刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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今回は2話連続形式なので一つ前の66話からよろしくお願いします。


第67話 卓球バトルで交流かい!?

陽が沈み、旅館の窓の灯りが川面を照らす時間帯にもなると夕食を終え、風呂前に各々が好きなように行動をしていた。

ハーマンは宿に戻った頃にショッカーの装着を解除してスーツケース状に戻し、旅館のフロントに預けてスーツとコンセントを繋いで充電をしてもらっており夕食を摂った後は用意された個室でテレビ視聴に興じ、それに反し隊員たちは部屋に団欒と言った具合に集まって布団の上で会話に興じていた。

 

旅館の中を徘徊していた薫が皆が寝泊まりする部屋の襖を開けて室内を見渡すが約1名、姿を確認出来なかった。

 

「おい、沙耶香はどうした?」

 

薫の鶴の一声により室内にいた隊員たちが一斉に薫の方へ顔を向けると桐生が自分の知り得る事を思い返しながら伝える。

 

「夕食後は部屋に戻っていませんが…」

 

「恋バナとか聞きたかったのにな~」

 

「だよね〜」

 

「そうか、邪魔したな」

 

あまり知りたい情報が入らなかったからか、探し回っても中々沙耶香が見当たらない事に苛立っているのか……等と理解し難い複雑な感情を抱えたままぶつぶつと呟きながら廊下を歩いて行く。

 

「ったく一人で何してんだあいつは…べ、別に八つ当たりみたいに冷たくしたことを気にしてなんかないけどな!そういやねねもいないな……うおっと」

 

曲り角を曲がろうとした矢先、曲がり角から出て来ようとした人物とぶつかるとかなりの身長差があるのかそのぶつかった相手は薫を見下ろしながら話しかけてくる。

 

「おうワリワリ……って、何だテメェか」

 

旅館から用意された浴衣を身に纏い、捲った袖から覗く両腕に彫られた刺青が全体像を主張しつつもその右手には150cm程の長方形の水着衣装を纏った10代半ば程の銀髪の少女がポーズを取った姿がプリントされている抱き枕を抱え、バスケットボールすらそのまま手掴み出来そうな程大きな手には缶コーヒーが2本握られている。

両耳たぶに付けられたシルバーのリングピアス、左目を覆う長い前髪の隙間から覗く三白眼にガラの悪い目付きで察する事が出来る、ハーマンだ。

 

「いや、こっちこそ悪い。なぁ、そういや沙耶香見なかったか?」

 

「見てねぇよ、さっきまで部屋でテレビ見てからな」

 

「そうか、邪魔したな」

 

ハーマンに聞いても望んだ答えが返って来なかったため、別の所を探そうかとその場を去ろうとした矢先にハーマンは壁に背を預け、気になった事を尋ねる。

 

「ターミネー子がどうかしたか?」

 

「別に、なんでもねえけど」

 

素っ気ない態度で返されるが沙耶香に対する薫の態度や任務の終わり際での事を思い出すと1つの答えに辿り着き、揶揄うような笑みを浮かべて茶化し始める。

 

「あー!歳下のアイツにドライに接してたの気にしてやがんだな!おいおいテメェも意外とお人好しか」

 

「「いっで!」」

 

図星ではあったのだがハーマンの言い方と、ましては直接自分の前で指摘される事による気恥ずかしさからか薫はハーマンの脇腹に向けて手の指を真っ直ぐ伸ばし、指先を突き刺す貫き手を弱めに突き刺す。

不意打ちであったため、気の抜けた声が出てしまうが貫手をお見舞いした薫の指先はジーンと来る痛みによって痺れている。

 

突き刺したまでは良かったのだが想像以上にハーマンの常人よりも隆起した肉体を構成する筋肉が硬質であっため鍛えていなければ突き指していただろう。と実感した。

そんな痛みを誤魔化すついでに薫は少し、ハーマンに向けて気になっている事を尋ねてみようかと話題を変える。

 

「いてて別ににそんなんじゃねぇよ……なぁ、お前に一個聞きたいんだけどいいか?」

 

「あ?」

 

「お前が特祭隊の仕事にやる気になってんのは別にいい。けど、お前って基本自分の損得勘定で動くような奴だろ?何でこんなあぶねー仕事手伝う気になったんだ?しかも妙に張り切ってるし…ウチの学長のマルチ商法に引っ掛かったならやめとくのを勧めるぞ」

 

そう、日中の荒魂の捜索任務に当たる際、やや空回り気味ではあったが積極的に捜索に協力しており、荒魂を早急に倒す事に躍起になっていることを鑑みるにSTTとしての職務に対してそれなりに真面目に取り組んでいる事は見て取れた。

しかし、以前鎌倉で敵同士で合間見えた際に管理局についている理由の大半が損得勘定で動いている人物に見えたためそのような利己的な性格の者が自分を散々こき使うブラック上司の差し金だと考慮すると紗南の口車に乗せられているのではないかと薫なりの親切心で忠告をするとハーマンは同情するかのように顔を引き攣らせる。

 

「ひでぇ言われようだなオバハン……まぁ、オバハンにショッカーのパイロットにならねぇかって誘われて、制約は結構あるし断ったら普通に裁判受けてムショ行きだったろうしな。だったら俺はオタ活が出来る方を取っただけだ、後はファイトマネーを貰う以上はちゃんとやんねぇとダメだろ」

 

「けど、だからって釣り合いが取れてるとも言い難いだろ。俺たちの仕事は結構危険だぞーオタ活がしたいからってそうそう選べるモンなのか?」

 

照れ隠し気味にやや説明に誇張が入っているため薫に怪訝そうな視線を向けられると短い間だが一緒に仕事をする相手に変に隠し過ぎても拗れて面倒になるかと思いある程度は本当の事を話しても差し支えはないだろうと判断し、自分よりも背の低い薫を見下ろしながら語り始める。

 

「……あのオバハンは絡むだけでデメリットがある俺に対して生徒の力になって欲しいって頭を下げられるようなセンコーだぜ。そこにあったのはテメェの損得じゃなく、テメェらガキ共を想って俺みてぇなダメ人間にもキチンと真意を話して頭を下げるその誠意に取り敢えず信じてみる価値は感じた。後は……まぁ……」

 

