IS<インフィニット・ストラトス> ~白き騎士と黒き暴君~    作:狂戦士

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会長の反撃(ターン)。


第89話 狭き闘技場に灯る光

第89話 狭き闘技場に灯る光

 

 

 タッグが分断されてから、試合が進み――

 

「「…………」」

 

 空間内での2人の戦闘はひとまず膠着状態となっていた。

 楯無の方は片膝を付いていて、対して仭の方は呼吸が少し乱れてるだけで、悠然としている。どちらが不利かは明らかだった。仭はこんなものかと感じてはいたものの、目は見下しているわけではなく、何を仕掛けてくるかと警戒の目だった。

 

「まったく本当に面倒だお前の――いや、お前のISによる水は。それで楯にされた所で、俺の拳は止められはしないものの、勢いが多少殺される」

 

 仭はため息をつきながら言う。楯無は水を操り、自身の周囲に展開することである程度仭の攻めをままならなくしていた。

 

「フフ、それは良かったわね」

 

「…茶化す余裕もなし、と」

 

「っ…」

 

 それでも押しているのは仭である。水で楯にすると言っても、度々仭の攻撃に対応することはできず、場合によってはそれによるせいで仭の次の攻撃に対応できないということもまたある。

 一夏の白式が第二形態移行(セカンドシフト)した際に搭載された多機能武装腕の雪羅。このような武装を、仭の所属する例の組織は開発。武装名を多機能武装腕ならぬ多機能武装(けん)溶け合い変貌する手甲(メタモル・ガントレット)』。オープンフィンガーグローブのような武装である。ただ、白式の多機能武装腕のような代物ではなく、剣闘士の単一仕様能力と組み合わせるためのものである。

 難点はその重量。それと――

 

(少しばかり展開装甲によるエネルギー変換が鈍いな。試作品だから仕方ないが。…空間作りの方は実際の戦闘じゃ初めてやったが…まあ、うまくいった方か。何度やっても同じようにするというわけにはまだいかないだろうが)

 

 楯無が推測した通り、仭によって作りだされた空間自体は強固なだけで、何ら能力はない。あえて言うならば、完全に外と遮断されてしまうために通信が使えないことと、色が黒なことから内部からも外部からも何が起こってるかというところだろうか。ただ先に言った通り、外から見て空間(ないぶ)の状況がわからないので、生徒のためにならないだろうなど、色々教師に言われるであろうことは予想がつく。これが試合前に仭が使うのを渋っていた理由だ。

 次にこの空間内での戦闘による仭のメリット。絶妙な狭さ故にスラスターやPICを使って動くことはできないので、ISの機動性が潰れてしまうことだ。これによって近接戦にほぼならざるを得なくなるため、今回の場合楯無は近接戦では弱くないが、それを主としているわけではないことから吉と出ている。

 ちなみにこの空間は、仭が壁に鎖を突き刺すことで、性質を通常通りに戻して硬化を解除。吸収することで解除することもできる。

 

(しかし楯無はやはり冷静というところか。ここが”密閉空間”というところまでは確実に気付いてるだろう)

 

 この空間によるデメリットとしては2つ。1つは1点に大きな穴でも開いてしまえば、空間を保てなくなり崩壊するというところである。もう1つは狭い密閉空間という性質上、空気が限られているということである。半永久的に存在することができるこの空間内で、短期戦にせざるを得なくなってしまう理由であろう。

 しかし何もせずに呼吸だけを行っていれば、いくら狭くともそれは”ISを装備してる2人がいる”ということからの認識でもあるので、そうはすぐに酸素はなくならない。だが、戦闘をするとなると話は別になってくる。戦闘を行うということは、場合にもよるが動くということとなり、呼吸もそれに乗じて早くなるため、酸素が失われていく。しかしこれも単に殴り合いなど、そのような類であればまだ保つ。だが、これに銃火器などが使われていくとどうなるであろう。

 

(ISは派手な武装が多い。中でも遠距離武器は火力が高いものも多く、光学兵器などは着弾すると爆発する。…それはこの空間内では一か八かの賭けでしかない。もっとも破壊されないように、空間に鎖を突き刺してエネルギーを排出、強化という手もあるが)

