刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
7日に間に合わせるために所々雑なので時間ある時に軽い手直しとかしようと思います。
GRIDMAN×DYNAZENON、3期とかにして集大成にするかと思ってたら映画だったとは……いやでも嬉しいっすわ
ーー隠世へと逃げたタギツヒメはその一部を切り離し、空高く打ち上げ関東一円に荒魂が降り注いだ。後に「鎌倉危険廃棄物漏出問題」と呼ばれるこの出来事以降、関東では荒魂が頻出するようになった。
それから4ヶ月後………
時刻は既に深夜帯へと差し掛かり誰もが寝静まっている時間帯。
しかし、荒魂が頻出するこの異常事態に於いて鎌倉に拠点を構える刀剣類管理局本部にはそんな当たり前の事が罷り通らない。そんな誰もが安心して眠れる日常を守るために寝る間を惜しんで各地に頻出する荒魂に対応にあたり忙しなくCIC担当の職員が画面を凝視し、PCを操作して状況を整理しながら情報を伝達していく。
「台場へ誘導した荒魂は現在、商業区を移動中。展開中の部隊との距離、2000」
「大宮区付近に接近中の目標の進路上の避難誘導、完了しました」
「第5小隊を狭山と西岸に移動、待ち構えろ。湾岸地区への増援は?」
現在この管理局本部の本部長の椅子を任されている銀髪に褐色肌の30代半ば程の姉御肌と言った風貌、ワインレッドのシャツに黄色いスーツのジャケットを羽織った気の強そうな女性、真庭紗南本部長が司令官らしく指示を出して行く。
そして、その直後CIC担当が新たに入って来た情報を紗南に伝える。
「S装備刀使2名……そして戦闘補助員スパイダーマン。現場に急行中です」
深夜の東京湾岸線沿い。首都高へと続く橋架線上に向けて細長い巨体を引き摺りながら地を這う百足の姿に似た荒魂が地響きを立てながら都市への侵入を防ぐためのバリケードを体当たりで突破しながら移動して来ていた。
それを待ち構える特別祭祀機動隊の一個小隊が橋を封鎖しながら横一列に並んで迎撃体制に入っていた。
「パラディンの一斉射の後、タイミングを合わせろ!訓練通りやればできる!」
部隊の隊長を任されているであろう鎌府の制服を身に纏う少女が対荒魂戦における集団戦のセオリー通りの指示を飛ばして行く。
そしてその部隊の中に1人、綾小路武芸学舎の制服を纏う髪をボブヘアーにした少女。彼女は実戦に不慣れなのかこれから敵が来るであろう前方をしっかりと見据えてはいるが手足は恐怖で震え、御刀を持つ手が不安定に揺れ、額にはうっすらと冷や汗が滲み出て過度な緊張により心拍数は上がり続ける。
もし、ここでしくじればこの先にある街に住む人々にも危険が及び、自分も死ぬ……当たり前の事ではあるが想像すると不安が沸々と湧き上がってしまう。
「はぁ……はぁ……はぁ………」
「来るぞ!抜刀!写シ!」
隊長と思わしき少女が指示を出すと皆一斉に抜刀し、写シを張り、臨戦態勢に入る。その直後、彼女達の背後から複数台の円盤の様な物体が浮遊して散開し、フォーメーションを組んで荒魂の前方、背後、真横を取り囲んで行く。
待機していた時は姿が隠れていたたそれらが鉄橋の灯に照らされて姿を現す。紫色に円形のボディ、顔の部分に相当する面にはメインカメラと思われる黄色の横長のバイザーと少し下の辺りには何か音波でも発射すると思われるスピーカーが搭載され、下の左右の部分には小型の機関銃を装備したドローン。
本来は彼女達を支援する為に作成されていたが舞草の里を管理局もといタギツヒメが殲滅作戦を命じた際に多くの舞草の刀使、そしてスパイダーマンを苦戦させて猛威を奮ったSTT用に作成された戦闘用ドローン、パラディン達だ。
現在は本来の使用用途通り彼女達を支援する為に使われ、彼女達と共に戦っている。
『対象が接近、攻撃を開始しましす』
機械的な音声が彼女達に語りかけると接近して来た百足型荒魂に向けて搭載されている機関銃による一斉に集中砲火を開始し、スピーカーの様な部分からは空気を震わせる程の振動波を放ち、胴体にぶつける事で百足型荒魂の動きを止めている。
基本的に通常兵器が通用しない相手ではあるが機関銃による集中砲火で注意を逸らし、振動波をぶつけて姿勢を崩すという割り切った運用法が上手くハマっている。
百足型荒魂がパラディンに対して尻尾を振って攻撃するがパラディンは小柄な上、常に浮遊して空中を自在に移動できる戦闘用ドローンであるため攻撃を軽々と回避し、同時に振動波を叩き込んで怯ませる事で見事に隙を作っている。
「よし、斬り込む……っ!」
「…………?」
それを好機と見た隊長が斬りかかろうとした矢先、一同の動きが一瞬止まって全員が上空の方を向いている。
目を凝らして上空を見やると3つ程の人影が落下して来ており、内2人は冷静に落下しているのたが約1名、体型にフィットした全身を包む赤と青のツートンカラーのスーツに黒いアームガード状のアイテムを手首に装着している人物は空中であたふたしている。
「のわあああああああああああ!落ちる落ちる落ちるうううう!」
しかし、その落下して行く最中に空中で掌を指で押すと手首に巻かれているアームガード状のアイテムから糸の様な細い線が一直線に射出され、架橋の上部構造に当たり、その糸の後端を持つ彼の方向転換を容易にするとその人物は空中で一回転し、同時に右脚を伸ばして踵を荒魂の脳天へ叩き込む。
「あらよっと」
上空からの落下による位置エネルギーも加わっているだけでなくその人物の脚力も強いのか荒魂の頭部は徐々にヒビが入り、大きく凹み、荒魂もその威力と衝撃でふらついている。
その一撃を叩き込んだ人物は百足型荒魂の頭を踏み台にして跳躍してサマーソルトを披露すると、一緒に落下して来た2人と同時に隊の面々の前で着地する。
「あ、いってえ〜」
降り立ったのは少女の華奢な外観には似合わぬ頭部にバイザー付きのヘルメットと橙色のバイザー、胸部と腕部と脚部に装着されているパワードスーツS装備を装備した美濃関の制服を纏ったの少女と鎌府の制服を纏った少女の2人……そして、空中であたふたしていた赤と青の体にフィットしたスタイリッシュなスーツと赤色の頭全体を覆い隠す白い眼が特徴的なマスク、肩には黒いライン、手首には黒いアームガード状のアイテムを装備しているヒーローと言った具合の珍妙な姿をした人物、親愛なる隣人スパイダーマンだ。
一同の視線が釘付けになっていると美濃関の制服の少女が隊列を組む面々の方を向く。少し距離もある上にバイザーで顔も隠れている為明確に表情までは読み取れないが刹那、口角を軽く上げる仕草はまるで「もう大丈夫」と言っているような頼もしさがある。
「ごめんごめーん!まだヘリからの着地って慣れなくてさ!」
『着地のタイミングを約1秒早くすると理想的です。分析の結果、戦闘が長引くことで対象が長時間暴れ回れば橋架線が崩落する可能性も0ではありません。早めにカタを付けましょう』
「マジ?ま、蜘蛛と百足の節足動物ゲテモノバトル頂上決戦は目の毒だろうからさっさと終わらせますか!」
スパイダーマンが荒魂の脳天に叩き付けた踵を軽く上げてさすりながらこの場に似合わぬ軽口を叩いているが状況は一刻を争う。スーツに搭載されているのだろうか機械的な女性の音声をしたAIは空中にいた時から既に戦況分析を始めておりそれを聞いたスパイダーマンも臨戦態勢に入る。
それを察知すると先程まで百足型荒魂の動きを封じるために攻撃をしていたパラディンは彼らの妨害をしない様に砲口はしっかりと荒魂の方を向きながらも待機状態へと移行し、「待て」と命じられた飼い犬の様にじっとして動かなくなる。
「うん!」
「了解」
スパイダーマンが荒魂の顔面の方向に両手を向けてアームガード状のアイテム、ウェブシューターのスイッチを押すと一直線に粘着性のあるウェブが射出され荒魂の顔面に命中し、空気に触れると同時に凝固する。
「そら、綱引きだ!」
スパイダーマンは両手でウェブを持つと両脚で力強く踏ん張り、腕を自分の方へと引くと荒魂がそれを振り払ってスパイダーマンを投げ飛ばそうとする力とスパイダーマンがウェブを引っ張る力が拮抗して荒魂の動きを封じる。
「今だよやっちゃって!」
「沙耶香ちゃん!」
その隙に鎌府の制服の少女は頭部に向けて回転斬りを叩き込み、美濃関の少女は数多ある脚部を攻撃して行き、スパイダーマンが荒魂の動きを封じ、2人は交互に連携を取りながら的確に荒魂の部位を破壊して状況を自分達に有利な方向へ進めて行く。
「よし、じゃあ僕も……っ!」
2人の少女の猛攻によるダメージの蓄積と身体の部位の損壊により咆哮を上げる百足型荒魂が弱り始めたのを感じ取るとスパイダーマンは自分も仕掛け時と判断し、百足型荒魂を拘束しているウェブを両手で強く後方へ引く事でウェブの引っ張り強度をより強靭にしていく。
そして、その引っ張り強度による反動を利用して力強く踏ん張っていた脚で地面を思い切り蹴り上げる事で百足型荒魂に向けて一直線に跳躍して顔面に飛び蹴りを放つ。
「■■■■■■■■■■■―――! 」
弾丸の如く一直線に飛び出したスパイダーマンの飛び蹴りが百足型荒魂の顔面を捉えると側頭部の辺りが損壊する程の威力で顔面を半壊させ、突き破る様に上昇して行く。
「せいあ!」
更に続く様にスパイダーマンが飛び蹴りをお見舞いして空中にまだ停滞している頃、スパイダーマンと位置が入れ替わり、交差する様に美濃関の少女が攻め込み一瞬背中合わせの形になると縦方向に回転しながら御刀を振り下ろして百足型荒魂の首を叩き切って着地する。
胴体から分離された首は宙を舞った後に地面に叩き付けられ、胴体も力無く架橋の上に倒れ込んで動かなくなる。生命活動停止と言った所だろうか。
その手際の良さを見せられてか先程の戦闘から足がすくんでいた綾小路の制服の少女の視線は釘付けになっていた。
その理由は何だろうか、自分は実戦に慣れていない……初めての実戦であるため初めて対峙した百足型荒魂を前にして過度な緊張と恐怖心で足がすくんで動けなくなった。初の実戦とは言え自分は何も出来なかったが眼前で自分達の危機を救ってくれた彼らの戦いを前にして不覚にもつい魅せられてしまった。
