刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任- 作:細切りポテト
取り敢えずBNDの公開に間に合うようにはしたので許してくだされ…とは言え本日はBNDの公開日ですね。
私は運良く初日に観る事が出来るので恐悦至極ですが初日勢の皆様も、後から観に行く皆様も、劇場で楽しんで来てくだされ。
──山中にて──
木々の間に赤文字で立ち入り禁止と書かれた板がトラロープで繋がれた山中のエリアを本日捜索するために薫達一行は先日同様この場所に集合し、ショッカーを含めた隊員達を横一列に整列させ、本日の作戦プランを練っていた。
二手に分かれて捜索をするという作戦の方向性も定まり、桐生が隊長である薫に助っ人で寄越された沙耶香とショッカーを預け、自分は副隊長として残りの隊員を引き連れ移動を開始する。
「では我々はBルートを洗います。何かあったらすぐ連絡しますので」
「おう、あんまし気を張るなよ〜」
やる気のない態度で桐生達を見送ると気怠げな視線のまま沙耶香とショッカーに向けて顎でついて来いとジェスチャーを送ろうと振り返る。
「んじゃ俺らも行くか……ん?」
「どうだ犬っころ、テメェもスクリューボールにハマって推しも出来たなら俺が特別にリズ姉の水着写真集をくれてやる」
「ねね!?」
ショッカーがスクリューボールのロゴの入ったストラップの付いたスマホを取り出し、通販サイトのページをねねに見せながら布教行動を行なっているが画面の向こうに移る水着姿のメンバーが視界に入ると目を輝かせて尻尾を左右に振っている。
「後で注文すっから届いたら俺のオススメプレイリスト入りミュージックプレイヤーと一緒にプレゼントしてやるぜ」
「ねね!」
先日共に部屋でスクリューボールのライブで盛り上がった経緯からか個人的にプレゼントを送る間柄まで進展している様子でありショッカーとの会話を終えると沙耶香の肩に乗り、前脚で彼女の頬を軽く撫でる。
「ね!」
「くすぐったい」
親しくなり方のベクトルは異なるが仲睦まじくねねと打ち解ける2人の様子を見るなりどこか嬉しそうな感情を覗かせる表情を浮かべると肩を落とす。
「すっかり俺のペットと打ち解けてまぁ……」
しかし、ねねが沙耶香に懐いている。この光景を前にして直後に薫の脳内に天啓が舞い降りたのかポケットに左手を突っ込み、中を漁り始める。
「あ、そうだ」
そうしてポケットの中から携帯端末を取り出すと正面に立つ2人がねねと写っている様子をカメラ機能のフレームに収め、画面の真下にあるシャッターボタンを押すとシャッター音が鳴り響き、2人と1匹のスリーショット写真が出来上がる。
「あ? おいテメ何勝手に撮ってんだ」
ショッカーがスーツを着ているため顔は写っていないものの無断で写真を撮られるのは流石に一言物申したくなるのか薫の方へとにじり寄り、横から薫のスマホの画面を覗き込む。
するとおもむろに悪そうな笑みを浮かべ、メッセージアプリを起動すると連絡先の中からある人物の名前を探して行き、「ひより」と平仮名で書かれたアカウント名と水色でやや血色の悪い様に見えるゆるキャラのアイコンのアカウントを選択する。
すると、トーク画面に移行し自分の「TOJIRENGER RED」というスーパー戦隊シリーズからもじったと推測出来るアカウント名とペンタブレットで描いたと思われる赤いヒーローのイラストをアイコンが表示される。
そして、トーク画面の中からぶつぶつと入力内容を呟いていく。
「ねねが沙耶香と筋肉ダルマに懐いた。つまりお前はゴリマッチョの雄っぱい以下で沙耶香はひよよんのホライズン胸より未来があるみたいだぞ★っと送信」
「うわ、やりやがった……」