視線を外しながら少し前に自分にそう決意させる切っ掛けをくれた、かつては敵同士で2度も潰し合いをした間柄でありながら何ヶ月も暇さえあれば自分の面会に来ては他者とは最低限の接触が無く知り合いもいない拘置所生活での退屈で穴の空いたような日々を自然と埋めてくれた相手を無意識に思い浮かべていた。

 

「借りがある奴がいるからな、借りっぱなしは癪だからよ」

 

「それって……おっと」

 

ハーマンが今思い浮かべている人物に非常に心当たりがあるため思わず追求しようとしたら照れ隠しのつもりなのかこちらを見ずにハーマンが手に持っていた缶コーヒーを投げつけてくる。

 

「やるよ、ガキにコーヒーはキツいかも知れねぇけどな」

 

「別にキツくねぇし、ナメんなよ」

 

唐突に投げ渡された缶コーヒーをキャッチした薫は鎌倉で会った時から子供扱いしてくるハーマンに対し、悪い気はしていないが複雑そうな視線を送りながらプルタブに指をかけようとする。

 

「あ、シールは寄越せよ。キャンペーン中だからな」

 

そう言われて投げ渡された缶を確認すると、缶胴にはスクリューボールのロゴがプリントされており、更には「グッズが当たる!キャンペーン実施中!」と書かれた捲るタイプのシールが貼られていた。

どうやらスクリューボールと缶コーヒーのタイアップ商品であり賞品目当てで買っていた缶コーヒーを薫にくれたということのようだ。

 

「抜け目ねぇな……」

 

優しいんだかケチなのか判断がより難しくなってしまったがせっかく貰ったのでプルタブに手を掛け、親指でリベットを押しながらタブを引っ張って缶を開け、コーヒーを口に流し込むと意外とさっぱりした味わいの微糖のコーヒーだったようで飲みやすく、コーヒーと砂糖の味が残る。一応飲みやすい方をくれたようだ。

 

「?」

 

再び視線を薫に戻したハーマンが先程まではそこまで気になってはいなかったが何か足りないような、普段ある物がないように感じ、違和感の正体を知るために薫に問いかけて来る。

 

「そういや犬っころはどうした?テメェんとこに戻ったんじゃねえのか?」

 

「ん?その口ぶりだとさっきまでねねといたみたいな言い方だな」

 

「あぁ、さっき部屋でテレビ見てた時にちょっとな」

 

ーー数刻前、ハーマンが宿泊している個室

 

「ぐぬぬ…自室ならともかく他の客も泊まっている旅館じゃヲタ芸できぬ故控えめな応援しか出来ませぬがリアタイは欠かさないであります」

 

ハーマンが個室に置かれたテレビの前に胡座をかきながら全長150cm程の長方形の、自身の推しメンである10代半ば程の銀髪の少女がプリントされた抱き枕を抱き抱え、畳の上には旅館の売店で購入した複数のサイリウムを置き、本日も自分が推しているアイドルグループ、スクリューボールも出演する歌番組の生放送を視聴していた。

 

『皆さーんこんばんわー!スクリューボールでーす!今日もあなたのハートに〜スクリューボオオオル!』

 

「んほぉ〜!このアイドルたまんねー!今日も今日とて推しが可愛いであります!」

 

階段を降りながらスクリューボールのメンバー5人が会場に入場し、画面越しにテレビの向こう側の視聴者に向けて可愛らしくウインクをしながら手を振ってファンサービスをして来る自分の推しメンのパフォーマンスに興奮し、目を❤️にしながら胸をときめかせていると個室の引き戸が横に動く音が聞こえる。

 

「ねっ」

 

夕食後以降薫の元から離れ、旅館内を彷徨い歩いていたねねが幸か不幸かハーマンのいる個室の近くに迷い込み、ハーマンの声が聞こえたため何の気無しに個室に入って来たようだ。

 

「ややっ、犬っころ氏ではありませぬか。拙者の部屋に何か用でありますか?」

 

「ねね!」

 

『はい、シルバー・セーブルの皆 さんありがとうございました〜。次は今年の紅白出場最有力候補、スクリューボールの皆さんお願いしま〜す』

 

TVから流れる音に対し、ハーマンの耳がその音を拾うかの如く巨大化し、光の速さで首をTV画面の方向へと向ける。

 

「ってヤベッ、こうしてる間にもライブが始まっちまうであります。犬っころ氏、来るならさっさと来るであります」

 

「ねっ」

 

生放送の最中であるためオタクモード時の口調は抜け切ってはいないものの再度視線は突然の来訪者であるねねの方へと向けられており特に邪険にする様子は見せずにねねを部屋に招き入れる。

 

ハーマンに招き入れられたねねはとことこ歩きながら胡座をかいて座るハーマンの膝の上に乗っかり同じくテレビの方へと視線を向けるとメンバーの若干顔の高さより下…何となく胸部の位置を見ながらも音楽に乗せて身体をリズミカルに揺らし始める。

 

「〜♪」

 

(あー……拙者、そういや犬っころ氏についてはほぼ何も知らんしペットもガキの頃にコーンスネークブリザードを飼ってた位で他の小動物との接し方が分からんであります)

 

「ねへへへ〜」

 

今思えばねねとハーマンの絡みはほぼ少なく、鎌倉での戦いの際ほんの少し合間みえた程度の絡みしかないためねねが荒魂という話は紗南から聞いてはいるものの部屋に招き入れたまではいいがどう接していいか分からず妙な気まずさに苛まれていたがTV画面に映るスクリューボールの面々を見て顔をふやけさせているため1つ、話題を振ってみることにした。

 

(まぁ、取り敢えずこれで行くでありますか)「ならば犬っころ氏、この中では誰が1番かわいいと思うでありますか?」

 

「ね?ね〜」

 

ハーマンは言葉が全て通じると思ってはいないが一応意思疎通はある程度図れないかと思案し、問い掛けた質問に対しねねは首を上に向けて曇りのない純朴な視線を向けて来る。

ハーマンの質問に答えるために再度視線をTVの方向へと向き直り、スクリューボールのメンバーを吟味し始めるとハーマンは自分の推しの良さを伝えるためにねねに対し熱弁を始める。

 

「拙者の推しは若干15歳でありながらグループの要でリーダー、本日センターも務めて日本中から注目を集めている千年に一度の逸材、総選挙では毎度一位争いに食い込む絶大な人気を誇るアイドルオブザアイドルオブザアイドル!りるるんこと相戸瑠璃!スリーサイズは上から83、56、81!どうでありますか!?中々に攻守共に優れたアイドルでありましょう?」

