刀使ノ巫女 -蜘蛛に噛まれた少年と大いなる責任-   作:細切りポテト

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久々に長くなってしまいもうした


第9話 再会

「流石にもういないか」

 

朝方になり、職員の運転する車で移動し、局の職員を車で待たせ、逃亡中の二人が台頭区の宿泊施設にいる可能性を考慮し、宿泊施設をしらみ潰しに探しているがどこにも宿泊している形跡は無く、ようやく宿泊していたと思われる安めのホテルに辿り着いたが既にもぬけの殻だ。

 

確かに逃亡するならいつまでも同じ所に留まるよりは場所を転々と移動しながら逃走する方が効果的だ。

自分達が特定した事に気が付いたのか、早めに出ていったのかは分からないがもう近隣の宿泊施設をあたる必要は無いだろう。

次に向かうとしたらどの辺りなのか、やはりこの地域の周辺を探すのが無難なのだろうか。いや、恐らくは追い付かれないように少し遠くに移動したのだろう。

 

「さて、次はどこ行ったんだ?多分もし仮に泊まるなら東京ならネカフェに泊まるのが無難だろうけど、今は日曜日だ。アキバや原宿や渋谷…色々あるけど取り敢えず人が集まりそうな所に移動するかね」

 

そう考えながら職員が待つ車に乗り込み、一旦は渋谷の付近に移動する事にした颯太。

 

車で職員と移動しながら二手に分かれた舞衣と連絡を取りながら捜索をしていると原宿付近で突然全身がゾワリとした感覚に襲われ、手が一瞬だが震え始めた。

 

(こんな時に荒魂か…っ!あっ、でも二人ならこの荒魂を放置せずに倒しに向かうかも。この気配を追って行けば二人に辿り着けるかもしれない。最悪二人が来てなくても僕が片付ける!)

 

スパイダーセンスで近くに荒魂の反応を検知した颯太は、可奈美の性格を考えると見つかるリスクはあるにせよ被害が出るよりは荒魂を倒しに向かうと考え運転手に声を掛ける。

 

「あの、僕は一人でも大丈夫なんで一旦分かれて探しましょう。この辺は僕が捜索するんでアキバの方をお願いできますか?」

 

「大丈夫なのかい君?まあ、呼んでくれればいつでも迎えに行くから」

 

「ありがとうございます」

 

運転手を口車に乗せて車から急いで降り、人気の無い路地裏に入り人が見ていないことを確認するとリュックからスーツとウェブシューターを取り出し、一瞬でスーツに着替えてスパイダーマンへと切り替え、リュックを再度背負う。

 

ビルと同じ高さまで跳躍して屋上に着地し、荒魂が現れた方向を確認すると恐らく神社のようだ。

その方向に向かってビルからビルの間を全速力で駆け抜けながら、ビルから飛び降り手頃な建物に向かって糸を飛ばし、壁に貼り付いたのを確認すると発射された糸の端をつかみながら空中をスウィングする。

 

「東京なのにスウィングするにはこの辺微妙過ぎない!?」

 

あまり高い建物が多く無いため普段とそこまで体感が変わらず、折角ならは東京の高層ビルが並ぶ摩天楼を飛び回ってみたかったがこの辺りにそれほど高い建物は無いため少し落胆した。

しかし、今はそんな事よりも荒魂をどうにかしなければならないため邪念をかき消しながら出現場所へと向かう。

 

 

荒魂が出現した神社にて

 

 

上空を飛行しながら境内へと着地し、地面に立ち咆哮を上げる飛行型の荒魂が現れた。

 

荒魂の出現により、一般市民は驚き一斉に避難している。

 

荒魂を倒すために到着していた可奈美と姫和は先程まで姿を隠す為に羽織っていたパーカーを脱ぎ捨て、御刀を隠していたギターケースを開けて御刀を取り出し、抜刀する。

 

