刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
ーー早朝、美濃関学院学長室
早朝の美濃関の学長室の窓辺から見える一台の車に1名の女生徒とその保護者と思われる人物がトランクにキャリーバッグとボストンバッグを敷き詰めていた。
父親がトランクを閉めるとその生徒は母親に車に乗るように促され、頷くが名残惜しそうに美濃関の学舎を見上げる。
ここで……いや、ここだからこそ出来た友人たちもいた筈だろうに現実はその別れを惜しむ時間すら許してはくれず、車に乗り込むと同時に走り去って行く光景を窓越しに見ていた舞衣は学長室の椅子に腰掛ける江麻に対して話を振る。
「また転校のようですね……」
「親御さんのご意向でね。このところ危険な任務が増えているし刀使達に対する風当たりもね……」
机の上に置いてある公欠届けに目を通して内容を確認し、判子を手に取って印面を朱肉に付けて書類に判子を押して行く。
「本人はどうなんですか?」
「続けたかったようだけどあなた達は学生ですからね。保護者の同意がなければ御刀を返納してもらうしかないわ」
彼女達は公務員である以前に学生、保護者の同意無くしては辞職せざるを得ず現在多発する荒魂の出現により出撃頻度が多くなればそれに伴い危険な目に遭う可能性も高くなる。
更に管理局は4ヶ月前の漏出問題により世間からは悪い意味で注目の的とされているため世間的な体裁もお世辞にもいいとは言えない。
よって、先程の生徒の両親もやむを得ず転校という措置を取らざるを得なかったという事だろう。
「来週からまた鎌倉ね。大変でしょうけど頑張って来なさい」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
江麻から手渡された公欠届けを受け取るとお辞儀をして舞衣は学長室の横引きの扉をスライドする事で開けて廊下に出て歩き出すとポケットの中の携帯電話が振動する。
それに反応すると舞衣はポケットの中で振動する携帯を取り出す。着信画面の登録名には「お父様」と表示されていた。
「お父様?」
このタイミングでの父親からの呼び付け、先程の学長室でのやり取りでの事を紐付けして行くともしかすると、そう言う事なのか?という一抹の不安が過って行く。
ーー夕刻、岐阜の柳瀬邸
父親から実家に帰って来るように言われた舞衣は近辺の民家より圧倒的に大きな面積を誇る実家へと帰宅した。
実家の玄関の扉を開けるとその音に気付いたのかリビングから小学生程の幼い少女が顔を出す。紫色の髪をツインテールに結び、藤色の瞳が特徴の舞衣をいくらか幼くした印象を与える少女はリビングから玄関へと歩み寄って来る。
「あれ!?舞衣お姉ちゃんだ!」
呼び方で察する事が出来ると思うがそう…彼女の妹で柳瀬姉妹3女の詩織だ。普段は寮生活で実家に帰って来る事が少ない長女の舞衣が帰って来た事が意外だったのか身長差のある実姉を見上げている。
「今日は寮じゃないの?」
「ちょっとね、美結は?」
「あ〜……美結お姉ちゃんなら…」
次女である美結の名前を出されると詩織は若干答えにくそうにリビングの方へと顔を向けて彼女がそこにいる事を示唆する。
「おかえりー舞衣姉」
リビングから聞こえて来た気怠げな声の主は茶髪のボブカットで舞衣にも詩織にも似ていない風貌のセーラー服を纏った少女がソファーに寝そべって玄関にいる舞衣に視線を向けずにスマホをいじりながらポテチを食していた。次女の美結だ。
「おかえりーじゃないでしょ。また制服のままごろごろして」
「んー、これ終わったら着替えるよー」
リビングへと入りながら舞衣は美結を注意するが一向にそちらに視線を向ける事なく生返事をするだけであった。
しかし、すでに慣れているのか美結へと歩み寄って起き上がるように促すと美結の方もめんどくさそうに立ち上がって渋々制服を脱ぎ始める。
「んも〜めんどくさいなぁ」
「皺になっちゃうじゃない。ほら脱いで、もうすぐお父さん達が帰って来るんだからちゃんとしなさい」
舞衣の言葉が耳に入った詩織は驚いたのか目を見開きながらこちらを向き、反射的に質問を投げ掛けて来る。
「え!?帰って来るのお父さん?」
「ていうか日本にいたんだ」
どうやら海外への出張で家を開ける事が多く、家にはあまり帰らないようだが詩織よりは長く生きている美結は既に慣れているのかドライに受け流していると詩織は続け様に気になっている事を問いかける。
「じゃあもしかしてお母さんも?」
「うん、一緒だって」
「めっずらしい〜皆が揃うなんていつぶりだろう」
「え〜と、詩織の誕生日以来かな。お父さん達も忙しいみたいだから……あっ」
舞衣が逡巡している最中未だに下着姿の美結は起立した状態のままソファーに置いていたポテチを手に取って再度食べ始めていた。
あまりにもお行儀が悪いので舞衣はすぐ様、ポテチを取り上げて美結を注意する。
「こら!立ったまま食べないの!」
「はいはい」
「はいは1回!」
「………」
「何?」
舞衣からすれば長女らしく妹の世話を焼き、嗜めているだけなのだが美結は一々細かく指摘されたのが癪に触ったのか半分冗談半分本音と言った具合に訝しげに舞衣を見つめてイヤミを言い放つ。
「そんな細かいこと言ってるから彼氏できないんだよ舞衣姉は」
『舞衣』
「………っ!?」
美結の何気ないイヤミに対し、舞衣は一瞬固まってしまう。別にそんな急いで作るべき物でもないし、恋人がいるのがステータス等と宣うつもりはないがつい、自分の友人……いや、1人の親愛なる隣人であるスパイダー マンの中の人こと颯太の顔が無意識の内に脳内に浮かび上がった。
(なんで、颯太君のことを思い浮かべたんだろ私……)
以前は普通に接する友人と言った距離感であったが今こうして妹達が生きてこの場所にいるのはかつて彼が火災から救ってくれたお陰である。
そのためかつては恩人、彼の秘密を知って以降は秘密を共有して互いに寄り添い、共に苦難を乗り越えた仲間……戦友とも言える間柄へと変化し距離感は以前よりも縮まっていると言える。
よって、普通に友人としては好きと言えるだろう。しかし、異性として意識しているかと言われるとそこまで深く考えた事は無かったため自覚は無かったが真っ先に思い浮かべたのが彼であったため、気恥ずかしさから少し悶々としてしまった。
「よ、余計なお世話です……」
(え?なにその反応……?)
美結のイヤミに対して赤面して手の甲を鼻に当てて視線を逸らしているが当の美結は怒るわけでも無く急に恥ずかしそうな素振りを見せられたため困惑していると直後にリビングのドアが開く音がすると2人の男女が入室して来る。
1人は茶髪で生真面目そうな印象を受ける外見の特徴は美結と似通っている男性ともう1人はお淑やかそうに見える紫の髪に翡翠色の瞳で舞衣によく似た女性だ。
「おかえりなさい!お父様!お母様!」
「おかえりなさい!」
「おかえり〜」
どうやら彼女達の両親だったようだ。父親は孝則、大企業柳瀬グループの代表であり海外に仕事に行く際にスターク・インダストリーズの代表でトニーと顔見知り程度だが面識があり母親は柊子、社長夫人として夫の仕事の補佐をしておりよく2人とも家を空けるためあまり家には帰らない。
よって、久々の再会が嬉しいのか何処か舞衣の声色も明るくなっているようにも感じられる。
「はい、ただいま」
「舞衣、話がある」
「……はい」
柊子はお淑やかに返す反面、孝則は神妙な面持ちで普段は忙しいと言うのにわざわざ両親揃って彼女を呼び出したのはそれ相応の理由があると見える。
妹達は何が何やらと言った具合に顔を見合わせ、首を傾げているが当の舞衣は沈んだような表情へと変わって行く。
妹達は各々自室へと戻り、リビングのソファーに両親と舞衣が相対するように向かい合って座り、舞衣の座るソファーには添えるように納刀状態の孫六兼元が置かれている。
膝の上で右の手の甲の上に左の手の甲を重ねて膝の上に置き、行儀良くしていると孝則の方から本題を切り出した。
「舞衣、美濃関学院をやめなさい」
「……!?」
言われない可能性が0ではないと思ってはいたが実際切り出されるとショックは受ける物で目を見開いてハッとした表情を浮かべながら顔を上げる。
あの場所だから出来た友人、刀使という仕事を通して出来た繋がり、そしていつも自分たちを助けてくれる親愛なる隣人……それらとの繋がりを否定されたように感じてしまった。
「新しい学校は父さん達で決めた、すぐにでも転入できる」
「話が違います!高校卒業するまでは私の好きにしていいと……っ!」
「事情が変わったことぐらい理解できるだろう、任務中に怪我をする刀使も増えてるそうじゃないか。お前も随分と危険な目に遭ったそうだな」
孝則の言い分にも一理はある。この荒魂が頻出する状況下では危険な任務は自然と増えてしまうし4ヶ月前の鎌倉での戦いはいつ誰が死んでもおかしくはなかった。
それにより、当の舞衣も今朝の転校して行った生徒の事をふいに思い浮かべてしまった。親からの同意を得られない場合は刀使を続ける事ができないという事実を聞いているため、舞衣の中で焦燥感が募って行く。
