IS<インフィニット・ストラトス> ~白き騎士と黒き暴君~ 作:狂戦士
第88話 剣闘士の土俵
仭は大剣を展開して、またも斬りかかる。対して楯無はランスを展開し、自身へ斬りかかってきた大剣へぶつける。
(さて、後が面倒だがやはりあれを使うということにしたものの、それにはやはり時間――というか、エネルギーが必要…維持だな)
そう仭は判断すると、再び大剣を収納。いきなりのことにさすがの楯無も手元が少し狂ってしまうも、何を企んでいるかわかったものではない相手へ警戒しながら攻撃し続ける。
「一体何を企んでるのかしら?」
「ただの時間稼ぎだが?」
攻撃を避け続ける仭の返答に、100%疑惑の視線を向ける楯無。
(まあ、これで信用するのは一夏でもないと思うがな。そしてだからこそ、表が生きる)
相手が勝手に、何か仕掛けてくるのではないかと、思ってくれるだけでも仭にとっては得。もっとも楯無は”馬鹿ではないからこそ”余計に考えてしまうのであるが。
(さて、もう戦闘に集中するとしよう。…無論
「当たらない…!」
先程と変わらず、距離を離して射撃を続けるシーナと、それを追いかける簪。攻撃され 簪は荷電粒子砲を連射するも、それらを回避して見せるシーナ。
お互い射撃があまり当たらないものの、手数の差によって戦況は簪がやや不利かと観客の生徒達は思うも、実際は内面の方も合わさって、簪がもっと不利であった。
連射型荷電粒子砲で攻撃する簪。だが、いくら連射型であろうとも、荷電粒子砲は燃費を使う。対して銃火器を――もっと言えば実弾で攻撃しているシーナの機体の燃費は、機体を動かす際や攻撃を受けた時だけで済んでいる。
これらを踏まえて、遠距離からの撃ち合いになれば、どちらが有利なのかは一目瞭然であった。そしてこのままではジリ貧であり、不利であるのは自分だと気付いている簪は、仕掛けることを決める。
「瞬時加速…」
銃弾を多少被弾しながらも、薙刀を構えて突っ込んでいく簪。回避は間に合わないと踏んだシーナは、簪の特攻を受けて立つ。そして斬りかかる薙刀をシーナはかわそうとするも、身体を掠めてしまう。それに仕返しとばかりに、シーナはそのまま回転して蹴りを簪の頭部へとくらわす。
「「くらいなさい(くらえ)っ!」」
続けて収納しておいた
発射はほぼ同時に行われ、荷電粒子砲による爆発が2人を包み込む。
「くぅ…!」
荷電粒子砲による射撃が当たる際、シーナは身体を僅かに逸らしていたが、所詮はそれだけであり、かわしたわけでもないので、簪よりダメージは大きく絶対防御が発動されていた。
「やるわね。蹴りはほとんど顔面に近かったからもうちょっと怯むかと思ったんだけど」
「私の近くにはそこからさらに二の矢、三の矢を顔面へと放ってくる人がいるから、それに比べたらこの程度…」
(女の子なんだから、顔を攻撃するのはもう少し控えなさいよ…)
その言葉に元凶がすぐに誰だかわかったシーナは、自分もやっておきながらそう思ってしまう。
(にしても、そろそろあっちも動き始めるところかしら)
それもすぐに切り替わって、
「…ねぇ、防戦一方じゃない?」
「会長と引き分けたのってまぐれじゃないの?」
時間が経っていくと、観客が仭に対して愚痴り始めていた。もっとも、アリーナのシールドに阻まれていてその発言はアリーナで戦っている4人には届いていないが。
その理由は仭が先程から攻めていないからだ。武装を拳のみにしてから回避がほとんどで、カウンターなどをたまにとるのみであった
(どういうつもりかしら)
さすがに楯無もどういうつもりか考え始めていた。大きな攻撃を仕掛けていない。それは彼のISの能力からして、時を待っているのだろうが、文字通りほとんど何もしてこなくなっていると、何を狙っているのかと思い始める。零落白夜ではあるまいし、一撃で決着をつける武装を使うというのは楯無には考えにくかった。それでも何かを狙っているのは間違いなく、遅かれ早かれその時が来たら仕掛けてくるのだから、考えても仕方がない。
「む…」
楯無は仭へと突いてる途中でランスを収納。回転して仭の懐に入り、掌打をくらわす。僅かに苦悶の声が聞こえたことから、効いてはいるようであるが反撃の動作が早く、掴みかかろうしてくる。それを予測していた楯無は紙一重で逃れ、離れると同時に指を構える。
「気付かないとでも思ったか!?」
仭の周囲に少し前から霧が漂っており、それによる攻撃を防ぐため拳を下へ突き出して、エネルギーの
(最大限エネルギーを放出するタイミングをずらし…いや――)
