刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
前回よりはスッキリしないと思われるのでそこはよろ。
皆の後押しを受け、総大将である紫がいる本殿へと脚を進める舞草の最大戦力である可奈美と姫和。
洞窟のような造りの道を駆け抜けると縦長の鉄製の扉が聳え立つ。
扉を軽く押すとそのまま開き、眼前には儀式を執り行なうと思われる祭壇と思しき場所があった。
左右には木製の格子が壁となっており、そこに吊るされた篝火が暗い祭壇を不気味に照らしている。
そして、よくよく足元を見ると大量の木箱が転がり落ちていることが分かる。
舞草の里だけでなく、各地に祀られてある筈のノロの御神体だ。おそらく敵は既に大量のノロと融合を果たし、万全な状態であると言うことが想像できてしまった。
「雰囲気が変わった…」
「多分ここが…」
2人が周囲を見渡しながら状況を把握していると祭壇の奥の細道から、足音と共に1人の人物が現れる。
「戻ってきたか、幼い二羽の鳥よ」
「この感じ……っ!」
声色だけで物凄い重圧が襲って来たと思わされる程の存在感、最強と言われるだけの威光。一瞬だが本気で身体が竦み上がってしまう程であった。
その声の主が完全に姿を顕にする。腰の辺りまで届くと思われる長い後髪に、
右眼を隠すほどまで伸ばしている前髪。
目つきが悪いというより寧ろ鋭いと表現した方が伝わりやすいであろう長い切れ長の眼に紅い瞳は強者の雰囲気を醸し出している。
そして、何より目を引くのは腰に差したニ振りの御刀だ。彼女の流派の都合もあるが二本もの御刀に選ばれる人間はそうそういない。
この国人間ならば誰でも知っている救国の英雄、折神紫。いや、全ての元凶タギツヒメだ。
彼女は口角を小さく吊り上げ酷薄とした笑みを浮かべながら両者に向けて、威圧感を放ちながら彼女達を挑発して来る。
「巣立ちを迎えたか、未だ雛鳥のままか。剣を持って証を立てるがいい」
舞草の最大戦力と敵の総大将との、熾烈なる戦いが幕を開ける。
時を同じくして御前試合の会場。
薫とエレンは結芽を逃すために乱入して来たライノとショッカーを相手にしていた。薫は先程散々小学生扱いされた事に対する恨みを込めてショッカーに向けて祢々切丸を構え、突進する。
「行くぞオラァあああああ!」
「来いやゴラアアアアア!」
薫がこちらに来たのを把握するとショッカーはガントレットの振動波を起動させて拳と拳をぶつけると腰を低くし、右拳を引いて振動波を収束させて薫に向けて放つ姿勢に入る。
気合十分、全力でぶっ潰し合う準備が出来た。とでも言いたいような気合の入った掛け声同士が響き合う。
「横から失礼シマース!」
だが、両者が互いに集中していると何かが高速移動でショッカーの隣に周り込ん来た。見る限りショッカーのガントレットは現在、前回の反省を兼ねてガントレットのコアが露出しない構造になっていて最低限の開閉を行いながら振動波を纏うことが出来るように改造されているようだがおそらく位置は同じだろう。
その位置を大方把握している人物はガントレットのコアの部分に向けて横薙ぎに剣の一閃をかまして来る。格闘技術の達人、それでいて以前にショッカーと交戦経験があるエレンが横から介入したようだ。
「落ち着いテ薫!彼の相手は私がシマス!勝手が分かってる方がいいデショ!」
エレンに諭されて我に帰ると確かに以前に管理局の用意しているスーツに着いてある程度の予習(そこまで深くは考えていたなかった)をしていたもののやはり以前にショッカーと闘り合っているエレンの方がショッカーとの闘い方を知っている上に早めに倒してくれるのなら万々歳と言える。だが……
「ふんっ!」
低く唸るような掛け声と共に風を切る音を立てながらこちらに迫る気配を察知して祢々切丸を盾にしてガードをするとその巨体の脚が命中し、祢々切丸を通して衝撃が薫の身体全体に伝わり踏ん張っていた足を引き摺りながら数メートル押し飛ばされ、両手にはビリビリとした痺れた感覚が広がっている。
同時に参戦していたライノは薫に狙いを定めて会話の隙を狙って蹴りを入れて来ていたのだ。
「ぐあっ!……悪いな、頼むぞ相棒」
「OK!good luck!」
確かにライノは伊豆で戦闘した際、S装備を着ていなかったとは言え4人がかり、しかも正攻法では勝つのが難しかった相手だ。同じくパワータイプの自分で無いと倒すのが難しい筈の眼前に立つ黒銀の装甲を纏う犀を前にして再度蜻蛉の構えに切り替えて対峙している。
「前は4人がかりでやっとだったけど前のままだと思うなよ。今の俺はアイアン・アーマード薫で、俺たち2人なら100人分なんだよ」
「それを言うなら100人力じゃ無いのか?」
「ど、どっちでもいいだろ!何となく雰囲気で察しろ!」
「ねっ!」
一方、ショッカーはエレンのガントレットのコアに向けての横一閃を軽いフットワークで回避すると自身に斬りかかって来たエレンの戦闘方針を理解し、首をダルそうに動かしてボキボキと音を鳴らすと右肩をグルリと一回転させてメンチを切る。
「あ゛?俺をチビに近付かせねぇ気か」
「オフコース、ハマハマも知ってる相手の方がやりやすいデショ?」
明るい口調は崩さずにとぼけている様に見えるが向こうのこちらに向ける視線は真剣そのものだ。悪感情は持っていないがショッカーが気を抜けない相手だと言うことをその身を持って体感していること、そして振動波はかなり厄介だからと言う事もある。
「……………」
ショッカーはエレンの惚けている姿か真剣な姿、どちらが本当の彼女なのか底の見えない掴みどころの無さには奇妙な物を感じているが彼女から伝わって来る真剣さと熱意に敬意を評し、全力でぶっ潰すと心に決めて右拳を左の掌に打ち込むとパシンと小気味の良い音を響かせ、すぐさま振動波を纏ってファイティングポーズを取る。
「上等だ、ならテメェから潰す。デカブツはチビを潰せ」
「Да(ダー)、そっちは任せる」
了解の意の返事と共にライノは薫に向けて再度拳を力強く振り回しながら連続で殴打して来る。ライノの自身の腕力に匹敵するであろう重い一撃一撃を祢々切丸を左右に振って弾きながらライノと激しい打ち合いを始める。
両者の攻撃がぶつかる度に火花が散り、轟音と衝撃が両者に走るが互いに一歩も退かずに打ち合いを続ける。
「だ……っ!チビって言うなこの野郎!」
「小さくても君は強い。それで良いんじゃないか?」
「ま、まぁな。けど、簡単に負けてやらねぇからな!」
「ねねっ!」
「そうか」
一方、振動波を纏った右手のガントレットで地面を殴った衝撃で加速しながら自身を飛ばす事で一瞬でエレンに接近したショッカーは一回転しながら振動波を纏った拳をエレンに向けて放って来る。
「オラぁ!」
その一撃を回避してガントレットのコアを狙い、今度は突きをかます。一応、エレンがガントレットのコアを執拗に狙う事には理由がある。
ショッカー自身、パワード スーツの機能によって身体能力を大幅に強化されているこという事もあり、振動波を纏った一撃を放てば荒魂すらも殴り飛ばすことが可能な一撃を常時放つことが出来る。
おまけに放出して来る際の振動波は音速、最悪それすら超えているのでは無いかと感じる速度な上に振動波による防御の壁は物理的に突破することはエレンでは不可能であった。
(確かにハマハマの技量がおかしいのはありますが……欠点が無い訳ではありマセン!)
だが、言い換えればショッカーは攻撃にせよ防御にせよ全てが振動波由来の物であり完全に依存していると言っても過言では無い。
元々はSTTが刀使よりも早く現場に到着し、刀使の増援が来るまでの時間稼ぎをするために作成されたスーツであるため本来は対人戦には特化していない。
扱うのが難しい機能も少なく、高火力と超耐久ででぶっぱしていれば雑に強いライノと比べれば対人戦に於いてヴァルチャーの次に使用者の技量に左右される玄人向けの装備と言えるだろう。だからこそ、ガントレットのコアを破壊すればショッカーを弱体化させること自体は可能………な筈だが現実は非常である。
「あっぶねぇ………なぁ!」
(いってぇ!何だよコイツの力……っ!やばたにえんにも程があるだろ!?)
