刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

69 / 69
1日開けましたが前話はまだだという方は68話からお願い致します。


第69話 Brave Heart

 ──栗鼠型荒魂を薫が討伐してから数刻後

 

 薫が今回の任務の討伐目標である近隣を騒がせていた荒魂を討伐したことにより目標は達成されたため、討伐した際に飛散したノロが再結合する前に回収すべにと全身に防護服を纏った回収班を呼び出した。

 

 回収班が粛々とノロの回収作業を進めている最中、荒魂を撃破した薫とそれに同行していた沙耶香とショッカーが戦闘で疲弊していると判断してか副隊長である桐生が3人を労うように自分がこの場を引き受ける意思を示し、3人の前に立つ。

 

「ノロは地元の社で分祀する手はずになっています。回収及び警護は私達に任せて隊長と糸見さんとシュルツさんはお休みください」

 

「いや……」

 

 しかし、ショッカーは桐生の言葉を聞くや否や一歩前に踏み出して前に出ると桐生と薫と沙耶香の注目が一斉に集まり、妙な気恥ずかしさを感じるが前に出て来た不可解な行動に理解が追い付かないと言わんばかりの面々に向けて淡々と自分の意思を伝える。

 

「俺も残るわ、今後も業者や社ともやり取りせにゃならんだろうからその勉強としてな」

 

 ショッカーの発言を聞き、薫は驚いたようにスマホをポケットから取り出し、待ち受け画面の左上に表示されている現時刻を確認すると時刻は既に18:00を回っており時刻を指差しておずおずと尋ねる。

 

「18:30にはスクリューボールが出演する生番組が始まるんじゃなかったか?」

 

 任務の最中、任務を早めに終えて見たいTVのリアタイに間に合う様にしたいと言う気概を見せていたため、少しでもタイムロスを減らす努力をしていたのにまだ現場に留まろうという意思表示が気になって質問をした所ショッカーは両手を腰に当て、首から骨の音を鳴らしながら心底早く帰りたそうに答える。

 

「ぶっちゃけさっさと戻ってリアタイの準備をしてえつっの。まぁ、全力で走りゃ何とか間に合うだろ。それに……」

 

 装着者であるハーマン自身が100mを10秒程で走る走力がある事もさながら、最悪スーツの稼働時間が許すのであれば振動波を利用して跳躍すれば瞬時に宿屋に辿り着ける可能性は高いためギリギリにはなるだろうが間に合わせる算段自体は付いているようだ。しかし、本質はそこではない。

 会話の最中に視線を自身の後方へ向け、回収班に回収されていく栗鼠型荒魂だった残骸のノロを見やり、呟く。

 

「せめて見送る位はしてやろうかと思ってよ」

 

「……そうかい、んじゃあ俺らは先戻ってっから」

 

 最初は討伐対象だからと躊躇なしに殴りかかったが栗鼠型荒魂は巨大化する前までは自分達に敵意は向けず、ねねとも友好的に接していた。

 例え荒魂であろうとも何も考えず、ただ闇雲に相手を屠るだけでは無くさなくてもいいものを無くすことがある。と認識させられ、ショッカーなりに歩み寄ろうとしたというのに後味の悪い結果となってしまったため、せめて見届ける事にしたのだとこれまでの様子から汲み取った薫は沙耶香を伴って宿屋へと足を進める。

 

「先に戻って大丈夫?」

 

「あん?」

 

 先頭を歩く薫に向けて沙耶香が後方から掛けると首を後ろに向けて反応する。

 

「ノロを奪っていく刀使がいる」

 

「こんな山奥まであんなしょぼいノロを狙ってこないだろ。それにやる気を出してる奴には何でも任せてやるもんだ」

 

 彼女の懸念点に対して、納得はしたようだがどこか楽観的に物事を捉えてはいるがそれよりも、自分なりに答えを見つけようとしているショッカーの事を思い出し、信頼の意図もあるが強奪された現場はどこも相応の量のノロであったため、薫の中である程度回答は出るのか一仕事終えたかのように両腕を高く挙げてリラックスをするかの様に伸びをする。

 

「さ、任務も終わったし本格的に遊ぶかー」

 

