質が悪い。仮にも保護者様方から生徒さんの命を預かる立場であろうというのに……呆れることしか出来ないなぁ)

 

一方、御前試合決勝戦の会場である庭では敵の総大将である紫を除けば最大の脅威である結芽をエレンと薫が相手取っていた。

薫は八相の構えより剣を天に向かって突き上げ、腰を低く落とした蜻蛉の構えのまま結芽に向けて雄叫びを上げながら突進し、身の丈に合っていない自分の身長の倍近くはあるであろう祢々切丸を軽々と振り回しながら連続攻撃を仕掛ける。

 

「うおらああああああああ!」

 

会場である庭のように広い場所ならばリーチの長い祢々切丸を普段のように全力で叩きつけるような使い方ではなく自在に振り回すことも可能だろう。

実際に素早く振り回しているためか叩きつけた時程のパワーは無いが改造を施してあるS装備に搭載されているAIにより動きのモーションが装着者に合わせて最適化されているため力強く、それでいて鋭い連続攻撃が可能となっている。

 

「チッ!」

 

現に結芽もまともに打ち合えば力負けすると判断して回避に徹している程だ。

振り下ろされた一撃を回避すると轟音と共に衝撃が走り、その場所にクレーターが出来る。

流石にその一撃をまともには食らえないためか跳躍して後半に飛ぶ事で回避することに成功する。

だが、2人は結芽に息をつかせる暇すら与えない。その隙に薫がその場で祢々切丸を持ったままコマのように回転し始める。

ちなみにエレンは巻き込まれないように阿吽の呼吸で行動を先読みして屈んで回避している。

 

「スラスター全開だ、出し惜しみ無しで行くぞ」

 

薫が回転をする際にトニーが跳躍時の空中静止の安定の為に新たに搭載させた背部スラスターを全開で蒸す事で加速しより回転の勢いが増していく。何なら薫の周囲で軽く竜巻が起きるのでは無いかと思わせられる程だ。

 

「オラァ!」

 

ある程度遠心力と回転を加えることに成功したと判断した薫は振り向きざまに

祢々切丸をフリスビーのように軽々と投げ付ける。

手元から離れた祢々切丸はフリスビーの如く高速回転し、会場の庭にある砂を巻き上げながら結芽に向けて突貫して来る。

 

「何これ!?」

 

流石にこれまでこのような突飛な戦術を取って来る相手と戦った事が無いと言えばスパイダーマンのようなトリッキーな相手もいたため嘘になるが、基本的に接近戦主体で攻撃して来る刀使ではこのような相手はいなかった。

 

いや、彼女達をやや甘く見ていたためか油断してしまったのだろう。すぐ様横にステップする事で回避ことに成功する。

 

ーーだが、彼女達の連撃はこの程度では終わらない。

 

「ねね!」

 

結芽に回避された事で後方まで飛んで行っていた祢々切丸をこれまで透明化することで姿を隠していたねねが姿を現し、鉄色の尻尾で祢々切丸をキャッチし、そのまま持ち主の元まで投げ返す。

 

「3・2・1……」

 

そうしている間にエレンも追撃の準備を済ませており、越前廉継をやや水平に構えると薫が縞地の上に飛び乗りそのまま振り被るようにして両腕を後方まで引き、薫の乗っている越前廉継をバットのように振り抜いて見せる。

 

「「せーのっ!」」

 

その言葉を合図にして渾身の力の篭ったスイングにより薫が弾丸の如く飛び出して行き、こちらに戻って来ようとしている祢々切丸に向けて飛び出していく。

 

「嘘!?」

 

「ほんと」

 

型にハマらない奇抜な戦法に結芽で素で困惑してしまい、驚嘆の声を漏らしてしまうが薫に対し淡々と言ってのける。

空中で祢々切丸をキャッチし、そのまま縦に高速回転して勢いを付けながら猿叫と共に全力で結芽に向けて叩き付ける。

 

「きええええええ!」

 

「ぐあっ!」

 

両者のこちらに息をつく暇すら与えない連係攻撃により回避し切れずにスーツパワーと八幡力の乗った一撃を見事に喰らってしまい、身体全体に衝撃とダメージが走る。

すぐに後方に飛び、着地するがまだ身体に先程のダメージが残っているため思わず膝を着いてしまう。

 

「あまりオレ達を」

 

「嘗めないでほしいデース」

 

「この……っ!」

 

結芽が咳と同時に喀血した口元に滴る血を拭き取り、舐めた態度の両者を憎々しげに睨み付けている。

何故ここまで腹が立つのだろうか?自分の強さの証明のためにふさわしい相手との戦いに水を差されたから?

こちらは真面目にやっているのに相手のふざけているとしか思えない。だが、同時に型に囚われない柔軟な発想で自分をここまで追い詰めるコイツらにか?

