IS<インフィニット・ストラトス> ~白き騎士と黒き暴君~ 作:狂戦士
第12話 突然の変異者
仭の体が突然発光を始め、その異常発光はどういう意味か仭以外はわからなかった。
「どうやら今までの攻撃によるダメージでとうとう貴様の機体も壊れかけのようだな!」
両腕のプラズマ手刀で押し切ろうとしながら、ラウラは勝利を確信して言う。その間も仭の体は発光していてブオオオと、音がアリーナ内に響いている。
「仭、もしかしてここで負けるの?」
その様子を見ていたシャルルは心配そうに言う。
「いや……」
その中一夏だけはその発光の意味はわからなかったが1つだけ理解できたことがあった。
「仭は…おそらくこれを狙っていたんだ」
「教えてやろうラウラ・ボーデヴィッヒ。俺の機体、剣闘士は単一仕様能力を持っている」
仭はラウラの攻撃を受けながら言った。その間も絶え間なく仭の身体は発光している。
「単一仕様能力、『疵獣咆哮(マッスル・リベンジャー)』は相手の攻撃を受ければ受けるほどその攻撃の際に生じるパワーをエネルギーに変え、機体に蓄える能力を持つ」
「何?」
「俺が戦闘開始よりお前の攻撃を受け続けたのはそのためだ」
「…やっぱり」
一夏は確信したように言う。
「仭は機体にエネルギーを蓄えるためにわざと攻撃を受け続けていたんだ」
「…だが攻撃を受けた割には発動するのが遅すぎるようだが」
「確かにずいぶんと遅い。直撃を2,3発くらってしばらくすれば満タンまでたまる。俺の機体は、ターボチャージャー機能で蓄えたエネルギーを少しずつだが増幅させることもできるからな。だからといって直撃をくらえば絶対防御が発動する。そうなればすぐに負けだ」
「ならばどうやって溜めた?直撃を受けたのは1度もなかったぞ!?」
「…お前は人の話を聞いてなかったようだ。もう1度言う。攻撃を受ければパワーを機体に蓄える、そのパワーを少しずつだが増幅できる、そして今までの紙一重の防御、これで俺が何を言いたいかわかるはずだが?」
「…貴様まさか…!?そのようにして私の攻撃を避けてたというのか!?」
「…つまりどういうこと?」
仭の言葉の意味がわからなかったシャルが疑問を浮かべる。
「つまりだシャルル、仭は今までの攻撃を避けてたわけじゃない。わずかにくらっていたんだ」
「ということは…」
「ああ、あいつは直撃を避けてかする程度に調整しダメージを受け、時間を稼ぎ、今やっとパワーが満タンになったということだろう」
その事実に愕然とするラウラ。それが自分の攻撃が利用されていたためだったのか、自分の攻撃がまったくきいていなかったのか定かではない。だがラウラは冷静になっていた。
「…たとえエネルギーを蓄えたから何だというのだ?私にもし攻撃しようとして防御を緩めればこのプラズマ手刀が確実に当たり、絶対防御が発動するぞ!」
「そんな心配はご無用だラウラ・ボーデヴィッヒ。生命の鎖(ライフ・ライン)」
仭の機体の背中から2本の鎖が出てきてその先端にある尖った刃物がラウラの機体に刺さる。
「リベンジクラッシュ!」
すると仭の全身の発光がラウラに移った。
「な…なんだ?この機体の異常な反応は!?」
ラウラに移った発光が消えていき、ラウラの全身に淡い光が残った。見たところプラズマ手刀のエネルギー部分が大きくなっている。
「さっきも言った通り俺の機体はエネルギーを蓄え、ターボチャージャー機能で増幅することができる。その後いろんな使い方ができるが今行ったのは溜めたエネルギーを他の者へと送りったことだ」
「どうやら血迷ったようだな!そんなことをすれば相手をより強くしてしまうだけだろう!このままお前を押し切ってやる!」
そう言いラウラが押していくと剣闘士の機体の腕の装甲がビキビキと悲鳴を上げる。誰もがラウラが勝つと思っていた時に予想外の出来事が起きた。
バギャッ!!
