刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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遅れましたサーセン、クソ長出張に行かされてて時間もなかなか取れず帰って来たら干からびた蛙みたくなってて中々身体が付いて来てくれなかったもんで…w
さて、本日はバースの続編、Spider-Man: Across the Spider-Verseの公開日っすね。前作のバースが今でもシリーズ歴代1位と言える程好きなので続編が公開される日を心待ちにしておりました。
私は運良く初日に観る事が出来るので恐悦至極ですが初日勢の皆様も、後から観に行く皆様も、劇場で楽しんで来てくだされ。


第66話 派遣到来!楽園崩壊⁉︎

ーー群馬県にある山中の宿泊施設の露天風呂

 

日照が地上を照らす真昼間の時間帯、緑が生い茂る山中で森林と自然に囲まれた熱湯で湯気が外気に立ち昇る露天風呂の片隅の岩に背を預け、湯に浸かって寛ぐ人物がいた。

小学4年生女児程の背丈で身体にはバスタオルを巻き、長い桃色の髪が湯船に触れないよう頭頂部で一つに纏めて湯船に浸かる、お湯を吸ってふやけた麺の如く緩みきった表情の少女……

 

「あぁ^〜真昼間から一っ風呂とかたまらんなぁ~この世に楽園があるならこういう所を言うんだろうなぁ〜悩みなんざぶっ飛ぶぜ……さてと」

 

益子薫だ……普段の仕事疲れを癒すかの如くこのような真っ昼間から露天風呂を堪能している彼女であるが何かを思い付いたのか両手を2回叩く。

 

「ね」

 

その拍手に応じるように常に彼女のそばにいるねねは湯船には浸からないようにしながら鉄色の尻尾で3段に連なった干瓢巻きを乗せたお盆を湯船の上に置き、スライドするように薫に向けて送り出す。

 

「ご苦労」

 

川を流れる桃のようにどんぶらとどんぶらことお盆が薫の元への流れて行くとそれを右手の掌で受け止めるとまるでお偉いさんにでもなったかのように労いの言葉と同時に煙草でも吸うかのように人差し指と中指の間に挟み、それを口に運ぶと優雅に食し始める。

 

「風呂で食う大好物のかんぴょう巻きもまた乙なものだ」

 

「ねねー」

 

まるで殿様の如き振る舞いで露天風呂を満喫する彼女の頭にねねが定位置とでも言わんばかりに乗っかりねねもこの穏やかな時間を慈しんでいるようである。

ーーまさに、ぐうたらの楽園。

 

「ああ、まったくだ。これからもずっとこんな穏やかな日が続くといいな……」

 

しかし、彼女がそのフラグ全開のセリフを吐くと同時に彼女の天下が終わりを告げる審判の鐘が鳴る。

寄りかかっている岩の上に置いていたスマホが鳴り出したのを確認したねねが尻尾で器用にスマホを掴んで薫の耳元に運ぶと気怠げに対応する。

 

「ちぃーっすもしも」

 

『働けこのバカ薫がぁ!』

 

「ぬおうわっ!」

 

電話越しに耳元で紗南の怒号が響き渡る。脳に直接響くと錯覚する電話越しからでも怒気が伝わって来る程の声量に驚いた薫とねねは完全に気が抜けていたのは勿論あるが目を回しながら湯船に落ちる。

そして、何気にスマホはねねが湯船に浸からないよう尻尾を天へ向けて伸ばしていたため湯船に浸かずに済んだ。

 

ーー数日前、刀剣類管理局本部

 

「荒魂討伐任務終了したぞド畜生!じゃない。学長!」

 

管理局本部の扉を開け、入室すると同時に薫は敬礼しながら紗南に恨み言を放つ。

とても目上の者に対する物言いとは思えないが何だかんだ互いを信用している2人の特殊な上下関係だからこそ成立していると言えるのであろう。そんな紗南も既に慣れた事なのか軽く受け流しながらジト目で嗜める。

 

「誰がド畜生だ誰が。あとここでは本部長と呼べ……んんっ!ご苦労。では次の任務だが…」

 

他の職員も大勢いる中であまりに威厳のない普段通りの口調が出てしまった事を誤魔化すために目上の者らしい立ち振る舞いを心がけようとした所薫は不満げに反発する。

 

「待て待て!あれから4か月ほとんど休みなしで飛び回ってるんだぞ!少しは休ませろよ!」

 

「では次の任務だが」

 

「くそ!ここまで白々しい聞こえなかったフリを見たことがない…」

 

しかし、紗南は薫の反発を悉くスルーし、矢継ぎ早に次の指令を出そうとして来る華麗なスルースキルに薫も一周回って感心してしまったのか視線を外し、小声で毒突く。

 そんな薫の様子に対し、紗南は特に気にする様子を見せずに腕を前で組むと椅子に深く腰掛け、次の目的地を伝える。

 

「お前には隊長としてチームを率い群馬に行ってもらう」

 

「いや、俺パスポート持ってないし」

 

「2/3が山林で風光明媚なので取りかたによっては未開の地かも知れんが群馬ナメんな」

 

あなたも一度は聞いたことがあるだろう・・・

世界の果てにあるという魔境、GUNMAを・・・

という群馬が自然豊かな場所であるため「未開の地グンマー」のネタを薫が持ち出して来たが以前にチラリと見たことがあるネタであったため冷静なツッコミを返すと同時に飴とムチとでも言わんばかりに同時にメリットを提示する。

