刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

65 / 67
歯切れが良くなかったので連続です、連続式なので1つ前の64話からオネシャス


第65話 邂逅

舞衣とエレンと3人で雑談をしていた最中、会話に割り込む形で突如孝則に個人的に話があると声を掛けられた。それに応じて席を立ち、2人からは少し離れた位置にある部屋に案内され、室内に設置されているテーブルに向かい合うよう椅子に腰掛ける。

 

(言われるがままについて来ちゃったけど、これ……どういう状況?)

 

しかし、同級生…ましてや友人の父親に呼び出されるなど想定外であったため未だに事態を飲み込めずにいた。

無理もない、孝則自体本日が初対面の相手だ。そんな相手に個人的に用があると話し掛けられれば困惑もしてしまうだろう。

実際ここに来るまで孝則とはほとんど言葉を交わさず、どのような用件で呼び出されたのか皆目検討も付かないでいると孝則は自身の正面に腰掛ける颯太に向けて話を切り出す。

 

「急に呼び出してすまない……ええと、颯太君…だったか。下の名前で呼び合っている所を見るに……その……娘とはかなり親しいようだね」

 

「え?ああ、はい……娘さんとは仲良くさせて頂いてます。それで……お話とは?」

 

2人が下の名前で呼び合っていたことから孝則も一応親しみを込めて下の名前で呼んではみたがやはりぎこちなさは抜けない。

一方、颯太は舞衣の話題を出されたため、呼ばれた理由については何となく見当は付いて来たが未だ話の中核が見えて来ないため聞き返すと孝則は襟を正し、颯太の瞳を見つめて真剣な声色で問い掛ける。

 

「あぁ、すまない。娘と親しい君に聞きたいことがある……君は娘のことをどう思っている?」

 

「えええーっ!?」

 

あまりに突拍子のない、それでいて直球な問い掛けに颯太は思わず素っ頓狂な声をあげてしまい動揺を隠せなかった。

無理もない、色恋沙汰に疎い自分ではあるが流石に異性の友人の父親から自分たちの関係性を疑われた、もしくは自分が彼女を好いているのではないかと思われれば驚愕もする。

 

しかし、あくまで友人という距離感に過ぎないが思わず身体と身体が近付いた際や彼女の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐったり接触の機会がある度妙に心拍数が上がり、関係性を疑われれば心底恥ずかしくてドギマギしてしまうため確かに異性としては意識しているのは事実だろう。

 

「た、確かに僕らは友達ですけどそういうのじゃないって言うかっ!確かにたまに距離が近くなったり手と手が触れたらドキドキしたり、彼女の包み込むような優しい笑顔に目を奪われてしまう時はありますしクッキーは毎日食べたいレベルで美味しいですけど僕のモテない歴は=年齢なんで多分彼女には僕のことをそういう風には思われないと思うんで心配されるような事は無いかと思いますよ!」

 

言いたい事が纏まらず、珍妙な日本語になりながらしどろもどろに否定しようとはするものの動揺してしまっているため孝則も自分の言い方が良くなかったのか?一度落ち着かせた方がいいか?と思い聞きたかった話の本質を提示する。

 

「すまない、普段の学校での様子や刀使として活動している時の娘は学友の君の目にはどう映っているのか聞いてみたかったんだが…」

 

「え?あはは……そうですよね、すみませんお騒がせして」

 

「いや、こちらこそ言葉が足りなかった」

 

孝則の言い方が主語が少し抜けており、ド直球であった事も一因だが自意識過剰で変に意識してしまったことはやはり羞恥心を掻き立てるものであるため頬を赤く染める。

しかし、すぐに咳払いをして落ち着きを取り戻し、普段の自分の知る限りの彼女の様子を思い返し、思い付く限り述べて行く。

 

「そうですね……まず、娘さんは今年の春、折神邸で毎年開催されてる伍箇伝の代表を選出して行う御前試合……簡単に言うと全国大会のような美濃関の代表として選出されたのはご存知ですか?」

 

「ああ、その時は驚いたな」

 

まずは保護者である孝則も知っていて最も彼女の活躍や努力の結晶が伝わりやすい例えである御前試合の話を話題に挙げる。

 

「それは娘さんが日頃から努力を怠らず、研鑽を重ねていたから成しえる事が出来たんです。僕も以前1人で練習している所を見た事がありますし」

 

「そうか……では、他には何かあるかな?」

 

反応は薄い……ように見えるが相槌を打ちながら瞳は颯太の瞳をしっかりと捉えている、関心はある証拠と言えるだろう。

そして、次は実際に刀使として活動している時の様子を実体験から感じた事を羅列して行く。

 

「後は今のこの荒魂が頻出してる時勢なので彼女もよく出撃に駆り出されてます」

 

「そうか……やはり娘は危険な任務に」

 

孝則の顔がより一層険しくなる。保護者ならば当然の反応だろうがそれでもあの鎌倉での管理局との決戦において彼女が指揮を採ってくれた事で突入したチームである自分たちが効果的に動くことが出来、舞草の最大戦力である可奈美と姫和を敵の総大将であるタギツヒメ の元へと送り届けることが出来た事を思い出していた。

もし、彼女というピースが欠けていたらあそこまで立ち回れた自信がないため颯太としては彼女には頭が上がらない想いでいる。

そのため、彼女には非常に助けられたと感じており強く感謝しているためやや感情的になりながら言葉を紡ぐ。

 

「ですが、彼女が前線でチームの指揮を採ったおかげでチームが効率的に動く事ができ、周囲への被害やチームへの損害も少なくする事が出来たこともありましたし、僕も何度か助けられました」

 

ーー颯太の言葉からは舞衣への確かな感謝の念と信頼は見て取れる。しかし、ある一文が孝則に妙な違和感を与える。

 

「……ん?まるで娘と一緒に戦ったことがあるような言い方だね?」

 

「あっ……」(ヤベッ!つい口が……)

 

しまった……と自覚する頃にはもう遅い。つい彼女への想いが溢れてしまった事で感情的に語り過ぎてしまった。

まるで、この言い方では自分が実際に彼女と共闘したことがあり、彼女の指揮の元、共に行動していたかのような言い方になってしまった。

だが、この4ヶ月間正体がバレないように色々な人の追及を絶妙に躱し続けて培われたはぐらかしテクニックも伊達ではない。すぐ様切り替えて平静を取り戻して咄嗟のアドリブで回避を試みる。

 

「ああ、それは以前一緒にいた時に荒魂に襲われたんですがその時彼女が助けてくれたんですよ!その時に彼女の仕事ぶりを目の当たりにしたんです!ははは……」

 

「……なるほど」

 

苦し紛れではあるが無力な一般人に見える自分が彼女の戦いぶりを知っている理由付けとしてはなんとか理解出来る言い分ではあったため孝則も半信半疑でありながら概ね納得したようだ。

眼前の孝則の瞳を見据えると颯太の方も話題を変える名目もあるがモニタールームで対面した際に感じた舞衣と孝則の様子について気になっていたため問い掛ける。

 

「……あの、僕からもいいですか?」

 

「構わないが」

 

「少し気になってたんですけどもしかして、娘さんと……舞衣と上手く行ってなかったりしませんか?」

 

「どうしてそれを?」

 

問い掛けられた質問に対し、孝則は面を食らったような表情を浮かべる。

先日、彼女へ刀使とは縁遠い普通の学校への転校を持ちかけ、口論となり拗れてしまったことで気まずくなっていたのだが、その様子を彼女の態度から読み取られていた事を他所の子である颯太に勘づかれていたのが意外だったようだ。

 

「なんか今日の彼女、少し元気が無さそうだったって言うか貴方といる時妙によそよそしかったように見えたので」

 

「ああ実は……」 

 

勘づかれている上に自分の身内のことで心配をかけてしまったのであれば真実を話した方がいいと判断してか昨日の柳瀬家での出来事を颯太に説明する。

彼女の意思確認以前に先に学校を決めて転校を持ちかけた事、自分たちが彼女から現在の情勢から見た刀使の世間体の事を気にしていると思われている事、その結果議論が平行線と化して拗れてしまった事を聞かされると颯太は何故拗れてしまったのかを察し、頭を掻きながら若干言いにくそうに孝則に客観的な意見を述べる。

 

「あー……それでか……それはちょっと……言葉が足りてないですね、多分意図があんまり伝わってなかったんじゃないかと」

 

「む?そうだったのか……っ?それで、他には何があると思う?」

 

言い回しの問題と言葉が足らず彼女に言いたいことが伝わっていなかったのでは無いかという颯太の推測を聞き、孝則は娘と同学年の子供相手に指摘された事もそうだが実際に指摘された事で自分自身の問題についても向き合うべきかと思わされたため続けろとでも言わんばかりに追求する。

 

「後は……そうですね……今は世間から管理局のイメージが良くないからそこに所属してる彼女がいれば世間からの対面が悪いと思われる、世間体を気にしてると思われたのも確かにあると思いますが本人の許可も取らずに転校先を決めたのが尚更彼女の不興を買ってしまったのかなと。だからこそ、余計拗れたんじゃないかと……彼女、思ってる以上に強気というか芯が強いですから」

 

「そうか……それもそうだな……」

 

しかし、会話の中で拾った問題点を羅列して行くだけでは解決の糸口にはならない。孝則が大した儲けにもならないのにこの研究所に資金提供をしている話は聞いており、研究が進んだ結果得られるであろう成果とそれによる彼女の身を案じていると思われるため彼の行動原理についてフォローを入れる所から話を広げる。

 

「でも、娘さんの事を心配していたっていう気持ちは本当ですよね?」

 

「ああ、ここの研究が進めば娘を危険から遠ざける事が出来ると思って投資を決意した。彼女は私の大切な娘……家族だからな」

 

やはり孝則の行動原理には子供を想う親心から来ているようであった。

孝則なりの意思を聞いて颯太も彼の気持ちに寄り添うように優しく語りかける。彼も両親を亡くし、育ての親である叔父を亡くした事で残った叔母を巻き込まないように未だに自分がスパイダーマンの正体である事を話せてはいない。そこには自分なりへの叔母への愛情から来ているからだ。

 

「分かりますよ、大切な人には安全な場所で健やかに過ごして欲しい……それが家族なら尚更……だけど」

 

悲しげに伏せっていた目を開けて孝則の瞳を見つめ、今度は舞衣の立場に立って自分なりに子供としての意見を述べる。

 

「舞衣だって、不真面目な気持ちで刀使の仕事に取り組んでいた訳じゃないと思うんです。僕も彼女の戦いぶりを見て、確かに危険は伴う仕事だけど自分に何が出来るのか、自分に出来る事を見つけて一生懸命やっているのは伝わりました」

 

彼女の友人として、彼女が非常に生真面目な気質故に自己評価が低く、可奈美へのコンプレックスから自分に何が出来るのか迷い続けていた事を颯太は時に話し合い、互いの悩みを共有していたため彼女がいつも真剣である事は理解している。

孝則の親心も、舞衣の迷いながらも自分の戦う理由を見出した道も、どちらも真剣だからこそぶつかってしまうし、熱くなりすぎて言葉が足りなくなってしまう事もあるのだろう。

 

「なので、お互い真剣だからこそ今の貴方の本当の気持ちを話して彼女の気持ちを聞いてみてもいいんじゃないかと思いますよ」

 

だからこそ、孝則には孝則なりの考えがあった事を包み隠さずぶつけることも時には大切なのではないかと思い、未熟な子供なりに彼の背中を押そうと試みる。

颯太の真剣な声色で語られる彼なりの意見を聞き、孝則も先日の自分の言動と行動を鑑みてもう一度舞衣と真剣に話し合ってみるかと思い直したようだ。

 

「………分かった、私も自分の言いたい事はちゃんと伝えなければならないな。しかし、どうも歳頃の娘に自分の気持ちを伝えるのは難しいな」

 

幾らか緊張も解れたのかどこか表情を軟化させており、スッキリしたような様子を見せる孝則を見て颯太も幾らか打ち解けられたような気がして一息吐き、積極的に話に応じ始める。

 

ーーしかし

 

「相手にどれだけ自分の気持ちを伝えられるかって難しいですもんね。僕も苦労してます……っ!?」

 

孝則との会話の最中、颯太は何かを感じ取ったのか表情を険しくしながら周囲を見渡し始める。

全身ゾワゾワとした嫌な感覚が広がって行き、文字通り身の毛がよ立つと言った具合に腕から生える毛が逆立ち初め、更には手先が細かく震え始めた……スパイダーセンスだ。

今この研究施設に危機が迫っていることを知らせるエマージェンシーコールは颯太の不安を駆り立て始める。

 

「ん?どうかしたのかね?」

 

孝則は一瞬だが、険しい表情を浮かべていた颯太の様子が気になっていると彼はすぐに柔らかい笑みを向けて来る。

しかし、彼の心中は決して穏やかではない。反応は然程強烈という訳ではないが各所でノロが強奪される事件が頻発していることを事前に紗南から聞かされているためここにも白羽の矢が立った可能性を察知したからだ。

 

ならば、今すぐノロの強奪を防ぎに行かなければと判断するとこの場から去るための理由を速攻で組み立てて孝則に向けて語り出し、そして本当にトイレに行きたいとでも言いたげな態度で席から立つ。

 

「いえ、何でもありません……あーっ!」

 

「どうしたのかね?」

 

「僕今日ちょっとコーヒー飲み過ぎてトイレ行きたくなっちゃいました……すみません、僕は一旦失礼します!」

 

「ちょっと!……そんなに飲んだのか、コーヒー好きな中学生も珍しい」

 

最近はコーヒーを頻繁に飲むようになっており、先程3人で会話をしていた時に飲んでいたのもコーヒーであるためカフェインの利尿作用が働いたという理由付けは出来るため妙な説得力はあるようだ。最も、孝則が鈍いだけかも知れないが。

颯太は急いで扉を開けて廊下に出ると先程同様お茶を嗜んでいた椅子に座っていると舞衣とエレンの方へと駆け寄って行く。

 

「どうしマシタ?まさかマイマイパパを怒らせて私たちにヘルプミーデスカ?」

 

「ちょっとエレンちゃん!?」

 

かなり迫真であったため個室での様子を知らないエレンは颯太が孝則を怒らせたと誤解しているが一方の舞衣は颯太が駆け寄って来る前から頬が紅潮していたのだがエレンのジョークにも過剰反応してしまっていた。