荒魂が活動を停止した事でノロの回収班が到着し、後処理が進められて行く最中部隊を指揮していた少女に対し、増援として参戦して来た面々が歩み寄る。装備していたS装備の稼働時間の限界を過ぎ、装着解除された事でその素顔が露わとなる。美濃関の少女は茶髪に活発そうに見える少女衛藤可奈美、鎌府の少女は色素が薄くどこか儚げな印象がある大人しそうな少女糸見沙耶香であった。勿論、正体は秘匿の存在であるスパイダーマンはマスクを被ったままであるが。
「応援の衛藤可奈美です!」
「糸見沙耶香」
「更にそのお手伝いのスパイダーマンです」
可奈美と沙耶香は現在本部長を務めている紗南の指示によりこの首都高に駆け付け、スパイダーマンも現場近くにいたため召集が掛かり、ビルの屋上から下降して近付いてきた2人を乗せたて移送中のヘリに飛び乗ってそのまま彼女達の戦闘補助要員として同行して来た様だ。
「応援感謝します。以後は我々が……」
「はい、お願いします!」
現場を指揮していた少女が敬礼しながら3人に向けて感謝の言葉を述べているとおずおずと3人の戦いに魅せられていた綾小路の制服の少女が前に出て来る。
「あの…お3方は4ヶ月前の……」
「はい、そうです!」
「僕はただいただけですけどね……」
「4ヶ月前」。そのワードが飛び出た瞬間この3人は何の事を指しているのか、当事者であるため即座に理解出来てしまう。
4ヶ月前の鎌倉の折神邸にて刀剣類管理局局長のポストとなれる存在である紫の肉体に憑依することで20年間管理局を支配する事で裏から警察組織を動かして復讐の機会を窺っていた大荒魂タギツヒメ の討伐に参戦した面々であるからだ。
しかし、その真実は世間に公表など決して出来る内容では無いため大まかな真実しか世間に知られていないがその場にいた者たちとして軽い有名人のような存在になっている。
スパイダーマンも現在はタギツヒメが流した悪評は誤報であるとデイリービューグルからの正式な謝罪により明かされており、大荒魂討伐に協力したとしてその数に数えられてはいる。
だが、あの時の戦闘はあの場に全員がいたからこその物であるし、自分が1番実力不足なため最も重篤なダメージを負った上に幸運と奇跡が重なりその微かなチャンスを逃さなかった事でどうにか出来たと思っている側面もあるためイマイチその数に数えられて持ち上げられるのはしっくり来ないというか未だ慣れないため自嘲気味に返す。
「あはは……そ、そうなんですね……」
歯切れの悪い微妙な返しをされたため綾小路の少女もやや戸惑い気味に愛想笑いを返してしまう。そんな彼女に対し、可奈美は友好的に話しかける。
「あなた綾小路の?」
「はい!出向で特別任務部隊に参加しています綾小路中等部1年、内里歩です!」
「歩ちゃん!」
制服の通りやはり綾小路武芸学者の生徒、ましてや中学1年生であるため実戦慣れしているだけで無く実績をあげている面々は非常に頼もしく見える上に、有名人に助けられその活躍を見た事でついテンションが上がってしまいミーハーな態度を露にしてしまう。
「私も鎌倉の本部にいます!寮で何度か衛藤さんや糸見さんをお見かけしたことがあって」
(アイドルの握手会に来た人みたいだな……)
「内里、警戒任務中だぞ」
「は、はい!」
興奮冷めぬまま熱量がヒートアップして行く歩に対し、指揮を取っていた少女は冷静に諌める。確かに頼もしい存在の有名人が眼前にいて安心したと同時に舞い上がってしまうのも歳相応の反応と言えるが指摘されると我に帰り、舞い上がってしまっていた事を反省して恥ずかしそうに返事をする。
「じゃあまた寮でね!」
「はい!」
自分たちのすべき事は終わり、歩にまだ仕事があるようなのでこれ以上ここに長くいる理由も無いため可奈美は歩に軽く手を振ると3人は踵を返して反対の方向へと歩いて行く。
「よっ、君たちもご苦労さん」
スパイダーマンは通りがけに宙に浮遊しながら忠犬の様に待機しているパラディンに対し、飼い犬を褒める飼い主の様に頭頂部に相当すると思われるバイザーの部分に手を置いてポンポンと軽く叩く。
『我々は命令に従い、プログラムのまま実行するだけです。その様な言葉を掛けられる理由はありません』
「いいじゃん別に、頑張ったのに人間も機械もないでしょ。皆さんもお疲れさんでーす!」
かつて舞草に属する反乱分子の一員とそれらを狩る政治権力の道具として敵対したスパイダーマンとパラディンであるがあの時は使用する人間が自分たちを殲滅する目的と意志で使用していたが故に敵対していたに過ぎず現在は敵味方の境界線は消え、本来の製造目的通り刀使やSTTを支援する装備として使われており実際皆の役に立っているためテクノロジーにも敬意を評して友好的に接している。そして、まだ現場に残って作業をしている面々にも軽く手を振ってパラディンの後を通り過ぎて行く。
「〜♪」
歩みを進めて行く最中どこか楽しげな雰囲気を醸し出している可奈美に対して隣を歩く沙耶香は彼女の顔を覗き込みながらボソリと呟く。
「可奈美…楽しそう」
「ん?何?沙耶香ちゃん」
ほとんど独り言のつもりで呟いた言葉であるため可奈美にはよく聴こえてはいなかった様で聞き返されるが自分が無自覚の内に楽しそうにしている事に気付いていないのか、という疑念が湧いては来るが掘り返す事でも無いと思い押し黙る。
「ううん………」
一応彼女の呟きが聞こえていたスパイダーマンはフォローのつもりで考えられる可能性をサラりと話す。しかし、荒魂出現の現場対応によりすっかり頭から抜け落ちていたやらなければならない事を思い出す。
「ま、深夜テンションって奴でしょ。結構遅くなっちゃったし………深夜?……あ!カレン今何時!?」
『深夜1時を過ぎました』
スーツに搭載されているAIカレンに冷静に現時刻を告げられるとマスクの下で顔色が真っ青に染まって行き、慌てふためきながら頭を抱える。
「やっべ………っ!昼前までにレポートの続き書いて提出しないとスタークさんに殺される!」
『早急に取り掛かりましょう、不眠不休で書けば間に合う筈です』
スパイダーマンの切羽詰まった様子に対しカレンはレポートを作成する作業に掛かる時間や移動時間を即座に計算して必要工程のスケジュール表を作成する。
「行けなかないか……っ!じゃまたね2人ともー!」
スパイダーマンもまだ希望があると知ると眼の色を変え、即座に行動に移して橋の左側に向けて走り出し、欄干から飛び出してウェブシューターのスイッチを押してウェブを飛ばして地覆に当てるとそのまま跳躍による遠心力を利用する。そして、橋の真下を通り抜けながらその遠心力によってかかる負荷によってウェブの引っ張り強度はより強靭な物へと変質して行き橋の反対側に出るとウェブから手を離す。振り子の原理を利用したスパイダーマンは勢いよく飛び出して、宿泊先のある市街地の方向へと飛んで行く。
「ま、またねー……」
「バイバイ」
忙しないスパイダーマンの様子を見るに荒魂対応の戦闘補助だけで無く他にもやる事が山積みなようで向こうも向こうで大変なんだなと思いつつ手を振りながら飛び去って行くスパイダーマンを見送った。
ーー翌日の朝
とあるビジネスホテルの一室にて中学生程に見える少年が子供ならば普通は眠っている筈の早朝の時間でありながら机の上にあるPCの画面を食い入る様に目を凝らしつつキーボードに高速で指を走らせて操作しながら画面上に表示されている送信の文字をクリックする。
「よし、これで完成。はい送信っと!あぶねー……」
『送信完了、セーフでしたね』
一息吐くと糸の切れた操り人形の様に力無く机の上に顔を突っ伏せ、気怠そうにゆったりと顔を上げてPCの画面とPCの隣に置いてあるスマートウォッチ型に酷似した小型のデバイスを見上げる。直後、遮断されている窓のカーテンの隙間から夜明けを告げる一筋の光が寝室に差し込んで来ることでその人物の顔が顕になる。
「あー疲れた……スタークさん納期キッツいからなぁ」
『お疲れ様です』
「はいどーも。にしたってここ数ヶ月色んな所行って色んな部隊の手伝いするし移動する手間や時間も掛かるから運用テストに時間割けない時もあるしで中々進まないよなぁ……君がスケジュール管理や参考資料の読めない英文翻訳してくれたりするからほんと助かるよ」
『確かに様々な場所に行く都合上新しい知り合いはそれなりに出来ましたね、既存の知人達程親しくなった者は両手の指で数えられる程しかいませんが。それに颯太を支援するのが私の仕事です、どうという事はありません』
「へ、変に深入りし過ぎて僕の正体を知られる訳にもいかないしコミュニケーションはちゃんと取ってるからいいでしょ……」
スパイダーマンの中の人であり、美濃関学院中等部2年生榛名颯太だ。
その顔はやり切ったという達成感に満ちてはいるが目の下には隈ができており寝不足な様子でかなり疲弊している様にも見える。
先日、深夜帯でありながら荒魂退治の応援を頼まれ戦闘補助要員として出向いて戦闘を行いそのまま宿泊先に戻って今の時間まで作業を行なっていたのだから無理はないだろう。
作業の名残か机の上には朝食代わりのコンビニで買えるチーズバーガーの包み紙や眠気覚ましの為に噛んでいたブラックガムの包み紙やブラックコーヒーの空き缶が散乱している。
そして、PCのUSBポートに寝巻きの下に着込んでいる赤と青のツートンカラーで構成されているスーツから伸びるUSBケーブルが繋がれており、スーツから聞こえるサポートAIのカレンの補助もあり定期的な進捗報告を終えた所だ。
そしてスマートウォッチ型のデバイスを手に取り、PCの画面に目を向けると「ナノマシンテクノロジーを用いた装備開発における進捗状況報告書」と書かれており、フォルダにはそれを基にして新たに作成するスーツの案として多種多様なスパイダースーツやS装備のデザイン画の3Dモデルとそれらの名称が所狭しと並んでいる。そして、この手に持っているスマートウォッチ型のデバイスこそナノマシンの格納ユニットとしても機能するアーク・リアクターを動力源にした持ち運び可能なアイテムだ。
現在、トニーとフリードマンに交互に指導を受ける事4ヶ月、ようやく指導の成果が出始めたのか持ち運び可能で即座にスーツを形成、装着可能なナノマシン格納ユニットを小型のスマートウォッチ型デバイスにまで落とし込むまでは漕ぎ着けた。
しかし、このテクノロジーを用いた自分の新スーツの名称や明確なデザイン、具体的な機能等は戦闘データ採集とシステム構築が未完成であるため実戦投入出来るレベルではなく現在考案している最中である。