「うっ!」
ショッカーが突きを裏拳で弾くと、以前よりも打ち合った際の腕力がS装備により上昇していることを感じ取った。だが、それを悟られないように我慢して気合の入った雄叫びを上げながらステップで接近して振動波を纏った右ストレートを打ち込んで来る。
自然な流れで接近して来たショッカーの右ストレートが既に眼前まで迫って来たため、咄嗟に金剛身で身体の硬度を上げながら右腕の肘でギリギリ防ぐことに成功した。
ガードには成功したが拳がぶつかった瞬間に全身に響き渡るような強い衝撃、骨が軋み、臓器にもダメージを与えているのではないかと錯覚するような一撃に一瞬だが怯んでしまい、金剛身の効果時間が切れた矢先にショッカーが思い切り右拳を力強く押し込むことで姿勢が崩れてしまう。
「やりマスネ!はぁ!」
「リーチはテメェだが、獲物アリより素手のが攻撃の出が早ぇんだよ!」
「what's!?」
だが、それと同時にショッカーに向けて右脚を高々と上げてハイキックを入れるがショッカーはそれを屈むことで回避し、ステップでエレンの懐、言わば御刀を振れない距離。いや、振るよりも先に拳が届く方が早い距離と言った方が正解か。
ショッカーが接近して拳が届く至近距離に入り込むと、即座に振動波を纏ったボディブローを腹部に打叩き込み、エレンの瞳を見つめながら低い声でボソリと呟く。
「最初から全力じゃねぇとテメェには勝てねぇ、ヲタ芸で鍛えた体力ナメんじゃねぇぞ」
以前戦闘した時と比較して、S装備を装着していることもあってか攻撃性能、防御面が前回よりも強力になっていることは理解した。向こうのスーツの稼働限界がどれ程かは知る由もないが速攻を仕掛けなければ厳しいと思い、一気に倒しにかかるつもりだ。
「うあっ!」
「よっしゃ!いくぞー!タイガーファイアー発動!」
またしても金剛身で防御するがショッカーは以前の戦闘で金剛身の効果時間は短く、時間が無制限で無いのならば他の突破方法は効果が切れるまで殴り続ければ良いのでは無いかと考えており打ち込んだ拳をすぐに引き、ヲタ芸の開始のコールと共に魂のエンジンに点火するとガントレットに黄金の振動波を纏い、相手に休む間も与えないであろう無数の拳の連打を全身に打ち込んで来る。
「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!」
「な、なんて無茶苦茶な……っ!?」
ショッカーの掛け声は主にライブでのコールで使用されるものというこの場に似つかわしくないふざけた物に聞こえるがそんな事実を忘れさせる程に凄まじいラッシュだ。
1秒間に何十発もの拳が放たれてると感じる程の高速の連打はまさに乱舞。それだけでなく振動波を纏うことにより一撃一撃が力強く、叩きつけられた振動波による衝撃の余波は彼女が立っている背後にある試合会場の横にある寝殿造の建物にまで伝わり、一瞬で石の柱達を崩壊させて土塊に変えて行く程だ。
「ぶっ飛べオラァ!」
金剛身の効果時間が切れ、ショッカーの怒涛のラッシュに怯んでフラついている隙に右肘を後方まで引き、振動波の出力を一気に上げることで金色の振動波を纏った右拳をエレンに向けて全力で叩き付ける。
ワンテンポ遅れたが咄嗟に両腕を交差させて、防御を試みるが金剛身の発動は間に合わずショッカーの渾身の右ストレートがクリーンヒットしてしまう。
「うあああああああっ!」
拳がガードのために交差した腕に命中した矢先に、一撃で写シが剥がされてしまうのは容易に想像出来るが精神力にも大きなダメージが与えられてしまう程であった。
ぶつけられた振動波が拡散されて周囲に拡がって行く。両社が立っていた地面が割れ、ショッカーの拳を押す力になす術無く脚が宙に浮くとそのまま殴り飛ばされてしまう。
時を同じくしてライノを相手に、向こうもスピードが速いという訳ではないが自分よりはある程度は素早く動ける相手であるため、有効打は出せずにいる。
4人掛かりでようやく倒せた相手であるため、トニーの手によって改造されているS装備を装着しているとは言えタイマンで相手取るのはかなり、厳しいという所だろう。
「コイツ相手にタイマンはやっぱキツいよな……けど、コイツの稼働時間だって無限じゃねぇ」
「見事だ……以前よりも格段に強い。それが君たちのスーツの装備の性能か」
「それだけじゃないぞ。俺たちと一緒に戦ってくれてる皆の力だ」
「それはいいことだな」
おまけにスーツを動かすコアを破壊して動きを停止させることが数少ない突破口であることが尚更難易度を上げている。
だから先にエレンがショッカーを倒してこちらに来てくれれば良いが……そんな事を考えつつもライノに蜻蛉の構えで上段に構えながら脚を走らせ軽く飛び上がって祢々切丸を振りかぶる。だが………
『ぶっ飛べオラァ!』
『うわあああああああっ!』
「………っ!?どうしたエレン!」
直後、そんなことを考えていた矢先にエレンの普段は聞かないような悲痛な悲鳴が聞こえたことで無意識に反応してしまい、そちらの方に顔を向け祢々切丸を振る力を弱めてしまう。
普段はめんどくさそうに対応していることもあるが心から大切に思っている相棒だからこそ悲痛な悲鳴が聞こえたことでつい身体が反応してしまった、という所だろう。
ライノは後ろめたさを感じたがチャンスを逃さない程甘くはない。すぐさま、薫の上段からの一撃を回避する。そして、力を溜めて全力でその巨体と重量を組み合わせ、それらから肩を突き出して全力でダッシュで勢いを付けながらダメージを増大させて薫にタックルをお見舞いする。
「悪いが大人しくしてもらうぞ」
「ヤベっ!ぐあああ!」
一瞬の隙が致命的となりライノの渾身のタックルが薫の小柄な全身にモロに直撃してしまい、トラックで跳ね飛ばされたようにいとも容易く跳ね飛ばされて
行く。全身を強く強打することで薫も写シが一瞬で剥がされ、あまりの威力に意識が飛んでしまう程だった。
「「がっ!」」
そして、ライノの怪力により弾き飛ばされた薫はショッカーの右ストレートを受けて殴り飛ばされているエレンと勢いよく激突し、地面に叩き付けられて転がって行く。
「ヤベェ……一瞬意識飛んでたわ……全身が痛ぇ」
「私も身体に力が入りまセン………」
全身を強打した痛みにより意識が覚醒したことで、薫は何とか目を覚ます事が出来たが身体に力が入らず、起き上がろうとするも膝を着いてしまう。おまけに装備しているS装備にも凹み傷やあちこちに傷ができ始めていることからダメージが大きいことは見て分かる。
そして、薫と激突してしまったエレンも仰向けの状態で倒れながら必死に起き上がろうとしている。だが、指先を微かに動かす事は出来るが手には越前康継を握る握力が無い。
ショッカーの猛攻撃により蓄積されたダメージが今になってジワジワと効いて来たのか身体が言うことを聞かなくなってしまったようだ。
「まだやるってか?いいぜ、やっぱお前らモグラは根性あるじゃねぇか。さて、さっさとテメェらをぶっ潰した礼金で推しグループ『スクリューボール』のCDを全国店舗から買い占め、その投票券で推しを次の曲でのセンターにするぜ」
「かなり、本気で行ったがまだ戦えるとはな。ちなみにモグラじゃなくて舞草だ」
「んだっけか?まぁ、コソコソ隠れて影で動いてやがる感じはモグラっぽいだろ」
そんな2人に追い討ちを掛けるように戦闘の衝撃と破壊力により巻き上がった砂塵の嵐が立ち込めている。直後にショッカーが振動波を起動させることでそれらを取り払い、視界が晴れると振動波のスイッチを切る。左手の拳を右手で包み、ポキポキと小気味の良い音を響かせ、ライノも蒼いツインアイで2人を見つめながら警戒を解かずに肩を並べて歩み寄って来る。
ライノの言葉に対して薫は祢々切丸を杖代わりにして、片膝立ちになりながら起き上がるとそちらを睨み付けて言葉を返す。
「んなわけあるか、ぶっちゃけもう帰って寝てぇよ」
「薫……」