かつてスクリューボールの楽曲の歌詞の意味を理解するために日本語の読み書きの勉強をした経験があるためマスクの下でショッカーは口をあんぐりと開けて絶句する。
どうやら薫は先程撮影した写真を添付した煽り文を送りつけて姫和を揶揄うつもりだったようで如何様な反応を返して来るのか期待に胸を膨らませていると
薫が送りつけたメッセージに対し、メッセージを送られた側である姫和からすぐ様既読が付き、更に稲妻の如き速さで彼女か返信が届く。
『しょうちしたきさまはきる』
漢字変換も句読点もない、本当に素早く返信したのが理解できる画面越しからでも彼女の怒りがひしひしと伝わってくる。
画面の向こうで顔を真っ赤にしながら爆速で返信する姿を想像してか思い通りの反応をしてくれたのが愉快なのか心底ご満悦と言わんばかりに薫は満ち足りた悪い笑顔を浮かべている。
「やっぱこうでないとな~」
薫が渾身のガッツポーズを取ると沙耶香とねねは理解出来ないとばかりの純粋な視線を薫に送り首を傾げている反面、先日から薫が姫和をイジっている事を理解しているショッカーは薫の言動の内容を理解し、呆れ気味にため息を吐く。
「テメェいつかそのまな板に刺されんぞ……」
冗談を言いながらも程よい距離感で仕事が出来る空気になりつつある凸凹な3人組が散策を開始しする。
山中をしばらく練り歩いて散策を続ける道中、坂道を沙耶香とショッカーは特に疲労した様子を見せず余裕綽々とばかりに前へ前へと進んでいるのだが一方で薫は……
「はぁ……っ、はぁ……っ」
祢々切丸を杖代わりにしながら息も絶え絶えに足に錘でも付けたかのような重たい足取りで、自分よりも先を歩く沙耶香とショッカーに徐々に距離を離されそうになりながら何とか着いて行けているという状態であり、その表情からも疲弊が見て取れる。
「平気?」
「マジで体力ねえなテメェ……」
歩みを止める事は無いが自分たちの後方を歩く薫に向けて横目で時折ちゃんと着いて来ているかを確認しながら気に掛ける素振りを見せる2人に対し、薫も距離を離されまいとより力を入れて歩みを進める。しかし……
「全然……平気……まだまだいけるぜ! ごめん嘘……」
既に足が産まれたての子鹿のように震えており、限界を迎えた薫は膝を地面に着いた後に地べたにへたり込む。
地面にへたり込んだ薫の様子を目視したショッカーはこの状態の薫には少し休憩が必要だと判断すると頭を掻くようにヘルメットに手を添えると若干めんどくさそうにしながらも薫の元へと歩み寄る。
「ったく、しゃーねー奴だな。おい、テメェら少し休憩すんぞ」
「いや……先行ってていいから……」
薫の元へ近づいたショッカーは尻餅を着く薫を見下ろしながら薫の制服の襟首を掴み上げると近くにあった人間1人が座るには丁度良い岩場まで運び、腰掛けさせる。
そして、山中を練り歩いたため水分をそれなりに消費したかと思いスーツの格納スペースが開く。開かれたスペースには旅館のおやつで出された芋羊羹と飲みきりサイズのペットボトルを3本取り出すと一本は薫に手渡し、一本は沙耶香に向けて軽く放り投げる。
「テメェを置き去りにして探すのに行き来してたら時間勿体ねえだろ、18:30からスクリューボールが歌番に生出演すんだから余計な手間かけたくねんだよ。オラ、岩に座ってこれでも飲んでろ。ターミネー子にもやるよ」
「いいの?」
投げ渡されたペットボトルを受け取った沙耶香がショッカーに問い掛けるとショッカーはスーツのHUDを操作し、フルフェイスのヘルメットの前面が上に向けて開かれて素顔が露わになり、行儀悪く股を開いてしゃがみ、安定性のためにかかとを地面につける所謂ヤンキー座りで手に持っていた芋羊羹を頬張り、噛み砕き、ストラップの付いたスマホを操作しながら淡々と答える。
「 おう、喉乾いたろ? あ、シールは寄越せよ」