 

「ね!」

 

ハーマンの弾幕の如き熱弁を語るに際してかなりオタク特有の早口になっていたためねねも理解しきれない部分はあったがハーマンがゴリ推しするアイドルを指差していたためこの子の事を言いたいんだろうなという事は伝わり、確かに可愛らしくてスタイルも良いためねねは同意するかのように鳴き声を上げる。

 

「意外と分かるではないでありますか犬っころ氏!拙者は同担拒否だなんてしょっぺえオタクくんみてえな真似はしねえであります!さぁ、犬っころ氏もりるるんを推すであります!布教用のグッズならくれてやるであります!」

 

「ね、ねへへ〜」

 

推しの良さを熱弁し、更に熱烈な勧誘までしてくるハーマンであったがTV画面を見つめるねねはある一瞬を見逃さなかった。そして、ねねはとろけたように表情を緩ませ、ある一点に視線を固定している。

ハーマンも自分の言葉に相槌を打たなくなったねねに疑念を抱き、ねねが視線を向けている位置を見やる。

 

「ん?犬っころ氏……ってどこ見てんだテメーは」

 

「ね!」

 

そう、ハーマンの推しアイドルの隣で華麗に踊る20代前半ほどに見える大人びたクールな印象を与える飴色の髪を靡かせ、そして抜群のスタイルを誇り、西瓜の如く実った果実を揺らしているアイドルの胸部だ。

 

そして、ねねはハーマンの膝の上で足で強く蹴り上げてミサイルの如く勢いで、更に言うならば惑星に向けて飛び出すロケットのように一直線に向けて飛び出した。

 

「ねー!」

 

「ってコラ、画面にダイブしてもそこに実物はねぇっつの」

 

口調も既に元通りのものとなり、呆れ気味な視線をねねに送りながら冷静にねねの鉄色の尻尾の端を掴む。

尻尾を掴まれたねねは前へ進もうにも進むことが出来ず、空中でもがいていたがハーマンに諭された事で大人しく床に降り、未練がましく残念そうにTV画面を見つめる。

 

「ねね〜」

 

ねねがスクリューボールの大人びたメンバーの胸部を凝視し、飛び込もうとしていた事柄からハーマンは1つの結論に到達し、畳の上に座るねねを見下ろしながらそれを本人に向けて言い放つ。

 

「なるほどな、さっきから妙に胸元の辺りばっか見てやがると思ったらテメェ…そういう星の星人だった訳か」

 

「ねぇね!」

 

ここまで一点の曇りもない即答をされると逆に感心させられてしまったがハーマンの推しアイドルもスタイルはかなり良いため、ワンチャン好みに刺さるのではないかと言う希望を捨てず何としても自分の推しを布教せんとばかりにTV画面を指差しながらねねに再度ゴリ推しを続ける。

 

「ならりるるんも結構いいだろ、な?テメェもりるるんを推そうぜ」

 

「ね!……ん〜ね!」

 

しかし、ねねはTVに映るアイドル達を交互に見つめるがやはり好みはこの大人びたアイドルであると言う確固たる意思表示をするために前脚を向けて強調するとハーマンはねねの意志を汲み取る。

 

「結構好きだがテメェの真の好みは最年長の19歳で一番胸がデッカーなリズ姉こと亜嵐莉朱って所か。まぁ、好みはそれぞれだがリズ姉の魅力はスタイルだけじゃねえぞ。歌はりるるんには一歩譲るがダンスの腕前は屈指だ、それに一見クールで素っ気なさそうに見えるがファンレターには全部直筆で返事を書くだけじゃなく握手会での対応も丁寧で誠実だ。テメェもスクリューボールのファンになるならリズ姉のおっぱいマウスパッドならくれてやってもいいぜ」

 

「ねね!?ねへへへ〜」

 

自分の解説よりも最後の一文への反応が1番良かった事は心底複雑であるが好みのメンバーがいる上に反応は良かったため後一押しすれば行けそうだと思い、次はメンバーの魅力以外の部分を勧めようと次のカードを切る。

 

「……まぁ、いいだろう。まさか犬っころにまで布教が成功するとは思わなかったぜ」

 

「ねね!」

 

「だが、魅力的なのはメンバーだけじゃねえ。紅白出場最有力候補に上がるにゃ歌唱力とダンスのスキルも求められる最中最高にキレッキレなのがスクリューボールの歌とダンスだ」

 

TV画面の向こう側でハイレベルなパフォーマンスを繰り広げるスクリューボールの出番も終盤に差し掛かって来たため共に盛り上がるのが1番手っ取り早いと判断したハーマンは旅館の売店で購入したサイリウムを拾い上げ、軽く折り曲げると内部のガラスアンプルが割れ、2つの液体が化学反応を起こしてそれぞれ銀と橙色に発光する。

 

「テメェにもそれを教えてやるから他の部屋に響かねえ程度に盛り上がんぞ。よし、犬っころはこれを待て。リズ姉カラーのサイリウムだ」

 

「ね!」

 

ねねがハーマンからサイリウムを受け取るとそれを掴むと曲のリズムに合わせてハーマンと同時に楽しげに振り始める。

 

「はい!はい!はいはいはい!世界一かわいいよおおおおお!」

 

「ねい!ねい!ねい!ねねねー!」

 

ハーマンのコールに合わせてねねも見様見真似にコールを始めると両者の気持ちがシンクロしたかのように気分が高揚して行く。

その光景はガラの悪い成人男性が小動物と共にTVの前でアイドルのライブに合わせてノリノリでサイリウムを振り回しながらコールをするという側から見ると異様な光景であるが両者が非常に楽しそうだと言うのは伝わるだろう。

 

「おいおいおい!意外とリズム感あんじゃねえか犬っころ!どうだ?楽しくなって来たろ?」

 

「ねね!」

 

いつの前にか険しい表情を浮かべていたハーマンの表情は変貌しており、既にハーマンにとってねねはどう接していいか分からない小動物から同じくスクリューボールの音楽とダンスを楽しむ1オタクへと変わっていた。

 

 

「フォオオオオオオオオオオオオオ!」

 

「ねねーーー!」

 

両者の盛り上がりが最高潮に達したあまり奇声を上げると画面の向こう側でスクリューボールのライブが終わる。

すると邪気のない、親しい相手へと向けるような友好的な表情のままねねを見下ろし屈託のない笑みを浮かべる。

 