「ならそうすれば良い、命は何よりも大事だ。亡くしてしまったのならそれはもう取り戻すことなど出来ない。過去と……同じようにな」
本人の言っている通りライノの攻撃を写シ有りとは言えまともに直撃し、全身が悲鳴を上げて激痛が走っている。
正直横になっていたいというのが本音ではあるが、それでも膝立ちの状態からフラつき、姿勢を崩しながらも立ち上がり2人を睨み付けている。
普段のダウナーな本音と雰囲気はありつつも、彼女からはだとしてもと突き動かす原動力が働いているのを感じられる。そして、ライノとショッカーに向けて不敵な笑みを浮かべる。
「ナメん……なよ……今、この日本の危機に推してるヒーロー達が俺達を信じて一緒に戦ってくれてんだ……諦めるなんてダッセェ真似したら俺は一生推しに顔向け出来ねぇ……それになぁ」
アイアンマンとキャプテンアメリカ。直接会い見えてはいないが自分達舞草を、刀使を信じてリスクを恐れずに日本の危機にそんな尊敬している人達が一緒に戦ってくれている。これだけで彼らを敬愛する薫からすれば嬉しく、心強いことこの上無いだろう。だから自分も彼らの期待に恥じぬように立ち上がれる。
そして、彼女が今こうしてボロボロでありながらも戦い続けられるのはそれだけが理由では無い。
「ジジイやハッピー、舞草の皆から託された想いが俺たちにある!いくらお前らが強かろうが、叩き潰されようが……っ!逆境をぶっ壊して皆の想いに応えんのが俺の信じる……俺がなりてぇヒーローなんだよ!」
里を襲撃され、多くの舞草の仲間が傷付き、皆が朱音や自分達を守る為に命懸けでバトンを繋げてくれたから自分達は今こうしてここに立っている。
例え、自分達が倒されても想いを託せる者がいるからこそ皆命を賭けられた。
その想いを受け取った薫は、その想いに応えたい。口から一条の血が滴り落ちながらライノとショッカーを睨み付け、小さな体躯からは想像も付かない気合の入った声で一喝する。
その言葉を聞いて、エレンもまだ痛む身体に鞭を打って起き上がり隣に立って眼前に立ち塞がるライノとショッカーを見据える。
相棒の語るなりたい自分像に心を打たれ、それが活力となった。祖父の重荷を終わらせること、そして今度こそ平和な日本を取り戻すのだと言うことを力に変えたのだ。
そして、いつかは叶えたい自分の夢を守る為に一歩も退くことはしない。
「……i'm with you!私も最後までとことん付き合いマスヨ!カッコいい所を見せてくだサイ、My hero!」
「ああ!全てをアイツらにぶつけるぞ」
「ねっ!」
どれだけぶん殴られても、どれどけぶっ飛ばされようとも彼女達の瞳から光が消えることはない。成し遂げたいこと、背負った想い。それらが彼女達を立ち上がらせる。
ショッカーはそんな事情を知る由もないが、やはり彼女達は自分の魂を熱くさせる熱い奴らだと再認識してこの気合の入った奴らに全力で勝ちたいという気持ちが湧き上がって来た。
そして、ライノも彼女達は過去を生きているのではない。仲間が紡いだ今を全力で生き、その先の未来を掴み取る為に足掻き続ける意志を感じ取った。
過去は変えることは出来ない。だからこそ、今をくれた人たちのためにライノも自分の未来を一歩も譲らない。
「ハハハッ、やっぱおもしれぇぞお前ら!お前らみたく気合入った奴には全力でぶつかってくのが俺のポリシーだ。全力で来な、勿論俺は抵抗するぜ……拳で!」
「どうやら、既に言葉では退かないらしい……だが、俺も俺の今を一歩も譲らない。恩義の為に、俺は力を振るう」
祭壇に続く座敷にて、立ち塞がる夜見を前にして舞衣と沙耶香は未だに決定打。いや、まともに接近することすら叶っていない。
彼女の左腕を御刀で斬り付けて傷を作る事で傷口から小型荒魂を生成し、物量で怒涛の荒波の如く押し寄せて来る小型荒魂の波状攻撃は改造されているS装備による怪力とリパルサーの直撃によって細かく散らせることは出来るが、不規則に攻めて来るためお互いがお互いを守ることに手一杯になってしまっている。
そんな彼女達の様子を何も感じないかのように機械的な表情のまま夜見は見下ろす。後ろに控えて口出しして来る雪那を守りながらでありながらも彼女は舞衣と沙耶香の妨害に成功していると言ってもいいだろう。
だが、夜見が親衛隊の制服の袖をまくって露出している左腕から大量の切り傷、それでいて傷口から血が滴り落ち、夜見の足元の畳に小さな血溜まりを作が出来ている。敵対者ではあるがここまで身を削ってまで自分たちの足止めをしようとする夜見に対し、流石に心配になって来てしまう。
ーー人間は一般に失血量が全血量の二分の一以上になると失血死すると言われているからだ
「そんなに血を流したら流石に死にますよ」
「先に果てるのはあなた達です」
だから何だ?と言わんばかりに無表情のまま淡々と言い放つ夜見はまさに自分の命すらも惜しくないと思わせられる程強い何かを背負っているのかという凄みがある。
「続けろ。稼働限界が近い筈だ」
雪那も夜見の命など捨て駒程度にしか思っていないかのような発言に対し、通信機越しに情報を客観的に整理していた研究者が口を挟む。
確かに雪那の言っていることも間違ってはいない。だが、それは彼女達の纏っているS装備が何の改造もされておらず本来通りの稼働時間しか無い場合に限られるため、夜見の状態を鑑みるとただ慢性的に続けるだけでは不十分だからだ。
『それでは少し見通しが甘いですよ。彼ら舞草はスタークインダストリーズとも共謀している可能性があると言う報告を受けています。何かしらの改造も施されていると考えた方がいいでしょうね』
揚げ足を取る様な形なってしまっていることには後ろめたさがあるが何よりも危惧すべきは長期戦になれば先に夜見が出血多量で戦闘不能になるという状況だ。入院中の彼女のメディカルチェックも兼任していた研究者は更に続ける。
『それに病み上がりの皐月女史の体力も無尽蔵ではありません。皐月女史、長期戦はリスキーです。予定通り速攻を仕掛けてください』
「かしこまりました」
「チッ、横からごちゃごちゃと!」
雪那が研究者の指摘に苛つきながら悪態をつく。夜見は自身の身体の事は自分がよく把握しているためか務めを果たすならば速攻を仕掛ける方が最適と判断し、更に左腕に切り傷を大量に作っていく最中、その分だけ出血する箇所が増えて行く。体内から徐々に血液が減って来た弊害か一瞬だけ目眩がしたがすぐにそれを振り払って舞衣と沙耶香を見据える。
すると、前方が全て荒魂で覆い尽くされるのではないかと思う程の量の小型荒魂を生成して周囲に展開する。
「何て数……っ!」
流石にこれだけの量の小型荒魂を四方八方からぶつけられれば祭壇にいる可奈美達の元へ行くことすら出来ないどころかまだ幾らか稼働時間には余裕があるが装備の稼働時間も無限ではないためいつかは突破されかねない。
このままでは埒が開かないと判断して舞衣は沙耶香に指示を出す。
「沙耶香ちゃん。少しの間でいい。荒魂を抑えて。私があの人を斬る!」
「分かった」
両方がこの場に残って防戦一方のままでは確実にタイムアップを迎えてしまう。ならば片方が荒魂を抑えて、もう1人が発生源を断つ方が効果的だと判断した。
直後に沙耶香が両眼を瞑ると一度集中状態になる。この技を使えば技の持続力を保つ事が出来るが思考が単調になってしまう。
実力者である可奈美には通用しなかったが、今は技の持続で攻撃を切らさずに荒魂を抑えるには最適な手段だからだ。
「この力を今度は私の意思で使う」
開眼と同時に沙耶香の瞳が淡い輝きを放ち出す。彼女が使える刀使の技、無念無双の発動だ。
舞衣を背後に下がらせると前に出ると夜見が周囲に展開させた大量の小型荒魂を四方八方に拡散させ、怒涛の荒波の如く沙耶香にぶつける。