 しかし、そんなフラグ全開な台詞を呟くや否や、ねねの耳が何かを感じ取ったのかこれまで歩いて来た道の方向へと傾き、険しい表情へと顔つきを変え、2人に警鐘するかのように吠える。

 

「ねねー!」

 

 ねねの咆哮の直後に薫のスマホにショッカーから通話が掛かって来ており、ねねの急変した様子から異変が起きた事を察して通話ボタンを押してスマホを耳に近づけると鬼気迫る声色で声を荒げる。

 

『おいチビ! 例のコソ泥が出やが……っ! チッ! 人の話遮んなボケ!』

 

 電話に出るや否や、ショッカーから放たれる物騒な様子が伝わる声色とその奥で聴こえてくる轟音に只事ではない事を察知出来るがこの様な状況下でありながら要点だけは伝わったため、薫は踵を返して来た道を急いで引き返して行き、沙耶香もそれに追従する。

 

「くそ! 次から次へと何だってんだ! ……ん? なんだ?」

 

 ──場面は変わって栗鼠型荒魂のノロ回収現場──

 

「ぐっ……!」

 

 力無い断末魔と共に桐生の写シを剥がされ、桐生が膝から崩れ落ちて間近にいたショッカーが心配するかのように声を荒げる。

 

「メガネェっ! ……チッ!」

 

 だが、一瞬の気の緩みがこの場では命取りであることを肌で感じ取ってかすぐ様桐生が倒れ込む先にいる相手を見据え、力強く睨み付けて凝視している。

 桐生の身体で隠れていたが、彼女が倒れた事でその姿が顕らになる。

 

 夜間では夜の背景と同化するのではないかと思われる程黒いフードを目深で被り、顔のシルエットは見えにくくなっているが右手に持つ御刀で振るわれた冷徹な一閃は桐生の意識を狩り取ったことから敵対者であることは明らかだ。

 フードを纏った人物の傍らには余裕綽々な態度を崩さずに左手の中で鱗を変形させて作成した深緑色の片手剣を器用に回すリザードがこちらを見下ろしている。

 

「粘りますね。ですが、貴方達の不利は自明の理」

 

 更に周囲一帯では爪楊枝の如く細長い鋭利な深緑色の槍が地面に突き刺さり、

 隊員隊は写シを剥がされたことでまだ意識はあるものの倒れ伏し、回収班達は怯えた様子で震えている。

 痛々しいまでの戦闘の痕跡が凄惨さを物語っており、この渦中でほぼ孤立しながらも立ち上がり、2人を力強く睨み付けているショッカーは言葉通り圧倒的不利な状況だ。

 

「大人しくノロを渡して頂ければ我々はすぐ様撤退し、あなた方の身の安全は保証します。今、貴方にとって何が得でお利口なのか……答えは明白でしょう?」

 

「…………」

 

 しかし、ショッカーはこの状況下でありながらも一切臆する事なく眼前に立つ敵対者たちをヘルメットの鋭い眼光越しに力強く睨み付けながらも脳内で瞬時に状況を整理して思考を巡らせる。

 

(チッ、コソ泥を警戒してなかった訳じゃねえがマジで手薄になった瞬間に襲撃されちまうたぁな)

 

 しかし、大した量ではないノロをわざわざこのような山中まで狙いに来る程向こうも暇ではないという思い込み、更に回収が終わるまで全員で警戒体制は解くべきではなかったかと反省したが起きてしまった事態に対しては次に自分が取るべき行動は何かを見極めるため、隊員達への被害状況を確認する。

 

(最悪なことにガキ共はもう戦える力は残ってねぇ……逃げ回るのがせいぜいって所か。おまけにチビに俺らの状況が伝わってるかは今の俺では確認のしようがねえ以上圧倒的に俺らが不利なのはアホな俺でも分かる)

 

 自身の状況を客観視した上で外部からの望み薄の救援やノロを奪われる前に薫達が間に合う保証がない以上、リザードの言う通りノロを渡して安全を確保するのが賢明な判断だろう。しかし……

 

(だが、今ここでコソ泥にリス夫のノロを奪われちまえばチビの想いも、ガキ共の苦労も水の泡になっちまうだろうが)

 

 ショッカーは一瞬だけ瞳を閉じて逡巡すると1つの結論へと辿り着き、刮目する。

 

