IS<インフィニット・ストラトス> ~白き騎士と黒き暴君~ 作:狂戦士
第49話 生徒会長との勝負
「さて、勝負の方法だけど…」
場所を移して道場に3人はいた。道着に袴姿の楯無が扇子を広げて、同じ服装の仭に説明する。一夏は離れて畳に安座で座っている。
「面倒だ。どちらかがギブアップ、もしくは続行不能になったらでいい。判定は一夏だ。判別なんざ誰でもわかるからな」
「わかったわ」
「物分かりがいいな。男は全員弱いと、勘違いする
「私が勝つからいいって意味なだけよ?」
「言ってろ。それと、真剣勝負だ」
そう言って2人の纏う空気が変わる。いつでもやれるということが一夏に感じられた。
「先行は譲るわ」
「ならお言葉に甘えよう。…一夏、始めの合図頼む。それと離れた方がいいぞ?」
「え?あ、ああ…始め!!」
一夏が少し離れたところで、勝負開始の合図をすると仭が小手調べかと楯無に突っ込み、腕を取る。
「む!」
だが掴んだ瞬間に仭の体は宙を舞い、背中から畳みに叩きつけられたが、ブレイクダンスに使われる背中で回転するウィンドミルを行い、素早く体勢を立て直し、再び突っ込む。
「あら?」
そのまま腕を取るかと思いきや、後方に回り、楯無の腰に腕を回してクラッチ、ジャーマン・スープレックスで投げる。
「は!」
しかし楯無は投げられた瞬間、後方に身体を回転させ、バック転の要領で足から着地する。しかしその隙を逃す仭ではなく、楯無に近づき、浸透勁を放った。
「ぐっ…っ!」
「……………」
くらう前に反応をし、直撃をなんとか楯無は避け、仭から少し間合いをとる。
「舐められたものだ。真剣勝負だと言っただろ?」
「そうね。…少し甘く見てたことは謝るわ。けどもう甘く見るなんてことはしないわよ?」
そう言いドンッと、畳を蹴った楯無は仭の目の前に急接近した。
「!?しま―――何てな!」
楯無が掌底打ちを当てようとするも、仭は楯無の袖を掴み、斜めに踏み込んで引き倒す。
「くっ!」
右手を畳みに突いて、それを軸に回転して体勢を立て直した。
「『無拍子』使ってくるとはさすがだが、今の俺ならその速さにも対応できる」
先程の楯無のすり足移動は『無拍子』と呼ばれる、古武術の奥義の1つ。人間の大体は自身のリズムで生きており、心臓の鼓動しかり、呼吸のタイミングもしかりで、様々なリズムがある。例えば相手と『息が合う』というのは、リズムが互いに合っているの"背定"で、『肌が合わない』というのは逆に"否定"の意味を表している。そしてそのリズムを意図的にずらす事で、相手の攻め手を崩す『打ち拍子』と言い、その対となるあえてリズムを合わす事で、場を自在に支配できる『当て拍子』が存在する。そして『打ち拍子』『当て拍子』の最上段に位置し、リズムを一切感じさせる事無く、またリズムを感じる事無く、リズムの空白を使う技術の事を『無拍子』と言う。
「どういう意味かしら?」
「簡単なことだ。今の俺は武器を持ってない。俺は普段制服の中にナイフやら手榴弾やら多く仕込んでいる。合わせると結構な重さだ。それを俺は全て捨ててるわけだから反射神経と合わせて対応しただけだ」
「あらそう(でもそれだけじゃないわね。おそらく『無拍子』に反応できたのも経験済みの可能性が高いわ)」
「さあ、行くぞ」
(…こっちも本気でやった方がよさそうね)
仭が楯無に近づき、ラリアートをくらわそうとする。楯無はこれを止め、柔道の内股で投げる。仭は叩きつけられるが、浮いて、飛んでいる数秒に体勢を立て直して4つん這いで着地、足払いをかけるが楯無はジャンプ、その瞬間を狙ったかのように腹部に片方の肩を当て、そのまま楯無の体を腕で捕らえて起き上がると同時に肩の上にうつ伏せで乗せ、水車落としで後方へ投げ落とす。
「うぐっ…くっ!」
「うお!?」
仭が離れた後、ネックをして起き上がり、ショルダー・タックルをくらわし、仭が怯んだところを背後から腋下に頭を入れ、両腕で相手の胴に腕を回しクラッチ、持ち上げてバックドロップをするも、投げられた瞬間に仭は後方に1回転して足から着地をして免れる。
「はあ!」
そして再びショルダー・タックルをくらわそうと楯無は突っ込むも、仭に抱え上げられ、ボディスラムで抱えて投げられる。
「む!?」
しかし楯無は倒されると仭の両膝裏を両手で刈り、肩で押しながら双手刈(もろてがり)のように仭を倒し、頭の後ろに右手を回し、自らの左袖口を掴み、左手刀を相手の喉元に当て、気管を絞める袖車絞め(そでぐるまじめ)をする。
「………」
「仭君、確実に入ってるからギブアップするならした方がいいわよ?」
「仭、ギブアップするか?」
「…馬鹿言え」
「っ!?」