「確かに…でもこの孫六兼元は私を選び私は刀使になることを選びました。覚悟ならできています!」
「軽々しく覚悟なんて言うもんじゃない!」
「………」
しかし、舞衣なりに意思を伝えるが孝則は一喝してその言葉を一蹴する。その圧に押されて舞衣は押し黙ってしまい、暗い表情を浮かべながら俯く。
そんな彼女の姿を見て孝則も少しキツく言い過ぎたかと思ってバツが悪そうに視線を逸らして隣に座る柊子へと視線を向ける。
孝則から向けられた視線にアイコンタクトで応じた柊子は頷き、孝則も頷き返す。
……そして、一息吐きながら舞衣の瞳を真剣に見つめながら孝則なりに自分の意思を伝える。
「舞衣、忘れないで欲しい。お前もこの家の一員だということを」
しかし、言われたままではいられないのか現在の管理局への世間の風当たりの強さからまるで自分達の世間体を気にしているのかと邪推してしまいつい低く、くぐもった声でイヤミが溢れてしまう。
「……柳瀬の家に刀使がいてはそんなに体面が悪いですか?」
「ん?」
「舞衣」
孝則は舞衣の言っている事にピンと来ていないのか鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべているが柊子は彼女の言いたいことのニュアンスが伝わっているのか舞衣を嗜める。
「ごめんなさい、言いすぎました」
「あなた」
重苦しい空気になってしまい、ここはお互いクールダウンが必要だと判断した孝則は溜息を吐くとこの場での最善策として妥協案を提案する。
「…そうだな、しばらく時間をやろう。ゆっくり考えなさい」
「……はい」
幾許の猶予を貰えたが舞衣の表情は晴れぬまま生返事を返す事しか出来なかった。
夜食と夕食を済ませ、寝巻きのままベッドの上に仰向けで横たわりスマホをいじっていた。先程両親に言われたことが響いているのか誰かに相談したくて搭載されている電話帳の登録欄を指でスライドして行く。
そこである名前の欄が目に入ると思わず指を止める。同じ学舎の同級生であり友人の可奈美の名前だ。
彼女に今の自分の状況を話して相談に乗ってもらいたいのか、今は誰かと話したい気分なのかしばらくじっと見つめていたが画面を切る。
画面のミラーに映る晴れないままの自分の表情が映し出されたがやはりこれは自分と家族の問題だ。そこに友人を巻き込むのは良くないのではないかと判断しての事だろう。
(転校してただの一般人に戻ったら……もう、皆と一緒にはいられないのかな。それとも……本当は私……)
ーー深夜、某所の山中
誰もが寝静まっている筈の草木も眠る丑三つ時、本来は人気の無いない山中にてミスマッチなけたたましい咆哮と轟音が鳴り響き、木々がドミノの如く倒れ、地盤が抉れる程の激戦が繰り広げられていた。
「■■■■■■■■■■■―――! 」
声にならない咆哮を上げながら騒動の発端である細長い長躯の巨体を引き摺りながら山中の広い山道で百足型の荒魂が侵攻を妨害する複数名の刀使で編成された特祭隊を威嚇する。
すると、何かが地面を強く殴り付けたような音が鳴り響き渡りその反動を利用したのか弾丸のように一瞬で宙に向けて一直線に飛び上がると耳に入って来る銃声の混じる通信の音声に荒々しく受け答えをしなが地上の状況を把握する。
『本部から警戒中の各班に通達、目標を補足し次第行動に移れ。これ以上の侵入を許すな』
「たりめーだ、今この場でぶっ潰してやろうぜぇ!」
跳躍が一定の高さまで到達した事で地上を淡く照らす月灯りにより闇より出た声の主の正体が露わになる。
身体を包む黄色で彩られ編み目模様を基盤にしたアンダースーツとそれを包む外部装甲、頭部を守るための鋭い目付きのツインアイのブラウン色のヘルメット、両腕にガントレットを装備しているややヒロイックなデザインのSTT用のパワードスーツ、ショッカー。
管理局からの認可を得た事で正式に登用され、裁判を終えた後にショッカーの専属パイロットとしてSTT隊員に採用されたハーマン・シュルツが上司からの指示を受け、この山中で戦闘中の刀使達を支援するためにこの場に馳せ参じたと言った所だ………しかし……
「テメーのおかげでよぉ……今日のスクリューボールのライブがリアタイから録画になったじゃねぇかゴラァ!」
「……っ!?なになに!?」
「声デッカ……っ!」
ヘルメット越しからでも伝わる程の怒気を纏った心底不機嫌そうな怒号、恨み節が周囲に響き渡り、刀使達の困惑と驚愕の篭った視線を一斉に集める。
何故この様な状態に陥っているかのか、簡単に説明しよう。
ショッカーを誰よりも上手く扱える人材とは言え、ハーマンは前科持ちで裁判の判決が執行猶予中な上にSTT隊員としては新米の中の新米であり、上官や先輩達や仕事で組む刀使達からの監視の元、STTの仕事である近隣住民への説明や避難誘導の手順、ノロ回収班との連絡の取り方の業務内容を覚えるために近隣の宿泊施設に泊まっていた。
そして、本来ならばこの時間帯はハーマンが激推しするアイドルグループ、スクリューボールのライブが歌番組で放送される予定であり現在のホームである神奈川県警の独身寮の自室にあるDVDプレーヤーでも録画はしていたのだが1ファンとしてはリアタイ視聴もしたかった。
しかし、残り数分でオンエアというタイミングで出動要請が入ったことでリアタイが不可能となったため非常に機嫌が悪いと言った状態である。
そして、ショッカーは私的な怒りも力に変えつつ早めにカタを付ける事が先決だと判断するとガントレットを装着してある両腕を前方に構えて百足型荒魂に向けるとガントレットが開き、金色の振動波が収束して行く。
「オラァ!」
怒号と同時に放たれた振動波がソニックブームを生み出しながら音速を越えたで一直線に百足型に命中する。
「■■■■■■■■■■■―――!? 」
ショッカーの放った振動波が直撃すると百足型荒魂は御刀による攻撃では無いためダメージはないものの両腕のガントレットから放たれ振動波を収束させた一撃であるため威力は倍増しており百足型荒魂の巨体を大きく震わせ、姿勢を大きく崩した。
「沈めオラァ!」
ショッカーは空中にいる滞空時間を無駄にしないよう位置エネルギーを利用するために上空に向けて振動波を放つ事でそれを推進力とし、怯んでいる百足型荒魂に向けて加速しながら接近し、その最中身体を捻る事で一回転しながら体制を立て直し、右拳のガントレットの起動をすると振動波を纏い、そのまま振りかぶって百足型荒魂の脳天に向けて振動波による加速が加わった位置エネルギーとショッカーの腕力と慣性の乗った右拳を叩き付ける。
「くっ……!」
「すごい衝撃……っ!」
ショッカーの拳が百足型荒魂の脳天に直撃すると同時に周囲の木々が震える程の衝撃が走り、地に足を着けて立っていた者達にも伝わることからその威力が窺える。
その証拠に百足型の荒魂の頭部を形成していた殻が割れて破片が飛び散り、身体全体に亀裂が入って行く。
そして、ショッカーが渾身の力を持って右拳を振り抜くと百足型荒魂の上体は地面に力強く叩き伏せられ、地盤が抉れてクレーターを形成する。
「よおーっし貰ったぁ!潰せガキ共ぉ!」
「言われなくても!」
「了解!」
拳を振り抜いた姿勢のまま空中で地上を見下ろすショッカーが地上にいる百足型荒魂を取り囲んでいた刀使達に檄を飛ばす。
彼女達もこの好機を逃すまいと理解し、全員で一斉にショッカーの攻撃で亀裂の入った頭部に御刀による唐竹割りを叩き込むと百足型荒魂の頭部は亀裂の入った部分から砕け散り、生命活動を停止した。
「ったく、手間取らせやがって」
「ご協力、感謝致します」
ショッカーが地面に着地し、右手首をぶらぶらと軽く振りながら既に事切れている頭部の無くなった百足型荒魂だったものを見つめ、共闘した刀使達と労いの言葉を掛け合いながらショッカーのヘルメットに内蔵されているHUDを操作してノロの回収班へ連絡を入れようと覚えたての連絡方法で回収班を呼び出そうとする。
「おう、テメーらもご苦労。後は回収班を呼ぶんだったな、確か回収班の番号は……うおっ!」
しかし、その矢先にショッカーのHUDに内蔵されているスペクトラムファインダーの機能が発動し、ヘルメットの中で警報音が鳴り響く。
唐突な警報音にショッカーが驚くと、他の刀使の面々も驚愕する。そのガラ空きになった隙を、彼らの気が抜けるのを狙っていたかの様に上空から風圧を纏いながら流星の如く地上に向けて飛来して来る何かが接近して来た。
「■■■■■■■■■■■―――! 」
「くっ!まだいたのか……っ!?」
「一瞬でここまで移動して来たって事!?」
「おいヤベーぞ!」
地上にいる面々が視認できる高度まで落下して来たそれは腕の代わりに前肢が翼となっており、下肢は恐らく二足歩行自体は可能だと思われる鋭利な鉤爪を持った脚を生やした鳥型の荒魂の飛来であった。
しかし、一同が百足型を祓った後で一安心してしまったのか上空から落下して来た際の強烈な風圧に備える間もなく全員が一瞬怯んでしまっていた。
「■■■■■■■■■■■―――! 」
「チッ!」
その隙を見逃すまいと鷹の目の如く鋭い眼光で狙いを見定めると鳥型荒魂は翼で突風を起こしながら地上にいる者達に向けて滑空しながら一気に撥ね飛ばそうと突っ込んで来る。