前方を覆い尽くすのではないかと錯覚する量の小型荒魂の群勢を前にしてトニーの手によって改造されたS装備が沙耶香に応えるかのようにリアクターが淡く光り、頭部のバイザーに搭載さているHUDに荒魂の行動パターン、的確な方向や抜け道を即座に計算して表示して行く。
おまけに思考が単調化している状態でもある程度分かりやすいように文字は少なめで図で示してくれている。後はこの表示されたパターンを参考にして迎撃することだと判断して前方に踏み込んで行む。
「………」
踏み込むと同時に計算されたパターン通りに来る右側から来る群生を横薙ぎにに斬り付け、そのまま回転しながらの一閃で背後から来る群生を斬り払い、背後に立つ舞衣に近付けるさせる事なく順当に、そして的確に阻止していく。
「あぁ……沙耶香……っ」
雪那はその沙耶香のテクニカルな動きに対して好意的に見れば純粋に魅せられた、悪く言えば自分が見つけ出した道具はアタリだったと悦に浸っているのか両腕を腰の前で交差させて左右の腰を抱きながら身悶え始める。
流石に雪那のこの命懸けの状況下にあるにも関わらず場にそぐわない言動を聞いた研究者もドン引きする事しか出来なくなってしまった。
(……うわ、状況分かってないのかなぁこの人……何敵が戦ってる様見て悦に浸ってるのやら。おめでたいこと)
「ぐっ…」
夜見の身体も病み上がりで万全では無い為か、失血により一瞬目眩がした事で傷口を増やすための手の動きを止めてしまった事により荒魂の群勢の流れが止まってしまい隙を作ってしまった。
自分が攻め込むタイミングを見計らっていた舞衣はその隙を逃さずに迅移で加速しながら夜見に向けて突進して行く。
彼女の接近に気付いた夜見も咄嗟に最後の隠し球として隠し持っていたアンプルを取り出し、投与することで身体を更に強化して彼女を迎え撃とうとするが
舞衣はそれを見逃さない。
「当たって!」
咄嗟に右の掌を前方に構えるとガントレットの掌に独特の起動音を立てながら光を収束させ、夜見の手元に向けてリパルサー・レイを放つ。
「なっ……!」
夜見が再度自分に打ち込むよりも早く、リパルサー・レイは夜見の手元のアンプルを弾き飛ばして彼女が強引にパワーアップする手段を奪う。
アンプルで強化する手段を奪われた夜見は真っ向から迎え撃つしか無いと判断し、写シを貼り、水神切兼光を正眼に構えると上段に孫六兼元を構えながら接近して来た舞衣を迎え撃つ。
「はあああああ!」
夜見が防御を捨て、完全に舞衣を倒すために上段からの振り下ろしで迎え撃とうとして来るが舞衣も回避の素振りを見せずに、上段に振るフリをしながら途中で右薙の一閃に切り替えて夜見にお見舞いする。
一瞬の交錯を終え、両者の背中が向き合う形になる。
直後、舞衣の頭部に装備していたヘルメットがヒビの入る音を立てながら割れ、形を保っていられなくなったのか砕け散り、同時に普段は長い髪を纏めているリボンが切れて床に落ちる。どうやらヘルメットの弱い部分に夜見の一撃が当たっていた様だが等の本人はなんとか無事そうだ。
「お見事です」
対する夜見の口から出る言葉は純粋な賛辞。彼女の腕前を称賛し、自身の敗北を素直に認めたのだ。
夜見は糸が切れた操り人形の様に力無く床に音を立てながら倒れ伏せる。
「沙耶香!」
勝利の余韻に浸る間もなく雪那の怯えたような声が舞衣の耳に入って来た。
その方向に顔を向けると沙耶香が雪那に向けて村正を向け、ジッと彼女を見つめている。
「沙耶香ちゃん!」
「この私に村正を……っ!」
現状唯一雪那を守れる人物である夜見も戦闘不能にされ、その上御刀を所持していない。所持しても使えない年齢の自分では彼女達に対して為す術は無い、完全にチェックメイトだ。
通信機越しに雪那の発言で状況を把握した研究者はこれ以上こちらが切れるカードは無いと客観的に判断し、どうするべきかを思考して雪那に連絡を入れる。
『高津学長、皐月女史はよくやってくださいましたが我々の負けです。死にたく無ければ降伏するか大人しく逃げるしかありませんね』
研究者に事実を突き付けられたがこの小生意気で慇懃無礼な研究者に横からつつかれた事は雪那の負けん気を強くしてし行く。20年前に自分が撤退の原因になってしまったあの時から長年かけて肥大化したプライドは諦めることを許さないのだろう。
「黙れ!私はまだ負けてなどいない!直に横須賀から寄越した鎌府の刀使達が来る!……フハハハハハハっ!物量で押せばいくら貴様らでも……っ!」
直後に自分が横須賀に集結させた鎌府の刀使達をこちらに向かわせていたことを思い出し、そろそろ到着してもおかしくない時間ではないかと思い、まだ神は自分を見放していないと雪那に一筋の希望を与える。
だが……
『高津学長!大変です!突如現れたアイアンマンとキャプテンアメリカに阻止されて祭壇に近づけません!』
鎌府の刀使が通信で寄越して来た内容は自分のプランを打ち砕く内容だった。
物量で押せばこの反逆者共を制圧できると思っていたがそれ以前に到着してもこちらに辿り着けないという問題が生じてしまっていたのだ。
どう足掻いても詰みな状況に対し、自分の思い通りに行かないことに腹を立て、激昂しながら自分の思い通りにならない、期待通りに働かない者達全てに罵詈雑言を浴びせ始める。
「クソッ!どいつもこいつも何の役にも立たぬ欠陥だらけのクズどもめ……っ!」
雪那の様子をジッと見つめていた沙耶香が瞼を下ろし、ポツリと呟く。
「熱い…可奈美の剣を受けた手が熱い。舞衣に抱きしめられた肩が熱い。でも…あなたに御刀を向けると胸が苦しい」
彼女の心の内を吐露する発言により、気持ちが露わになって行く。ここで邪魔者であり生かしておいたとしてまた彼女が自分たちの行く手を阻むのではないか、またしても人体実験で誰かを苦しめるのではないか。だがそのような相手でも曲がりなりにも世話になった人物ではあるため葛藤が生じてしまっているようだ。
雪那は彼女の発言を聞き、僅かだが活路を見出す。まだ手の打ちようはあると。
そうと決まればこちらに引き込むために苦し紛れではあるが先程の焦りに顔を歪ませていた様子から一変して自信たっぷりに尊大な態度とドヤ顔で説得を始める。
「フ…フフ…人形のお前にもそんな感情があったのね。いえ、芽生えたのかしら?いいわ沙耶香。教えてあげます。その痛みを取り除く方法を。私に許しを請いなさい。そうすればその不要な感情は…」
これまで自分が依怙贔屓気味に過保護に育て、道具として育てて来たが余計な外的因子共が余計なことをするから道具にも感情が芽生えてしまった。
恐らくこれまでの自分と新しい自分との変化のバランスを受け止め切れずに迷ってしまっているのならばそれを取り除く方法を教えてやればいい。
雪那の苦し紛れな提案を通信機越しに聞いていた研究者は雪那に対し、呆れを通り越して感心してしまい、冷めた視線を遠くに向ける。
(あらら、この後に及んでどの口が言っているのやら……完全に相手に生殺与奪の権を握られているというのにこの尊大な態度。強がりか知らないけど神経図太いな、少し尊敬しちゃう)
雪那の苦し紛れであるが節々から伝わる要求という名の精一杯の懇願、それを受けた沙耶香の答えは勿論………NOだ。
「わかってない…痛いのはあなたが可哀想だから…」
「……………っ!」
沙耶香からの拒絶の一言。その言葉は雪那が一瞬声を失わせる程の大ダメージを与え、数刻硬直させるには充分な物だった。
自身が道具として扱って来た相手に憐憫の感情で見逃されたことが何よりの決め手となってしまった。
そのやり取りを聞いていた研究者は以前管理局の研究室で遭遇した時の無機質な機械のような物でも、これから羽化する蛹のような成長の前触れでもない。
糸見沙耶香という1人の人間として自立した彼女の強い言葉に感激し、称賛の言葉を送る。
『ブフッww……いや失敬。言われてしまいましたね、一本取られたとはまさにこの事』
「……………」