だが、すぐに冗談を言っていられる状況では無い事を理解させられる。

 

「冗談言ってる場合じゃないんだって!さっき舞衣のお父さんと話してたらスパイダーセンスが反応したんだ、ここに危険が迫っている。多分例の強奪犯がここに来ると思う」

 

「……っ!?マジですか?」

 

「まだ研究者さん達が色んな所にいるのに……」

 

真剣な表情かつ他の人には聞かれない程度の声の大きさでスパイダーセンスで危機を感じ取った事を説明するとスパイダーセンスの効果を何度も目にしている2人はすぐに顔付きが真剣なものへと変わる。

この研究所が戦場になる可能性がある事を聞かされたため、彼女達もすぐに気持ちを切り替えたのだろう。

 

「とにかく、僕は先回りして様子を見て来る!2人は僕のことがバレないようにみんなを誘導して!」

 

「分かった、皆を避難させるね」

 

「ソウタンも気を付けてくだサイ!」

 

「じゃあ後で!」

 

下手に他の誰かにスパイダーマンの正体を知られる訳にはいかないため2人には研究員たちの避難を頼み、一旦別行動を取る選択をした。

 

3人が一斉に別方向に走り出すと颯太は人気のない通路へと入り込む。走りながら右手を左肩の高さまで持って行くと左手でスマートウォッチ型デバイスの画面をノールックで操作し、スパイダースーツの3Dモデルのアイコンをタップすると開発中のスパイダースーツ、スパイダーアーマー(仮称)が映し出される。

画面に起動確認の文字のボタンが映し出され、デバイスの画面が光り出すと胸の前で手首を内側に回しながら右腕を前に突き出して握り拳を作り、左手をデバイスに添える画面に翳す。

 

「2段回承認ってやっぱめんどくさいな……スパイダーアーマー、起動!」

 

セキリュティの為とは言え、ナノマシンスーツの起動を2段階承認にすると緊急時に手間になるなと実感しつつも起動ボタンに指で触れると右腕を肘打ちを放つように後方に強く引き、左手を滑り込ませるように左手の掌を下に向けながらを前に突き出す。

 

直後、デバイス内のアークリアクターが発光してスカイブルーの輝きを放ち、

一瞬で幾億ものナノマシンが流れ出して赤と青色のツートンカラーに胸部から腹部程の長さの黒色の蜘蛛のマークのあるまさにパワードスーツと言った流線型のメタリックなスーツを形成して行く。

ハイテクスーツのウェブシューターをスパイダーアーマー(仮称)の上から自動で装着させると同時に開けた場所に出ておりニモが格納されている擬似的な社のある通路が見えた。

 

「敵は……真上か!」

 

スパイダーセンスの反応は真上の方向から来る存在に対してより強く反応している。

スパイダーマンは一刻でも早くニモの強奪を防ぐために天井に向けて右腕を突き出して構えるとウェブシューターのスイッチを押してウェブを天井に命中させる。

 

「そらよっと」

 

膝を曲げて姿勢を低くし、ウェブを引っ張り、足の爪先に力を入れると一気にウェブの引っ張り強度と自分の脚力を掛け合わせてウェブから手を離すと重力から解放されてパチンコ球の様に一気に天井に向けて急上昇する。

 

重力から解放され一気に天井近くまで跳躍するとその最中、ニモの奉納されている擬似的な社の横まで上昇する最中、目を疑う存在が眼前に立っていた。

 

ーーガラス張りの擬似的な社の格納扉は既に開けられており、漆黒のフードを目深に被り、左手に御刀を装備した人物が右手を社に向けて翳している。

そして、その人物が視界に入った瞬間全身の毛が逆立ち、手先が細かく震え、身体中がゾワゾワとしてさぶいぼが出ている程にスパイダーセンスはより強く感じられる。

自分は直感的にこの人物が脅威的で危険だと肌で感じ取っていると理解できるが……これ程に嫌な感覚は以前に一度感じ取った事がある気がした、しかしその気迫もせいぜい3分の1程であるため余計に分かりにくさに拍車を掛けたが。

 

「(……っ!?このめちゃくちゃ嫌な感覚……どこかで)やっぱり来たか……っ!」

 

紗南に事前に聞かされていた現在各所に出現するノロの強奪犯と同じ特徴をしている所からやはりこの研究施設にも狙いを付けたという所だろう。

更に、視界の先に立つ謎の人物はニモの奉納されている社に手を翳そうとしている所を見るにこれからニモの強奪を試みようとしていた。

謎の人物の登場に身体中に緊張が走るが何としても阻止しなければ、と一瞬の内に思考を切り替えるとスパイダーマンは左手を前方に突き出してウェブシューターを構えると狙いを定めて連続でスイッチを押す。

 

「ちょっと不審者さん!ニモがファインディングするのは陸じゃなくて海だったと思うけど!」

 

フードの人物に向けて放たれるウェブの連打に対し、ニモの強奪を妨害されたた事もあるがスパイダーマンが出現するなり翳していた右腕を引っ込めると動きを静止させて飛んで来るウェブの方向へと顔を向けて様子見を始める……まるで、攻撃の道筋を予測してから行動しようとしているかの様に。

 

そして、短時間の中で最適な回避ルートを見切ったのか最小限の動きだけでスパイダーマンのウェブによる牽制を回避して見せた。

 

「うおすげっ、じゃあ次はこれ!」

 

スパイダーマンは追撃を図るために跳躍で空中に浮いている状態からこれから自分が登って行く頭上に足の歩幅程度の円形をナノマシンで形成し、すかさず身体を逆さまの状態に変え、円形の足場に脚を着けて着地する。

ナノマシンで空中に簡易的な足場を作り、それを力強く蹴り上げることでタイムロスを無くしつつ方向転換も同時に行い、一気にフードの人物に接近する。

 

「……………」

 

無駄の無いスパイダーマンの追撃に対してもフードの人物は右手にも御刀を装備して迎撃態勢に入る。

スパイダーマンは右手で何かを掴もうとする手の形を作ると足場にした円形のナノマシンは右手の中へと移動して集合して行き、ナノブレードを形成し、それを掴み、スパイダーマンが勢いを乗せながらナノブレードをフードの人物に上段から叩き付ける。

 

「そらよっと!」

 

「………」

 

だが、フードの人物は器用に両手に持つ御刀でスパイダーマンの無駄の無い攻撃を迎え撃つ準備を済ませていた。

右手に持つ御刀でスパイダーマンが叩き付けたナノブレードの一撃を受け止めるとそのまま流れるように受け流して左手に持つ御刀で反撃を繰り出して来る。

 

 

「うおっと!」

 

隙を見せずに矢継ぎ早に繰り出されるフードの人物の息をつかせない連続攻撃。スパイダーセンスがそれを予見して教えてくれるためスパイダーマンはその事に感謝しながらすぐに対抗策を練る。

横凪に振り抜かれる横一閃の一撃がスパイダーマンの首筋を捉える瞬間、鈍い金属音が響き渡る。

フードの人物の御刀がスパイダーマンの身に纏うスパイダーアーマー(仮称)の装甲を切り裂いた音か?……否、フードの人物の奮った凶刃はスパイダーマンの首筋に届く寸前で静止している。

 

「やべやべやべ……っ!」

 

「…………」

 

スパイダーマンが咄嗟にナノブレード左手にも形成し、逆手持ちにフードの人物の一閃を防いでいた。

しかし、あまりにも素早い対応に普通は驚いてしまう所だろうが、フードの人物は全く焦る素振りを見せずにスパイダーマンと相対する。

 

感情が読み取れない不気味な有り様であるが少し前に管理局の医療施設にて寿々花と面会した際に強奪犯であるこのフードの人物が以前、鎌倉での戦闘の際に自分に協力してくれた真希である可能性を疑われている事を聞いており実際に遭遇したら聞くだけ聞いてみる事を約束していたため攻防を交えながら問い掛ける事にした。

 

「あーもしもし一席さん?違ったらごめんだけど……っ!ノロの強奪なんてして何がしたいのかな!?オークションにでも出す気!?」

 

両手が塞がったまま防御の姿勢に入っていては不利であるため鍔迫り合いもそこそこにナノブレードの刃を流すように相手の御刀で滑らせることで受け流すとフードの人物に向けて横回転しながら飛び上がり、空中で連続で回し蹴りを繰り出す。

 

「2席さんも心配してたしさ!たまには顔くらい見せてあげたら!」

 

「……………」

 

しかし、フードの人物はスパイダーマンの言葉など全く他人事であるかのように意に介さず、無言でスパイダーマンが繰り出して来るローリングソバットを両手に持つ御刀で的確に防御し、その度にスパイダーアーマー(仮称)のナノマシンで構成された硬質な装甲と刃が激突する音が施設内に鳴り響く。

 

「ま、御刀を2本使ってる時点で一席さんっぽくないけどさ……けど、あんましノロを奪われるのは皆が困るからね!」

 

相手に休む暇すら与えない激しい連撃を防がれたスパイダーマンが通路の床に着地してニモの奉納されている擬似的な社を守るように前に立ちながら眼前に立つ意図も感情も読めない不気味さを漂わせるフードの人物を見据えてナノブレードを構える。

フードの人物は少なくともこの研究施設に無断で侵入し、ニモの強奪を試みているため何としてもここで食い止めて捕獲しなければならないとより強く認識すると一直線に駆け出す。

 

「………っ!?」

 

しかし踏み出した瞬間、全身に嫌な予感が走る。スパイダーセンスが働いたためつい反射的に反応してしまったのだが、更なる脅威の接近はフードの人物の背後からより強く感じる。

フードの人物は唐突に姿勢を低く屈むと先程までフードの人物の頭があった位置を一気に超高速で何かが通過したのを感じ取る。そして、スパイダーマンは即座に背後の社を守るためにナノブレードを上段から縦方向に振り下ろす。

 

「はっ!」

 

ナノブレードの刃がフードの人物の背後から飛んで来た物体を捉えた事でその物体を両断する。

スパイダーマンのナノブレードによって両断された物体が砕けた事でより鮮明に視認出来たのだがその正体に唖然とする。

翡翠色の爪楊枝、もとい針金の如く細長い鋭利な円錐状の棘の様な物体の残骸が舞っていた。明らかにフードの人物では不可能な位置からの攻撃と判断出来たがこちらに認識させる隙を与えないかの如く追撃を放って来る。

 

「嘘!?増援!?ぼっちじゃ無かったのかよ!」

 

「…………」

 

スパイダーマンがニモを守らないといけないという縛りを理解しているのか新たな乱入者はスパイダーマンに休む暇など与えないとでも言わんばかりに矢継ぎ早に空中に先程と同じような細長い鋭利な棘を一瞬で大量展開するとスパイダーマンに向けて一斉に放って来る。

 

「クソッ!流石にこれはヤベ……っ!」

 

雨の如く降り注いでくる細長い棘を少しでも迎撃に失敗すれば社に大打撃を与えてしまうかも知れないと予想出来る。

この状況をどうにか出来るのは自分のみである。ことを自覚するとスパイダーマンは即座に施設内を見渡して状況を反応すると右手のナノブレードと左手のナノブレードの束を重ね合わせる。

直後、ナノマシン同士が結合して1本の薙刀のような姿へと変えて左手に持ち帰るとHUDでウェブのモードを素早く操作して行く。

 

スパイダーマンが通路の手摺りから飛び、右手のウェブシューターのモードをウェブグレネードに変更すると社を囲むガラス張りのケースにウェブグレネードを当てると棘が飛んで来る正面に向けて広範囲にウェブが拡散して行き、飛んで来た棘の半数程をウェブが包むことで力無く床にウェブと一緒に貼り付けられる。

 

「上手く行ってくれよ……っ!」

 

そして、飛びながら一つに重ね合わせた事でリーチが伸びた薙刀状へと変化したナノブレードを縦横無尽に振り回して広範囲に飛んで来る棘の残りの半数を一斉に自分の足元へとたき落としていく。

 

「よし、全部打ち落とした!……ぐあっ!」

 

しかし、スパイダーマンが棘を全て打ち落としたまではいいのだがそれだけ守りに徹底してしまったことにより大きな隙を作り出し、更なる追撃を許してしまっておりいつの間にか腹部に翡翠色の鱗に覆われた鎧のような膝がめり込んいた。

そして、スパイダーマンはそのまま蹴り飛ばされガラス張りのケースに激突するとナノブレードを床に落とし、ガラスが割れる音が周囲に響き渡り、社に激突して倒壊させてしまい、ニモの奉納された壺が転がって行く。

ダメージが入る最中、顔を上げるとスパイダーマンに膝蹴りを喰らわせたと思われる乱入者の姿をようやく視認する。

 

「早く回収を、増援が来る前にここを去らなくては」

 

「ちょっと……日本にジュラシックパークの建設予定なんてあったけ……っ!?」

 

顔を上げた視界の先に広がるのはフードの人物とそれに声をかけながらこちらを警戒するかのようにスパイダーマンを見下ろす動物界脊索動物門爬虫綱有鱗目トカゲ亜目である蜥蜴の姿をした流線型の鎧を纏った様にも見える異形の姿に爬虫類の象徴である尻尾、両眼が真紅に染まった人型の異形、リザードの姿であった。

 

ーー時は少し戻って数刻前

 

颯太、舞衣、エレンとの会話を途中で予定があると打ち切って本日はもう帰ることを伝えたコナーズは研究施設の出口へと向かって歩みを進めていた。

しかし、どこか施設全体を見渡しているかのような目配りで何かを確認している。

 

(護衛の数は1人と聞いていたが予定外に1人増えていた……まぁ、偶然でしょうが。施設内の地形から鑑みるにこのルートが恐らく最短で見つかりにくいか……あのお方にも文章で伝えておきましょうか)

 

コナーズが実験後からモニタールームで解散した後に施設内を練り歩いていた

のは施設内の構造と警備体制を把握するためでありおおよその最短ルートと強奪から撤退までに掛かる時間と警備体制を把握すると携帯でどこかしらにメッセージを送り、出口へと向かって行く。

その最中、コナーズは先程までの出来事を思い返していた。

 

(しかし、私も少しペラペラと喋り過ぎたか……それにしてもまさか……成長してこんな所にいるとは)

 