 

違う、何より腹が立つのは一瞬でもこんな連中に遅れを取った自分にだ。

自分よりも格下の相手に手間取っている自分。それが彼女の高過ぎる自尊心を大きく傷付けたのだろう。

 

ーー結芽の怒りのボルテージが最高潮に上がり、腹の奥から怒気と苛立ちの篭った咆哮をあげようとした矢先ーー

 

「いい所の様で悪いが」

 

「ぶっ飛べオラァ!」

 

3人の立っている場所の空模様が急に暗くなったように感じる。ふと見上げると先程パンプキンボムで破壊された正門の壁の巨大な破片が頭上から降って来ていた。

更に壁の破片の上から1人の人型の影が月を背景に登場し、右拳から金色の衝撃を放つことで破片を粉砕し、砕けた破片が雨のように両者の間に降り注ぐ。

 

 

 

アイアンマンの介入により、戦闘が一時的に中断してお互いに攻めあぐねているグリーンゴブリンとスパイダーマン。

グリーンゴブリンはグライダーの上に乗り、こちらを少し高い位置から見下ろしながら様子を伺っている。

スパイダーマンもウェブによる空中戦もある程度は可能だがグライダーの超高速移動による空中からの攻撃が厄介な事に変わりはない。

おまけに残された時間も少ないとなると、短時間で勝負を決するならばグライダーをどうにかするしかないと考えている。

グリーンゴブリンの腰に付いている装備を確認するとどうやらホルスターには残り数個程しかレイザーバットは残っていない。数個程ならどうとでも出来るため最大の警戒ポイントはパンプキンボムと言った所だろう。

 

「ねえ!その蝙蝠みたいなの幾らで売ってんの!値段教えてくんない!100%offで買い取るけど!」

 

スパイダーマンは右に向けて走りながらまずはグリーンゴブリンに何かしらアクションをさせる為に腰のホルスターに付いているレイザーバットに向けてウェブシューターを構えてスイッチを押す。

 

飛んで来たウェブを視認したグリーンゴブリンはウェブを回避する為にエンジンを蒸して更に高度を上げることで回避行動を取る。

そして、上昇しながら腰のホルスターに手を伸ばして回避と同時に残りのレイザーバットを引き抜いて刃を展開し、スパイダーマンに向けて投擲する。

レイザー・バットも写シを貫通する装備ではあり、それなりに強力だがスパイダーマンには追尾弾程度の効果を為さないため、どうせ取られるくらいなら先に使ってやると言うことだ。

 

「バーゲンセールだ、欲しけりゃくれてやるよ!」

 

手元から離れたレイザーバットは生命を得たかのように刃を翼のようにして羽ばたきながらスパイダーマンに向けて飛翔する。

既に跳躍で屋根の上に登っていたスパイダーマンに向けてレイザーバットは次々に襲い掛かる。

 

「距離60、数は5台。狙うなら……ここだ!」

 

スパイダーマンは目線でレイザーバットの速度と自分との距離を把握すると屋根から飛びながら両腕を前に構え、微妙にタイミングと位置をズラしながらレイザー・バットに向けて電気ショックウェブを放つ。

 

スパイダーマンが後出しで放った電気ショックウェブは的確にレイザー・バットに命中させ、一気に帯電することによりショートし、爆発を起こして行く。

 

「貰った!」

 

「ぐっ!」

 

だが、辺り一面がレイザー・バットの爆発による黒煙で視界が一気に悪くなっている隙にグリーンゴブリンはスパイダーマンに接近しており、その刹那、グリーンゴブリンの接近を許してしまっていた。

 

グリーンゴブリンがグライダーによって加速した勢いの乗った拳をスパイダーマンの腹部に向けて放ち、拳をめり込ませるとそのままグライダーのエンジンの出力を上げてスパイダーマンを折神邸の壁に叩き付け、そのまま特攻して行くことで次々と他の壁も貫通して行くことにより着実にスパイダーマンにダメージを蓄積させていく。

 

「ぐああああ!」

 

「はぁ!」

 

ある程度壁抜きでスパイダーマンにダメージを蓄積させたと実感すると途中でスパイダーマンから手を離してグライダーの上で一回転して今度は胸部に向けてハイキックをお見舞いする。

 

「ぐあっ………くそっ……」

 

スパイダーマンがグリーンゴブリンの蹴りを受けて壁にめり込むと、徐々に力無く弱々しく立ち上がろうとするが足が覚束ず、そのまま倒れ込んでしまう。

 

「悪いがこちらも必死なんだ、恨んでくれて構わない。だが、せめて……こっちを散々引っ掻き回してくれたお前の面は拝んでやる」

 

グリーンゴブリンはグライダーに乗ったまま倒れ込んだスパイダーマンに接近すると片手で胸ぐらを掴んで強制的に起き上がらせて持ち上げる。

彼の着ている以前のスタイリッシュなデザインとは異なり、ただのパーカーに色を塗っただけの何の力も無いハンドメイドスーツは既にボロボロでありあちこちに汚れが付いており表情に合わせて自在に動くゴーグルのシャッターも力無く閉じている。

やたらと呆気ないと思っていたがパラディン、ヴァルチャーとの連戦により疲労が蓄積していたのだから無理もないかと考察しているがグリーンゴブリンとしては友人を舞草に巻き込み、散々こちらを振り回した相手であるためそんな相手の顔くらいは拝んでやろうという気持ちが湧き上がって来ている。

グリーンゴブリンが空いている方の手でスパイダーマンのマスクに手を伸ばし、マスクの頭頂部を掴んで引き剥がそうとする。

 

「ゴメンね!マスクの下にはマスクを用意してないから今回はお預けだよ!」

 

「なっ!……この!」

 