「特別祭祀機動隊です!荒魂から離れて下さい!」

 

可奈美が逃げ惑う人々に呼び掛け、全員避難したのを確認すると荒魂の方へと向き直る。

 

「私が行くから追い込んで!」

 

 

「了解!」

 

可奈美は荒魂に一直線に突っこみ、回復しきっていない姫和の負担を減らすために八幡力で早めにケリをつけようと斬りかかるが飛行型の荒魂は翼をはためかせて空中に翔んで回避する。

 

空中に翔んだ荒魂は狙いを変え姫和の方へと直進してくる。

攻撃を回避しつつ翼を斬りつけるが前日の「一つの太刀」を使った影響で消耗しているせいか威力が出ずダメージが浅く荒魂はそのまま空中へと再度上空へ飛翔して逃げようとする。

 

「しまった浅かったか!」

 

「このままじゃ逃げられる!」

 

八番力の跳躍でも追い付けるか分からないと思われる高さまで飛んでいるためこのまま逃げられると焦っている二人だが急に空中にいる荒魂が後から何かに引っ張られたかのように動きが止まる。

 

必死に遠くへ飛ぼうともがいているがよく見ると体に引っ付いて引っ張り強度が強くなった一本の糸のせいで全く前に進んでいない。

 

後ろを振り返ると荒魂に引っ付いている糸を両手で持ち、荒魂を逃がすまいと踏ん張っている赤と青のスーツの覆面の男。スパイダーマンがいたのだ。

 

 

「どーもー、鳥籠から幸せの青い鳥が逃げ出した?ならちゃんと蓋しとこーねっ!」

 

「「!?」」

 

この状況下であるにも関わらず場にそぐわない軽口を叩くスパイダーマンに呆然とするが、そんな二人の様子を気にも止めず糸を掴んだままハンマー投げの要領で回転し始め遠心力を付けて思いきり荒魂を地面に叩きつけると、叩き付けられた際の衝撃があまりにも強く可奈美と姫和も驚く。

 

「はいおしまいっと、ゆっくりお休み」

 

いつの間にか叩きつけた襲撃で痙攣している荒魂に近付き子供を寝かし付ける親のような優しげな口調で呟いた後にローリングソバットを入れると荒魂は動かなくなり生命活動を停止する。

 

「スパイダーマンさん…」

 

「お前は会場の…っ!」

 

 

荒魂を倒した事を確認し、二人の方を向くと二人とも目の前の光景に驚いている。

御前試合の際に何処からともなく現れ、折神紫とその親衛隊を相手に自分達を逃がした相手が今目の前に現れていること、それよりもあの状況下でこうして無事に自分達の前に現れたことで更に脳内で整理がついていない状態になっている二人。

しかし、姫和は以前からニュース等の記事では荒魂の戦闘に介入して貢献したり、犯罪者を捕まえていたという話を聞いていたがその身体能力を再度目前にし、更には荒魂にトドメを刺したこの男を本当に信用していいのかつい逃亡生活のストレスの影響か神経質になってしまい警戒心が強まる。

 

それに反し、スパイダーマンは何とか二人と合流できたことと二人の無事が確認できた事を内心安心していたが、肝心の姫和から情報を聞き出すにせよ公衆の面前でいくら相手が荒魂に憑依されている可能性があるとしても攻撃をしかけるような相手だ。理由があるとはいえ簡単に話すとは思えない。なら、ほんの少しだけ強気で出てみるか。

 

(あーあ…脅しなんて初めてだし、女子に強気で脅しをかけるなんて気が進まないけど簡単に話すとは思えないしな…しゃーないやるかー)

 

若干の罪悪感を感じながら、自分の中にある強気な面を精一杯に押し出し、自分が出せる最大限の野太くて低い声を上げながらジリジリと姫和に近づく。

一瞬身構え、小鳥丸をスパイダーマンに向ける姫和だが

 

 