 

 そのような武装を使っていけば、空間内の酸素を使って火を起こし、よって二酸化炭素が増えていき、それから酸素が不十分な環境となって、挙句一酸化炭素が発生してくる状況にさえ成り得る。もっとも仭はガスマスクをISに量子化してあるため、酸素が失くならない限り意識を失うことはない。

 

(楯無はおそらくこのことに気付いている。だが、霧が漂っていないということは、清き熱情(クリア・パッション)によって生じる気体をどうにかする手段はないということ。…さて、この狭き闘技場(くうかん)でどう出る楯無。このままではいたぶられるだけだぞ)

 

 それはそれで良しだがと、それを最後に思考を止めた仭は、両手を熊手にすると再び楯無へと飛び出した。

 

 

 

(…完全に彼の掌の上に乗ってしまったわね)

 

 楯無は戦闘を行っていくことで、仭の狙いを全て察していた。――故に、自分の置かれている状況もわかってしまう。

 

(何より”空間が破壊されること”もまた良しとしている。最終的に私が清き熱情を使うしかない)

 

 どうにかこの空間から抜け出すにも、現在使える火力のある武装は清き熱情のみである。しかしそれを使うと下手をすれば自滅を招くことになる。ランスや蛇腹剣で破壊しようとすれば、仭に邪魔されるであろう。この空間はちょっとやそっとじゃ破壊できないことが予想されて、霧の量を上げなくてはならない。そうなれば当然自分は多大なダメージを受けることとなる。かといってこのまま戦い続けるのはジリ貧となり、相手のISの性質上余裕を与えることとなる。

 つまるところ打つ手はあるものの、その選択肢のどれもが良い結果を産まない。八方塞がりであった。いや、1番被害は大きいが1番良い結果を生むのは清き熱情を発動しての空間の破壊だろうが、結局はそうせざるを得ない状況に誘導されているのだろう。

 

(まったく私より性格が悪いんじゃないかしら。こういうあくどい手に関しては、私より上ね)

 

 襲いかかってきた仭に、やむを得ずと楯無はランスに搭載されているガトリングガンを発砲する。この程度なら、そうすぐに影響は出ない。だが両腕によるガードで銃弾は弾かれてしまい、仭自体に影響はない。そのまま気にせず突進してくるのを見るや、やはり駄目かと楯無はランスを片手持ちにして、仭へと一気に突きいれる。それは熊手に下へと押し抑えられるも、それを予測していた楯無は右手に蛇腹剣を呼び出し、鞭の状態のそれを振るおうとするも、もう片方に下から打ち上げられる。手から離れていった蛇腹剣に気にも留めず、ランスを両手持ちにして勢いよく薙ぎ払おうとするも、そのタイミングで仭はいきなり後退。大きく空ぶった。

 

「デャァッ!」

 

「!?」

 

 そして体勢を落としながら仭は近づき、膝へと掌打。楯無は片足がそれによって曲がる。膝は人体の急所とされる場所で、大きなダメージを受けると立ったり歩いたりできなくなるとされる。ゆえに楯無片足が一時的とはいえいかれてしまったわけだ。片膝が曲がるも楯無は再び仭へとランスで薙ぎ払い、それは今度こそ命中する。落ちてきた蛇腹剣を手に収め、そのまま二の矢、三の矢と振るう。連撃をまともにくらう中、仭はある一点を着目していた。そして楯無が蛇腹剣を振りかぶると、待っていたとばかりに手刀を楯無の狙っていた箇所―――こめかみへと叩き込む。先の膝もそうだが、こめかみは人体の急所とされる場所で、強打されると平衡感覚が失われ、最悪の場合意識不明になるとされる。

 

 楯無は一瞬何が起こったかわからず、グラついてしまい、こめかみを打たれたと認識したときには仭に額を掌打されていた。なお額のも急所とされる場所で、強打されると脳に障害が起きる。平衡感覚が失われていた楯無は踏ん張ることもできずに、吹っ飛ばされた。