 

「現場はいわゆる秘湯ってやつでな。喜べ、任務を片付けたら待望の休暇だ」

 

 

ーー回想終了ーー

 

「って言ってただろうが!!」

 

『任務が終わったらっつったろうが!!』

 

どうやら紗南の計らいとしては任務が終了した場合そのまま休暇を楽しむようにしていいという言い回しだったのだが薫は任務中にも関わらず隊長としての任務を放置して優雅に露天風呂で寛いでいる。という状況であるため怒り心頭に発すると言った所のようだ。

 

「別にいいだろ!肝心の荒魂が見つからないんだから!ファインダーの反応もちっぽけすぎて正確な場所を特定できずねねですら反応を追い切れず、目撃情報もあやふやで結局取れる手段は肉眼頼りの人海戦術……だから討伐担当の俺が捜索班を指示、コンディションを最高に整えて荒魂発見の吉報を待ってるんだ!」

 

薫なりにここ数日間での任務の捜索状況を鑑みた上で隊長らしく振る舞っている風……あくまで風だが実際はサボり、手を抜く為の口実である事は紗南には即座に見抜かれておりバッサリと切り捨てられる。

 

「お前も足使って探せ」

 

「ぐっ、痛い所を突く……」

 

紗南の正論に耳が痛いと言った具合に苦い顔をして打ちひしがれていると紗南は自分たちは市民を荒魂の脅威から守るために日夜活動しているため通報がある以上は対応しなければならないのだと言う組織としての在り方を伝えるが同時に助け舟を出すことも忘れない。

 

「このご時世僅かでも荒魂の脅威がある限り民間人の訴えを無下にはできない。わかるな?まぁそういうわけで。怠け者の尻を叩くためにとっておきを用意した。ワーハッハハせいぜい驚け」

 

「ね?」

 

それと同時に紗南からの通話が切れると薫はゆったりと立ち上がり湯船から身体を出すと仕事に戻るためにぶつぶつと愚痴を溢しながら脱衣所へと向かう。

 

「ったくどいつもこいつもチンケな荒魂程度にビビりやがって」

 

薫が温泉から出て着替えた後、旅館のエントランスに自分が隊を任されているこの任務のために集められた4人の隊員達を集め、隣に副隊長を任されていると思われる眼鏡を掛け、薄暗いダークグレーの髪をロングヘアにした綾小路の制服を纏った少女を伴い点呼を行おうとしていた。

 

「つーわけでだ、桐生副隊長。宿舎として旅館を使わせてもらってる手前荒魂を探したってポーズだけでもとろうと思う」

 

「隊長、せめてもう少し本音を隠す努力を」

 

既に薫のマイペースな態度になれてしまっているのか桐生と呼ばれた少女は横目で薫の方を向くと隊長がコレだからせめて副隊長の自分がシャンとせねばと思ったのか整列している隊員達に向けて点呼を行う。

 

「それでは点呼」

 

桐生が呼び掛けると隊員達は右から順番に自分の並んでいる番号を復唱する。

 

「1」

 

1番右端の長船の制服の少女が答え、次には右から2番目の平城の少女が答える。

 

「2」

 

2番目の平城の少女が答えると次はその隣にいた美濃関の少女が答える。

 

「3」

 

3番目に答えた美濃関の少女が答えると、更に隣にいた美濃関の少女が答える。

 

「4」

 

そして、4番目の美濃関の少女が答えると……左端にいた鎌府の制服を着た白い髪に赤い瞳のアルビノのような印象を与える少女……沙耶香が答える。

 

「5」

 

「よーし全員いるな…って…… 増えてる!なんで沙耶香がここにいるんだよ…」

 

あまりにもごく自然に混じっていたため一瞬スルーし掛けたがこのチームは6人編成で隊長と副隊長を除けば4人である筈なため5人目がいる事はおかしい、更に言えばこの場にいる筈のない知人が混ざっているという事実に驚き目を点にする。

 

「可奈美との任務が早めに片付いた。そしたら本部長がここに向かえと……糸見沙耶香、これより益子薫の指揮下に入る。命令を」

 

「お、おっす……」

 

非常に堅苦しくどこか機械的に淡々とした彼女の事務的な対応を前にし、薫はやや苦い表情を浮かべる。

これまでは自分がリーダーとして指揮を採っていたためある程度緩く任務に取り組んでも隊員達から微妙な顔をされる程度で済んでいたが純真無垢で生真面目な彼女が来きたとなると自分のペースが崩されるかも知れない可能性を危惧したのだろう。

 

そして、彼女の緩くマイペースな楽園を崩壊させる審判の鐘はまだ鳴り始めたばかりであった事をまだ薫は知らない……

 

〜!♪

 

直後に、旅館の玄関先の庭からブレーキを掛ける音と同時に旅館のエントランスにも聴こえる程の妙に少女チックで若い女性達が合唱する爆音が漏れている。

一瞬、それが一同の耳にも入るとあまりの爆音にエントランスにいた沙耶香以外の全員がムンクの叫びの如く耳を塞ぎながら両眼をかっ開く。

 

「うおっ!何だ旅館の外から爆音が聞こえるぞ!」

 

「アイドルソングですかね……っ!?」

 

「うるさっ……!」

 

「でも普通にいい曲かも…っ!」

 

「………」

 

「ねっ……!」

 

「つーか……」

 