「俺を覚えているか!?お前が折神紫について知っている事を全部俺に吐くんだ!さぁ!」

 

「「……………」」

 

 

「早く言え!」

 

 

………………精一杯強気に野太い声を出し、威圧感を出そうとしているが無理矢理作っている感がスゴく、一言で言うと全く怖くない。

ここまで脅しが下手な奴なんて見たことがないほど迫力の無い脅しに内心脱力しかかっている姫和と可奈美。

 

「お前その声どうした?」

 

「えっ?その声って?」

 

「何ていうか…」

 

「会場のときや先程出してた声では女子みたいな声だっただろ?」

 

「女子じゃない!男子だ!!……じゃなくて大人の男だ!」

 

一応変声期は迎えており、声変わりはしているがそれでもやや高い声なのか、なりきっているときは敢えて軽い口調、そして多少高めにしているせいなのかは分からないが女子みたいな声だと姫和に揶揄されつい子供っぽく反論するスパイダーマン。

 

「まぁどちらでも構わないが、お前は何者だ?何故ここが分かった?そして…何故私を助けたんだ?」

 

「私も貴方の事が知りたい」

 

ある程度雰囲気が緩和したが姫和は未だに小鳥丸をスパイダーマンに向けながら問いかける。邪魔をするならば斬るぞという意味合いも込めてだ。会場で自分を助けたスパイダーマンの目的、何故この場所に自分が来るのが分かったのかが気がかりになっており、可奈美もまた同様だ。

 

「どっちでも良くないわ!まあ順番に話すよ。」

 

女子みたいな声と言われた事は流石に男として軽くショックだったがこの二人に合流したら話を聞く目的を忘れてはおらず話す事にした。

 

「まぁ何者かって言われても僕は貴方の親愛なる隣人スパイダーマンとしか今は言えない。ま、近い内に国家の敵スパイダーマンって呼ばれるかも。僕も秘密を抱えた身だし、今は正体がバレる訳にはいかないんだよね」

 

「答えになっていないぞ…まぁどうせ正体を明かす気は無いんだろう」

 

「まあね!」

 

「まあね…って即答…」

 

 

スパイダーマンの軽くて軽薄な態度から滲み出る自分の正体をはぐらかそうとする姿勢に少し頭に来たが、危険を省みず自分を会場で救いに来た事に関しては多少恩義は感じていることもあり、以前から覆面を被って活動している所を見ると余程正体がバレたくないのだろう。これならいくら聞いても正体はバラさないと思い一旦は詮索しないことにした。

可奈美は正体を明かす気が無いのを姫和が納得し、聞き返した瞬間に即答するスパイダーマンに多少呆れるが

再び話を聞く姿勢になる。

 

 

「ちなみに何故ここが分かったかっていうと僕はファインダー無しでも荒魂の気配を察知できるんだ。近くにその反応を察知すると体がゾクゾクして手が震えるんだよね」

「そして君達の事だ、昨日の事を考えると多分被害が出る前に荒魂を倒しに来ると思ってその可能性に賭けてここに来た。仮に来なくても僕が片付けるつもりだったからまあ…結果オーライ?」

 

「…………………っ!?」

 

 

この男はおおよそ気付いている。荒魂の反応を察知すると言った事や昨日自分が折神紫に奇襲を仕掛けた理由が何なのかをだ。

あまり気にする余裕も無かったが目の前の男が本当に人間なのか信じられなくなってきたがそれでも話を続ける。

 

「あれ?…ってことはスパイダーマンさんあの会場の近くにいたって事だよね?」

 

「確かにそうだ。お前は近くにいる荒魂の反応を検知すると言った。それにタイミングが良すぎる。あれは近くにいて見ていないと出来ない芸当だ」

 

「ギクッ…まぁ、普通はそう考えるよね。そうだよ、確かに会場の中にはいないけど比較的近いところにはいたよ」

 