「メンバーだけじゃなくて曲もダンスもすげえだろ?スクリューボールはよお」

 

「ねね!」

 

ーー回想終了。

 

「……って感じで部屋で盛り上がってたんだがスクリューボールのライブが終わったら犬っころの野郎どっか行っちまったもんでテメェの所に戻ったと思ったんだけどな」

 

「風邪引いた時に見る夢だな。にしてもアイツどこほっつき歩いてんだか…」

 

しかし、ハーマンもねねの行方は皆目検討も付かないため何の気無しに庭にでもいるか?と思い、視線を庭の方へ向けると一瞬動きを止め、薫に語り掛けて来る。

 

「さあな………おい、外見てみろ」

 

「あん?」

 

ハーマンに促されるまま視線を宿の庭に向ける。

旅館の灯りが微かに庭を照らす庭に置いて白を基調としたジャージを纏う中学生程の背丈の少女が黙々と愛刀を手に持ち上段に振り下ろす、という行動を機械的に繰り返していた。

そう、薫が探していた沙耶香だ。どうやら彼女は夕食後も浴衣にも着替えずに

余った時間で素振りを行っていたという事だろう。

 

「ね?」

 

すると、どこからともなく地面の上を四足歩行で歩く鉄色の尻尾を持つ子犬……少なくとも哺乳類に見える小動物が黙々と素振りをしていた沙耶香の足元へと歩み寄って来る……薫の元から離れて単独行動していたねねだ。

ねねの鳴き声が聞こえると沙耶香は視線を足元に視線を向けたが特に気にする素振りを見せずに素振りを再開する。

 

「ねー、ねーね」

 

沙耶香に便乗するかのようにねねは自分の鉄色の尻尾を長物に見立てて彼女の近くで素振りの真似をし始める。

しかし、手足が非常に短いため素振りの動きはどこか小ぶりで腕を頭上まで振り上げる素振りのそれではなくただ尻尾を軽く縦に振っているだけの動作にしかなっていない。

 

ねねの動作が視界に入った沙耶香がは素振りを止め、妙法村正を納刀するとねねを見下ろしながら小さく指摘する。

 

「それ、違う」

 

「?」

 

何が違うのか理解出来ていないのか話しかけられたのが意外だったのかねねが素振りを止め、小首を傾げていると沙耶香はしゃがみ込んでねねの尻尾を掌の上に乗せ、ちゃんと自分たちが剣を振るう時に近い位置と、持ち方に変えてあげる。

 

「ねー!」

 

感謝の意を込めたねねの鳴き声に対し、軽く頷くと再度立ち上がり、共に並んで素振りを再開する。

 

「何してんだアイツらは……」

 

「風呂前に汗流してぇとかじゃねぇのか?」

 

ねねと沙耶香の交流(?)とも取れる素振りを前にして疑念の声を漏らす薫に対し、ハーマンは缶残り少ない缶コーヒーの中身を啜りながら壁に背を預けて淡々と答える。

 

「ね!ねねねねー!ねねねね……」

 

しかし、妙に張り切ったねねが縦横無尽に尻尾を振り回したが自分の身体ごと派手に振り回してしまった事により目を渦巻き状に回しながらヘロヘロと気の抜けた声を上げながら顔から地面に倒れ伏す。

 

眼前でねねが倒れ伏してしまったためやや慌て気味に駆け寄り、心配そうな表情を浮かべながら倒れ込んだねねに呼び掛け始める。

 

「平気?気を付けないと駄目……」

 

これまで貼り付けたようなポーカーフェイスの彼女の表情しか見た記憶が無い薫は意外そうな表情を浮かべると、彼女の事についてよりよく知るためにスマホを取り出しどこかへ連絡をしようとし始める。

 

(あんな顔もするのか)

 

そして、連絡を取った相手と繋がるとその相手が電話に出る。

 

「薫ちゃん?どうしたの急に」

 

電話越しから明るく、ハキハキとした声色が伝わって来る。口調から察するに薫をよく知る人物であるのだろう。

その電話に出た相手に対し、薫は気になった事を問い掛ける。

 

「可奈美はよく沙耶香と組んでるよな。あいつといつもどんな風に過ごしてる?」

 

どうやら薫が連絡を取った相手は普段関東圏内の任務に置いて彼女とよく任務に出撃する機会が多い彼女ならば基本各地を転々とさせられているため疎遠になっていた自分よりは詳しいと判断し、連絡を入れたようだ。

 

すると、薫の問い掛けに対し、可奈美の中で変なスイッチが入り、饒舌気味に語り始める。

 

「もちろん剣術の話!そうそう!こないだは久しぶりに手合わせして」

 

ーーブチン

 

欲しかった情報は拾えなかっただけでなく自分が提示しても盛り上がれる内容では無い気がして参考にならなかったとして長くなる前に一方的にブチ切りすると同時にめんどくさそうに盛大なため息を吐く。

 

「沙耶香もだが可奈美も大概だな!はぁ…めんどくせぇ…」

 

一方その頃、白い寝巻きを纏った舞衣が椅子に腰掛け、携帯電話を耳に当てる事で誰かに連絡を取っていた。

 

「う~ん…やっぱり心配かも」

 

「薫と一緒のサーヤのことデスカ?」

 

すると、電話の向こう側から明るくハキハキとした片言の少女の声が聞こえて来る。

その声の主は橙色の長船の制服を身に纏い、椅子に深く腰掛けて通話相手である舞衣の相談に乗っていたエレンであった。

恐らく沙耶香が派遣された隊で指揮を採っており、尚且つ知人同士が組むというのは本来心強いものである筈なのだが薫の人柄をある程度知っている舞衣はやや不安に思っている事があるようで彼女と親交が深いエレンに相談に乗ってもらっていたのだろう。

 

「薫ちゃんめんどくさがりなとこあるから…」

 

舞衣の言う通り確かに薫は基本マイペースで面倒くさがりな面もある人物であるためそのような人物の指揮下に沙耶香が派遣されるとなれば確かに不安が募るのは理解出来なくもない。

しかし、そんな舞衣に対して彼女の不安を払拭させるために満面の笑みを浮かべ、強く返す。

 

「心配ご無用!ああ見えて薫は面倒見のいい子なんデスよ。なんせ400年も荒魂と共に生きてきた益子の一族デスから!そ・れ・に今はハマハマも一緒デスカラ!」

 