……しかし、スパイダーの左手の角度は上の方に向いており、グリーンゴブリンがスパイダーマンのマスクを上に向けて引っ張ろうとした矢先に閉じていたゴーグルのシャッターが開き、グリーンゴブリンが驚いている隙にウェブシューターのスイッチを押す事でウェブが発射され、グリーンゴブリンのヘルメットのメインカメラに吸着し、空気に触れた時点で凝固する。

 

グリーンゴブリンのような頭部全体を覆うタイプのヘルメットではカメラの表面にウェブが吸着すると張り付いて視界が見えなかってしまう。ライノでの戦闘で実証済みのことがここになって活きて来ている。

 

「これ邪魔なんだよね!大人しく巣に帰ってな!」

 

どうやら空中を自在に移動できるグライダーに相手が載っている以上は向こうにアドバンテージがあり、長引けば泥試合になるため早急にグライダーを破壊して相手を弱体化させたかったため、ワザとやられたフリをしていたのであった。

ヘルメットに貼り付いたその隙にバク転で姿勢を立て直しながら右腕を上に向けて突き出す事でグライダーのエンジン部分にめり込ませる。

 

「マズい……っ!くそっ!」

 

そして、エンジンを握り潰しながら引っこ抜いて投げすてる事で飛行機能を失ったグライダーはフラフラとした軌道で飛行しながら墜落していく。

それを悟ったグリーンゴブリンは飛び降りる事で墜落を回避して、地に足を付けて着地すると同時に少し離れた場所にグライダーが地面に突き刺さる音が聞こえる。

これでグリーンゴブリンは地上で戦うしか無くなった。

 

グリーンゴブリンがヘルメットに貼り付いたウェブを剥がすとスパイダーマンの方を見やり、どうやら以前に御前試合の会場で親衛隊と戦闘した時よりも厄介になっていることを再認識することになった。

その言葉と同時にグリーンゴブリンは背中に納刀してある日本刀を抜刀し、スパイダーマンに向けて構える。

 

スパイダーマンもグライダーを破壊したことにより弱体化はさせることに成功したが相手からまだ戦意は喪失していない。

こちらも応戦しなければ負けると判断してこちらも向かうと同じく背中に納刀してあるヴィブラニウムブレードを抜刀する。

 

「お前の正体が誰だとか……もうそんなのは関係ない。流石にここまで残って来ただけはある、認めるよ。だからと言って俺達も負けられねぇんだよ!」

 

「僕だけじゃない、皆がいてくれたからだ!それに、負けられないのはこっちも同じだよ!」

 

 

ーーグリーンゴブリンとスパイダーマンが同時に力強く踏み込み、お互いの意志と意志をぶつけて合う。

 

 

 

一方その頃、祭壇の前で真希の相手をしていたキャプテンはなるべく各個撃破という狙いや真希をアイアンマンから遠ざけるという目的もあるが木々が生い茂っていることにより盾を投げても跳ね返って来られるポイントが多い森林へと誘い込む為に逃げるように走りながら森林の中へと移動している。

 

キャプテンを追いかける真希は彼の走る速度は人間にしてはあり得ない位速いがこちらが追い付かない程では無いすぐ様迅移で加速してキャプテンに追い付き、薄緑を上段で突きの構えをし、勢いを付けながらキャプテンに突きをかます。

 

「ぐあっ!」

 

だが、キャプテンはそれを盾で悠々と防ぎ、その上でワザと力負けして吹き飛ばされたフリをして森林の中へと着地し、真希をその場所へと誘い込んで見せた。

だが、その事は梅雨知らずの真希はキャプテンを見下ろしながら淡々とした言葉を投げ掛けている。

確かにそれなりに強いが所詮は人間の延長上、ノロによるパワーアップを受けている自分たちが負ける筈がない。

 

「噂には尾鰭が付くものだね、キャプテンアメリカ。この程度で僕を…止められるか!!」

 

真希は薄緑を振りかぶると力強く振り下ろすがキャプテンは夜であるため暗くて見えにくくなっている筈の真希の剣劇を超人的な視力で捉えながら円形の盾で防ぐ。

金属と金属が強く衝突する音が森中に鳴り響き、真希は更に力で押し込もうとして来る。

 

「ぐっ……!まだだ!」

 

真希の流派である神道無念流は「真を打つ」という教えを本とし、一撃一撃に渾身の力を籠める「力」の流派。その腕から放たれる一撃はまさに剛剣。

まともに力と力でぶつけ合えば掌から伝わる衝撃によって相手を鈍らせる程、その上で腕力で力負けしかねないだろうがキャプテンの盾も伊達ではない。

 

ヴィブラニウムの限界まで振動と運動エネルギーを構成分子内に吸収して硬度を増す特性上、彼女の剛剣から放たれる衝撃による痺れは大幅に軽減している為かキャプテンは真希の攻撃を受けながらも一歩も怯んではいない。

 

とはいえ、衝撃は吸収しているとは言えノロによる身体強化による怪力には力負けする可能性は充分にある。

どちらにせよ長期戦は不利である事は明白なため、キャプテンも仕掛ける事にした。

 

「はぁ!」

 

「何っ!?」

 

盾の角度を変える事で薄緑を逸らして後方に受け流し、左脚を前に突き出して顔面に向けてハイキックをお見舞いする。

風を切る音が聞こえる程の鋭い蹴りであるため驚いてしまったが避け切れ無い程では無い。

 