「やっぱりな……」
手渡されたペットボトルのラベルを確認するとやはり「キャンペーンで当たる!」と書かれたシールが貼られていることを確認したがシールが欲しいついでに飲み物をくれていることに対し、幾らか慣れて来たのでもういいかと蓋を開けてスポーツドリンクを一気に飲み干して空のペットボトルはハーマンに投げ渡す。ドリンクを持って来たのはハーマンでありポイ捨てをする訳にはいかないため空のペットボトルは再度ショッカーの格納スペースへと戻した。
「ねえね」
誰よりも早くダウンし、疲労困憊な姿でスポーツドリンクを飲む主の姿を見て沙耶香の肩の上に乗っていたねねがやれやれとでも言いたげに肩をすくめてため息を吐く。
「ずっとそこにいたお前が言うな……」
しかし、自分ではほとんど歩かず他人の肩に乗って楽をしていたねねにだけは言われたくないのか恨めしげにジト目でツッコミを入れると沙耶香とハーマンがすかさず問い掛けてくる。
「言ってることが分かるの?」
「ね! しか言わねえがテメェには人間の言葉に聞こえてるってか?」
「いや分からん」
「おい」
「けど言いたいことは分かる」
「ね!」
薫の言葉に呼応するかのように、ねねも彼女の言いたいことが分かるのか右脚を上げるジェスチャーを取る。
どうやら、相手が言いたい事はある程度理解出来ているようだという事は伝わった沙耶香とハーマンは薫とねねを交互に見つめ、納得する。
「ね?」
しかし、直後に何かを察知したのかねねが挙動不審に周囲を見渡し始める
「何だ犬っころ、まさか……」
ねねの挙動不審さを疑わしく思ったのか外敵を前に威嚇する狼のように低く唸りながらハーマンの三白眼の目つきは急速に険しくなって行くと同時にスーツのブラウンのヘルメットが頭部を包み、ツインアイが睨み付けるかのように発光する。
「ね!」
ねねが左脚を草の生い茂った茂みへと向けると皆が一斉にその方向へ顔を向けると薫も険しい表情を浮かべながら地面に置いた祢々切丸を即座に拾い上げ、八相の構を取り、臨戦態勢に入る。
ガサガサと茂みの草を掻き分けて進む音がこちらに向けて近づいて来る。それに呼応して一同の間に緊張が走り、心拍数を上げて行く。
そして、茂みの中から勢いよく音の正体が姿を現す……銅色の外骨格を纏い、体色の大半は橙色で構成され、未発達と形容できる短い手足には小さいながらも鋭い爪が小さく生え、頭部には眼球のようなものは見受けられないが頬の内側にある丸い袋、頬袋はまるで栗鼠を連想させるあまりにも小柄でねねと大したサイズ差のない小型の栗鼠型荒魂……この山中一帯を騒がせていた存在だ。
しかしこの栗鼠型荒魂、茂みから飛び出しては来たものの特に臨戦体制に入り、自分を睨み付けている薫達一向を前に固まったように動かなくなり、目は無いように見えるが一点を大人しくじっと見つめている。
目撃情報と比較するとあまりにも肩透かしを喰らう、そこまで躍起になってまで討伐するには小さい相手であるため薫も心底脱力し、安堵なのか、それとも肩透かしを食らって脱力したのか大きく溜め息をつく。
「はぁ……もしかしてこいつかよ。ここいらを騒がせてた荒魂ってのは……」
発見して数秒経ってからようやくスマホのスペクトラムファインダーが反応し、起動音が鳴り渡る。薫もやや失笑気味にスマホの画面と栗鼠型荒魂を交互に見渡す。
「遅ぇよ」
……しかし、沙耶香は眼前に出現した栗鼠型荒魂を淡々と見下ろしておりショッカーも右拳を左手の掌に軽く打ち込み、左手の掌で右拳を包んで小気味のいい音を鳴らしている……まるで眼前にいる敵を屠る準備を始めているかのように。
「ま、ねねが手間取る程小さなちっぽけな反応だししゃーないか、ほらさっさと森の奥に……」