ショッカーはワンテンポ遅れたが迎え撃とうとガントレットを前方に構え、起動と同時に振動波を鳥型荒魂を迎え撃つ体勢に入る。
すると……
「…………」
「あ゛?」
「◾️◾️◾️◾️◾️ーーっ!?」
眼前に2mは優に超えるドス黒い色で深夜の背景と同化している巨体を持つ何かがショッカーの眼前、鳥型荒魂との間に立ち塞がり同時に液体が流動するかのように右腕を刃の形へと変化させると鳥型荒魂に向けて一直線に突撃すると金属で何かを斬りつけた様な重鈍な音と共に既に鳥型荒魂への背後まで移動していた。
そして、鳥型荒魂は勢い余って壁にぶつかった様な、何が起きたのか理解出来ていないかのようなくぐもった悲鳴をあげると同時に鳥型荒魂の胴体は縦方向に両断され、頭部は胴体から離れて空高く舞い上がる。
鳥型荒魂は滑空時の勢いを殺す事が出来ずに両断された事で左右に分かれてショッカーや刀使達には命中せずに地面に激突するとそのまま滑り込んで行った。
「ありゃ一体なんだっ!?」
「…………」
しかし、鳥型荒魂を一撃で屠った巨体の人物……とは呼べない全身がドス黒いコールタールの様なおどろおどろしくこの世の物とは思えない丸い頭部に三日月の様に鋭い白い目玉は目付きが悪い等とは言い表せない威圧感を放ち、口も人間で言うならば耳の辺りまで裂けていると言った具合の大きな口には牙と形容した方が伝わりやすいであろう鋭利な歯がびっしりと並んでいる人型の異形……ヴェノム だ。
その一方でヴェノムはショッカーや他の刀使達には一切興味を示す様子は無く彼らには目もくれない。
そのヴェノム の立ち振る舞いが癪に障ったもののショッカーは紗南が面会に来た際、彼女から各地でノロが強奪犯が出没していることを聞いていたため、荒魂を倒した所を狙って来たのでは無いかと思いヴェノム へ向けて力強く呼び掛ける。
「おい、そこのコーラみてぇなテメェ。助けて貰ったのは感謝するが噂の強奪野郎だっつーなら見逃せねえ、こっちに来て全部ゲロっちまった方が楽だぜ?」
「こんな時でもその物言い……一周回って尊敬できます」
「………」
しかし、ヴェノムはショッカーの呼び掛けに対し一瞬だけ視線を送る。その三日月の様に鋭く無機質な白い眼ではどう言った感情であるかは全く読み取れないが敵意の様な物は感じ取れない。
これ以上この場に留まって追求されるのが面倒だと感じたのかヴェノム は地面を力強く蹴り上げると一瞬で姿が消えたと錯覚する程の高さまで移動し、そう簡単には追い付かない距離まで移動していた。
「待ちやがれぇ!メントス突っ込むぞオラァ!……チッ、何なんだあのコーラ野郎」
ショッカーは苛立たしげに腕を組みながらヴェノムの飛んでいった彼方を睨み付けて舌打ちをしていると周囲の刀使達は新たに強奪犯や荒魂の乱入が矢継ぎ早に起きる可能性も考慮してか撤収の準備をしようと散開し、ショッカーは取り残された状態となっていた。
「だが、俺らの邪魔すんならぶっ潰すあ゛あああああーっ!!」
ショッカーがチンピラ時代のクセが抜けていないのか捨て台詞を残そうとした矢先、ショッカーの眼前に重量と位置エネルギーが乗った物体が落下して来て地面に激突し、轟音が鳴り響く。
ヴェノム が頸部を切断した事で空高く舞い上がっていた鳥型荒魂の頭部が今になって時間差で地上に落下して来た。ヴェノム に気を取られ過ぎて気付かなかったショッカーは自分の眼前に突き刺さった荒魂の頭部を見つめながら安堵の声が漏れる。
「あ、あぶねー……煎餅になる所だったぜぃ…」
ーーショッカー達の喧騒から離れた湖畔の見える森林の奥、そこに徐々に身体に纏うコールタール状の液体が縮小して行き、身体を包んでいた巨体はすっかり見る影もなく身に纏っていた人物を隠せる程度の衣服の様な姿となり、10代前半程の少女然とした体格へと変化し樹木の枝の上へと着地する。
上着の様な姿に擬態していたコールタール状の液体の様な生物は上着の表面から頭部のような物を形成し、首を伸ばすかのように唸ると自分の宿主に向けて話し掛ける。
「どうだ結芽、俺も段々型にハマって来ただろ?」
そう、現在公的には死亡扱いされており現在は隠匿生活を送っている元折神紫親衛隊第4席燕結芽、そしてそんな彼女に寄生している地球外生命体シンビオート、ヴェノム 。
4ヶ月前に鎌倉の折神邸での舞草と管理局の戦いにて、舞草の一員であるスパイダーマンと激しい戦闘の末に勝利したもののスパイダーマンとの戦闘で身体の限界を迎えてしまった事により力尽きてしまった……かに思われたが舞草の面々が突入した際に用いた射出用コンテナが保管庫に直撃し、爆発した事で自分は火の手に焼かれ、新たなる居住地へとするために侵略の下見として自分と一緒に着いてきた上司と言った立場である同族のシンビオート、ライオットは救出された。
命からがら脱出したが既に自身も虫の息となり、生への執着のみで彷徨っていた所死亡寸前であった結芽に寄生、同時に適合する事で両者の命を繋いだ。
しかし、人類で初のシンビオートと適合した事により宿主の彼女が実験対象にされかねない事、病は完治していないためヴェノム が身体から離れれば数分で結芽は死亡する上に次の宿主がそう簡単に見つかるとも断言できない以上数多の人間が融合に失敗して死亡する可能性が非常に高く人間側につくことはかなりリスキーである。
更に融合時に彼女の脳と結合した際に地球の情報を探り、自分たちの星よりはずっとマシな世界である事を学習し、そんな世界を終わらせる程腐りたくないと言う心境の変化、その上で自分を見下し続けた故郷の者達に吠え面をかかせんとパワーアップをするためにシンビオートの習性と結芽に周囲の人間を脅迫材料として盾に取る事で渋々と承諾をさせ、人間社会からは隔絶して生きる事になり今に至る。
しかし、結芽は命を繋いでくれた存在ではあるが自分を仲間や大切な人達から離れて生きざるを得ない要因となったヴェノム の事は受け入れ切れていないのか素っ気ない態度で言い放つ。
「まぁ、少しは上達したんじゃない?私に言わせればまだまだだけど」
どうやら普段は各地を転々としながら剣術の鍛錬を結芽から教わり、地道なトレーニングを重ねながら荒魂が出現すればヴェノムに変身してニッカリ青江を身体と一体化させて荒魂を討伐して即座に姿を消す。という生活を送っており、同時に剣術の指南は行ってはいるものの両者の仲はお世辞にも良いとは言えず互いに深入りはしないようにしている様だ。
「相変わらずかわいげないなお前」
「海苔の佃煮みたいなアンタに言われたくない、それにしてもコーラはないよねホント」
ヴェノムは結芽のキツい物言いに対して言われ慣れているのか特に気にする素振りを見せずに湖畔に向けて腕の形を刃の形に変形させてを伸ばし、水面を泳ぐ魚に狙いを定めてムチのように振り回すとヴェノム の腕にマスやフナと言った魚を一瞬で串刺しにして捕らえる。
そして、ヴェノム は慣れた手付きで木の枝を魚の口に通して貫通させると液状の身体に固定させ、周囲に生えている木の枝をへし折って焚き火の準備をし、彼女の愛刀であるニッカリ青江の柄を持ち、刃を少しだけ出す形にして石をぶつける際に出る火花で薪代わりの枝に点火すると身体に固定していた魚を火に近付けて焼き始める。
「なぁ、俺の経験値になるから構わないがなんで最近の戦闘では俺に一任するんだ?」
ヴェノム の口ぶりから実は先程の戦闘ではヴェノム が身体を動かし、荒魂を撃破していると察することが出来る。
ヴェノム 本人は宿主とコミュニケーションを取るつもりで何となく話を振ると結芽は一瞬固まると何か思う所があるのか絶妙な間を空けながら荒魂との戦闘ではヴェノム に任せている理由をポツリポツリと語り出す。
「………別に、言っとくけど練習してるだけじゃなくて実戦で経験を積まないと上達しないから」
「……そういうモンか……なあ、フナとマスどっちがいい?」
「フナ」
「いいぞ、あ、脳みそは俺が食いたいからお前は頭から下な」
「はいはい」
絶妙な間があったことに微かな引っ掛かりを感じたが結芽の発言自体は概ね正論ではあるため深く追求する事でもなく戦闘経験が少ない事も事実であるため素直に受け止め、魚を焼く作業に戻る。
そんなヴェノム を他所に結芽は夜空に浮かぶ満月を見上げてニッカリ青江に着けているイチゴ大福猫の限定キーホルダーを翳して月と重ね合わせ、このキーホルダーをくれた人物の事を思い返しながら切なげに小声で呟く。
「おにーさん……」
ーー翌朝、日曜日。柳瀬家の食卓
5人分の椅子が用意されている食卓用の長机に舞衣と妹2人が腰掛けながら3人分の和食の朝食が置かれており各々が朝食を摂っていた。
詩織は意気揚々と茶碗を左手で持ちながら箸で白米を摘み、口に運んでは美味しそうに食しているが美結はあまり乗り気では無さそうな様子だ。
「やっぱり舞衣お姉ちゃんの作る朝ご飯は美味しいね」
「私はトーストの方が好きなんだけど……」
「文句を言わずに食べる!」
「はいはい」
「はいは」
「一回」
相変わらずなやり取りを繰り広げているとリビングのドアの開く音が聞こえた為、食事を撮っていた一同は音のした方向へと視線を顔を向ける。