一同が驚いたり感心している最中沙耶香は特に気にする様子も無く音楽に合わせて首を左右に動かしながら音のなる方向に視線を向けていると薫はこの旅館の外から聞こえて来る楽曲に聞き覚えがあった。

 

「この曲…… サマー⭐︎マーメイドとぅいんくるすたー!か……?」

 

最近、長船の間で密かに流行している以前エレンに騙されたと思って聞いてみろとゴリ推しされ、試しに聞いてみたら意外といい曲揃いだったアイドルグループ、スクリューボールの楽曲であった事を思い出していると外で爆音で流れる音楽が止む。

直後に旅館の玄関の引き戸が開けられる音が鳴り、何者かが暖簾を潜って姿を現すと一同はその姿に釘付けになり薫は沙耶香の時以上にめんどくさそうな表情を浮かべる。

 

「おいおいグンマーは未開の地って聞いてたがちゃんと人住んでんじゃねぇか」

 

「はぁ………」

 

「そうですね……」

 

「ゲッ……!アイツなんで……っ!」

 

疲弊しているように見える刀使2名を両脇に伴いながら登場した20代前半程の青年は左肩にかけたボストンバッグからはみ出る程長い約150cm程の長方形の枕のようなものが見えており、右手には黄色を基盤にした網目状でブラウンの色が混じる大型のかなり重量があると思われるスーツケースを軽々と持っていた。

 

背丈は180cmを優に超える長身に上着として纏う紺色で背広型の警察官の制服のジャケットのボタンを全て開け、中に着込んだワイシャツのボタンを胸元の辺りまで開けた上でネクタイをかなり緩く結んでおりお堅い組織の制服でありながらかなりラフ……というかアウトローな印象を与える着こなし、足元に視線を送ればエナメル質で足首の位置にあるドレープにチェーンが巻かれたロングノーズで蹴り付けたら刺さりそうだと思える程爪先が鋭利に尖ったエンジニアブーツはパンクな印象を与えた。

七分に捲った上着の袖から覗くビール瓶の如く太い筋肉質な腕には幾つもの刺青が刻まれており、よく見ると発達した大胸筋により盛り上がった胸から首にかけても刺青が彫られているため尚更警察組織の格好を纏う人間には見えない。

 

そして、木造建築の旅館の内装を見回す容貌を確認すると両耳には以前は大量に耳に装飾品を付けていた事が想像出来る塞がりかかったピアス穴が見られるが現在は両耳たぶにシルバーで丸型の太いリングピアスをワンポイントで着けているのみとなっている。

鮮血の如く赤い真紅の髪は無造作に伸びており襟足は肩の位置まで、前髪は眼にかかり左眼を覆い隠す程伸びているためヴィジュアル系バンドのような印象を与えるが正面を向いた際に全容が明らかになる。

 

「よう、テメェらが先に来てた奴らだな」

 

誰に対してもメンチを切っているのではないかと思える鋭い真紅の三白眼の瞳とガラの悪い目付きでヤンキーやチンピラと言った風貌の青年が整列している面々に対して言葉遣いは荒々しいが普通に話しかけて来る。

 

「………」

 

「え?何々?何がどうなってるの?」

 

「すごい格好……」

 

「でもちょっとカッコいいかも……」

 

「分かるー」

 

しかし一同の反応は唖然半分、感心半分と言った状態なためそのガラの悪い青年が頭を掻きながら舌打ちをすると靴を脱ぎ、下駄箱に入れると前に揃えられている客用のスリッパに足を通してエントランスへ上がる。

 

「チッ、まさかオバハンの野郎俺が来るって説明して無かったのかぁ?」

 

「知らないフリ知らないフリ……」

 

「隊長、どうかされましたか?」

 

薫が緩くマイペースに仕事が出来る楽園が崩壊した現実から逃避するようにそっぽを向いていると桐生に心配され始めたのが視界に入ったのかガラの悪い青年は知人にでもあったかのように薫に話しかけて来る。

 

「あ?あん時のチビじゃねえか。何だテメェがここの頭張ってんのか?」

 

「いや、あの人違いじゃないですかね……」

 

「ねね?」

 

しかし、薫としては生真面目な沙耶香だけでなく彼は以前に鎌倉の折神邸で邂逅した際にこの青年は非常に血の気が多く、それでいて短気な人物である事は知っているため別ベクトルで扱いにくい奴が来たな。とつい他人のフリをしてしまった。

しかし、ガラの悪い青年は特に気を悪くするような素振りは見せずに単に気付いてないだけだろうと思った上にそう言えば自分は別に名乗った訳じゃなかったかと思い普通に自己紹介を始める。

 

「おいおいおい、いくら髪が伸びたからって忘れちまったのかよチビ。俺だ、ショッカーのテストパイロットだったハーマン・シュルツだよ。今はSTT隊員で管理局唯一のショッカーの専属パイロットだけどな」

 

「ね!」

 

「何だよ犬っころは覚えてんじゃねえか」

 

ねねは自分は覚えてるぞとでも言いたげに薫の頭上で右の前足を上げるとハーマンはねねへと視線を向ける荷物を一旦エントランスの床に降ろし、ねねが上げた前脚に軽く自分の拳を当ててグータッチもどきを行うと整列した一同に向けて自分がここに来た目的を語り出す。

 

「テメェらの任務を手伝えって本部長っつーオバハンからの通達でな、短ぇ間だが世話んなるぜガキ共」

 

