刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
地を照らす月を流れていく雲が隠していく最中、既に戦場と化した折神家敷地の砂利の庭にて侵入者兼テロリスト舞草の残党を倒すべく凶刃を振るう親衛隊第4席燕結芽。
そして、その神童を相手に足止めを担うスパイダーマン。
先程のグリーンゴブリンとの激しい戦闘により、折神邸の敷地にある建造物に深刻なダメージが散見されており、グリーンゴブリンの蹴りの威力でぶち抜かれた壁の破片や瓦礫、パンプキンボムの爆撃に巻き込まれて建造物の残骸があちこちに散らばっているなどその凄まじさを物語っている。
日本を、隣人達を守る為に立ち上がるスパイダーマン。
親衛隊の務めとして自身の主人である紫を国に刃向かうテロリストから守り、自身の強さを証明する為に立ち塞がる結芽。
互いに一歩も退かない両者の睨み合いの末最初に仕掛けて来たのは結芽の方だった。
「あっそ………じゃあ、やってみなよ!」
迅移による高速移動で十数メートルは離れていた距離から一瞬でスパイダーマンに向けて加速してすぐ様視界から消え失せた。
(ヤバい!先手を取られた……っ!真っ向からの純粋な剣の腕前じゃ絶対勝てないのは僕が一番よく知ってる……でも、あの2人から逃げてここまで来るのに時間が掛かったっていうなら何処かに付け入る隙が?なら、僕も何か別の方法で行かないと!)
だが、以前のスパイダーマンのままならば棒立ちのまま叩き伏せられていたか、あるいは下手に動き回りそのまま相手のペースに持ち込まれていたであろうが今は違う。一瞬焦ったが手に持つヴィブラニウムブレードを下段に構え、膝を軽く曲げる。しかし、一歩も動かずにどっしりと構えたまま結芽の攻撃を待つ。
先手を取られた上に相手がどう仕掛けて来るか分からない。尚且つ真っ正面から闘り合うにせよ実力差があり過ぎる相手だ。そんな相手に真っ向から勝負のみを仕掛けるのは完全に無謀、圧倒的に不利と言えるだろう。
実際に舞草の里の精鋭たちが瞬殺されてしまった程だ。だが、彼女の足止めを担った型にハマらずコンビネーションに特化しているエレンと薫を撒いてここまで来るのに移動時間も込みだが自分がグリーンゴブリンを倒す程の時間まで掛かったという事はコンビネーションプレーによる足止め、尚且つ御刀を投擲して透明化したねねにキャッチさせた後に投げ渡すという独特な戦法も可能な薫。剣だけで無く格闘術も取り入れるという柔軟な発想力を持つエレンの型破りな戦法には戸惑ったからでは無いかと考えた。
前回自分が彼女の不意を付けたのも、スーツの力もあるが発想を変えた攻めに転じた事も一つのヒントとして繋がっていく。
ーーこれは彼女が正面からのぶつかり合いならば強い生粋の剣士であるが故、下手な小細工は何度も通用はしないが予想外の攻撃には最初から全て対応できる訳ではない可能性に賭けてみる価値はあるのかも知れない。
そして、ここに来てキャプテンに言われていたことが思考の海の中に流れ込んで来る。
『いいか、坊や。戦いで重要なのは単純な身体的スペックの差だけじゃ無い。技術や経験、それでいて如何に自分が戦いやすい状況を作り出す創意工夫が必要なんだ』
彼は例え相手がどれだけ格上で圧倒的スペックの差があったとしても自分の状況を悲観したりせずに技術と経験を培い、常に戦闘では創意工夫を強いられて来たキャプテンから受けた言葉を思い出すと自分も切り口を変えてみることにした。
何も正面からのぶつかり合いばかりに拘る必要はない。自分らしく臨機応変に相手に立ち向かえばいい、という結論に至るとここ数日の特訓で培った物を発揮する時だと感じて更に極限の集中状態へとシフトする。
(必ず付け入る隙はある筈だ。僕は僕のやり方でコイツを止める!)
闇雲に動き回るよりも最小限の動きのみで結芽の攻撃に対応し、キャプテンから教わった相手の利点を潰し、如何にして自分に有利な状況に持っていくかを実践しようとしている。
(……スパイダーセンスが強く反応する場所………)
「ははは!終わりぃっ!」
全身からビリビリとした感覚が伝わって来る最中、特にスパイダーセンスの反応が強い場所を感覚で探り当てて行く。
どんな危険かは具体的に教えてくれない不親切且つ、自分の意思に関係無く発動する私生活では地味にうざったい力ではあるが相手が所持している武器や能力が分かればそこからある程度は想像し、対処できる代物だ。
何より、ここ数日目隠しでリパルサー・レイを回避する訓練を行なっていたためか反応の正確性は以前よりも上がっていることは確かな筈だ……危険がジリジリとこちらに近づいて来る。最も反応が強い場所……右斜め上方向からの攻撃と感知する。
「ここだ!」
結芽が身動き一つ取らないスパイダーマン相手にニッカリ青江を上段から振り下ろそうとした矢先にスパイダーマンはすかさず相手の間合いとニッカリ青江のリーチ……おおよそ1尺9寸9分位だったなと思い出す。そこから振り下ろす速度、相手が自身を叩っ斬るのに必要な間合いを逆算して攻撃が来る方向に向けてヴィブラニウムブレードを両手持ちに切り替えて下段の構えから一気に振り上げる。
「なっ……!」
上段からの振り下ろしでニッカリ青江を振る寸前、ヴィブラニウムブレードの一閃がそれを遮り、金属と金属がぶつかり合った音が響く。そして、力が乗り切らない状態となってしまった結芽の腕力では力負けして弾かれてしまった。
(私が攻撃する前に反応した……っ!)
結芽はスパイダーマンの腕力に負けて空中に打ち上げれながらも思案する。相手がいくら格下とは言え流石に一撃で倒し切れるとは思ってはいなかったが自分が攻撃するよりも先に反応して来たスパイダーマンの反射神経と間合いを把握して的確に防いで来る空間把握能力には驚いてしまった。
以前から攻撃が中々当たらない、反射神経が良かったな程度に思っていたが感知することに集中していたとは言えその精度が以前とは比べ物にならない程早くて的確だ。
(落ち着け私、こんな奴のために使ってる時間は無い。さっさとおにーさんのお礼参りして千鳥のおねーさんと戦わなきゃいけないのに!)
