IS<インフィニット・ストラトス> ~白き騎士と黒き暴君~ 作:狂戦士
第80話 タッグマッチトーナメント
専用機持ち限定タッグマッチトーナメント前日。
生徒会室では、いつものように楯無、虚がいた。
「はー、とうとう明日かー。簪ちゃんとがんばらなくちゃね」
「そうですね。彼は少し可哀想ですが…」
「あっ、仭君のこと?それについてはノープロブレム!」
「?どういうことですお嬢様」
「ふっふっふ、秘密よ。こればっかりは」
「………」
何かろくでもないことを考えてるなと思いながら虚はため息をつく。するとドアをノックする音が2人に聞こえた。
「はーい、どうぞー」
「失礼する」
楯無の返事の後に、副会長であり、自称第二書記兼第二会計の仭が入ってきた。
「…何かイラッときたような」
「?」
「いや、何でもない」
「紅茶を入れましょうか?」
「せっかくですが…結構です」
「あら?虚ちゃんの紅茶は世界一なのに?」
「…やはりもらいましょうかね。それで虚さん、悪いんですがその後ちょっと楯無と2人にさせてもらってよろしいですか?話があるので」
「…はい、わかりました」
仭の真面目な表情を見て、虚は言う通りに紅茶を2人分出し、生徒会室から出て行った。
「………」
「………」
それぞれ向かい合って座った2人以外いない生徒会室に沈黙が走る。
「…で、どういう用かしら?」
「あの根回しはすんでるか?」
「あれだったら大丈夫よ。…で、それだけ?」
「そんなわけなかろう」
紅茶を一口飲みながら言う。
「…お前が頼んできた
「!あら?とうとうわかったの?」
「まったく…お前に聞かされたときは驚いた。箒の『IS適正』が【
「………」
楯無は仭にある頼みをしていた。それは箒の『IS』適正が入学時は【C】から【S】へと上がっていることだ。楯無が箒のフィジカル・データを見てみたいと、ステータスチェックをしたところ判明し、仭の組織でも調べて貰いたいと頼み込んだわけである。
「箒のパーソナル・データを見た時にも確かに驚いた。まあ、内容が内容だけに組織でも極秘に調べてもらったが…」
「どうだった?」
「…やはり駄目だ。それにそもそも短期間…半年でCからSに上がるなんざ聞いたこともない。当然組織でもそんな輩を出したこともない。Sランクなんざ組織でもただ1人のみ」
「そうよね…こっちでもめぼしいのはさっぱり」
適正値は操縦者がISを上手く操縦するために必要な肉体的素質。値が高いほどISを使いこなす可能性が出てくるが、訓練や操縦経験などで変化することもあるため、絶対値ではない。が、Sランクは世界で箒を除いて5人しかいない。
「組織は『IS適正』BやCでも、基本受け入れる。まあ、それはこの世の中の影響を受けすぎていない輩を雇うためでもあるんだが…で、Cからでも上げた人物はいるがやはり時間をかけてであるし、最高でもAだ」
「…適性だけでは箒ちゃんは世界最強の5人と肩を並べることになる」
「『ブリュンヒルデ』織斑千冬、『ヴァルキリー』サクヤ・アルモ二クス。彼女達のように…な」
「でもそんなこと…」
「有り得ないはず。だが、現実こうしてIS適正値でSを出している」
「………」
「となれば天災が関わっている…と、お前も考えたのだろう?」
「ええ」
「しかしこうしてお互い駄目だったわけだ。まったく、本当にあの人は世界に悪影響しか与えない。そして…」
「このことが世界に知られたら…」
「ああ、マズイだろうな。…委員会では今のところ箒は日本所属になりそうというのが現状だ。だがこのことは遅かれ早かれ、知られる。…世界が醜い口論の争いになるのは目に見えてる。適正値Sで、篠ノ之束直伝の第4世代型IS持ってる奴なんぞ改めて知ったら、な」
「一夏君は?」
「さあな。ただ、糞爺共が一夏のための判断なんざするとは思えん。…最悪実験体だろうな」
「…このままじゃ何もかも委員会の都合の良いように進むわね」
「…俺としては奴ら2人がISとは無関係の人生を送る、というのが1番の解決法なんだがな」
だが、そううまくいかないのが現状である。
「あなたの組織でもそう望んでるの?」
「どこにも所属してくれないでいてくれというのが、指揮官の本音だ。うちらに所属させるなんて、元世界最強と天災に喧嘩売る行為はするつもりはない」
「そう…」
「………」
再び沈黙が走る。
「…だが、今は考えても仕方がない。この先の委員会の動きも随時報告する」
「わかったわ」
「それで最初の話に戻るが楯無…組織で1つ推測を立ててみた。何故箒が適正Sを出したかを…」
「推測?」
「ああ、お前が信じようが信じまいが勝手だが、秘密にすることが条件だ」
「…わかったわ。話して」
仭は頷き、少し冷めた紅茶を飲み、一息をつくと話し始めた。