ゴッ!と頭突きをくらわし、楯無の絞めが少し緩まったところを、両手を使って楯無を突き飛ばし、両脚を使って片脚をしっかり挟み、脚を抱きかかえるようにしながら体ごと後方へ反り返るようにして膝十字固め(ひざじゅうじがため)を決める。
「ぐうう!!」
「!?仭!それは禁止されてる関節技じゃ!?」
膝十字固め、高専柔道において用いられ、当初は『足の大逆』と呼ばれていた。しかし、のちに高専柔道競技においても禁止され、また柔道においても足の関節技は禁止されている。この技が極まれば、最悪相手の膝が可動域の反対方向に折れ曲がる形になるため、危険な関節技。
「それは柔道での話で、今は真剣勝負だ。それに一夏、この関節技を責めるというなら楯無が使ったバックドロップやジャーマン・スープレックスとてかなり危険な技だぞ?第一楯無に俺は『下手をすれば大怪我をする技については?』と聞いたら使っていいと本人が認めたのだから問題はない」
そう言いながらも仭はホールドを緩めない。
「ぐっ…まさかこんな技も使ってくるなんてね……」
「卑怯ではないぞ?第一俺の戦闘術は相手との実戦を想定している。実戦では情けなどは足を引っ張るからな。…1度だけ言う。ギブアップするか?」
「…しないわ!!」
空いているもう片方の足で背中を蹴り上げ、膝十字固めから脱出し、背後より両腋の下から自らの両腕を通して、仭の後頭部あたりでその両手を組んで固め、羽交い締め(はがいじめ)を決めるが
「仕掛けがまだ甘い」
「っう!」
仭が腹のあたりに肘打ちを決め、固められている両手から抜け出し、反転して両足で楯無の顔面を蹴ろうとするが楯無はそれを避け、下がって立ち上がり、体勢を立て直す。仭も初めから避けることをわかってたのか蹴りをネックに変えて立ち上がる。
「…あなたに痛みは感じないのかしら?」
「人を痛覚無視してるような奴にするな。感じてる。というか痛みにいちいち怯んでたら反撃なんざできやしない」
「それもそうね…」
「…ま、俺も少々容赦せずに始めるか」
そう言うと仭は乱れた髪を直す。
「ふーーー」
そして仭は道着を直し、静かに息を吐く。シンッと辺りが一瞬静かになり
ドンッ!!
「!」
そう音を立てて、仭は楯無の使った『無拍子』に加え、何の脚捌きも見せずに1歩で楯無の近くまで詰め寄った。楯無は完全に反応が遅れ、仭は拳を腹に叩きこむ。
「ぐ!?(動きがさっきと違う!?まだ段階を上げられたわけ!?)」
楯無の考え通り、仭は一夏も気付かない程度に速さを抑えていた。そして楯無は完全に仭の間合いに入ってしまっているため、追撃の拳が再び襲う。
「っ!」
痛みが残っているが楯無は何とかしゃがんでかわし、続く第3撃が来る前に楯無は脇腹に渾身の蹴りをかます。
「ぐう!――らあ!!」
「!?」
まともに脇腹に入り、表情も苦痛に歪めたが、仭は怯むことなく楯無の頭に瓦割りのごとく手刀をくらわし、楯無は倒れそうになるが体勢をすぐに立て直して下がる。
「反撃をするとこまではよかったが、威力を逃げる余力がある程度に収めるべきだったな」
「くっ…」
「どうした?最初に言ったことは狂言か?」
「別に、最後に勝つのは私って意味よ!!」
「そうか」
そう言って楯無は近づき、2人はそれぞれ襟と袖を掴み、柔道のように組み合う。しかし力は仭の方が上だったのか、無理矢理押し倒そうとする。
「!?」
すると楯無は真後ろに倒れ、仭の押し倒そうとする力を利用し、片足の裏を相手の腿の付け根に当てて、押し上げるように巴投(ともえなげ)をかける。
「――と!」
しかし空中で体勢を立て直してうまく仭は着地、その瞬間に楯無は仭の背中、肘、肩などに掌打を叩き込む。
「ぐ…!」
さすがに効いたのか仭は片膝をつく。当然それを逃す楯無ではなく、後ろから双掌打を叩き込もうとしたとき、仭は突然自分の背中に軽く掌打を打ち、そして体ごと後ろを向いて顎めがけてサマーソルトキックをくらわせようとする。
「っ!」
それを何とか掠らせる程度に収め、後ろにいったん下がる楯無。
「…まさか『空勁気功』も使えるなんてね」
「何だ知ってたのか。じゃあ説明する必要すらないな。俺は軽い麻痺ぐらいだったら治せるということはわかるだろう」
仭が言った『空勁気功』とは簡単に説明すると身体に
「…は!!」
「む!(全力を出してきたか。が…)」
楯無は仭に突っ込む。すると仭は正拳を当てようとするが、それを楯無は蹴りで対抗、それぞれ防御した。
「やああ!!」
「はあ!!」
お互い攻防を続ける。お互いの攻撃が当たるたびに衝撃で震え、空気も軽く揺れる。そして攻防の末にわずかな隙をつき、楯無は掌打を仭の胸に叩きこむ。が
(浅い!?)