それだけが狙いじゃない。と思った瞬間、タイミングをずらさせる時間を使ったことにより、濃くなった霧が気化して水蒸気爆発を起こした。
「っ…シールドを破壊するとは、なかなかの威力…!」
「やっぱりそんな効いてないわね」
爆炎の中から深手ではないにせよ、多少ダメージを受けた仭の姿が現れる。
「だが、馳走になった。おかげでさっき使った分より、エネルギーが増えたからな」
そう仭が礼を言っていると、エネルギーが満タンになったのを示すように、機体が音を立てながら発光し始める。
「…頃合いやよし」
不敵な笑みを浮かべるのを見て、より一層何か仕掛けてくるのだろうと、楯無は身構える。その際蛇腹剣を呼びだそうとすると
「――――――――!!!」
「っ!また―――!」
再びの
「ちょっ、何を…!」
「はっ!こういう時の展開は…決まっているだろう!?」
「なっ!?まさか自爆でもする気!?」
とても考えにくいが、ありえない話でもない。さすがに共にあの世へ逝くほどの威力を発動することはないであろうが、応用がかなり効く仭のISからしてそのような武装はありそうである。それにその自爆によって相打ちになったとしてもシーナが簪に勝てば、チームとしては勝利する。
自分が傷つくことなどお構いなしであるのを知っているがゆえに、その行動は楯無にとって信憑性が多少あった。
「離れなさい!」
例え自爆でなかったとしても、ろくでもないことをしでかすのは想像がつく。今までで1番シャレにならない自体に当然暴れて引き離そうとする楯無だが、一向に仭は離れない。そして
「ぐっ!?」
後ろから頭突きをかました。その行動の間に背中や腕から鎖が放出されて、周囲に先端を向ける。するとそれぞれの先端から黒いエネルギーが放出された。その黒いエネルギーは、黒い空間のように2人の周囲を覆い始めていく。
組付かれてるだけでなく、頭突きによって動きが鈍ってる楯無はどうすることもできない。
「っう!」
「おっと!」
ようやく仭を振り放すも、その際にはお互い空間に閉じ込められていた。
「これは…?」
「成功…といえるかな。適度な広さにするってのもやはり難しいものだ」
下手に手を加えたら、何が起こるかわからないとひとまず判断した楯無は視線上にいる仭へ話しかける。
「まったく、か弱い女の子を強引に抱きしめるだけじゃ飽きたらず、密室に閉じ込めるなんて…」
「この期に及んで茶化すか。もうその神経に尊敬すら覚えるぞ」
「あら、ありがと」
「どういたしまして」
呆れの視線を送っていた仭はそう告げるなり、ブレードを両手にそれぞれ呼び出して、楯無に突っ込む。一方で楯無は呼び出した蛇腹剣のソードモードで斬りかかる。
この空間はISを纏って多少動きながらも戦えるぐらいのスペースが一応ある。だが、広いとはお世辞にも言えず、かといって狭いという言葉を使うにはもうひと押し。そんなスペースの空間だと、楯無は感じた。
「…で、この空間は何?」
「やっと本題か。見ての通り、単一使用能力で作りだされたエネルギーによる空間だ。一応言っておくが、最低限空間にするために必要なエネルギーとは別に余分に送り込んで凝縮、硬化した空間だ。多分外では簪が薙刀とかで破壊を試みていだろうが、そう簡単に壊れない」
「でしょうね」
会話をしながらも、斬り合いは続き、ぶつかるたびに火花と水が散る。
「それにしてもIS装備の2人が戦える広さの空間をも作り出せるなんてね。前から思ってだけど、本当にあなたのISは規格外」
「大したことはない。と言っておきたいが、こうも適度の狭さにするには、やはり苦労した。ある程度イメージ固まっていないと、IS装備の2人が戦える空間…正確に言えば、”ISの能力を制限”できしてのIS装備の2人が戦える空間など作れはしない」
仭はさらっと言いのけたが、楯無は別段驚きはしなかった。仭の意図が大体掴めていたからだ。この空間自体に何ら能力はない。あえて言うならば、おそらく多少強固なだけであろう。楯無はほぼそう確信していた。
鍔迫り合いになると、楯無は既に自身へ斬りかかってきているもう1本のブレードに斬られるよりも早く、ランスを呼び出して仭へと突く。それは直撃して後退させた。
「…さて、茶番はここまで。後で教師らもうるさいだろうから、とっとと終わらさせてもらう」
そう言うなり仭の雰囲気も変わる。もう何を聞かれようが応対しないと、それが現れていた。
(この感じ、私と初めて生身戦った時を思い出すわね)
