刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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こっからが大変ですな。


第6話 0 GAME

関係者以外進入禁止の部屋にいる5人。挨拶に来た少年と仲間の内の1人が知り合いのようだったため皆が不思議そうにしている。

まだ自己紹介をしていない事を思い出したため自己紹介を始めるハリー。

 

「申し遅れました。私は針井グループ代表、針井能馬(のうま)の長男、跡取り見習いの針井栄人と申します。

管理局の皆様にはいつも我が社の製品を贔屓にして頂いており、感謝しております。」

「父に応援で訪れた際に折神家の関係者の皆様にご挨拶に伺うよう申し付けられ、ご挨拶に参りました」

 

深々とお辞儀をするハリーに対し長身の少女は彼の立場を察し自分達も挨拶をしなければと思い向き直る。

 

「なるほど分かった。君のお父上の会社には僕達も世話になっている。僕は親衛隊第1席、獅導真希だ。よろしく頼む」

 

自己紹介を済ませ、友好的に手を差しのべ握手を求めてくる真希の手を取り固く握り握手を交わす。

 

「所で、寿々花。彼とはどういった間柄なんだ?知り合いのようだが」

 

「そうですわね。強いて言うなら、昔から家同士で親交があって年に何度かパーティ等でお会いする事があるといった感じですわね」

 

「はい、幼少の頃から此花様にはお世話になっております」

 

「固苦し過ぎますわね、今はそんなに固くならなくても結構ですわ。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと可愛らしかったのに」

 

「それは昔の話でしょう姐さん!」

 

 

二人の関係性をザックリと説明するとなるほどと納得が行ったようだ。だがあまりにも態度が固すぎるため過去の話を掘り出して緊張を解そうとしたら多少素が出始めているようで悪戯が成功して嬉しそうな顔になる寿々花。そのお陰が多少空気が和やかになる。

 

 

「第3席、皐月夜見と申します。よろしくお願いします」

 

丁寧に頭を下げる夜見につられこちらこそとお辞儀をするハリー。

 

「第4席、燕結芽!よろしくねハリーおにーさん!」

 

人懐っこい笑みを浮かべ挨拶をする少女。お兄さんと呼ばれどうやら本当に年下だったようだ。

 

「よろしくお願いします。燕さん」

結芽と同じ目線まで屈み、丁寧に挨拶をするハリーに対し少し顔をしかめる結芽。

 

「そんなに固くならなくていいし結芽でいいよ、なんか息苦しい」

 

「は、はい。分か…分かった。ん?…それは…」

 

固くるしいのは好きじゃないのか訂正され、戸惑いながらも態度を軟化させるハリー。

ふと結芽の手元のマスコットに目を配ると反応を示した。

 

「ん?これは…イチゴ大福ネコか?好きなの?」

 

「えっ?…うん」

 

「実はその商品うちの会社の子会社が作ってる奴なんだよ。よーし、じゃあイチゴ大福ネコを贔屓にしくれてる結芽ちゃんに今度発売される予約殺到の末1日で抽選が終了した数量限定生産の録音機能つきプレミアム版をあげちゃおう!」

 

自分の家の会社の子会社が作成してるマスコットを持っていたことを確認し、ポケットから袋に包まれている新品同様の状態の限定生産版のイチゴ大福ネコを取り出し結芽に手渡しする。

 

「えっ!?いいの!?わーいありがとー!」

 

「勿論勿論。そしてこれ録音機能までついてんだぜ」

 

「「イェーイ!」」

 

マスコットを握るとスイッチが入り録音ができることを証明するために先程話していた自分の声を再生させ、その後二人で一緒に録音をしたりして新機能も堪能していた。

 

「子供を物で釣ってますわね…」

 

「まあ当人が喜んでいるならいいじゃないか、嬉しそうな結芽の顔が見れて僕も嬉しいよ」

 

「針井さん。そろそろ試合開始のお時間です。戻られた方が良いのでは?」

 

幼い兄妹を見守る両親のような視点で二人の様子を見る真希と寿々花。そして無表情で試合開始の時間が近い事を淡々と告げる夜見。

 

「あっ、そうですね。ですが御当主様にはまだお会いできていないのですが…」

 

「今は会場より少し離れた所におられるからすぐには戻られない。昼休みにまた来るといい」

 

「かしこまりました。では失礼致します」

 

「ああ」

 

ペコリ

 

「では後ほど」

 

「まったねー」

 