薫が眼前にいる栗鼠型荒魂に対し脱力しながらもどこか諭すような口調で栗鼠型荒魂に優しく語りかけているが傍に立っていた沙耶香とショッカーが地を強く蹴り上げ、前方にいる栗鼠型荒魂に向けて一直線に駆け出す。
「ぶっ潰す!」
「……」
ショッカーがようやく捕捉した標的に一切の容赦を見せず、敵意を剥き出しに怒気を含んだ雄叫びを上げながら右腕に装備されているガントレットを起動し、振動波を纏った拳を栗鼠型荒魂に向けて叩き付けるように振り下ろす。
更にショッカーに追従するように沙耶香が栗鼠型荒魂へと急接近し、妙法村正を上段から振り下ろさんと準備を始め、ショッカーが振動波の拳で栗鼠型荒魂を怯ませた後で確実に仕留めにかかっている。
このままでは確実に栗鼠型荒魂は彼らに始末されてしまうだろう。素人が見ても理解出来る光景の直後、深林が悲鳴を上げたのではないかと思われる轟音が鳴り響き、大地が揺れ、衝撃で木々がざわめきをあげる。
「テメェ……どういうつもりだぁ?」
この地響きを起こした張本人であるショッカーは拳を叩き付けようと言わんばかりに突き出した拳は何かに遮られ、拳を振り下ろしたまま静止している。
彼の視線は下を向きながら……いや、自分の前に立ちはだかる自分よりも遥かに背の低く、一見小学生女児程の背しかない相手を見据え、何故か邪魔をする相手に対して苛立ちを隠さず、肉食の野生動物のように喉の奥底から低く威嚇し、力強く睨み付ける。
ショッカーの視線の先で薫が栗鼠型荒魂を守るかのように立ち塞がるのはショッカーの振動波を纏った右拳を自身の倍はある愛刀、祢々切丸の刃の部分で受け止めていたのであった。
山中に地響きを起こし、大地が揺れる程の衝撃を放つ剛拳を受け止めた際に踏ん張った影響か薫の足首が陥没した地面にめり込みながらもショッカーと沙耶香の前に立ちはだかり、両者を睨み付けていた。
「勝手なことするんじゃねえよ」
「……」
両者を諌めようとする薫を前にショッカーはまだ納得出来てはいないとばかりに不満げに拳を引き、首を傾けながら斜に構えて薫を見下ろす。
ショッカーに続いて栗鼠型荒魂を追撃するつもりだった沙耶香はショッカーの拳が薫に受け止められた事で予定が狂ってしまい、妙法村正を振り下ろそうとした姿勢のまま静止していたがゆっくりと構えを解いて自分たちの邪魔をし、ましてや今回の任務の討伐対象……いや、自分たちの敵を庇うのか。純粋に理解出来ないと言った素朴な疑問を投げ掛ける。
「なぜ? 荒魂を討つことが刀使の仕事」
「……ああ、そいつは正しい……正しいけど気に食わん」
少し間を置き、彼女の問い掛けを咀嚼しながら俯いて小さく呟く。自分たちの仕事は荒魂を倒す事、そこに間違いはない。だが、頭で納得は出来ても心がそれを是としない。
だが、薫の発言の詳細を理解出来ていない2人は首を傾げ、ショッカーは素っ頓狂な声を挙げ、沙耶香は少し驚いたような表情を浮かべる。
「あぁ?」
「?」
2人に自分の意見を伝えるために、自分の背後に立つ栗鼠型へと視線を向けながら注視を促す。
ショッカーと沙耶香が言われるがまま薫の背後に視線を移すと安心して蕩けたような表情でねねが栗鼠型荒魂と頭を擦り合わせ、まるで突発的に親しくなった子供のように、まるでこの栗鼠型荒魂は安全とでも言わんばかりに戯れていた。
「見ろよ、ねねもこいつに敵意を向けてないだろ」
しかし、ねねが栗鼠型荒魂を脅威だと判断していないからと言ってそれでも自分たちはずっと荒魂と戦って来ただけでなく人類の脅威だと習っているため沙耶香はまだ疑念が晴れず、ショッカーもSTTに所属する前までは危ねえバケモンがいる程度の認識だったが実際にショッカーのパイロットとして刀使達の補助として荒魂と戦うようになってからは認識が変わった。