当然だが仭はIS操縦者になってから、身体を鍛え始めたわけではない。IS操縦者になっては彼本来の性格もあってだろうが、言葉を使っての戦法や、攻撃を受けてカウンターなどを使用している。だが、それは生身ではまず使えないことだ。相手を挑発するような余裕も、殺傷武器を受けても死なないような身体もないからである。
生身時にも影響が出てしまうかもしれないというのに、IS装備時でその戦法を使用しているのは、切り替えができるということなのだろう。
「!」
いつ来るかと構えていると、仭はブレードを収納。今度は拳――手の装甲に新たな手の装甲が装着される。入れ替えたわけではなく、新たに装着している。それのために両拳が一回り大きくなっている。
(グローブ…?新しい武装かしら)
それが気にはなったものの、考えてもわからないものはわからないので、楯無もひとまずランスのみを構えて気を引き締め直す。――その時に仭は既に飛び出していた。
「!」
いつもより早い動きの仭に対し、楯無はある一点に釘付けになっていた。手が黒いエネルギーに染まり、そこからさらに形態を変化され、熊のような手となっていたからだ。ちなみにそれはもう片方にも言えた。
楯無が釘付けになったと言っても、気を取られたわけでなく観察するためであり、所詮は僅かなこと。冷静にランスで受け止める。あの新たな武装には展開装甲が使われていて、それによって武装の形を作り、ISの能力で硬化。そうやって戦っていくのだろう。
(それに硬いわね。超高周波振動する水で削っているというのに、見たところ消耗が見られない。多分それに乗じてエネルギーで補修。エネルギーを拳に纏っていたのと同じで、常時
ランスと、熊のような手――仭はその見た目通り『熊手』と読んでいるそれのぶつかり合いによる拮抗は、そう長くは続かなかった。一方の左手の熊手をエネルギー状態へと戻し、今度は鉄柱のような武装にして、それぞれ違う武装で攻撃し始める。
「っ、これは…!」
特徴が違う武器で怒涛の攻めを繰り出す仭。楯無もランスで何とか捌くも表情が変わっている。
現在邪魔をされる可能性がほぼないことによって、周囲を気にする必要がない分、仭は楯無のみに集中で得きるわけだ。それは楯無にも言えることであるが、攻められなくては怒涛も何もあったものではない。
「ぐぅっ!」
そしてとうとう腹部へ一撃をくらってしまう楯無。直撃によって苦悶の表情を浮かべる楯無。間をおかず、鉄柱―――これ見た目通り『鉄塊』と読んでいるそれで薙ぎ払おうとするが、楯無は未だくらったまま伏せてかわし、腹へと決まっているそれを引き抜き、踏み込むと仭の左胸へと掌底をくらわす。
「…心臓を止める気かお前は」
「!」
が、その掌底は仭が文字通り手で受け止めていた。鉄塊を解除して通常の状態へと戻し、瞬時に受け止めたのである。そのままその手で腕を掴む。
力が入ったことにより、楯無も耐える。投げ飛ばすつもりかと、もう片方の手に楯無は視線を向ける。が、先ほど自分へくらわせたそれと同じ状態である。
「!――あぁっ!」
まさかと気付いた時には既に行動に移されていた。仭は掴んだ腕にさらに力を込め、そのまま振り払うかのように楯無を横の壁ととぶつける。追撃を避けるたびにすぐに体勢を立て直して後退する楯無。
「どうした。俺に負けていては、お前の大嫌いな奴に勝てはしないぞ」
「言ってなさい。この空間があなたの土俵だというなら、手段を講じて抜け出すまでよ」
「それこそ言ってろ」
こういってる楯無だが、この空間を破壊する手段は考えついている。だが、不確定なだけでなく、もし失敗した場合自分が負ける可能性が高い故に、それがまだできない。
戦況は現在仭が優勢というところ。だが、それでも楯無はその若さでロシア代表の実力者。徐々に適応する可能性もあるだろう。それでも仭は勝つ気でいる。
仮に自分と楯無の実力が同じだったとして、それで勝敗を分けるのは相性、状態など挙げられるが、確実に差が出ているのは経験の差であろう。歳の差を排除したとしても、仭の経験値は楯無には当然及ばない。だが、質が高い――経験を積んでいる強者を相手に鍛えられている故に実力を持つ。
そんな現実を前に仭のとった行動は、自分の土俵で攻めること。スラスターもPICもお互い狭さゆえに使えず、火力のある武装も楯無はある理由から使えない。故に近距離戦となることから、仭の流れになっている。
しかしこの後、誰もが思いもしなかった事態になると、仭は思いもしなかった。
多分次話は予想外な展開になると思います。