その証拠にスーツの3Dモデルの下にはそれぞれアドバンス……パンク……ヴェロシティ等々中二だけに思い付く限りの厨二センスを駆使したワードを展開して行ったのかやや恥ずかしさを感じる形跡があるが今の所しっくり来る物があまりないためこちらも前途多難なようだ。
「ま、僕がやりたくてやってる事だから仕方ないんだけどさ」
4ヶ月前、鎌倉で起きた大荒魂タギツヒメ の復活により日本滅亡を回避すべく奮闘し、その結果一時的ではあるが脅威は去った。
その際、カモフラージュの都合とは言えインターンの名目上の指導者として高性能なスーツを渡し、時には厳しく接してくる師と仰ぐトニー。
そしてタギツヒメ に憑依されていた紫が倒された事で管理局の代表である局長代理としてその立場を引き継いだ朱音に管理局の研究が遠因で力を得たとは言え、元来颯太は管理局のいざこざとは無縁で守られる立場にある一般人であるため大荒魂が討伐され、日本の壊滅を防ぐという眼前の目標は達成された以上協力する理由は消失すると言われ日常に帰る事を推奨されたが自分はそれを蹴った。
しかし、外部協力者という形に一度落ち着いたが組織としての体面を保ち、正体も秘匿しなければならないという側面もあるため定期的な身体検査を行いつつ念のため監視の名目で基本的に誰かと行動を共にし、戦闘も基本的に補助に回るという制約を設けられている。
その上、スパイダーマンの正体である普段の自分がそこに行く理由付けが必要になるため研師として戦闘で酷使した御刀のメンテナンスを引き受け、一緒に行動する相手の行き場所と任務の内容によっては研究施設に入る可能性もあるためその研究施設にも出入りする理由付けとしてトニーからナノマシンテクノロジーの研究とそれらを活用した装備開発案とデータ採集、制作を課せられている。
このナノマシンテクノロジーを活用したスーツの研究が進めば現在各地に搬出する荒魂に対応するにあたり、持ち運びが簡易的でナノマシンの瞬間的な結合で瞬時にスーツを形成でき、ダメージを受けたとしてもナノマシンが配列を変える事で修復を可能とする利便性の需要が高まるため、結果的に皆の役に立つのであればと引き受けている。
ちなみに舞草の里に着いた頃にトニーに一時的に没収されていたハイテクスーツは管理局と舞草での全面対決に於いて、以前は高性能なハイテクスーツの機能や多彩なウェブやAIによるサポートに頼りきりで仲間の協力やスーツの性能が無ければ負けていた局面も多いが、没収後に高性能なハイテクスーツの力無しで戦いを切り抜けた事を評価された事で既に返還されているため今こうして部屋着の下に着込む形で身に纏っているという事だ。
(でもやっぱちょっと、自由は欲しいかもな……)
これだけやる事も多く、基本的に誰かと行動を共にする状況下にあるため1人でいる時間や自由は以前よりも格段と無くなり、どこか窮屈さを感じる毎日を送っている。しかし、これらも全て自分から選んで行なっていることであるため致し方ないと納得はしている……してはいるが……。
「そういやスタークインダストリーズが開発中の他のスーツのテストって午後から予定してたっけ、僕もコイツのデータ採取に行かないと。少し仮眠取るから時間なったら間に合うように起こして」
『分かりました、時間になったら起こします。それまでおやすみなさい』
「おやすみ……」
不眠不休で作業を続けていたせいか流石に睡魔が襲って来たため、このまま午後の作業に支障を来たさない為にも颯太はベッドの上に横になり自分が身に纏っているスーツのAIであるカレンに目覚まし代わりを頼むと仮眠を取るために瞼を閉じると軽い眠りにつく。
陽は日差しは既に空高々と登り、学生ならば昼食を済ませた時間帯に差し掛かる美濃学院学長学長室へと続く廊下にて、何か用事があるのか現在も美濃関にいる舞衣が名簿ファイルを手に持ち歩いている。
「失礼します」
「柳瀬さん」
学長室の前に来ると2回ドアをノックし、引き戸のドアを横にスライドして室内に入り、入室した後に再度ドアをスライドして閉める。
来客が来た事を察した江麻はその方向に視線を向けて舞衣を視認し、招き入れる。
「来週鎌倉に出向する者の名簿をお持ちしました」
「ご苦労さま」
舞衣が江麻に名簿を渡すために歩き出そうとした瞬間、江麻が付けていた学長室のテレビの方から聞こえてる声が2人の意識をそちらに向けさせる。
「朱音様の証人喚問ですか」
画面に映し出されるニュース番組で証人喚問の席にて朱音が報道陣から集中砲火の如く質問攻めに遭っており、並の人間ではすぐに疲弊してボロを出してしまいそうな勢いではあるが冷静に一つ一つに丁寧に対処して行くが報道陣は更にヒートアップして行く。
『米軍所属艦艇の奪取、都市部への不明機射出、国民がどれほどの不安を抱き実害を被ったか、どのように受け止めているのでしょうか?』
『折神証人』
『一部の特災隊により20年前の大災厄のような事態は未然に回避することができました……それに前局長は現在療養中です』
『バッカもおおおおおん!それで全国民が納得すると思ってるおるのかあああああ!貴様らの杜撰な管理のせいで荒魂が頻出し、あの悪党スパイダーマンが自由に駆り出される事で再度持て囃されている状況を看過していい筈がなかろうて!』
突如、証人喚問の席では白髪の混じった頭髪にちょび髭が目立つ初老の記者が朱音の無難な解答に対して机を叩いて立ち上がり、烈火の如く捲し立てる。
管理局からのネタでスパイダーマンを悪く書く記事を書いたまでは良いがそれが記事を発行した後に誤報だと言われたため謝罪記事を書かされるという屈辱を受けた個人的な恨みも介在しているが国民を危険に晒した管理局への憤りも確かにあるため、かつてのお得意様ではあるが局長代理の朱音にはかなりキツく当たる新聞記者、ジェイムソンの怒号が響き渡る。
『静粛に!次騒いだらつまみ出すと言っただろう!おい、今すぐコイツを摘み出せ!』
『は、離せ貴様ら!ワシは市民の味方……デイリービューグルの社長兼編集長なのだぞおおおおお!』
がなり立てるジェイムソンは複数人のガタイのいい大男達に四肢を掴まれ、神輿を担ぐように持ち上げられるとそのまま証人喚問の場から運び出され、強制退室して行く。
その様子に辟易した表情を浮かべる江麻は見るに耐えないのか机の上に置いてあったテレビのリモコンを操作してテレビを消す。
溜め息を吐くと同時に江麻は生徒に前で言うのもどうかとは思うが現状を憂いたボヤきがつい出てしまう。
「今や刀剣類管理局は格好の的ね。新体制とか舞草とか言っても世間的には同じにしか見えない。ノロを大量に漏出し土地を汚した杜撰な組織……」
「事実だと思います」
真剣な表情でキッパリと厳しい自分の意見を言いながら名簿を手渡してくる舞衣の迫力に押されて一瞬固まってしまった。
例えトップが荒魂に支配されていようがどんな理由があったにせよ管理局は結果として市民を危険に晒した組織である事は否定出来ずその事で世間から厳しい目で見られても仕方ないという事実を若いながらに真剣に受け止めている在り方に唸らされたと言った所か。
「そうね…でも体を張って人々を守ったあなた達や朱音様が責められているのを見るとどうしてもね…」
受け取った名簿に目を通すと鎌倉に出向するリストの中に舞衣の名前を見つけた江麻は視線を名簿から舞衣の方へと向ける。
「あら柳瀬さん。あなたも来週から出向なのね」
「はい三度目です。可奈美ちゃんはほとんど向こうに行ったきりで颯太君は色々な所を行ったり来たりですけど……颯太君はスタークさんの指示で受けた装備開発も並行しながら任務で酷使した私達の御刀を研いでメンテナンスしてくたり、戦闘補助で私達が戦いやすくしてくれましたし可奈美ちゃんはこの4か月お母さんを目標にすごく頑張ってましたから」
「衛藤さん素晴らしい任務達成率ですもんね。紗南……真庭本部長がね。どうしても手元に置いておきたいって。母親譲りなのかしらね……」
「学長は可奈美ちゃんのお母さんと颯太君の叔母さんと同級生だったんですよね?」
「ええそうよ。2人とも良い友人で美奈都は本当に強い刀使だったわ」
古い友人の話題が出たため心なしか懐かしい気持ちになったのか江麻は席から立ち上がり舞衣に背を向けて学長席の背後にある窓の外を見つめながらどこか戻っては来ない昔を懐かしむように語り出す。
「私はね。ずっと彼女に憧れていたのよ」
「美奈都さんにですか?」
「ちょうど柳瀬さんが衛藤さんに抱いてるような気持ち、かしらね」
「えっ……」
「だからね。美濃関預かりだった千鳥が衛藤さん選んだ時とても嬉しかったの」
「はい……」
唐突に自分の心情を見抜かれたかのような発言に驚いてしまい、言葉に詰まってしまったが完全に否定出来る程間違ってもいないため否定もしない。
江麻としては常に先を行き続ける者の背中を追いかけ続けたいと願う者として似た者同士の同族意識の様な物を舞衣に感じたからこそそう思うのかも知れない。そこには紛れもなく彼女らの関係性を理解し、生徒の事をしっかり見ている教育者の姿があると言える筈だ。
舞衣も江麻の言葉に今でもかつての友を想う気持ちとその子供が彼女と同じ御刀である千鳥を持った事がどれだけ嬉しかったのかを感じ取ると瞳を閉じて江麻の言葉を肯定した。
ーー東京都、市ヶ谷付近にあるビルにて
スーツ開発のレポートをトニーに提出した後、仮眠を取って睡眠時間を補った颯太は本日の午後にスタークインダストリーズが現在開発中のスーツのテストを予定しているため、起床後にビジネスホテルの前で待機していると知り合って以降すっかり関東付近を移動する際の運転手となっているスタークインダストリーズの警部部長兼社長の運転手ハッピー・ホーガンに乗せてもらう形で現在地である市ヶ谷付近にあるビルの前へと辿り着いた。
車を降りて、最近建てられたスタークインダストリーズの新しい会社のガラス張りのビルを真下から見上げて出来栄えに感心すると運転席にいるハッピーに声を掛ける。
「ありがとうハッピー。スーツの起動テストが終わったら連絡するよ」
「分かった、後でな」
「うん、後でねハッピー」
ハッピーが車をビルの駐車場まで運転して移動させ、その後は時間までビルの食堂や休憩室でまったり待機する予定だ。そして、時間が来たら連絡し、次は本部のある鎌倉に行き、そこでの用事を済ませたら再度ビジネスホテルまで運転してもらう事になっている。