(スマヌでありますりるるん、少々リアタイ遅れるであります)

 

 そして、ヘルメットのHUDを軽く操作し、"どこかへメッセージを送る"とショッカーの隣に移動し皆と共に円陣を組んで回収班と回収したノロの入った容器を守ろうとしていた桐生に向けて、眼前に立つリザードとフードの人物を睨み付けながら語り掛ける。

 

「おい、メガネ」

 

「この後に及んで……私は桐生です」

 

 ショッカーから未だに名前ではなくメガネという特徴で呼ばれている事は誠に遺憾だがショッカー本人は至って真剣な声色であるため眼鏡のブリッジを指で抑えて一度だけ上に上げ、話に耳を傾ける。

 

「なんでもいい、ソイツを持ってなるべく遠くに逃げろ。何とか時間は稼いでやる」

 

「し、しかし貴方だけでは……っ!?」

 

 自身の提案に対し、当然の反応をされるが想定済みのショッカーは反対してくる隊員達に向けて客観的事実を……そして、短期間の付き合いでありながら共に任務に取り組んだ事で構築した信用を彼らに預ける。

 そして、格納スペースから自身のスマホを取り出し誰にも気付かれないように桐生のスカートのポケットにスマホを投げ入れる。

 

「お荷物にいられる方がやりづれんだよ。いいか、俺からは1つ……死ぬ気で走れよ」

 

「……了解、総員退避! こちらはお任せください!」

 

「「了解!」」」

 

 客観的な事実を鑑みると非戦闘員である回収班を守りつつ、まともに戦う力の残っていない自分達がいても戦力になるとは言い難く、戦いにくいだろうと桐生は即座に理解する。

 粗野な言動でありながらも自分たちを信用しているから自ら囮となってノロをこの強奪犯達に奪われる前に少しでも遠くに運び出す事だと察した桐生は鶴の一言で回収班を連れて一斉に山を駆け下り、背中が遠ざかって行く。

 

「……」

 

「無駄な事を」

 

 フードの人物とリザードは眼前のショッカーよりも逃げ去る一同を追撃しようと駆け出した瞬間、その行動を見逃さなかったショッカーは右腕のガントレットを起動し、両者を遮るように振動波を纏った右拳を地面に渾身の一撃を叩き込む。

 

「ゴルァ!」

 

 振動波を纏った拳が叩き付けれられた地面は爆発したと錯覚する程の轟音、更に大地を揺るがす程の地響きを立てて巻き上げられる。

 

「……」

 

「おっと……そう簡単に通しては頂けないようですね」

 

 フードの人物はその動きを事前に察知したのか咄嗟に後方に下がり、リザードは地面が巻き上がる寸前で脚を急停止させる事で直撃を回避した。

 ショッカーは自らの拳により抉られた地面から巻き上がる砂塵を振動波を再度纏う事で払い、警戒を解かずに拳を構えていつでも攻撃に入れる体勢のまま自分に注意を向けさせるように桐生たちを追跡しようとしていた2人を煽り、小馬鹿にした口調で挑発する。

 

「ハッ! させねーよバーカ、どうしても通りたかったらこの俺を倒してからにしやがれボケナス」

 

 桐生達が素早く回収班を連れてノロを遠くに運び出してくれた事で、ノロを眼前に立つ2人に奪われるリスクを軽減しながら自分が周囲を気にせず戦える状況を作り出す事に成功したが、薫達はまだ到着する気配はない。

 

「勿論俺は抵抗するぜ?」

 

 だが、数的不利な状況でありながらもショッカーはマスクの下で不敵に笑い、握った両拳をぶつけると金属音が鳴り響く。そのまま右腕のガントレットを起動する事で振動波を纏わせながら顔の前に持って来ると同時に自分が気合いを入れて相手に立ち向かう時に投げ掛ける常套句を告げる。

 

「拳でぇっ!」




BND、本当に素晴らしい映画でした。何を言うにせよネタバレにしかならないので何も言えないんですがNWH後だからこそ出来た、その上で納得の行く地に足着いた結論を出したのが何より感激しましたね。
上映枠が少ないので場所によっては観るのが難しい方もいるかも知れませんが多くの人にオススメ出来る作品だなと思いました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。