静寂が包むこの座先の空間の中で通信を寄越して来る研究者の陽気な声は舞衣と沙耶香にも届いている。沙耶香は以前に研究者の声を聞いているため、聞いた瞬間に彼も雪那に協力していることを思い出すことが出来た。
両者が沈黙をしながらこちらを声のする通信機の方へと視線を向けている。
この人物も通信機越しではあるがこちらの様子を把握している者の1人、外部から増援を送って来ることや何かしらの危害を加えて来るのではないかと懸念し、警戒を解かない。
研究者は2人の様子を感じ取ったのか研究者は敵意の全く篭っていない爽やかな口調で舞衣と沙耶香に語りかけて来る。だが、漂う胡散臭さは全く拭えていない。
『お行きなさい、勝ったのは貴女方です。私はただ高津学長への注意喚起と皐月女子の容態が心配だっただけですよ。それに』
研究者は通信機越しに向こうの状況を考察して自身の現状と照らし合わせた結果、自身が導き出した回答を両者に伝えて来る。
『私には今あなた方をどうこうする力はありませんしね……こんな所で我々なんかのために使っている時間など無い、貴女方には為すべきことがある筈です。そのためにここに来たのでしょう?その手に未来が欲しければ歩みを止めずに手を伸ばし続けなさい、何があろうと……ね」
研究者は肩から下が存在せず、袖が何も通していない右腕を伸ばすかのように右肩を上の方へと持ち上げ手を伸ばすことを示唆するジェスチャーをする。
今の自分の存在しない右腕ではどんな未来も掴み取ることは出来ない。だが、彼女達には大地を踏みしめる脚が、そして、未来を掴み取る為の手があり、それを伸ばす為の腕がある。
例え国家転覆を企むテロリストであろうとも、可能性のある若者の未来が無意味に潰えるのは面白くないと考えている研究者からは彼女達の邪魔をする意思は感じられない。
それを汲み取った沙耶香は村正を納刀し、雪那に背を向け祭壇の方角へと歩き出す。
「急ごう、可奈美達の元へ」
「うん」
舞衣もショックを受けている雪那をこれ以上責めるのは酷だと思っている点や、自分たちに残された時間が少ないことは理解しているため、気を引き締めるかのように先程解けたリボンで髪を結い直しながら祭壇の方へと走り去って行く。
雪那が茫然としながら、力無く膝から崩れ落ちて譫言の様に走り去って行く小さな背中に向けてその名を呟く。
「沙耶香……沙耶香……」
自分の手の中にあった筈の道具、大事な手駒。だが、そんな彼女に離反され完全に拒絶をされてしまった。
おまけになるべく強い言葉を使わずに最大限気を遣った物であったため尚更精神的に打ちのめされたと言っても過言では無いだろう。
研究者は雪那の譫言が耳に入るとこれで流石に少しは響いただろうと彼なりのフォローを入れて来る。一応、なるべく嫌味が入ってしまわないように気をつけながらだ。
『高津学長、あまり落ち込まないでください。彼女は変化を受け入れ自ら進んで自分の道を決めたんです。生命は自らの意思で変化を受け入れることで真に価値のある進歩をします。それは誰かに強要されてするものではない。自ら殻を打ち破ることが大切なのです……貴女も教育者ならば生徒さんの成長を少しは喜ばれては?」
「……喜べだとぉっ!寝言は寝てから言え貴様ぁっ!」
研究者なりに気を遣ったフォローが耳に入ると雪那はこのやり場のない憤り、悔しさ、悲しみが湧き上がって来る。
今この気持ちをぶつけられる相手が研究者しかいないこと、そして普段から溜まっていたフラストレーションが爆発してしまった。
「貴様があの時沙耶香を易々と見逃したりなどしなければ彼女は私の元を離れなかった!あの小娘とスパイダーマンもそうだ!沙耶香に余計な感情を植え付け紫様のお役に立てる筈の最良の器をくだらぬ凡愚へと貶めた!何もかも貴様らが余計なことをしたせいだ!どうしてくれる、このクズ共め!」
(は?うっぜ。クズはお前だよバーカ)
張り付いた笑顔を浮かべながら内心ではこの言葉が一瞬脳裏を過ぎり喉まで出掛かったが寸前で堪えて息を整える。
研究者はため息を吐きながら雪那に対し、呆れて果てて視線を夜空に移して空を見上げたままの姿勢で横顔をそのままカメラに向かって倒したような顔の角度をしながら冷ややかで凍てつくような口調で言葉を返して来る。
『はぁ……貴女も研究者の端くれなら少しは自分で原因を考えたらどうです?実験で失敗したり想定外のことが起きれば原因を考察して何がいけないのか考えるなどいつもやっていることでしょう?おまけにこの後に及んで自分に原因があると思ってすらいないとは……だから、彼女は離れたのですよ』
「何だと、貴様……っ!」
研究者が淡々とこれまでの雪那の行動の落ち度を整理し、周囲を省みず自身の病的なまでの紫への崇拝と、それを認めて貰うために他者をも巻き込んだ独善的なまでの勝手な行動。
沙耶香が学院で孤立する程の過剰な依怙贔屓と紫の為の道具として生きることが幸せだと自身の願望を押し付ける行動及び言動。
尚且つ彼女を物言わぬ兵器へと貶めるに等しいアンプルの強引な投与など沙耶香が雪那の下から離れてもおかしくないことを多数行っている為、離反されても仕方が無いだろう?と研究者に冷たい口調で言い放たれるが決して彼女は自分の非を認めはしない。
ならば、更にトドメと言わんばかりに研究者は先程沙耶香に言われた言葉の意味を雪那に突き付けることで彼女の非を自覚させようと試みる。
『おまけに、貴女がなんの説得力もメリットもない苦し紛れな提案をしている間彼女は貴女を始末することなど容易に出来たんですよ?なのに、貴女は今死なずに済んだ……これがどう言うことか分かりますか?』
「や、やめろ……それ以上その下賤な口を開くな!この研究者風情が!」
雪那も内心では先程沙耶香に憐憫で見逃されたことは理解しているのか、彼女の言っていた言葉がどう言うことなのか、状況を鑑みれば理解できる話だ。
彼女は御刀を持ち、S装備もまだ稼働している状態。だが、自分はただ身構えて震える脚を必死に抑えて彼女と対峙することしか出来ない最中自分を始末することが容易なのは火を見るよりも明らかだ。なのに見逃されたという事はどう言う事なのかは流石に理解出来る。
研究者はその事実を突き付けるために口角を小さく吊り上げると口の中から蜥蜴のように長い舌を出し、唇の辺りを舌舐めずりをした後に突き放すかのように冷たい口調で雪那に言い放つ。
『彼女からすれば貴女の命など殺す価値も無いということです、温情で見逃して頂いたに過ぎないんですよ』
「……………っ!!」
理解はしていた。だが、認めたく無かった。自分の忠誠は価値のある物だと、そのために生徒を利用することもいつかは正しさへと変わると信じて疑わなかったが、手塩にかけて育てた生徒に遠巻きに罵倒されてしまったことは流石に響いてしまっていた。そして実際にそれを第三者にまで言われると精神のダムが決壊してしまった。
「くっ……っ!クソ……っ!クソが!どいつもこいつも!」
雪那は悔しそうに床を何度も拳で殴り付けながら自分の思い通りに動かない者達全てに呪詛の言葉をぶつける。
研究者は流石にここまで言えば少しは反省するだろうと思い、言いたいことはある程度言ったため雪那との会話を打ち切ることにした。
『まぁ、何事にも『合う合わない』があります。彼女にとって貴女の教育方針より彼らと共に歩む道の方が合っていた……という事ですかね。私は一旦ここで失敬させて頂きますよ。これを機に反省して、拾った命を無駄にしないことです。では、ごきげんよう』
研究者が爽やかで紳士的な口調を崩さずに張り付いた笑顔を浮かべたまま、雪那の傷心を撫でる……いや、傷口に塩を塗りたくるにような妖しい手付きで左手を軽く振ると通信を切る。
研究者との売り言葉に買い言葉なやり取りの中で辣言をぶつけられた雪那はワナワナと震える手で通信機を取り外すとメンコのように思い切り床に叩き付ける。
あまりにも強く叩き付けたためか通信機がバウンドして室内を転がって行く。そして、雪那の行き場のない悔しさと怒りの篭った腹からの怒号が室内に響き渡る。