ハッピーの運転する車が駐車場に入って行く所を見送るとビルの正面玄関から入って行き、インターン実習生による会社見学という面目の受付を済ませるとすぐ様これから自分が行く、会社の中にあるトレーニングルーム付近のトイレに駆け込む。
「トイレでスーツに着替えるってのはあったけど、今日はトイレで装着ね……すぐ様変身して装着できる特撮ヒーローが羨ましいと思ってたけど正体バレ無いようにする工夫が大変なのはどこも同じだよね」
個室に入るとリュックからスマートウォッチ型のデバイスを取り出して、右手首に装着する。
これだけ見ると少し贅沢してスマートウォッチを買ってそれをオシャレ代わりに付けている中学生に見えるだろうが実際は全く異なる。
一応メールとメッセージアプリ、ミュージックプレイヤー、音声操作・音声アシスタント等の機能を搭載しているが音声操作・アシスタント以外はほとんどおまけに等しい。
颯太が左手の人差し指で画面を操作して行くと全身を包むスパイダースーツの3Dモデルのアイコンをタップすると現在作成中の外見はほとんど現在のスーツとは異なり、パワードスーツの様なスパイダースーツが映し出される。
画面に起動確認の文字のボタンが映し出され、デバイスの画面が光り出している。既に準備は出来ている様だ。
「ちょっとハズいけど、やりたくなっちゃうよね……スパイダーアーマー、起動!」
右肘を内側に曲げてデバイスの画面を前方に向けながら顔の高さまで持ち上げるガッツポーズの様なポーズを取ると颯太は掛け声と共に握り拳を作って左腕を壁にぶつけない程度に横に振った後に握り拳で「起動」のボタンを押す。
直後、装着者として登録されている颯太が画面に触れた事をデバイスが承認したのかデバイス内のアークリアクターが発光してスカイブルーの輝きを放ち、デバイスから幾億ものナノマシンが流れ出し、包む形になるように形状を変化させながら纏わりついていく。
すると、一瞬でスパイダーマンのスーツを形成して行くが普段の繊維出来たスーツとは異なり、赤と青色のツートンカラーに胸部から腹部程の長さの黒色の蜘蛛のマークのあるまさにパワードスーツと言った流線型のメタリックなスーツだ。
しかし、ナノテクによるウェブシューター生成機能は完成していないため外付けでハイテクスーツ御用達の取り外し可能なウェブシューターを付ける事になる。
「いいよなぁ、これ!持ち運びが楽になるのはもちろんなんだけどすぐに着れるのが良いって言うかやっぱ小型アイテムで装着はロマンだよなぁ。まぁ、名前は今は無難な呼び方してるけどもっとこう……バシっと決まったのにしたいよね、それに戦闘データと機能が足りないから実戦投入はもう少し先かもなぁ……じゃあ完成に近付ける為にデータ採取に行きますか」
一方でスーツの名前は現在は身に纏うからスパイダーアーマーと無難な呼称をしているがほぼ仮称でもう一捻り欲しい所であり、完成したら恐らく全く別の名前になるだろうし形状も自分が扱い安い物に変わるかも知れない。
その完成に一歩でも近付けられるよう、より一層邁進せねばと思いハイテクスーツの取り外し可能なウェブシューターを両手首に着け、リュックを手に持ってトイレから退室してトレーニングルームへと向かう。
既にこの会社ではスパーダマンはこのビルのオーナーであるアイアンマンことトニーの部下という扱いであるため顔パスに近い状態で、トレーニングルームも本日は自分も関わりがある新造スーツのテストプレイに協力しに来たとしてもほぼ貸し切り状態である。
「にしてもスタークさんこのタイプのトレーニングルームが好みなのかな、それともコスト削減の使い回し?」
『恐らく以前に貴方がトレーニングしたことがある場所に近付ける事で練習しやすい雰囲気を作っているのかと』
「あ、なるほど。ありがたいね」
スパーダマンがトレーニングルームに入るとその室内の造形は舞草の里の地下に作ってあった物に酷似しており天井は高く、壁はかなり硬質の物質を使用し、ちょっとやそっとではビクともしないが無機質で生活感はまるで感じない。
そして、それなりに面積も広く飛び回ったりは出来そうであり、トレーニング用品以外は大したものが置いてない所を見るになるべく見慣れていて使い勝手の知る場所で練習しやすいようにしてくれているのであろう。
スパーダマンが軽く準備運動をしていると正面の方から何かが重量のあるスーツ特有の足音を立てながらドアを開けて入室して来る。本日テストするスーツとテストパイロットだ。
身体を包むスーツは両手両脚以外を焚き火を連想させる橙色のカラーリングで構成され、両手両脚は藍色で手首と足首のアーマーのみ橙色と言った具合に塗り分ける事で差別化されているどこかメタリックなアーマー。
カラーリングにスタークインダストリーズ製らしさを感じないが胸部に埋め込まれている円形のアークリアクターに酷似したリアクターがらしさを生み出している。
左手には何かを操作するタッチパネルの様な物を装備し、腰には物理的外観は全長30cm程の金属製の刃のない柄の様な物と、背中には斜めがけに日本刀の柄が立てかけられており、そこから抜刀して戦うのだろう。
……更に、頭部を守るフルフェイスのヘルメットマスクは分離式で取り外しも可能なようでその形は西洋の民間伝承に伝わるゴブリン という精霊を模したと思われる後頭部に向けて長い頭部のヘルメットは首と連結していてフードのようにも見え、長い耳のように思える両耳のアンテナ付きのイヤーマフ。
そして、顔を隠して防御するマスクのツインアイが紅く光っているのが尚更鬼と言った雰囲気を醸し出している。
そう、形状だけ見ればあのグリーンゴブリンのリデコだ。しかし、随所にスタークインダストリーズらしさが感じられるアレンジが加わっている。
「おっ、いいじゃん。ちょっとリデコだけど日曜の朝じゃよくあるらしいからね!」
「………………」
しかし、スパイダーマンは全く驚いている様子を見せずに眼前にいる人物に友好的に接している。
あのグリーンゴブリンに似たスーツが眼前にいて、鎌倉の夜でその危険なスーツの力を格段と引き上げる為に装着者を凶暴化させるシステムを身を持って持って知っている筈なのに全く動じていない。
そして、グリーンゴブリンのリデコは終始無言を貫き、スパイダーマンを鮮血の様に赤いツインアイで見据えるだけで鎌倉の時の様な暴走しているという印象を与えない。本当にこれはグリーンゴブリンなのか?
「こっちのデータ採集にも協力してもらうから思いっきり来ていいよ。じゃ、始めようか!制限時間は10分!」
『測定開始』
スパイダーマンがテスト開始を告げて腰を低く落とし、左手を床に着けて右手を自由にする独特なポーズを取り、それを開戦と受け取るとグリーンゴブリンのリデコは初めて呟く様に始めて言葉を発した。
「『ホブゴブリン』、バトルデモンストレーション……スタート」
その言葉と同時に自らをホブゴブリンと名乗ったグリーンゴブリンのリデコは右肩に斜めがけに立て掛けられている日本刀の柄に右手を伸ばして抜刀しながら一直線に駆け出してスパイダーマンに斬りかかって来る。しかし、刀身は丸くほとんど練習用で殺傷能力の無い打撃武器の様だ。それでも当たるとスパイダーマンでもかなり痛いだろうからなるべく食らわないようにしたい。
前方にいたホブゴブリンが駆け出すと同時にスパイダーセンスが作動し、スパイダーマンは回避を選択して相手の攻撃を待つ事にした。
「おっと」
「…………」
ホブゴブリンは右手に持った日本刀をスパイダーマンに向けて振り下ろし、袈裟斬りをお見舞いして来る。スパイダーマンはスパイダーセンスで事前に前方らの攻撃を察知していたため、最小限の動きで身体を右に逸らして袈裟斬りを回避した。
しかし、攻撃を回避されたホブゴブリンは流れる様に今度はスパイダーマンが避けた右側に袈裟斬りを放って来る。
「切り替え早っ!」
スパイダーマンがいくら回避してもすぐ様ホブゴブリンは日本刀を左手に投げ渡して持ち帰る事ですぐに追撃の態勢に移行して執拗にスパイダーマンに斬りかかる。
「ちょっ!やっば!」
しかし、ホブゴブリンは一瞬スパイダーマンの眼を見つめると回避行動を取ったばかりのスパイダーマンにすぐ様左脚を軸脚にして右脚で回し蹴りを顔面に向けて放って来る。
ホブゴブリンの相手に次の行動を取らせないかのような烈火の如く攻めに対してスパイダーマンは先手を相手に取られた上に相手の攻撃が止まらない以上、一度受けてから反撃に入る事を選択し、左腕を最小限の動きで素早く構えてホブゴブリンの回し蹴りをガードする。
「ぐっ!」
「…………っ」
ホブゴブリンの回し蹴りが左腕に命中すると、左腕を通して全身に衝撃が走る。常人とは比較にならない程の耐久力を誇るスパイダーマンですら一瞬怯む程の威力の蹴りによって蹴られた場所だけナノマシンが拡散して、制服の袖の部分が覗く。
……しかし、ホブゴブリンに蹴られた事で装着者の着ている衣服の袖が見えたため、一見破損したかの様に見えるが手首に巻いているデバイスから再度ナノマシンが供給され始める。
破損して露出した部分に対し、再度供給されたナノマシンが配列を変える事で装甲を再構築して蹴られる前の様に綺麗さっぱり元通りになる。
「言ったでしょ、思いっきりやっていいって!じゃあ今度はこっちから行くよ!」
「くっ……」
スーツの腕の部分が破損した上に痛がったスパイダーマンの様子を見てホブゴブリンは一瞬戸惑った様子を見せるがそうしている間にスパイダーマンはホブゴブリンの右足首を掴んで持ち上げるとホブゴブリンの身体を宙に浮かせ、その場で一回転と同時にトレーニングルームの壁へと向けて投げ付ける。
実はキャプテンとの遠隔操作でのリモートトレーニングも頻度は多くはないがお互い時間が合う限りは続けており、対人格闘戦における投げ技もかなり慣れた事で今の様に流れる様に投げ技を繰り出せる程になっている。
「下手な遠慮してたらデータ採取にならいんだ……よっ!」
壁の方向へと投げ付けられたホブゴブリンの背中は壁に叩き付けられた事で背中に衝撃が走る。その間にスパイダーマンは両手を前方に突き出し、掌を天井に向けてウェブシューターのスイッチを同時に押す。
ウェブシューターからウェブが射出されると壁にウェブが吸着し、空気に触れた事で硬直が始まる。ウェブの後端を持って後方に向けて踏ん張る事で引っ張り強度を強靭になって行き、床を強く蹴ると勢いよく飛び出したスパイダーマンは右脚を前に向けて構え、飛び蹴りの姿勢を取る。