本来関わる必要がない一般人に過ぎない彼に、プログラミングのミスを態々指摘してまで接触を測ったのか。自分でも非合理的で理解し難い行動であるがコナーズにその行動を促したのは過去の記憶から来る物であった。

そこを刺激されてしまったが故の知的好奇心なのか、それとも後ろめたさからなのか……実際に会話をする事で答え合わせが出来たが今は余計な雑念は払うべきだと踏み止まり、素早くポケットの中でメッセージアプリを起動しながら画面を見ずに文章を打ち込んで行く。

 

(だが、関係ない。彼はあくまで少し賢い程度の一般人に過ぎない、争いとは無縁な人間だ……下手に巻き込まないよう、ここは手短に済ませましょうか)

 

『潜入は成功、警備体制の把握と最短ルートは確認しました。報告にあった護衛の刀使は1人と事前に聞いていましたが想定外にもう1人増えていました。

しかし、その2名以外に戦力は見受けられないため最短でノロを確保して撤退する分には問題はないと思われます。私も貴方が撤退するまでは近くで待機しておりますがもし時間が掛かるようでしたら助力致します、以上』

 

メッセージを送信すると同時に施設の出口のドアをくぐって施設外に出ると待機していたかのようにタイミングよく音もなく合わられた前方から気配を殺して歩いて来る黒いフードを目深に被った人物とすれ違いながら小声で声を掛ける。 

 

「では、ご武運を」

 

ーーフードの人物が施設内に侵入し、時間が経過した頃

 

フードの人物の離脱を確認するために近場の森林の物陰に身を隠し、様子を伺っていたコナーズであったがどこか神妙な面持ちで研究施設の方向を見つめていた。ふと、時間が思っていたより経過している気がしたため左手首に巻いている腕時計を確認すると実際に作戦時間が予定よりも経過している事が見て取れた。

 

(遅い……戦力の数に反して時間が掛かり過ぎている。あの方ならば既に撤退していてもおかしくはない筈なのに……まさか、ここの戦力が思っていたより高いという事か)

 

事前にこの研究施設の名誉顧問と主任の身内であるエレンが護衛としてこの場所に来ている事は把握していたが予想外に舞衣が来たことにより戦力が増えていた事は想定外ではあった。

しかし、1人戦力が増えた程のアクシデントであればフードの人物の力量なら素早く強奪して逃走を図る分には問題ないと判断していたのだが不自然な程に時間が経過しているとなると戦力が思っていたよりも高く、素早く対応出来るイレギュラーが介在している可能性を考慮すると思っていた以上に手こずっていると想像出来る。

 

「致し方ないですね、ならば私も」

 

コナーズはどこからともなく取り出した蜥蜴のマークが刻印されているアンプル、†リザード†を取り出すと右方向に左腕を振ると首筋の右側にアンプルの頭部を当て、ボタンを押し込むとアンプルのシリンダーに充満したいたノロは一瞬の内にコナーズの首筋の頸静脈を通して体内に流れ込んで行く。

直後にコナーズの体内で細胞が新しく生成・再構築されて行き、皮膚を光沢を放つ刃の様に鋭い鱗へと変貌させ、鎧の様な外貌を形成しながら包み込む様に身体中へと拡散させて行き、一瞬の内にリザードへと変貌する。

 

「さぁ、早めに片付けて帰りましょう」

 

リザードは赤い瞳を研究施設の方向へ向けると跳躍と同時に姿を消してその場から姿を消していた。

施設内に侵入したリザードが自分もフードの人物に教えた通りの道筋を辿ってニモのある社の場所まで一気に駆け抜けて行く。

社のある場所の付近まで到達したリザードであったが眼前で繰り広げられている光景を目撃し、足を止める。

 

「あーもしもし一席さん?違ったらごめんだけど……っ!ノロの強奪なんてして何がしたいのかな!?オークションにでも出す気!?」

 

眼前に広がっているのは社を守り、フードの人物を足止めする為に、何故か、この場所にいる事自体が不自然極まりない存在であるスパイダーマンがフードの人物と攻防を繰り広げているのであった。

 

(何っ、スパイダーマンだと?何故ここに?)

 

現在管理局と協力関係にあり、各地で特別祭祀機動隊の支援を行なっている主に美濃関近辺に出没するご当地ヒーロー、親愛なる隣人スパイダーマン。

リザードも旧折神体制の頃に本部で研究に携わっていた頃、あの鎌倉での戦いの際に反対勢力である舞草の協力者である事は把握しており何かしらのきっかけで超常の力を手にしているためいずれ邪魔になる可能性は大いに高い……という認識であったがこのような関係者しか入れないようなピンポイントな場所にいるのか理解が出来なかった。

 

しかし、今自分たちがやるべき事はノロを強奪し、足がつく前に撤退をする事であるためフードの人物を支援する為にスパイダーマンを退ける必要があると判断し、リザードの左手の掌の中で鱗が細かく蠢く。

 

掌の中で翡翠色の刃の様な鱗がまるで生きているかの様に徐々に一つに結合し、形を再構築して行き、翡翠色の針金のように細長い鋭利な槍といった円錐状の棘を生成するとリザードの手に収まる。

 

(何故このような所にいるかは疑問が残りますが、時間がありません。邪魔者にはご退場願いましょう)

 

リザードは左腕を大きく振りかぶって脚を強く踏み締めると身体中の筋肉が引き絞られる。そして、フードの人物が確実に回避してくれると信頼しているあめスパイダーマンの視界に入らないようにフードの人物を壁にして棘をスパイダーマンに向けて力一杯に投げ付けた。

 

ーーモニタールーム

 

施設内に侵入者の侵入を知らせる警報が鳴り響き、施設内にいた者達に危機感を与える。

舞衣とエレンが施設内にいる者達を避難させている最中、途中で合流したハッピーに侵入者が来たことを伝える事で早急に警報を鳴らしに行かせたことで早めに皆に侵入の危機を知らせることができ、各々が避難して行く。

 

そうしている最中、モニタールームへと移動して来た施設の責任者である公威、ジャクリーン、フリードマン、施設のパトロンである孝則、護衛であるエレンと施設の者達の避難をハッピーと共に進めた舞衣が一斉に会した。

 

「何事だ!?」

 

警報が鳴り響くだけでなく、ハッピー達が懸命に避難を命じている程の逼迫した状況であるため開口一番、施設の責任者である公威は事態の状況把握に努めようとしていた。

だが、モニタールームのガラス面から見える光景が事態を理解させられる。

 

「……っ!スパイダーマン!」

 

思わず我先にと眼前で繰り広げられる光景に対し、舞衣が声を荒げる。

モニタールームのガラス面の先でスパイダーマンが社に叩き付けられた事でガラス張りのケースが粉砕された上で社が倒壊しており、ニモの奉納されているが床にに転がっているからだ。

そして、それと相対するかのようにスパイダーマンを見下ろすフードの人物とリザードの姿があった。

 

「アレは……スパイダーマン?何故こんな所に……」

 

状況を鑑みるにスパイダーマンは2対1という不利な状況でありながらニモを侵入者達から守ろうとしている事は見て取れるが何故この場に彼がいるのか全く理解出来ていない、彼の正体を知らない孝則と古波蔵夫妻は理解が追いついていないようであった。

 

「そ、それは……御刀!まさかノロの強奪犯って…」

 

「YES、刀使デス。おまけに今日はお仲間も一緒みたいデス」

 

孝則達に彼がこの場にいる事態をどうにかして誤魔化そうとした舞衣であったがフードの人物の右手に持つ御刀が視界に入ると認識を改めざるを得ない事態と理解させられる。

 

だが、そんな彼らを置き去りにするかの如く状況は加速して行く。

スパイダーマンが彼らにニモを渡さまいと左手を壺の転がっている方向に向けてウェブシューターを構えてスイッチを押す。

 

『ニモはあげません!』

 

『頂きます』

 

しかし、その行動を見逃さなかったリザードが左手の手中に細長い棘を形成すると壺の底へ向けて投げ付けて命中させると弾かれた壺は空中へと打ち上げられたことでウェブは壺に当たる事なく手摺りに命中する。

 

『今です』

 

『しまった……っ!』

 

そして、その宙へと打ち上げられた壺に向けてフードの人物が左手を伸ばすと壺の中に奉納されていたニモが溢れ出し、線状になりながら手の中へと集まって行く。結果として、ニモはフードの人物へと奪われてしまった。

 

『返せ……っ!』

 

しかし、スパイダーマンは声色にドスを効かせて即座に立ち上がりながら眼前のリザードとフードの人物をナノマシンで構築されたマスクの下で力強く睨み付け、抗戦の意志を見せる。

 

『そう簡単には見逃がしてはくれないか……私が押さえます。早急に撤退を』

 

『…………』

 

リザードの言葉に頷くとフードの人物は我先にと施設から逃走を図ろうと一気に加速して出口の方向へと駆け出して行った。

 

『待て!』

 

『貴方の相手はこの私ですよ』

 

フードの人物を追い掛けようとウェブシューターを構えた矢先、それを妨害するかの如くリザードが左手の中で3尺6寸程の翡翠色の鋭利な刃が特徴の長剣を生成し、スパイダーマンへと斬り掛かって来る。

 

「ちょっと、邪魔しないでくれる!?」

 

「邪魔者は貴方です」

 

スパイダーセンスが危機を知らせるとリザードの横凪の一閃をバク宙で回避し、右手のウェブシューターのスイッチを押してウェブを放ち、蹴られた際に落としたナノブレードに当てると同時に引き寄せて手中に収めて手摺りの上に着地する。

 

フードの人物を追わせまいとしてスパイダーマンへと剣を向けるリザードと、一刻も早くフードの人物からニモを奪還して拘束しなければと決意したスパイダーマン。お互い一歩も自分の道を譲らんとばかりに睨みを効かせる。

 

「ねぇ、Tレックス!日本は今氷河期なんだからさ、爬虫類は大人しく冬眠しててくんない!」

 

スパイダーマンが周囲を見渡すと逃げ遅れた者達の姿は確認出来ないため一安心すると同時に邪魔者であるリザードを退けるために薙刀状にしていたナノブレードのナノマシンの半分をスーツに戻し、元の日本刀一本分の長さへと戻す。

 

「つっても就職の氷河期だけどね!」

 

「ふっ、冗談がお上手で」

 

ジョークと同時にスパイダーマンは手摺を強く蹴り上げて、道を阻むリザードへ一気に接近してナノブレードを叩き付けるとそれに応戦するかのようにリザードも左手に持つ剣を振り抜くとナノブレードとリザードの剣の切先が激突すると施設内に金属音が響き渡り、力と力が拮抗する鍔迫り合いを繰り広げて行く。

 

リザードがスパイダーマンを足止めしている隙に、強奪犯の主犯であるフードの人物が退散しようとしている様子を見ていたエレンは次に自分が取るべき行動は何かを導き出すと納刀状態の越前康継を鞘から抜き出す。

 

「エレン?何を?」

 

娘の行動に理解が及ばない公威に対し、真剣な顔付きで彼の方へと顔を向けて言い放つ。

 

「パパごめんなさい。後でちゃんと縫いますから!」

 

越前康継の刃で私服のロングスカートの丈をバッサリと切り下ろし、走りやすいようにミニスカート程の長さへと変えると再度納刀して自分の家族の方へと視線を向ける。

 

「パパ、ママ、グランパ……行ってマス!」

 

その言葉と同時にこの施設を脱出するにあたって必要となるルートへと先回りするために走り抜けて行く。

 

「待って、私も!」

 

それに呼応するかの如く舞衣も自らエレンの後を追おうと走り出そうとするが背後から孝則に声を掛けられる。

 

「舞衣……」

 

その一言で舞衣はふと足を止める。背中越しであるため孝則の表情は見えないが彼の声から確かに伝わって来るのは、娘の身を思う父親の声色だ。

心配し、自分のことを想ってくれることは嬉しい。それでも今、自分がやらなければならない事は既に決まっている。

 

「ごめんなさいお父さん…やっぱり私は刀使です!」

 

「舞衣……っ!」

 

自分の意志を孝則に堂々と伝え、舞衣はエレンの後を追い掛けて走り出す。

遠ざかって行く娘の背中に向け、孝則は足を前に踏み込まながら声を掛けるがフリードマンに優しく肩に手を置かれ、静止させられる。

 

「待ってください、私らが行った所で足手纏いにすらなりませんよ」

 

「………」

 

理解はしている。生身の人間に過ぎない自分が行った所で超人的な力を扱える彼女達に対して何か出来ることなど無い、筋の通った理屈だ。

しかし、親として見ている事しか出来ない自分に歯痒さを感じている事実に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていると警報や娘の事にかまけて気にする余裕がなかったのだがつい気になったことをフリードマンに問い掛ける。

 

「そう言えば彼は?先程からどこにもいないようですが」

 

孝則は少し前まで自分と会話をしていた颯太がどこにも見当たらないことが気になってしまったようだ。

娘の理解者の1人で、会話を通して多少は心を通わせた相手であるため姿が見当たらないとなると心配になようでフリードマン達を真剣な表情で見つめてくる。

不味い……フリードマンは聞かれた瞬間にそう感じた。孝則はスパイダーマンの正体を知らないため今そこで蜥蜴のクリーチャーと戦っている親愛なる隣人が彼ですよ。等と言える訳もなく何か誤魔化さなければと思考を巡らせて行く。

 

「あー……彼はですね……トイレが長いんですよ!最近忙しくて食生活が偏っているようでお腹の調子も良くないと以前相談されたのでまだ治ってないのかと、一度入ると中々出てこないタイプでして……」

 

「そう……ですか」

 

中学生にしてはコーヒーを飲み過ぎであると聞かされていたため、多忙のあまり食生活が非常に偏っている可能性もなくは無いのか?と半信半疑ではあるが颯太と実際に会話を経た話と暇付けして取り敢えず信じることにした。

フードの人物が教わった最短ルートを通過し、施設内からの脱出を図ろうしている最中、出口への道筋へ先回りしていた舞衣とエレンが立ち塞がる。

 

「止まりなさい」

 

「抵抗するなら斬りマース!」

 

「……………」

 

2人が力強く呼びかけ、並んで帯刀ギミックにかけてある愛刀に手を掛けて威圧感を掛けるがフードの人物は一向に怯む様子も無く、ジリジリと出口へと向かって歩き出す。

止まる気がないという意思表示だと理解すると2人とも鞘から抜刀し、写シを貼って臨戦態勢に入る。

 