4人に別れを告げ部屋から出る。御当主様に挨拶できなかったのは心苦しいが後から来るように言われたため、また後で挨拶に向かうことに決め、早足で会場の自分達の応援席まで戻るハリー。

その後は普通に生徒に交じり応援に徹していた。

 

 

数時間後、試合も順調に進み、残すは決勝戦のみとなった。

決勝戦まで勝ち進んだのは平城学館十条姫和、美濃関学院衛藤可奈美の2名となった。

 

決勝戦を前に昼休みとなり、各々休憩スペースで昼食を摂り、談笑している。しかし、ハリーは御当主様に挨拶に向かうと言って席を立ち、決勝戦会場に入っていった。

 

「もう決勝か~ワクワクするなぁ!でももう終わっちゃうのも少し寂しいかも」

 

「終わった後の事を考えるより次の試合を全力で楽しむ事を考えた方が楽しいよ」

 

「そうそう。そんで今ワクワクしてるこの瞬間も何だかんだで楽しいんだろ?」

 

「うん!あの娘と戦いたくてウズウズしっぱなし!」

 

(ほんとにこの戦闘民族は…でも楽しそうで良かった…あれ?そういや決勝に出る十条姫和さん。たまに親衛隊の人達のいる所をチラチラ見てたような…それに心ここにあらずというか、試合にあんまり興味が無いように見えて…気のせいかな)

 

一瞬可奈美が対戦相手の事を口にしたため対戦の様子を思い出し違和感を覚えた。

確かにこれまでの試合を振り返ると興味が無いかのように速攻で決着を着けていた事や時折客席の親衛隊達の方を見ていたことを思い出し、他の参加者達とは違う雰囲気を思い出して違和感を覚えたがやはりこんな大舞台で試合をするから緊張していたのだろうと納得する。

 

(まっ、この様子だとアイツが言ってたような事は起こらなそうだな)

 

 

可奈美と舞衣と他の友人達と昼食を摂りつつ気合い十分のいつも通りの可奈美に安心し、蜘蛛の言っていたことは杞憂だったのかもと納得する颯太。

 

「でも、私が今日こうしてここに立っていられるのもスパイダーマンさんのお陰かな。助けてもらわなかったらどうなってたか分かんなかったかも」

 

「そうだね、私はあの人に2回も大切な人を助けてもらってて感謝してもし足りない位…」

 

「ま、まぁ高頻度で町の見回りしてるみたいだしそのうちきっと会うよきっと。そんときに軽くお礼すればいいんじゃないかな」

 

「うん、そだね」

 

「僕も会ったら友達を助けてくれてありがとうございましたって言っておくよ」

 

急に名前を出されて驚き慌ててしまう颯太。自分がスパイダーマンだと言うことは秘密だ。あくまで一般人らしい回答を心掛けないといけない。

 

「そう言えば榛名君ってスパイダーマンさんに会ったことある?」

 

「え?あ、あんまし無いかな」

 

取り敢えず自分とスパイダーマンとの共通点や変に知り合いだと言う話題は避けた方がいいだろう。ボロを出して姿がバレるのはどうしても避けたい所だからだ。

 

気が付くと先程まで飲んでいた飲み物が無くなったため買いに行くと告げて移動する。

自販機に向けて通路を歩いていると前方から歩いて来た細いスレンダーな体型に緑色のセーラー服に近いような制服、長く黒い髪に紅い瞳の少女、可奈美の決勝戦の対戦相手十条姫和とすれ違う。

前方に見えた際には何とも思わなかったがすれ違った際に颯太の耳には何故か大きな鼓動音が響いた。

 

「…っ!?」

 

スパイダーマンになって以降、間近にいる人間の心音が聞こえてくる事が稀にある程聴力も強くなったが尋常じゃない程緊張しているのが伝わる。

ましてはこれから命でも賭けるかの如く決死の覚悟をして心音が速く、大きくなると更に強く聞き取る事ができるようになったため彼女には何かがあると思い急いで振り返るが向こうはこちらの様子には気付いていない。

 

取り敢えず様子だけでも見ておくかと自販機でコーラを買った後、会場に戻ると彼女との場所の距離が遠いせいか心音は聞こえないが目を伏せて同じく代表の生徒の言葉にも耳を貸さず集中しようと精神統一をしていた。

 

(おいおい、まさかあいつの言ってた事現実になったりしない…よな?)