 

「ここまでだな。楯無……と言って油断するほど俺は甘く見ていない。今のお前でも道連れを狙おうとしているなど、何とでも言える」

 

 故に、そう呟きながら

 

「そんな反撃(すき)も与えず、仕留めさせてもらおう」

 

 とどめを刺そうと、距離を縮めていく。

 

(…まいったわね)

 

 平衡感覚も一時的とはいえ失われ、頭も変になっていることで動くことがままならず、霧を散布しても相手が怯むほどの威力の水蒸気爆発は起こせない。いや、それ以前に相手は油断などしておらず、自身を”動けるかもしれない”とさえ想定している。挙句シールドエネルギーもそう多くはなく、この攻撃によっておそらく絶対防御が発動して負けが決まるだろう。たとえそうならなかったとしても、負けるのが早いか遅いかでしかない。

 

 楯無はこの時に敗北を悟った。

 

――それでいいのですか――

 

(――?)

 

 ふと心へ問われるような感じがした。

 ―――このままだと敗北。だが、それを認めていいのかと、自分自身に問う。周りの者達から認められた”最強”という称号をあっさり放棄していいのかと問う。――言いわけがない。思いを蔑ろにはしたくない。

 相手がどんなことをしてきたかは知らないも、並外れた努力をし続けてきたのはわかる。だが、それは自分とて同じだ。

 

 楯無自身気付いていなかったが、この時点でもはや障害など気にもなかった。脳裏にあるのは、ただ単純に負けたくないという意地。

 

――しかし状況は芳しくありません――

 

 確かに状況は絶望的。それでも――

 

(ISにはまだ力が残されている)

 

 ならばまだやれる。”状況を覆せない”という考えを脳から排除する。

 

(私は負けていない。終わってない――!)

 

 四肢に力を籠め、魂を震わせる。自分が何のために、誰のために戦うのか再度認識する。

 

霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)。あなたの力はこんなものじゃない。あなたは私が、虚ちゃんや薫子ちゃんたちと作り上げた機体。私だけじゃない。みんなの思いも宿っている。その思いを力に変えて、私の積み上げてきた力と――)

 

――ええ、行きましょう――

 

 そして、少女の願いを聞いた霧を纏いし淑女は――

 

「一つに――!」

 

 

 

 

「!?」

 

 突如として光り始めた楯無とその機体に、反射的に仭は距離を取る。

 まだ何かを隠していたかという考えが、頭をよぎるがすぐに違うとわかる。

 

 この光を仭は無意識的に知っていたからだ。初めて見るものだが、覚えがあると脳が訴える。

 

「まさか…」

 

 その先の言葉を口にする前に、光の中から楯無が現れる。

 

 だが、その身に纏うものは霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)であって、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)ではなかった。腕にはそれぞれ小型の物理シールド『メティス』が張られ、少しばかり肥大化したウィングスラスター4基。そしてアクア・クリスタルが、スラスターの間に装備されている4つの非固定ユニット『アクエリアス』にそれぞれ組み込まれており、正面から見たら白のウイングスラスターと水色のアクエリアスによって8枚の翼があるように見える。

 

 その機体の名を霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)『第二形態・水妖(ローレライ)』。

 

 その姿を見た仭は――

 

「…………」

 

 目を見開いていた。それから見て取れる驚愕の他に何を抱いていたか。早く決着をつけなかったことによる後悔か。状況が不利になったと諦念か。

 

 否―――歓喜であった。

 

「フハッ!」

 

 思わず声を漏らしながら、その手に大剣を呼び出し、斬りかかる。楯無は手に持っていた蛇腹剣を収納し、もう片方に持っていたランスで受け止める。

 

「まさかこのタイミングで第二形態移行(セカンドシフト)とはなぁ楯無。…いや、そうとは限らないか。どうも初期は別として、最近の形態移行の発動条件(トリガー)は、戦闘経験より感情によるものもあることだ。その点でいえば、お前の場合は意地によるものか?」

 