「マイマイ、遠慮はいらないみたいデスね」

 

「ええ」

 

緊迫した空気の最中眼前にいる正体不明のフードの人物を敵と認識し、それを

感知したフードの人物が口元を緩めると瞬きをする間に加速して通路の中心側に立っていた舞衣に向けて上段から右手に持つ御刀を上段から叩き付けて来る。

 

「………」

 

「くっ!」

 

しかし、その上段からの一撃を刃で防ぐとすぐ様後ろに下がりって前衛をエレンに交代してもらい、彼女が上段から越前康継を振り下ろす。

 

「ふん!」

 

しかし、フードの人物はまたしてもその攻撃を読んでいたと言わんばかりに右側に移動する事で回避し、すぐ様エレンに対して正中に向けて上段から御刀を叩き付けて来る。

 

エレンが越前康継を寝かせるように構える事で鎬地で防くがフードの人物は一度手を引き、今度は右手に持つ御刀を左側から横凪に一閃する。その一撃もエレンに防がれるがフードの人物は再度、右側から横凪の一閃をお見舞いするとその一撃も越前康継を横に振る事で防がれてしまう。

 

しかし、フードの人物は攻撃を止める事なくダメ押しとばかりに再度半回転する時の要領で右手に持つ御刀を左側から横一閃に振り抜くとエレンはその一撃を上体を後ろに反らす事で回避するとカウンターと言わんばかりに姿勢を立て直して越前康継を一閃する。

 

「ふん!」

 

「………」

 

気合の入った掛け声が乗った一閃もフードの人物が後方に飛ぶ事で回避されてしまうがその様子を見逃さなかった舞衣がフードの人物の跳躍後の落下点まで移動して追撃を掛ける。

 

「ふっ!はあっ!」

 

「おっと、2人とも逃がさないようにしてくれる。早く僕も合流しよう!挟み討ちだ!」

 

社のあった通路でリザードと交戦している最中のスパイダーマンであるが、2人がどうにかフードの人物の脱出を阻止するために奮闘している姿を超人的な視力で距離があるにも関わらず視界に捉える。

 

「余所見をしている場合ですか」

 

スパイダーマンが自分を前にして増援が来た事で気が緩んだように感じたリザードは生成した剣をスパイダーマンに上段から叩きつけるとスパイダーマンはナノブレードの刃で防ぐ。

その時、リザードはスパイダーマンを追撃をするように空いている右腕を左に向けて振り抜き、裏拳を放って来る。

 

「別に余所見はしてないよ!全体を見てるだけ!」

 

「なるほ……どっ!」

 

スパイダーマンはその言葉と同時にノールックで左腕をリザードの裏拳の通過点に出すことで力と速度が乗り切る前に前腕部で受け止める。

力が乗り切る前に防がれたため、大したダメージを与えられていないと判断したリザードは左手に持つ剣を力任せに振り抜くと一度鍔迫り合いの状態を解除する。

 

スパイダーマンを数歩程後方に下がらせるとリザードはスパイダーマンに向けて剣を突き出す様に構え、蜂の如く鋭い突きを放って来る。

 

「はっ!」

 

しかし、スパイダーマンはその突きに対し自分に命中するよりも早く、突き出されたと同時に軽く跳躍する事で回避する。

更に、リザードの剣を踏み台にする事でリザードの頭上よりも高く跳躍し、宙に浮くと同時にナノブレードを一度解除してスーツの中に引っ込め、両手をリザードに向けて構え、追撃するかの如くウェブシューターのスイッチを連打して乱発する。

 

「よっと」

 

「対応が早い……まさかこれ程とは……ね!」

 

スパイダーマンがリザードの背後に着地する頃にはリザードは両足首をウェブで通路の床にしっかりと強固に固定されている状態となっていた。

回避と同時に拘束も行って来るスパイダーマンの対応力に驚かされるがスパイダーマンをフードの人物の元へと行かせまいとして背後に立ったスパイダーマンがいる方向に向け、背中の細胞を変質させて背中全体から剣山の如く量の棘を生成して追撃する。

 

「ちょっと、トカゲなのかハリネズミなのかどっちかにしてよ!」

 

「その変幻自在なスーツのあなたには言われたくありませんね」

 

スパイダーセンスで危機を感じ取ったスパイダーマンは着地して間もない中、予想外の攻撃ではあったものの瞬時に思考を切り替え、先程作り出したような薙刀の様な長さのナノブレードをバトンの如く振り回す事で広範囲の攻撃を防ぎナノブレードを右手に持ったままHUDを操作してウェブのモードを選択する。

 

左手のウェブシューターでウェブグレネードを選択すると床に向けて放つと床に貼り付く。すると、赤い点滅と同時にリザードの背中全体にウェブグレネードから飛び出たウェブが命中してリザードの背中と床との間の距離感がウェブの引っ張り強度を強靭なものへと変質させて行く。

 

「そらよっ!」

 

更に、スパイダーマンはナノブレードを一度空中に向けて投げ捨てるとウェブのモードを通常のモードへと切り替え、腕を胸の前で交差するとウェブシューターのスイッチを力を緩めた状態から徐々に力を入れるように力を加減をし、投げ付ける様にリザードの両腕に向けて投げ付けるとウェブが腕に命中すると同時に投げ付けたスパイダーマンの肩力とぶっつかった衝撃によりウェブが一気に伸び始め、施設内の壁に張り付いた。

 

「しばらくそこで展示されてな化石くん!」

 

そして、宙に投げたナノブレードを右手でキャッチするとリザードを背中、両手両足を拘束した状態に持ち込むことで動きを封じるとお前にばかり構っている暇は無いと言わんばかりにナノブレードを一度分解してナノマシンをスーツに戻し、2人が交戦している通路へ行くために天井にウェブを飛ばしてその後端を掴み、慣性を利用したまま手摺りから飛び出し、施設内をスウィングして行く。

 

その様子を背後で感じ取っていたリザードは拘束された状態のまま無言でスパイダーマンがフードの人物の追撃に向かったことを悟りつつ、小声でボソボソと何かを呟く。

 

「………なるほど、これが戦いですか……力だけでなく柔軟性を求められると。勉強になります」

 

舞衣とエレンがフードの人物と攻防を繰り広げている様子と同時にモニタールームから見える場所でリザードと交戦していたスパイダーマンの様子も見ていたフリードマン達であったがスパイダーマンがリザードを拘束して身動きが取れない状態に持ち込み、2人の救援に向かうとフリードマンはスパイダーマンに向けてエールを送る。

 

「行けスパイディGO!」

 

「いや、博士野球観戦じゃないんだから……」

 

そして、研究者達を避難させ終え、モニタールームまで移動して来たハッピーがフリードマンに対して苦笑い気味にツッコミを入れる小粋なやり取りを繰り広げているとフリードマンが白髪に染まった頭を掻きながら照れ臭そうに謝罪する。

 

「これは失敬……孫にピンチヒッターが来てくれるのが嬉しくてつい」

 

「全くもう……頑張れよ、お前ら」

 

ハッピーが奮闘する3人を小声で鼓舞するがモニタールームの空気はやはり張り詰めている。

古波蔵夫妻は祈るように手を合わせて娘の身を想い、深刻そうな表情で彼女らの奮闘を見守っていた。それは孝則も同様でありフードの人物を逃すまいとエレンと息を合わせて追い込もうと奮戦する姿を目に焼き付けていると思わず先程颯太との会話を通して聞いていたことを思い出していた。

 

『舞衣だって、不真面目な気持ちで刀使の仕事に取り組んでいた訳じゃないと思うんです。僕も彼女の戦いぶりを見て、確かに危険は伴う仕事だけど自分に何が出来るのか、自分に出来る事を見つけて一生懸命やっているのは伝わりました』

 

「舞衣……」

 

これまで孝則は娘がどれだけ真剣に任務に取り組んでいるのか、実際に見たことが無かったため実感が湧かなかったが今はそれがひしひしと伝わって来る。

ノロを強奪し、この場から逃走せんとフードの人物から繰り出される凶刃をいなし、火花が散る程の激戦を繰り広げる……まさに命懸けと言える。

彼女はそんな危険な戦いであろうと自分に出来る事を全うしようと真剣に取り組んでいる様を見た事でつい感嘆の声が漏れる。

 

その呟きが耳に入ったのかフリードマンは孝則の隣に立ち、優しく語りかけて来る。

 

「全く驚かされますなぁ、子供というのはいつの間にか強く大きく成長してるのですから。親が思ってる以上にね」

 

「ええ……」

 

今ならば理解出来る。実際に娘が自分の知らぬ間に立派に成長している姿を目の当たりにした孝則はその言葉を静かに肯定した。

そんな孝則の様子を感じ取ったフリードマンは親として、家族としてどうするべきなのか答えを出すように促そうと孝則に親としての在り方を問い掛ける。

 

「その時親はどうするべきなんでしょうな」

 

「………」

 

フリードマンの言葉を受け、その上で娘の奮闘ぶりとそこから伝わって来る真剣さを感じ取った孝則はより一層眉根を顰めてより真剣な表情へと変わるが彼の中で一つの結論が導き出されて行く。

 

舞衣とエレンは距離を短縮する為に施設内の高所から飛び降りたフードの人物を追跡を続け、自分達も同じく着地するが一向に決定打を出せずにとうとう施設の出口を一直線に駆け抜ければ離脱できてしまう程の距離にある通路で来てしまった。

もし、フードの人物が2人の妨害を振り切って駆け抜けてしまえばフードの人物の正体を知る機会を逃すだけでなくノロを奪われてしまうため2人の間に緊張感と焦燥感が生じる。

 

「エレンちゃん、このままだと……っ」

 

「これ以上は行かせまセン!」

 

フードの人物が執拗に追跡して来る2人に対し、2振りの御刀を構えてゆったりとにじり寄って来るとエレンはフードの人物をこれ以上進ませない為に迅移の発動と同時に上段から越前康継を叩き付ける。

 

「はあ!」

 

「………」

 

「………っ!?」

 

しかし、フードの人物は右手に持つ御刀を斜めに構えるとエレンの唐竹割りを刃で受け止めると流れるように相手の力を利用して滑らせるかの如く受け流すとエレンは力の行き場を失って前のめりに倒れそうな姿勢になる。

 

そして、無情にもフードの人物は既に背後がガラ空きになったエレンの背に狙いを付け、彼女の背中に向けて一閃する。

 

「まだだ!」

 

しかし、それを遮るかの如く後方から気合の入った声が響き渡ると同時に高速でフードの人物へと紫電を纏ったウェブが投擲される。

エレンの背中を切り捨てようとしていたフードの人物であったがその攻撃を察知したのか咄嗟に身を引いて回避と同時に攻撃の飛んで来た方向を見やる。

 

右手の掌と右膝を床に着け、左脚は前に向けて出したままの腰を低く落とした姿勢で舞衣の隣に着地していたスパイダーマンであった。

 

「おっと化石君は後1時間は展示されてると思うから助けが来るとは思わない方がいいよ!さあ、ニモを返してもらうよ」

 

「スパイディ……!」

 

この場にいる全員はスパイダーマンがリザードを拘束した事でこちらの増援に来たと察する事が出来る。

舞衣は一瞬安堵の表情を浮かべるが事態は一刻を争う状況であるためフードの人物の方を向いて臨戦体制は決して解かない。

 

「よかった……って言いたいけど今は……」

 

「分かってるって、ここを抜けられたら逃げられるしね」

 

スパイダーマンも状況は把握しているため一瞬だけ心配してくれた舞衣の方を向いてマスクの下で軽く微笑んだが即座にフードの人物の方向を向く。

エレンも転倒する寸前で踏みとどまり、すかさずフードの人物の背後に周ることで挟み討ちの状態に持ち込み、越前康継を再度構え直す。

 

「舞衣、ここは狭い。僕は壁と天井に貼り付いて2人の支援に回って攻める時に攻める」

 

しかし、歩幅はかなり広くはあるものの所詮は複数人が倒れる程度の通路。複数人が固まり、自由に動き回るにはあまり向かない場所であるため立ち回りには注意が必要となるだろう。

そこであらゆる場所に貼り付けるスパイダーマンはこの狭い場所での乱戦では牽制と支援に回った方が2人の立ち回りを阻害しないと判断したのか、言葉短く舞衣に提案する。

 

「分かった、必要な時は言うね。ここで食い止めよう!皆!」

 

スパイダーマンの提案を聞くと理に適っていると判断した舞衣は2人に対して檄を飛ばし、即席であるがチームを引っ張る司令塔の顔へと変わる。

 

「「OK/了解!」」

 

既に彼女の司令塔としての手腕を目の当たりにしており、それを信頼している2人は舞衣の言葉に強く頷き、気を引き締める。

スパイダーマンは2人の立ち回りの阻害にならない為に跳躍して天井に張り付き、エレンと舞衣はフードの人物をしっかりと見据えて臨戦体制へと入る。

それに対し、フードの人物は3人に囲まれ、挟み撃ちといった数的不利に追い込まれようと一切動じる素振りは見せず出方を伺っている。

 

「まずはこれ!」

 

まずはフードの人物に何かしらアクションをさせようと最初に動いたのはスパイダーマンであった。

天井に足の裏だけを張り付けた洞窟の蝙蝠の如く逆さまの状態のまま両腕を前に突き出して2人には命中しない位置を瞬時に算出すると両手に持つ2振りの御刀に向けてウェブシューターのスイッチを押し、ウェブを放つ。

この3人で戦闘を行うには狭い場所で派手に動けば行き先を読まれやすくなってしまうからだ。

 

「………」

 

自分の得物を狙われたと察知したフードの人物はスパイダーマンのウェブの投擲に対し、この乱戦での通路内では派手に動いて回避すれば動きを読まれやすくなると判断してか最小限の、身体を左右に動かす程度の動きで得物を取られない様にスパイダーマンのウェブを回避した。

 

……しかし

 

「エレンちゃん攻めて!」

 

「OK!」

 

「スパイダーマンは下がって!」

 

「分かった!」

 

回避の為に最小限の動きを心がけたことにより動きが小ぢんまりとし過ぎたため、他方面からの攻撃へ反応するタイミングが遅れ、エレンの接近を許しておりその隙にスパイダーマンは即座に右の通路へと飛び移り、壁に張り付き次の、チャンスを狙う。

 