だが、悠長に驚いている時間は自分にはない。残された身体のタイムリミットは長くないことは自分が一番よく知っている。1秒の時間も無駄にできない以上、すぐに切り替えることにした。
(何度も同じ手が通じる奴じゃ無い、仕掛けるなら……)
「今だ!」
ヴィブラニウムブレードを振り抜いた直後にスパイダーマンはヴィブラニウムブレードの柄から左手を離して掌を結芽がいる上空へ向けてウェブシューターのスイッチを連続で押し、結芽に牽制を仕掛ける。
アイアンマンのリパルサーでも無い限り空中では急な方向転換が出来ない以上、ウェブによる追撃は驚異の筈だからだ。
「うっそ!このぉ!」
直後に結芽の視界にウェブの連続射出による追撃が迫って来ていた。
嫌らしいことに、全てタイミングを微妙にズラすことで結芽の対応するために思考する時間を狭めつつ着弾地点を全て変えることで対応を困難にさせる。空中では自由に受け身が取れない最中、微妙にタイミングと位置をズラした遠距離攻撃に対応するのは至難の業だ。一つでも命中すればこちらのペースを崩されかねない。
だが、結芽は即座にウェブの位置と軌道、ニッカリ青江のリーチを鑑みてどの攻撃から対処すればいいかを判断すると身体を宙で捻りながらウェブを回避しつつ飛んで来るウェブをニッカリ青江の刃に当てて両断することで回避する。
だが、スパイダーマンもそれだけでは無い。結芽がウェブを切り払って防ぐであろうことは容易に想像できているため、結芽がウェブを空中で斬り払って防いでいる隙に出力を超高出力に設定した電気ショックウェブを放ち、すぐにダッシュで結芽の死角まで移動する。
ニッカリ青江の刀身がウェブを切断した矢先、顔を正面に向けたがスパイダーマンの姿が見えない。
「…………いないっ!?チッ!」
どこかに隠れたのか?と見渡すがどこにも見えない。死角に移動された事を察した結芽だが既に眼前には別の物が迫っていた。
この夜間の空間の中で異彩を放つ蒼白い電撃を浴びた電気ショックウェブだった。以前電気ショックウェブを直接受けた事がある結芽はそれは避けなければならないという事を思い出すが空中では自由に動けずウェブを防ぐために激しく動いた後で回避する余裕もない。
なら、打ち払えば?とも思うがそうは行かない。自分の得物であるニッカリ青江も所詮は金属である以上電気は通してしまう。
「だったら…………!」
どう足掻いても避けられ無い以上、最悪写シ1回分は犠牲にする覚悟を決めて電気ショックウェブの直撃を受ける。着弾と同時に一瞬だが全身の神経網を伝って電気ショックが全身に走り、細胞をバチバチと強く刺激するようなダメージを受ける。
射出されていることで電流の持続力は無いものの電力をリアクター由来に変換し、パラディンを一撃でショートさせる威力へと昇華しているためか一発ごとの威力はハイテクスーツをも凌駕しているように感じられた。
「凸凹なおねーさん達みたいなナメた戦い方をっ!」
そして、結芽が電気ショックを受けて動きが止まっててしまっている隙に背後で何かを振り回すような音、そして余程強く振り回しているのか突風が発生しているように感じて首だけを動かして確認するとスパイダーマンが自身の全長の数倍の大きさはあるグリーンゴブリンとの戦闘の余波で破壊された建造物の残骸にウェブを貼り付け、それを両手で掴んでハンマー投げの要領で軽々と振り回していた。
「無茶苦茶するねおにーさん!」
「無茶苦茶な奴相手には無茶苦茶なやり方で行かないとね!おらよっ!」
スパイダーマンは加速と力が充分に加わった事を実感すると電気ショックウェブの直撃により隙が出来てしまっている結芽に対し、容赦なく建造物の残骸をハンマー投げの投擲の要領でウェブから手を離して投げ付ける。
スパイダーマンの手から離れた残骸が結芽に向けて一直線に加速しながら襲いかかって来る。
「間に合わない!」
電気ショックによる感電でほんの少しの間だが動きを止められてしまっていた結芽。残骸はスパイダーマンだけでなく自身の全長さえも凌駕する大きさだ。面積からして走って回避することは難しいだろう。なら、八幡力を乗せた一撃で、とも考えたがニッカリ青江を振り抜いている時間は無い。
ならばニッカリ青江を振るよりも早い、防御手段を選ぶとしたこの手に限るだろう。
「っ!…金剛身!」
結芽は残骸が直撃する前に金剛身を発動し、身体の硬度を上げることで自身よりも巨大な残骸の直撃を受けると残骸は木っ端微塵に粉砕され、地響きと強い衝撃が響き渡る。
スパイダーマンが高速回転を加えた事による遠心力と速度が加わったことによる衝撃と力による大ダメージを金剛身によって軽減することには成功したが地面に叩き付けられた残骸により庭に撒かれていた砂利が砂煙となって舞い上がる。
「ゴホッ……ゴホッ……いったいなぁ!」
舞い上がった砂塵が白い霧のように辺り一面を覆い隠していることによって、周囲を見渡してもスパイダーマンがどこにいるのか分かりにくくなっている。
この視界が悪い最中、どこから攻撃が来るのか分からないというのは脅威と言える。
無論、自分を倒すつもりならば向こうも今この瞬間を逃しはしないだろう。
だが、言い換えれば例え姿が見えなくとも攻撃が来た方向に必ず奴はいる。そこから奴の位置を割り出してやれば良い。そう考えると視界が晴れるまで結芽は防御の構えを取ったままスパイダーマンの出方を待つ。
「チョロチョロチョロチョロ蜘蛛みたいに……セコいおにーさんらしいねほんっと」
結芽の挑発的な問いかけに対してスパイダーマンは何も応えない。応えれば声のする方向で居場所がバレてしまうからだろう。
結芽としてもまぁ、応えはしないだろうとは思っていたがやはり何も返されないと自身の存在を無視されているようでそれはそれで腹立たしさを感じる。
直後、カチッ!という何かを押したかのような音が背後から聞こえて来る。恐らくウェブシューターのスイッチを押した音だと反応し、背後から飛んで来るウェブを頭を軽く横に動かすことで回避しながら一気にその方向に向けて迅移で加速しながら突進する。
「そこだね!おにーさんっ!」
そのまま流れるように鞘に手を掛けてニッカリ青江を振り抜きながら斬りかかり、一閃する……っ!