執事の柴田がドアを開けた矢先にワイシャツ姿にネクタイを結ぼうとしながら歩いて来る孝則だった。しかし、そこに柊子の姿はない。
「お父さんおはよう!」
「おはよう」
「お母さんは…やっぱりまだ寝てる?」
「ああ、しばらく忙しくしていたからな」
しかし、帰って来たばかりの上に日曜日の朝だと言うのに孝則はスーツ姿であり、世のお父様方ではそう珍しくは無いのだが疑問を抱いた詩織は気になった事を問い掛ける。
「日曜日なのに仕事なの?」
「ああ」
「お父さんはいつもコーヒーだけだよね?」
その一言を聞いた矢先に気を利かせて淹れなければと思った舞衣は立ち上がりながらキッチンに向かおうと席を立とうとする。
「じゃあすぐにコーヒーを…」
「いや、もう時間がない。柴田、車を回してくれ」
「かしこまりました」
しかし、朝食を摂る時間も無いらしく孝則が柴田に指示を出すと彼はスーツの上着を孝則に着せると同時に退室して行く。
自分の気遣いが空回りしたような気がして気まずそうに視線を外していると孝則が舞衣に向けて声を掛けてくる。
「舞衣、お前も出かける支度をしなさい」
「え?」
唐突に声を掛けられた上に用事に付き合えと言われた為、鳩が豆鉄砲を食ったような表情のまま思わず聞き返してしまった。
支度後、美濃関の制服に着替えた舞衣は孝則と共に柴田の運転する車に揺られながら高速道路を走っていた。
車内の中では無言の圧力が支配したような重苦しい空気が漂う最中、後部座席に座る舞衣は隣に座る孝則の意図が掴めないため怪訝そうな視線を一瞬孝則に送る。
しかし、孝則は前を見据えているのみでこちらを向くことは無かったが視線を外に向けるとドーム状の屋根が特徴の大きな建物が見えたため舞衣は反応する。
「ここは?」
「この前まで特別希少金属研究開発機構と呼ばれていた場所だ。聞いたことくらいあるだろう?」
これまで沈黙を保っていた孝則が視線を舞衣の方へ向けながら質問に答える。それに応じて舞衣も孝則の眼を見ながら言葉を紡ぐ。
「ええ。でも刀剣類管理局の体制が変わって閉鎖されたんじゃ……」
「国主体の独立行政法人としてはな。うちが資金を提供し民間の研究機関、特別希少金属利用研究所として再スタートさせた」
「利用…?」
「そうだ、玉鋼に御刀以外の利用法がないか探ってる施設だ」
施設の中に案内され、実験現場を見物できるガラス張りのモニタールームで説明を受けている。
この場所から見物できる実験場にて四角いガラス張りの機器が階の間の通路に設置されており白衣を纏った研究員達が作業をしている。
「ここでは現在玉鋼を媒介として隠世からエネルギーを取り出す研究が行われている」
「そんな事が可能なんですか!?」
「理論上はね」
ふと背後から会話に介入するかの如く声を掛けられたため孝則と舞衣は振り返る。するとその背後には白衣を纏い眼鏡をかけた研究者といった風貌の男性とその隣にはプラチナブロンドの髪を短髪にし、青空のように青い瞳の白人女性がいた。
眼鏡の研究員は右手の人差し指を立たせながら先程の解説の続きを語り出す。
「玉鋼とは現世にありながら隠世に影響を及ぼせる金属です。その特性を利用することで現世と隠世の境界を曖昧にしこの世に存在してなかった物質を現出させる、これが可能になれば従来の物理法則を無視した無尽蔵のエネルギー源を手に入れられるんですよ」
しかし、ジェスチャーを交えながら説明をしてくれる研究者であるがどこの誰なのかは存じ上げないため舞衣は気になっている事を質問する。
「あの…あなたは…?」
「ああ失礼…僕はここの研究主任をやっている古波蔵公威といいます」
「妻のジャクリーンよ、よろしくね」
熱くなりすぎたか。と照れ臭そうに右手で頭を掻きながら自己紹介をする公威とジャクリーンと名乗った女性の方は気さくに右手を差し出して握手を求めて来る。
「こちらこそ……え…?古波蔵って…」
握手をに笑顔で応じる舞衣であったが彼らの名字には聞き覚えがあった。自分がよく知る、4ヶ月前に出会ったばかりだが共に鎌倉で戦い抜いた間柄の仲間と同じ名字であったため自然と彼らの正体が明るみになって来る。
「ハイ!エレンのパパさんとママさんデース」
「ええ!?」
「驚いたかな?」
更に続け様に前方から2つの歩いて来る影がこちらに迫って来ており、その方向に視線を向ける。
1人はピンクのシャツに眼鏡を掛けた白髪が特徴の老人と言った人物とその隣には右手首に巻いているスマートウォッチに見える装飾品の画面を凝視しながら左手で顎に触れ、念仏のように何かを呟く明るめの茶髪で下を向いているせいで前髪で顔が隠れている舞衣よりかは幾分か背の高い少年がこちらに向けて歩いて来ている。
「うーん……やっぱ瞬間的に形成するにせよ使う液状プロテインの改良が必要だよな……蛋白質分子を改良してシネマチック液晶、H2核磁気共鳴分光法、垂直軸で200Hzの磁界を回転させて双軸性相位パラメータを算出してイオン化装置と水分回収機を交換……って舞衣?」
しかし、隣を歩いている老人が立ち止まった事に気が付くと彼も足を止めて前方を向く。本日この研究施設に装備開発の指導も兼ねてフリードマンに呼ばれてこの場に来ていた颯太であった。
「フリードマンさん!それに颯太君も……どうしてここに?」
舞衣はよく知る2人が現れた事により思わず驚いてしまう。更に言えば先日の夕方、実家で美結にイジられた際に颯太の事を無自覚の内に真っ先に意識してしまった事を思い出して少し気恥ずかしくなってしまい彼の顔を直視出来ずに一瞬眼を逸らすが颯太は特に気にした様子もなく、デバイスの画面を通常の待受画面に戻しながら質問に答える。
「博士に呼ばれててね、プログラミングとか機械の操作の勉強をしに来てたんだ」
「そうなんだ……」
「………?」
しかし、こちらの様子も梅雨知らずにあっけらかんと返されてしまったため一瞬意識してしまった事を恥ずかしく感じたが友人と再会出来た事は嬉しく思っていた。
だが、孝則は舞衣が一瞬照れ臭そうにした瞬間を見逃してはおらず真剣な顔付きを崩さぬまま舞衣と颯太を交互に見つめながら問い掛ける。
「舞衣、彼は?」
「同級生の友人です、学科は違いますけど共通の友人の繋がりで知り合いました」
(親子で敬語?なんかよそよそしいな……それに舞衣もなんか元気ない?)
「こ、こんにちは」
「……こんにちは」
異性の同級生の親というどう接していいか分からない距離感の相手であるため颯太が若干ぎこちない状態で孝則に対して会釈をすると孝則もそれに応じて軽く会釈を返すが孝則は颯太の事をじっと見つめている。
その視線が気になってしまい困惑している颯太の助け舟を出す為にフリードマンは多少話題を変えて注意を自分に向けようとする。
「ああ、舞衣君。僕がここにいる理由はまだ話してなかったね。君の父上に請われてね、この研究所の名誉顧問に名を連ねてるんだよ」
「父に?」
それと同時に自分の父親がフリードマンにこの研究所の名誉顧問を依頼していた事実が衝撃的であったため顔を孝則の方へ向ける。
「そういう事だ」
「しかし孫娘に続いて娘夫婦とも知り合うなんて君はよくよく私のファミリーと縁があるようだね」
「あなたのこと聞いていますよー、マイマイ」
「マイマイ……?」
ジャクリーンのかなり砕けた娘への呼び方に生真面目な気質の孝則は真剣な表情のまま鳩が豆鉄砲でも食らったような表情を浮かべて心底困惑していると舞衣が恥ずかしそうに俯きながら実状を説明する。
「エレンさん…お二人の娘さんがそう呼ぶんです…私の事」
「そうか……」
家では知る事が出来ない娘の様子を知ってどこか納得したような表情を浮かべている矢先に同時に自動ドアを通ってこの部屋に入って来る人物がまたしても現れた。
「古波蔵主任、もうじき近接反応実験が終了する頃かと思われます」
「ああ、もうそんな時間ですか」
20代後半〜三十路程に見える白人男性で金髪に翡翠色の瞳は一見爽やかそうな優男の印象を与え、身に纏う白衣の右腕の袖には腕が通ってはいない。
いや、右腕が肩より下には存在していないのが特徴の青年が公威に声を掛けて来る。
本日、この研究施設で研究者として見学に来ていた研究者カーティス・コナーズだ。
(あれ……この声……どこかで……でも、思い出せない)
舞衣は以前、あの鎌倉での決戦で夜見と対峙した際に同行していた雪那の通信に割り込んで来たコナーズの声を聞いているため聞き覚えはあったがあの時は一刻を争う切迫した状況であった上に自分たちには何もして来なかったコナーズの事は気に留める程の存在でも無かったと認識していたため思い出す事は出来なかった。
「私の事はお気になさらず、本日見学させて頂きに来たしがない1研究者ですので………」
一同がモニタールームに入って来たコナーズに対して視線を向けているとコナーズはこの場にあまり似つかわしく無く、ただの一般人にしか見えない中学生である颯太と目が合うと瞳孔が散大して脳内で古い映像がフラッシュバックする。
ーー茶髪に優男と言った風貌の白衣を纏った颯太を幾分か大人にしたように見える人物とまだ10代半ば程で幼さの残る白衣が身長よりもやや大きいコナーズが談笑している光景であった。
(………先輩?)
(……この人、僕を見てる?)