更にハーマンがここに来たのは紗南からの指令である事を知ると薫は頭を抱え、戦々恐々としながら自分に面倒を押し付けて来た紗南への恨み節がつい漏れる。

 

「あの鬼ババ……俺の楽園を崩壊させやがってぇ……ぐぬぬ」

 

新規で任務に追加されたメンツに不安を覚える薫の様子を見たハーマンを旅館まで監視するために同行して来た2名の刀使達は薫と桐生に向けて心底頑張ってください……とでも言いたげに声援を送るとすたすたと玄関を後にした。

 

「じゃあ、お届けしましたので私たちはこれで」

 

「ご武運を……」

 

そして、そんな彼女たちの様子を他所にハーマンは自分が宿泊予定の個室へと荷物を置きに向かうために歩き出しながらも身体を傾けて視線を送り、エントランスにいる面々に向けて意気揚々と力強く語り掛けると前を見ずに歩いていた為か壁に軽く衝突する。

 

「よーしガキ共、俺らでバケモンを見つけ次第力合わせてぶっ潰してやろうぜ!」

 

「…………」

 

しかし、先程まで血の気の多いハーマンの面倒も見なければ行けないと思うと先が思いやられた薫だったがハーマンが気合い充分なのはいいが個人的に引っ掛かる言い方と気合の入れ方であったため複雑そうな表情へと変わる。

 

紗南の根回しによって予約されていた個室にボストンバッグと帽子を置いて重量のあるスーツケースのみを持参して来たハーマンが玄関先で靴を履き替えると現場責任者に該当する薫と桐生に話し掛けて来る。

 

「あー、チビとメガネ。一応テメェらには知っといてもらいてぇんだけどよ」

 

「チビ……」

 

「メ、メガネっ!?」

 

「オラ」

 

(ん?これって……)

 

2人の困惑した様子を他所にハーマンは右手に持つ施錠されたスーツケースを前に突き出すと2人の視線はスーツケースに集中する。ボディに一箇所だけ自動改札機のICカードタッチ部のような何かを承認するために埋め込まれていると思われる専用の読み取り部分が取り付けられているが様々な疑問点が浮かんでくる。

 

「これは……何かの読み取り部でしょうか?」

 

「というかお前、スーツはどうしたんだよ?まさか……」

 

そう、ショッカーの正式なパイロットとしてこの場に来ている割にはスーツの類が見当たらない。ならばショッカーのスーツはどこにあるのだ?という疑念が浮かんでくる。

その上、見た目はまるで荷物を入れるスーツケースでありながら読み取り部があるという点を鑑みると薫の脳内でシナプスが一本に繋がっていく。

薫が興味津々気味にハーマンとスーツケースを交互に見るとハーマンは自分よりも背が低い桐生と薫を見下ろしながら疑問に答える。

 

「ああ、このスーツケースがショッカー……俺のスーツだ。こいつを着るには」

 

「マジかすげえ!マーク5と同じじゃん!てことはこれケースが……」

 

言葉を遮るように薫が食い気味に眼を輝かせてスーツケースに顔を近付けてベタベタと触れながら凝視するとハーマンも彼女の熱量に押されてやや引き気味に顔を顰めると聞かれた質問に答える。

 

「最後まで聞けよ。ああ、スーツに変形すんぞ」

 

「ヤベぇ!絶対作ったの社長だろ、しかも重量と質量から見るにマーク5よりずっと頑丈になってるんじゃないか?マジヤッベェ」

 

「隊長、ここ最近で1番嬉しそうですよ」

 

恐らく以前トニーが使用していた装着しない場合はスーツケースとして持ち運べるスーツがあったと聞いたことがあるため恐らくハーマンが今手に持っているスーツも彼が管理局に協力して作成したのだと察する事が出来た。

 

推している人物が作った装備が眼前にあるという事実からマーク5の重量は15kg程で他のスーツと比較して畳んで持ち運べる程度の重量しかなかった装甲が蛇腹状で薄く、耐久性が低かったそうだがこのスーツケースはマーク5のケースよりも重く時代の変遷と共に改良された物だと察したのだろう。

桐生も任務に対して気怠げに取り組んでいた普段の様子とのギャップを前にしてやや皮肉げに呟く。

 

「いや、これでテンション上がるなって方が無理だろ。変形だぞ、承認式で持ち運び可だぞ。ロマンしかねぇじゃん」

 

「まぁ、宿泊施設にまでショッカー本体を運ぶのも大変だしこの時勢だから遠出する時でも持ち歩けるようにスーツケース型のも作ったんだとよ。それに俺はこれでも前科モンだからな、基本的に上司の承認なり近場ならテメェらの承認がねぇと着れねんだよ。今、更にコンパクトで瞬間的に装着出来るような装備を開発中みたいな話は聞いてるがな」

 

近場に拠点がある場合はそこに出向いてスーツを着用したり、スーツが拠点や手元に無い場合はWi-Fiによる遠隔操作で現地まで飛ばすという方式を取っているのだが今回のように民宿というショッカーのスーツを格納する場所もなく、他の観光客も宿泊している場合もある場所では普段はスーツケースとして持ち運べる方式のスーツを渡されているようだ。

だが、スーツケースとして持ち運べるのはかなり便利なのだが今後、より素早くスーツを装着する必要がある事態も起きえるため現在颯太とトニーでナノテク仕様のスーツを開発しているのだがハーマンは一応聞かされているものの詳しい事情までは知らない。