「…………コナーズウゥゥゥゥゥゥゥ!」
他の面々から少し離れた位置にて、数刻前にグライダーが堕ち、地上で戦うしか無くなったグリーンゴブリンはスパイダーマンと向き合い同時に踏み込むと、グリーンゴブリンは深緑色の日本刀をスパイダーマンに向けて振り下ろして来る。
「うおおおおおおおお!」
「はあああああああああ!」
スパイダーマンも負けじとヴィブラニウムブレードを横薙ぎに振るとグリーンゴブリン の日本刀と激突し、鈍い金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
グリーンゴブリン はそのまま鍔迫り合いに持ち込むと獣のような咆哮を上げながら日本刀を推し込もうとして来る。ヴィブラニウムブレードの特性により衝撃は大幅に軽減しているが最終的には相手との力比べになるため過信は出来ない。
グライダーでの空中からの攻撃が不可能になり、レイザーバットも使い切り、パンプキンボムもグライダーの中に搭載されている物であるため容易く取って来る事は出来ない。グリーンゴブリンの武装が多いという長所が無くなっているため大幅な弱体化をしているのは確かだろうが地上戦や空中戦にも対応できる万能型のスーツとして作成されているのは伊達では無いという事だろう。
おまけにゴブリンフォーミュラによるアドレナリンの過分泌と脳のリミッターが外れた事による身体強化、それでいて身体への負荷を軽減しつつ身体能力を倍増させるスーツの機能により身体能力もスパイダーマンに引けを取らない。
「グライダーを壊したからって甘く見るなよ!」
「そのつもりだよ!」
グリーンゴブリンが続け様にスパイダーマン、もとい現政権の瓦解を狙うテロリストを排除すべく、一切の容赦をかなぐり捨て思い切り日本刀を振り抜いた後に息を吐く暇さえ与えないかの如く猛攻撃を仕掛けて来る。
「局長の命を狙うテロリストにはここで消えてもらう!」
(なんかコイツの太刀筋何処かで見たような……どうせ始末する敵だ。気にする程でもねぇ!)
一応結芽相手に生身同士ならば勝てはしないがある程度打ち合える腕前は持っている栄人が装着者であるためか身体能力が同程度まで引き上げられるとなると剣術での勝負ならば技量の差によりスパイダーマンは割と防御がちになっている。
それでいて、グリーンゴブリンの振るう凶刃は首に向けての横薙ぎ、心臓に向けての渾身の突きなどどこも命中すれば致命傷になる箇所を躊躇なく狙って来る。最もグリーンゴブリン から見ればスパイダーマンは舞草というテロリストの一員に過ぎないからと言える。
だからこそ、相手を排除することに迷いがないのは理解できるが相手が自分の正体を知らないとは言え親しい人間に本気で殺意を向けられるのら生まれて初めてであるためか本気で動揺する。
(ヤバい……本気で殺しに来てる……。だけど!)
だが、こちらも退く訳には行かない。紫を止めないと日本が終わってしまうからだ。例え世界からテロリスト扱いされたとしても日本が終焉を迎えることだけは防がなければならない。だから自分はここにいる。
「いつも通り無力化すればいいだけだ!」
スパイダーマンがヴィブラニウムブレードを思い切り振り抜く事でグリーンゴブリンを一度押し退けると今度はスパイダーマンがヴィブラニウムブレードをグリーンゴブリンに向けて横一閃に振り抜く。
しかし、グリーンゴブリンは右横にステップで飛びながら回避し、日本刀を軽く投げて左手でキャッチして流れるようにスパイダーマンの首、もとい脊椎の辺りを勢いに乗せて斬り付けて来る。
「くたばれ!」
「簡単にあげるほど僕の賞金首は安くないんだよ!」
スパイダーセンスでその危機を察知したスパイダーマンは右脚を思い切り左に向けて軸移動することで即座に対応し、右手にブレードを持ったまま横薙ぎに振る事でグリーンゴブリンの上段からの一撃を防ぐ。
「ぐっ!」
後方に飛ばされたグリーンゴブリンが着地すると同時に足元に向けて左手のウェブシューターのスイッチを押してウェブを射出して牽制するがすぐ様反応してバク転で回避されてしまう。そしてグリーンゴブリンの方も跳躍と同時に肩のアーマーに隠していた小型の先の割れた刃物を右手で掴んでスパイダーマンに向けて投擲する。それと同時に、こっそりと地面に丸い球体を砂の中に埋もれやすい位置にポトリと落とした。
「蝙蝠じゃないならどうとでもなるっての!」
グリーンゴブリンの手から放たれた刃物は蛇の蛇行のように変則的に飛んで襲いかかって来る。だが、スパイダーマンはレイザーバットのように追尾機能の無い投擲武器である刃物ならばどうとでもなると判断し、ダッシュで接近しながら刃物を打ち払っていく。
(よし、チャンスは一度……砕け散れ!)
だが、スパイダーマンが刃物を打ち払い、進撃を進める中で少し離れた位置に着地したグリーンゴブリンはあることを狙っていた。
スパイダーマンが接近するために走り出した瞬間にグリーンゴブリンは腕のタッチパネルを押し、地面に仕掛けていたそれを遠隔操作で起動させる。
「………?」
直後にスパイダーセンスが反応し、何かが起きるであろう事を察知したスパイダーマンは咄嗟に急停止して周囲を確認する。
グリーンゴブリンとの間には距離があり、自身を守れる武装である日本刀を容易く投擲するとは考えられない。なら何故スパイダーセンスが反応したのかを思案していると地面の方から何かをカウントするかの様な音が聞こえて来る。
「ヤバっ!」
その音がする武器の威力を思い出したスパイダーマンは脅威の正体を理解して足元の辺りの砂が熱を浴びて赤く光る球体が視界を照らしたのが視界に入った。
直後、足元に仕掛けてあったパンプキンボムが臨界点に達し、地面を橙色の光が包んでスパイダーマンとその周囲を巻き込むかのように大爆発を起こし、辺り一面に轟音と衝撃が広まって行き業火が夜空を照らす。
「やったか!?」
グライダーから墜落する寸前に落下しながら一つだけ回収したパンプキンボムを隠し持っており、それをどこかで使えればいいかと考えていたが早速ここで出番が来るとは思っても見なかっただろう。
スパイダーマンの辺り一面が消し飛ぶ威力かつ、生身の人間が直接喰らったとしたら一瞬で塵に還ってもおかしくはない威力であるパンプキンボムの直撃を受けたのだ、流石のスパイダーマンでも重傷を負わす位は出来ただろうと思っていると左側から何かが接近する気配を感じてそちらを向く。
「ぐっ!」
直後に肩の辺りに向けて強い衝撃が走り、グリーンゴブリンの身体は宙を舞って地面に叩き付けられると転がって行き、衝撃で日本刀を落としてしまった。
「フラグ回収お疲れさんっと!」
ウェブから手を離して着地をしたスパイダーマンであった。スーツのあちこちに焦げ跡がついており、繊維の破けた部分から見える素肌は皮膚組織が焦げて火傷を負っているがまだ戦闘続行は可能なようだ。
どうやら、先程のパンプキンボムが爆発する寸前に跳躍し、ウェブを建物に当てて移動する事で直撃は免れた様だがパンプキンボムの破壊力と爆発の範囲の広さ、広がっていく爆熱を完全に回避することは不可能であった為かそれなりのダメージは負ってしまった。
「流石にしぶといな。皆がお前を仕留めるのに手こずるのがよく分かったよ」
「簡単にやられてあげる程僕はサービス精神旺盛じゃないからね」
蹴り飛ばされたグリーンゴブリンはゆったりと立ち上がると、スパイダーマンの方を睨み付けながらスーツの右腕の前腕から爪の様な形状、複数の刃を連結させたような形状であるリストブレードを展開する。
本当は接近戦の際に隠し球として取っておきたい武装ではあるが出し惜しみをして勝てる相手では無いためかそれを使用するべきとグリーンゴブリン は判断したようだ。
「だが、それもここまでだ!」