すぐに顔を右に動かして回避するがキャプテンは攻撃の手を休めない。

ハイキックを避けられた後はすぐに左脚を地に付けながら空いている右足で回し蹴りを真希の持つ薄緑の刀身に命中させる。

 

「なっ!」

 

防ぐ事に徹底していたため、防御には成功したがそれでも掌に伝わる衝撃には驚かざるを得ない。

どうやら人間の延長上とはいえ彼が血清により超人と化している。下手な敵よりも断然強い事を理解した。

恐らく先程まで逃げ腰だったのも自分を誘い出すためだったのではないかとまで思えて来た。

 

その隙に盾を持っている左腕を思い切り横薙ぎに振る事で打撃を入れて来るがその一撃は後方にジャンプすることで回避する。

 

だがキャプテンは彼女が後方に飛ぶと同時に盾をノールックで全く明後日の方向に投げ付け、盾は回転しながら真希とキャプテンから遠ざかっていく。

 

「何のつもりだ、どこに投げている?」

 

「君の所にだ」

 

「??………っこの!」

 

真希が頭に疑問符を浮かべていると明後日の方向に飛んでいた筈の盾は周囲の木々を伝って跳ね返り、真希の背後に迫って来ていた。

 

明らかに物理法則を無視した軌道を重ねながら確実に敵の所まで来る盾など誰が想像できるだろうか?

あまりにも初見殺しと言っても過言ではないキャプテンの盾投擲に驚くが今はそれどころではない。

 

薄緑を横薙ぎに振るう事で盾を野球ボールのように弾き飛ばして直撃を回避するがそれもキャプテンの狙いの一つ。

キャプテンが接近する隙を作り出してしまい、既に目と鼻の先だ。

 

「だああああ!」

 

キャプテンが助走を付けることで勢いを増し、両足で地面を蹴り上げて跳躍し

両足を前に突き出してドロップキックが炸裂する。

 

「ぐあっ!」

 

ドロップキックを避け切れず腹部にまともに受けた真希は写シを一度剥がされながら地を転がって行く。そして、投擲した盾が引き寄せられるようにして手元に収まるとキャプテンは何なくキャッチしている。

 

真希はこれまでキャプテンをナメて掛かっていたがどうやらこの相手は身体能力が人間の延長上とは言え的確な判断力、それでいて洗練された格闘技術により相手とのスペックの差を常にカバーしながら立ち回って来る。

内心かなり焦っているが気付いた事もある……キャプテン自体も弱くはない……いやむしろかなり強いが防御や攻撃には盾は必須でありある程度依存せざるを得ない。特に自分のようにリーチのある武器を扱う相手ならば尚更手放せ無いだろう。

 

……ならばこちらも相手の理解を越える勝負をすればいい話だ。

 

「どうやらその盾のせいであまり僕の攻撃は大して響いていないらしいな……貴方を少しナメていたよ。なら貴方の反応速度を越えれば良いだけの話だ!」

 

「ぐっ!スピードが……っ!」

 

真希はキャプテンの盾が如何に強靭であり、衝撃を吸収する代物であろうとも扱う人間が相手の反応速度に付いて来られ無ければ防戦一方になるだろう。

 

そう判断した真希はキャプテンの反応速度を超えるために防御の瞬間に迅移の段階を上げ、素早く別方向に移動しながら攻撃の手順を変えていく。

 

キャプテンはスピードが上がった彼女の攻撃に対し、最初の一撃は難なく防ぐことが出来たがすぐに横に移動して別方向からいつもの力強い一撃を入れて来るため、守りに徹するのが精一杯になってしまっている。

 

神道無念流の教え、「三寸横に動けば相手は隙だらけ」が上手く型にハマったと結果と言えるのだろう。

その証拠にキャプテンの身体には防御し切れずに掠った細かい切り傷があちこちに付き始めている。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

息も絶え絶えになりながらもキャプテンはこちらを強く睨み付けて来る。

その澄んだような青い瞳から伝わってくる燃えるような闘志に対し、つい真希は顔を顰めてしまう。彼からは底知れない不気味さを感じたからだ。

 

(何なんだ?勝ち筋を敵に握られたというのにコイツの全く勝負を捨ててない目は……)

 

アイアンマンが空中に浮きながらリパルサーを光線状にして地上を走る寿々花向けて放ち、木々を薙ぎ倒して行くがお互いの相手に近づけさせないようにしながら本殿から離れた場所で戦闘をしているものの八幡力での跳躍力で接近される心配や、遠距離からリパルサーで狙えはするものの高度を高くし過ぎると攻撃しても避けられ安くなるリスクや相手に逃げる時間を与えてしまう為、一定の高度を保ちながら戦わなければならないため、今の所お互いに決め手になる一撃は入れられていない状況だ。

 

アイアンマンの広い視界を補助しているHUDに一瞬真希の猛攻を受けて防戦一方になっている姿が見えた。

 

「キャップ!」

 

アイアンマンがすぐさま苦戦しているキャプテンに助太刀するために左腕を前に突き出し、手の甲に搭載されているホーミングミサイルを放とうとして構えるがそれを許す程敵は甘くなかった。

 

「させませんわ!」

 