エレンがフードの人物に向けて横凪の一閃を放つとフードの人物はその場から動かずに右手に持つ御刀を構えて彼女の一撃を防ぐと流れる様に振り払う事で受け流すとエレンの姿勢は前のめりに崩れるが倒れながらも右足を軸足にする事で勢いを利用してフードの人物の顔面に向けて回し蹴りを放つ。

 

風を切る音が鳴る程の鋭い回し蹴りがフードの人物を捉えると思われた寸前、フードの人物は姿勢を低くするとこで回し蹴りを回避すると蹴りを放った直後で即座に軸足のみで立っている状態のエレンへ向けて足払いを放って来る。

 

「エレンちゃん防いで!」

 

「言われなくても!」

 

状況を把握しながら的確な指示を飛ばし、エレンもそれに応え、金剛身を発動する。すると、フードの人物の足払いは確かにエレンの軸足に見事命中するが金属を槌で叩いた様な鈍い音が鳴り響くが金剛身によって鋼鉄の様に硬度を増したエレンの脚にはダメージを与えるには至らなかった。

 

そして、舞衣はエレンが足払いを防いだ瞬間を見逃しておらずフードの人物に休む間を与えないかの如く矢継ぎ早に指示を飛ばして行く。

 

「スパイダーマン、今!」

 

「ばっちこーい!」

 

指示が出たと同時に壁を足の裏で力強く蹴り付けると弾丸の如く速さで壁から離れてフードの人物へと接近して飛び蹴りを放つ。

 

「………」

 

足払いを防がれた直後で攻め込む隙が生まれた事でスパイダーマンが攻め込むチャンスとなり、防御が疎かとなった状態で攻め込まれたためフードの人物はワンテンポ遅れて二振りの御刀を交差する形を作る事で寸での所で防ぐ。

 

しかし、スパイダーマンの飛び蹴りの威力が想像以上に強く、足払いを放った直後で足元が安定しない状態での防御であったため蹴りが命中と同時に周囲に衝撃が走り、受け止めたフードの人物を僅かだが後退らせた。

 

「まだまだ行くよ!」

 

スパイダーマンの何としてもこの場でフードの人物を捕らえ、ニモを奪還するのだとまず初めに左脚で素早くハイキックを放つ。

フードの人物は右手に持つ御刀の峰でハイキックを防ぐと、スパイダーマンは続け様に右脚で腹部に向けて前蹴りを放つ。

その追撃をフードの人物は迅移で加速する事で背後に回る事で回避し、左手に持つ御刀でスパイダーマンの向けて突きを放って来る。

 

「……っ!?やっぱ速い!けど……っ!」

 

その背後からの突きをスパイダーセンス で感知すると左側に振り向きながら腕を振るって突きが自分に当たる寸前で御刀の鎬地に裏拳を当てて防ぎ、フードの人物が空いている右手に持つ御刀でスパイダーマンに唐竹割りを放とうと上段から振り下ろす。

 

そして、その追撃すらもスパイダーセンスは教えてくれる。スパイダーマンはフードの人物の力が乗り切る前に裏拳をフードの人物の前腕部に当てて防ぐ。

しかし、フードの人物は防がれた状態から身体を一回転しながら右手の御刀を左から右に向けて一閃する。スパイダーマンはフードの人物の正面を取るために姿勢を低くする事で回避を行う。

 

「はっ!たあっ!」

 

スパイダーマンがフードの人物の正面を取ると腹部に向けてジャブを連続で放つ。しかし、フードの人物はスパイダーマンが放って来るジャブを飛んで来る位置に向けて的確に腕を構えて防いで行く。

 

剣術だけでなく徒手格闘での戦闘技術にも秀でているのでは無いかと錯覚する程に御刀での防御だけでなく素手による防御でスパイダーマンの猛攻を防ぐ手腕に驚かされるがキャプテンとアイアンマンから戦闘訓練を時折受けていた成果からか必死に食らいついていく。

 

スパイダーマンのジャブを連続で受け続けた事で腕に痺れが生じたのか徐々に防御に綻びが生じ始めた瞬間にスパイダーマンは左脚で脇腹に向けて蹴りを放つとフードの人物に咄嗟に肘で防がれたが2段蹴りを放つ事で次は顔面にハイキックを放つ。

 

しかし、左脚での蹴りの猛攻は囮で今度は右脚で左腕に向けて蹴りを放つと力を入れて放った蹴りは響いたのか左手に持つ御刀で防いだまではいいが一瞬怯んだ。

 

「…………」

 

「くらえ!」

 

その怯んだ隙を見逃さず、スパイダーマンはその場で身体をスケート選手の如く回転さながら跳躍し、隙が生じたフードの人物の顔面に向けて回し蹴りを放つ。

 

フードの人物を追い詰めようと奮闘するスパイダーマン達を前に、その様子を視界に捉えた人物は高低差のある高い位置から見下ろしながら眼前の広がる状況を分析し始める。

 

「なるほど、優秀な司令塔が駒を的確に動かし上手くゲームメイクをしていると言うことか。ですが、その頭を潰せばあなた方はどうなるのでしょうね」

 

エレンとスパイダーマンに指示を出す舞衣へと視線を移し、彼女がこの即席チームの司令塔であり彼女の指示によってフードの人物の脱出を妨害していると察する事が出来たためその人物は自らも次の一手を打たんとして行動を起こす。

 

翡翠色の鎧の如き右腕を前に突き出すと掌の中で細胞が再構築され、鱗が密集して行き得物を形成する。

今はこの場で自分が取るべき手段は司令塔である舞衣を妨害し、彼らの指揮系統を瓦解させること。それを行うために選択した得物は……弓矢であった。

 

右手の掌にはしなやかなカーブを浴び、一本の弦が張られている翡翠色の大型の弓。左手の掌にはスパイダーマンに投げ付けた際に使用していた爪楊枝の如く細長い翡翠色の矢。

その人物が右手の弓を舞衣に向けて構え、弓の弦に左手に持つ矢を弓の右側につがえると親指を弦に引っ掛かると後頭部の位置まで一気に引き込み、弓を強く握る。

 

「若き将よ、少し大人しくしていてください」

 

スパイダーマンがフードの人物と競り合っている程、想像以上に時間が掛かってしまっているため状況をこちらに有利にせんと彼女達の死角になる位置から舞衣に狙いを定め、弓の弾力を利用して弦から手を離す。

 

放たれた矢は弓から離れ、一直線に舞衣に向けて放たれる。人智を超越した腕力と弓の弾力によって流星の如く加速して行く矢は直進して行く最中で分裂し、複数に細かく分かれる事で流星群となって地上へと降り注ぐ。

 

フードの人物に向けてスパイダーマンが跳躍し、空中で頭部に回し蹴りを放ち、それが命中するか……と思われた刹那、背後からの全身の毛が逆立つ程の危機をスパイダーセンスが感じ取る。

 

かなり脅威的な反応であるため思わず蹴りに回す力を緩め、即座にスパイダーマンは自分の背後にいる2人の方向へ顔を向けて腹の底から大声で叫ぶ。

 

「舞衣!エレン!後ろ!」

 

「え!?」

 

「……っ!マイマイ!」

 

マスク越しでもスパイダーマンの剣幕が伝わる程の張り詰めたスパイダーマンの大声に驚いてしまったがエレンはすぐに後方を確認すると自分たちの背後に迫っていた危機を目の当たりにする。

ーー翡翠色の細長く鋭利な矢が流星群の如く、それでいて勢いで豪雨のような物量でこちらに向けて降り注いで来ていた。

咄嗟に身体が動いていたエレンは迅移で加速し舞衣を庇うように彼女の背後に回る、すると降り注いで来ていた翡翠色の矢の雨が彼らのいた通路付近に命中し、轟音と土煙を上げる。

 

「舞衣!エレン!……クソっ!」

 

スパイダーマンの放つ蹴りは彼女達に危機を伝えた瞬間に力を緩めてしまったため渾身の一撃はフードの人物の持つ御刀で防がれてしまい、ダメージを与えられなかったが2人の様子が気になって背後にいる彼女達の様子を確認しようと背後を向くと徐々に土煙が晴れて行く。

 

「エレンちゃん……っ!」

 

「大丈夫デス……後少し遅かったらヤバかったデスけどね……ぐっ」

 

土煙が晴れた先に見えたのは舞衣を庇う為に彼女の背後に回ったことで矢が命中し、プレゼントとして渡された私服はスカートや袖の裾はボロボロとなり、所々に壁や床に矢が命中した際に舞った土によって汚れ、写シは既に剥がれてしまい残りの全ては金剛身で防ぐ事に成功はしたが直撃を受けた精神ダメージによる疲労で右の片膝を床に着け、越前康継を床に刺すことで立ちあがろうとしているエレンの姿であった。

そして、背中を守られた舞衣はエレンが自分を庇った事でダメージを負った事に負い目を感じて彼女に駆け寄り、心配そうに声を掛ける。

 

「防ぎ切ったか……お見事」

 

直後、先程この攻撃を放って来た大元がこの通路の位置まで落下してくると着地と同時にその姿を露にする……先程までスパイダーマンにウェブで高速されていた筈が自由の身となって翡翠色の弓を右手に持つリザードであった。

 

「もう抜け出して来たのか……っ!けどどうやって」

 

スパイダーマンが拘束した筈のリザードが自由の身となって身体にウェブ1つ纏わりついていない状態で参戦したことに驚き、リザードを拘束していた通路の位置を見上げるとウェブはしっかりと固定されており無理矢理力技で脱出した形跡は見られない。

何故か?と目を細めてスパイダーマンがその方向を凝視すると目を疑う光景を目の当たりにする。

 

リザードの身体……いや、確かにウェブに繋がれているが身体のあちこちが破けている状態で、徐々に塵と化していくように身体が崩壊し始めているリザードの抜け殻と言った物へと成り代わっていた。

 

「マジかよ……脱皮したって事?」

 

「ご名答。さぁ、今のうちにお逃げください」

 

「………」

 

リザードはスパイダーマンに両手足と背中をウェブで床や壁に固定されて身動きが取れない状態になっていたのだが脱出の策を短時間で捻出し、ウェブが張り付いた皮膚の部分を棄てる為に爬虫類が行う周期的に新しい角質層が下に作られ、外側の古い鱗が剥がれて脱落する現象、脱皮を行って脱出した。

 

拘束されているリザードの抜け殻が役目を終えたかのように崩壊して消失すると同時にリザードがフードの人物に声を掛けると阿吽の呼吸でフードの人物は出口に向けて駆け出した。

 

「させるか!」

 

「こちらの台詞です」

 

スパイダーマンが逃走を図るフードの人物を追撃しようと地面を蹴り上げようと試みるとリザードは矢をつがえて構えている間に間近にいる舞衣とエレンに妨害される可能性が高い弓での遠距離攻撃から切り替え、弓を形作っている鱗の構造を剣へと変換して左手に持ち替える。

スパイダーマンを長く足止めするために脚力を行使して、一瞬で加速して接近するとスパイダーマンを背後から斬り付ける。

 

「うおっと!」

 

スパイダーセンスが反応したため、反応と同時にナノブレードを右手に形成するとリザードの一閃を防ぐ。

リザードはスパイダーマンを足止めしつつ自身も脱出する機会を伺いながらスパイダーマンを攻撃し続ける最中、エレンに庇われた舞衣は彼女の様子を心配しながら声掛けをしていた。

 

「ごめんなさい、私のせいで」

 

「私は大丈夫デス……追ってください!」

 

自分が原因でエレンがダメージを負った事に負い目を感じているという思慮は伝わって来るがエレンは写シ解除による精神ダメージが残っているが金剛身で防いだため無事であり、すぐに戦線復帰が困難な自分に構うよりもやることがあるだろう?とでも言いたげに後を託すように小さく笑って舞衣を鼓舞する。

 

「……っ!分かった!」

 

一瞬、冷静さを欠いてしまったが彼女の意図を汲み取るとすぐさま真剣な表情へと変わり、力強く頷いて前を向いてフードの人物が逃走を図った出口の方向と交戦中のリザードとスパイダーマンの方向へと目を向け、迅移で加速して駆け出す。

 

「ふっ」

 

「クソ!逃げられる!」

 

リザードは通路を縦横無尽に駆け回りながらスパイダーマンに剣戟を叩き込み、スパイダーマンはそれに対応すべくナノブレードを振っていなす事で応戦して行く事で通路中に金属音が鳴り響き、火花が散るがお互いに有効打が出せない拮抗状態へと化しいる最中、リザードが右側から振り抜いた横凪の一閃をスパイダーマンはナノブレードで防御するがやや力負けしてしまい後ずさってしまった。

その好機を逃さんとばかりにリザードは追撃を行おうとした矢先、背後に圧を感じた。

 

「はあ!」

 

「………っ!?くっ!」

 

気合の入った掛け声と共に繰り出されたのは舞衣のリザードの背後を取り、右側から左に向けて背中を斜めがけに斬り付ける動作であった。

後方にいる2人も警戒していなかった訳ではないが相対するスパイダーマンも中々気が抜けない相手であったためそちらに意識を向け過ぎた結果背後からの接近に気付かなかった。

フードの人物は直に脱出するだろうが自分が確保されてしまう事もかなりリスキーである事は理解している為、ワンテンポ遅れ、つい咄嗟に左側に回転しながら左手に持つ剣を振る事で舞衣の背後からの一撃に対応した。

 

(……っ!?何で今態々左手の剣で対応した?)