「………」
スパイダーマンの言葉を受け取ったホブゴブリンはどうやらその通りの様だと理解するとスパイダーマンの蹴りが命中するか否かの間合いに入ると滑り込む様に姿勢を低くする事で回避し、同時に右の掌をスパイダーマンのいる真上に向ける。
スパイダーマンの蹴りが壁に命中した直後、ホブゴブリンのグローブの掌の中心に音が集約して行き、空気を振動させて標的であるスパイダーマンが聞こえる域を上回る周波の音、つまりは超音波を発して牽制する。
「うわっ!うるっさ!」
近距離で超音波をぶつけられた事でスパイダーマンも驚いてしまい、おまけに蹴りを放った直後というアンバランスな状態に持ち込むとホブゴブリンは両手を床に着けて逆立ちし、開脚しながら横回転での回し蹴りをスパイダーマンの顔面に5連続で蹴りを多段ヒットさせて来る。
「ぐあっ!」
ホブゴブリンの蹴りを受けて蹴り飛ばされ、床に叩き付けられたスパイダーマンが起き上がるや否やホブゴブリンはスパイダーマンに接近し、日本刀を上段からの袈裟斬りを叩き込む。
「…………」
ホブゴブリンの振り下ろした日本刀の切先がスパイダーマンを捉える瞬間、何故か金属同士が激突する音がトーレニングルーム内に鳴り響く。
……そう、何故か。先程までウェブシューター以外の武器を持っておらず、この場もホブゴブリン以外得物を使用する者などいなかったのにだ。
「………間に合ったっ!」
ホブゴブリンの振り下ろした日本刀の切先はスパイダーマンには命中しなかった。いや、何も武器を持っていなかった筈のスパイダーマンの手にいつの間にか握られている日本刀の縞地に受け止められ届いていなかったのだ。
スパイダーマンはその意味深な言葉と同時に日本刀を振り払う事で受け止めていたホブゴブリンの日本刀を受け流す。
「…………………」
「何か観客のリアクション薄かった時のマジシャンの気持ちが分かった気がする。次から手品見る時はちゃんと驚くようにしなきゃね」
相対するホブゴブリンは眼前のスパイダーマンを見据え、日本刀を横に振って構えを取る。向こうがまだやる気がある様なのでスパイダーマンの方も試してみるかとホブゴブリンに対して右手に日本刀を構えて前に向け、左手を後方に向けて何かを掴もうとする手の形にする。
すると、徐々にスパイダーマンの左手の中でナノマシンが集合して行き、日本刀の形を形成し、それを掴む事でスパイダーマンは二刀流の形となる。
そう、先程スパイダーマンがホブゴブリンの攻撃を何故手に持ってすらいなかった日本刀で防ぐ事が出来たのか……それは、スーツの機能でナノマシンが手の中に送られる事で日本刀を瞬間的に作成し、それでホブゴブリンの攻撃を防いだと言う事になる。
ナノマシンによって形成される剣、差し詰めナノブレードと呼ぶべきだろうか。
スパイダーマンが現在開発中のスーツの最大の利点は持ち運びと装着脱の簡易性だけで無く、瞬間的にナノマシンを装着者の望む物を自動形成したり、損傷箇所を自動修復できる汎用性だ。
現にナノブレードも鎌倉の貯蔵庫の戦闘で地に突き刺さっていた2本の御刀が消えて空間移動した様にタギツヒメの手元に収まった瞬間を目撃した事で瞬間的に必要に応じて武器を生成する機能を思い付いた。
だが来る事が多い反面、器用貧乏に陥りがちであり汎用性が高いからこそ装着者の発想力と応用力が求められてしまいがちになる為、扱いやすいようマイルドに落とし込む必要があることや多くの戦闘データを増やし、トライアンドエラーを繰り返して粗を削って行く必要があると言える。
「前にやった時から妙にこれしっくり来るんだよね。じゃあ、まだまだ行くよ!うおおおおおおおお!」
「…………」
スパイダーマンがホブゴブリンに向けてナノブレードを両手に構えると腰を低く落とし、一瞬の内に床を強く蹴り上げて駆け出して接近する。
ホブゴブリンの眼前にスパイダーマンが両手に持つナノブレードを同時に上段から叩き付けるとホブゴブリンは手に持つ日本刀でそれを防ぐ。
「ぐっ……!」
両者の間に先程とは比べ物にならない量の金属音が鳴り響く。そして、ナノブレード2本分とスパイダーマンの腕力の乗った一撃を日本刀一本で受けたので、一瞬力負けしてそのまま押し切られそうになるがホブゴブリンはその力を利用して受け流し、スパイダーマンの剣戟をそのまま払うと同時にスパイダーマンの腹部に蹴りを入れる。
スパイダーマンが怯んだ隙にホブゴブリンは一転攻勢を仕掛けて来る。スパイダーマンに対してまたしても吹き荒れる嵐の様に絶やす事なく右からの袈裟斬りをスパイダーマンの左手に持つナノブレードに防がれたらすぐ様柄を左手に持ち替えての下段からの斬り上げを右手のナノブレードにぶつけて上に上がるとその隙に右手スパイダーマンの顎にアッパーをお見舞いする。
「ぐあっ!」
「…………」
顎を拳で捉えられて身体を打ち上げられたスパイダーマンは宙に浮き、身体を投げ出されてしまう。
「だ・け・ど!」
しかし、即座に空中の真上に足の歩幅程度の円形をナノマシンで形成し、スパイダーマンは逆さまの状態からその円形に脚を着けて着地する。
スパイダーマンがナノマシンで空中に簡易的な足場を作り、それを蹴り上げて空中で身体を縦に回転させながらタイムロス無くホブゴブリンに反撃して来る。
「…………っ!」
「はああああっ!」
予想だにしていなかったナノマシンの使用方法に驚いたがホブゴブリンもすぐ様防御の姿勢を取ってスパイダーマンのナノブレード2本を用いた連続的な回転斬りを防ぐ。
回転の加わった一撃であるにも関わらず、ホブゴブリンはそれらを受け切り、日本刀を横一閃に振り抜く事でスパイダーマンに突きを放つ。
そして、スパイダーマンも回転斬りを防がれた上で横一閃で弾かれたがすぐ様右手のナノブレードで突きを放つ。
「「…………………」」
一瞬の交錯の末、互いの首筋に刃が触れるか否かの瀬戸際で静止し、互いの動きを読み合う様に睨み合うとスパイダーマンのスーツから機械的な音声が鳴り響く。
『10分経過、本日のテストは終了です』
「え?あ、もう終わり?いい線行きそうだったんだけどなぁ」
トレーニング時間を測定していたカレンがいつの間にか時間となり、終了を告げると幾億ものナノマシンは瞬時に右手首に巻いてあるデバイスの中に戻って行き、それによって装着が解除されてしまう。
「全く、使い方もそうだけどもっと調整しないとダメだな。参考にる似たような力持った敵とか出て来たら何かしら勉強になりそうではあるけど、実際出て来て欲しいかって言われるとね……」
颯太はあれだけ迫真の勢いで打ち合いになっていた様子から一転して、本日の総括を語りながらホブゴブリンに歩み寄っていく。
「お疲れ様、わざわざありがとう。ハリー」
慣れ親しんだ友人のあだ名でホブゴブリンに声を掛けるとホブゴブリンは左手に装備してあるタッチパネルを操作するとフルフェイスのヘルメットが自動で後方へと移動することで分離し、素顔を顕にする。
「………おつかれ」
「こうして2人で一緒に作業してるとさ、何か授業とかで一緒に作業してた頃を思い出すよね」
「ああ、そうだな」
長い睫毛に、高い鼻筋の端正な顔立ちをしてはいるが目の下には隈が出来ており以前のような明るく人懐っこい雰囲気は無く、別人の様にしおらしい。
実際、本日のテストの際は必要最低限以外の言葉を発しない程口数も少なっている。
4ヶ月前の鎌倉での攻防戦で舞草の残党を迎え撃つ為に、自らもグリーンゴブリンを装備してスパイダーマンと友人同士の殺し合いをし、自身がスパイダーマンに倒された直後に結芽はその仇討ちとしてスパイダーマンに挑み、戦闘には勝利したが身体の限界をそこで越えてしまった。
その際に、彼女の最期に立ちあった様に見える颯太と戦場でついに顔合わせをして互いの正体を、そして管理局の真実を知った。
そして、何者かに気絶させられた際に結芽の遺体が行方知らずになり、彼女が人間として死ぬ事が出来なかった可能性を知り、後に一時期管理局の医療施設にて拘束され、治療と取り調べを受けて最近解放された颯太の学友、針井栄人だ。
しかし、結芽を失った事と、自分達が加担してしまった事の負い目からか以前の様子は鳴りを潜めているのか口数は少なく、颯太に対しても必要最低限の事しか話さない。
……4ヶ月前の鎌倉の一件以降、新体制となった事で装備開発の方針が一転し、家が経営している会社がタギツヒメに協力していたという事実は鎌倉危険廃棄物漏出問題の真相を世間に公表する事も出来ず混乱を防ぐ為には秘匿する必要があるが折神体制側に着いていた以上は警戒・監視の対象として針井グループはスタークインダストリーズの子会社として合併吸収される形でスーツの製造権と著作権をトニーに譲る形となった。
長年積み上げて来た功績がスタークインダストリーズとの合併吸収により完全に下請けとなってしまった事に経営者である能馬は頭を抱えてはいたがこの程度に済んだことを幸いと思うことにしていたが栄人はそんな能馬の様子を冷ややかな目で見ている。
そして、本日2人がいるこの会社こそスタークインダストリーズに合併吸収された子会社という事になる。
合併吸収の際、トニーは回収したスーツの中でグリーンゴブリンのスーツの装着者の感情をエネルギーに変換してパワーを上げる機能に着目し、自分のスーツにも有効活用出来る使えるかも知れないと考え、試作機としてグリーンゴブリンをホブゴブリンへと改造する事を決定て現在テスト段階に至る。
しかし、現在ゴブリンのシステムを最も効果的に扱うには強化細胞ゴブリンフォーミュラと適合する必要があるが未だに調整中で安全に適合出来る保証はないため唯一安全では無かったが適合出来た成功例である栄人にテストパイロットを依頼するよう颯太に頼み、一緒に戦闘データを集めさせるようにしている。意図は不明だが、トニーは何故か2人に協力してスーツを作り上げていく事を課している様にも見える。
実際颯太も自分で頼めばいいのでは?と内心思いつつもまたいつか一緒に話したり出来れば良いと思いながら栄人にスーツ運用や作成を手伝ってもらうように依頼している。
その一方で、未だに必要最低限の事しか語らなくなり、極力颯太を避けている……所か極力人との関わりを避けているが颯太がスーツの運用、トレーニング、データ採集の協力を呼び掛ければ必ず来る上に新体制の管理局にも出向いて元自社のパラディン等のシステム調整、運用指導を行う等非常に協力的な姿勢を見せている。