「何!?」
………だが、結芽はすぐに鞘走るのを止め、急いで急停止する。
結芽の眼前にあったのはスパイダーマンではなく枝にウェブシューターのみをを巻きつけた樹木だけだった。
先程結芽に向けてウェブを放ったのは枝に括り付けられたウェブシューター。スパイダーマンは本来いる筈の場所にはいないことに困惑してしまった。
しかし、ウェブシューターの方をチラリと見るとスイッチの先端に長く伸びきっているウェブが繋がっていることが確認できた。
結芽が思考を巡らせていると足元に何かが貼り付いたような感触を察知し、足元に視線を移すと自身の足首の付け根の辺りにウェブが張り付いている。
その糸が続く先に視線を向けると右手のみにウェブシューターを装備し、ウェブを手に持っているスパイダーマンの姿だ。
「はぁっ!」
「ぐっ!」
スパイダーマンは結芽に何かしらのアクションを行う暇すら与えないかの如く思い切りウェブを自分の後ろに向けて力強く引っ張る。
すると、結芽右足が宙へと引っ張られてしまい、姿勢を崩し、背中から転倒してしまう。
「うおおおおおお!」
そして結芽が転倒している瞬間を見逃さないスパイダーマンはダッシュで接近しながらヴィブラニウムブレードを思い切り後方へ振り被る。
起き上がったばかりの結芽は何とか力を振り絞って横薙ぎに一閃するがそれを軽い跳躍でスケート選手ばりの回転で身体を捻りながら回避して初めに左脚をからの突き出すような蹴り、続け様に右脚で結芽の背中に連続で蹴りを入れる。
背中に蹴りがクリーンヒットした痛みを痛感している間にスパイダーマンは着地と同時に姿勢を低くして滑り込み、一回転しながらヴィブラニウムブレードを思い切り振り抜いて結芽の鳩尾に叩き付ける。
「当たれ!」
ヴィブラニウムブレードの刀身が鳩尾にめり込むと全身に落雷でも落ちたかの様な強い衝撃が伝わり、素で痛みに驚いた声を上げてしまう。
切断能力は無くなっているが代わりに打撃武器としてはかなり強力な硬度を誇る一撃をモロに受けたため、かなりのダメージが入ってしまった。
「ぐあっ!」
全力で叩き付けられた為か、パワータイプの薫の一撃には遠く及ばないものの怪力による打撃が精神ダメージにも反映された事で写シを剥がされ後方まで飛ばされてながらも一回転して着地する。だが、鳩尾に強烈な一撃を受けたためか肩で息をしながら膝を着いてしまう。
結芽の頭の中では散々雑魚と見下していたスパイダーマンに真っ向勝負ではなく、想定外な手段とは言え地に膝を着かされたことに腹が立ってしまい、眼前にいるスパイダーマンを力強く睨み付ける力に憎悪と苛立ちが篭る。
だが、苛立ちつつも結芽はスパイダーマンの取っていた行動を脳内で整理する。
どうやら先程背後から残骸を結芽に向けて投げ付けた後に左手のウェブシューターを外して結芽の方に向ける形にして木の枝に巻きつけ、右手のスイッチからウェブを長く出しつつ巻き付けたシューターのスイッチに貼り付けて移動すしたのだろう。それでいて残骸を投げ付けた本当の目的は結芽を倒すためではなく、巨大な残骸を彼女の眼前に投げ付けたことにより視界を塞ぎ、叩きつけた際に起きる轟音と砂煙で移動した場所を分かりにくくする目的があったようだ。
そして結芽の視界が土煙で塞がれて膠着状態になっていることを理解するとすぐ様旋回して、再度死角に隠れて手に持っているウェブをすぐ様引っ張ることで巻き付けたウェブシューターのスイッチを押し、結芽の背後から攻撃を仕掛けたように見せる。
だが、これはあくまで囮。結芽の得物が近接武器である以上リーチの都合上接近戦しか出来ないため敵の姿を探すなら直接移動して探すか、遠距離攻撃の来た方向から敵の位置を割り出すしか無い。
結芽はウェブが飛んできた方向に敵がいると信じてその方向へ向かったがその先にスパイダーマンはおらず、戸惑っている隙に剣士の踏ん張る際の重心の要と言っても過言では無い足元を狙ってウェブを当て、思い切り姿勢を崩すことで自分が攻め込みやすい状況を作り出して攻撃を仕掛け、自分に一発かましたのだ。
思ったよりも単純なプロセスだったが、基本的に一対一。正面からの真っ向勝負が基本の自分にとってこのような小賢しい手段が相手となると初見は戸惑ってしまう。そこを突かれて一発お見舞いされた。
この結果は間違いなく、スパイダーマンは初めてスーツの力だけで無く、単なるラッキーだけでも無い。自分の力で結芽に一発かましてやったと言える筈だ。
「弱い癖に……っ!あの着ぐるみを着てなきゃ私を追い込めないクセにっ!」
「スーツ無しじゃダメならスーツを着る資格は無いらしいからね。スーツが無くても戦える強さを、色んな人から受け取ってるんだ。だから、スーツ無しでも君に勝つ!僕のやり方で!」
結芽は未だにこの自分に一矢を報いたにも関わらずにスパイダーマンが慢心せずにまだこちらを赤一色のマスクにくっ付けた白い目のゴーグル越しに睨みつけているのを感じる。
その声色は未だに上擦り、少し震えている。結芽に対する恐怖心や苦手意識は抜け切ってはいないがそれでも力強い、それでいてしっかりとした芯を感じる。
グリーンゴブリンを相手にただの布でしかないハンドメイドスーツ、おまけにタイマンで勝負を制している事から以前とは比べ物にはならない程実力が上がっていることは事実だが、自分から見れば格下の相手なのは事実な筈だ。
だが、コイツは真っ向勝負ではなく自身のアイデンティティを活用し、切り口を変えて正攻法とは言えない手段でも自分に向かって来る。
そこまでしなければ自分に追い付けないのは事実だろうが、それが見事にハマり自分はコイツに膝を着かされた。
それは恥ずべき事実。戦場での失態は戦場でしか取り戻せない。認めよう、コイツはもうスーツ無しでも自分と戦える立派な強敵だ。
「それでも……っ!」
……それと同時に尚更コイツには負けられないという負けん気が湧き上がって来た。確かに強くなったのは事実だがコイツはいつだって他人から与えられてばかりいるような奴だからだ。
トニーからはハイテクなスーツとヴィブラニウムブレードとヒーローとしての在り方、キャプテンからは戦う術と心得。恐らくこの力だって何かしらの偶然で手に入れた物なのだろう。
そして、何より以前に栄人との会話でチラりと聞いた両親が亡くなっているにも関わらず、引き取って育ててくれた叔父夫婦から受け取った愛。
どれもこれもノロによる生命維持以外は自分の力と御刀で戦ってきた自分にとっては無用と切り捨てて来た産物。
自身が両親から見捨てられ、誰もが見舞いに来なくなる程自分を気に掛けなくなってから最も欲しかった物をコイツは無条件で手に入れている。そんなぬるま湯に浸かって、幸せな世界でぬくぬくと生きているような奴に簡単に負けることはプライドが許さない。
そして何より、コイツは例え残りの命が少なくとも自分を愛してくれた人をぶちのめしたのだ。負けられない理由としては充分だ。
「私は負けない………っ!誰にも!」