仭はくらう寸前に回避、防御はできないと踏んだのか自ら後ろに下がって楯無の掌打の直撃を避け、内部へのダメージを減らした。が、それでも仭は怯んでいるため楯無は追撃の双掌打を叩きこむ。
「っ……!!」
「!?」
しかし今度こそまともに入ったのにかかわらず、仭は少し後退しただけだった。その間に楯無の腕を取っており、蹴りを腹にくらわす。
「ゲホッ!」
楯無は咳き込む。仭も少し苦しそうにしてる中、楯無に話しかけた。
「…乱れてるな」
「?」
仭のその言葉を聞くと楯無は自分の道着を見る。見ると少しはだけて下着が見えている。
「仭…お前……」
「きゃ♪仭君のエッチ♪」
「…道着も含めてだが俺が言ったのは楯無、
「?」
一夏と楯無の言葉に動揺すらせず、そう語る。
「道着の乱れは心の乱れ。そう言っただけだ。とにかく道着を直せ(負けたくない、そういう気持ちは感じるが…さらにお前からは何か恐怖を感じる。俺に対してではない。何かにだ…大体想像はつくが)」
「……」
「試合を中断させて悪かった。…そっちから来い」
「…いいわ!」
そう言うと同時に楯無は一気に突っ込み、それを仭は捕まえようとした瞬間、楯無は瞬時にしゃがみ、掌底を仭の胸に叩き込もうとするが
「遅い」
最初からそう来るのがわかっていたのか楯無の両脚を左脚で掬いあげ、反撃の掌底を腹に叩きこむ。
「がはっ!」
「ぐっ!」
そして地面に叩きつけられる。その前に楯無は胸に攻撃をしたが、ダメージを感じなかったかのようにそのまま仭は楯無の襟首を掴む。
「…動くか?ならば俺はお前を締め落とす」
その右手の指は頸動脈に触れている。馬乗りになっていてこのまま締め上げることも可能である。
「……ギブアップ…するわ…」
「…………」
それを聞くと仭は無言で手をゆっくり離し、道着を直した。
「俺の勝ちだな」
「ええ…そうね……」
「…あれ?もしかして仭?これってお前が生徒会長になるパターンじゃ?」
「やるつもりはないな。それにIS戦で勝たなきゃ俺は一切引き継ぐことは認めん」
「ああ、そう…」
「なら後でやらないかしら?」
それを聞いて楯無はそう提案する。が
「断る」
「え?何でだ?」
「今の楯無とはやらん」
「いや、だから理由を…」
「…もっとわかりやすく言うと楯無、さっきも言った通りお前には心の乱れがある」
「…さっきからどういう意味なのかしら?」
「正しくは葛藤、というべきか。悩みかなんかを抱えているだろ」
「…………」
「はっきり言うが実戦でもない中で、迷い等がある中やりたくはない。だからお前はまずそれを完全に失くせ。それはお前のためでもあるし、
「!!………」
「じゃあ俺は着替えに行く。一夏、後は任せた」
「え?ちょ……」
「…………」
一夏が止めようとするも仭はもう道場から出てしまい、楯無もいつもとは違う雰囲気なので沈黙が訪れる。
(な、何か気まずい……)
「…彼はわかってたのね。私と簪ちゃんのこと」
「え?」
そういきなり楯無が言ってきたので一夏はそう返してしまう。
「簪って…確か楯無さんと姉妹だって」
「あら知ってるの?そうよ」
いやだって更識って他にいないですし、そう言いながら一夏は
「さっきの意味何ですか?」
「…実はね」
すると楯無は一夏に語りはじめた。
仭が勝ったのはまあ、無力化をはかる戦闘術以外は人を殺す戦闘術がほとんどでしたからね。…ちょっとの差でギブアップを狙ったということなので完全に仭の方が楯無より強いというわけではありません。むしろ楯無の方が強いです。それだけで勝ったわけじゃ…まあ、ありませんが。