しかし、互いに協力する関係にはあるが颯太が歩み寄ってもどこか一線を引いているため全く以前のような関係性には戻れてはいない。
だが、それでも歩み寄る為に何か無いかと共通の話題であるスーツに話を振る。
「……にしてもさ、今ホブゴブリンって試作段階だから色々機能が制限されてるけど正式に運用されて全ての制限が解除される様になればスゴい機能が開放されるじゃん?」
「ああ」
「僕も一応関わってはいるけどさ、折角だからおさらいの為にちょっと確認しとこうよ」
「構わない」
素っ気ない了承を受けると自分が知っている限りのホブゴブリンのスーツの事を語り始める。
「グリーンゴブリンはさ、ゴブリンフォーミュラによってスーツとシンクロした装着者の感情の強さによってそれを力に変えて戦闘力が上下するシステムを常に安定させる為に装着者を凶暴化させて感情を昂らせる機能があったから常に高出力で戦闘出来てたけどホブゴブリンに暴走機能は存在しない。スーツの性能を活かすのも殺すのも装着者に依存する、装着者の感情の強さが力の根源になってそのアークリアクターに似てる新型のリアクター、プロミネンスリアクターによってエネルギーの供給が増える」
「あぁ、だから装着者が弱気になれば弱くなるし装着者が強気になればなる程強くなる」
「ハリーはさっきどれくらいで戦ってたの?」
「お前が思いっきり来いって言ったから、怪我させない程度に思い切りって所だな」
「そっか、それで互角だったからもっと昂ってたら危なかったかもね」
「どうかな」
やはりまだ遠慮されてはいるがちゃんと真面目に協力してくれていることは伝わって来る。ホブゴブリンが全ての機能を開放した上でパワーも最大限に上がっている状態であったのならどうなっているかは分からない、と思わされた。
「後はさ、掌から打って来た音波。警戒してなかった訳じゃないけど滑り込んで回避しながら打って来るとはね」
「ルナティック・ラフも瞬間的に超音波で相手を怯ませ武装だから基本的に対人戦にしか使えないだろうな。おまけに味方を巻き込む可能性も考慮して人間を昏倒させる程の威力はない」
その意見を行くと颯太の中ではアイアンマンもマーク46に超音波を発生させる機能を有していたと聞いたことがあるがあれは反対派に着いた面々を無力化させる意図があったと思われるのでホブゴブリンも強力な武装と性能を有しているが極力傷付けないようにしたいという想いで搭載したのかも知れないと思わされた。
「そうだけど実際近距離で使われると結構厄介だよ。後はその腰のホルスターに付いてる金属製の柄は確か」
「ああ、200ペタワットレーザーの熱火力による切断から着想を得たらしいけど切断武器として常に使用するにはその電力量の確保は困難極まりない、実際ペタワットレーザーも瞬間的に打つだけだ」
「そこで、200ペタワットレーザーみたく何でも切断とまでは行かないけどグリーンゴブリンのエレクトリックショックグローブで電流を流す事によって必要に応じて高熱を帯びたレーザーの刀身を安定して現出させて切断武器とする。名前は紅焔」
200ペタワットレーザーからの熱火力による切断から着想を得てはいるがペタワットレーザーは強力な反面、以前はカートリッジ式であったり何度も連発は
出来ない武装であるためマイルドだがエレクトリックショックグローブからの供給で安定した形に落とし込もうとする切り口に参考になるなと感心させられるが武装のネーミングは謎だ。
「何でこれだけ和名なのかは不明だが、形状は日本刀を想定してるらしいからそう名付けたのかもな。表面温度は10000℃で刀身内部は約30000℃にまで達するから鋼鉄もバターの様に切れるかも」
「怖っ!だけどそんな高温の武器を振り回すとなるとやっぱり限定解除の後になるよね」
「ああ、だから今の俺じゃ使えない。正式じゃないからな」
紅焔は説明を聞くだけでも強力だと言う事は理解出来るがやはりそれだけ強力な武装は正式なパイロットに認定された者しか使えないという厳正なものであって然るべきであると思わされる。
現時点でゴブリンフォーミュラと適合してゴブリンのシステムと最もシンクロ出来るのは栄人ではあるが現時点では正式なパイロットではない現在では使用は出来ない。なんなら、いつか適合する人間が現れて正式なパイロットに相応しい人間がなるべきなのだろうと考えている。
「しかし、そんな高温自分も危ないんじゃって思うけど装着者を守る為に冷却装置で常に適温に冷やしてるらしいから流石はスタークさんだよね」
「ああ、本当にな」
「後はほとんど前のグリーンゴブリンに搭載されてた武装が引き継ぎの予定って所かな。確かにパンプキンボム強力だからね」
「…………」
グリーンゴブリンの頃の話をしたのは不味かったか?と思い、どうにかこうにかして話題を変えようと思考を巡らせ、思い付いた話を振る。
「………あのさ、今日は協力してくれてありがとう。助かったよ」
「別に、俺に出来るのはこれくらいだから」
「せっかくだしさ、ご飯行かない?何か運動したらお腹空いちゃった」
何とかして繋ぎ止めるようと夕飯にでも誘い、そこで腹を割って話すとまではいかないが一緒にどこかに出かけたり食を共にする事で歩み寄ろうと提案する。
しかし………
「……ワリィ、俺にそんな資格ねえから。じゃ、また何かあったら呼んでくれ」
「…………うん」
やはり、まだ鎌倉での出来事や自分のした事への踏ん切りは掴めないのか颯太の伸ばす手を取ることは出来ない。こうしてまたしても必要以上には関わろうとはせず必要とされれば協力するという距離感を保っている。
しかし、避けているのであれば要請を無視する事も、テストに協力する必要も無い筈なのにしっかり協力はするというどこかちぐはぐな行動に対し、自分でも思う所がないでは無いが自分にはその資格は無いとして一線を引き続ける。
ホブゴブリンのヘルメットを脇に抱えると颯太に背中を向けて退室して行く。
その背中を今はただ見送る事しか出来ないがそれでも、それでもきっと。そんな想いを抱えながらリュックを持ってハッピーに連絡にスーツのテストが終わった事を連絡する。
ハッピーと合流すると今夜、紗南に管理局の医療施設に呼ばれている事を伝えてハッピーの車の後部座席に座り、どこか名残惜しそうにビルを見つめているとハッピーが車を走らせて鎌倉にある本部へと戻る為に車に揺られて市ヶ谷から去って行く。
ーー奈良県某所ーー
和風の一軒家の中の広間の奥にタンスの様な大きさの仏壇が置かれており、その前に正座し、両手を合わせて黙祷を捧げる少女がいた。
この藁葺き屋根の和風の家の住人、十条姫和だ。現在は関東に荒魂が出現している状況下であるが鎌倉の一件以降、燃え尽き症候群を拗らせてしまったのか現在は活動しておらず実家でまったりしている。
次は庭に生えている樹から落ちた落ち葉を竹箒で拾い集めて庭の掃除に勤しんでいると車の駆動音が耳に入り、そちらに目を向ける。
黒塗りの車の後部座席から着物を羽織った糸目の女性、姫和の通う平城学館の学長を務める五條いろは学長だ。
「五條学長……」
自分の学校の学長が態々家まで来たと言う事は何かしら大事な用があるのかと予感していろはを招き入れると時刻は既に夕刻へと差し掛かり、夕焼け空が一面を橙色に照らす。
「この家…私がいない間も誰かが手入れしてくれてたようですが」
「家は人の手が入らへんとすぐに痛むからね。朱音様が気を使ってくれはったんよ」
集めた落ち葉の中心に火をつけて落ち葉焚きをしながら朱音に母篝へと宛てられたB5大の封筒を見つめていろはの話を聞くと、そこまでしてくれていたのかと納得する。しかし、いろはが態々家まで出向いて来た以上はこれから彼女に重要な話をしなければならないため覚悟して問い掛ける。
「なぁ姫和ちゃん。刀使辞めるか迷ってるん?」
「岩倉さんに聞いたんですか?」
姫和は図星を突かれた事に驚いたのか一瞬ピクリと反応するが何故それを知っているのかを熟慮すると自分の事を気に掛けてくれる級友がすぐに思い浮かんだ。
「早苗ちゃん…何か悩んだ顔してたから私が無理矢理聞き出したんよ。責めんといてあげてな」
勿論、彼女も学長という上の立場の相手に問われた以上は答えざるを得なかったのもあるだろうが心配している級友である自分の事を思ってくれての事だろうと理解は出来るため責めるつもりはない。
「20年前私の母はタギツヒメを討ち損じました。今更学長にする話ではありませんが」
「これでも当事者の一人やからね」
「折神紫に憑依したタギツヒメは刀使を使ってノロを集めさせその力を増していきました。それを知った母は全ては自分の責任だと悔やみ続けました。この世を去るその日まで……私は母のやり残したことを成すと誓いました。折神紫を討つと」
これまで学長には言っていなかった自分の心情とその目的を話し、既に用が無くなった朱音からの手紙を落ち葉焚きで燃ゆる火の中にくべて焼却する。この手紙を読み、一人で全てを背負いながら戦いを決意した時の心情を思い出していた。
「そうとは知らんと…ほんまに一人でよう戦うたね」
「いえ、一人じゃありません。多くの人に助けてもらいました。私が気付いてなかっただけで……小烏丸も学長が」
「ほんまはあかんのやけど学長権限でこっそりと。私はただ篝ちゃんの娘が小烏丸に選ばれたんが嬉しかったんよ」
「そのおかげで私は母の本懐を果たすことができました」
母親のやり残した事を果たす事ばかりに注力し過ぎて自分の視野が狭くなっていた事や、決して自分1人では今回の討伐はなし得なかった事を心から痛感して
おり、その内の1人にいろはも確かに入っていていて言葉にはしないが感謝もしている。
「タギツヒメもしばらくは現世に出て来んやろなぁ。それに今回は姫和ちゃん達も無事やった。20年前に比べたら目覚ましい戦果やで。でも…そうやなぁ……姫和ちゃんの戦いは一区切りついたんやね。それで引退を考えてるん?」
「タギツヒメ本体を討つまでは、と考えています。ただ……」
しかし、簡単に割り切れる問題でもなく一度眼前にあった大きな目標がなくなってしまうと人間は再び熱を取り戻すのは難しいものである。
まだ全てが解決した訳でも無いし、同時に様々な問題が噴出し始めている以上燻っている訳にもいかない事も理解はしているからこそこうして迷ってしまうのかも知れない。