『主任、近接反応実験が終了しました。データの解析に移りたいのですが』
しかし、直後にモニタールームに向けての現場で作業をしていた研究員の通信により現実に引き戻され、颯太からは視線を外しガラスケースに囲まれた擬似的な社を見下ろす。
颯太は特にコナーズを気にする様子は無いが妙に見られていたような気がしていると放送が耳に入り、皆と一斉に機械の方へと視線を向ける。
「わかった。ノロは保管場所に戻しておいてくれ」
「ノロ……?」
部下の研究員の通信に対して公威が主任らしくきびきびと指示を出して行くが舞衣はノロという単語を聞いた瞬間に目の色を変えてガラス張りの壁に手を付いて機械を凝視する。
「どうした舞衣?」
娘の変わった様子に対して孝則が問いかけると舞衣は真剣な表情と声色で機器を見つめながら公威に問い掛ける。
「あれは…何の実験ですか?」
「玉鋼とノロを接近させることで起こる反応を観察しているんだよ」
「ここでは実験にノロを使ってるんですか!?」
「ま、舞衣?」
「え?うん……そうだけど」
舞衣は公威の方へと振り向きながら強い語気を含んで問い掛けると公威はその圧に圧されてしまい、颯太も舞衣の様子に驚いていると公威は助けを求めるようにフリードマンへと視線を向ける。すると、フリードマンも前に出ながら説明を開始する。
「どうやら舞衣君は過剰にノロを恐れてるようだね」
「恐れているのではありません!敬っているんです、それを教えてくれたのはフリードマンさん、あなたじゃないですか!」
舞衣の力強い物言いに対してフリードマンは特に物怖じせずに優しく語りかけるように自分なりの意見を舞衣に伝える。
「確かにノロは分散させ社で祀っておくべきだと言ったね。が、それはベターなやり方ではあるがベストではないんじゃないかな?」
「え?」
「ノロには意識もあり意思もある。タギツヒメやねねを例に挙げるまでもなくね」
「………」
颯太に力を託した荒魂、エゼキエルの事は舞衣もフリードマンも颯太ごしに聞いてはいるが部外者であるコナーズがこの場にいる上に極力スパイダーマンの正体は秘密にしなければならない都合上例には挙げなかったが颯太は確かに心の中で思い浮かべていた。
エゼキエルには自分を倒した人類を認め、見守り続ける事を決めた心がある事は直に会話して理解していた。もちろん、交流のあるねねや実際に戦ったタギツヒメ にも意思があることも理解している。
「ノロが祀られることを望んでないと言われるんですか?」
「放っておかれるよりは遥かにマシだよ、でももっといい方法があるんじゃないかということさ」
「もっといい方法?」
エゼキエルもかつては人間に自分達の過ちの象徴として祀られ、礼拝される存在であったが戦争等、その地を離れざるを得ない事情があったことで次第に忘れ去られ、過去の遺物と化した事を口では悲しんでいない事は聞いていたがそれは少し、強がりと言うか空元気のように感じた。
その上、それでもかつて自分を倒した人類の未来を終わらせたく無いとしてタギツヒメ との戦いに臨んだことも……その上で自分が隠世に送り込まれてもバックアップを切り離して人類にタギツヒメ に対抗する可能性を残したことももしかしたらその行動原理の本質は恐らく……
「私はね、ノロの穢れの正体は寂しさなんじゃないかと思ってるんだ。ノロを祀るというのは彼らを忘れず関心を持っているという意思表示に他ならないんじゃないかな。あの里でのお祭りのようにね」
「ノロは…何をそんなに寂しがってるんですか?」
「彼らは玉鋼を求めてるんだよ、人の手によって無理矢理分離させられた分身をね」
「あの実験は玉鋼と近づけることでノロの穢れが清められるのを実証するためのものなんだよ」
「実際距離と時間に比例して穢れの減少は計測されていマース」
「それってまるで母親に抱かれて安心する子供のようだとは思わないかい?」
諭すように説明された事で憤っていた舞衣も納得出来たため落ち着きを取り戻したがその説明を聞いてもどうしても覆せない事実もある。
それが引っ掛かってしまった事で俯きながら悲しそうに呟く。
「でも…」
「そう、残念なことにノロと玉鋼を再結合させる方法はない」
フリードマンもどこか悲しげな表情になるがガラス張りの壁の向こうに見える機器に運ばれていく箱詰めにされているノロの方を見るように指差して強調する。
「あの子はニモというんだ」
「ニモ?」
「寂しがり屋のリトル・ニモさ。私はね、あの子の声が聞きたいんだよ。本当に望んでいるものが何なのか。社で祀られるよりも心地よい場所はないのか、それを教えてもらうためにね」
この場所で行われている研究については自分も舞衣と同じ位の事しか説明されていなかったため詳しい事は言えない上に変に自分がこの場の皆にスパイダーマンの正体だと勘繰られないように先程からあまり会話に入らず静観していた颯太も舞衣の方を向き、彼女の瞳を見つめながら自分なりの意見を伝える。
「僕も……正直、最初この話を聞いた時は驚いたよ。けど、博士たちの話を聞いてる内に思ったんだ」
「颯太君……」
「人間同士ですら分かり合う事は難しいし、上手く行かない事の方が多い……更に言えば元はと言えば彼らを生み出したのは僕らのせいでもあるしね……けど、それでも人間が生み出して来た技術で人間なりに諦めずに歩み寄ろうとする事自体は悪くないんじゃないかなって思うよ」
これまで戦って来た犯罪者や強敵たち、今もなお関係性が元通りとまではいかずに付かず離れずのままいる友人との人間関係、正体を知られる訳には行かない都合上家族に隠し事をしなければならない今を取り巻く状況を得て人間同士ですら分かり合うことの難しさをより実感する今日この頃ではあるがそれでも歩み寄る努力が大切なのでは無いかと言う部分には共感が出来た。
かつては軍事利用のためにノロを活用しようとしたフリードマンであるが彼も実際に20年前の大災厄で失敗した事で過ちに気付き、彼なりにどうにかしようとしていた事も知っているため、人間が作り出してしまった存在に対し人間が作り出して発展させて来た技術を以て彼らに寄り添おうとする姿勢を特に否定はしないというスタンスだ。
颯太の話に聞き入っている舞衣に対して孝則も今日、この場に来た理由。そして、自分なりにどんな想いでここへの支援を決めたのかを語り出す。
「私はこの話を聞いてここへの出資を決めた。できれば将来お前にも協力してもらいたい……そこの君、技術者志望なら一緒にどうかな?」
「えっ?いや僕は技術者になるかどうかはまだ……」
「いや、その歳で博士から指導を受けているなら君も興味があるのかと思っただけなんだが」
「そ、そうですか……け、検討してみます……」
「私は……」
突然孝則に話を振られた事で颯太もが少し動揺してしまう。舞衣もガラスに保護されている擬似的な社を見つめているとずっと沈黙を保っていたコナーズが無意識の内に吐露したと言った具合に社を見下ろしながら小声で呟く。
「本当は……個である方がずっと楽で自由な事もあると言うのに」
「えっ?」
「……いえ、別に大したことではありませんよ」
コナーズの呟きが耳に入った颯太は一瞬コナーズの方を向くが彼は特に気にする素振りは見せずに口元を緩ませて微笑み、別に気にする事ではないとアピールするがやはり何処か引っ掛かる言い方であったため、颯太は喉に魚の小骨が刺さっているような感覚に陥いる。
その矢先、この場の空気を変えるかのように大きくて明るい声がモニタールームに木霊する。
「マイマーイ!お久しぶりデース!」
ピンク色を主体としたフリフリのレースが付いた着せ替え人形シリーズで見かけた事がありそうな少女チックな衣装を纏った金髪に長身の少女がこのモニタールームに入室しながらこちらに駆け寄って来て舞衣に抱擁を交わす。
「エ…エレンちゃん?」
戸惑う舞衣から身体を離し、エレンは太陽の如く明るい笑顔を向けた。
モニタールームに会していた一同は一度解散し、それぞれ別々の場所で休息を取っていた。フリードマン 、ジャクリーン、公威、孝則は食堂のテーブルで会話をしておりその隣のテーブルで颯太の送り迎えをしてくれる運転手役のハッピーがボウル一杯に盛られたポテトサラダを食している。
コナーズは特に誰かと共に行動するでも無く1人で念入りに周囲を見渡しながら施設内を練り歩いて観察している。
そして、舞衣、エレン、颯太の3人は久々の再会を祝しテーブルを囲うように椅子に腰掛けて飲み物を飲みながら談笑していた。
すると颯太は昼下がりの陽光と昼食後に起きる微睡により目元を指で擦りながら大きく欠伸をする。
「ふぁ〜あ……やばっ、眠くなって来たな……」
「最近あまり眠れてないの?」
「スタークさんからの課題の提出期限が近い時は睡眠時間を削る事は多いね、だからコーヒーとブラックガムは手放せないし作業しながら片手間で食べられるチーズバーガーって最高だなって実感してる。もう最近の主食だよ」
最近の偏った食生活のルーティーンを明かすと2人共心配そうな表情を浮かべ、エレンは思い出したかのように語り出す。
「そう言えばトニトニもチーズバーガーばっかり食べてましたネ……」
「マジ?作業の片手間で食べられるものを探してたら1番良かったのがチーズバーガーだったんだけどスタークさんもそうだったのかな」
「ちゃんとバランスの良い食事を取らないと倒れちゃうよ、良かったら今度…っ!何でも無い……」
舞衣なりに彼の食生活を心配していただけなのだが、危うく話を自分の手料理を食べてもらおうと言う方向に持って行きそうになったと気付くと歯切れ悪く提案を中断する。
「?……まあ、たまにサラダも食べるようにはしてるから。意外と僕が頑丈なのは知ってるでしょ?」
「物理的にデスケドネ……」
「それはそれとして続きやんなきゃ、提出期限近いしね」
颯太はトニーに課されているプログラミングの課題の続きをやるためにテーブルの上にパソコンを置いてキーボードを高速で叩きながら思い出したかのようにエレンに話を振る。
「あ、そういやこの前薫に会った時たまにでいいから顔見せろって言ってたよ」
「Really?本人からも直接聞きたかったデース。ですが、そう遠くない内に会えそうな気はしマス」
しばらく会えていない相棒から言及されていたという事実に瞳孔部分におおきな十字型の光マークが入り、目をしいたけのようにしながら歓喜して頬杖をつき感慨に耽っていると舞衣がエレンがこの場にいる事について質問する。
「所でエレンちゃんは任務で?」
「YES!最近ノロが強奪される事件が連続して発生してるため厳重警戒中デース」
「でもここなら美濃関の方が近いのに……」
「それが警備の話を聞いたグランパが久しぶりに家族水入らずだーって私を指名したんデス!公私混同ってやつデスね」
颯太もフリードマンにプログラミングと装備開発の指導を受けに来ているのが主だった理由ではあるが可能な限り注意はしておくように言われているためこの情報は共有しているが外では不用意に話せないことも多いため敢えて必要以上には言及しない。
その事情はなんとなく察せられるため舞衣も特に言及はせず普通に会話を続けている。
「それあまりいい意味で使う日本語じゃないから…それにしてもその格好…」
そして、気になっていたエレンの派手なカラーリングの服装に付いて言及するとエレンは席から立ってその場でくるりと一回転するとヒラヒラとした激しい動きをするには不向きに見えるロングスカートの裾を軽く摘む。
「これパパからのプレゼントなんデース!任務には向いてませんけど折角だから着てる所を見てもらおうと思いまして」
「そうだったんだ、とっても似合ってるよ」
「ありがとうございマス!ソウタンはどう思いマス?」