 

先程まで心配無いと思っていた思考から切り換え、急に嫌な予感がしてきて顔が険しくなっていたが平静を装うようにしておいた。

昼休みが終わり、挨拶に行っていたハリーも戻ってきたため全員が決勝戦の会場へと移動する。

 

決勝戦の会場につき、美濃関では皆が可奈美に渇を入れる言葉を送っていたが颯太は先程から来る嫌な予感のせいかがんばれ、いつも通りやれば行けるよとしか言えなかった。

 

 

 

 

 

するとある人物の登場で更に会場がどよめき始める。

 

「御当主様よ!変わらぬお姿で」

 

「なんて神々しい」

 

 

御前試合の決勝戦を観戦するため、現折神家当主で刀剣類管理局局長の折神紫が会場に現れたのだ。

20年前の大災厄の英雄、20年経った今でも刀使の力を失わず御刀を抜けば最強の刀使だと噂されているこの国の真のヒーローとも呼べる人物だろう。

彼女の登場により観客席から彼女への尊敬と畏怖の念が篭った声や歓声が上がる。

 

 

ーだが…颯太は彼女の姿を見た瞬間会場中にいる誰とも違う感覚に襲われていた -

 

ゾワリと全身の毛が逆立つような感覚、スパイダーセンスが発動していた。実際に軽く袖を捲ると腕の毛が全て逆立っている程だ。そして手が震え始めた。

 

(スパイダーセンス!でも彼女は人間に見える…いやスパイダーセンスが感知できるのは自身の危険だけじゃない…もしかしたら会場にいる誰かに危険が?それに手の震えが止まらないこの感覚…っ!僕は直感的にアイツが危険だと感じている…っ!?)

 

颯太は感じた、この人(コイツ)は危険だ。何かに憑りつかれている。

一見ただの人間にしか見えないが他に考えられることは1つ。信じたくはないが…この人は荒魂に憑依されているのかも知れないと。

 

過去に荒魂と戦闘を行った際に怪我人を多く出す前に荒魂の元に辿り着けたのはスパイダーセンスで近くにいる荒魂の反応を感知出来たからだ。

近くに荒魂の反応があると決まって手が一瞬だけ震えるが、この人(コイツ)からはそれと似た反応が感じられる。

そして…手の震えが止まらなくなるほど強大な反応は見たことが無い。

 

 

そして、颯太の中である1つの結論へと繋がった。まさか…彼女があんなに心拍数が上がってた理由って…そう思い姫和の方を見る。

隠そうとしているが表情が険しく、怒り、殺意の籠った、そして死すらも覚悟しているかのようにも見える視線を一瞬だが紫の方へと向けていたのだ。

 

(まさか…よせ、危険だ!なんとかしないと!)

 

彼女が何をしようとしているかをなんと無く察しどうにかする方法を考えたが一般生徒に過ぎない颯太が騒いで試合を止めた所でつまみ出されるだけで何も意味はない。可奈美に訳を話して棄権してもらうかとも考えたがこんな突拍子も無い話、証拠もないのに信じられる訳が無い。そもそも試合を止めた所で彼女は隙をついて紫に攻撃を仕掛けるだろう。

 

(どうする…どうすればいい…このまま挑んでも殺されるだけだ…)

 

紫からはこれまでの荒魂とは比べものにならない程の強力な反応がある相手だ。恐らく強さも別次元な程だろう。

いくら御前試合の決勝に来る程の腕前とは言え返り討ちにされる可能性が高い。

なら、自分がスパイダーマンとして戦闘に介入して助けに入るべきか、そう考えたがある考えが頭を過った。

 

(ここで戦闘に介入すれば…でも、仮にうまく逃げ切れたとしても相手は荒魂に憑依されている可能性があるにせよ警視庁を統制しているも同然の管理局の長だ。それに刃向かったとなれば僕も親愛なる隣人スパイダーマンからテロリストスパイダーマン?上出来すぎ!)

 

(クソッ!アイツが言ってたスパイダーマンとして重要な決断ってそういうことかよ!)

 

脳内で夢の中で蜘蛛に言われた自分は鎌倉でスパイダーマンとして重要な決断を迫られると警告されていた事を思い出し、苦悩して俯いていた。

 

これまでただの犯罪者や荒魂と戦って人を守ることとは訳が違う。

自分が今決断すべきなのは目の前の国家に刃向かうテロリストを守って国の敵になるか、彼女を見捨てて一見平和に見える荒魂に憑依された人間が統制している今の社会を守るのか…この2択だ。

 

 

 

 

 

 

 

(なーんだ…そんなの、考えるまでも無いじゃないか…っ!)