「どうにも身が入らへん、って所?それはそれでもええと思うよ。姫和ちゃんはもう十分戦うたんやから。一度よく考えてから返事くれる?」
「わかりました……」
「実は……あ、これは言わん方がええな」
「何ですか?」
いろはもあくまで姫和の自主性を重んじ、熟慮の末に決めて貰うのが1番だろうと思って本人に一任する方針のつもりだったがつい、口を滑らせてしまい。口を手で押さえるが時既に遅し。
その気になる一文を聞いてしまった姫和は真剣な表情でいろはに問い掛ける。
夜、鎌府の寮ロビーのソファーに腰掛けて休息を満喫していた可奈美と沙耶香であったがどこか落ち着きがなく、うずうずしている様子だ。
恐らく本日は出動の要請も掛からず、身体をロクに動かす機会が無かったからか遂には痺れを切らした様に可奈美が起立して向かい側のソファーに座る沙耶香に向け、手を合わせて提案をする。
「あのね沙耶香ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「何?」
「お風呂の前に手合わせお願いできないかな?」
「いいけど」
「ほんとー!?いーやったー!」
自分の要求が通った事にガッツポーズをして大層喜んでいる可奈美に対して沙耶香は浮かない表情で俯いたまま本音を漏らす。
「いいけど…私で…いいの?」
「ん?何が?是非お願い!……ん?」
沙耶香の発言の意図が引っ掛かったが特に気にする事なく普段通りに気さくに接していると桃色の髪をツインテールにした小柄な少女が覚束ないゾンビの様な足取りでこちらに歩いてくるのが見えた
「薫ちゃんおかえり〜」
「……………おう」
「ねー」
「お疲れ様ー、遠征だったんだよね」
遠征から帰還した薫とねねだった。しかし、その呼び掛けに対してか細く掠れた声で覇気のない返事を返すばかりで顔色は完全に青ざめたまま、目の下には大きな隈を作っている事から相当疲弊していることが窺える。
そして、とうとう限界が来たのか糸が切れたマリオネットの様にソファーの上にうつ伏せに倒れ込むと左手人差し指だけを立てた状態で左腕を頭上側へ伸ばしたまま動かなくなり、止まってしまう。
「公務員には…労働基本権が……ない」
「「へっ?」」
返ってきた返事があまりにも突拍子のないもので脳がその言葉の意味を理解して処理するのに時間がかかったのか素っ頓狂な声が上がってしまう。
そして、うつ伏せのままの薫は壊れたオルゴールの様にぶつぶつと呟き始めるる。
「しかも俺達警察や消防には団結権、団体交渉権、争議権といった労働三権さえ認められていない……」
途端に仕事の愚痴に変わり始めたため、何が何やらと言った具合に可奈美と沙耶香は顔を見合わせて首を傾げるがそんな2人の様子もどこ吹く風のまま置き去りにしてこの疲弊した状態でも確かに溢れ出して来る制御不能な熱い炎の様な感情が身体を突き破り徐々に薫の語気は強まってヒートアップして行く。
「あんのクソパワハラ上司……っ!」
「真庭本部長の事……?」
それで伝わってしまうのもあんまりだが自分達全体に指示を出し、薫にとっては上司である現在本部長は紗南なため彼女が思い浮かぶのは自然な話だ。
しかし、その名前が耳に入った瞬間、上体を起こして天を仰ぎながら絶叫して不満を思い切りぶちまける。
「なーにが本部長だ!!ふざけんなあああああ!!
「うおっ」
「………っ」
「東へ西へ…完全に不当労働行為じゃねーかよ!!あの非人道的なクソバ」
普段無気力でダウナーな彼女がこうも矢継ぎ早に紗南への不満を叫んばせているとなると相当過酷な労働環境なのだろう。ヒートアップして勢いが止まらない薫の愚痴のボルテージが最高潮に達したその時……
げ ん
こ つ
「ぶへっ!」
かつてはテレビで多用されていたが最近での使用頻度は減少傾向にある特徴的な効果音と共に角ばった黒いフォントが出てきそうな音が鳴り響く。
「少しは労ってやろうと来てみれば……この野郎」
「本部長!」
「いってぇ……」
頭を押さえる薫の頭上で拳骨のポーズを取ったまま薫を見下ろす紗南の姿があった。しかし、怒っている様子はなくやや呆れ顔である事から自分への文句を言われた事だけでなく、公共の場であるロビーで騒ぐ方が問題だと思ったから当事者なりに止めに来たのだろう。
拳骨の痛みに悶絶している薫を他所に紗南はこの光景を見ている沙耶香と可奈美の方へ歩き出して持って来ていたケーキの箱を手渡す。
「これやるぞー。ケーキだ」
「ケーキ……っ!」
「ありがとうございます!」
「お前は反省室行きな」
「離せ!この暴君!圧政者!何で俺ばっかり…エレンはどうした~!』
「あいつはちょっと別の用事でな」
手渡されたケーキを前にして目の色を変えて喜ぶ2人とは対照的に頭を押さえて悶絶している薫の首根っこを掴んで持ち上げ、そのまま連行して行く。
疲労困憊状態の上に拳骨の痛みも相まっている最中また新たに何かさせられると思ったのか、堂々と不満を漏らす薫の悲鳴がロビーに虚しく木霊していく。
ーー一方、その頃とある研究施設にて
ドーム状の屋根を持つ大型な研究施設の構内の一室にて女子にしては170cmを超える長身の金髪の少女が両親と思わしき白衣を纏った男女と談笑していると反対側の部屋に入るための自動ドアを通ってピンク色のシャツに眼鏡を掛け、年老いているせいか頭髪全体が白髪となっているが高めの身長と青い瞳は白人だと思わされる老人が室内に入って来る。
「………グランパ!」
その人物の姿が目に入ると金髪の少女、エレンは目を輝かせて老人の元へと駆け寄って行く。彼女の発言から察せられる様に室内に入って来た老人は彼女の祖父であり身内のフリードマンだった。
「it's here long time!」
「oh!precious!」
長い間会っていなかったのか家族の再会の抱擁を交わすエレンとフリードマン
の間に家族団欒な和やかな空気が流れて行く。
鎌府の寮にて未だにロビーにいた可奈美と沙耶香は紗南にプレゼントされたケーキの箱を開封して中身を確認するとタルト生地の上にアーモンドクリームやカスタードクリームを敷いたフルーツタルトが入ったいた。
「フルーツタルトだ!」
「おいしそう……」
「貰っちゃっていいのかな?薫ちゃんの分は残しとかないとだね」
「うん」
「あ!衛藤さん糸見さん!」
目を輝かせながらフルーツタルトを覗き込む2人に気付いた声が耳に入ると現実に引き戻されてそちらの方へを見やる。
「歩ちゃん!」
「さ、早速会えましたね」
「衛藤って……?」
同じく鎌府の寮に下宿している先日の任務で応援として駆け付け、その際に知人となった歩とその友人と思わしき黒髪にサイドテールの同い年位に見える少女であった。
アイドルの握手会に来て緊張している反面、テンションが上がってあるのを隠せないファンのようなリアクションを見せる歩に対して一緒にいる友人の少女は可奈美達の名前を聞いて何か思い出したかのような様子を見せる。
「あ!今ちょうど本部長にケーキ貰ったんだ」
「え!?いいんですか!?」
「勿論!」
可奈美と沙耶香は並んでソファーに腰掛けてフルーツタルトを食し、歩とその友人の少女美弥は彼女達とは真向かいに腰掛け、手を膝の上に乗せて行儀良く座りながら2人が美味しそうにフルーツタルトを頬張る様子を眺めていた。
「ねぇ。この二人って例の大荒魂を討伐した…」
「そうだよ」
「知り合いなの?」
「ううん。たまたま昨日の出撃の時に応援で来てもらって……」
4ヶ月前の鎌倉の事件で大荒魂を討伐した有名人を前にして友人がその様な面々と知り合いになったのかと言美弥の疑問に歩はまだ出会って日が浅く、互いの名前くらいしか知らない程度の仲である事を説明しているとフルーツタルトを食し終えた可奈美が2人に向けて気さくに話しかけて来る。
「そうだ!私達この後道場で手合わせするんだけど一緒にどう?」
「いや~私は……」
「見学させてください!」
可奈美の提案に対して美弥は自分よりも上級者であり有名人からの誘いを受けてしまい、喜びよりも困惑の方が勝ってしまったせいか遠慮がちな態度を取っていたが歩は食い気味に身を乗り出してその提案を飲んだ。
「襲撃された?回収班がか?」
先程紗南に連れて行かれた薫は実は反省室ではなく実は本部に連行されていた。恐らく、可奈美と沙耶香を前にあの様な言い方をしたのは2人に知らせないという部分や近くにいた誰かに聞かれては困る内容だったからだ。
しかし、その内容があまりにも突拍子のない内容なため、半信半疑と言った具合で訝しげな表情を浮かべている。
「ああ。ノロが奪われた」
「荒魂か?」
「いや違う。襲撃したのは刀使だ」
紗南の発言に薫は目を丸くしてしまうがあまりに不可解な内容であったため、聞き返す。
「刀使が回収班を?どういう事だ?」
「言葉通りだ。刀使による荒魂の討伐後ノロの輸送中だった回収班の車両が別の刀使に襲撃された。この1週間で4件。全てノロが奪われた」
こうも易々と突破された上に強奪されている有様ならば護衛を付ける等して対策を講じるのが妥当だろう。しかし、態々自分だけを呼び出し、説明する事態になっているのであれば何かしらの理由があるのでは無いかと言う疑念も浮かび上がって来る。薫も呆れ果てながら苦言を呈するが紗南は一筋縄ではいかない事を説明する。
「おいおい、管理局はなぜ護衛をつけない?」
「つけた、2件目以降は刀使が護衛した。だが奪われた…相手は相当の手練れらしい」
しかし、聞けば聞くほど不可解な話だ。何故なら管理局に所属している刀使であるのならばその様なテロを起こしてまで個人的にノロを強奪する理由も無い上に、メリットもこれと言ってない筈だ。
そう、かつての折神家の様に局長のポストを陣取ってノロを自分の元へ集めさせるという思惑があるのであれば話は別だが紫が倒された事で局長の座から降りた以上、そんな事を出来る奴がいるのかと思わされる。
「意味が分からん。そもそもノロを奪ってどうする?以前の折神家じゃあるまいし…」
「…………」
「そうなのか?旧折神紫派の仕業なのか?」
否定とも肯定とも言えない沈黙であるがそれでいて真剣な表情で薫の瞳を紗南は見つめている。現時点では不明な点があるため断言は出来ないと言う事だろう。
「いや、まだそうとは断定できない。とにかく襲われた者達の証言によれば相手は一人だ」
「1人?」