直後にスパイダーマンを強く憎々しげに睨みつけるとまたしても心臓を強く握り潰されるような痛みが走る。迎えに来た死神の手が結芽の心臓を掴み、既に持って行こうとしている前触れなのかも知れない。
「ぐっ……!ゲホッ!ゲホッ!」
「お、おい!大丈夫!?」
咳き込むと同時に胸の辺りを手で強く押さえると頭を思い切り下に向けたまま、地に向けて思い切り血を叩きつけるように吐き棄てる。
「ぐおおおおあああああああああ!」
「これは………伊豆での時の!」
直後苦しみ出した結芽の瞳が深紅に光り、身体から赤黒い焔のような熱が吹き出し、その風に当てられて周囲の木々の葉が力強く揺れている。
スパイダーマンは咄嗟に両腕を交差して熱から身体を庇いつつ以前に伊豆の山中で夜見がアンプルの過剰投与で身体とノロとのバランスが取れなくなっていたことを思い出していた。それだけでなく親衛隊は皆、体内に荒魂を入れているという話を聞いているため、マズい事が起きるかも知れないと感じている。
「よせ!それ以上は危険だ!」
「私に指図するな……っ!お前も出てくるなっ!お前の力に頼ったら私の負けなんだよ!」
スパイダーマンが結芽を心配して声を荒げるが結芽はそんな静止も聞かずに、痛みに耐えながら、宿主の身体の危機を自身の危機と感知して自己防衛の為かまたはスパイダーマンを倒そうという結芽の想いに応える為に発現したのか分からない体内にいる荒魂に向けて声を荒げなから束で自分の頭を殴りながら怒号をあげる。
宿主に怒鳴られた事が堪えたのか先程まで吹き出していた赤黒い熱波は収まり、結芽の瞳の色も鮮血のような深紅から普段の色へと戻っている。
「………………」
荒くて粗暴な言葉遣いに驚いてしまったがスパイダーマンは今の現象で一つ感じた事がある。以前の戦闘の際、戦闘中に突如苦しみ出して動きが鈍り電気ショックを流す隙が出来た瞬間の事を思い出していた。
ここ最近は結芽が余裕の状態で戦っていたため、記憶から抜け落ちていたがあの時に感じていた違和感が今になって嫌な予感となってスパイダーマンに乗し掛かる。おまけに彼女が咳き込んで吐血する姿を見たのだからそれが確信へと近づいて行く。
もしかしたらこの娘は………
「もしかして君は…………ずっと、限界が近いまま戦っていたって言うの?」
「………………………っ!?」
敵に知られたくないことを悟られた為か、結芽は悔しげに歯を食いしばってスパイダーマンから視線を逸して顔を伏せる。
自分は強い剣士としてスパイダーマンを倒したい。だが、敵には極力見せないようにしていた自分の弱みを知られ、そこに踏み込まれたような気がして思わず不遜な態度を取ってしまう。
「何?じゃあ私が健康で万全じゃ無きゃ戦う価値も無いって言いたいの?」
「違う!君が心配だからだ!君は確かに敵だし嫌な奴だけど、目の前で苦しんでる姿を見たら心配になるよ!あんなに血も吐いてて………これ以上やったら君は……っ!」
「分かってるよそんなの!」
スパイダーマンの言葉を遮る様な結芽の剣幕に押されて黙ってしまった。彼女は伏せていた顔をこちらに向け、顔色はまだ健康的に見えるが口元からは紅い鮮血が滴り落ちている。その表情からは生きることからの諦めは伝わって来るがその瞳の奥からは闘志だけは消える事はないように見える。
「自分の事は自分が一番分かってるよ……多分、今夜が最後になるって事だって」
「そんな……だからって命を粗末になんて……君が死んだら悲しむ人だっている筈だろ…?」
スパイダーマンは結芽の事情を知らない。彼女が残り少ない命だとしても命の灯火を燃やしてこの戦いに臨んでいることは理解できた。
だが、どうしても引っ掛かる。何故そこまで命を粗末にするようなやり方をしてまで戦い抜こうとするのか、栄人同様舞草を国家転覆を企む危険な反乱分子とし、今の紫によって作られた管理局による表面上は平和な日本を守るという保守派の考え方のもと自分たちを排しようとしているのか、それとも紫への純粋な忠誠心からなのか。イマイチ理由にピンと来ないのである。
「………いるよ、最後に出来たって感じだけどね。だけど、おにーさんみたく家族や友達……いや、本当なら皆から愛されてる人には分かんないだろうね。強くなきゃ、特別じゃ無きゃ認めて貰えない、忘れられてく人間の気持ちなんて」
結芽の口から放たれる重たい言葉の一言一言が自分にのし掛かる。自分の両親が亡くなった後、引き取ってくれた叔父夫婦から沢山の無償の愛情を注がれて育って来たこと、今の自分を形作ってくれた隣人達のおかげで力を得た後でも彼らを守るために立ち上がって来れたという事も。だが、裏を返せばそれは人間関係に恵まれた奴だからこそ行き着く物なのかも知れない。
結芽の寂しげにポツリポツリと話す姿に何も言えなくなってしまった。
「…………」
「私がこの不治の病気になって、身体を動かすことすら出来なくなった時両親は私を見限って見舞いにすら来なくなった。だけどそんな私に紫様はチャンスをくれた!少しの間でも輝いて私を忘れた奴らに私の存在を刻み込んでやるんだって」
彼女の両親は自分の両親と違って生きている。彼女の両親が見ていた物は結芽という個人ではなく、強い刀使としての彼女でありそうで無くなったから興味が無くなったのか、本当は弱って行く娘を見るのが辛くて現実から逃げてしまったのかは分からないがそんな状況に陥ったら誰だって心を病んでしまうのかも知れない。
彼女が不遜な態度を取りながらも、戦い続けているのは誰かに強い自分を焼き付けたいからという願いから来ているのだという事は理解できた。
「私は今日までその為に戦って来た。今更その生き方を変えるつもりは無い……例えここで朽ち果てたとしても私は自分の証明のために最後まで戦い続ける。ハリーおにーさんはそんな私の願いを尊重してくれた……本当は止めたい筈なのに私の最後の願いを肯定してくれたんだ。だから私は退かない……おにーさん達を倒す!」
栄人は彼女の真実を知りながらも彼女のこれまでの戦いや願いを否定せずに、辛いながらも尊重することを選んだのだろう。彼女自身もそれが辛い決断であったことは理解しつつも退くことはしないらしい。この強烈な自我は変えようが無い。きっと死ぬまで戦い続け、自分たちの行く手を阻むだろう。
「さぁ、私を千鳥のおねーさんの元へ行かせたくないなら剣を握れ!私の病気を言い訳にして手を抜くなら許さない!」
スパイダーマンは彼女の力強い眼力と気迫に押されてしまうが、唇を噛みながらもしっかりと前を見据える。
彼女の真実を知り、彼女なりの事情があったことは理解できた。だが、彼女だけのせいでは無いが彼女が舞草に行ったことは手放しで肯定したくない自分がいる。
そして、自分が今ここに来ている理由を思い出してみろ。彼女達が守ろうとしているタギツヒメが完全復活を果たしてしまったら日本中の人間が、自分の家族や友達が死ぬ。それを阻止するためにここに来たんじゃないのか?