頻繁に出現してはTV番組のリアタイを妨害して来るだけでも腹立たしいが実際に彼らが暴れる事で建物が、街が壊されていく光景を目の当たりにしてからは荒魂に対しては煩わしさだけでなく、人類に害を為す倒すべき目障りな外敵だと認識している為か沙耶香以上に薫に食ってかかる。
「荒魂は荒魂、放置すればいずれ人に危害を加えるかもしれない」
「ターミネー子の言う通りだ。テメェは、いつか凶暴化したコイツが町で暴れて家を壊された奴に私が怠慢こいて放置したせいでテメェの家が壊れましたすいませんって土下座でもすんのか?」
「……なるほど、確かにそうかもな」
2人からの反論を受け、薫はより深く受け止める。確かに沙耶香の言う通り栗鼠型荒魂を放置すればいずれ凶暴化するかも知れない、更にショッカーの言い分も琴線に触れ、それらが重荷となって彼女の背中に重くのしかかって行く。
「荒魂になってしまったのなら斬るしかない」
「そうなってからじゃ遅ぇんだろ? そうならねえ様にバケモン共をぶっ潰してパンピを守んのがテメェらの仕事だって俺は聞いてるぜ」
鎌倉での決戦で実際に戦闘をした時と昨日から薫の指揮下に入り、実際に彼女と共に仕事をした程度の短い付き合いでしか無いがショッカーから見ても仕事に対する意欲が感じられず、荒魂を討つ事が仕事であると言うのに消極的で怠惰な態度で臨んでいる事に対しては猜疑心を感じていた。
(何でこんなに食ってかかってんだ俺は、チビの言ってる事が理解出来なくて気に食わねえからか?)
だが、以前に鎌倉での決戦ではいくら打ちのめされ、傷付いても自分達の為すべき目的の為に立ち上がる熱い側面やまだ部隊に加入したばかりの自分と沙耶香を馴染ませる為か歓迎会として卓球勝負を持ち掛けたりなど面倒見のよさも理解しているため彼女のことが嫌いな訳ではない。
(いや、違ぇ……チビもアイツと同じお人好しの変な奴で、嫌いじゃねえから……こいつなりの考えがあるならちゃんと理解してえんだ)
実際に彼女の口から語られる言葉を聞き、自分の目で確かめて判断したいと思ってかショッカーは両腕を組み、左手の人差し指で薫を指しながら問い掛ける。
「俺もテメェらと一緒にバケモンとやり合う以上は今、俺の目の前でテメェがそのバケモンを庇う理由が何なのか……説明してくんねえと納得出来ねえな」
「そうか。じゃあねねはどうだ?」
「え?」
「……」
ねねの名前を出された事で2人が不意を突かれたと言わんばかりに鳩が豆鉄砲を食ったような素っ頓狂な表情を浮かべると薫は続け様に祢々切丸の先端をねねに向けて、注目を促す。
「ね?」
自分が話題の中心に置かれている事を理解しているのかいないのか、とぼけたような表情を浮かべ、素っ頓狂な表情を浮かべる。
「お前らの言い分だと益子が絶賛放置プレイ中のこいつも斬らなくちゃだな」
「斬れるか? 沙耶香、それでもぶっ潰すか? ハーマン」
「ねー」
薫の問い掛けに対し、ショッカーはやや食い気味に反論をする。ねねは自分達に着いてくるだけで特に何か自分達に害を為す存在ではなく、言葉は理解出来ないがコミュニケーションが可能な相手だからだ。
「何言ってやがる、街で暴れるバケモンならともかく犬っころは何もしてねえだろ」
言葉を紡ぐ途中で昨日でのねねとの交流の記憶が脳内で流れ出してくる。
──部屋でTVを見ている所に現れたと思いきや、自分が見ていたTVに感心を待ちナチュラルに膝の上に乗って来たり、一緒にスクリューボールのライブを見て盛り上がり、共にペンライトを振り回してはっちゃけた事、そしてねねが途中から参戦した事で3対1でハーマンは上裸で卓球勝負をした記憶だ。
そこに確かにあったのは人だとか荒魂の敵対関係などの小難しい関係性などは無い、心のある生命体同志の交流であり、自分も心から楽しんでいた事を自覚させられる。