2人の会話が盛り上がっている最中、まさか自分にその手の話を振られるとは思っていなかったため顔を上げてエレンの方を向き、数秒間観察すると身体全体を彩るピンクコーデの配色と高校生であるエレンが着るにしては少し幼い印象を与えるフリフリな装飾といいどう褒めていいか分からずに無理矢理捻り出したような感想を述べる。
「え?僕?……うーん、すげえ配色だね、苺ケーキみたい。いいと思う」
「oh……無理矢理褒めてる感がありマス……」
「こういう時、褒めるならちゃんと褒めないとダメだよ」
「はーい……気を付けまーす」
4ヶ月前に知り合い、苦楽を共にしてある程度親しくなった仲間と呼べる間柄であるためなるべくネガティブな事は言わないよう気を遣ったのだが言葉選びがよくなかったようで2人から指摘されてしまい軽く凹む。
そして、そんな空気を変えるためにエレンは視線を泳がすとふと食堂で4人で会話しながら飲食をする自分の家族と孝則の姿を発見すると話題をそちらへと持って行く。
「……マイマイパパって素敵デスね」
「ゲフッ!」
「うおっ!」
「ごめん……す…素敵…?」
唐突なエレンからの賛辞に思わず紅茶を飲んでいた舞衣は咳き込んでしまい、隣に座っていた颯太にも驚かれてしまったが身内をそんな風に言われると気恥ずかしさを覚えてしまい、赤面しながらその意味を問い掛ける。
「ここが閉鎖されていたらパパとママは路頭に迷う所デシタ。グランパはお金持ちデスからその気になれば助けられたんデスけど公私混同はよくないって」
「さっきと言ってる事が違うけど…」
「マイマイパパはどうしてここに資金を提供したんだと思いマス?」
「それは…玉鋼の研究はお金になると思ったから?」
舞衣なりに日夜休みなく働いて会社を経営している孝則のことを考慮すれば金を稼ぎたいという方向で物事を進めるというのは自然な発想だ。
だが、ここ最近で知識を付けた颯太と当事者の身内であるエレンからすれば違った答えが見えて来る。
「実はさ、スタークさんや博士の所で勉強させてもらうようになってから知ったんだけど玉鋼の研究ってそこまで稼げないんだって」
「え?それって?」
「お金になる研究してたらそもそも潰れそうになんかなりません。玉鋼でノロの穢れを祓えるようになったら多分刀使は必要なくなりマース」
「っ!」
「マイマイが危険になることもなくなる。だから何としてもその技術をって。そんな風に思ってるんじゃないデスか?」
確かに、エレンの言う事が本当なのであれば筋は通っている。先程フリードマン達から聞いた話の通り穢れの減少が確認されたと言う事実が本当だと言うならもしその技術が進歩すればすぐには無理かも知れないがいずれは命懸けで刀使が戦い、傷付き、命を落とす危険性を減らせるかも知れない。
彼女の親として娘の身を案じてこの研究を援助したのでは無いかとエレンは考えているが舞衣はまだ半信半疑といった具合で俯きながら否定する。
「考え過ぎだよ」
「そうかな……けど、エレンの言ってた事を鑑みればお父さんの行動にも筋道は通ると思うよ。憶測に過ぎないけど、家族には……大切な人には危険な目にあって欲しくないって思ってるのかも知れないし」
「颯太君……」
舞衣の瞳を真剣に見つめながら自分なりに孝則の行動を咀嚼した考えを伝えると舞衣にはその言葉に何処となく現実味を感じた。
実の両親だけでなく育ての親で実質父親と呼べる叔父を失い、スパイダーマンとなってかつては周囲の人間を巻き込まないように独りで自警団活動をしていた颯太に言われた事もあったからだろうか。
そして、エレンは再度孝則達が談笑している食堂を見やると颯太と舞衣も食堂に視線を向ける。
「うちの家族は特殊なんデス。パパもママもグランパもみんな研究に人生をかけているような人で、今はこうして同じ場所にいますけどそれってとっても珍しいことなんデス!」
「うちと一緒だね……」
「でもパパは私の誕生日にはプレゼントを送ってくれるんデス!顔を合わせる事はできなくても必ず、毎年新しい洋服を」
「じゃあその服…」
すると、視線を舞衣の方へと向け、手を後ろで組みながら笑みを向けて嬉しそうに返答する。
「イエス!古波蔵エレン、16歳のバースデープレゼントデース!子供っぽいデスし、配色もスゴいデスよね〜正直私の趣味じゃありません。わかってないんデスよね~」
(あ、配色がすごいのは自覚してたんだ)
「でも…でもデスよ。この服にはパパの愛がそれはもうめいっぱい詰まってるんだ~って、それだけは断言できますよ」
言葉では色々批評しているがそれでも声色は穏やかでプレゼントされた洋服を愛おしそうに眺めており大事に想っている事はその所作から伝わって来る。
「僕は両親が亡くなってからずっと叔父さん達に愛情一杯に育てられて来た。けど、あの日僕のせいで叔父さんが亡くなったからもう会って話す事も出来ない……でも、君はまだ会ってお父さんと話せる。だから……」
颯太の瞳はもう会う事の出来ない大切な人の事を思い浮かべているのかどこか寂しげに感じられたがそれでも舞衣の瞳を真剣に見つめておりその瞳に舞衣は強く吸い寄せられ見入ってしまった。
「お父さんがどう思ってるのか、聞いてみてもいいんじゃないかな」
「颯太君……私は」
お節介とも言える颯太の後押しであるが先日、一方的な親の取り決めや孝則の抽象的な物言いで言葉が足りなかった事もあって誤解を生んでしまいつい生意気にふてぶてしい言い方をしてしまったが自分も言いたい事だけ一方的に言うだけだったのかも知れないと舞衣は逡巡して行く。
しかし、背後から音もなく……
「お話の最中申し訳ありません、少しよろしいですか?」
間に割って入るように施設内を見学して回っていたコナーズがこの場所を歩いている最中だったようで颯太の背後に立ち、声を掛けて来た。
「えっと……貴方は確かさっきの」
「…………」
唐突な介入に一同は驚いてコナーズの方を見やるが、舞衣も話の途中で腰を折られてしまった気がして気落ちしてしまう。
その変化を察したのか一同へ頭を下げながら軽く謝罪し、左手でどこからともなく取り出した名刺を取り出して颯太に渡して来る。彼に渡したのは1番間近にいたからで特に他意は無い。
名刺に目を通すと綾小路武芸学舎スクールカウンセラー、カーティス・コナーズと書かれていた。
「失礼、私はカーティス・コナーズ。綾小路でスクールカウンセラーを務める傍ら、研究者の端くれです」
「どうも、榛名颯太です」
「柳瀬舞衣です」
「古波蔵エレンデス」
(やはりそうか……だが、関係ない。彼はただの一般人だ、深入りする必要はない)
よろしくお願いしますと左手に胸を当てて会釈をするが颯太の名前を聞いたと同時にコナーズの中で一つの結論へと辿り着いたようがそれを表には出さないようにしていると何故唐突に自分に話しかけて来たのか意図が見えて来ないため颯太は気になっている事をコナーズに質問する。
「えっと、それで僕に何か?」
「ああ、別に大した事ではありませんよ。たまたま近くを通りかかった際、あなたのPCの画面が見えましてね。プログラムのソースコードに抜けていた部分があったのが気になりまして」
左手の人差し指を伸ばして颯太がテーブルの上に広げているPCの画面に大量に羅列されている文字列のコードの問題のある箇所を指摘する。
「え、ホントだ。ありがとうございます、わざわざすみません」
颯太がすぐ様、言われた通り修正をかけるのを確認するとコナーズは謙遜していたが画面に羅列されている文字列を見るに子供にしては高度なことをやっていると思い、何となくだが質問をしてみる事にした。
「いえ、たまたま目に入っただけですから。それにしてもかなり高度なプログラミングをされていますね、大人でも難しいと思いますが」
「はい、スターク・インダスタリーズのインターンの課題で」
中学生でありながらスーツ開発の課題を課されている都合上、高度なプログラミング技術も勉強する必要があるとは部外者のコナーズには言えないため動揺を見せないように平常心を保ちながら普段他の伍箇伝の生徒や教員にも聞かれた際にやっているはぐらかし方で回避を試みる。
「なるほど、そう言う事でしたか納得です」
大手であり多くの技術を開発しているスタークインダストリーズの名前を出され、そこでインターンの研修を受けていると言われればそれだけ難易度の高い課題を出されていても不思議ではないし、それに呼ばれているならばやはり優秀な生徒さんなんだろうと納得出来たためコナーズはこれ以上は深く追及しない事にした。
合点の行ったように納得した表情を浮かべるコナーズではあるが颯太は先程モニタールームで一緒になった際、彼の行動や言動が喉に魚の小骨が引っ掛かったような不穏な内容であったため、こちらを見下ろすコナーズに対して問い掛ける。
「あの、こちらからも1つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「どうしてさっき僕を見てたんですか?それにあの言葉……」
どうやら、初めて会った際彼を僅かながらでも直視してしまっていた事を気にしているようであった。
コナーズの中では既に既視感との答えは既に出ている上に、現在の情報量では彼は組織間抗争や管理局の研究とは無関係な一般人であると判断したからか当たり障りの無い対応をしてお茶を濁す。
「ああ、不快な思いをされたなら申し訳ありません。知人に似ていた気がしたのでつい……ですがよく見ると勘違いでした。先程気にする事でも無いと言いましたがそうですね……」
コナーズも自分の無意識の内に溢れた独り言に対して追及されるとは思っても見なかったが先程ガン見した事で不快な思いをさせたのは申し訳ないと思い、この部分には答える事にした。
すると隣の椅子に座っており、同じ美濃関の制服を身に纏っている颯太と舞衣に白羽の矢を立てて交互に視線を移しながら例え話を始める。
「例えばの話ですが、柳瀬女史とあなた。お二人はお付き合いをされていると仮定します、勿論男女の仲として」
「私と颯太君が……っ!?」
「いや、僕らはそういうんじゃ……」
舞衣は突然気になっている異性と付き合っていると仮定した話を振られたため瞬間沸騰したように頬が薄紅色に染まって行き、椅子がガタっと音を立てる程に動揺してしまっており一方の颯太はそこまで動揺はしていないがやはり少し恥ずかしい話題ではあるためコナーズの言う言葉を否定しようとする。
しかし、自分とそう言う風な扱いをされるのは舞衣も嫌なのではないかと不安げに恐る恐る彼女の方へ横目で視線を移すと恥ずかしそうにこちらを直視できないと言った具合に上目遣いでこちらに視線を向けていた。
(ほら、やっぱ微妙な顔してんじゃん……僕らは友達だけどそう言う仲かって言われたら違うし……いやでも気にならないかって言われた嘘になるしう〜ん……)
しかし、戦友として苦楽を共にして以前より親しくなっているし異性として意識はしているがそう言う風には思われないだろうと心のどこかで思っている節があり友人としか意識されていないというのも複雑ではあるため1人悶々としているとコナーズは真顔で眉一つ動かさないまま淡々と2人に説明する。
「ですから仮定の話です、軽いブレーンストーミングのような物なので直感的に答えて頂ければ大丈夫です。まず、お2人が付き合いをされているとしたらどのような事をすると思いますか?」
同じ美濃関の制服を身に纏い、親しそうに会話をしていたため例に挙げるならこの2人の方が話としては入って来やすいと考えていたのだが照れ臭そうな素振りを見せられた事でコナーズも本当にその気があるのかと若干困惑したが軽い心理テストのつもりで2人に質問を投げ掛ける。
コナーズに例え話であると冷静に言い切られた事でクールダウン出来たのか2人ともまだ少し頬に紅みが残っているが一度お互いの顔を見合わせて少し考え込むとまず颯太が取り敢えず思い付いた事を述べる。
「えーっと……一緒に遊びに出かけたり、プリクラ撮ったりとか」
(ピュアデスか……そこはもっとぐいぐい行かないと!)