 

最初から答えは決まっている…。自分のやるべきこと、これまでの自分がしてきた事を考えれば簡単なことだ。

やるべきことが分かった時、一瞬不敵な笑みが溢れていた。

 

俯いて下を向いていた顔を上げ、腹を押さえてうめき声を上げる。

 

「いだだだだだ!あー超お腹痛い…食い過ぎたかも…ごめんちょいトイレ行ってくる!」

 

「えっ!?颯ちゃん大丈夫?」

 

「急にどうしたの!?」

 

「どんだけ食ったんだお前」

 

「大丈夫大丈夫!すぐ戻るから!」

 

隣にいた可奈美と舞衣とハリーに心配されたが大丈夫だと言い張り、持ってきていたリュックを持ち出し決勝戦会場から走り出す。

 

「お腹痛いって割にはすごいダッシュだね…」

 

「そんなにお腹痛いのかな?…っていうか足速っ!」

 

「何なんだアイツ…」

 

舞衣には腹が痛いと言っている割にはものすごい勢いで走っていく姿を見て心配され、可奈美には走る速度を驚かれ、ハリーは何がなんだか分かっていない様子だが気にしている場合ではない。事態は一刻を争うのだから。

 

後方で決勝に出場する両名が呼ばれる声を聞き取り、更に焦りを感じて更に走る速度を加速させる。

 

 

(そうだよ、簡単なことじゃないか。状況がこれまでとは違っても危険な奴がいて、それを分かってて何もしないで悪いことが起きて誰かが傷付いたら…それは僕の責任だ)

 

会場を抜けて近くのトイレまで全速力で走りながら誰もいないことを確認し制服を徐々に脱ぎ、制服の中に着ていた赤と青のスーツを露にし、リュックに制服を積めつつ靴を取り出しながら自分を鼓舞させる。

 

確かに彼女を助ければ自分は親愛なる隣人から国家の敵と成り下がるだろう。命の保証もない。

だが、戦う力があって荒魂が世に潜んでいる現状を放置して更に悪いことが起きて誰かが傷付く結果になったのなら、それは大いなる力に伴う大いなる責任を放棄する事に他ならない。

それは、叔父の最後に命を懸けて教えてくれた教えに反する事になる。それだけは絶対に出来ない。

 

それに、十条姫和についてもそうだ。管理局を統制している相手の命を意味もなく狙うわけがない。

彼女は恐らく知っている。折神紫に憑依している荒魂を放置しておけば更に危険な事が起きる可能性があることを。

両者の因縁については分からないが彼女なりの信念で動いている。これだけは間違いない。

 

なら、親愛なる隣人スパイダーマンである自分が取るべき行動はただ1つ。

 

ー命を懸けて使命を果たそうとしている少女を守る事だー

 

(僕はもう、目の前で誰にも死んで欲しくない!例え世界が敵になっても、僕が正しいと信じた事をやり遂げるだけだ!それに…)

 

男子トイレの個室に入り、左手に小型のリストバンド型の腕輪ウェブシューターを装備し、赤を基調に白い目と蜘蛛の巣をイメージした柄のマスクを被り、一瞬で色々と思考を凝らし自分のやるべきこと、やりたいことを考え半ばヤケクソ気味になっていたが覚悟を決め、制服をリュックに積め、個室からジャンプして着地しそのまま窓枠に足をかけ身を乗り出し壁にリュックを貼り付け、屋根に向かってウェブシューターを発射し、反動で屋根まで飛上がる。

 

そして御前試合の会場の方を確認すると試合が開始されていて可奈美と対峙していた姫和が一瞬のうちに姿を消したかのような銃弾を凌駕する程の速さで折神紫に向けて突きを放っている姿、それに対し紫の髪の隙間から黄色い眼に紅い瞳孔の眼球のようなものが姿を顕したのを確認した。

 

 

マズい、急がなくては

 

 

「目の前の女の子1人助けられないで、親愛なる隣人が務まるかよっ!」

 

 

 

 

両手のウェブシューターを決勝戦会場の寝殿造の建物に向けて発射し、吸着したのを確認し、発射された糸の端を掴んで短く持ち、引っ張り強度がかなり強力な繊維になった瞬間に思い切り反動を着けて内心リアルビーダマンかなと思いつつパチンコから弾が飛び出す要領で屋根から思い切り飛び出し、風を斬るという表現が正しい、制御不能な目にも止まらぬ速さで一直線に飛翔するスパイダーマン。

 