 

スーツケースを様々な角度から覗き込んだりしつつもハーマンからの説明はしっかりと聞きながら相槌を打つことも忘れない。小型のアイテムで変身なんて個人的に1番テンションが上がるだろうなと思いを馳せていると視線はスーツケースを凝視しながら隣に立つ桐生に語り掛ける。

 

「マジカッケェじゃん……なぁ、副隊長」

 

「はい?」

 

桐生は何を言われるのか薫の楽しそうな様子から大体想像は出来たため肩をすくめてため息を吐きながらも彼女の意思を聞く体勢に入る。

 

「俺が承認していい?」

 

「はぁ……どうぞ」

 

「いよっし、感謝するぞ」

 

「ねね!」

 

桐生に許可をもらうとガッツポーズをした薫と彼女の頭上で同じく嬉しそうに前足をあげるねねの様子を見るとハーマンは彼女達に向けて左手の人差し指でスーツケースのボディにあるタッチ部を指差しながら装着の際の承認の仕方を説明し始める。

 

「オラ、管理局に登録されてる御刀……だっけか?それの下の方をここに当てろ」

 

薫が祢々切丸を背中に背負う帯刀ギミックから外すと祢々切丸を持ち帰え、柄をスーツケースの方向へ向け、前方に向けて軽く押し込むと祢々切丸の柄がスーツケースのタッチ部に触れる。

 

「ゴホン……承認!」

 

「よーし、通りやがったな」

 

薫からの承認を受けるとスーツケースの施錠が外れ、本体を開けられるようになる。そして、スーツを地面に置くと本体がパワードスーツの胸部の形に開き、ショッカーのガントレットとなるグリップ部分がここに手を入れろとでも言わんばかりに飛び出す。

 

「しゃあ」

 

そこに両手を挿し、そのまま胸元まで持ち上げ、身体に当てた状態で右拳と左拳を胸の前でぶつけ、一瞬だけ両手を交差させると左腕は拳を握ったまま肘を引いて左腰の辺りに持って行き、右手は腕を垂直に立たせて拳を顔の頭で持って来るポーズを取ると徐々に小さく折り畳まれていた装甲が展開し金属同士が重なる甲高い音がなりながら全身に纏われる。

 

「うおーマジスッゲェ!」

 

薫が眼前で行われるショッカーの装着を前にして感動のあまりスマホを取り出して動画の撮影まで始めている始末だが、そうしている間にも既に展開された装甲は頭部以外を包み込んでおり、仕上げと言わんばかりに最後は後頭部を守るブラウンのヘルメットが展開され、倉庫のシャッターを下ろすようにフェイスマスクの部分が降りることで顎アーマーと結合する事でヘルメットが形成される。

 

既にハーマンから黄色のカラーリングに網目状の模様のアーマーが形成され、頭部を守るための鋭い目付きのツインアイのブラウン色のヘルメット、両腕にガントレットを装備したSTT用のパワードスーツ、ショッカーへと変わっており、装着完了と同時にショッカーの鋭いツインアイが眩く発光する。

 

「眼福です、ありがとうございました」

 

「ねね」

 

「日々装備も進化しているんですね、私たちにも有効に働けばいいですが」

 

「ま、何でもいい。原住民から聞き込みすんだろ?行くぞオラ」

 

抑揚のない棒読みで感動のあまり語彙力が喪失した薫を他所にショッカーは装着したての身体を慣らすように首を鳴らし、待機している隊員たちの方へと歩いて行く。

 

少し歩いた先の民家の庭、玄関前に隊の代表として沙耶香、薫、桐生、ショッカーが家主と思われる老人から目撃情報を聞くために集まり、情報収集を行なっていた。

沙耶香が率先して家主の前に立ち、少し後方に立った3人はその様子を伺っていると家主は雄弁に目撃情報を語り出す。

 

「おお、ありゃ身の丈5mはあった。何十頭もの熊を手にかけその鋭い爪と牙から真っ赤な血を滴らせてな…」

 

「あのジジイ毎回目撃証言を盛ってるぞ。熊の死体なんて一匹も見てねぇよ」

 

「お年寄りは若い人とお話しするのが好きですから…」

 

「マジかよ、適当こいてんのかあのジジイ。任しとけ、俺が聞き出してやる」

 

家主が身振り手振りを用いて饒舌に語っているが曲りなりにも山中で捜索を行なっていた薫からすれば眉唾ものの証言であり確証が無く盛られたものであると知るとショッカーはヘルメットの下で顔を顰め、首を鳴らしながら沙耶香と家主の前へと立ちはだかり、大袈裟な素振りを見せていた家主に対し威嚇するかの如く低い声で喉を鳴らし、ヘルメットの下でメンチを切りながら威圧する。

 

「おい、テメ適当こいてんじゃねぇぞコラ……あ゛ぁ?」

 

「ヒッ……っ!ごめんないごめんなさい!若者と話すのが楽しくてつい盛ってしまっあんじゃあ!」

 

確かに目撃情報があったと通報した以上は変な誇張をせずにあるがままを伝えた方が良いし、仮に不誠実で適当な報告をした事で大惨事に繋がってしまえば二次被害に繋がりかねないのだがヘルメットの下からでも伝わるピリピリとした空気と威圧感に圧された家主が慌てふためきながら謝罪を始める。