会場の近くにいないと間に合う訳が無いため会場の近くにいた事を察知され、少し墓穴を掘ったと思うスパイダーマン。

しかし、自分の正体へのヒントを与えすぎないように多少嘘をつくスパイダーマン。

 

「観光中に偶然あの辺を通りかかってね、それとこれは何で君を助けたかって質問の答えに繋がるんだけど」

 

「何だ?」

 

「僕は自分の危機、ごく稀にだけど誰かの身に危険が近付くとその反応も感知できる。僕はあのとき、会場付近でかなり強い荒魂の反応と誰かの命の危機を感じ取って少し遠くで様子を見ていたら知っての通り君が折神紫に特攻していったのが見えたんだ」

 

「「………………」」

 

かなり脚色しているが二人とも冷静に話を聞き続け、なるほどと納得はしている様子だが姫和はまだ腑に落ちない点があった。

 

「それと戦闘に介入したことと何が関係ある?お前は街の人たちから必要とされていたヒーローだった筈だ。何故私の手助けなんか…警視庁に、国に喧嘩を売るような真似をしたんだ?」

 

これまで親愛なる隣人として人々を救ってきたと言われているスパイダーマンが警視庁を統制しているも同然の相手を殺そうとした反逆者を助け、自分もまたテロリスト同然な存在へと成り下がるのか、放っておけばヒーローのままでいられた筈なのに、どうしても姫和にはそこが理解できなかった。

 

「うーんまぁ…超簡単に言うと、警察組織を指揮っている荒魂を放置しておくと彼女が立場を利用してもっとマズい事が起こるかも知れないからかな。それに、警視庁の要人を意味も無く狙うなんて事はそうそうない。君は彼女の正体を知ってて彼女に挑んだんだろ?どんな因縁があるかは知らないけど事情を知ってる君から話を聞きたいからって感じ」

 

「なら私を助けたのは情報を聞きたいからという事か?」

 

「まあ、それもあるけど」

 

「けど何だ?」

 

スパイダーマンが自分を助けた理由が折神紫を危険だと判断し、その紫に対して挑んだ自分は事情を知っているから助けたというのは納得できたが他にも理由があるようなので聞き返す。その問いに対しそのまま話を続けようとするスパイダーマン。

 

すると、

 

「やっと見つけた」

 

 

 

3人の後ろから少女の声が聞こえる。

全員が振り返ると中学生にしては大人びた雰囲気の少女、可奈美と颯太の友人舞衣が御刀を抜刀したまま立っていた。

 

「舞衣ちゃん?」

 

(やべっ…話し込み過ぎたか)

 

 

彼女も二手に分かれて捜索していたとは言え、管理局支給のスペクトラムファインダーを持っている。恐らく荒魂をどうにかするためにここに来たのだろう。

可奈美は友人との突然の再会を驚いているが姫和は恐らく追っ手だと判断し警戒している。

 

「美濃関の追っ手か」

 

「待って姫和ちゃん!舞衣ちゃんは私の親友で…舞衣ちゃんどうしてここに?」

 

 

「あー修羅場だなこれ…」

 

追っ手だと判断し臨戦態勢に入る姫和に舞衣との関係性

を説明し諌める可奈美。

舞衣より先に合流したはいいものの舞衣に追い付かれたとなると可奈美と舞衣が戦うという事は無いかも知れないが弱っている姫和に舞衣の相手はかなり分が悪い。

またしても若者が何も考えずに口にしたかのようなノリで出る軽口を叩きながらいざというときは自分が介入するしか無いかと集中するスパイダーマン。

しかし、可奈美としてはどうやって辿り着いたのか検討がつかないのか説明を求める。

 

「荒魂の反応があったから…。もう退治してくれたみたいだけど、お陰で会えた。そしてスパイダーマンさん、貴方にも」

 

「親友だと言うなら何故御刀を向けている?」

 