 その問いには答えず、ランスで大剣をはじく。その間にランスが収納されると同時に両腕に付いているメティスと装甲の間からそれぞれブレードが飛び出し、それで楯無は仭を斬りつける。

 

「っ!ただのブレードじゃないな…」

 

「ええ、その通り!」

 

 それは掠った程度だったが、血が噴き出る。

 両腕の装甲から飛び出したこのブレードはただのブレードではなく、打鉄弐式の夢現のような対複合装甲用超振動ブレードである。さらにこのブレードは両腕だけでなく、両足の装甲に仕込まれている。

 大剣で捌いていた仭は、さすがに分が悪いと感じたのか大剣を捨て両手を手刀のように構え、エネルギーをその手に纏って硬化する。その状態で手刀を超振動ブレードへとぶつける。それによってブレードは弾かれた。

 

「が、この程度、質を上げれば十分対抗できる」

 

 楯無も次々に斬りかかるが、それは全て手刀によって弾かれる。

 仭はエネルギーを凝縮、それによって硬化した部分をさらに強固にして、ただの手刀を超振動ブレードに太刀打ちできるようにしたわけである。触れるのも一瞬といえるぐらいの時間であるため、そう簡単に削り切れない。

 

「ふん」

 

 仭は再び体勢を落としてブレードの横薙ぎをかわすと、今度は 低空 タックルをくらわせようとすると突っ込む。それを楯無は後退することでかわすと同時に距離を取る。

 

「ふふ」

 

 不敵な笑みを浮かべる楯無。それと共に霧が空間内に漂い始め、仭の周囲を覆う。

 

(ん?爆破は…ないか。さて、何を仕掛けてくるか)

 

 いつでも周囲にエネルギーシールドを張れるようにするため、腰を落とし、エネルギー展開速度も速めるために左拳を1段階収納し、地に構える。

 

(…ん?)

 

 空間を静寂が支配すると同時に、仭は異変に気付いた。

 

(楯無の姿が……視えない?)

 

 周囲を確認するも 見失ったというわけではなく、本当に消えてしまっていた。

 

「っぅ!?」

 

 瞬間、激痛が脇腹に走る。それと共に横を何かが横切った感じがし、ハイパーセンサーで確認するが何も視えない。軽く舌打ちをしながら、脇腹を見てみると斬り傷ができており、鮮血が迸っていた。

 

「…ああ、なるほど。そういうことか!」

 

 霧、目視不可、奇襲戦法。これらから身近でそのような戦法を使う誰かに思い当り、それが相手はできるようになっている仭は察した。

 アクエリアスに組み込まれているアクア・クリスタルは、第二形態移行によってナノマシンプラント能力が従来の2倍になり、さらにはハイパーセンサーをも欺くことができるジャミング機能が追加されている。これに霧で空気中の水分濃度を上げることで楯無は姿を隠し、仕込まれたブレードを使い、奇襲戦法を行っていた。

 

「やることまんま暗部だな……っ!」

 

 さらに斬り傷ができ、鮮血が迸る。

 密閉空間故に霧が充満しているため、濃度も量も効果を大きく発揮しているが、実際は完全に視えないというわけではなく、うっすらとは視える。だが、所詮はその程度。仭自身が作った空間が完全に仇となってしまっていた。

 

「―――が、それが何だ。いきなり俺に気配を読まれぬようにしながら、こんな芸当を行うのは純粋に賞賛に値するが、結局の所はレイラの真似事だ。最初から清き熱情を発動しないということは、お前自身この空間内で防御する術がないということだろう。本来であれば、清き熱情という手も追加され、相手にプレッシャーがかけられるだろうが」

 

『ええ、その通りよ』

 

 別段問いかけているつもりではなかったために、応答した楯無に僅かばかりに呆れの表情を作る仭。

 

「余裕のある暗殺者(アサシン)だなおい。失念をした時点で、お前にそんな余裕あるはずがないというのに」

 

『?』

 

 仭は右手の展開装甲を発動し、エネルギーで作られた大槌を成形する。傍から見れば、通常の大槌が右腕と一体化しているような状態だ。

 

「ふん!」

 

『グッ!』

 