既にアイアンマンの隣まで移動していた寿々花はキャプテンの助太刀を阻害するために九字兼定を振り下ろさんとしていた。

 

「おっと」

 

アイアンマンはワンテンポ遅れたが右手の手の甲から接近戦主体の彼女達への対策として用意していたヴィブラニウムブレードを展開すると上段からの振り下ろしを防ぐ事に成功したがノロにより強化されている八幡力の怪力により力負けしてしまい、地へと叩き落とされてしまう。

 

「ハルクバスターで来れば良かったかぁ?」

 

『的が大きくなる上に小回りが利かないのでこの手の相手には不向きかと思います』

 

「よくお分かりでっと」

 

アイアンマンが寿々花の強化されている身体能力を実感して間接的に彼女達がゴリラとでも言いたげに皮肉っているがそんな隙を与えはしない。

地上にいるアイアンマンに迅移で接近して連続で斬り付けて来る。

 

アイアンマンも何とか防ぐがこちらに宙に浮かぶ暇すら与えない。向こうも飛行能力のある敵が厄介だと言うことは分かっているからだろう。

接近戦でアイアンマンに息を吐かせる暇さえ与えないかの如く、常に技を変化させながら技量でアイアンマンのスーツのスペックに追従して来る。

 

「お仲間の所へは行かせませんわよ。差し詰め、貴方が彼らを支援し、スパイダーマンに装備を渡していた人物ですわね?手こずらせて頂いたお礼をさせて貰いますわ」

 

「舞踏会のお誘いか?悪いが僕はお子様と社交ダンスを踊る趣味はないんだよ。そう、君に合うとしたら……一人で踊れるラテンダンスなんてどうだろう?」

 

アイアンマンが舞草に協力していた事を大方察した寿々花は何としても自分の手で倒したいのか剣戟で押しながら軽妙な語りで挑発して来る。

 

「あら?淑女のお誘いを断るのは紳士らしくありませんわよ」

 

マスクの下でトニーの息が徐々に上がって来ていることを自覚する。この相手は思っている以上に厄介だ。

自分も近接格闘のトレーニングは積んでいるが剣術という広く浅くしか手を出していない分野で相当な戦闘訓練を積んでいる上に達人となるとどうも分が悪いようだ。

冷静に戦局を分析しているAIのF.R.I.D.A.Y.に真っ向から指摘されてしまう。

 

『ボス、純粋な接近戦の技量では向こうが上です。生半可な戦法では勝てません』

 

「おい、それちょっと自分でも思ってたのに実際に言われるとマジで凹むぞ」

 

このまま真っ当に正面からやり合い続けていては拉致が開かない。何か方法を考えなくては……そうして思考を逡巡させて行く。

 

格闘技術に自分以上に精通しているキャプテンに前衛を任せ、自分と共にコンビネーションでなら倒せるか?と思考を巡られせて一瞬だけキャプテンの方を見やるが先程と同様に視界に映るのは真希に押されて防戦一方になり、より大量の切り傷が増えているキャプテンの姿であった。

 

それを読まれたのか寿々花の口からアイアンマンの思い付きそうになったプランをへし折る情報が突き付けられる。

 

「お仲間とならばと考えても無駄ですわよ?言っておきますが彼が如何に超人で強力な盾があろうとも所詮は人間の延長上。彼女の敵ではありませんわ」

 

寿々花の言う通り、キャプテンと真希では相性の問題でキャプテンが不利。それは見て取れる。防戦一方な状況を見るにせよ、合流して共闘するのは不可能だろう。

彼女の口からは真希を強く信頼しているからこその言葉であるためその言葉に一切の嘘は無いのだろう。

 

ーーだが、アイアンマンは信じていた。キャプテン・アメリカはそう簡単には倒される程柔ではないという事を。

そして、相手がキャプテンは盾と血清があるから強いのだと勘違いしている様を見てつい失笑が溢れてしまい鼻で笑う。

 

かつてチーム同士でぶつかった際、スーツのスペックも機能、所持している武装も上回っている筈のこちらをボロボロになりながらも打ち破った彼の最大の武器が何であるのか、アイアンマンは身をもって知っているからだ。

 

「フッ……分かってないようだから教えてやるよMs.ピノ・ノワール」

 

「むっ」

 

鍔迫り合いになりながらマスク越しから伝わって来るこちらを挑発するかのような軽妙な態度に思わず眉を中央に寄せてしまうが所詮は戯言だろうと思い特に気にしないようにしたいがこちらの様子を気にする事なくアイアンマンは続ける。マスクの下で隠れて分からないが今アイアンマンはさぞ不敵な笑みを浮かべているに違いないだろう。

 

「奴が超人だとか盾を持っているだとかそんなもの些細な事でしか無い。奴の最大の武器はなぁ…例え盾が無くとも、超人で無くとも、例え相手が自分よりも圧倒的に強くとも一歩も引かない超ド級に諦めの悪いモヤシのスティーブ ・ロジャースである事なんだよ」

 

座敷の中では舞衣と沙耶香、そしてそれを迎撃にした夜見と非戦闘員でありながら態々戦線に出張ってきた雪那。

雪那は先程同様に夜見の頭を掴んで虐待でもするかのように時折揺すったりもしている。彼女が何も言わないから調子に乗っているのだろう。

 