 

しかし、この攻撃に対応したリザードの様子を見て妙な違和感を覚えた。

スパイダーマンはリザードが身体を変幻自在に変化させ、時には背中から棘を生やし、時には手の中で武器を生成したりと応用の効く能力を持っている事を実際に目の当たりにしていた。

舞衣の背後からの右側への一撃に対しても態々左側に回転しながら左手に持つ武器で対応するよりも舞衣の攻撃に力が乗り切る前に右手に武器を生成して防ぐなり、棘を生成して牽制するなり出来たと思えたのだが何故かリザードは態々左手の武器で対応する事を選んだのか理解が及ばなかった。

 

……まるで、焦るあまり普段から扱い慣れている左手からの攻撃で咄嗟に対応してしまったかのように感じたのだ。

 

「ふっ」

 

「くっ!」

 

「うおっ!」

 

しかし、そんな疑念を抱いている間にもリザードは舞衣の攻撃を左手に持つ剣で受け止めると刃物の如く鋭利な尻尾を大きく高速で振り回す事でスパイダーマンと舞衣を牽制して隙を作るとその間に出口へ向けて一直線に駆け出す。

 

「やべ!追わないと!」

 

「うん!」

 

2人は顔を見合わせると同時に一気に駆け出して出口から外に出ると既に跳躍して地上から離れ、既に追うことすら困難な位置まで上昇していた。その最中、2人を流し目で見下ろす形でリザードは軽く左手を振りながら聞こえていなくても構わないが別れの挨拶……そして宣戦布告を告げる。

 

「では、ごきげんよう」

 

2人を照らす沈み行く夕陽と同じようにスパイダーマンが悔しげに姿の見えない場所まで跳躍して行く2人の姿を見届け、ニモを……対話出来るかも知れなかった存在を強奪されてしまった事実に打ちひしがれながらマスクの下で唇を歯噛みする。

その様子を隣で見ていた舞衣はスパイダーマンの肩を置き、マスクの下で悔しそうにしている様子が伝わって来る少年に向けて優しく声を掛ける。

 

「くそっ!逃げられたか……」

 

「戻ろう、颯太君。皆の無事も確かめないと」

 

「うん……一緒に戻ると疑われるから僕は別の所から入るよ。そんじゃ後で」

 

「うん、また後で」

 

(それにしてもあのフードの奴……あの嫌な感じ……後で朱音様達にも報告しないと)

 

激戦のあった場所から舞衣やエレンと一緒に同じ方向から戻って来たとなるとトレイに篭り、避難していたと言う事になっている都合上、不自然に思われる可能性が高いため別の入り口から再度施設に入る為にウェブを壁に向けて当てると同時に助走を付けて跳躍し、ウェブの伸縮を利用して施設の反対側までスパイダーマンが移動する様を舞衣は見届けると来た道を引き返して行く。

 

「そうか、ニモは行ってしまったか…」

 

「ごめんなさいデス」

 

フードの人物とリザードにニモを強奪されてしまい、モニタールームへと舞衣とエレンは帰還しており、そして2人とは別のタイミングでやや遅れて装着解除と同時に別の入り口から施設に入る事でやや遅れて戻って来た颯太はトイレに篭っていたとう事にし、何も知らない風を装ってこの場に来ていた。

ちなみにスパイダーマンはフードの人物達を追って去って行ったと報告したため、誰も特にスパイダーマンについては言及していない。

しかし、結果としてニモが強奪されてしまった事は事実であるためエレンは気落ちしており舞衣と颯太も浮かない表情を浮かべているがフリードマンとハッピーは3人を気遣うよな笑みを浮かべる。

 

「いや、君達のおかげで怪我人は出なかったよ」

 

「そうそう、お前らがいなかったら避難だって遅れてたしもっと被害が出てたかも知れないしな。よくやってくれたって」

 

「グランパ……」

 

「ハッピー……」

 

「エレン!」

 

その直後、公威がエレンに向けて呼び掛けるとエレンは並んで自分の事を見つめている両親の元へと歩み寄ると自分が今身に纏っている父親からのプレゼントである私服の所々戦闘で破損させてしまった部分に目を向け、気に病むかのようにしおらしく父親へと謝罪を告げる。

 

「ごめんなさいデス……折角のプレゼントを…」

 

「………っ!」

 

「パパ?」

 

しかし、公威は怒るでもなくただ無言でエレンを大切そうに抱きしめる。その行動に理解が追い付いていないエレンであったが彼の行動を妻として、同時に母親として汲み取ったジャクリーンはエレンの右肩に手を置き、優しく語り掛ける。

 

「パパはね、服なんてどうでもいいのよ。エレンが無事ならそれでね」

 

「うん……っ!」

 

その言葉と同時にジャクリーンも公威と同じようにエレンを抱きしめ、古波蔵親子が互いを想い、尊重する様相を眺めていた舞衣とフリードマンと颯太とハッピーであったがフリードマンが思い立ったかのように舞衣に視線を送って言葉短くだが提案する。

 

「さ、舞衣君も」

 

「お父様……聞かせてください。昨日、本当に私に何を伝えたかったのかを」

 

「…………」

 

「………」

 

舞衣は手を後ろで組みながら下を向き、若干気まずそうに孝則の方を向く。舞衣の隣に立っていた颯太も後ろに立っている孝則の方を振り向くと彼と視線を合わせ、数回ウインクして自分の気持ちを伝えてみてはどうかとジェスチャーを送ると孝則も颯太の意図を汲み取り小さく頷く。

 

「すまない、昨日は言い方が悪かった」

 

「………」

 

孝則に謝罪された事が意外だったのか、舞衣は驚きつつも顔を上げて孝則と視線を合わせて彼の話を真剣に聞く姿勢に入ると孝則は颯太との会話を通して得た事を自分なりに咀嚼して娘に対し、父親としての意思を伝える。

 

「柳瀬家がどうこうじゃない、お前は私と母さんの大切な娘だ。その事を忘れないで欲しい」

 

「お父様……」

 

孝則は自分なりの父親としての意志を伝えると先程まで張り詰めていたかのように真剣そのものであった表情はどこか吹っ切れたかのように晴れやかでありゆったりと歩き出し、出口の方向へと歩き出す。

そして、出口へ向かう道すがら通り様に舞衣の隣に立つ颯太の左肩に手を置き、礼を伝える。

 

「今日はありがとう、颯太君。これからも娘の事をよろしく頼むよ」

 

「え?……あ、はい!勿論です!娘さんは僕の大切な人ですから!」

 

同級生の親から下の名前呼びが定着した事にも驚いたが、孝則が娘を本気で想いやっていた気持ちを伝える事が出来たのは事前に会話をしていた颯太からすれば一安心出来たため、胸を撫で下ろす事が出来たような気持ちであり思わず孝則の言葉に力強く頷き、威勢良く返事をした。

 

「ちょ、ちょっと颯太君……っ!」

 

しかし、本人は嘘偽りの無い本心をそのまま孝則に返しただけであるのだがあまりにもドストレートな物言いであり、当事者のいない所でならともかく本人の隣で堂々と言ってのけられたせいか舞衣の心拍数は一気に高まってしまい、頬を紅潮させて颯太の顔を凝視しする。

 

「いや、僕はあるがままを言っただけなんだけど……」

 

「そ、それは……嬉しいけど……でも、ありがとう」

 

「あ、いや……どういたしまして」

 

颯太の無自覚天然と取れる堂々とした物言いは素直な感情である事は理解出来るが颯太が自分たち親子を繋ぐきっかけの1つになってくれた事に感謝はしているため颯太の手を握り、彼の瞳を見つめなから感謝の気持ちを伝えると颯太も舞衣に手を握られながら礼を言われたため、少し照れ臭そうにしている。

 

「ゴホン!……マイマイ!」

 

すると、気を利かせたエレンが咳払いと同時に舞衣に駆け寄ると2人は公衆の面前であったことを思い出してか手を離して別々の方向を向く。

そして、接近して来たエレンは舞衣の耳元で耳打ちするかのように小声で語り掛ける。

 

「マイマイがお姉さんキャラなのはよーく知ってマス。けどたまには甘える方に回ってもいいんじゃないデスか?」

 

「エレンちゃん……」

 

「そうそう、こういうのって甘えられる時に甘えといた方が良いと思うよ」

 

「颯太君……」

 

2人に諭されると一瞬だけ俯いたがすぐに何かを決意したかのように顔を上げると舞衣は歩き出し、その様子をエレンと颯太は微笑ましげに眺めながら見送る。

 

「おっ」

 

出口へ向けて歩いていた孝則は突如背中に何かがぶつかって当たる感覚に驚き、足を止めると自分の胸の前で美濃関の制服の長袖に腕を通した腕が巻き付くように回されており、背後には愛娘の質量がずっしりと掛かっている……舞衣が孝則に背後から甘えるかのように抱きついていたのだ。

 

「舞衣……」

 

「ありがとう、お父さん」

 

先日は自分もムキになって父の心情を汲み取れなかったが本当は自分の事を真剣に考え、想ってくれていた事実を知る事が出来たため舞衣は年相応に父親に甘える娘として孝則に抱き着き、孝則に感謝の気持ちを伝えて心からの笑顔を向ける。

そして、娘の笑顔に応えるかのように孝則は再度正面を向きながらも表情をどこか安らいでいるかのように緩めて笑みを浮かべており、颯太とエレンは後方でその光景を微笑ましそうに眺めていた。

 

 

荷物を纏め、研究施設を後にしようと駐車場へ向かう最中颯太は衣類の入ったボストンバッグとノートパソコンケースを両手に持ち、リュックを背負った大荷物の状態であるが超人的な腕力によってそれらを軽々と運んでいるため同じく帰路に着く孝則に意外と力が強いんだなと驚かれたりしたが授業で重い荷物を運ぶ事が多いから慣れたとはぐらかしたりしながら楽しく談笑して歩いているとハッピーは思い出したかの様に颯太に問い掛ける。

 

「あー、そういや次何処に泊まるとか決めてたっけか?」

 

「あっ、ヤベっ!」

 

すると、颯太は思い出したかのように足を止めると一同が颯太の方を向く。当の本人は顔を真っ青にして冷や汗をかきながらハッピーに申し訳なさそうに謝罪を始める。

 

「ごめんハッピー……最近忙しくてすっかり忘れてた。だから、どこも予約取って無かった……」

 

「おいおい頼むぞ、俺はお前の行き先まで送るのが仕事だから予約はお前がやってくれないとどうしようもないぞ」

 

「どうしよう……学校に戻るにせよここからじゃ絶対門限に間に合わないし……」

 

「ボスも納期が若干ブラックだから無理もないがしっかりしてくれよ、俺だってこの時勢で車中泊は嫌だぞ……」

 

「ごめん……」

 

(颯太君、困ってる……どうしよう、ウチに泊める?いや、いきなり男の子を連れて来たら美結に絶対揶揄われる……けど、放って置けないしなにより……)

 

忙しかった事は事実だとしても宿泊先の確保も視野に入れなければ苦労をするのは自分だけではない事を実感した事で徐々に沈んだ空気になっていく颯太を前にすると困っている友人を放って置けないという理由もあるのだが既に今日一日を通してより強固になった感情が行動を促して来る。一呼吸置くと思わず一歩前に出て2人の前に立ち、声を張りながら割って入る。

 

「あの……っ!颯太君、ハッピーさん……っ!」

 

「「ん?」」

 

2人が会話に介入して来た舞衣に対し、同時に振り返り彼女のやや頬が赤みがかった顔を見つめ返す。

特に、颯太に瞳をしっかりと見つめられる事がより気恥ずかしさを増長させ、彼女の心拍数をより早めて行くと一瞬だけ孝則の方へと視線を向ける。

まるで確認を取るかのように孝則へアイコンタクトを取ると先程からの彼等の会話の内容から娘が何を言いたくて何をしたいのかを察するとGOサインを出すかのように小さく頷くと舞衣の表情が明るくなり、2人へ向けてある提案をする。

 

「よ、よかったら今日……ウチに泊まって行きませんか!」

 

堂々とした舞衣からの実家への招待だった。彼女の大胆な提案に対し宿泊先を確保し、車中泊を回避できると思ったハッピーは内心で「よっしゃラッキー!助かった」と思ったが一応確認を取るため彼女に聞き返す。

 

「いいのか?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

ハッピーの問いかけに対し即答する舞衣の勢いに押されてしまったがそれでも颯太はやはり友人とは言え女子の家に泊まることの気恥ずかしさもあるが突然の訪問は迷惑ではないか?という懸念が生じてしまってかやや困惑も混じった感情のまま疑念を語る。

 

「い、いや……流石にそれは悪いよ!いきなり2人も行ったら迷惑じゃない?……こんな舞衣とお父さん以外はロクに知らないのが行ったら他のご家族だって困るだろうし」

 

(あ、コイツ無自覚に矢印が折れてるタイプだな……)

 

「幸い部屋は空いている、2人位ならば問題ない」

 

「そうは言っても……」

 

孝則が舞衣をフォローするかのように横から助け舟を出してくると父親公認で宿泊の許可は降りているに等しいのだが元はと言えば自分が予約を忘れたことに原因があるため厚意は嬉しいがイマイチ踏み込まずに遠慮していると舞衣は颯太の方へと歩み寄り、互いに残り数歩程の距離まで接近するとやや顔と顔を近付けながら自分より幾らか背の高い颯太を上目遣いで見上げながら懇願するように見つめてくる。

 

「ダメかな………?」

 

舞衣の瞳は颯太の瞳をまっすぐに見つめ返して来る。そして、そんな宝石のジェイドのような翡翠色の彼女の瞳に吸い寄せられてしまいそうになり、颯太の心音も高鳴って行く。

友人と割り切ってはいるがやはり意識している近しい相手に懇願されると弱いのか颯太も折れる形で提案を呑む。

 

「うっ……分かったよ……確かに明日学校に用もあるし」

 

「俺だって車中泊は勘弁願いたかったからな、ありがたい。そんじゃあ2人まとめて」

 

「「お邪魔しまーす!」」

 

2人揃って舞衣の提案を呑む事を確認すると舞衣の表情はより一層明るくなり、気分の高揚を隠し切れていないのか声のトーンも高まりながら踵を返し、運転手役の執事の柴田の待つ車の方へと2人に着いて来いとでも言いたげに手を振って歩き出す。

 

「勿論!先導するのでウチの車の後に着いてきてください」

 

ーー深夜帯、とある神社の鳥居付近

 

既に陽も落ち、辺り一面が夜の暗闇に染まった人気のない神社の鳥居と寺へと続く石段にてこの暗い夜の闇に紛れて1人練り歩く人物がいた。

かなりの長身でありなから全身を覆い隠す黒いフード、それでいて持ち物を最低限にしたいのか青い竹刀袋を大型のナップザックに挿し込み、ナップザックの紐を肩に担ぐように持つ一見すると怪しいとしか言いようがない人物は足を止めると意味ありげに小声で何かを呟く。

 

「気配が消えた…?」

 

ーー同じく深夜帯、柳瀬家

 

帰宅早々、ハッピーと颯太を連れて来た事で詩織は純粋に孝則と舞衣の知人であるとすんなり受け入れることが出来たが案の定美結は訪問して来た舞衣と同い年程に見える颯太を見るに付け、自分に指摘されたから急いで彼氏を作ったのか?と揶揄ったりし舞衣が照れながらも憤慨する大騒ぎになった。