ショッカーの明らかにやり過ぎな対応に対し、現場責任者である薫と桐生は一瞬焦ったがすぐにでも止めなくてはと判断して駆け寄り薫が身の丈にそぐわぬ腕力でショッカーの腰に手を回して後方に大きなカブの要領で引っ張ることで家主から引き離し、桐生は家主とショッカーの間に割って入り何度も頭を下げながら家主に謝罪を繰り返す。

 

「あーコラコラよせって」

 

「すみません!ちゃんと言って聞かせますので」

 

「あ?何でだよ?」

 

一方でショッカーは相手が曖昧で要領を得ない受け答えをしてくるため、情報を書き出すために若干強気で迫った程度の認識だったのだが明らかに迫力が恐喝をするチンピラのそれになってしまっていたため引き止められたのだと理解出来ていないようであった。

薫と桐生に引き摺られていくショッカーを家主が唖然と見送る最中、沙耶香が再度いつもの落ち着いた態度で家主を落ち着かせると先程よりは誇張した表現は抑えられたコンパクトな情報を引き出すことに成功した。

 

家主から情報を書き出した沙耶香は家主に一礼すると、距離の離れた3人の所に

駆け寄りまず初めにショッカーを曇りの無い純粋な瞳で身長差のあるショッカーを見上げながら嗜める。

 

「あんなに強く迫るやり方はダメ、怖がってちゃんと喋れなくなるかも知れないから」

 

沙耶香の純粋な眼差しで言い切られたことや筋の通った論理であるためショッカーもバツの悪そうに頭を掻きながら謝罪をするが一方で本人の中ではそこまで強引に迫ったつもりは無いため小声でブツブツと疑問を呟く。

 

「ワリワリ、次から気ぃ付けるわ……そんなビビらしちまう程だったか?」

 

「「「おう/はい/うん」」」

 

「マジかよ」

 

3人同時に言い切られたため、衝撃で固まっているとそんな様子を他所に沙耶香は薫の方を向き、指示を仰ぐ。

 

「これより捜索に向かいたい、命令を」

 

「あーうん、まぁ適当に探してくれ」

 

沙耶香の指示待ちの姿勢に対し、薫は目を伏せながら左手をヒラヒラと振ってあしらうように雑な指示を出すと沙耶香は特に疑問を持たずにすんなりと受け入れ支給されたスマホの地図を確認しながら客観的な判断を伝える。

 

「了解、目撃地点に法則性が感じられない以上捜索範囲を広げる」

 

「しかしあまり広げすぎると逆に穴が大きくなりませんか?」

 

すかさず桐生が指摘を入れると沙耶香は特に問題無しとでも言わんばかりにサラりと自分のプランを伝える。

 

「私が範囲を2倍担当する」

 

スマホをポケットに仕舞うとその場で跳躍すると森林に聳える木の枝に飛び移り、すかさず別の木の枝へと跳躍して飛び移っていく。

その様子を地上から見上げていた残りの面々はその身体能力に感心させられ、桐生は薫とショッカーに向けて同意を求めるように顔を向けて語り出す。

 

「八幡力も使わずあの身体能力ですか…確かにあれなら2倍いけますね」

 

「忍者かよ」

 

「はぁ…あの真面目ちゃんめ」

 

遠ざかっていく沙耶香の姿が見えなくなると薫はもう疲れたと言わんばかりに視線を逸らし、ため息を吐く。

知人と呼べる間柄ではあるようだがお世辞にも好意的に見ているとも、親しいとも言えない距離感に桐生が気になった事を問いかけ、ショッカーは別に仲良しこよしだけが人間関係だとは思ってはいないが一瞬脳裏に決して仲間や友人と呼べる程親しくも無いし心も預けてはいなかったがビジネスライクな付き合いとしてそれなりに上手く付き合えていたと思っていたある知人、アレクセイの事を思い出していた。

 

「隊長は糸見隊員が嫌いなんですか?」

 

「仕事に支障がねえなら別に問題ねえが。まぁ、親しくはねぇよな」(そういや俺とアイツも別に親しくは無かったな……)

 

2人の言葉に対し、薫は気怠げに頭を上げると淡々と自分の感情をため息混ざりに語り出す。

 

「別に嫌いな訳じゃないって、真面目過ぎて苦手なんだよ……はぁ」

 

どうやら4ヶ月前の鎌倉の戦いで共闘し、苦楽を共にした仲間ではあるがマイペースな彼女からすれば純粋で生真面目な彼女はそれはそれとして接しにくいという間柄なようだ。

……しかし、先程のしおらしい態度から一変、不敵で悪そうな笑みを浮かべこの場にいないがイジり甲斐のある知人の事を思い出し、同時に懐かしむような表情を浮かべる。

 

「同じ真面目人間でもヒヨヨン・ザ・ナイペッタンはいじると反応が超愉快!久しぶりに会いたいもんだ…」

 

確かに真面目人間ではあるが真面目過ぎるが故にイジればちゃんとレスポンスを返してくれる相手の方が接していて楽しいと言った具合でありなんだかんだで良好(???)な関係性を築けているのは見て取れるがこの場におらず無関係な彼女にまで流れ弾が被弾しているのは実に哀れである。

そんな彼女に同情したのか桐生は目を細めて淡々と自分の意思を伝え、ショッカーもやや呆れ気味に言葉を紡ぐ。

 