更にエレンは目を輝かせ、意気揚々と語る彼女の声のトーンが一瞬高くなるのを感じた舞衣は風の噂程度で聞いたことがあるハーマンの存在について言及する。

 

「その人って確か新しく機動隊に配備された新型スーツのパイロットの人だっけ?」

 

「YES!紗南先生が薫のお手伝いとして派遣した助っ人の1人デス!」

 

「そう言えばどういう人なんだっけ?」

 

これまで管理局が雇った装備テストパイロットとの面識がほぼ無く、ハーマンとは出会いすらしなかった舞衣は彼の人物像を全く知らないためエレンに問いかけるとエレンは顎に手を当てて掻い摘んで説明しようと咀嚼し始める。

 

「えーっとスゴい簡単に言うと前は耳に沢山ピアス穴を開けていて」

 

『ガイアが俺にもっと輝けと囁いてんだよ』※台詞はイメージです

 

舞衣がエレンから聞いた通りのイメージで脳内再生を開始すると深紅の髪にガラの悪い目付きの子供の落書きのような雑なハーマンの顔をざっくりと思い浮かべる。するとまず耳に大量のピアスを付けたヤンキーやチンピラと言った風貌が思い浮かぶ。

 

「うん?」

 

「身体のあちこちに刺青が入ってて」

 

『市営プールは……出禁だぜ』※台詞はイメージですが刺青が入っていると入場を断られる場合があります

 

次に捲った袖口から覗く、刺青の入った右腕を見せ付けながら右手首を左腕で伸ばしながら胸板を強調するハーマンのイメージが頭に浮かぶ。

 

「………うん???」

 

「目付きと口と態度が悪くて二人称が誰に対してもテメェで」

 

『んだテメェ…やんのかオラ、あ゛ぁ?』※ほぼ事実に基づいた台詞です

 

「…………」(急に宇宙の話を振られた時の顔)

 

言われた通りのイメージで想像していたがどこからどう見てもチンピラかヤバい奴にしか思えず表情を宇宙猫へと変貌させていると語っている間に舞衣の反応もあってか徐々にエレンの顔色が青ざめて行き、額から大量の冷や汗が伝う。

 

「それですぐ怒って……sorry、私もちょっと不安になって来マシタ……」

 

「そ、それ本当に大丈夫なの……?」

 

電話越しからでも伝わる舞衣の不安そうな震え声に対して、エレンはどうにかフォローしなければと思い、席から立ち上がり、あたふたと手を振りながら必死に説明を開始する。

 

「だ、大丈夫デス!その上アイドルオタクで超変な人デスケドあれでも歳下には優しかったり面倒見は良かったりシマスカラ!……多分」

 

「私一気に不安になって来たんですけど……」

 

どうにかフォローしようとするがハーマンは基本的にダメ人間であるため交流があり一応いい所も知っているエレンですらフォローが難しくしどろもどろになっている様子を感じ取った舞衣は更に不安を強めて小声で呟く。

 

「と、取り敢えず私から言えるのは、2人を信じてみてクダサイ!」

 

「は、はぁ……」

 

そんなエレンの奮闘も梅雨知らずのフォローをされていた2人は同じく旅館の廊下で特に会話も無く缶コーヒーを啜っていたが薫が缶コーヒーのシールを剥がしてハーマンに渡すと空き缶をゴミ箱へ向けて投げ入れ、何かを思い立ったかのようにハーマンの前を歩き出すと自分について来いとでも言わんばかりに親指を立てて自分の方へ向けて腕を振る。

 

「よし、風呂前の運動だ。お前も付き合え」

 

「何する気だ?まぁいいだろう、これでもガキの頃から運動全般得意で部活の助っ人もしてたからな」

 

ハーマンは薫の行動原理が理解出来ずにいるが得意分野で力を発揮することを期待されていると知ってか自信満々に不敵な笑みを浮かべ、両腕を軽く回してウォームアップを始めるとそこで薫は軽いイジりのつもりでハーマンに突き刺さる冗談を放つ。

 

「勉強は?」

 

「うっせ聞くな」

 

場面は変わって旅館の卓球場。

 

「?」

 

薫に呼び出されたのかジャージから浴衣に着替えた窓側を背に沙耶香が卓球台の前に立ち、卓球用のラケットを手に持ちながら首を傾げて反対側に立つ者達を見据える。

 

「ヘイヘーイ!沙耶香と副隊長ビビってるー」

 

「風呂前の軽い運動だ、はっ倒してやるぜ」

 

右手に持ったラケットのラバーの部分を左の掌にポンポンと当て、ジト目とナメ切っているのがひしひしと伝わる間延びした口調で沙耶香を挑発する薫と身体を横に向け、ラケットを持った右手首を左腕で伸ばしながら胸板を強調するポーズ、サイドチェストのポーズを取っているハーマンであった。

 

そして相対する2人に対し、沙耶香の隣に立つ桐生の手にもラケットが握られており彼女がツッコミ所満載の2人を前にして左手でこめかみを押さえている。

 

「全くどうして私まで……」

 

「2対1じゃ部が悪ぃだろうが。副隊長の意地、見せてみろよ」

 

「……まぁ、いいでしょう。吠え面かかないでくださいね」

 

「糸見さんファイト!」

 

「隊長なんかやっつけちゃえ!」

 

「副隊長、応援してます!」

 

「シュルツさん、上腕二頭筋がチョモランマ!」

 

どうやらこの4人で卓球でダブルスを行うようだ。他の隊員隊が声援を送って

いる最中、薫に対しては誰も声援を送っていない。

本日参入したばかりのポッと出のハーマンですら本日の任務では沙耶香同様真面目に捜索に協力していたり猪から助けたり崖を登るのを手伝ったりと地道に株を貯めていたため応援されているのにこの始末である……。

流石のハーマンも隣に立つ薫の方へと視線を向け、本日見て来た限りの仕事ぶりから妥当だとは思うがあまりの人望の無さに可哀想なものを見る視線を送る。

 

「テメェマジで人望ねぇな……」 

 

「うっ、そのかわいそうなものを見る目はやめろよ」

 

「どういうこと…?」

 

沙耶香の眼前に広がる珍妙な2人と卓球勝負をするというカオスな状況下で至極真っ当な疑念を薫に問い掛けると薫は左手の掌にピンポン球を乗せ、ラケットを構えて意気揚々とした表情へと変わる。

 

「どうもこうも温泉といえば卓球だろうが!」

 

「今は任務の途中」

 