しかし、本来の事情を知るや否やイジれるネタでは無かったと察するとげんなりしていたがハッピーと颯太のことを客人として受け入れて以降は普通に接するとようになる。

 

そして、舞衣が腕によりをかけた料理を前に大所帯となった賑やかな食卓で夕食を終えた後、颯太とハッピーをそれぞれ空き部屋に案内した。

 

「そう、転校は取り止めなのね」

 

「随分あっさりと受け入れるんだな。お前は心配じゃないのか?」

 

その後、夫妻の寝室にて孝則が着替えを行ない、柊子は孝則の上着をハンガーを通し、クローゼットの物干し用金物に掛けながら本日の出来事を通して考えを改めた孝則の意見に納得しながらその選択を受け入れる姿勢を見せている。

どうやら孝則は娘がどれだけ仕事に対し真剣に取り組んでいるのかを実際に彼女が懸命に戦う姿を目の当たりにした事で一定の理解を示し、転校は取り止めて彼女が今後も刀使として活動する事を容認したようだ。

 

「そりゃ心配よ。でもこうなるような気がしてたの」

 

「?」

 

柊子が何故か転校の取り止めを受け入れている事に疑問符が浮いている孝則であったが柊子がまるで予測出来ていたかのような物言いに対し、首を傾げていると柊子は笑みを浮かべて孝則に真意を伝える。

 

「だってあなた舞衣にはとことん甘いんだもの」

 

「返す言葉もないな……」

 

そして、颯太は柳瀬家の空き部屋を借り、用意された敷布団の上に胡座をかき、しばらく使われていないと思われる質素なちゃぶ台の上にノートPCを広げて黙々とキーボードを叩き、研究施設でフリードマンから学んで来た事をまとめたレポートの作成や本日実際に戦闘を行う羽目になったため採取出来た戦闘データの上乗せ、プログラミングの課題の続きを進めていた。

 

「カレンを使えるならもうちょい早めに終わってたと思うけど流石にここじゃあ……ねぇ」

 

ホテルの個室などであればPCのUSBポートからハイテクスーツにUSBケーブルを繋げてカレンと会話してサポートを受けながら作業を行えるのだが本日宿泊している柳瀬家は舞衣の両親だけでなく下の妹達もいる大所帯であるため流石にハイテクスーツを着てスーツのお姉さんことAIであるカレンと会話をするという事は正体バレに繋がるだけでなくぶつぶつと女性の名前を呼びながら独り言を言う変質者になりかねないためハイテクスーツはボストンバッグの中に収納してある。

 

「せっかく泊めてもらったんだ、ちゃっちゃか終わらせないと」

 

提出期限が迫っているだけでなく、舞衣と孝則の厚意で本来は宿泊先探しで更なるタイムロスがあった可能性が大いにあるためこうして時間と場所を確保できたのは僥倖であり彼らに感謝の念を抱きつつキーボードを打つ手を早める。

一応空いた時間に地道に進めていたこともあってかプログラミングは最終チェックのみで済み、時間が掛かったのは戦闘データの更新と研究施設で学んだことを纏める位であるため想定よりも時間は掛からなかった。

 

「いよっし、終わり……あ゛ー疲れたー!」

 

最後の一文字を打ち込み、画面上に表示されている送信の文字をクリックする。送信完了の文字を確認すると一息吐き、両腕を天井に向けて伸ばしてリラックスする。

ふと視界に入ったスマートウォッチ型デバイスの液晶画面に表示されているタイマー機能の時刻が目に入ると既に23:00頃を回っている事を確認出来た。

風呂には既に課題やレポートのまとめを優先するようにと一番風呂を譲って貰ったため入浴済みではあるため後はもう少ししたら寝るだけかと思っていた所突然部屋のドアを誰かが叩く。

 

『颯太君お疲れ様、差し入れにリンゴ剥いて来たけどいる?』

 

ドア越しであるが声と呼び方からして理解出来る、舞衣だ。

特に断る理由は無かった上に一仕事終えた後で軽く軽食でもあったらいいかと思っていたためノートパソコンを閉じ、ケースに戻して彼女を部屋に通す。

 

「マジ?ありがとう、助かるよ」

 

『は……入るね』

 

「?」

 

入室を許可した途端扉越しの舞衣が妙に緊張した様な険しい声のトーンへと変化した事に疑念を抱いたがそれと同時に扉が開かれ、舞衣が入室して来るのだがその姿に颯太は二重の意味で目を奪われてしまった。

 

右手には差し入れを載せるためのお盆という何らおかしくはない所持品だが問題は格好だ。

普段は普段は後ろで結ばれている髪がリボンから解放されその全容を明らかにしながら自由に下ろされており、レース付きで細い肩ひもでつるされ、肩を露出する形状のノーズリーブタイプの前開きなピンクのキャミソールからは年頃の割に凹凸のある女性らしい肢体をより魅惑的に際立たせており、豊かな双丘は大きな谷を作っている。そして、上下セットなのか同系色の生地が薄くてゆったり履けるワイドパンツ、更にキャミソールの上にはフェミニンな印象を与えるカーディガンと言ったルームウェア姿であった。

 

その上、風呂上がりで体温が上昇し皮膚の毛細血管が広がり、全身の血行が良くなったのか、それとも気になる異性を自宅に招き、個室で2人きりという状況から来る緊張からか火照った肌は彼女を一段と艶かな印象へと昇華する。

 

これで目を奪われるなという方が難しい、無意識の内に普段とは印象の異なる舞衣に魅入られてしまってかやや困惑気味に頬を赤く染めながら対応する。

 

「ま、舞衣……?」

 

「へ、変かな……?」

 

舞衣の方もかなり気合の入ったルームウェアを着ていることもあるが颯太が今の自分の格好を見つめたまま固まってしまっている様子からより一層恥ずかしくなったのか左手で自由になった髪を左手の指をもみあげに絡ませてゆっくり回しながら視線を外す。

颯太の方も自分が見つめ過ぎていたことを自認すると慌てながらも昼頃にエレンと舞衣に言われた通り正直な感想を述べる。

 

「ぜ、全然っ!そんなことないよ、いいと思う」

 

「ありがとう……隣座るね。はい、リンゴ剥いたからどうぞ」

 

やはり紅潮したままではあるが舞衣の瞳をしっかりと見つめ、言い切った颯太の本心を聞いた舞衣は照れ臭そうにしながらも彼の隣に腰掛けて正座し、ちゃぶ台の上にお盆を置く。

お盆の上に置かれた1人分の皿の上にはを綺麗にくし形切りで小分けにし、皮が無くなる程に剥かれているリンゴが乗っておりそれを手で摘んで口に運び、噛み砕く。

リンゴの冷えた水分が口の中に染み渡り、喉が潤って行く感覚が心地よく素直に称賛の声が上がる。

 

「いただきます。うん、美味い」

 

自分が剥いたリンゴを美味しそうに頬張る様子を見ていた舞衣は微笑みを向けていたが、今この部屋に来たもう一つの目的の為にそろそろ本題に入ろうと緊張と幸福感で高鳴る胸に手を当て、一呼吸置いて気持ちを落ち着かせると言葉を紡ぐ。

 

「そう、良かった……今日はありがとうね、颯太君」

 

「へ?何が?」

 

「颯太君なんでしょ?お父さんの背中を押してくれたのは」

 

何のことかピンと来ていなかったが昼頃に孝則と会話した際、自分なりの意見を貴則に伝えた事でフードの人物達の襲撃の際、奮闘する舞衣の姿を見て考えを改め自分の気持ちを包み隠さず本音を話すことで親子が和解出来たことへの足掛かりになったと言われたことで理解出来た。

しかし、颯太本人としては大したことはしていないという認識であるため最後のリンゴを噛み砕いて飲み込むと舞衣の方へと身体を向ける。

 

「別に僕は何もしてないよ。折角親子で話し合えるなら本当の気持ちを話せばいいんじゃないかって言っただけ、それにお父さんが理解を示してくれたのは君がどれだけ真剣だったか伝わったからだと思うけど」

 

「それでも、貴方が私たちの間に立ってくれたから私たちは分かり合えた。他人の家の事情なのにここまでしてもらっちゃって……」

 

本日柳瀬親子が和解出来たのは両者が互いに向き合った結果であり、フードの人物達が襲撃して来た際に自分の仕事を全うしようと奮闘した彼女の尽力により怪我人を出さずに済んだ事や彼女がどれだけ真剣なのかが孝則に伝わった結果である。

しかし、舞衣は事前に自分と会話をしていた際の言動や孝則の行動から鑑みて颯太が何かしらの助言をした事がきっかけだと察しており、相手からすれば大した事で無くとも自分達からすればとても大きな一歩であった。

そのきっかけをくれた颯太には感謝してもしきれない。と言った様子を見せると颯太は舞衣を安心させるように彼女の頭に手を置いて軽く頭を撫でながらそんな自分の行動原理を伝える。

 

「親愛なる隣人の家族で君の一部なら、もう他人じゃないって」

 

その一言と優しげな笑顔で舞衣の心臓は今日一番の高鳴りを見せ、ここ数ヶ月、そして昨日と今日、この現象の正体をようやく理解出来た気がした。

 

「そうだよね……それが貴方だもんね」

 

「………?」

 

彼女が高鳴り続ける心音の元である胸を抑えるかのように手を当て、目を逸らすように顔を伏せて伏せて俯きながら小さく呟くが颯太は彼女の言っている事がイマイチピンと来ないとでも言わんばかりに首を傾げている。

 

その一瞬の隙を突き、正座の姿勢から膝立ちとなり両腕を前へと伸ばして颯太の後頭部へと持って行くと彼の頭全体を両手で包み、膝立ちでやや彼女の方が立ち位置が高くなっているためそのまま引き寄せるように颯太の頭を自身の元へと抱き寄せる。

 

「舞衣?えっ、ちょっ」

 

信頼している人物が相手であり危機感もなかっためスパイダーセンス は発動しなかったが彼の超人的な反射神経でも一瞬反応が遅れる程に突飛な行動であった。その事実を認識するよりも早く視界全体が暗くなるが同時に顔全体に柔らかな弾力が伝わる。

 

「むぐっ」

 

そう、舞衣が颯太の頭を包み込むように自身の胸元へと抱き寄せると同時に後頭部を両手で押さえ付けているのであった。

彼女が着ているのが前開きのキャミソールで胸元がやや空いたデザインであるためか彼女の柔肌と直接伝わって来る優しい温度、風呂上がりの芳純な香り、そして年齢にそぐわない母性を宿した弾力のある胸に顔を埋めていると認識するや否や彼の面も全体的が薄紅色に染まって行く。

 

「ありがとう、私の親愛なる隣人。いつも私を助けてくれて」

 

そして、彼女の行動に理解が追い付いていない状況下でふと耳元に熱と湿り気を帯びた吐息と同時に感謝の言葉をかけられると耳を刺激されたように感じたがそれと同時に顔全体に舞衣の赤く熱い鼓動が伝わって来る。

しかし、この命の鼓動……まるで緊張でもしているかのように早鐘を打っている。それが伝わったのかを確かめる為に舞衣は再び甘く艶やかな声で語り掛ける。

 

「ねぇ、聞こえる?私、こうして颯太君と触れ合っていたり、貴方を側で感じてると胸がドキドキするみたい。昨日妹に細かいから彼氏が出来ないって揶揄われた時に真っ先に貴方が思い浮かんだの」

 

先日、実家に帰省した際に美結との会話の中で真っ先に颯太の事が思い浮かんだ事やコナーズと会話した際、2人が付き合っていると仮定の話を振られた際も一瞬本当だったらいいのにと心のどこかで思ってしまっていて舞衣が挙げた物は無意識の内に2人でしたい事だったのかも知れないと自覚させられた。

 

「しばらく会えて無くて今日久しぶりに会って貴方にお父さんとの仲を繋いでもらって分かったんだ」

 

更に本日、父親との仲を取り持ってくれた事やいつも自分に寄り添い、助けてくれる親愛なる隣人への感情の正体をようやく理解出来た気がしたため自分の本当の気持ちを話したいとして、この行動に至った。

頭部を包んでいた両手を離し、胸元から颯太を解放すると一度深く深呼吸する。直後に舞衣はもたれかかるように両手で颯太の肩に手を置くとそのまま体重を掛けて敷布団の上に押し倒す。

 

「お願い、私の眼を見て聞いてくれる?」

 

「うん……」

 

抵抗する間もなく後頭部に敷布団の沈む感触を認識するや否や仰向けに寝かされた事で立ち位置が逆転しており視界全体には自分に覆い被さって来た舞衣の胸が反動でゆっくりと上下に揺れ、潤んだ翡翠色の瞳は確かに今は……今だけは自分だけを見ろとでも言いたげにこちらを見下ろしている姿が広がっている。

 

次は敷布団に両手で対象越しに触れるといつかの壁ドンに続きついには床ドンまでされてしまった事につくづく自分はこういう時受け身になりがちで男としての度量は低いなと実感させられたがそんな負い目すら感じさせない程に舞衣の圧が強い。

両腕によって退路を封じられてしまっている事もあるが互いの吐息がぶつかり合う程顔が近く、心臓の鼓動が煩くなる程彼女に魅了されかけていると震える舞衣の桜色の唇から言葉が漏れる。

 

「私は……貴方が好きです。私と付き合ってください」

 

彼女の口から漏れた好意の告白。

スパイダーマンとして大切な家族を助けてくれたあの日から始まり、彼の正体を颯太だと知り、秘密と悩みを共有して寄り添うようになってから徐々に互いの心の距離が近付いて行ったのは間違いない。更に、本日は自分達親子の関係性を繋いでくれた事で好意がより明確な物へと変わった。

それと同時に4ヶ月前に一時的に別行動をしていた時や舞草での殲滅戦、更に本日の1人で危険に飛び込む姿、そしてここ最近の会えない時間が彼は繋ぎ止めて置かないとどこか遠くに行ってしまうような危うさがあると感じたため、自分が側で守り、彼の帰る場所になりたいという想いへと結実した自分の想いを伝える。

 

「舞衣………」

 

これまで女性にモテた経験がなく自分が女性にそのような感情を向けられる等と全く想定していなかっため、困惑と衝撃が先に来てしまったが同時に心音がより高まる程に嬉しくもあった。