「楯無…。紅椿が本当の意味で箒のために造られた機体…と考えたらどうだ?」
「本当の意味で?」
仭は頷く。
「値が高いほどISを使いこなす可能性。つまりISとの相性は良いということ。そうなったのはおそらく紅椿を手にしてからだ。それに束さんは箒が紅椿を稼働してる時、こういう発言をした。『箒ちゃんが思った以上に動くでしょ』ってな」
「………」
「おそらく性能も含めてなんだろうが、ISを使いこなすという意味でも頷ける。それに『初期移行』はすでに済ませてあった。これを話したら組織である仮定が浮かんだ」
「どんな?」
「紅椿は操縦者、つまり箒に適する機体。つまり最初から箒に合わせてあるということだ」
「!でもそれって…」
「ああ、ISは自己進化を設定されていて、戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することで、IS自らが自身の形状や性能を大きく変化させる『形態移行』…専用機で言えば『初期移行』をするわけだが…」
「つまり紅椿には箒ちゃんのフィジカル・データがすでにのせられていたということ?」
「それだけではないだろうが…そうなるな」
「紅椿は箒ちゃんだけに適する機体?」
「…そう考えてる」
「けどそれじゃ箒ちゃん自体のIS適性がSについては説明できないんじゃない?」
「それについては紅椿を操縦して、潜在能力でも引き出したか…あるいは紅椿のおかげか…という考えだ。これに関してはなんとも言えない。あくまで組織が出したのは紅椿に対してだと思ったからな」
「………」
「まあ、あくまで推測でもこんな考えになってしまうということだ。これが当たろうがはずれようが、やばいことになるのは変わりはない」
「そうね…」
操縦者に合わせてできる機体を篠ノ之束は作れる。そんな噂が広まってしまえばさらに世界は躍起になるだろう。
「とりあえず済まんな。結局わからなくて」
「いいえ、大丈夫よ。ところで仭君」
「ん?」
「それぞれの専用機持ちのペアは見た?」
「さすがに見た。てか見たからここに来たんだ」
「だからその件は大丈夫だって」
「わかってる。…組み合わせは概ね予想通りだったな」
「そう、私と簪ちゃんは強敵よ?」
「ああ…。が、それ以前にお前と当たるとは限らないからな」
「それもそうね」
「…じゃ、そろそろ部屋に戻る」
「あらお帰り?」
「戻って明日に備えるとしよう」
「そう。…明日は負けないわよ?」
「その言葉そっくりそのまま返すとする」
2人は共に笑みを浮かべた。
そして仭は生徒会室から去っていき、楯無も明日はそれぞれの対戦相手がどうなるか考えていた。
早朝。早く起きた仭は整備室に1人でいて、機体の調整を行っていた。(といっても微調整ぐらい)
「よし、終わった」
最後の詰めも終わり、背伸びをして、脱力をする。
(確かトーナメント表は、開会式に発表されるんだよな。ペア…というか組は確か7組…)
楯無と簪、2年と3年ペア、アリシアとレイラ、一夏と鈴、シャルロットとラウラ、箒とセシリア。そして…仭。
(対抗策もそれぞれ考えてある。…後は邪魔が入って来なければいいんだが…。俺の覚えが正しければ、学園でイベントが起こるたびにことごとく中止、または騒ぎになる気がする。多分一夏が疫病神だ。俺が来る前から起こってるし)
そういうことが起こらないで欲しいと、思いながら持ってきた水筒を飲んだ。
「ふぅ……さて、ちょっと身体を動かすかな」
朝食はすでに食べ終えてあり、残った時間、軽く身体を動かそうと仭は整備室を出た。
「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます」
虚がそう言ってマイクスタンドから1歩下がり、今度は楯無が前に出てきて、マイクの前に立った。
ちなみにその後ろに生徒会メンバーの仭、一夏、本音が整列していた。
「どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかり見ていてください」
この大会は専用機持ちのためでもあるが、他の生徒は皆、試合を見て、それを今後の勉強に役立てるということも理由としてある。
「まあ、それはそれとして!」
楯無は持っていた扇子を開いた。その扇子には『博徒』の文字が書かれている。
「今日は生徒全員に楽しんでもらう為に生徒会である企画を考えました。名づけて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」
わああああっ!と、整列している女子のほとんどが騒ぐ。
「って、それ賭けじゃないですか!」
その中で一夏がただ1人突っ込んだ。
「織斑副会長、安心しなさい。根回しはすんでるから」
「え?」
一夏はそう言われて周りを見る。誰も教師は反対しておらず、ただ千冬だけが頭を抱えていた。