「真面目か!馬鹿野郎休んだり遊んだりするのも任務の内だ!それに新入りのお前らが馴染めるようにしねえとな!」

 

「任務?」

 

「まぁ、大事なのはメリハリって事だろ。俺も現役時代はトレーニングはトレーニング、遊ぶ時はとことん遊べって言われてたぜ」

 

「ねね!」

 

任務は粛々とこなすものであるという認識であったため薫の常識に囚われない柔軟な提案に対し、小首を傾げていると沙耶香の肩に何処からともなく現れたねねが肩に飛び乗り「やってやろうぜ!」とでも言いたげに左足を挙げ、先程のお返しとでも言わんばかりに尻尾をラケットに見立てるように持つとフォアハンドの振り方を実演して見せる。

 

「こう?」

 

「ね!」

 

沙耶香がねねに見せられたように数回程ラケットをフォアハンドで素振りして見せるとそれでいいとでも言いたげに左足を挙げる。

彼女たちのやり取りを見ていたハーマンは白い歯を見せながら悪い笑みを浮かべ、ラケットを反対側に立つ2人と1匹に向けて宣言する。

 

「言っとくが俺は遊びだろうがガキ相手だろうが手加減しねぇぜ、容赦なくぶっ潰す。……後フォアハンドは右肩引きながら腰捻ってラケットをちと下に向けながら脇から顔面の前でスイングする間に打つといいぞ」

 

「分かった」

 

「ねぇね!」

 

「向こうは2人、こちらも2人です。負ける道理はありませんね」

 

ハーマンの強気な姿勢に対し、2人と1匹も何だかんだ乗り気になっている所を確認すると薫は鼻を鳴らして両手を腰に当ててふんぞり返りながらドヤ顔のお手本と言って過言では無いドヤ顔を披露し、右手の人差し指を相対する者達へ向けて堂々と言い放つ。

 

「ふふん、ねねが行った所で貴様らは所詮遊びの素人!本気の遊びというものを教えてくれるぅ!」

 

「流れるようにフラグを立てますね」

 

「はーはっはっはぁ!行くぞお前らぁ!」

 

「しゃあ!来いオラァ!」

 

「………」コクッ

 

「いつでもどうぞ」

 

桐生の不吉な一言を華麗にスルーし、高笑いをあげて左手に乗せたピンポン球を構えて試合開始の宣言をすると一同はラケットを構えて臨戦態勢に入る。

開戦の合図として薫が左手のピンポン球を宙に放り、サーブを放つための最適な位置まで落下すると薫は猿叫と同時にフォアハンドでピンポン球をラケットに当てる。

 

「きえー!!」

 

気合の入った猿叫が卓球場に鳴り響いたから数分後ーー

 

 

「…………」

 

即落ち2コマの如く卓球台に身を乗り上げ、浴衣を着崩しながら力無く顔面を突っ伏して轟沈する薫の姿があった。

薫の体力が尽き、沙耶香桐生ペアが有利になったことを皮切りにねねが沙耶香の肩の上で緩んだ笑みを浮かべていると観客と化していた他の隊員達が沙耶香と桐生の元へ集まり、彼女達を称賛し始める。

 

「糸見さんすごーい!」

 

「副隊長もラリー上手いですよね〜」

 

沙耶香が押し寄せる称賛の渦に対し、どのように返せば良いのか分からずにいる横で対する薫のハーマンペアでは卓球台に突っ伏しながら息の上がっている薫に対し、ハーマンは薫を指差しながらツッコミを入れる。

 

「うおいチビィ!テメヘバんの早過ぎんだろ即落ち2コマかよ!」

 

試合を開始して数分までは勢いに乗れていたのだが、徐々に体力が減り始めるとヘロヘロとした返球しか出来なくなっており、薫の所を集中的に狙われてしまったためすぐにへばってしまった。

一応ハーマンも精一杯体力の無い薫をカバーし、自らも積極的に得点しに行ったため点数差自体は僅差であったりする。

 

息も絶え絶えになりながら薫は首だけを動かして相方であるハーマンを見上げると先程の自信満々な様子から打って変わって情けない言い訳をし始める。

 

「薬丸示現流は…一撃で仕留める瞬発力がありゃいいんだ……」

 

「ならワンチャン1回で終わる音ゲーか格ゲーでいいじゃねえか……まぁ、いいテメェは休んでろ。俺が2人まとめて相手してやらぁ!」

 

ハーマンが薫の浴衣の襟を掴んで持ち上げ、客用の椅子の所まで運んで休ませると再度卓球台の場所に戻る。

すると、身体を動かしたことで熱くなって来たのか動きやすくするためなのか自分の着ている浴衣の上衣を腰まではだけて裸の上半身を露にし、上衣を腰に巻いていた帯に固定した。

 

「「「キャアアアア〜!」」」

 

「あ?」

 

その光景に、隊員達一同の視線を一気に集めて釘付けにする。

裸の上半身が露呈したハーマンの肉体は腕から胸、首にかけて刻印された刺青はやはりチンピラやヤンキーと言った物々しさを伴うがそれらに彩られた白人特有の白い肌を隆起させる堅牢な筋骨、身体の裏側と呼べる背中には鬼が宿っているのでは無いかと錯覚させる程に発達した背筋が密集し、広背筋がまるで葉のよう、そして脊柱起立筋が葉を支える幹のようにくっきりと浮き出ている。

肩を回して、再度ウォームアップを始めるのだが肩の筋肉は大きく丸く、網目のように血管が腕中に浮き出ているためマスクメロンを彷彿とさせる。

そして、警察官の制服を纏っていた際にも目立ってはいたがやはり大きめのワイシャツを用意しなければパツパツになり、はち切れてボタンが吹っ飛ぶのが想像に難くない程発達した大胸筋とその真下にある腹筋は板チョコのように綺麗に分割されており、相当絞らないと現れない斜腹筋も「やぁ」と言わんばかりに顔を覗かせている。

 

「背中がクリスマスツリー!」

 

「肩がリヴァイアサン!」

 

「大胸筋デッカー過ぎて固定資産税かかりそうだな!」.