 

「すごく嬉しい、僕は多分……知ってる異性の中じゃ多分1番君を意識してると思う。それにこれから先女子に告白される機会なんて2度と無いと思うし」

 

「じゃあ……っ」

 

自分も正体を知られて以降彼女との距離が縮まって行くにつれ彼女のことは確かに異性として意識はしていた。恐らく、他の女性の誰よりも……。

舞衣の潤んだ瞳に吸い寄せられて高鳴る心臓の赴くまま彼女に身を委ねて呑まれてしまいたい……と一瞬、本気で思ってしまった。

しかし……

 

「だけど今、僕にはやらなくちゃいけない事が一杯ある……解決してない事が山ほどあるんだ。意外じゃないと思うけど僕って自分の事で手一杯でさ、他の事にまで気を回せる余裕がない。そんな気持ちのまま君の気持ちに応える事は……多分出来ないと思う」

 

舞衣の瞳をしっかりと見つめながら真剣な表情で今の自分の気持ちを伝える。

気持ちは非常に嬉しい。だが、今の自分はナノマシンのテストと研究、スパイダーマンとしての活動、友人関係や刀使達の支援等々成すべき事が積み重なっている。

自らの意志でこの道を選択しているため不満はないのだが今の何一つやるべき事が解決していない自分では彼女の気持ちに100%応えられる自信がなく、半端な気持ちのまま応える事は申し訳ない。と言った気持ちから今はこの関係性を保っていた方が良いという選択だ。

 

「だから僕は君の友達。今はそれが精一杯だ」

 

「…………私に縛られて、自由を無くしたくないって事?」

 

颯太の自分と関係を進展させることよりも自分の成すべき事や皆の為になる事を優先させる人間である事は理解出来るが彼が踏み込もうとしない要因に1つだけ心当たりがあった。

昼頃のコナーズとの会話で自分達が付き合っているという仮定で話を進め、人間は孤独を埋めるために互いを愛すがそれと同時に理を作り、互いを、自分自身を縛り自由を失う生き物だと言われた事を気にしているのではないかと言う懸念を伝えると同時に彼女の潤んで熱を帯びた右眼の瞳から薄らと涙が浮かぶ。

 

そんな彼女の涙を止めたかった事は勿論あるが自分の考えの本質を伝えなくてはいけないと思い、仰向けのまま左手を伸ばして彼女の右眼に浮かんだ涙を拭い、言葉を紡ぐ。

 

「違うよ、今のまま君の気持ちに応えるのは良くないって思っただけだよ。それに僕には向いてるか分からないことだし……でもいつかちゃんと答えを出すから。時間は掛かるかも知れないけどそれでもいいなら待ってて欲しい」

 

コナーズに言われた事を気にしていない訳ではないが何より彼女の気持ちに対して踏み込めないのは今の中途半端な状態のまま気持ちに応える事が出来ない、という本人なりのけじめである事を伝え、自分の気持ちについても真剣に考えたいという彼なりの想いを聞くと舞衣は安堵の吐息を漏らし笑みを溢す。

 

「うん、分かった。それまで私が貴方の帰る場所になってずっと待ってるから……待つのにはもう慣れちゃったからね」

 

舞衣がマウントポジションで覆い被さっていた姿勢から上体を起こして割座の体勢へと変えると颯太も起き上がってバツの悪そうに頭を掻きながら対面して謝罪する。

 

「ごめん……」

 

事実、颯太は様々な場面で彼女を待たせる事が多かったためぐぅの根も出ないと言った具合に目を伏せていると舞衣が前屈みになって身を乗り出し、彼に顔を近付けて視線を合わせると自分の口元に人差し指を当ててウインクする。

 

「冗談だよ。むしろ、今度は私の方が先に言わせちゃうかも」

 

「え?」

 

彼女のウインクという子供らしくもあざとい仕草から思春期の年相応の少女の可憐さを感じたと同時に意味深な発言にどこか強い意志を感じたため、呆気に取られて赤面していると舞衣も伝えたいことは伝えたため満足したのか最後にクスリと微笑むと重い腰を上げ、ちゃぶ台の上の皿の乗ったお盆を持ち、部屋のドアへと歩いていく。

 

「遅くまでごめんね、おやすみ」

 

「お、おやすみ……何か今日心臓に悪くない?」

 

退室する際に手を軽く振って来たため、こちらも手を振り返すと舞衣は部屋から退室して行き、その様子を見送る。

左胸に手を当て、一息吐くと今日は戦闘だけでなく舞衣とのやりとりに置いても心臓が持たないのではないかと思うほど疲弊したな。と振り返ると徐々に疲れがぶり返して来たため電気を消して敷布団に潜り、そのまま眠りについた。

 

ーー早朝、柳瀬家の食卓

 

先日が日曜日で休日であったが本日は月曜日で平日であるため柳瀬家の食卓には長い長方形のテーブルを囲うように制服姿の舞衣、美結、小学生程のため私服の詩織、更に先日の夜から泊めてもらっていた颯太とその運転手役のハッピーが椅子に腰掛けてテーブルに並べられた料理を食していた。

 

「悪いね舞衣、夕飯だけじゃなくて朝飯まで世話になっちゃって」

 

「大丈夫だよ。どんどん食べてね」

 

「え~、また和食なの?」

 

「なんで嫌なの?舞衣お姉ちゃんのご飯おいしいのに」

 

美結は並べられた和食のラインナップに対し、相変わらず苦い顔を浮かべて文句を垂れていると舞衣がいつも通り叱咤する前にハッピーが箸を置きながら美結の方を向いて語り掛ける。

 

「だから私はトーストのが楽でいいんだってば……」

 

「まぁ、朝はあんま重くなくて軽く摘める位のがいい時もあるよな。けど、お前らがその日一日を元気に過ごすならこれくらいの量も悪くないぞ。な!」

 

「うーん……そうかなあ」

 

ハッピーなりの持論を受けて美結も若干揺らぎそうになりながらもやや渋った態度は崩さずにいると颯太も冗談交じりに美結に語り掛ける。

 

「それにさ、最近の僕みたく楽だからって同じのばかり食べてると食生活が偏っちゃっていつかガタが来ちゃうかも知れないしさ。バランスよく食べてた方がいいと思うよ……」

 

「わ、分かったよ……」

 

しかし、徐々に眼前にいる美結と詩織を前にし、彼女達を見つめていると一年前の……自分がスパイダーマンとして自警団活動を始めた頃を思い出していた。

実は颯太は美結と詩織に会ったのは昨日と今日が初めてではない……いや、厳密にはスパイダーマンとして会った事がある。と説明するのが正しいか。

ビルの火災が起きた際に美結と詩織は取り残されてしまい、燃え上がる火の手とのし掛かる瓦礫によって死の淵に立たされていたのだが偶然街に買い物に来ていた際に火災を目撃し、スパイダーマンの衣装に着替えて救助者である彼女達を救助しておりその際に初めて舞衣にスパイダーマンという存在を認識された出来事があった。

 

あの日、あの時自分が行動した事により救う事が出来た相手と1年越しに再会し、現在も元気に健やかに過ごしている様子を目の当たりにする事で颯太はどこか安心した表情を無意識の内に浮かべていた。

 

(でも良かったな……2人とも元気そうで)

 

「?……颯太お兄ちゃん、どうして私たちのことじっと見てるの?」

 

「え?ああゴメン、最近1人で軽く摘める物ばっかだったから誰かと一緒に食べるのも何かいいなって」

 

「そっか〜」

 

どうやら凝視してしまった様で詩織に指摘されると即座に誤魔化しつつも本音の部分も語ることで話をはぐらかすと美結も何処か諦めたかの様に箸を動かしながら朝食をかき込んで行く。

 

「まぁ、確かに美味しいからいっか」

 

すると、リビングのドアの開く音が室内に鳴り響くと室内に3人の人物が入室して来る。

ネクタイを結ぶ以前のワイシャツにスラックス姿の孝則と彼の上着を持って来た執事の柴田と普段はこの時間帯は起きて来る事が珍しい柊子の姿であった。

そして、美結が思わず珍しく早い時間帯に起きて来た柊子の登場に驚き、素っ頓狂な声を上げる。

 

「お母さん!」

 

「今日は早いんだね」

 

詩織の冷静な問いかけに対し、柊子は早い時間帯に起きて来た事に対する理由を語り出す。

 

「ええ、舞衣の作ってくれた朝ごはんが食べたくてね」

 

「お父さんも?」

 

「ああ」

 

「コーヒーだけじゃなくて?」

 

「ああ」

 

美結と詩織が交互に交わして来る質問に対し、両親は一家団欒その上で柴田やハッピーや颯太を交えた朝食を楽しむ事を決めている事が伝わって来る。

すると、柊子は舞衣に向けて笑みを浮かべながら問い掛けてくる。

 

「いいかしら?舞衣」

 

舞衣は柊子の問い掛けに一瞬キョトンとしてしまったが近くに腰掛けていた颯太とふと目が合う。

 

「「…………」」

 

すると、颯太が行動を促すかのように舞衣に笑みを向けると舞衣は両親と柴田に向けて満面の笑みを浮かべ、声高に嬉しそうな声が食卓に響き渡る。

 

「勿論!」

 

ーー深夜帯、綾小路武芸学者

 

校舎の白砂で敷き詰められた中庭から離れた場所にありながら妙にだだっ広い池に囲まれ、池を渡る為には大きめな石を橋としている一本道の石の通路から通る事が必要だと見て取れる、通り抜けた先には鳥居があってそこからあまり長くは無い石段がある小山が存在している。

 

そして、鳥居を潜り、石段を登っ先にあるのは小型の屋根が緑色で彩られた木造建築の存在感を放つ小さな拝殿が建てられていた。

そして、その拝殿の扉を開けると2人の人物が入室するとも片方のフードを纏い、表情の伺えない人物は靴を脱がずに土足で最奥にある祭祀台の奥へと歩みを進めて行き。

やや遅れて……いや、敢えてフードの人物に道を譲った右腕が肩から下に存在しない白衣を纏った白人の青年は靴を脱ぎ、向きを揃えて置くと自身も拝殿の中へと入室して行く。

長久手でフードの人物がニモを強奪する事に助力し、スパイダーマン達と交戦したリザードの変身者であるコナーズであった。

 

「遅いお帰りで、姫」

 

「…………」

 

フードの人物が歩みを進めて祭祀台に向かう道すがら、祭祀台から見て左側にフードの人物をまるで崇める対象とでも言わんばかりに頭を垂れつくばい、平伏する2人の人物がいた。雪那と夜見であった。

 

「夜見」

 

しかし、フードの人物は雪那の労いの言葉に耳をかさずに祭祀台の段差をのぼって祭祀台に上がろうとしているのを見計らうと特に気にする様子を見せずに

夜見と共に面を上げて正座の姿勢を取ると隣に座する夜見に小さく指示を出す。

 

「失礼します」

 

雪那からの指示を受けると段に登り、祭祀台の端に垂れ下がる下紐をに向けて引っ張る事で下ろすとそれに連動して御簾が上からシャッターのように降りて行く。

……そして、フードの人物がフードを下ろすと同時に脱ぎ捨てると発光しているのでは無いかと異彩を放つ白く、収まっていた長い髪がうねるように飛び出すと全身を白い装束で包んだ様な体型からして少女の様な人物の姿が見えかけた瞬間に御簾が降りて姿が隠れてその全貌までは観測し切れなかった。

 

フードが御簾に隠れながら祭祀台に腰掛ける様を見届けていたコナーズは長久手の研究施設での戦闘の事を振り返っていた。

 

(私が実際に見学として施設内に潜入し、事前に逃走経路と施設内の戦力構造は把握した限り護衛として元々いた古波蔵女史、そしてイレギュラーではありましたが偶然あの場所に来ていた柳瀬女史……この2人しかあの施設には戦力はなくあのお方がノロを強奪して逃走する分には恐らく問題なく早急に離脱出来たでしょう……しかし)

 

施設に潜入した際の既存の戦力と予想外のイレギュラー的に増えた戦力、この程度の誤差は修正可能でありノロを強奪する分には無問題ではあった筈であった。だが、本当に予想だにしたいなかった更なるイレギュラーの介入により予定が大きく狂った……

 

ーーそうーー

 

(スパイダーマン……何故彼があの様な縁のゆかりもない様な場所に狙ったかのように現れた。しかも、あのお方があの場所に来る事をすぐ様察知したかのような対応の速さ……今思うと不自然極まりない)

 

しかし、彼は今現在頻出する美濃関周辺の市街地だけでなく管理局と協力体制を組んだ事で各地を転々としながら特祭隊を支援している事は聞かされている。だからこそ、あのような一研究施設にピンポイントに出現するのは非常に不自然なのだ。その不自然さはコナーズに更なる疑念を与えて行く。

 

(まるで……あの場所に最初からいた可能性がある……となると一体誰が……)

 

刹那、コナーズの脳内でシナプスが繋がったかの如く刺激が脳内を駆け巡り1人の、戦闘中にモニタールームにもおらず避難した者たちの中にも姿が見当たらなかった人物、その上あのナノテクを自在に操る事が出来る装備を資金調達はともかくフリードマンやスタークインダストリーズの元でインターンで指導を受けており大人でも困難なハイレベルのプログラミングを行なっている程科学技術に精通している人物が1人、思い当たった。

 

(まさか……彼が?いや、しかし判断材料が足りない。即決するのは早急かも知れない……だが、彼には装備開発を行える技術と知識……それに恐らく力を手に入れる素質を持っている可能性は低いとは言えない……探ってみる価値はありそうか)

 

ほぼ直感のような物だが、コナーズの直感は颯太がスパイダーマンである可能性が微か……本当に多くて10%未満もいい所だが捻出され初めており、次に自分が取るべき行動と自分の人類を進化させる目的に一歩近づく為への道筋を再計算し始めると同時に踵を返して拝殿を後にした。




バース続編のacross the spider verse の玩具バレでパズルではバイハのネメシスみたいな奴とパンク、スカーレットが2099とマイルスとグウェンと写ってたのとスカーレットのmafexがacrossの公開月である来年の6月に発売されるので参戦って事なんですかね……Bパーカー達は続投なのか一旦レギュラーメンバーを一新するのか、いやぁ全く読めないですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。