そんな彼女の傍若無人な態度に沙耶香は喉から絞り出すような声で雪那に自分の意思を告げる。

 

「もうやめて……」

 

「はぁ〜ん?」

 

心底小馬鹿にするような鼻抜け声と表情で沙耶香の発言を聞こえませんアピールでもするかのように耳に手を添えてそちらに向ける。

 

「もうひどいことしないで…でないと…私は…あなたを…」

 

徐々に感情がエスカレートし始めていたが、その言葉が余程気に障ったのか。はたまたおかしかったのかは不明だが狂ったように下賤な高笑いをあげる。

 

「斬るのか?私を?お前が?ははははははははほは!」

 

だが直後、急変してヒステリックにが凄まじい剣幕で捲し立て始める。この情緒不安定っぷりはもはや芸術の域に達しているのではないだろうか。

その逆ギレをする表情からは怒り、焦り様々な感情が込められておりあまりにも力が入り過ぎているためか皺がより過ぎて別人の域に達している。

 

「出過ぎた事を……っ!道具風情が意志を持つな!お前は黙って従ってればいいのよ!」

 

『フッ………だからダメなんですよ、貴女は』

(あ………いっけね………声に出ちゃった☆)

 

研究者は雪那の言い分に対し、時折口出しをする程度で深く言及せず内心で小馬鹿にしている程度であったが中高生の子供相手にムキになっている様や、彼女の一方的な物言いに対し呆れを通り越して逆に感心してしまいついポロッと本音が出てしまった。

 

「あ゛ぁっ!?黙れ貴様らぁ!いいか!?所詮貴様らなど………ひいっ!」

 

この場にいるほぼ全員及び場面外にいる者にさえ自分を否定された事により、

更にヒートアップしようとした矢先に雪那の顔面スレスレに独特の起動音を立てながら音速で通過する光は雪那の後方にある障子を木っ端微塵にしている。よって、一瞬だが本気でビビって情けない声を上げてしまう。

 

『おやおや』

 

どうやら先程から黙って聞いていた舞衣が雪那を本格的に敵として認識し、黙らせる為に先程から向けていた掌に付いているリパルサーの砲口から煙が出ている事からリパルサー・レイを雪那に向けて放っていた。本当は当てる事も出来たが黙らせるために敢えて外したようだ。

 

「貴女こそ、もう何も喋らないでください」

 

「な、何だと貴様らぁ!」

 

リパルサーが顔面スレスレを通過したのは流石に驚いたのか流石に先程よりは勢いがなくなっている。

舞衣は雪那を恐れずに堂々と孫六兼元を雪那達に突き付け、自分の覚悟を伝える。

 

「人を物のように扱うことしかできないあなたを私は認めません。あなたにも、そして折神紫にも沙耶香ちゃんをいいようにさせたりはしない!」

 

人には個人として自分の意志を持ち、自由に生きる権利がある。それは誰かを傷付けたり、人を自分の利益のためだけに道具のように扱うことで得る物ではない。人は道具では無く、意志を持って自分の生きる道を決める物なのだから。

どれだけ探しても自分一人だけの力で生きられる人間などそうそういないだろう。強く自分の意志を持って生きている人ですら自分を形作ってくれる、道具としてではなく心と心で支えてくれる人がいなければ成り立たない筈だ。

 

それを教えてくれたのは、1人の隣人だ。だから自分も、今こうして全ての人を守ることは出来なくとも目に見える人たちだけでも助けたい。そう決心してここまで来た。

 

だからこそ、雪那のような人間にだけは負ける訳にはいかない。そんな気持ちが湧き上がって来る。

 

「戯言を。御刀に携わる者、そのすべては紫様の為にある。その中にはこーんな失敗作もあるけれど」

 

そんな舞衣の意志は雪那には1ミリも響ないのか心底下らなそうに吐き捨てると

強調するように夜見を足元に叩き付けると右肩の辺りをヒールで踏み付けグラグリと捻じ込ませる。

 

味方にすらそのような行為を行える雪那を自分と同じ人間とは思えないような気分にさせられてしまった。

 

「何を!?」

 

調子づいたのか足元に横たわる夜見を心底不可解そうに見下ろしながら、罵詈雑言を吐き捨てている。

 

「本当に気味が悪いこと。戯れに実験台として選んだ頃からお前が何を考えてるのか何一つわかりゃしない!」

 

(逆だよ逆。我々研究を行う者は常に実験ではトライアンドエラーの繰り返し、実験を行うためのモルモットありきで成り立つ存在だ。例え実験台であったとしても命を使わせて頂いている以上ある程度敬意は払うべきだろうが)

 

雪那はかかとのヒールを夜見の肩口から離し、淡々と起き上がらせる。

 

「立て。どうした?恨み言の一つでも言うか?」

 

「反逆者を捕えます。それが親衛隊の務めですので」

 

「ふんっ」

 

恨み言も言わず、ただ淡々と自分の言う事に従う夜見に対し、やはり気味の悪さを感じているのか然程も彼女の心情には興味が無いのか研究室から盗み出して来た汎用アンプルを彼女の首筋にセットして、ボタンを押す事で静脈に的確に打ち込むと夜見の瞳が深紅に淡く光り、その姿を見て舞衣と沙耶香は思わず身構える。

 