同じ目的を持ってここまで送り出してくれた皆が命を懸けて作り出してくれたこの状況をぶち壊す目の前にいるジョーカーをみすみす見逃してしまったら全てが水泡に帰してしまう。
だから、絶対に今、彼女と対峙している自分が止めなければならない。だが……もし、自分と戦ったら彼女の寿命はもう……。
本当に倒すべき敵は人間に憑依した荒魂タギツヒメだけ。人間同士で争っている場合では無い上に決して人間は討たずに、極力相手を傷つけないようにこれまで戦っていたがそれが通用しない現実が重荷となって伸し掛かる。
自分たちの目的のため、どんなお題目があろうと邪魔な物を壊し、他人の命を好き勝手に握る権利があって良いわけがないと自分に問いかけ続けながらもスパイダーマンは決心してヴィブラニウムブレードを構える。
「クソッ……やるしかないのか……っ!」
舞草の一員として、スパイダーマンとして結芽を止める。祭壇にいる最大戦力の可奈美達には一歩も近付けさせない。皆の想いと命を背負っているという当たり前の事実から眼を逸らさずに彼女と戦うことを選ぶ。同時に心臓を握り潰されるような拭えない心労を抱えながらも堪えて彼女を睨み付ける。
「最後に一つだけ謝っとくよ……ごめんね、付き合わせて」
自身と戦うことを選び、ヴィブラニウムブレードを構えたスパイダーマンの瞳をしっかりと見つめ、倒すべき敵と再認識してニッカリ青江を構える。
ーーそうだ、それでいい。お前はお前のやることを貫いて見せろ。こちらの寿命の事なんて気にするな。誰と会い見えようとも遅かれ速かれこうなってたかも知れないんだ、それがたまたまお前だったというだけの話だ。病気と成りを理由に手を抜くことこそ私に対する最大の侮辱だ。
だから迷わずに戦え、親愛なる隣人よ。
結芽の謝罪……その表情はどこか悲しげで今日まで相手を討たないと決め、この力を人助けのために使って来たのに今は望まない形で力を使わせてしまうことへの謝罪なのかスパイダーマンには完全には理解しきることは出来ずとも言いたいことは伝わった。
「………来い!」
「いくよ、おにーさん!」
2人の立ち姿を月明かりが照らす中地を強く蹴り上げた瞬間、再戦の合図となる。
………そして、その2人の戦いの火蓋が切って落とされるその光景を木陰の中で既に虫の息となり、芋虫のように地に這いつくばりながらも生を求める体組織の大半が焼け焦げたコールタール状の黒い液体は静かに見守っていた。まるで何かの機会を伺っているかのように……。
スパイダーセンスで相手からの攻撃が来ることを予測し、結芽が加速するよりも先に地を力強く蹴り、踏み込む。
確かに正攻法での勝ち目は薄いが同じ手が何度も通用する相手でも無い。搦手を用意しようにも向こうはそれを必ず警戒してそれらを用意して考える時間すら与えない連続攻撃が来るだろう。
ならば、スパイダーセンスで相手の動きを読み、予測して先取りからの猛攻撃を仕掛け、自分のペースに持ち込んだ方がまだ勝率があると言う考えに至った。
結芽が地を蹴るよりも速くスパイダーマンはダッシュの速さのみで結芽に接近し、姿勢を低くしながら突進を仕掛ける。
「速い………っ!」
結芽は自分から仕掛けようと思っていた矢先に先手を取られてしまい、攻めではなくすぐに迎撃に切り替えて上段からの振り下ろしで対応しようとする。
だが、スパイダーマンはそれを軽く身体を捻りながらジャンプする事で回避して結芽に回し蹴りを入れる。
「はぁっ!」
「ふんっ!」
結芽の方も肩に回し蹴りの直撃を受けたが咄嗟に金剛身でガードすることに成功するも威力に押されて足が地面を引き摺りながら押し飛ばされる。
結芽が押し飛ばされた矢先に足元に向けてウェブを連続で放って来るがそれは何度も牽制として放たれる一撃である事は理解している。
「それはもう見てるんだけど!」
その次に何か仕掛けてくることは察知できた為、その場から動かずに微かに身体を逸らすのみの動きで対処すると今度は深緑色の刀身をした日本刀が投げ付けられた。
「ちっ!おにーさんを武器を私に投げるなんて……超ムカつくね」
グリーンゴブリンが使っていた武器だった。恐らくまだそこらに転がっていた物であることは理解出来たが驚くことじゃ無い。アイツは生粋の剣士では無いが故にこのような手段も平然と取ってくるのは何度も見ている。
「はぁっ!」
「甘い!」
結芽がグリーンゴブリンの日本刀をニッカリ青江を横に振って弾き飛ばすと同時にスパイダーマンが死角に回り込みながらヴィブラニウムブレードによる横薙ぎの一閃を放って来るがそれをノールックのまま束をその方向に突き出す事で防ぐ。
掌に強い衝撃が伝わるがその痛みを意にも介さずにそのまま受け流すと返す刃でスパイダーマンに斬りかかるとスパイダーマンの右の肩口を裂き、傷口を作って地面に鮮血が撒かれる。
(やっぱり御刀からのダメージは他の武器より痛いな……だけど!)