「とりあえずそのひよよんという方に隊長は深く謝罪すべきだと思います」

 

「別に72のくっ、でも地平線みてえなまな板でもいいじゃねぇか俺の元カノだってまな板だったしな」

 

ショッカーが右手を前に突き出し掌を自分の方へ向けて垂直に振る事で壁や板を示唆するジェスチャーをしつつも薫に酷い言われようであった特に会ったこともない人物である姫和をサラりフォローしているつもりだが間接的にダメージに与えている。

 

「言い換えれば凹凸が無くてスレンダーって事だからな、意外とモデルとかアイドルなら逸材かも知れねえからあんまそのまな板のことナメんじゃねえぞ。んじゃあ俺も行くぜ」

 

地面を強く蹴り上げると跳躍し、空中でガントレットを起動すると振動波を推進力として利用することで空中を移動しながら地上を散策し始める。

 

「いや、お前それ間接的に両方にダメージ与えてるけどな!」

 

捜索を開始した隊の面々は隊長である薫と副隊長である桐生は残りの隊員を連れ、集団で固まる事で森林を見渡しながら歩き回って地道に歩き回る人海戦術を用いている最中、ショッカーと沙耶香は真逆の方向に分かれて沙耶香は木々に飛び移り、ショッカーはガントレットから出る振動波を本体を浮かせる程度の威力で下に向けることで空中を浮遊し、時には方向転換を行う事で広範囲の捜索を行なっていた。

 

沙耶香が姿勢を低くしながら茂みを手でかき分け、地面に耳を着けるという徹底した捜索体制を行なっていると美濃関の制服を纏っている隊員が2人で行動している最中背後に足音が鳴る。

 

「「?」」

 

「ブルルルル」

 

頭胴160cmの全身を黒毛に包んだ丸々とした大柄の寸胴な体型、発達した筋骨隆々な四足歩行の脚、豚によく似ているが口元には特徴的な鋭利な牙が覗く……猪だ。

 

「「………っ!?」」

 

山中であるため野生動物が出没する事は予想出来るが想像以上に巨大な猪が現れたため思わず驚いてしまったが猪は縄張りに侵入者が現れたのかと思ったのか咆哮を上げ、隊員2人に突進を放って来た。

 

「テメェらしゃがめ!」

 

すると、背後から力強い掛け声が圧を纏って飛んで来る。

その言葉に従うと美濃関の隊員は言われるがままその場で腰を落としてしゃがみ込むと先程自分たちが立っていた場所を金色の閃光が通過し、突進して来た猪の脳天に直撃する。

 

「ばたんきゅー」

 

脳天に金色の閃光が直撃した際に、脳内に衝撃が走ったのか猪が脳震盪を起こすと目を渦巻き状に回しながらその場で倒れ込む。

目の前で起きた光景に理解が追い付いていない隊員2人が後ろを振り返ると右拳を前に突き出していたショッカーであった。

 

「ったく、未開の地は野生動物も危ねーのかよ」

 

「すいません、ありがとうございました!」

 

「私たちちょっと反応が遅れちゃって……」

 

「テメェらの手伝いが俺の仕事だからな。だが、気ぃ付けろよ」

 

跳躍しながら捜索していたショッカーが下を向いた際に猪に遭遇した2人を見かけ、同じく共に任務に取り組む隊員に危機が迫っていると判断し、地上に降り立ち、振動波の威力を抑え目にして猪に命中させることで命を奪わずに2人を救ったと言う所だろう。

再度別方向の散策に移るとでも言わんばかりに2人に背を向け、ガントレットを起動して足元を殴り付けると一気に跳躍して去って行く。

 

「怖そうに見えるけど頼りになるよね〜」

 

「ね〜」

 

少し離れた約数十m程の崖を前に一同が立ちすくしていると沙耶香はその崖を越えるべく脚力を用いて跳躍すると崖の引っ掛かりの部分を足場とし、着地と同時にすぐ様別の引っ掛かりへと飛び移って行く事でアスレチック感覚で瞬く間に頂上にまで到達し、崖の上の範囲の探索を始める。

 

更に、他の隊員達が自分達の跳躍力では沙耶香と同じ位置まで到達するのに時間が掛かりそうだと会話しているとショッカーが自分が全員を担いで一気に飛び上がるから自分に掴まれと進言する様子を他所に薫とねねは大木に背を預け……爆睡していた。

 

「zzz〜……」

 

……しかしその時

 

    

    

    

   

 

「テメェも探せコラァ!」

 

必殺技の如く1文字ずつ画面に表示される音が鳴り響くエフェクトを纏った文字と同時に薫の頭上にかなり加減した威力の拳骨が降り注ぐ。

 

「いって!」

 

「ね!」

 

突如頭上に鳴り響く衝撃に薫は飛び上がり、肩の上に乗っていたねねは薫の大声で飛び起きてしまう。

 

「現場責任者のテメェが居眠りこいてどうすんだオラァ!」

 

「だからって拳骨で起こすことねぇだろ、たんこぶ出来たらどうすんだよ……出来てるし」

 

拳骨を受けてヒリヒリとした痛みが残る頭頂部をさすると、かなり加減はされているようだが彼女の頭部に小籠包程度の大きさのたんこぶが出来ており、その威力を物語っている。

 

「隊長のくせして呑気に爆睡こいてるテメェが悪いんだろうが!仕事しやがれ仕事ォ!」

 