グリーンゴブリンがかなりのスピードで接近して来るのを目視で確認すると、スパイダーマンは相手の隙を作るためにヴィブラニウムブレードを肩に乗せるように構えてグリーンゴブリン に向けて走り出す……と同時に思い切り振りかぶって投げ付ける。
「そら!」
「チッ!」
グリーンゴブリンが自身に向けて飛んで来るヴィブラニウムブレードをリストブレードで横に振って弾き飛ばすとスパイダーマンはその隙にウェブを足元に放ち、それをグリーンゴブリンに当てようとするがそれを跳躍で回避し、空中で縦に回転しながらリストブレードで斬り付けて来る。
「うわっと!」
スパイダーマンがその縦軸の回転斬りを上体を逸らすことで回避しながらカウンターでグリーンゴブリンに回し蹴りを入れて蹴り倒す。
「野郎……っ!」
「痛かったかな?」
地に手を付け、痛がるフリをしながらすかさずグリーンゴブリンは足払いを入れて来るがスパイダーマンはそれを後方に飛ぶことで回避する。
「今度はこっちから行くよ!」
スパイダーマンが走りながら接近して起き上がったグリーンゴブリンの腹部に連続で拳を打ち込み、それでいて素早く拳を引くことでダメージを蓄積させていく。だが、グリーンゴブリンもやられてばかりでは無い。スパイダーマンのボディブローを左肘で弾き、上に持っていくことで姿勢を崩すとそのまま腹部に拳をめり込ませる。
「うおらああああああ!」
「がっ!」
反撃のチャンスを得たグリーンゴブリンが再度左からのストレートで追撃するが姿勢を低くすることで回避される。しかし、直後に右脚からの膝蹴りを顔面の鼻の辺りに命中させ、怯ませた隙に右からのアッパーカットをお見舞いしスパイダーマンの顎に命中させて殴り飛ばす。
「どうだいスパイディ!」
「……その程度か?」
片手を着いて着地してグリーンゴブリン の方を睨みながらスパイダーマンが消えない闘志とこちらを挑発し、冷静さを奪おうとしてるのかと思われる返をして来るがグリーンゴブリンは気にする事なく、リストブレードを振り被ってスパイダーマンの首元を狙って一閃する。
「うおらぁ!」
それを屈んで回避すると同時にスパイダーマンは地に手を着きながらヘルメットに蹴りを入れると、衝撃が伝わり一瞬だがグリーンゴブリンがフラ着きそのまま起き上がって腕に付いているリストブレードに回し蹴りを入れることで粉砕する。
「なっ!」
「これでイーブンだろ?」
「なら、次はこれだ……っ!うぐおああああああ!」
リストブレードのみを的確に破壊したことに驚いたがグリーンゴブリンはすぐさま残された最後の手段に切り替えて左腕に備え付けてあるパネルをノールックで弄るとスーツから警報音のような耳をつんざくような音が鳴り響き、グリーンゴブリンが苦しみ出す。
すると、同時にヘルメットのツインアイが紅く妖しく輝き、スーツの通気孔から赤黒い煙、そして全身から緑色の電流が流れ始める。
装着時の投与の際に、体内に蓄積された強化細胞、ゴブリン フォーミュラを活性化せることでスーツのAIの戦闘システムである破壊プログラムにブーストを掛け、全リミッターを解除してオーバーロード状態になって性能を最大限に引き出してスパイダーマンを倒すつもりの様だ。
「もうよせ!これ以上やったら君が……っ!」
「何度も言わせるな……こっちだって既に手段を選んではいられねぇんだよ!局長を何としても守るのが俺たちの役目だ!そのために俺も、結芽ちゃんも、皆も、命を賭けて国の敵と戦ってるんだ。だから……俺たちは一歩も引かない!」
グリーンゴブリンのスーツの性能を最大限に引き出したことによるバックファイアによる吐血、そしてゴブリンフォーミュラの浸食により精神を凶暴化させられているため、言葉で語っても通用しない。舞草の陣営が死に絶えるまで戦い続ける事を辞めないだろうと言う意志が伝わって来る。
スパイダーマンは改めて突き付けられた現実に対し、こうなるかも知れないと思っていても受け止め切れていなかったことを実感させられる。
確かに世論から見れば舞草など国家転覆を企むテロリストでしか無いのは間違いでは無い。批判されるのも無理はないし、甘んじて受けようとも思っている。日頃からジェイムソンにネチネチと叩かれている為かバッシングにはある程度耐性が付いているのは皮肉な話だが。
舞草と戦い、殲滅することを選んだのは彼自身だ。彼には彼の立場があり、やるべき事がある。それが舞草と戦うという事なのならば致し方ない部分もあるのかも知れない。
だが、それでもスパイダーマンにとって栄人が大切な隣人であることには変わりはない。戦いたくなど無い、だが向こうは絶対に退かないしこっちも退け無い。だからこそ、自分は自分の手で友を倒さなければならない。
……スパイダーマンは一度深く深呼吸をすると姿勢を低くして身構えてグリーンゴブリンからの攻撃に備える。
(落ち着け、大丈夫だ。僕は相手を捕まえる達人だ。これまでも無理だろって局面でも上手くやって来れた……僕は僕のやるべき事をやるだけだ!)
「絶対に局長とこの国を護る!」
「絶対に隣人たちを護る!」
その言葉を合図に両者の脚が地から離れると、一瞬で互いの拳が届く位置まで接近して互いに拳と拳をぶつけ合う。
「「はああああああああああ!!」」
力と力がぶつかった衝撃が周囲にも広がって行き、地響きを立てて敷地内の庭の砂を巻き上げて行く程だ。一歩も引かずに互いの拳が拮抗しているとスパイダーマンの押す力が僅かに勝ってグリーンゴブリンの拳を押し返し、すぐ様グリーンゴブリンへの追撃を開始して再度殴り掛かる
グリーンゴブリンはすぐ様反応して高速移動をする事でその一撃を回避し、スパイダーマンの背後に回り込んで掌底を放つ。スパイダーセンスで背後からの危機を感じ取るとその掌底を左肘で受け止め、受け流してグリーンゴブリンの腹部に蹴りを入れる。
「取った!」
「何……っ!?」
だが、その蹴りをグリーンゴブリンはガッチリと受け止めていた。しかし、スパイダーマンの鋭い蹴りを片手で受け止めると一回転してスパイダーマンを軽く投げ、姿勢を低くして右足に力を溜め始めると緑色の電流が再度駆け巡り、それを纏った右脚で落下点に入ったパイダーマンに回し蹴りを入れる。
「消し飛べ!」
「なっ、ぐああああああああ!」
力を溜め、緑色の電流を纏った一撃を受けたスパイダーマンは腕でガードすることに成功するも力負けして、弾丸の如く数十メートルは悠に飛んで行き壁に激突し、何枚もの壁をぶち抜いていく。スパイダーマンが壁に激突すると一瞬で崩壊したことから、どれだけ今の蹴りの威力が高いか理解出来る。当のスパイダーマンもガードには成功したが、フラ付いている事から何度も食らえばただでは済まないだろうという事が理解できた。
「うおおおおおおおおおお!」
「ヤバっ!」
だが、グリーンゴブリンの怒涛の攻撃は止まらない。次の瞬間には眼前に迫って来ており、倒れているスパイダーマンの顔面に前蹴りをかまして来ており、それを感じ取ったスパイダーマンはウェブを建物に当てて跳躍して回避に成功する。
「ぐあっ!」
「お返し!」
直後にスウィングによって遠心力をつけながらラリアットをグリーンゴブリン に命中させる事でグリーンゴブリンをぶっ飛ばし、地面に叩き付ける。
だが、直後に両手を地面に逆立ちし、開脚しながら横回転での回し蹴りをスパイダーマンの脊椎の部分に回し蹴りを入れて来る。
「うおらあああ!」
「嘘だろ!?」
グリーンゴブリンの予想外の動きによりワンテンポ遅れて肘でガードするが、蹴りの威力により怯まされると直後にグリーンゴブリンの渾身の右ストレートが眼前に迫っていた。
「終わりだ!」
「そっちがね!」
それを咄嗟に屈むことで回避すると同時に腹部にボディブローをお見舞いするとグリーンゴブリン は衝撃で姿勢を崩し、その隙を見逃さずにスパイダーマンは拳を握ってグリーンゴブリンに向けて高速のラッシュをかます。
(ゴメン、ハリー……苦しいよな……すぐに終わらせるから!)