「負けられないんだよ!」
やはり御刀からのダメージは通常の武器よりも若干痛いダメージが入るような感覚に陥りながらもスパイダーマンは怯まずに再度結芽に向けてヴィブラニウムブレードを振り下ろすがそれをワンテンポ遅いながらも的確に返され、何度も激しくお互いの力のこもった剣劇をぶつけまくる。
ニッカリ青江とヴィブラニウムブレードが力強くぶつかる最中、火花が飛び散り、ニッカリ青江の刃が微かにスパイダーマンの身体に細かい切り傷を付けて行き、血が飛んでいく。必死に食いついているが結芽には一発も当てることが出来ていない状況だ。
「小細工は終わりにしてもらおうかな!」
「うあっ!」
結芽はスパイダーマンの振り下ろし防ぎ、そのままニッカリ青江の刀身をくるりと回して受け流すとそのまま流れるようにがニッカリ青江の先端が右手に装備されているウェブシューターに当てる。しかし……
「まぶし……っ!」
「今だ!」
内蔵されていた小型リアクターがニッカリ青江の切っ先とぶつかったことにより裂けて眩しいフラッシュが走り、結芽がその発光に驚いて一瞬眼を瞑ってしまった。右手のウェブシューターはリアクターを裂かれてもう使用は出来ないだろう。その証拠に内蔵されていたウェブのカートリッジが溶けて流れている。
「うおああああああああああ!」
だが、この機を逃すなとばかりにスパイダーマンも怒涛の攻めを展開する。
決して大振りにはならないようにしながらも力強く、結芽に向けて上段からヴィブラニウムブレードを振り下ろす。
「あっぶない……なぁ!」
だが、流石は神童と言うべきかワンテンポ遅れながらもニッカリ青江の刀身で受け止めながら相手の力を利用して受け流し、再度攻め込む。
そして、こうして打ち合っていく最中自分のタイムリミットが限りなく近付いていくのを感じられ、またしても心臓が力強く握り潰されるような痛みが走るがそれを歯を食いしばることで耐えている。
(おかしいな……何でおにーさんは止まらないの?何で力が衰えないの?私の剣を受け続けてるのに)
だが、スパイダーマンと……いや、スパイダーマンが持っている武器と打ち合っているとある違和感を感じる。
自分は八幡力を発動してニッカリ青江を振るうことで、ヴィブラニウムブレードからの斬撃をいなしているが相手の力が一向に衰える気配が無いという事だ。
お互いに同程度の怪力を発揮して剣同士でぶつ合えば手に伝わる衝撃で掌に痺れが生じることで握る力は弱まって行く物である。
なのにスパイダーマンが振るう一撃一撃は一向に力が衰えない。それでいてこちらは何とか上手いこといなしているといえこれだけでは決め手にならない。
これも、ヴィブラニウムの衝撃を吸収して大幅に軽減する特性上、いくら打ち合っても向こうのパワーが衝撃による痺れで落ちる事がない為である。
このままでは打ち合っている内にこちらの身体に限界が来てしまう……コイツを倒すには今のままでは不足らしい。
ならば……自分の出せる最大の一撃必殺でコイツを倒す。それしか方法は無いらしい。
(ごめんね……おにーさん。でも、私は負けない!)
結芽は一瞬だけ森林の方で未だに気絶している栄人の方をチラリと見た後に、スパイダーマンの上段からの振りを受け流すとそのまま腹部に蹴りを入れる。
彼の友人を倒してしまうことへの謝罪、そして彼を残して先に逝ってしまうかも知れないことへの謝罪だ。
「ぐっ!」
「はぁああああああ………っ!」
スパイダーマンが腹部に蹴りを入れられた事で後方に移動されると結芽はニッカリ青江を突きの構えを取ると息を潜めて意識を研ぎ澄ませる。
この技は初手を外せば隙が生じる死に技。本来突きとは一度放てば次の一撃を放つのに時間が掛かり、反撃されたら防御の暇もなく倒されてしまう。
(絶対にこの攻撃でおにーさんを倒す!)
だが、必ずこの攻撃で相手を倒し切るのだと言う意思を込めてスパイダーマンを強く睨み付けると結芽の足は強く地を蹴って駆け出す。
一つの音を相手が聞いた瞬間、相手には3つの突きが入っていると言われている天然理心流の奥義三段付きだ。
(来る……っ!あの技だ!あの子は必ずこの一撃から本気で僕を倒し切りに来る……絶対にそれを防いで反撃するんだ!)
着地と同時にスパイダーセンスが発動し、結芽が突きの構えを取ってこちらに向けて突っ込んで来る姿が目に入った。
どうやらあの三段の突きが来る、そしてこの距離からならば回避は恐らく不可能だろうと理解してヴィブラニウムブレードを正眼に構えて防御の姿勢を取る。そして、スパイダーセンスでどこから攻めて来るのかを予測して攻撃に備える。初手の一撃を防げればこちらにも勝機があると考えたからだ。
……直後に結芽が間合いに入り、眼前に現れるとスパイダーマンの胸の辺りに向けて突きを繰り出して来た。
(絶対に最初の一撃を防ぐんだ!)
その直前にスパイダーマンは自分の心臓辺りから強くスパイダーセンスの反応を感知すると刹那の間に思考する。相手は一流の剣士。プライドが異様に高く、自分の剣技に絶対的な自信を持っている。
もし、このリスクのある大技を使うと言うのなら必ず自分の様な格下相手だとしても必ずこの重要な一撃を当て、確実に自分を倒しに来るだろうと確信し、結芽の突きが自身の心臓を穿つ前にヴィブラニウムブレードを防御の姿勢で構える。
スパイダーセンスの感知した通り結芽は自身の心臓の辺りを狙って来た。結芽の突きをヴィブラニウムブレードで刀身で防御しようと振り抜こうとするがその寸前、結芽はニッカリ青江の突きを途中で引き戻して、スパイダーマンの防御のタイミングをズラした。
「なっ……!」
「これで最後だ!」
その隙に再度腕を引き戻し、スパイダーマンの左肩にニッカリ青江を思い切り二回連続で同じ場所を突き刺す。
ニッカリ青江の先端はスパイダーマンのハンドメイドスーツの表面に押し込まれて行く。その硬さは常人から逸脱しており、咄嗟に八幡力の段階を上げないと貫くことすら難しいと思わせる程彼の肉体は堅固であったが、突き刺したニッカリ青江は肉を突き破って貫通するとスパイダーマンの背中からニッカリ青江が突き出すような形になる。
「ぐあっ!」
スパイダーマンが自身の肩を貫いているニッカリ青江によるダメージを受け、痛みにより力が入らなくなった左手に持っていたヴィブラニウムブレードを落とすと転げ落ちる金属音が響き渡る。
結芽の視点から見ればスパイダーセンスがある以上自分の攻撃に対して素早く反応されてしまうため、単純な長期戦で倒し切るのは難しい。だが、スパイダーマンと戦う中で相手の行動を把握して行く内に相手は必ず自分の三段突きは必ず警戒して来るのではないかと考え、自分がこの技を使う時相手は必ず確実に倒しに来るため防がれれば全てが崩れる最初の一撃を必ず予知して全力で防いで来るだろう。
かなり賭けの要素はあったが相手が、結芽が強い剣士としてこの攻撃で確実に倒しに来ると言うことを信頼してくれたことが功を奏したと言えるだろう。
(よし!決まった……えっ?嘘っ……!?)