 

「腹斜筋で大根すりおろしたい!」

 

ハーマンの肉体を目の当たりにした隊員達は口々に思うがままの感想を声高に、まるで声援のように送る。

一方で、沙耶香はあいも変わらず無表情のままラケットのラバー部分を掌で叩きながら彼女なりの称賛を送っている反面桐生はやや恥ずかしそうに顔を背けているが視線だけは横目でハーマンに向けている。

 

「ナイスバルク」

 

「ど、どうして脱ぐんですか!?」

 

桐生の指摘に対し、ハーマンは歳下の子供に見られた程度では特に気にする様子を見せずにラケットを団扇代わりにして扇ぎながらあっけらかんとした態度で淡々と言い放つ。

 

「あ?だって動きずれえし、熱くなって来たからな。2人がかりだろうが勿論俺は抵抗するぜ?……ラケットで」

 

「………」コクッ

 

「望むところです」

 

腰を低く落としたまま左の掌にピンポン球を乗せ、ラケットをフォアハンドで構え、ハーマンも先程の薫と同様に流れるようにフラグを立てているのだが本人にその自覚はなく、左手に乗せたピンポン球を宙に放り、ラケットを振るとラバー部分に命中すると螺旋を描くように高速回転を始める。

 

「うおらあああああああ!……ていっ」

 

……しかし、小手先のテクニックで絶妙に力加減をされたピンポン球は低く、それでいてネットに触れるか否かの瀬戸際を通過し、沙耶香桐生ペアのネット手前で落ちる。

卓球のサーブに置いてまず大切な事は強いサーブを放つ事ではなく相手が打ちにくいサーブを放つことであるためかなり気合を入れて放った割にはしょっぱいように見えるが相手で2バウンドする短いサーブであれば、相手は2バウンドする前に打たなければならず、卓球台の上で打たなければならない。

それにより、卓球台が邪魔になるため身体を大きく使う打ち方は制限されてしまうため、コンパクトな打法が求められて強い返球が困難となる。

 

「なっ、ネット際……っ!?」

 

それに気付いた桐生はハーマンの放つ、ネット前スレスレの短く低いサーブを2バウンドする前に沙耶香よりは幾らか背の高い自分が返すと言わんばかりに身体を前に出し、ラケットをバックハンドに持ち替えて2バウンドする前に辛うじて打ち返す。

 

「やっぱ緩く来やがったな!オラァ!」

 

しかし、桐生の放った返球は緩く、長いくなってしまったためハーマンは既に後方まで下がり、いつでも打ち返せる準備をしていた。

ハーマンは狙い通りの絶好球が来たことを好機と見て、フォアハンドでラケットを構えると右腕に力を込めると血管が浮き出てて行き、跳躍と同時に叩き付けるようにラケットを振り抜く。

 

「くっ……!速い!」

 

ハーマンの長躯と常人よりも強い腕力から放たれるスマッシュは未だに返球して間もない不安定な姿勢のままの桐生では対処し切れる筈もなく、台の上でバウンドしたピンポン球を空振りしてしまう。

 

「ねね!」

 

しかし、空振りした球が壁に当たるよりも前にねねが沙耶香の肩から跳躍して桐生の肩を踏み台にすることで鉄色の尻尾を後ろ向きで振り抜く事でピンポン球を跳ね返した。

 

「ねね……っ」

 

「あっ!?犬っころも混ざる気か、上等だ!纏めてぶっ潰してやらぁ!」

 

予想外にもねねが桐生をカバーし始めたためハーマンはねねが2人のカバーに入る事を良しとして受け入れ、試合を続行し、ねねが左側に向けて打ち返して来たピンポン球に対して身体を一回転する事で後ろ向きのままバックハンドでねねの打球を打ち返す。

 

「ふっ」

 

しかし、後ろ向きで打ってしまったため狙いが定まらず沙耶香の方向へと返球し、彼女は黙々と飛んで来たピンポン球を待ち構え、ハーマンが打ち返しにくそうな位置に向けて右のエンドラインへ向けてラケットを振り抜く。

 

「取ってみやがれ!」

 

沙耶香の返球が来る前に姿勢を整えていたハーマンは打ち返して来た沙耶香の方に視線を送りながら力強くファアハンドでラケットを振り抜く……が、ハーマンの放ったレシーブは桐生の方へと飛んで行く。

 

「しまっ……!」

 

ボクシングでもよく使われるフェイントを卓球のダブルスでも使って来るとは予想だにしていなかったため桐生は慌ててハーマンからの力強いレシーブをどうにかはね返すがワンテンポ遅れてしまっただけでなく力負けもしてしまい、ハーマン側の台に落ちると高く、それでいて遅く打ち上がり、完全な絶好球となってしまった。

 

ハーマンはその好機を逃す訳もなく、獲物を仕留める野生動物の如き鋭い眼光を覗かせ金色の光が灯ると腰を低く落とし、全神経をラケットを持つ振り上げた右腕に集中させると全身の筋肉が引き締まる。

 

「うおおおおおおらあああああああああ!」

 

ピンポン球に狙いを定める鋭い三白眼は金色の閃光を宿し、振り上げた右腕を渾身の力でラケットを振るとピンポン球に命中し、ラバーの上で先程以上の回転を見せ、螺旋を描いて行くが今度は回転に回転を重ねているため火花が飛び散っている。

 

その回転を保ったままハーマンが気合いの入った怒号と同時にラケットを振り抜いてピンポン球を飛ばすと風圧を纏いながら稲妻の如き速さで向こう側の台へと一直線に飛んで行く。

 

「ぶっ飛べ!」

 

戦闘訓練を受けているため一般人よりも遥かに高い身体能力と反射神経を誇る筈の彼女達ですら目で追うのが必死と言った具合に反応が遅れてしまった。

卓球台の上に回転の掛かったピンポン球が落ちると1バウンドした後にけたたましい音が鳴り響くと同時に2人と1匹が立つ間に向けて飛んで行く。

 

「速い」

 

「ねね!」

 

「くっ!取れない!」

 

沙耶香も、ねねも、桐生も、ハーマンの大人気ない全力全開のスマッシュに対し、反応は出来たがあまりに高速で通過していくためラケットを振っても掠りもしない。

 

 

「しゃあっ!同点だぜ!」

 

子供相手とは言え勝負に対して手は抜かない姿勢と、何だかんだ卓球を楽しめてしまっているためつい熱くなっていたため、つい忘れてしまっていた。

彼女達の立っている台の側は窓側……つまり、相手が自分の本気の一球を取れなければ窓ガラスに命中する可能性が高いという事実に。

 

一応旅館に宿泊させて貰っている立場の人間である以上、流石に物を壊すのはマズい……特に執行猶予中の自分が行うのはよりリスキーであることを失念しており、つい自分の身体能力を鑑みずに本気でスマッシュをぶちかましてしまったことを後悔したが時既におすし。