「ぐっ!どこにこんな力が……っ!」
スパイダーマンの拳が身体のあちこちに命中することで蓄積されたダメージが限界を超え、装着者の意識が遠のいて行く。
「はあああああああああ!」
一瞬殴り付ける際に、いつも笑顔で接してくれる友の姿がグリーンゴブリンに重なったが今は敵同士。倒さなければ自分は前には進めない。
迷いを振り切ってスパイダーマンはグリーンゴブリンの腹部を下から拳で打ち上げると宙に舞ったと同時にウェブを命中させて一回転しながらウェブのクッションを作っておいた茂みに投げ付けるとグリーンゴブリンは衝撃をかなり軽減されながら全身をフェブに巻き取られて身動きが取れなくなる。
そして、蓄積されたダメージによりスーツのヘルメットが砕け、素顔が露わになり密閉された空間から解放さ、新鮮な空気が安らぎを与える。意識が遠のく中投げ飛ばしたポーズのままこちらを向く手作り感満載のスーツの男を視界に捉えたまま手を伸ばすが力無くダラリと手を下ろす。
(クソ………負けられないのに……俺たちが負けたら……局長が……日本が………結芽ちゃん……)
負けた事への悔恨よりも自分たちの敗北によって齎せるであろう最悪の事態が起きる事を憂いながら1人の最愛の少女に後を託して意識の糸が切れる。
グリーンゴブリンを投げ飛ばした姿勢のまましばらく固まっていたスパイダーマンは無意識の内にマスクの中で生温かい液体が一筋流れたことに気が付いた。
(何だろう……勝ったのに、全然嬉しくない……)
これまでは自身とは無縁な敵、親衛隊や新装備を付けた面々は露程も知らない間柄である為か抵抗は少なかったが今回の敵は違った。自分の友人で、親愛なる隣人を初めてその手で倒してしまったという事だ。スパイダーマン史上最も嬉しくない勝利と言っても過言ではないだろう。
命に別状は無いが初めて親しい人と本気で殺し合うことの辛さ、国に背いてでも人々を守る責任を果たすために命を懸ける事の重さを改めて実感した。
「行かなきゃ……皆も戦ってるのに……」
だが、止まる訳には行かない。残された時間も多くはない。こうしている間にも仲間たちは命懸けで戦っている。自分だけ感傷に浸っている場合ではないと
思いヴィブラニウムブレードを拾い上げ、納刀すると祭壇まで向かおうと歩き出す。
…………だが、直後に全身の毛が逆立つようなゾワゾワした感覚に陥り、ヴィブラニウムブレードを鞘から抜くと同時に振り返ると金属音が鳴り響き、何かと強くぶつかった感触がした。
「君は……っ!?」
その正体が雲に隠れていた月が再び顕現して、地上を照らす事で姿を現す。
瞳孔をカッと見開き、口元を憎々しげに歪めて歯を食い縛りながらこちらにニッカリ青江を振り下ろしている結芽の姿だった。
スパイダーマンは察する。彼女を抑える役割を担っていた筈のエレンと薫は彼女を流してしまった。ということは既に倒されてしまったのでは無いかという最悪の予想が頭をよぎる。最も、絶賛ライノとショッカーを抑えている最中ではあるがそれをスパイダーマンが知る由もない為致し方ない部分はある。
ヴィブラニウムブレードを思い切り振ることで一度弾き飛ばすがクルリと一回転して地面に着地し、後方で気を失っている栄人の方へと視線を向ける。
「おにーさん……そっか、負けちゃったんだね」
どこか気落ちした、低いトーンで状況を把握してボソリと呟く。だが、そこからは落胆、失望のような物は感じられない。心配、命に別状は無いように見える様子を見て多少安堵しているようにも見える。
だが、眼前にいるスパイダーマンの方へ視線を向けると一瞬不愉快そうに眉の形を歪めていたもののすぐにいつもの小馬鹿にした口調で語り始める。
「参ったよ。良い所で凸凹なおねーさん2人に邪魔されたのには結構腹が立ったけど嬉しい助っ人のおかげでここまで来これてね…でもまさか……おにーさんがやられちゃってるなんてさ。前のすんごい着ぐるみ無しでも意外とやるんだね」
どうやら結芽はショッカーとライノが逃げる隙を作ってくれたお陰でエレンと薫から離脱して、先行した者たちを倒そうとしていたようだが通りかかった先でスパイダーマンとグリーンゴブリン が戦闘しているこの場所を通りかかったようであり、決着が着いた瞬間に辿り着いたようだ。
いつもの相手を小馬鹿にする口調を崩してはいないが、目は笑っていない。自覚はしていないがスパイダーマンに対して憤りを感じているからだ。この感情は何だ?生意気にも自分に電気ショックをお見舞いしたことを根に持っているからだろうか?それとも……自身の大切な人を倒されたからか。
スパイダーマンはそんな彼女の心境は露知らず、無言のまま結芽の方へ視線を向ける。敵側で無意識の内に忌避している人物である為か手が汗ばみ、心拍数が上がって行く。
「負けたのはおにーさんがクモのおにーさんより弱かったからだし、仕方ないよ。でもさ何でだろうね…こんなにムカつくのは」
結芽は目を伏せ、グリーンゴブリンが負けたのはスパイダーマンより弱かった。勝ち負けなどその二元論だと考えているし、この考えは曲げるつもりは無い。だが、それでも湧き上がって来る感情が身体中を熱くする。
これでは先程自身に倒された舞草の面々の仇討ちとして阻んで来た2人のことを馬鹿に出来ないなと自身の言い分に後ろめたさを覚えなたが口には出さない。
「僕達だって退く訳には行かない。阻む者がいるならそれを越えなきゃ行けないからね」
スパイダーマンは結芽に対し、一歩も引かずにヴィブラニウムブレードを構えて真っ直ぐに見据える。親しい人を倒し、傷心していたがどうやら敵はそんな時間は与えてくれないらしい。すぐに気持ちを切り替えて今目の前にいる強敵である結芽を睨み付ける。
結芽はスパイダーマンの視線からは例え逃げれば許してやると言っても逃げないだろうなという意思が感じ取れた。どうやら、コイツも本格的に倒すべき敵らしい。
「まぁ、何でもいいよ。おにーさん達は私の敵だし、私はおにーさん達の敵だし潰し合う理由なんてそれで充分だしね。ただ、この前調子に乗ってくれたお礼とおにーさんをぶちのめしてくれたお礼はさせて貰わないとね、じゃないと私がスッキリしないし。千鳥のおねーさんの前に倒させてもらうよ」
「……悪いけど、君を可奈美達の元に行かせる訳にはいかない。例え勝てなくても1秒でも長く君を足止めする!それが僕が今やるべき事だ!」
結芽はスパイダーマンを以前に自分の隙を突いたことや、今もなお自身の邪魔をする敵であることを認識する。そして、それ以上にグリーンゴブリンを倒した事への怒りや憤りの方が優っている。
だが一方で、これまで自分のためだけに力を振るってきたというのに歪ながらにも自分以外の誰かの為にも力を振るうなんて思っても見なかったな。と
いう思考が一瞬頭を過ぎったがすぐに目の前の敵であるスパイダーマンに集中することにした。
結芽は月の光を浴びながら、口を三日月のように吊り上げて歪んだ笑みを浮かべると一瞬でスパイダーマンに接近してその凶刃を振りら下ろす。
「あっそ………じゃあ、やってみなよ!」
PS5でPS4版スパイディの続編、しかもマイルスサイド出ると知ってテンション爆上がりング!PS5買う決心が付きましたよホント。
MARVEL UNIVERSE VARIANTのアイアンマンのフィギュア超カッコええ……