「沙耶香は殺すな」

 

『全く、無益な殺生は美しくないというのに……皐月女史、貴女は過剰投与により他の皆さんより浸透のステージが進んでいます。病み上がりでいつまで持つかは分かりませんので決めるならば速攻を仕掛けることをオススメします、ご利用は計画的に♪』

 

 

一方、結芽と薫とエレンが激戦を繰り広げる会場の庭では両者の間に巨大なクレーターが出来ており、穴の大きさがその威力を物語っている。

 

「何!?」

 

「コレってまさか!」

 

「げっ……こんな時にお前かよ」

 

直後、その攻撃の正体の主が自然な形で両者の前に着地して結芽の前に立ち、エレンと薫の前に立ちはだかった。

片方は黄色のカラーリングに網目状の模様のスーツ、頭部を守るための鋭い目付きのツインアイのブラウン色のヘルメット、両腕にガントレットを装備しているややヒロイックなデザインのSTT用のパワードスーツ、ショッカー。

 

そして、もう片方は2mは優に超える巨体に全身を覆うS装備のカラーリングの名残のある黒銀の装甲、サイを連想させる頭部の兜には眉間の部分に鋭利な角、蒼く光るツインアイのパワードスーツ、ライノだ。

 

2人とも伊豆での戦闘で敗北したことによりスーツを破壊されため、これまでは戦線に出てかなかったが、どうやらスーツの修理が先程終了したため戦線に復帰したようだ。

 

ショッカーはエレンを、ライノは薫と対面し状況を把握している。

突如介入して来た2人を前にして身構える。この2人も中々に厄介であることをその身を持って実感しているからだ。

ショッカーは拳を左手の掌に打ち込むとエレンを睨み付けている。この前敗北したため、なるべく自分が倒したかったという思いもあってかメンチを切っている。

 

「対象を発見。これより鎮圧する」

 

「やっぱ来やがったかテメェ。さーてこの間のリベンジマッチと行こうじゃねぇかおい」

 

「ん?お前スパイダーマン1人に倒されたんじゃないのか?」

 

以前病室で同室になった際に会話の中で自身に勝利したエレンに譲歩して律儀にこれまで黙っていたが今こうして本拠地に攻め込んだ来た以上は倒すべき敵同士であるため今となっては無意味な話ではあるが。

ライノに指摘されて、うっかり口を滑らせたと思うが今は優先すべきことがある。そう思うとショッカーは背後にいる結芽に向けて声を掛ける。

 

「う、うっせ!今そんなこたどうでもいんだよ!おいチビガキ」

 

「あ゛?」

 

(反応するってことは自覚はあるんデスネ……)

 

「私チビガキって名前じゃ無いんだけど?」

 

薫が額に青筋を立て、ドスの効いた声を上げながらショッカーを睨み付けているが本来は結芽に向けて放った言葉であるためショッカーは特に薫を気にすることなく背後の結芽に話しかける。

 

「分かりゃ何でもいんだよ。あのガキに俺らの最大戦力のテメェを先行した奴らの元に行かせろって言われててな、それにこの野郎には借りがある……だから俺らがぶっ潰す。テメェは先行した奴らをぶっ潰せ」

 

「俺は俺の任務をこなすだけだ。敵対者を1人でも多く排除する」

 

どうやら出撃の前からグリーンゴブリンに装備の修理が完了した場合、戦闘に介入する際は結芽を本殿に近付く敵の迎撃に向かわせるように言われていたようであり、その指示を実行するためにここに来た。

ショッカー個人としてはまさか結芽の足止めをしている相手の内の1人が以前自分が敗北したエレンだと知り、同時にリベンジも出来ると思い介入して来たようだ。

 

結芽はこんな奴らに遅れを取ったことにヤキモキしている部分もあるが栄人が自分のためにここまで配慮してくれていたことには素直にありがたく思った。

自分のタイムリミットは自分が一番よく分かっている。恐らく次に全力で数分間戦えばこの身は朽ちるだろう。

ならば、より最後の相手に相応しい相手と戦うべきだと判断して先行することを優先した。

 

「あっそ……ま、今の所は感謝しといてあげるよ!おじちゃん達!」

 

「あ゛ぁ!?おじちゃんだとぉ!?コイツはともかく俺まだ21だぞゴルァ!お兄さんだろクソガキがああああ!」

 

売り言葉に買い言葉になりながらも結芽を先行させるためにショッカーはガントレットを起動させながら両腕で地面を力強く殴り付け、ライノは無言のまま右脚で地面を力強く踏み付けることで周囲一帯に地震が起きたと錯覚する程の脚振を起こす。

土煙を起こしてエレンと薫の視界を奪いつつ拡散した振動波と脚振による衝撃で怯ませた隙に見事に結芽は会場の屋根を飛び越え、簡単には追いつかない場所まで移動することに成功している。

 

「ぐおっ!何だよコレ!」

 

「マズいデス!逃げられマシタ!」

 

「落ち着け、一々乗っていては精神年齢が同じということだぞ」

 

「……ちっ、まぁいい。さーてまた会ったな女、テメェらの何度潰されてもただじゃ潰れねぇ根性には感心するぜ。けどよ……」

 

「ハマハマ……」

 