結芽の方も相手を殺さないようにしていたが確かな手応えを感じ、ニッカリ青江の取手を握ったままスパイダーマンに突き刺していたのだが突如として右腕を万力のような力で掴まれる。
「ぐっ………何て力……っ!」
スパイダーマンの左手でだった。突き刺したまではいいが逆に言えば相手に掴まれる距離まで近付いてしまっていたと言う事だ。
マスクの下で苦痛に表情を歪めながらも、歯を食いしばって痛む左手を動かして結芽の右腕を掴み、離れられないように力を入れて行く。
スパイダーマンの執念にも驚きつつ速く脱出しなければと思い迅移で逃げようとするが自分の腕を握り潰されるのではないかと錯覚する程のスパイダーマンの怪力によって手が動かせず、ニッカリ青江が抜けない。
自分の腕を掴む手からは肩から流れ落ちている鮮血が滴り落ち、自分の親衛隊制服のワイシャツの袖部分を赤く染めて行く。
「離せ!」
「まだだ……絶対に……勝つ!」
スパイダーマンは自由な右手で結芽の左腕も掴んで逃げられないようにして頭を後方へ持って行き、結芽の額に渾身の頭突きをかまして来た。
「「ガッ……!」」
悪足掻きとも言えるスパイダーマンの頭突きが頭にクリーンヒットし、鈍い音が響かせながら全身に強い衝撃を受けると突き刺していたニッカリ青江がスパイダーマンの肩から抜け、両者共後方に仰反る。
(ダメだ……起きないと……)
スパイダーマンはダメージにより、後退りながらも肩に思い切り突き刺さった結芽の正確無比な突き技のダメージにより膝から崩れて地に膝と手を着いてしまい息も絶え絶えになりながら結芽の方を睨み付けるが次の瞬間には地面へ倒れ伏してしまう。
結芽の方は、スパイダーマンの鼬の最後っ屁とも言わんばかりの渾身の頭突きを直接食らったことによりジンジンと痛む頭を左手で抑え、フラ付きながらもその場に留まり彼女の足は大地を踏み締め、肩で息をしながらもスパイダーマンを見下ろしている。
ーーこの勝負、燕結芽の勝利。
結芽は彼は剣の純粋な腕前は先程の2人よりも劣っていた。だが、根性で自分に食らいついて来たことには正直驚いてしまった。
ウェブシューターを壊されながらも、剣を地に落としても、肩を貫かれても最後まで勝負を捨てずに自分に向かって来たスパイダーマンを珍しく素直に称賛する。
「いったいなぁ………まぁ、弱い割にはよくやったよ。少しはやるじゃん」
「……………」
何も応えないスパイダーマンを一瞥した後に森林の方で倒れている栄人の方向を向くと覚束ない脚でふらつきながらもそちらに歩もうと試みる。
「ハリーおにーさん、勝ったよ。私、クモのおにーさんに勝ったよ……スパイダーマンに勝ったんだよ……私を褒めてよ……」
直後に結芽は激しく吐血すると膝から崩れて倒れ込み、人間が受け身も取らずに倒れ込んだ音が庭に響く。
「ん?…あっ!」
スパイダーマンはその音を拾い、一瞬意識が飛んでいたがその方向に目をやると結芽が倒れ伏していた。
「ぐっ……おい、しっかり!」
ニッカリ青江に肩を貫かれた出血で体内の鉄分が多少減った息苦しさからマスクを外し、まだ痛む身体に鞭を打ちながら走って結芽に接近して彼女の身体を抱き起こす。彼女は既に力を使い切ったのか力無くダラりとしており、眼を開ける力すらも残っていないのか微かに眼を開けている程度であり、譫言でか細い声を出す事しか出来ていない。先程の鬼神の如き戦い振りからは想像出来ない程に弱っていることは見て取れる。
エレンと薫のコンビネーションを相手取った激しい戦闘の上にスパイダーマンとの決闘による連戦のダメージと疲労が蓄積してついに限界値を超えてしまったのだろう。
「ははは……そっちの方が眼を醒ましちゃうんだ……残念だなぁ」
「僕で悪かったね……ゴメン」
結芽が重い瞼を開けるがその瞳に映る人物は今最も会いたい相手で無かったことは残念であったが、自分を気にかけてくれることに関しては悪い気はしていない。
だが、先程まで自分と戦っていた相手であるその人物は今までマスクで顔を隠していたようであるが瞳から涙を流し、とても悲しそうな顔をしている。
それがとても不思議でならなかった。自分たちはずっと敵対していてさっきまで命懸けの勝負をしていたというのに。
「何で謝るの?おにーさんは私の願いを尊重してくれたんだよ、これも全部私が望んだこと、例え敵でもおにーさんを恨むほど私器小さく無いよ」
「だけど………っ!僕が君と戦ったからっ!」
実質的に彼女の最後の敵を担ってしまったことにより、彼女の死の間接的な原因になってしまったことに強い罪悪感と責任を感じているのかその顔は後悔と迷いが入り混じっていてとても苦しそうだ。
「言ったじゃん……おにーさん達と私は敵同士、戦う理由なんてそれだけだって……おにーさんはおにーさんのやるべきことをやって私をちょこっとだけ追い込んだんだよ……誇って良いと思うけどなぁ」
「誇れるわけ無いよ……今こうして目の前で苦しんでる君すら助けられない、程僕は無力なんだ……こんな力があっても何でも出来る訳じゃない。僕は君たちの誰1人にだって死んで欲しく無かったさ」
結芽の方は可奈美と戦えなかったことに関しては未だに残念に感じているが、死力を尽くし最後まで向かって来たスパイダーマンに対し憤り等感じてはいない。
だが、それでも颯太は悲しそうな表情を変えない。多くの犠牲を払い、ここまで来たのもタギツヒメ という脅威から日本を守るためであり相手を極力傷付けない、人側は討たないと決めて誰にも死んで欲しく無かったというのに自分は敵対した友を倒し、彼女の最後の相手を務め、彼女を死に追いやる原因の一つになってしまっことを心を痛めている。
各陣営、皆が国の存亡をかけて命を掛けたやりとりをしているというのに誰も犠牲を出さずに解決しようだなんてそれは幻想に過ぎないのかも知れない。だが、それでも自覚の無さから叔父を死なせてしまったあの日からこの力を人助けのために使って来たというのに彼女の事を救う事は出来ない。
自分には他人の病気をいきなり全快させるような力も無ければ死んだ人間を生き返られせる力など無い。結芽が与えられた力と恐らく同じ物を授かってこの体たらくなのだ。
敵を倒し、戦うことで誰かを守ることは出来ても実際には届かないものも多い決して万能な力ではないということを思い知らされる。
「甘いなぁおにーさんは……甘い甘い……だけど嫌いじゃないよ。ねぇおにーさん、私達違う形で会ってたら仲良くなってたかな?」