「おりむー、生徒会に最近来なかったから、私達で多数決取って決めました~。反対はお姉ちゃんだけだったし~」
「くっ…確かに最近は連携とかの訓練に没頭してたけど…ってん?虚さんだけ?」
その言葉に気付いて一夏は仭の方を見る。自分を除いて生徒会役員は4人。
「おい、仭。どういうことだ?」
「…1つ言っておく。当然乗り気じゃなかった。これだけは本当だ」
目を逸らしながら言う仭。
「では、対戦表を発表します!」
そう言うと、楯無の後ろに現れた大型空中投影ディスプレイに対戦表が現れる。
「げぇっ!?」
「…運が良いな。一夏」
一夏が思わずそう声を出した理由は――
『第1試合、織斑一夏&凰鈴音 VS 更識楯無&更識簪』
「最悪だ……」
優勝候補の一角と対戦することになり、一夏は大きくため息を漏らす。鈴の方も口元がさすがに引き攣っていた。
「…で、第2試合は……」
『第2試合、篠ノ之 箒&セシリア・オルコット VS アリシア・マーフェウス&レイラ・ハーベスト』
「こういう組み合わせか」
「ふむ、こっち側のブロックは決まったな」
するとザワザワと騒いでるのに一夏は気付いた。しかしそれは騒ぎ方がいつもと違うことだったので、疑問を覚える。
「会長ー!」
「はい?」
「3試合目ですけど、あれは…」
ある生徒から疑問が入る。一夏は第3試合の方を見てみると――
『第3試合、黒崎仭&ミステリアスパートナー VS シャルロット・デュノア&ラウラ・ボーデヴィッヒ』
とあった。2年と3年生コンビはシード枠で、第3試合の勝者ペアと対戦する。
「ミステリアスパートナー?」
「楯無…もっとマシな名称はなかったのかよ…」
仭は呆れている。疑問を覚えていないようで、それに一夏は余計にわからなくなった。
「あー、お前の言いたいことはわかる。今楯無から説明が入るから待て」
「えー、お静かに。黒崎副会長の相方についてはちゃんとした理由があります」
さらに騒がしくなったのを楯無が制し、説明する。
「まず黒崎副会長の相方はここの生徒ではありません!」
ええー!?と、声が上がるが楯無が再び制す。
「理由はまず専用機持ちは学年全部で13人。それで黒崎副会長が余ってしまいました。それで1人で出ることになってしまうと、2体1と圧倒的に不利になります。これでは食券争奪戦が面白くありません。そこで副会長は彼と関係の深いある企業から、私達と同じぐらいの年齢の専用機持ちを1人送り出してもらい、その者と出るという提案を出してきて、これを了承しました」
「…本当なのか?」
「企業に関しては嘘で、当然組織の者だ」
楯無の説明に一夏は本人に問う。
「けどよくこんなの了承されたな」
「俺は1人になってしまったから辞退しようとしたんだが、楯無でなく学園上層部が出ろとうるさくてな。だからこういう手段に出たわけだ。タッグマッチ通りにしたわけなんだから何の問題もない。これで公平なのだから。ククク…」
(仭の組織って本当に怖ぇ…)
一夏は仭の邪悪な笑みを見て、組織のやり方にそう思わざるを得なかった。おそらく脅しでもしたのでないかと。
「ん?じゃあお前が賭けに賛成したのって…」
「そう。楯無に『これを呑めば、専用機持ちを加えてのことに許可する』と提案というか、条件を受けてな。まあ、お互いに得があったわけだから了承したわけだ」
「うわぁ…」
やることに手段を問わない。一夏はそう思う。
(――ってそれより……)
一夏は改めて対戦表を見る。いきなり楯無と簪のペアと対戦するので、気分が落ち込みそうになる。
「まあ、そうブルーになるなって。あの優勝候補打ち破れば、まずお前達が最強なものなのだから」
「そりゃ言い換えればそうだけど…」
「それにある意味お前はラッキーなんだから」
「…何も考えたりせずにすむからか?」
「それもある。が、楯無と簪のペアと1回戦目から当たることだ」
「…どういうことだ?」
「考えても見ろ。あのペアは優勝候補。勝ち上がってくる可能性が高い。つまり遅かれ早かれ当たることがあるということだ。だったら疲れとかない快調な状態で戦いに臨んだ方がいいに決まってるだろ。時間は開いて休めたとしても、疲労とかが残るのだから」
「なるほど…」
それもそうだと、一夏は思った。臆することなく全力でぶつかる。そう心に決め、大きく息を吐いて気合を入れた。
前半に関してはあくまで作者の予想です。
後半は…まあ、いろいろ突っ込みたいところもあるでしょうが、一夏・鈴ペアは楯無・簪最強姉妹タッグです。普通に惨敗するかどうかは次話で。
仭のやり方については、組織の関係とか、IS操縦者の実力が見れるとか。生徒にとっては面白くなるだけでしょうし。ざっくりいうと脅しとかがあったで。
一応組織の実力も見せつける意味で。