「チッ……んだよそう言うことかよ」
栗鼠型荒魂も、今回の任務の討伐対象ではあるが自分達に対する敵意は持ってはおらず同じく何もしていないねねと栗鼠型荒魂を重ね合わせると躊躇が生まれ、敵意は幾らか削がれたように見えた。
それは沙耶香も同様で彼女も昨日はねねと素振りの真似事をしたり、共に上裸のハーマンを相手に卓球勝負をし、勝利した際にはハイタッチをしたりと確かな絆と信頼関係を築けた……と思っているため、目を伏せながら心情を吐露する。
「ダメ……ねねを斬れない……」
2人から栗鼠型荒魂に対する敵意が抜けた事を察した薫が安堵のため息を吐き、ヒリついた空気が一旦落ち着いたのを感じたのかねねが沙耶香の左肩の上に乗り、懐いた犬のように彼女の頬をペロペロと舐め、頬擦りを始めると自分の肩の上に止まるねねの方へと視線を向けながら自分の行動への疑念を投げ掛ける。
「ねね……私は……間違えていた?」
彼女の問い掛けに対し薫も栗鼠型荒魂を庇い、彼女達の行動を諌めた側の責任として筋を通す為に彼女達にの方へと視線を真っ直ぐに向けて自分の意見を交えてフォローを入れる。
「間違えてねぇよ。それが普通の刀使や特祭隊の考え方だ。けどま、だからって何も考えずに斬るのはやめとけ」
「……」
「よく考えて斬れってことだ。こいつみたいな荒魂も他にいるかもしれねぇだろ」
「考えて……斬る」
「……」
薫の言葉を受け、響くものがあったのか2人が感心したかのように真剣に薫の話を聞き入っている様子に似合わないことをしている気恥ずかしさがあるのか、視線を横に逸らしながら左手の指で頬を掻き、照れ隠しの様な態度を見せる。
「少なくとも益子の一族は昔からそうやって来たぞ。もっとも俺にしたって気付いたの最近だから偉そうなことは言えないけどな」
ショッカーも組んでいた両腕を解き、沙耶香は妙法村正を鞘へと納刀して臨戦体制を解き、薫から受けた言葉を自分なりに咀嚼して自らの意見を、薫の目を見つめて真剣に伝える。
「まだよくわからない……だから……よく考えたい。そう思う」
「全部が全部納得出来た訳じゃねぇ、腑に落ちねえ部分もある。もし凶暴化して街で暴れて俺らの邪魔をしやがるならその時は容赦なくぶっ飛ばす」
やはりショッカーも自分の職務上ねねや栗鼠型荒魂を前にしたとは言えやはりこれまで街で暴れる荒魂の姿を目撃し、何度も邪魔をされた怒りや凶暴化する危険性への疑念はしこりとして残ってはいるようで薫の発言全てを肯定するつもりはないようだ。
しかし……
「だが、何も考えずに、邪魔な奴を敵だから、ムカつくからって感情のまま闇雲に力を振るうことで無くさなくてもいいもんまで無くしちまう時もある……それは知ってるつもりだ」
これまで物事を深く考えずに生きて来た沙耶香、そして常にその場のノリと勢いで、その時の感情に任せては考えるよりも先に拳を出し、かつて19歳でボクシングのヘビー級チャンピオンになるという栄光を掴みながらもWBCの評議会が自分に負けたライバルに掌返しを行い、侮辱したため全員に暴力を振るった事で逮捕され、ボクシング会からは追放。
更にこれまでの人間関係や立場を悪化させ、無くさなくていいものまで無くしてそのまま堕落して行ったショッカーには多少なりとも響くものはあった。
誰かに言われたからと言って人間性はそう簡単には変わらない、そうやって何度も失敗して来ているためすぐに飲み込める訳ではないが自分の頭で考え、そして自分の目で判断するのも間違いではないのかも知れないとも思わされた。
「だから……まぁ、すぐにとは言えねえ。俺も足りねえ頭使ってちったあバカなりに考えてみてみるよ。テメェも頑張れよターミネー子」
「うん」