「手料理を食べて貰ったり、夜寝る前には電話やチャットでおやすみって言って朝は起きたらおはようって言ったりですかね……」
(消極的……っ!消極的過ぎマス!……でも、おやすみおはよう電話はかわいいからOKデス!)
2人が思い付く限り、付き合っている者同士がしそうな事を述べて行くとお互いが述べた意見のシチュエーションを想像するとやはり恥ずかしくはあるもののきっと楽しいのだろうしきっとその時自分達は満たされているのかも知れないと思う事が出来たがコナーズはより深く追及する。
「では何故、そのような事をしますか?」
「それは……もっと仲良くなりたいし楽しいことだって共有したいからとか?」
「私の作った料理で笑顔になってもっと好きになってくれたら嬉しいし夜眠る前1人になって寂しくなった時、相手におやすみって言って貰えると寂しくなくなって明日も頑張るぞって思えるし、朝1番におはようって言って貰えたら今日も頑張ろうって思えるから……ですかね」
「そう、人間は繋がりを求めて誰かを愛をし、それに応えてもらおうとして愛されようとする。その根底にあるのは人間は孤独であることを嫌うようプログラムされた生き物だからです」
2人の出した意見はどれも互いに楽しい事を共有したい、より愛されたい、寂しさを埋めたいという願望が見て取れる一般的な回答であったがコナーズは特に否定はしないがその裏にある、人間のメンタリティの部分に触れて来る。
「それはそうなんじゃ……」
「寂しいのは誰でも嫌デス」
「ですが孤独であるこを嫌う理由を説明出来る人間はそうそういない。友人、家族、恋人……それらの繋がりによって人は孤独を紛らす事は出来るんでしょうが同時に自ら理を作る」
「理?」
「愛、友情、課された責任と自分で自分を縛っておきながら心のどこかでは自由を求め、他人に与えられた言葉に流されながら自分もまた他人を流す、そのような矛盾した感情を鬱陶しいと感じませんか?」
「いや、そんな事はありまセンが……」
「別に縛られてる訳じゃないと思いますけど……けど……」
「…………」
エレンと舞衣は反論出来たが颯太は一瞬言葉に詰まってしまい、反論出来なかった。
この4ヶ月間、本来はスパイダーマンを辞め、元の日常に帰る事も出来たのにそれを蹴り、今も尚管理局に協力して任務補助と装備開発によるナノテクの研究の二足草鞋で充実はしているが常に監視の目に晒される非常に窮屈な日々を送っている。
勿論、自らの意志でこの道を選んでいるため不満は無いのだがやはり窮屈さをどこか感じ取っており何故そんな道を態々選んだのか……もしかして心の何処かで自分は……無意識の内に孤独になる事を忌避していたのでは無いか、誰かの輪の中にいて安心したかったのではないかと言う雑念が過ぎってしまったがそれでもコナーズの瞳はしっかりと見つめている。
「それはあなた方が人との絆に縛られてご自身を縛っている自覚がない……または気付こうとしないからです。ですが、限られた命を持つ人間はそれがごく自然な事ではあるので恥じる事はないのでしょう……ですが」
しかし、それでもコナーズは人間が孤独を嫌うことも絆に縛られて不自由になることを特に否定も肯定もしない。
人間は誰しも一人で生きている訳ではないし、他人と協力して物事を成し遂げることも素晴らしい事ではあると理解はしているため人間の持てる範疇の力ではそれも悪くないのだろう、というスタンスのようだ。
しかし、命の理の外にいる彼らならば……
「彼らは人の理から外れ人智を越えた超常の力を持ち、人間のようにいつか朽ちて死ぬ不完全な生き物とは違い長い年月を経て形が崩れることも繋がりという名の鎖から最も解き放たれた孤独という最も自由に近い場所にいる」
コナーズは少しだけ目の色を変えてまるでどこか羨ましがっているかの様に人智を超え、超常の存在である荒魂について自分なりの解釈で語り出す。
しかし、徐々に哀しげに目を伏せ、声色もどこか落ち込んでいるかの様に沈んで行き、先程まで実験を行っていたニモのいる擬似的な社の方へと視線を移す。
「なのに憎悪も寂しさも捨てる事が出来ずに感情に縛られている狭量な生き方が実に惜しい……互いの領域を侵害せず程よく自由に生きて行くのが難しい世界だなと感じているだけですよ」
「「……………」」」
「……あの」
自分達には理解が及ばない……いや、あまり共感しにくい思想であったため、3人ともどう反論すべきか迷ってしまった。
しかし、颯太は少し思うところがあるのか言葉を紡ごうとするがコナーズは自身の腕時計を見やって時間を確認するとすぐ様柔らかな笑顔を3人向けて来る。
「失敬、思ったより時間が経っていたようです」
「何か用事デス?」
コナーズが時計を確認するとそれなりに話し込んでしまっていたようだ。そこまで本格的に急いでいるという風には見えないが早く戻った方がいいという空気を出しており3人に深々と頭を下げて来る。
「ええ、とても大切な用がありまして。長々と失礼しました、カウンセラーに就任したのは最近で若い方とお話する事に慣れていないのでついペラペラと」
会話の中で圧倒されてしまったが颯太の中でコナーズは大分変わってる人だけどミスをわざわざ教えてくれた親切な人、という印象であるため急いでいるなら特に追及はしないと言った具合に会話を打ち切る事にしてプログラムのミスを指摘してくれた事に対して感謝の意を表する。
「いえ、お気になさらず……プログラムのミス、教えてくれてありがとうございました」
「では、ごきげんよう」
コナーズは爽やかな笑みを向けると3人を他所にスタスタと研究所の出口の方まで歩いて行ってしまうと3人はその背中を見送るがとても向かい合いながらまた談笑する気にはなれずにいた。すると続け様に颯太は別の人物から声を掛けられた。
「君、少しいいかな?」
再度声のする方向に振り返って見ると食堂でフリードマン達と会話していた舞衣の父親、孝則であった。
そんな孝則は颯太を見下ろし、何か聞きたいことがあるとでも言いたげな視線を向けて来る。
「え?僕ですか?いいですけど」
「お父様……?」
「舞衣、少し彼を借りる。ついて来て欲しい」
同級生の父親に指名されるというのは一体どう言った意図があるのか全く読めずに困惑しており、娘の舞衣ですら父親が颯太にどのような用があるのかと思考を巡らせるが答えは見えて来ない。
しかし、直接指名されたとなれば行かない訳にもいかず席から立ち上がり歩き出した孝則に着いていく。
「ソウタン、おじ様にモテモテデース!」
「ちょっとそれ複雑なんすけど……じゃあ、また後で」
エレンに茶化されるものの言われてみれば颯太は同世代の女子にはモテないがトニーやスティーブ 、フリードマンやハッピーと言った10代から見れば歳の離れたおじ様と呼べる世代にはやたら気に掛けられたり信用される事がここ最近多い気はするが冗談である事は理解出来る間柄にはなっているため適当に受け流しながら手を振って案内されるまま2人から遠ざかり、少し離れた位置にある部屋のテーブルまで移動する。
「お父様……颯太君に一体どんな用があるんだろう……」
遠ざかって行く2人の背中を見つめる舞衣に対してエレンは先ほどから見え隠れしていた彼が絡むと妙に恥ずかしげにする様子から悪戯っぽい笑みを浮かべて耳元で囁く。
「もしかしてお前に娘はやらーん!って話だったりするかも知れまセンヨ」
「ええっ!?私達はそう言うのじゃ無いってば……っ!でも、もしそうだったら……」
エレンの冗談である事は伝わるが昨日の今日で無意識の内に颯太を意識してしまっているせいか舞衣は恥ずかしさのあまりに赤面しながら口では否定はするがそれでも否定は仕切れない、と言った感情がせめぎ合い、胸の奥がモヤモヤとする感覚に陥る。
ーー夕刻、鎌倉・刀剣類管理局本部
日中は地上を照らしていた陽光はなりを潜め、夕焼けで薄暗い中、景色が黄金色に輝く黄昏時の管理局本部にて数日前に薫が状況を説明されていたようにこの場に可奈美、姫和、沙耶香……そして、以前は旧折神体制に着いていたことで警戒・監視の対象として現在スタークインダストリーズに実家の会社が合併吸収されて以降は新体制の管理局、そして現在スターク・インダストリーズが制作中のグリーンゴブリンの改修機であるパワード スーツ、ホブゴブリのテストパイロットとして颯太とトニーに協力的な姿勢を見せている栄人だ。
紗南に直接確認したい事があると言われ管理局本部に本日出頭して来たのだが同時に呼ばれた面々がかつての友人であったり以前敵対していた面々であるため気まずさと居心地の悪さを感じつつも勘繰られないよう表情には出さず不用意な発言はしないようにと距離を置きながらこの場に同席している。
「悪いなわざわざ来てもらって、今日はお前たちに知っておいてもらいこととがあってな。これを見て欲しい」
人数が揃った事を確認すると紗南は全員に本部の壁に備え付けられている大画面のモニターに注目するように指示を出すと一同が一斉に視線を向ける。
「…………」
紗南がマウスを操作するとモニターに大画面にボヤけてはいるが記録映像が映し出され、フードを被った謎の人物が背後にダメージを負って立ち上がる事が出来ずに横たわる人影の前に立ち百足型の荒魂と相対している映像が映し出されると一同の表情が疑念の物へと変わる。
「これは…?」
「昨夜遅く愛知県内で撮影された映像だ」
映像の概要を紗南が説明し始めると可奈美は姫和がいろはから聞いた話を又聞きしていたため、因果関係を紐付けして概要を察知することが出来た。
「もしかしてこの人がノロを奪ってるっていう…?」
「知っているようだな。やはり人の口に戸は立てられないか」
会話に混ざるよりも前に大画面に映るフードを被った謎の人物を凝視していた沙耶香はある事に気付き、発見したことに対して言及する。
「この人、御刀を持ってる」
「え?」