「僕は……正直分からない。ハリーと君が仲良くなれたなら僕らも不器用だけど悪くない関係にはなってたかも。でも、可奈美ならきっと『同じ学校だったら毎日試合を申し込むよ。結芽ちゃんの太刀筋もっと見たいからっ!』って言うと思う」
「同じ学校かぁ……悪くないね」
(おねーさんと私が仲良くなれるかぁ……おにーさんと同じこと言ってる……)
その言葉を聞き、どこか安心したかのように結芽は微笑む。同じ学校であったのならきっと毎日のように試合を繰り広げる2人の姿、それを遠目で見ながらも応援する皆の姿、今頃気にしても仕方ないがそんなもしもだってきっと悪くないのだろうと思う。
「うん…………」
そして、結芽は己の最期を悟ったのか自身を見つめる颯太の瞳を見つめながら問いかける。彼女が今最も彼に聞きたい事だ。
「ねぇ……おにーさん。私強かった?」
「………うん、僕がこれまで会って来た敵の中で一番厄介で一番面倒くさくて………忘れられない位一番強いよ」
先日舞草の里を潜水艦で脱出する際に彼女を忌避して一番めんどくさい奴と言ってのけたこと、一番強いって言って欲しいと言われたことに対する彼なりのアンサーを結芽に返す。
「フン、あったり前じゃん……っ!……ねぇおにーさん、おにーさん達みたく誰かの為に戦うってのも悪く無いね…そっか……そんな簡単なことで良かったんだ」
最も聞きたかった言葉を受けて、結芽は満足しながらその言葉を受け取る。
そして、結芽の方も散々無用だと、弱いと切り捨てて来た物でありながら身を削って誰かを守り、自分に喰らい付いてくる彼らの強さを理解した。
そして、自分も割と私的な理由であるが誰かの為に力を使う事で断片的でも触れることが出来たのだろう。
「強い敵を倒す力だけが強いんじゃない……自分のことばかりを優先するんじゃなくて困ってる人に手を差し伸べて、おにーさん達みたく誰かのために戦って1人でも多くの人の、小さくても皆が大切にしてる幸せを守ればきっと……」
自分のこれまでの行い、言動、それらを今際の際になってようやく全てが自分のためばかりであったことを自覚して恥じる。
自分が両親から見捨てられ、既に無くした……いや、捨てたと思っていた物は
ここ数日栄人と過ごしたことで既に手に入れていたということを自覚した。
自分に生きるためのチャンスと居場所をくれた紫、多少口煩くとも面倒見が良い真希と寿々花、どこか心配で放っておけない夜見、そして自分にその幸せをくれた栄人がいたことで満たされていたのだという事を理解した。
そんな誰もが大切にしている幸せを守る為に戦えたのならきっと自分は………
「君もきっとそうなれるさ……困っている時に助けられた人はきっと、その人への感謝を忘れない……いつかは自分もそういう人になりたいって思ってくれると思うよ」
颯太は結芽が最後に気付いたことを否定しない。自分が力を手に入れ、増長した結果大切な人を死なせてしまい皆を不幸にしてしまった。
だが、そんな時に自分の背中を押してくれた人がいたことで今の自分を形作ってくれた人達を守る為に自分は今日まで力を使って来た。
その中で自分の姿を見て勇気付けられた人がいるというのなら、その人はその気持ちを、それをくれた人の事を忘れないだろう。
「そっか……それはきっと素敵だね……」
直後に結芽はこれまでの好戦的な笑みでも嘲笑でもない年相応の屈託のない笑みを浮かべるとなんとかギリギリで開けていた瞼を閉じて力無く手を森林の方へと伸ばして最愛の人への別れを告げる。
(あーあ、もうお終いかぁ……ハリーおにーさん、先に死んじゃう私を許してね……本当は作戦が始まる前までずっと側にいて欲しかったけど……傷ついて欲しく無かったけど……私の願いを否定せずに尊重してくれたことは嬉しかったよ……何より、私に夢のような時間をくれたことは私の宝物だったよ。だから、生きてね……私の大好きなおにーさん……)
直後に結芽は颯太の腕の中で動かなくなり、力無く腕が地へと堕ちる。
「……………っ!」
この感覚は覚えている。あの日、叔父を死なせてしまった時の生命が終わる瞬間と同じ光景だ。その死により大切な人たちから笑顔が消え、悲しみに包まれるこの世の何よりも悲しい事だ。
そんな想いを誰にもして欲しくなくて自分は今日までその力を人助けのために使って来たと言うのに彼女のことは救えなかった。悔しさと、もっと他に良い方法だってあったたんじゃないか?という考えばかりが頭を巡る。
この力が万能では無いことも、何でもかんでも出来る訳では無い事は分かっていた。だが、それでも届かない想いと押し潰されそうな現実を突き付けられて嗚咽を漏らすことしか出来ないでいた。
だが、現実は悲しむ時間すら与えてくれない。こうしている間にも終焉の時は近づいて来る。だから進むしか無い、タギツヒメ を止めなければ全てが無に帰してしまう。辛くとも進むしか無いと決めてまだ人の温かさのある彼女を地に寝かせて祭壇へ向かおうとすると一人の声が聞こえる。
「………颯…太?」
「ハリー……」
振り返るとそのには先程まで気絶していた栄人の姿があった。
グリーンゴブリンのスーツの機能は停止しているようだが自分の姿を見つめる彼の姿はまるで信じられない物を見るような眼でこちらを見ている。
無理もない、先程まで本気で殺し合いをしていた相手が本当は自分のよく知る人間であったという事実に衝撃を受けているため、駆け出していた足を止めてしまっている。
颯太も自分を見つめる彼の姿を見て、固まってしまった。ずっと、嘘に塗り固めて隠し続けてきた彼と敵対し続けていたという事実。運命により引き裂かれた自分たちはいつも間にか別の道を行き敵同士になっていた。
何も知らずに笑い合っていた幸せな時間は脆く崩れ去ってしまっていたという事実を突きつけられ、彼の瞳を見つめ返す事しか出来ないでいた。
夕暮れは既に別の色と化し、先刻まで月が雲に隠れ、星の灯りすらも見えない長い夜に月が顔を出し両者の姿を明確に映す月灯りは両者を隔てているように
……そして、横たわる結芽の眠りを祈るかのように優しく、それでいて冷たく照らしている。
(乗り物が3台分……だが、このピンピンしている方はダメだ、今のオレじゃあ簡単に追い出される……乗り移るなら……このチビの方だぁ)
だが、この時この場にいる誰もが気付かなかった。互いに目の前の状況と両者に気を取られ、結芽の指先の辺りからこの機会を狙っていたかのようにこっそりと忍び寄って来ていた黒いコールタール状の液体が入り込んで行っているという事を。
遅れたけど8/10、ピーター誕おめ!(FFHのパスポートから抜粋)