しかし散々使命感に燃え、沸き上がる恐怖を打ち消すために意気込んでいた手前、これから挑む相手は現在でも最強と言われている刀使が1人、更にその護衛として全国でもトップクラスの実力を持つ刀使が4人。正面から戦いを挑んで勝てる確率はほぼ0。奇襲が成功して動きを封じる事が出来れば彼女を逃がす時間を稼ぐか連れて逃げられればいい程だ。

時間を稼ぐのはいいが別にアレを倒してしまっても構わんのだろう等と言える状態ではない。

 

 

どうあがいても自分の不利は変わらない危険なギャンブルだ。

段々自信が無くなって来たがそれでもやるしかない。

こんな所で彼女を死なせるわけには行かないからだ。

そう自分に言い聞かせ、腹を括ったスパイダーマン。

 

 

 

場面は変わり、決勝戦会場。

姫和が前方に突き出していた小鳥丸で紫を貫こうとした矢先、何処からともなく何も無い所から一瞬で御刀を取り出したかのような速さで姫和の突きを意図も容易く軽々と弾く。

 

「それがお前の「一つの太刀」か」

 

表情1つ崩さず淡々と見下ろす紫。

 

「ぐっ…!」

 

防がれたことを驚いたようだが後方に飛び紫に再度斬り

かかろうとする姫和。

 

「うあっ…!」

 

だが、元々親衛隊として紫の近くにいた獅堂真希に背後から御刀で刺され写シを剥がされ、膝から崩れ落ちてしまう。

 

そのまま姫和にトドメを刺さんとばかりに御刀を振り上げ、冷静に見下ろす真希。

後ろから刺された事で恐る恐る後ろを振り返る姫和。

体を動かそうとするが先程の大技を使った反動か体が動かせないようだ。

 

写シを貼っていない生身の姫和に対し、トドメを刺すためなのか動きを止めるためなのか恐らく前者だろう。振り上げていた御刀を思い切り振り下ろして姫和を斬り殺そうとした。

 

しかし、振り下ろした御刀による斬撃は突如介入した可奈美に防がれ、それと同時に真希の背後から

 

 

「ライダーキ-ック!」

 

と掛け声を上げながら風を斬るかの如く猛スピードで突っ込んでくる赤と青のタイツで全身を包んだコスチュームの男が飛び込んで来て勢いを殺し切れず背後から真希をライダーキックの如く飛び蹴りする形で蹴り飛ばした。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「スパイダーマンさん!?」

 

その光景に会場中の誰もが驚愕し、言葉を失っていたが約1名、小柄のツインテールの気だるげな少女は「おおっ!」と感激していた。

 

「ぐおぁっ!」

 

かなりギリギリだが写シを張るのが間に合いダメージは防いだがいきなり蹴られた衝撃で容易く写シを剥がされ、衝撃で御刀「薄緑」を地面に落とし、柱に激突する。

 

「よっと!」

 

赤と青のタイツの男スパイダーマンは蹴り飛ばすと同時に左手の中指と薬指で掌のスイッチを押し、クモ糸を発射し、柱に激突したと同時にクモ糸を真希に当て、柱に貼り付ける。

 

「何だこの糸は…っ!」

 

「真希さん!…ぐっ!」

 

「……………っ!」

 

そして着地と同時に右手を前に突きだし、指で掌のスイッチを押すと糸が2方向に別れ、紫の隣にいた夜見、少し離れた所にいた寿々花にクモ糸を当てると身体に巻き付く。

改造した糸の種類の1つ。スイッチを押すと糸が2方向に別れる機能。「スプリット」だ。この機能ならば別方向にいる相手を二人までなら狙う事が可能だ。

 

何度か身をよじらせて剥がそうとするが柱にしっかりと貼り付けられ、桁外れな引っ張り強度になったクモ糸の前では無意味な抵抗だ。

しかし、まだ御刀を帯刀していた二人は八幡力を発動させ破ろうとしている。

流石に八幡力を使われると抜け出されるのは時間の問題だ。急いだ方がいい。

 

「お、おい!この娘を斬るなら僕を斬れ!」

 

「スパイダーマン…さん…?」

 

多少声が震えているが姫和を守るかの様に姫和の前に立ち折神紫とその親衛隊に向けて沸き上がる恐怖心を抑え込み勇気を振り絞って啖呵を切っていた。

そして、突然の登場に驚きを隠せない可奈美。

先程まで友人に近いうちにまた会えると言われ、本当に目の前に現れたのだから無理もない。

 