指摘された通り画面をじっくりと観察してみるとこの記録映像はダメージを受けたのか仰向けに倒れた事で身動きが取れなくなっている刀使と百足型荒魂の間に立ち、手に持つ御刀を振り抜く事で庇うように攻撃を加えている姿と言った所であった。
「隠していた理由はこれか…」
「どういうこと?」
「内部の犯行である可能性を捨て切れない、更に言うなら旧折神体制の者の可能性もある。ということですね」
「そう言う事だ。ここで見聞きしたこと口外するなよ?」
先程まで必要最低限の発言以外は控えていたがフードを被り、各地でノロを強奪して回っている不審な行動を行なっている人物が管理局の身内にいるかも知れないため、疑心暗鬼の空気を局内に出さない目的や敵側に知られて探りを入れられないよう情報の制限を行いたいという紗南もとい上層部の意向を汲み取りサラリと説明をすると可奈美は腑に落ちたようで更に紗南がこの場にいる全員に忠告をする。
すると、姫和がやや皮肉を込めて管理局の現状に対する自身の意見を述べる。
「管理局の信頼も地に落ちたものだ」
「…………」
管理局の信頼を落とした側の旧折神体制の人間であったためか、針の筵の如く身体中に刺されているような痛みと居心地の悪さを増大させられるが特に視線を向けるでも反論するでも無く押し黙って画面を注視し続ける。
「秘密ならどうして?」
「そうですよ、何で私達にこの映像を?」
しかし、ここで疑問が生じて来る。管理局の信頼も下がり情報を制限したいというのであれば自分達に説明する事で事情を知る者が増えることはデメリットに繋がらないか?という疑問だ。
「それだがな……この太刀筋に見覚えはないか?」
可奈美と沙耶香の疑問に答えるべく、本日彼女達を呼んだ真の目的の為に静止させていた状態の映像を再生ボタンを押し、ループ再生に切り替える。
画面に映る人物が横凪に百足型荒魂に手に持つ御刀を叩き付ける動きを繰り返す様子を見て可奈美はその人物の動きに見覚えがあったのか、脳内で過去の記憶の中から関連する物を紐付けして行くと1つの結論へと辿り着く。
「これって…獅童さん?」
「やはりそう見えるか……所でコイツについては何か分からないか?」
薫の言っていた通り手癖と動きだけで特定して見せた可奈美の観察眼と戦闘に関する記憶力に感心させられている紗南の言葉に可奈美が頷くと他の者達も沈んだような苦い表情を浮かべているがこの面々には他にも確認したいことがあるため一度画面を切り替えるためにマウスを操作する。
フードの人物が映し出されていた映像から切り替わり、別の映像に切り替えられる。
「「「「…………っ」」」」
画面に映し出された映像を前に一同は息を飲んだ。
誰かが一人称視点で撮影しているのが分かるが時刻は昨夜、某所の山中にてショッカーと刀使達が協力して百足型荒魂を撃破した矢先に潜んでいた鳥型荒魂が狙っていたのように介入し、ショッカーと刀使達に向けて一直線に滑空し、それをショッカーが迎え撃とうとした瞬間に眼前にヴェノム がショッカー達と鳥型荒魂との間に立ち塞がると同時に液体が流動するかのように右腕を刃の形へと変化させ、鳥型荒霊に向けて一直線に突撃すると胴体は縦方向に両断され、頭部は胴体から離れて空高く舞い上がっているという中々にショッキングな映像だったからだ。
ちなみにこの映像は新しくショッカーにHUDの機能の中に映像記録機能が搭載された物であるためハーマンが紗南に提出した物である。
(あの動き、まさか……しかし……)
しかし、その映像を見ていた4人の中これまでショッキングな話を聞かされながらも顔色を変えずにいた栄人であったがヴェノム の太刀捌きと動きを見た瞬間その型に既視感が頭を過り、1人の……短い間の交流であったが心を通わせた少女の幻影が見えた気がした。
しかし、どこか拭えない違和感も同時に感じているため画面をより凝視する。
一同はやはり外見だけで言えば人外の異形と呼ばざるを得ないヴェノム の異様な容貌に悪い意味で釘付けになってしまっていると体格や体色など異なる部分は多いが丸い頭部に白い目と言うとよく知る誰かにどことなく似ていると感じる。そう、スパイダーマンだ。
「何これスパイダーマン?でも、体型とか見た目全然違うよね?」
「うん、こんなにがっしりしてない。もっともやしみたいに細い」
「おまけにこんな裂けた口なんて無かった筈だ」
「ショッカーに新しく搭載された映像記録機能か………これは一体?」
各々がスパイダーマンに何となく似ている様な気がしないでも無いが全くの別物であることは察することは出来たがこの映像を見せられた意図が読めないため質問をすると紗南は一同に向けてヴェノム について判明している事を語り出す。
「お前達の予想通り、外見が少し似てるだけでコイツはスパイダーマンじゃない。少し前から突如として荒魂のみを襲っては即撤収を繰り返すだけだからこちらにこれと言った害は無いが警戒しておくに越した事はないだろう、コイツについては何か分かるか?」
映像を見ただけでは判断出来ない事が多過ぎるため、強奪犯程こちらに明確な敵対の意思は見られないが二次被害的な心配と、得体の知れない存在である以上は注意は必要であるため情報収集を行うために一同に問い掛ける。
「旧折神体制に協力していた頃に開発していた装備には類似する物は該当しませんので我々の会社からデータを盗用した物ではないと思われます。旧体制の人間で思い当たる人物も……申し訳ありませんが存じ上げません、この巨体も本来の物と合致するとは限りませんし」
「ならコイツは誰かが変身してるとでも言いたいのか?」
「そこまでは分かりませんが、瞬時に右腕を変化させている所を見るに身体を大きく見せる事も可能ではないかと思った次第です」
フードの人物の映像を見た際には分からない事も多く発言は控えていたが紗南が自分に聞きたかったのは画面に映る黒い巨体の異形についてだろうと察知し、自分が持つ情報量と画面から見て取れる情報を照らし合わせた考察を述べて行くと紗南も一理あるかと納得すると次は可奈美に気になった所が無いか問い掛ける。
「なるほどな、確かにあり得そうな話ではあるな。所で衛藤、コイツの手癖に見覚えはないか?」
「えっと、それが……何て言ったらいいのかな……いや、流派は何となく分かったんですけど……ホントに、誰かは分からない動きなんです」
しかし、可奈美は目を凝らして画面を見つめ、ヴェノム の動きを観察してはいるものの首を傾げて唸りながら芳しくない答えが返って来る。
見たことがあるような気はするがそれでもこうだと断言出来ないもどかしさにより言葉を濁すことしか出来ない……とでも言いたげだ。
そんな煮え切らない態度の可奈美の様子が気になってか姫和がやや心配げにその真意を問う。
「どういう事だ?」
「流派は動きで何となく分かったよ。実際に戦った事もある流派だったから、それは……」
「天然理心流……」
先程まで必要以上の事は語っていなかったがヴェノム に対して気になる事があるのか栄人も自分が映像を見て感じた事を積極的に話し始める。
2人が見つけ出した共通点、それはヴェノム の流派は天然理心流……日本の古武道の流派。天然天に象り、地に法り、以て剣理を究めると言われるように天地陰陽の自然の法則に従い、極意必勝の境地に至る自在の剣法と言われている。
そして、2人はこの流派の使い手を知っている……元折神紫親衛隊第4席、燕結芽だ。
「うん、そう。この動きは間違いなく天然理心流だった。実際に戦ったから分かったよ、けどその使い手である燕さんは……」
「もうこの世にいない」
沙耶香がボソりと小声で局内の共通認識を伝えると一同にズシリと重たい空気が乗し掛かり、一同の中で結芽という存在がヴェノム に関わっていない可能性の方へとシフトして行く。
「………」
「それに、燕さんは恐らく局地にまで辿り着きかけてた……けどこの人の動きは」
「見事だが必死に特訓し続けて形になって来ている伸び代の塊の段階、彼女の領域には至っていない」
「そう、確かに強いとは思う。一生懸命特訓してここまで来たんだってのは伝わるけどやっぱり燕さんの域にはまだ遠い。鍛えればもっと伸びるとは思う」
確かにヴェノム は天然理心流の使い手と言って差し支えない程の実力はあるが結芽の剣とは異なる上に遺体を確認した者が存在しないとは言え世間的に彼女は死んだ人間と認識されているため結芽だと直結する事が出来なかった。
既に彼女の死は受け入れたものだと思っていたが実際に突きつけられ、再度認識させられると胸に穴が空いたかのような虚無感と痛みが走る。
彼女達の話全てを鵜呑みにする訳では無いがヒントが1つでも見つかったため収穫はあったとして重苦しくなってしまった場から切り上げる為に一同に解散するように告げる。
「なるほどな、なら天然理心流の他の使い手を洗ってみるか。協力を感謝する、くれぐれも内密に頼むぞ」
一同が本部から退室して行き、最後に退室しようとしていた栄人は結芽がやはりもう何処にもいないんだろうという認識を突き付けられたが最後にもう一度だけヴェノムの映像を流し見すると唐突に脚を止め、画面の前に立ちすくす。
ヴェノム の腰の辺り、日本刀を装備するのであればよく帯刀する際に付けられる右半身の腰の部分が視界に入った際、ほんの僅か……ほんの僅かだが違和感を感じた。
普通の人間の視力では恐らく気付かないと思われるがゴブリンフォーミュラと適合した事で常人よりも視力が強化され5.0以上あるため気付く事が出来た。
ヴェノム の右半身の腰の辺り、超人的な視力を持ってした時微かながら妙な丸い膨らみの様な物……大きさで言うのであれば掌に収まりそうな程であり、更に2つ程等間隔に小さな突起のような物が確認出来た。
……まるで、頭頂部に耳が2つ付いている丸い小動物のような形状……以前、自社の子会社が作っていた猫のゆるキャラに似ているような気がしたのだ。
「………?」(この形、何処かで……イチゴ大福ネコ?)
2連続だからそのまま次へGO