「隊長は俺だしぃ、隊員達を的確に動かしていざって時にバシッと決まれば隊長として成り立つんですぅ」

 

睡眠中に、おまけに拳骨で叩き起こされた事でやや機嫌が悪いのか多少態度が粗雑になりながらショッカーの言葉を流すがショッカーは続け様に不真面目な勤務態度と雑な対応に徐々にヒートアップしていく。

 

「小学生かテメェは、テメェより眼鏡の方がよっぽど隊長してんだろこの給料泥棒が!」

 

「んだとコラテメどこ中だ?あぁん?」

 

「ニューヨークのバッドシティ中学卒だ文句あっかコラァ!」

 

「はー、あったま悪そうな学校だなぁ!」

 

小学生の喧嘩のようなやり取りへと発展している最中、取り残された隊員たちは呆れた視線を2人に送っているが崖の上から2人のやりとりを見下ろしていた沙耶香も首を傾げながら小声で感じ取った事がつい漏れ出る。

 

「……2人は仲良し?」

 

「「全っ然!!」」

 

「息ピッタリですね」

 

ーー夕刻、群馬の山中

 

既に日も傾き始め、夕陽が地上を橙色に照らす黄昏時となるまで捜索を続けたものの成果は芳しくなく、結局荒魂を見つけることが出来ずにいた。

そろそろ作戦を切り上げるには最適な時間かと判断した頭頂部にたんこぶを作った薫が隊員たちに向けて隊長らしく取りまとめる。

 

「んじゃあ今日はここまで。暗くなると山は危険なんで早めに切り上げた隊長様に感謝しつつ宿で疲れをとるように」

 

しかし隊員たちは……

 

「糸見さん達のおかげで助かった~」

 

「捜索範囲が飛躍的に広がったしね」

 

「でも、発見出来なかった」

 

「明日は見つかるって」

 

「いっそ隊長変わって…」

 

沙耶香を取り囲み、薫の事などどこ吹く風とでも言わんばかりに彼女を称賛し始める。

おまけに薫のあまりにもやる気のない態度や勤務中に居眠りを敢行するという隊長としての威厳が無い行動を取っていたため致し方ないのだが言いたい放題に言われている。

そんな彼女らの様子を見てか薫は若干ダメージを受けたのか悔しげに呟く。

 

「気のせいか、沙耶香が来たことで俺の株がストップ安になった気がする」

 

薫の呟きに対し、桐生は横目で薫の方を向きつつやや皮肉がな笑みを浮かべ、言葉を放つとそれがトドメの一撃となる。

 

「気のせいです。だって彼女が来る前からストップ安でしたから」

 

グサッ

 

言葉の刃が心臓に刺さったかのような感覚に陥り、やや落胆した様子を見せた彼女に対し、割と妥当な扱いかも知れないがあんまりな物言いに対し、やや引き気味に……それでいて少しだけ……本当に少しだけ先程まで口喧嘩をしていたショッカーが同情的に言葉を掛ける。

 

「テメェマジで人望ねぇな……」

 

「…………」

 

そうしている間に隊員たちが宿へ戻ろうと踵を返して去って行く彼女たちに沙耶香は一例をする事で送り出すと薫の方へと歩き出すと真顔のまま淡々と話しかけてくる。

 

「明日は必ず荒魂を発見するから」

 

「おう、ぶっ潰してやろうぜ」

 

沙耶香の言葉に対し、ショッカーは右拳の左の掌にバシバシと打ち込みながら活気盛んに答えると妙に力が入り過ぎている2人に対して左手の人差し指で頰を掻きながら目を伏せて諭そうと試みる。

 

「もう少し肩の力を抜いてもいいんだぞ。この一件、荒魂による直接的な被害は一切報告されてないんだ紗南の目も届かないし気楽にやれよ~」

 

ショッカーと沙耶香の間を通り抜けながら沙耶香の肩、身長差があるショッカーに対しては肘の辺りをポンポンと叩く。

しかし、ショッカーと沙耶香は薫のあまりにも悠長な態度に対し、危機感を感じていないのか?と感じ、素朴な疑念を投げ掛ける。

 

「被害が出てからじゃ遅ぇだろ。んな呑気な事言ってる場合か?」

 

「任務は速やかに達成すべき、刀使の使命は荒魂を討つ事だから」

  

「だよな……うん、特祭隊として正しいのはお前らだよ」

 

2人に筋の通った正論で返されると薫はやや自嘲気味に返すと2人は顔を見合わせ、キョトンとした表情を浮かべられる。

 

「言ってる意味が分からない」

 

「どう言うこった?バケモン退治がテメェらの仕事じゃねえのか?」

 

薫の言っている事が理解出来ないとでも言いたげな2人に対し、薫はあっけらかんとした態度のまま2人の間を通り抜け、旅館へ向けて歩き出す。

 

「いいんだよ、お前らはそれで」

 

「ね?」

 

2人の方をチラ見する事なく歩き出す薫の頭上でねねは頭だけで振り返り、彼らの様子が気掛かりとでも言わんばかりに心配そうな表情を浮かべるがショッカーは両腕を組みながらヘルメットの下で訝しげな表情を浮かべ、やはり理解不能と言いたげに悪態をつく。

 

「あぁ?なんなんだあのチビ」




あ、映画をすぐに観に行ける人ばかりではないと思うので初日勢の皆様や、早めに見た皆様もネタバレは控えてくだされ。
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