「私は可奈美ちゃんの親友です。親友だから、可奈美ちゃんは私が助けます!そして、スパイダーマンさん。局では貴方にも捕獲命令が出ています。でも私は貴方が意味も無くあんな事をする人だとは思いたくありません。十条さんを捕まえた後に話を聞かせてください!」

 

やはり荒魂の反応をスペクトラムファインダーで追う事でここまで来たのだろう。その言葉と同時に舞衣は写シを発動させ、それと同時に姫和も写シを発動する。

両者まさに一触即発だ。

 

「ちょ、ちょっと二人とも一度御刀を収めて!」

 

「向こうにその気は無いようだ」

 

 

「僕の事はいいからこの娘の話も聞いてあげろって!」

 

二人が戦うのを阻止する為に両者を諌めるが効果は無いようだ。

 

「聞いて可奈美ちゃん!羽島学長が約束してくれたの、私と一緒に帰ってくれば罪が軽くなるように助けてくれるって!でも、一つ条件があるの」

 

 

「十条さん、貴女も一緒に折神家に同行して貰います!」

 

江麻は恐らくスパイダーマンが接触出来なかった場合に可奈美と舞衣が接触し、匿ってくれる人の連絡先を入れた袋を渡す状況を作り出すために罪状の軽減をネタに条件を提示したのだろう。

しかし、完全にやる気満々な今の舞衣では話すだけでは簡単には止まらないだろう。

ここで状況を動かさなければ。

 

「残念だがそれに協力は出来ない」

 

「協力しなくていいです、私が力付くでねじ伏せますから!」

 

「やってみろ…っ!」

 

両者御刀を構えて睨み合い、これから斬りかかろうとしたその刹那…

 

 

「いただき!」

 

「……………っ!?」

 

完全に対峙していた姫和に気を取られスパイダーマンにまで注意が向いていなかった舞衣の手元に向かって右手でクモ糸を発射し、御刀「孫六兼元」を糸で掴み直後腕を後方に持っていく事で舞衣の手から孫六兼元が離れ、スパイダーマンの元に引き寄せられ手に収まる。

一瞬の出来事にその場にいたスパイダーマン以外は驚いているがその様子を気にせずスパイダーマンは真剣に舞衣に語りかける。

 

「スパイダーマンさん!?どうして!?」

 

「ごめんお嬢さん!今彼女が捕まるのはマジで困るんだ!警視庁の要人を意味も無く襲うなんて普通はあり得ない!折神紫にはマジでヤバい秘密があるって事!」

 

「舞衣ちゃん!私見たの、御当主様が姫和ちゃんの技を受け止めたとき何もない空間から二本の御刀を取り出してその時後ろに良くない物が…」

 

 

「良くないもの?」

 

「やはりお前にも見えていたんだな…あれが…」

 

スパイダーマンと可奈美の言い分を聞き、紫には何かがあると思った舞衣は話に耳を傾ける事にした。

可奈美も会場にてスパイダーマン同様に紫の人間離れした、いやもはや神がなせる業とも呼べる一連の流れを目で追っていた事を把握した姫和。

 

「一瞬だったし、見間違いかとも思ったけど、やっぱりあれは…荒魂だった!」

 

「荒魂っ!?そんな筈…」

 

可奈美が目で見物を説明され、信じられないと言った具合に舞衣の表情は驚愕へと変わる。

至って普通のリアクションだろう。人間の後ろから荒魂が見えるなんて普通ならあり得ないからだろう。

 

「あの人は折神家の当主様で、大荒魂討伐の大英雄で…」

 

「違う!」

 

20年前の大災厄の大元である大荒魂を討伐した筈の英雄である紫が荒魂であるなど到底信じられない事であるためか非常に困惑しているが、大英雄という言葉を聞いた姫和は憎々しげに否定する。

 

「奴は…折神紫の姿をした、討伐されたと言われている大荒魂だ!」

 