その音はラウラの両腕のプラズマ手刀がいきなり壊れた音である。しかしこれはこのアリーナにいた誰の攻撃によるものではなく、突然壊れたのである。
「気を取られすぎだ!」
ラウラが動揺してる隙に蹴りを入れる仭。何とかくらったラウラも体勢を立て直した。
「ど…どういうことだ…」
「簡単だ。お前はその力を扱えなかった。それだけだ」
「な、何!?こうなったのは自分の所為だというのか!?」
「結果的にはそうだ。わかりやすく言うとすれば、武器を使って相手を攻撃した場合それにより相手はダメージを負うが武器もなんらかのダメージ、耐久力の低下や破損などを負うこともある。一夏の白式がISに対して無にする力を持つなら俺の剣闘士はISに対して破壊する力を持つ」
仭は腕の装甲の様子を見ながら説明する。
「蓄えたエネルギーをターボチャージャー能力で増幅させ、疵獣咆哮によってお前自身に増幅されたエネルギーが戻されたら、当然お前の攻撃によって機体や武器に受けるダメージも増幅する。『肉を斬らせて骨を断つ』もとい『粉骨砕身』、今のお前の攻撃は身を滅ぼす」
「そ、そんなことが…」
「送り込んだ巨大エネルギーを使いこなせず…いや力に溺れたがゆえにお前の武器はお前の手により破壊されたのだ」
「くっ…だが…私には武器はまだある!」
そう言い6本のワイヤーブレードを飛ばしてくる。いつもより速い。
「……お前は人の話をまったく聞かないのか?全力でワイヤーブレードを飛ばしやがって…それは俺には当たらない。エネルギー兵器でなくとも放出武器や銃などにも効果はある」
ワイヤーブレードは仭に飛んでいくと思いきや、途中であさっての方向に飛んでいく。
「なっ…」
「だからお前はその力を使えこなせていないんだ。コントロールもできていない。それに言ったろ、エネルギーが増幅されれば攻撃を繰り出す本人の機体や武器が受けるダメージも増幅されると…」
そのワイヤーブレードは壁にぶつかり、壁が大きく壊れる。
「これがリベンジクラッシュだ」
それに伴いワイヤーブレードも音をたてすべて壊れた。
「…さてそろそろ終わりにするぞ」
仭の右腕にブレード3本が展開され、その3本のブレードの刀身が零落白夜のように変形し、エネルギーの刃を形成する。そしてそれによるブレードクローで大型レールカノンに斬りかかると、たたっ斬れた音とともに大型レールカノンは破壊された。
「わかったか?攻撃力だけでは勝てない。一夏にも勝てないと言ったのもそれが理由だ」
そして追撃の回し蹴りでラウラを壁にぶつける。その衝撃により絶対防御が発動したらしく、シールドエネルギーが大きく削られる。そしてラウラの機体に紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始める。だが次の瞬間、異変が起きた。
*ラウラサイド
(こんな…こんな所で負けるのか、私が…)
確かに相手の力量を見誤った。あの男と戦うことしか考えず、前の相手を見ていなかった。しかも2対1でかかって来ることもせず、1対1でかかって来て倒せると油断していたのもあった。しかし、それでも
(負けられない!あの男を叩き潰すまでは…)
遺伝子強化試験体C-0037として生まれ、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という『記号』を与えられた私は、ただ戦いの為だけに作られ、育てられ、鍛えられた。知っているのはいかにして人体を攻撃するか、わかっているのはどうすれば敵軍に打撃を与えられるか。常に優秀で有り続けた私は、ある処置によって1度全てを失った。『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』と呼ばれるそれは、擬似ハイパーセンサーとも言える眼球へのナノマシン移植処理によって異変が生まれた。
理論上では危険性はまったくなく、不適合も起きないはず、だったがこの処置により私の左目は赤から金へと変色し、制御不能へと陥った。この暴走とも取れる『事故』によって私は『出来損ない』の烙印を押された。
世界は一変した。私は闇からより深い闇へと落ちていった。そんな私が初めて目にした光。それが教官……織斑千冬との出会いだった。
「ここ最近の成績は振るわないようだが、心配するな。1ヶ月で部隊内最強地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」
その言葉に偽りはなく、あの人の教えを忠実に実行するだけで再び最強の座に君臨した。しかし、安堵はなく、あの人に深く憧れた。たとえ理由がなくとも、ただ一緒にいようとした。それだけで十分だった。その姿を見つめるだけで私の中から沸々と力が湧いてくるのを感じられた。それは『勇気』に近いらしく、そんな力があったからか私はある日訊いてみた。
「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」
その時、あの人が、教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。私は、その表情になぜか心がちくりとしたのを覚えている。
「私には弟がいる」
「弟……ですか?」
「あいつを見ていると、わかるときがある。強さとは何なのか、その先に何があるのかを」
「……よくわかりません」
「今はそれでいい。そうだな。いつか日本に来ることあるなら会ってみるといい。……ああ、だが1つ忠告しておくぞ。あいつに――」
教官の笑みを見た時、私は違うと思った。強く、凛々しく、堂々としているのが、『教官』のはずだった。だから許せない。教官にそんな笑顔をさせる存在が。そんなふうに教官を変えてしまう弟。それを認められない。認めるわけにはいかない。
だから
(私はまだ負けられない。あの男と戦って完膚無きまでに叩き潰すまでは!)