ショッカーが隣に立つ沙耶香に向けて左腕を右斜め上に拳を構えて同じ様に構える様に促すと沙耶香も右腕を同じ様に左斜め上に拳を構えるとお互いの前腕の表同士を軽くぶつけてクロスさせる。
薫から大切な事を教わった者同士で、これからはより深く考え、自分も目で判断して行くことを決めた2人の様子を見て薫も誇らしげに年相応の満面の笑みを浮かべる。
「おう、今はそれで十分だ」
「ねえ!」
その薫の笑顔を見てかショッカーは特に含みはなく、純粋に心の底から出た言葉を薫に向ける。割と失礼な言葉を添えて……
「意外といい顔で笑うじゃねえか、初めてテメェをほんの少し尊敬したぜ」
「ほんの少しってなんだ、ほんの少しって!」
しかし、まだこの栗鼠型荒魂の所存を決めなければならないという問題が残っているため沙耶香が栗鼠型を見ためて薫に問い掛けると2人もそう言えばと言わんばかりに栗鼠型荒魂に注目する。
「でもこの荒魂はどうする?」
「このまま山ん中で大人しくしててくれりゃあいいが」
「荒魂は基本野生の熊とでも考えとけ、自分のテリトリーで大人しくしてるうちは追いつめる必要もないだろ」
「だからこれまで任務放棄を……」
「先に言えよそう言うのはよ」
沙耶香とショッカーが薫の栗鼠型荒魂に対する対応を見て、彼女なりの考えに基づいて判断していると感心したのか興味深そうな視線を送るが薫は心底めんどくさそうな表情を浮かべて気怠げに棒読みで返す。
「いや働くのは普通に負けだろ」
「おい! 俺の尊敬を返せコラ! ……ったく、芋羊羹やるからさっさと山奥にでも行きやがれ。人里に降りて面倒ごと増やすんじゃねえぞ、TVのリアタイ中に俺の邪魔しやがったらタダじゃ置かねえからな」
先程までの尊敬出来る態度から一変、一気に尊敬の念は薄れたがショッカーも栗鼠型荒魂は今の所自分達……もとい人間に危害を加える様子は見られないため山の奥深くへと追い払う為にゆったりと歩み寄ると股を開いてしゃがみ、その姿勢のまま格納スペースから先程の食べかけの芋羊羹を栗鼠型荒魂の前に投げ落とすといつものクセが抜けないのかやや脅迫めいた口調で山奥へ行く様に促す。
「いや、荒魂は芋羊羹なんて食わないから……」
「なんか触手みたいなので芋羊羹吸収し始めたぞ」
呆れ気味に指摘する薫を他所に栗鼠型荒魂が脇腹の辺りからうねうねと動く小さな触手のような物を形成し、芋羊羹を触手で掴むと橙色の腹部へと押し込むと溶け込むように体内に吸収されて行く。
「マジかよ……さて学長にどう報告するか……」
そのあまりにも珍妙でシュールな光景に唖然としながらも紗南からの指令でこの山に来ている以上は上司である紗南に報告しなければならない。
如何にして誤魔化すかを思案している間に、この空気を破壊する物達の接近を知らせるかの如く、森の木々から一斉に烏がその脅威から逃げるかのように羽ばたき、不穏な空気を醸し出す。
──3人がいる場所から離れた場所──
黒いフードを目深に被った人物とそれに伴うように数m後ろを歩く蜥蜴の姿をした全身を覆う翡翠色の鱗がびっしりと生えた蜥蜴の鎧を纏っているかのような姿をした異形、リザードが同行していた。
「では、お願い致します」
時を同じくしてその一言に呼応するかのようにねねが全身の毛を逆立て、瞳孔を大きく散大させながら栗鼠型荒魂の方を向いて警戒するかのように力強く威嚇する……まるで危険な敵対者とでも相対したか番犬のように。
「ね゛えー!」
「ねね?」
「どうした?」
唐突に声を荒げたねねを前に薫と沙耶香はその剣幕を前にして危機感を感じてか心配そうに……それと同時に脳裏を過ぎる嫌な予感が心臓の鼓動を早めて行くがそれは最悪な形で結実する。
「おい、ヤベーぞっ」
天性の直感が働いたのか栗鼠型荒魂の前にいたショッカーが脚力のみで地を強く蹴り上げて後方へ向けて跳躍して距離を取り、声を荒げて一同に呼び掛ける。