「なるほど、大体推測通りって事か」

 

「ああ…」

 

「スパイダーマンさん、知っていたんですか…?」

 

「知ってた訳じゃないよ、実は僕は何でか自分でも分かんないんだけどファインダー無しでも荒魂の気配を察知できる。僕は昨日観光で近くにいたんだけどそこでこれまでとは比べものにならない位強い反応があって会場付近まで来たら後は知っての通りだよ」

 

姫和はやるせない怒り、憎しみを込めた声色で紫の正体を語る。

これで姫和の行動や紫を含めた刀剣類管理局の事情を把握したスパイダーマン。

舞衣はスパイダーマンが何故タイミングよく現れたのか、荒魂の反応を検知できるということを知らなかったため、かなり脚色されているが説明されたことで理解した。

 

「じゃあ折神家も、刀剣類管理局も、五箇伝も…」

 

「その全てを荒魂が支配している」

 

自分がこれまで信じて来た物が、今いる場所全てを荒魂が取り仕切っている物だと突拍子もない話を聞かされ項垂れる舞衣だが折神紫の実力、姫和の行動、筋が通っているためか事実だと信じるしかない舞衣。

 

「お嬢さん、恐らく折神紫は自分の立場を利用して何かとんでもない事を起こすかも知れない。荒魂が管理局を統制して今までの平和な社会が続いたって事は何かを企んでるって考えた方がいい。だから、折神紫に挑んだ彼女は何か知ってると思って助けたんだ」

 

「そう、だったんですね。でも…このままじゃスパイダーマンさん国の敵になっちゃいますよ…っ!私は貴方が悪い人だと誤解されたままであって欲しくないんです!私は貴方を信じたいんです!」

 

スパイダーマンは可奈美と姫和に背を向けて前に出て舞衣に向き直り自分の考えを伝える。

しかし、舞衣はその行動の理由は理解できたが、管理局では既にスパイダーマンは反逆者手を貸したテロリスト同然、全力で排除しにかかるだろう。

妹達や友人を助けてくれた恩人が誰かを守る為にとはいえ国や皆から悪者だと誤解されるのは心苦しい、せめて自分だけでも信じたいのだと胸の内を明かす。

するとスパイダーマンは舞衣にゆっくりと近付き、

 

「……その言葉だけで充分だよ。君みたいに信じてくれる人がいるなら例え国から敵視されてテロリスト扱いされても、僕は貴方の親愛なる隣人スパイダーマンだ!危険な奴を放置してもっと悪いことが起きる方が我慢できないさ…それに」

 

舞衣の頭に手を起き、軽く撫でながら優しげな口調で語りかけ自分の考えを伝えるスパイダーマン。

そして舞衣は頭を優しく撫でられ、スパイダーマンの意思を聞き気持ちが穏やかになり、落ち着いていくのを感じる。

そして、一度スパイダーマンが頭から手を離し後ろにいる姫和に視線を向けると舞衣もその方向に目を向ける。

 

「強大な敵にたった一人で立ち向かうガッツのある女の子が命懸けてるのに僕が何もしなかったら僕は親愛なる隣人じゃなくなる。それだけだよ」

 

「…っ!?」

 

「そうですか…そうですよね。貴方はそういう人です」

 

姫和はかなり驚いている。至ってヒーローらしい回答だと思ったが、国を敵に回して名誉を捨ててでも自分を助ける理由がそんな簡単な物なのかと。

先程の自分を助けた他の理由という問いに対する答えをさりげなく返された姫和はスパイダーマンを更に凝視している。

 

それに反して舞衣は火災の中から妹達を助けるために危険を省みずに飛び込んで行った際も困っている隣人を助けるのは当たり前だと、可奈美を助けた時も君達が笑顔でいることが最大の報酬だと言って誰かの味方をするのがこの男だ。