 

「……ってヤッベェ!」

 

ハーマンが絶叫と同時に目玉を飛び出させながら打球の方向を凝視していると2人と1匹は結局強烈なスマッシュをラケットに捉えることが出来ずに宙を切り、閃光の如く直進するピンポン球は2人と1匹の間を通過し、2人と1匹がスマッシュが纏う風圧で押されている間に背後にあった窓ガラスに直撃するとガラスが割れる嫌な音が鳴り響くと同時に綺麗にピンポン球の形の穴を作り、穴を通過して行ったピンポン球は旅館の外まで飛んで行き、森林の中の大木に直撃すると深くめり込んだ。

 

「お、俺の給料がああああ!」

 

「あらら、やってしまいましたね」

 

「ねね」

 

旅館の窓を割ってしまった事実を前に、確実に自分の給料から修繕費が差っ引かれる事は容易に想像が出来てしまった事により3食付きの生活を送っているとは言えオタ活と賠償金でカツカツな財布にダメージが入ると思ってかハーマンはへなへなと腰砕けにへたり込んでしまった。

眼の前で情けなくへたり込む成人男性の姿を一同が目の当たりにしていると2人と1匹とハーマンが試合をしている間にある程度体力が回復した薫がゆったりと起き上がり、一同の方向を向いて何かを思い付いたのか一言残すと卓球場を後にする。

 

「おい、ちょっと待ってろ」

 

「何をなさるおつもりですか……?」

 

直後、再度卓球場の横引きの扉を開ける音が鳴り響くと一同はその方向に視線を向ける。

その視線の先には……

 

「はっはー!御刀さえあればお前らのような子童と眼鏡なんて敵じゃねぇ!

 

完全に勝利を確信したドヤ顔で左手に祢々切丸を持ち、肩に担いで仁王立ちする薫であった。

ねねが桐生沙耶香ペアに協力した時点で若干ルール無用の無法地帯と化していた気がしないでは無いが遊びとは言え勝利をもぎ取るために完全にルール違反の獲物を持ち出して来たことに対し、隊員達は呆れ半分、感心半分と言った具合に次々にその有り様に言及する。

 

「いっそ清々しいまでに卑怯!」

 

「逆の意味で尊敬します隊長!」

 

「糸見さん頑張れ!」

 

「下剋上よ!」

 

「部屋を壊さないでくださいね」

 

「いや、そんな小回りの効かねえ得物で卓球は無理だろ」

 

これまでは隊員達にボロクソ言われていた際には特に責め立てたりもせずに静観していたハーマンですらとうとう彼女達に混ざってツッコミを入れ始めているため既に彼女の隊長としての威厳はマントルにまで到達したと言っても過言ではないだろう。

しかし、ねねと沙耶香は特に気にする様子もなく彼女の肩に乗るねねは左脚を上げて鼓舞する。

 

「ね!」

 

「うん」

 

「いい度胸だ、覚悟しやがれ」

 

2人とも薫が祢々切丸を持ち出すアンフェアな行動であるが堂々と迎え撃つ意思を見せると薫は心底悪そうな不敵な笑みを浮かべ、ドスの効いた声色で室内に入り、数歩歩いて構えようとした矢先……

 

ーーガツン!

 

「あ゛あああああああー!」

 

天井から何かをぶつけた鈍い音とハーマンの野太く情けない悲鳴が鳴り響き、一同がその方向を向くと祢々切丸が天井に突き刺さり、その部分から降って来た破片がハーマンの足元へと降り注いでおりそれが見事に床にめり込んでいた。

 

無理もない。大太刀と呼ばれるだけあって刃長216.7cmという長さを誇り、茎も含めた全長はなんと324.1cmもある祢々切丸がまともに入り切る訳が無く、注意しながら扱わないと何処かにぶつける危険性があるのだ。

それを不用意に扱ったため、祢々切丸を天井にぶつけてしまい、天井の破片が近くにいたハーマンに向けて降り注ぎ、間一髪といったという所だろう。

 

「……く、クッキーをトッピングしたパフェになる所だったぜ……」

 

もし、頭に命中していたら……と想像するだけで背筋が凍る想いではあるが自分も旅館の窓ガラスを割ると言う大ポカをやらかしているため、副隊長の立場である桐生が腕を組んでジト目で2人を睨む眼力に圧され、揃って彼女の前に並んで正座をする。

 

「本部長に報告しますね」

 

宿屋に宿泊させて貰っている立場でありながら宿泊施設に被害を出したのであればケジメを付けるのが筋であるため副隊長として真っ当な対応を行おうとする桐生がその名前を口に出した途端薫は見るからに激しく動揺し、額を床に擦り付けながら渾身の土下座を敢行する。

 

「ハッ……!何卒お慈悲を!」

 

「ぜってぇ怒られるな……しばらくはグッズの箱買いは出来ねえ……」

 

魂が抜けたように……いや、ボクシングに倣うのであれば1人だけベタを廃した真っ白い画面と化し、燃え尽きた真っ白な灰になったかのように逃れられない想定外の出費に対し、ただ漠然と受け入れているハーマンを他所に他の隊員たちはワイワイと試合の感想を述べ合っている喧騒の最中、相手方の自滅という形であるが実質的に勝利したのは自分たちのチームだと理解したのか卓上に乗っていたねねが沙耶香に向けて右の前脚を差し出す。

 

「ね!」

 

「こう?」

 

勝利を分かち合うためのハイタッチのつもりで差し出された前脚に戸惑いつつも沙耶香はねねに向けて右の掌を前に向けて持って行き、前脚と掌が触れ合うとねねは綻んだ満面の笑みを沙耶香に向けて来る。

 

「ねえ〜い」

 

「ふふっ」

 

その笑顔に釣られて沙耶香も自然と笑みを溢し、素振りと卓球を通して仲が深まっている様子である1人と1匹の様子を正座をしている薫が横目で視線を送ると自身のペットと知人が親しくなったのが嬉しかったのか釣られて笑顔になる。

 

「へっ」




ACVDから10年、アーマードコアの新作が出ると長年擦りに擦り倒され、ついに今年の8月に発売されるAC6の発売まで集中したいので返事とかは遅くなるかもなのでしばらくアデューです。(好きなタイトルのゲームなので買ったら多分沼ってしまうので…w)
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