 壁の辺りギリギリまでリーチがあった大槌を、仭はそのまま周囲へと薙ぎ払う。

 さらに大槌を拳へと戻しながら、大剣を左手に呼び出すと大剣の展開装甲を発動。熱を持ったそのままの状態で、再び周囲へと薙ぎ払うと、その熱によって霧は蒸発される。数回薙ぎ払いを続けていくと、霧の量はどんどんと減っていく。

 

「む!?」

 

 仭が薙ぎ払いを続けてる途中、突然両脚が動かなくなって回転が止まってしまう。勢いは止まったわけではないので、バランスが崩れ、おもわず前のめりへ手を付いてしまう。その際に両脚が凍って地へくっついてしまっていることが視界に入った。

 

(何故、いやそんなことより!)

 

 すぐさま手を押して体勢を直し、持っていた大剣で超高周波振動ブレード『村雨』を持った楯無の斬り下ろしを受け止める。

 

「はぁっ!?」

 

 ぶつかり合った瞬間、村雨の刀身を受け止めている大剣の刀身に罅が入った。これには仭も思わず素っ頓狂な声を上げる。

 鍔迫り合ったままではいつか粉砕されると悟った仭は、両脚にエネルギーを集中させ、その熱で凍った個所を解凍。体勢を立て直して、鍔迫り合った状態の大剣を前へと無理矢理押して楯無を離れさせる。

 

(…いくら斬れ味が落ちてたとはいえ、罅を入れるとは。振動だけでなく水にもよって斬れ味が増しているというわけか)

 

「ふふ」

 

「!」

 

 大剣の状態を見てる仭の姿に笑みを浮かべる楯無。どうやらその間にも行動を移されていたようで、霧が周囲に漂い始める。その際、冷気のような感覚を仭は持つと、すぐさま大剣の展開装甲を発動させ、周囲へと再び薙ぎ払い、霧を蒸発させる。

 

「何回も回って、忙しいわね」

 

「うっさい。…にしても氷結機能、か。脚を凍らせたのにもようやく合点がいった」

 

清き冷情(クリア・コルドネス)。清き熱情の氷結版と思ってくれればいいわ」

 

 第二形態になったことでアクア・ナノマシンは熱伝導による発熱以外に、熱の放出による氷結も可能となっている。

 

「それに思っていたよりも浮かれてはいないようだ」

 

「当然。油断してる振りしてたのに、惜しかったわ」

 

「ハ!あくまで思っていたよりは、だ。浮かれてないわけじゃあるまい」

 

「さて、どうかしら」

 

 再びの会話。楯無が応じるのも、この後の行動をどうするかという思惑があってだった。

 何しろ仭の方は相手のISが第二形態となったというのに、多少なりとも意気消沈するどころか、むしろ意気揚々となっていて、通常時よりも今の状況では厄介だと思わざるを得なかったからだ。その仭が現在そうなっているのはようするに戦闘狂の一面が出てしまっていて、それが動揺などを上回ってしまっているからである。もちろん仭に自身が不利だという自覚はあるし、アドバンテージを取られつつある自覚もある。

 どうするかそれぞれ思考しながら会話をまた少し続けてると、少しばかり息苦しくなってきたのを2人は感じる。

 

「…もうそろそろこの空間も限界、か。そろそろ意識を刈って終わらせるとしよう」

 

「あら、こうやって会話を誘導させておいてその言いぐさはおかしいんじゃない?」

 

「…さっきから清々しいくらい堂々と霧を生成してるお前がそれを言うか?」

 

「あは♡」

 

「今までのその言葉の中で1番うぜぇ!!」

 

 仭は鎖を取り出してエネルギーを先端に集中。それを邪魔にならない程度に周囲へと振り回し、どんどん空間内に充満してくる霧を蒸発させていく。だが、ナノマシンプラント能力が従来の2倍となっているアクア・クリスタルによる生成によって、蒸発は追いつかない。

 

「鬱陶しい!」

 

「!」

 