なら、例え警察を敵に回しても親愛なる隣人として、この目の前の困っている隣人を助けるのだろう。

なら、自分が今彼に対して多くを語る必要は無い。

ただ、信じればいい。彼は自分のいや、自分達の親愛なる隣人であり続けることには変わり無いのだと。

気付いた時にはスパイダーマンに向けて自然と笑顔を向けていた。

 

 

「私も、今は姫和ちゃんを一人には出来ない!だから…お願い!舞衣ちゃん!」

 

「本気…なんだね」

 

可奈美も今の自分のするべき事をしっかりと意思表示し、舞衣が問いかけると可奈美は真剣な顔で力強く頷く。

 

「分かってるよ、可奈美ちゃんのすることはいつも本気なんだってこと…あ、これ忘れ物」

 

可奈美の意思を汲み取り、尊重することにした舞衣は可奈美に近付きクッキーの入った袋を手渡す。

スパイダーマンは「あっ…渡すのまだだった」と内心思ったがどちらにせよ中身は同じでメモが入っているため問題はない。

 

「あっそう言えばスパイダーマンさんはどうするの?このまま一緒?」

 

ふと疑問に思ったことをスパイダーマンに問いかける可奈美。その問いに対し

 

「あーそれね、実はある人に言われててさ。話を聞くのは良いって言われたんだけどまだ合流しなくて良いって言われてさ…でも大丈夫!後から追い付く!心配ない僕を信じろって!」

 

「ある人?…まあでも分かった、取り敢えず後で来るんだね!そのときはよろしくね!」

 

「いいのか、そんな軽くて…」

 

江麻にはまだ合流するなという指示を受けているため後から合流するから心配ないという事をサムズアップしながら伝えると可奈美は軽いノリで受け入れるが姫和は困惑している。

しかし、スパイダーマンは恐らく悪い奴ではないと内心思い始めているため特段気にならなくなってきていた。

 

「十条さん、可奈美ちゃんをよろしくお願いします」

 

「私は自分のすべき事を果たすだけだ」

 

 

ギターケースに御刀を仕舞い、脱ぎ捨てたパーカーを拾い上げる姫和を呼び止め、深々と頭を下げる舞衣に対して淡々と言葉を返す姫和。

 

「後、スパイダーマン。一つアドバイスしておく」

 

「ん?」

 

突如姫和が振り替えるとスパイダーマンを名指しで呼んで来る。

そう言えばこれまでお前としか言われて無かったな、と思いつつ向き直る。

 

「お前、相手を脅すならもう少し脅しの練習した方がいいぞ。あれでは誰も怖がらない」

 

「何言ってんの?僕って怖いだろ?」

 

「はあ………………お前も変わった奴だな」

 

 

鳥居の柱に腕を組んで寄りかかりながら当たり前かのように返すスパイダーマン。あの脅しの仕方でビビると本気で思っていたスパイダーマンに対し、姫和は盛大に溜め息をつきながら呆れつつも悪い気はしていないようだ。

 

二人が早めにこの場から離れようと走り抜けていくのを確認すると二人だけになる舞衣とスパイダーマン。

 

「あの、そろそろ私の御刀返して欲しいんですけど…」

 

「あっ…ごめん、ついうっかり」

 

先程スパイダーマンに孫六兼元を手から取られていたのを思い出し、返して欲しいと懇願する舞衣。

そう言えばまだ返して無かったと思ったがここでノロの回収班を呼んだとして舞衣が二人と協力して荒魂を鎮圧して二人を逃がしたと説明しても逃亡を幇助したと思われるかも知れない。

彼女に変な疑いがかけられるのを避けたかったスパイダーマンはある方法が頭に浮かぶがやっていい物か悩んだが心を鬼にしてとある方法に出た。

舞衣の真後ろが鳥居の柱に来るように移動しながらその位置に立つスパイダーマン。舞衣も自然とその動きを追う事で正面から向き合い、真後ろが鳥居の柱と一直線になる。

 

 

「所で、お嬢さん。君はとても素敵だね。きっと将来別嬪さんになるよ」

 

「えっ…どうしたんですか!?急に!」

 

急に真面目なトーンで褒められた事で驚き、もちろん年頃の女子中学生としては容姿を褒められるのは素直に嬉しいのか恥ずかしいのか少し赤面して後ろに下がっている。

隙は充分に作った。後は…

 

(今だ!柳瀬さんごめん!)