「フードを深く被って顔は見えない、皆同じ証言だ」
紗南の発言の中で実際に襲撃されたとなると場所によっては防犯カメラや相手の詳細を特定する為に映像を撮影ししていもいい筈だ。その可能性に賭けて薫は本部の大画面のモニターへと顔を向ける。
「映像はないのか?」
「察しがいいな、これだ」
紗南は座っている机の上にあるデスクトップのキーボードのエンターキーを押して映像を再生する。
すると、大画面にボヤけてはいるが記録映像が映し出され、フードを被った謎の人物が護衛に付いていた刀使を横一閃に切り払っている姿が見えた。
一時停止を押して御刀を振り抜いた姿で固定すると薫は気になる事を質問し始める。
「御刀を持ってるじゃないか。管理局なら特定できるだろ?」
「それができなかった。登録されていない御刀だ」
「剣術の流派は?」
「当てはまる流派が多すぎる」
どうやらその相手は未登録御刀を用いることで所有者やその関係者を炙り出すのを困難にした上で敢えて様々な流派を攻撃に織り交ぜる事で追跡を撒いていると言ったようだが薫はよく知るある人物に協力すれば一気に特定が捗ると思い、自慢げに語り出す。
「可奈美に見せればいい。あの剣術オタクならこいつらの手癖からすぐに流派を割り出せるぞ」
「ああ、近く衛藤にも協力してもらう。だがまだ一部の者にしか知らせていない」
「勿体つける事かぁ?」
「事が事だけにな………後、もう一つ念のため警戒しておいて欲しい事がある」
「まだあるのかよ」
紗南が再度、少し曇った表情を見せると何度もすまないなとでも言いたげに声のトーンを落として実は最近、この強奪犯以外にも紗南の頭を悩ませる存在が出現し始めていたのだ。
「ああ、これだ」
紗南がマウスで映像フォルダのアイコンを選択すると映像が切り替わり、今度は別の映像が映し出される。
……全身がドス黒いコールタールの様なおどろおどろしくこの世の物とは思えない禍々しい2m程の人型の異形の姿だ。
丸い頭部に三日月の様に鋭い白い目玉は目付きが悪い等とは言い表せない威圧感を放ち、口も人間で言うならば耳の辺りまで裂けていると言った具合の大きな口には牙と形容した方が伝わりやすいであろう鋭利な歯がびっしりと並んでいる。
そして、映像の中の異形は何故か管理局が遅れた荒魂を討伐隊が来るよりも先に駆け付け……腕を刃に変形させ、それを振り下ろして荒魂を一刀両断して倒している等、入ってくる情報量の多さに薫は困惑し、掌で額を押さえながら情報を整理している。
しかしこの異形、体格や体色など異なる部分は多いが丸い頭部に白い目と言うとよく知る誰かにどことなく似ている。そのどうしても引っ掛かる部分に薫は顔を顰めて眉を寄せる。
「何だこりゃ海苔の佃煮の集まりか?……いや、よく見りゃこれって」
「ああ、似てるだろ?スパイダーマンに」
そう、似ているのだ。現在管理局に協力し、薫も実際舞草の仲間として共に戦った盟友の1人スパイダーマンにだ。
だが、いくら多少似ているとは言えこんな不可解な行動を単独で行う奴ではないし、その様なメリットも無い為実際に説明が付かない部分が多い。その点に気が付くとスパイダーマンではない可能性を語り出す。
「いや、でもありえないだろ。アイツは行動にそれなりの制約を掛けられてる筈だから単独でこんな事をする筈がない」
「ああ、現にこいつが1週間程前から現れた際に、時間も場所も一致しないからスパイダーマンじゃ無いのは確かだ」
「おまけに体格からして真逆だから尚更違うな、口も裂けてるし。だけどこのパチモンみたいな奴は一体何なんだ?スーツのデータが流出したのか?」
そして、薫はスパイダーマンのスーツを近くで何度も見ており写真にも納めている程察する機会がそれなりにあったため見れば見るほどとこの異形かスパイダーマンではないと確信を持つことが出来た。
ならばと、あり得そうな可能性を述べて行くと紗南は首を横に振りながら既に調べている事を語り出す。
「その線も薄いな、スーツのデータはカレンが徹底管理してるからそう易々と突破は出来ないだろう。念のためF.R.I.D.A.Y.とカレンに外部からコピーされた可能性を考慮してネットワークから探してみてもらったがそんな形跡は無かった。おまけに開発してるスーツの案にも似たような物はなかった以上、コイツはスパイダーマンどころかスパイダーマンのパクリですら無い可能性が高い」
この異形が出現し始めた事で、スパイダーマンに何となく似てはいるが時間も場所も異なる所にいたためスパイダーマンでは無いことは早めに知る事が出来た。
よって、早い内から颯太にもこの事を相談して実際に本部に招集させ、リモート通話であるがトニー立ち合いの元、作成中のスーツデータと案を確認させてもらったがその様なスーツを作っている様子も無い上にスーツデータに誰かがハッキングを仕掛けてデザインをパクった上でアレンジを加えた可能性も考えたがそのような形跡も無かったため外見に関して言えばただのそっくりさんの可能性が高い程度の事だろう。
「そっくりさんって所か、アイツをネガキャンしたいんならもっと似せてるだろうしな。しかしコイツ、やってる事って言ってもいち早く荒魂出現の現場に現れて速攻で片付けて逃げるだけだからあの強奪野郎程危険視する必要は無いんじゃねえの?」
薫は多少拍子抜けした様子でつらつらと語っていると自分で言っていて引っ掛かる部分があった為、顎に手を当てて咀嚼し始める。
スパイダーマンが蜘蛛型荒魂のバックアップから神性を受け取っているため素手で荒魂を倒せる事に慣れてしまって感覚が麻痺していたが本来はそうそうありえない事であると思い出した。
「……いや、おかしいか。そもそもコイツ何で御刀も無しに腕を刃に変形させただけで荒魂を倒せるんだ?こいつも神性を帯びた何かだってことなのか?」
「確かに我々もそこが気になってな、どの映像を調べても必ず腕を刃に変化させて荒魂を倒している事から神性の混じった存在かと思ったんだが我々が感知するよりも早く現場に駆け付け、荒魂を瞬きする間も無く倒してすぐ様行方を眩ませるから何者なのか尻尾も掴めんのだ」
荒魂にダメージを与えられるのは御刀のみ、なのにこの黒い異形は腕を変形させるだけで荒魂を倒している事が謎を呼ぶというのにその持ち前の戦闘能力故に速攻でカタを付けて行方を眩ませる事から特定が混迷を極めている様だ。
「現在分かるのは基本的に荒魂としか戦闘した様子は見られない、強奪犯と犯行時刻は被った様子がない事から関係性は薄いと言っ所か」
「敵とも味方とも言えねえ変な奴まで出て来る何てマジでめんどくせえな、しかもコイツは荒魂を倒すだけ倒してすぐに逃げちまうから強奪犯にその時に出るノロを奪われる可能性もないでは無いしな。コイツがいつ俺らの脅威になるか分からねぇ以上はコイツの事も一応警戒はしてた方が良いかもな」
映像を見ただけでは判断出来ない事が現時点の薫と紗南には多過ぎる事から、強奪犯程こちらに明確な敵対の意思は無いが二次被害的な心配と、得体の知れない存在である以上は注意は必要と言った所だろう。
「だな、内も外も警戒せざるを得ない経験をしたからな。情報を制限したいんだよ」
「管理局はまだ内部を疑ってるのか。ま、折神紫の件もあるからな」
前回の様に組織のトップが裏で暗躍し、長い年月をかけて用意周到な準備をしていた事実がある以上内部の人間こそ疑って掛かる必要があるため、極力信用出来る相手にのみ教えているようだ。
そして、態々薫にその特級の機密を教えるという事は余程薫の事を信頼しているという事だろう。非常にめんどくさくはあるがここまで素直に信頼を寄せられているのも悪い気はしない、紗南も不敵な笑みを浮かべると机の隣に置いてあったバッグを手に持つと席から立ち上がる。
「フン、何とでも言え。これから何か知ってそうな奴の所に行こうと思うんだが一緒に来るか?」
「ま、いいけど」(ん?……なんだそのバッグの中身?)
しかし紗南が持ち出したこのバッグ、不自然に全長約150cm程の布地で出来た袋に包まれている枕の様な物が入っていてかなり異彩を放っているため薫もつい気になって凝視してしまう。
「あー……その前に私はこれから行く所があるからお前は先に行ってろ。後から行く」
「なぁ、オバ……本部長殿。さっきから気になってはいたがそんなモン何に使うんだ?」
紗南がそのバッグを手に持って本部から退室しようとドアノブに手を掛けた瞬間、真面目な会話をしているのに妙な存在感のある枕の様な物体を指差してある意味最もこの場で気になっていた事を問い掛けると紗南は一旦静止する。
自分が今手に持っているバッグの中にあるこれに視線を移す。確かにこんなデカい枕を持ち歩いている光景はいかんせんシュールであるため気にはなるだほう。自分の状況が少し恥ずかしいのか頬を染めて歯を噛み締める。
だが、同時に薫の呼び方も看過出来ないものであったため、振り返るとジト目で薫の方を見やりながら右手人差し指を向けて悪態をついて退室する。
「聞くな……後お前今オバハンって言い掛けたな、後で覚えてろよ」
エターナルズとヴェノム、見て来ました。
エターナルズは何を話してもネタバレになる様な気がするのであまり深くは語れませんが観た人には何となく伝わりそうな言い方をすると初期の平ラ、エヴァ、FGO7章、まどマギ、怪獣優生思想を主役にしたダイナゼノンって感じでした。
概ね、まさに多様性戦隊エターナルズと言った具合でシンプルながら強力な能力による能力バトル物としての見栄えの良さと流石に開幕10人もおったら誰かしら空気化せん?と思いきや全員の掘り下げを映画の中できっちり行って見せ場を用意し、お互いの関係性もチームだから出来るものだなと唸らされました。
ストーリーの視聴感は教科書を渡されて今から説明するんで読みながら付いてきてくださいって言われてるような世界史の授業と言った具合で掘り下げは超丁寧ではあるんですけどかなり異質なので賛否が分かれるのも頷けましたが個人の自由意志vs仕組まれた運命論からの脱却と自分の道を決めて行く王道は外してないので是非その目で確かめてもらいたいです。
ヴェノムは良くも悪くも痴話喧嘩って言われてて見に行ったら大体その通りって感じでしたwただ、今回は関係性をより強く描いて長所を伸ばしたので前作より楽しんで見ることは出来たのは良かったです。
エンドクレジット後に衝撃の核弾頭打ち込むの最近流行ってるんですかね……w