だから勝たなくてはならない。あれを壊すために、そのために――
(力が、欲しい)
すると突然、私の頭の中に無機質な声が流れ込んできた。
『――願うか……?汝、何にも負けない力を求めるか?』
言うまでもない。力があるなら、奴らを倒す力が得られるなら
(だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対の力を私に寄越せ!!)
Damage Level……D.
Mind Condition……Uplift.
Certification……Clear.
《Valkyrie Trace System》………boot.
*仭サイド
「ああああああああっ!!!!」
「!?何だ?」
突然、ラウラの絶叫がアリーナ全体に響き渡り、同時に機体シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電流が放電する。
「じ、仭…何なの?これも、単一仕様能力の能力、なの…?」
俺とラウラの戦いを見ていた簪は近づいて話しかけてくる。
「…何でもかんでも俺の所為にしないでくれ簪、これに関しては俺じゃない。実際あいつに送ったエネルギーはワイヤーブレードを使ったときにもう使い切っていた」
リベンジクラッシュはその強大なエネルギーを送り込んで相手の武器を自壊させ、無力化させる。しかし与えるダメージも当然上がるため、当たった場合大きなダメージを受けるので危険である。しかし相手の武器を自壊させるといっても全力を出さず、威力や力を抑えて使えば2,3回は保つ。ラウラは全力で武器を使っていったため、1回の攻撃で壊れた。
「しかし一体何が……!?」
「えっ!?」
俺と簪は目を疑った。ラウラのISが変形、いや、変形などという生易しいものではない。形を保っていたシュヴァルツェア・レーゲンの装甲がすべてスライムのように溶けだし、そのスライムがラウラを飲み込んでいく。そして、ラウラを飲み込んだ『何か』が形をだんだんと成形される。その姿は全身装甲のように体全体が黒で覆われているが、輪郭的に顔と肩から肘までは露出しているように見える。
『非常事態発令!トーナメント全試合中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』
避難放送がかかるが、俺は黒い『何か』が持つ武器を見ていた。その武器には見覚えがある。
「あれは…『雪片』か、…VTシステムだな」
ドイツがラウラのISに組み込んだのか?いや、あるいは…
「えっ、VTシステム?」
「そのことに関しては…危ない!!」
「えっ!?」
簪が夢現を構えていたからかその黒いISが簪の懐に飛び込んで来たため俺は簪を突き飛ばす。振り下ろされる雪片を左腕の装甲で防ぐが、防ぎきれずに斬撃により吹き飛ばされた。
「仭!!」
吹き飛ばされた俺を簪が受け止める。
「くっ、左腕をやられたか…」
何とか左腕に対して直撃を避けたが装甲は完全に壊れ、負傷している。
「簪、単刀直入に言う。あれは偽物でも千冬さんをコピーしている」
「えっ!?」
「お前は箒を連れて戻れ。俺はあいつと戦う」
「で、でも…」
「無論あれを倒そうとも、倒せるとも思っていない、偽物でも世界最強だ。時間稼ぎをするから早く戻れ!教師が来て鎮圧するまで俺はあいつを相手する」
「…わかった…」
そう言い簪は箒を連れて戻る。さてあれを相手にどこまでやれるか。まるで悪魔に魂を売り、異形の姿になりはてたあれを相手に………
剣闘士の単一仕様能力で今回使ったのは1部分です。