 

舞衣が真後ろの柱に近づいた瞬間に目にも止まらぬ速さで出力を最小限に抑えながらウェブシューターの掌のスイッチを押すとクモ糸が発射され、舞衣に当たると身体が鳥居の柱に貼り付けられる。

痛みはほとんどないが、何が何だか分からずに目をパチクリとさせながら自分の状態を確認すると、胸から下が糸でくくりつけられ、手足が動かせなくなっていた。

スパイダーマンの方を見ると地面に孫六兼元を置き、舞衣に向かって土下座をしている。

 

「ご、ごめん!お嬢さん!出力は最小限に抑えたから痛くないしそんなにキツくないと思うけど、このままだと君は二人に協力したと思われて疑われる!だから君はここで僕に取り押さえられた被害者ってことにすれば疑われにくいと思う!」

 

 

「えっ…ええええええ!?」

 

必死に身を捩らせるが糸の強度が強くなり女子中学生の力では抜け出せず、せめて御刀を帯刀していれば八幡力で抜け出せるがまだスパイダーマンに御刀を返してもらっていないため抜け出せない。

 

「糸は一時間で溶けるからね!僕に遠慮とかしないで僕にやられたって言ってね!約束だよ!んじゃまたねー!」

 

「あっちょっと!…行っちゃった」

 

糸を飛ばして、飛び上がり遠ざかって行く姿を見送る舞衣。

しばらくすると背後の階段から入れ替わったかのように誰かがかけ上がって来る音が聞こえる。

 

 

 

 

 

「柳瀬さん!大丈夫!?」

 

「榛名君!?何でここに!?」

(あれ、入れ替わったかのようにタイミングよく…)

 

「この辺に荒魂が出たって聞いてさ、もしかすると可奈美いるかなって思って!」

 

「可奈美ちゃんならもう行ったよ」

 

「そ、そうなんだ…」

 

荒魂が現れたと聞いて可奈美がいるかも知れないからとこの辺りに来るのは普通に危険なのだが余程心配しているのかと思うことにした。しかし、妙にタイミングよく入れ替わったかのように現れた颯太に違和感を覚える。

 

「スパイダーマンにやられたのか…今から剥がすよ!」

 

舞衣の身体についた糸を必死に剥がそうと引っ張っているが全く取れていない。

実際には力を入れてるように見せてあまり力を入れていない。

 

「だめだこれ、一時間は溶けないぞ…」

 

「えっ………?」

 

 

肩で息を切らしながら状況を分析しているように見えるが完全に墓穴を掘っている。何故一時間で糸が溶けると思ったのだろうか、こういう場合はどうすれば切れるか等を考えるべきだと思うが何故糸が溶ける方へと考えたのだろうか。そして、舞衣はスパイダーマンの糸は一時間で溶けるという発言を思い出した。

会場でのことといい、今ここに到着した時の事といい、そして会場で別れた際にはつけていなかったスパイダーマンと似た腕時計を今はしていること。

 

(話し方は似てないけど、声も似てる………)

 

舞衣の中である疑念が確信へと変わり始めていた。

 

「ダメか、仕方ない。取り敢えずノロを放置するのは危ないから僕が呼ぶよ」

 

「え?…うん」

 

颯太が少し離れた所で回収班に連絡を取りながら状況を説明しているその姿を凝視している舞衣。

 

(やっぱり、貴方が……………)

 

 

 




真面目になったりふざけたりですまない、本当にすまない。

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