結芽を逃してしまったことはかなり痛いがここで敵にも増援が来たという状況も勿論好ましく無い。この2人を無視してすぐにでも結芽を追って追撃したいがこの2人はそう簡単に逃してはくれない。それは実際に戦闘して実感している。

 

ショッカーとライノはこちらを逃す気が1ミリも無いことは見て取れる。結芽に追い付くには2人を倒すしか無いことは自明の理だ。

だが、ショッカーは挑発的だが舞草の意地を見せ続ける残党達のことは素直に認めており、ライノもそれは同様だ。

 

ーーだが、次の瞬間。ショッカーは言ってはならない事を口に出してしまった。

 

「いくらテメェらが人手不足だからってこんな時間まで()()()()()()連れ回すのは感心しねーな。ガキはもうおねんねな時間な上に親御さんが心配すんだろーが」

 

ショッカーは薫に対し、こっちに来いとでも言いたげに手招きをするがその子供扱いするかのような仕草が更に彼女の神経を逆撫でして行く。

ショッカーの口から出て来る舌禍に対し、薫は顔を伏せながらワナワナと震え始めエレンはオロオロしてしまう。

 

「オラそこのチビ、お兄ちゃんが近くの交番まで送ってやっからこっち来いよ。全員ぶっ飛ばした後でだけどな」

 

「あっ、馬鹿お前……っ!」

 

「それは禁句デス!」

 

……………ブチン!

 

ショッカーの発言に悪意はない。むしろ、彼の数少ない良心が篭っているまである。だが、その分余計に性質が悪い。

人には触れられたくない部分がありそれを何度も突かれたため、堪忍袋の尾が切れた薫は怒号をあげながらショッカーを指差す。

 

「テメェ………オレは来月には16になる高1だ!人を見た目で判断すんじゃねえ!」

 

薫の口から突き付けられた真実を聞いたショッカーは心の底から驚いたのかマスクの下で瞳孔を散大させ、慌てふためきながらエレンとライノにも同意を求める。

確かに135cmという身体は一見小学校4年生女子の平均程度であるためそう思うのは無理もないと言えばそれまでなのだが……。

 

「あぁ!?どう見ても小4か小5位のガキじゃねえか。なぁ!お前らもそう思うだろ!?」

 

「彼女は中高一貫校の伍箇伝の制服を着てるから少なくとも中学生より上なのは確かだろう。彼女の発言を鑑みるに一概に嘘とは言い切れないと思うぞ。というか渡された反逆者のリストに年齢が載っていたのを見なかったのか?」

 

「嘘じゃありマセン、こんな見た目ですが薫は私と同い年デスヨ」

 

「おい、こんな見た目って何だ?こんな見た目って」

 

ライノは冷静に分析した上で入院の前に渡された舞草の一員と思われる人間のリストに一通り目を通していたため彼女が小学生ではないことを知っており、エレンは長い付き合いであるためか2人にあっけらかんと返されたことによりショッカーは知らなかったのは自分だけだと知り、脱力しながら自分の良い加減さを感ばかりはほんの少しだけ憎んだ。

入院中自分が管理局の病室で腹を出し、寝転がってポテチを食べながらテレビを見ている間ライノは空いた時間に真面目に端末を眺めていた姿を思い出し、合点が行った。

 

「あー……来た奴は全員ぶっ飛ばせばいいだろって思ってたから流し見してたわ。まさかマジで見た目ガチの小学生のガキが来ると思わねーだろ」

 

悪意が無いとはいえ小学生小学生と連呼され、流石の薫のボルテージも上がって来ている上に結芽を取り逃してしまっているというかなりマズい状況でもあるため、祢々切丸を構えてショッカーとライノを力強く睨み付けている。

 

「さっきから小学生小学生ってお前なぁ……っ!やるぞエレン、あのガキの前にコイツらをぶっ倒す!」

 

「どの道倒さない限り先には進めまセンらかネ。ガッテンデス!」

 

簡単に結芽を追わせてくれる程彼らは生易しくは無いことを理解しているエレンは早急に結芽を追撃するためにライノとショッカーを撃破すべきと判断して両者に向けて臨戦態勢に入る。

 

「全く締らないな。だが、俺達のやるとこは既に決まっている。排除するぞ」

 

「な、何だか知らねぇが勿論俺は抵抗するぜ?………拳で!」

 

ライノは中継で見た朱音の演説を聞いて彼らに思う所が無い訳では無いが実際に囮であった上に罠である可能性も否定できない。

そもそも、自分は組織に恩を返すためにこの任務に参戦しているのだ。これまでと同じように只敵を排除して組織に貢献するだけ、敵に同情したり配慮する余裕なんてない。それだけのことだと自分に言い聞かせて彼女達を見据えている。

 

ショッカーは一同に呆れられたり、薫に堂々と親の敵のように睨まれていることに戸惑いつつも、向こうがやる気ならこちらも全力でぶちのめす事が最大の礼儀だと思っているため両腕のガントレットを起動さて振動波を纏い、拳と拳を力強くぶつけて挑発的に振動波を纏った右手の拳を目の高さ程に持っていき、力強く握りしめる。




誠に遅くなってしまいましたが11年間トニー・スタークの吹き替え担当としてシリーズを引っ張ってくださった藤原啓治さん、これまで本当にお疲れ様でした。ご冥福をお祈りいたします。

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