 展開装甲を発動した大剣を放り投げ、付いているビット機能を使って楯無を翻弄するように仭は動かす。縦横無尽に動き回る大剣に楯無は思い立った動きができない。

 ただ1つ楯無の真正面――つまり仭がいる方向だけ抜け穴があり、それをわざと作った張本人の仭は楯無へと突っ込む。それに村雨で斬りかかろうとする楯無だが、仭が先に攻撃を仕掛けていた。

 

「もらった!」

 

「かっ…!」

 

 踏み込みと同時に楯無の懐辺りまで近づき、双掌打を叩き込む。それは踏みこみ時と掌打の叩き込み時に音が響く程の威力で、それに楯無は村雨を離してしまうと共に後方へと吹き飛んだ。

 

「ぐぅぅ!」

 

 壁にぶつかり、大きく怯んでしまいそうになるが、歯を食いしばって膝をつかずに着地。その後すぐに瞬時加速を発動、仭へと突進する。その際奇しくも同じ手で突進しようと仭はしていたが、今度は楯無の方が早かった。大型と小型の間の中型ウィングスラスターともいえるスラスターとなったことで、一瞬だけトップスピードを出し、相手の死角に移動することができる瞬間加速(クイック・ブースト)をすることができたからだ。

 瞬間的とはいえトップスピード。仭は楯無に押される形で壁へと激突する。

 

「…力じゃ俺のISには敵わないが?」

 

「わかって、るわよ!」

 

 2人がぶつかり合う際、楯無は仭の両手を自身のそれらで抑えていていた。壁に激突した際も楯無は離さず、仭を壁へ貼り付けている。

 あまりダメージの余韻が見られない仭に掴まれてる両手をどうにかされる前に、楯無はドロップキックのように蹴りを腹へと叩き込み、その威力を利用して離れる。楯無が離れたものの、仭は行動を取ることができなかった。清き冷情(クリア・コルドネス)を楯無は仭の四肢へと発動して凍らせ、壁へとくっつけさせたからである。

 

「…油断大敵」

 

「っぅ!」

 

 それでも仭は冷静にビットとして扱っていた大剣を使って楯無を背中から斬りつける。

 だが、怯むわけにはいかない。そう自身に言い聞かせ、霧を仭へと散布させる。防御しようとも、解凍をするのには数秒時間がかかってしまい、間に合わないと瞬時に判断した仭は

 

「常々思う。性格悪いな」

 

「それ、あなたにだけは言われたくないわ!」

 

 楯無の清き熱情による水蒸気爆発に呑まれた。

 

 

 

 




『緋弾のアリア×IS 緋と蒼の協奏曲』などのコラボをしてくださる竜羽さんに考えてもらった機体です。
どうもありがとうございました。


ミステリアス・レイディ 第二形態・水妖(ローレライ)
ミステリアス・レイディがセカンドシフトした機体。見た目がかなり変わっており、両腕両足のアーマーに仕込まれた対複合装甲用超振動ブレードと腕のブレードを隠す小型シールド『メティス』、一瞬だけトップスピードを出して、相手の死角に移動するクイック・ブーストが可能な中型ウィングスラスター4基が装備された。
さらに大きく進化したのがアクア・ナノマシン。熱伝導による発熱以外に、熱の放出による氷結も行えるようになり、攻撃にバリエーションが増えた。
アクア・クリスタルはスラスターの間に装備されている4つの非固定ユニット『アクエリアス』に組み込まれており、正面から見たら白のウイングスラスターと水色のアクエリアスによって8枚の翼があるように見える。またナノマシンプラント能力が従来の2倍になり、ハイパーセンサーをも欺くことができるジャミング機能も追加された。
追加武装
・メティス:両腕にそれぞれついている小型の物理シールド。大きさは小さいが水を集め、氷結させることで防御範囲を拡大させることができる。
・超高周波振動ブレード『村雨』:ソードモードのラスティーネイルと同じ長さをした近接用ブレード。刃の部分に水を纏わせることで斬れ味を増幅させる。敵を切り裂いた瞬間水がほとばしるさまから、村雨の名前が付いた。
清き冷情(クリア・コルドネス):清き熱情の氷結版。

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