先程までショッカーの間近にいた栗鼠型荒魂は芋羊羹を体内に吸収した直後から急激に痙攣を起こし、真上を見上げて何かに抗おうとしているかのように見えたが抵抗虚しく全身が変性していく。
荒魂の肉体が徐々に膨張を始め、その急激な肉体の変化に呼応するかのように身体の節々が軋み、不吉な不協和音が鳴り渡る。
肥大化した両脚は踏みしめた地面を陥没させ、短かった腕は鋭利な鉤爪が伸びた上で比べた物にならない程太くなり、剛腕と呼べる程巨大化して行く。
既に栗鼠の様な外見の面影は残っておらずあるのは現存する陸生哺乳類の中で最も大きい草食動物であるアフリカゾウのような屈強な体躯は既に先程の大人しく、人間に敵意を持たない栗鼠型荒魂ではない……凶暴な荒魂そのものだ。
「急に……何が……」
「芋羊羹食って巨大化しやがった……っ!?」
「んな訳あるか! でももうあれはさっきの荒魂じゃない」
戸惑う2人とは裏腹に冷静でいて、それでも何処か悲しさを内に秘めた様な押し殺したような声色で事実を両者に突き付ける。
「そんな……」
「で? どうすんだチビ」
その声色からショッカーは、態々口に出して自分達にその事を伝えているとなると彼女の腹づもりを察してか薫に対して問い掛ける。
ショッカーからの問い掛けに対し、横一文字に結んだ唇を犬歯で噛み締め、人間に害を加えない荒魂に出会えたというのに自分達の敵となった栗鼠型荒魂に対し、結局こうするしかない悔しさを深く受け止め、決意したかの様に語り出す。
「……益子の歴史じゃこんなことザラだ、だからケジメの付け方も心得てる」
大地を強く蹴り上げ、こちらに向けて突進して来る荒魂を前に、薫も跳躍して一気に前方へ飛び出すと祢々切丸を上段から叩き付ける。
祢々切丸の刃が脳天に直撃した事と薫が叩き付ける際に発動した八幡力と自身の突進の速度が正面衝突した事で荒魂を後方へと弾き飛ばす。
地面に着地し、それでも尚眼前で再度起き上がってこちらに攻撃の意志が消えない荒魂を真っ直ぐに見据えて薫は再度、すかさず蜻蛉の構えを取り臨戦態勢を崩さない。
「薫……」
心配そうに背後から薫を見つめる沙耶香の声を背中越しに聞き届けると決して後ろを振り返る事なく今、自分がやるべき事を2人に伝える。
「考えて、信じて、それが駄目だった時は誰よりも先にそいつの牙を受け剣を向ける。それが益子のケジメだ……だから俺がやる」
「……分かった、見届けてやるよ。テメェのケジメをな」
ショッカーが薫の決意を受け取り、これが彼女なりの責任の取り方なのだと理解してか一拍置き、自身の前に立つ薫の背に向かって後押しの一言を送り
その一言に背中を押され眼前に立ち塞がる自分が今、命を奪う責任を担わなければならない相手に向けて押し殺したかのような猿叫を上げなら一気に駆け出し、大地を力強く蹴り上げて跳躍する。
空中で一回転をして反動を付けながら祢々切丸を荒魂の脳天へ向け、更に確実に仕留めるために八幡力を発動したことで上段からの一撃は必殺となり、激突と同時に荒魂の脳天を、それらを守る堅牢な装甲すらも粉砕し、一刀両断する。
「きえええええい!」
薫に両断された荒魂の胴体が地面へと倒れ込み、重量のある鈍い音が響き辺り身体の破片から橙色のノロが血溜まりのように円状に広がって行く……完全に生命活動は停止していた。
「……」
敵を倒したというのに心は晴れないと言った物憂げな表情を浮かべ、小さな背中に背負う帯刀ギミックに祢々切丸をしまい、倒した荒魂の残骸をしっかりと自分の目に焼き付けるように見つめていた。
私は初日に観に行けますが初日勢や最速深夜組の皆様や早めに見た方はすぐ観に行けない方もいると思いますのでネタバレなどは控えてくだされ