更に何が起きているのか理解できないかの如くスパイダーマンを見つめる姫和。

当然だ。今自分は警視庁全てを敵に回したも同然。なのに目の前にいる二人は何故自分を助けようとするのか、その理由をどうしても理解出来なかった。

 

(か、可奈美!?何で君まで!…まぁでも助かった!予定変更だけど乗るしかないこのビックウェーブに)

 

糸で反動をつけ、風を斬るかの如く速度を体感して世界を縮めていた間、可奈美が真希の攻撃を防いでいた事は確認できなかったため気付かなかったものの真希を蹴り飛ばしたことにより、可奈美が目の前にいた事に気付き、彼女も姫和を助けるために戦闘に介入したのだと判断できた。

 

 

「二人とも!後から行くからここは僕に任せて先に行け!止まるんじゃねぇぞ!」

 

「でも…はいっ!迅移!」

 

3人の動きは封じたため、恐らく二人が逃げる時間位は稼げると判断したスパイダーマンは二人に向けて逃げるように指示を出す。

普段の作ったような陽気な口調とは真逆の真剣な様子がマスク越しからでも伝わってきて気圧されるがいくら人間離れしたスパイダーマンとはいえこの状況を1人で打開するのは困難だと考えたが今は撤退が有力だと判断した可奈美はその言葉に頷き、姫和も同じく撤退を優先させるために強引に迅移を発動させて会場から逃げようとする。

 

その様子を見ていた最年少の親衛隊結芽は二人の前に迅移をして先回りしようとする。

 

「アハっ!」

 

しかし、その一瞬を見逃さずスパイダーマンは振り向き様に結芽が迅移で先回りして待ち構える着地点を予測して逃走する二人に当てないように二人の間を狙ってウェブシューターから糸を弾丸のように発射する。

 

 

「私も混ーぜて!…って!うわ!」

 

先回りしたと同時に飛んできたクモ糸を寸での所で御刀で弾き飛ばして被弾を防いだ結芽。

流石に驚きを隠せずに一瞬だがスキを作る事に成功し、可奈美はその好機を逃さずに姫和の腕を掴み、八幡力で会場の門の上まで飛び、脱出に成功する。

 

「何だよ…結構当たんじゃねぇか…」

 

迅移を発動した相手に向かってクモ糸を射つのは初めてのため、ヤマ勘で放った牽制だが一瞬だけでも隙を作れた事に安心する。

二人が何とか会場から脱出できたのを確認したことで、先程までは二人を逃がすために必死で冷静さを欠いていたものの今は多少余裕を取り戻したスパイダーマン。

 

 

現在会場ではほぼ全員が驚きを隠せずにいだ。

2度スパイダーマンに会った事がある舞衣ですら今のスパイダーマンとそして親友の可奈美の行動の理由を理解できず呆然としている。

そしてハリーも状況を呑み込めず、放心してしまっていた。

そもそも何故この地域にスパイダーマンがタイミング良く現れたのか、確かに神出鬼没で有名な人物だがこんな狙ったかのように都合良く現れる等有り得るのだろうか。そんな疑問が皆の中に募っていった。

 

 

そして、紫は相変わらず静観を決め込んでいるが柱に貼り付いていた真希も八幡力で糸から脱出した寿々花が御刀で糸だけを切断した事により開放されており、親衛隊の面々が臨戦態勢に入っている。いつでも斬りかかって来るだろう。

 

 

「あのさぁ二人みたく僕の事も見逃してくんないー?」

 

「させると思っているのか?蹴られた借りは返させて貰うよ」

 

「女性を庇った男気には感心しますが、それとこれとでは話が違いますわ」

 

「私はただ壊すだけです」

 

「クモのおにーさんも中々手応えありそうー、簡単には帰さないよ!」

 

 

 

 

4人に取り囲まれ軽い口調で懇願すると全員から一蹴されてしまう。

先程のは奇襲が成功したから何とか逃がすことに成功したが4人同時に相手をするとなると勝算はほぼ無い。

そして、先程から静観を決め込み二人をあまり追う気が無い様に見える紫に違和感を覚えたが自分の状況が不利なのは同じだ。

 

自分の状況を整理し、決して諦めてはおらず隙あらば脱出を考えているがこんな状況で、いやこんな状況だからこそつい若者が何も考えずつい口走ってしまうかのようなノリで不安が口から零れていた。

 

「あー死ぬなこれ…」

 

 

 

 




高鳴るその胸は…無ぇっ!筈なのに心音を聞き取る男、スパイダーマッ!←しょうちしたきさまはきる


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