ダンジョンに赤龍帝がいるのは間違っているだろうか   作:Wbook

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二話まで本日投稿。
続けるかは分かりません。気分転換に書きました。


プロローグ

 ——ああ、逃げ出してしまった。

 

 ベル・クラネルは、自分が心底から嫌になった。

 弱々しく、脆弱で、虚弱で、小さく、女々しく、無力極まりない自分が、情けなくて堪らなくなった。

 

 ダンジョンで彼女に……アイズ・ヴァレンシュタインに救われ、心奪われたあの時も、ただただあの出会いに舞い上がっていた自分にヘドが出る。酒場であの大柄の獣人が言っていたことは、何も間違っちゃいない。

 トマト野郎。いっそ潰れていれば良かったとすら思えてきた。

 

 情けない。情けない。情けない。

 

 

(なんて弱く、滑稽なんだ……僕はっ!!)

 

 

 何より情けないのは、天地ほどのチカラの差があるとはいえ、あの場であの獣人に文句の一つも言えずに逃げ出してしまったことだ。

 いや、たとえこれが見ず知らずのレベル1冒険者が相手であったとしても、きっと自分は何も言えずに逃げ出していた。絶望的なまでに自分は弱く、それ故に何も持ち合わせてはいないのだから。

 自身を主張するという、最低限の権利すら持ち合わせていない……力のない自分自身の落ち度だ。腕力も、胆力も、何もかもが足りちゃいない。

 

 ——チカラがほしい。

 

 ずっと、ずっと願っていたことだ。

 物語に出てくる英雄達のような、尋常ならざる膂力を、神域の技を、いつか自分も……そう夢見てきた。祖父から与えられた英雄譚を読む度に、想いを馳せてきた。

 しかし、それでは駄目だと痛感させられた。

 

 

(足りなかった、何もかも……!)

 

 

 覚悟が足りなかった。想い描くばかりで、それだけで何かが起きるという勘違い。滑稽にも程がある。ベルは自分の顔が焼けるように熱くなるのが分かった。羞恥と、それ以上に自身へ向けた抑え難い怒りによって。

 

 そして、目指す頂すらも見間違えた。

 

 ベル・クラネルという少年は、およそ英雄たる器ではない。そんなことはベル・クラネル自身が一番分かっていたはずだ。圧倒的に素質が足りない。

 それでも諦められないからこそ、ダンジョンに来た。……それなのに、素質だけでなく、覚悟すら足りず。あまつさえ、目標すらも見誤った。

 

 

(ここで僕は、ベル・クラネル()を殺す)

 

 

 弱い自分を、この場で焼き尽くす。憎むべき仇を、この場で完膚なきまでに八つ裂きにし、新たな自分を引きずり出す。

 それが出来なければ、ベルの物語はここでおしまいだ。

 

 英雄を目指すのではまだ足りない。——遥かその先を、アイズ・ヴァレンタインよりさらに上を見据えなければ、ベル・クラネルは英雄になど成れはしないのだから。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 神ヘスティアは、頭を抱えていた。彼女が頭を抱えることは別段珍しいことではないが、今回ばかりは話が別だ。

 他ならぬ、自身にとって初めての眷属にして、ヘスティア・ファミリア唯一の構成員のこととなれば、金欠で上げる呻き声と同じというわけにもいくまい。

 

 

「あぁ……どうするべきか。アレを伝えれば、ベル君はきっと大喜びするんだろうけど……」

 

 

 果たして伝えて良いものか。伝えるにしても、全てを伝えては不味いのではないか。しかしだからと言って、つく必要のない嘘なのもまた事実。

 

 

「悩ましいなぁもう……!」

 

 

 アレは、無理無茶無謀を成し遂げ、遥か格上の強敵難敵をも打倒せしめ、本来不可能であるはずのことを可能にしてしまうものだ。

 

 

「こんなスキルを発現してしまうなんて、君は一体どういう運命を背負っているんだい、ベル君や……」

 

 

 強力無比なのは間違いない。“由来”からしてそうなのだから。

 しかしだからこそ、伝えることを躊躇ってしまう。不可能というものは本来挑んではならないものなのだ、少なくとも命がかかる場面では絶対にしてはならない禁忌と言える。

 

 危険でないはずがない。娯楽に飢えた神々も絶対に放っておかないだろう。そしてこのスキルは、隠して使用することも難しい。

 出来なくは無いが、真価を発揮することも出来なくなる。そもそも持てる力を出し惜しみ、命を危険に晒すのもまた愚かなこと。

 

 

「やれやれ、あの“聞かん坊”はまた一波乱起こすつもりなのかな、全く……! フン!」

 

 

 ——かつて天界で起こった神々の争い。その真っ只中で、あろう事か決闘を始めた二匹のドラゴンが存在した。

 

 天龍と呼ばれるほどの強大な力を誇るそのドラゴン達は、神の事情など知った事かと言わんばかりに激しく闘い、覇を競い合った。

 その被害はとても看過できるものではなく。結果として神々は協力を余儀なくされ、二匹の天龍は多くの神を相手取っての全面衝突に敗れ去り、力の大半とともに魂を封じられてしまった。

 

 しかし、それでもなお、二天龍は争いをやめなかった。

 

 多くの人間を、自身を封じた“神器”の宿主として巻き込み、死闘を繰り広げたのだ。その闘いが周囲へもたらした影響は、決して小さなものではなかった。

 とはいえ、もはや地上にそのことを知る者が居ないほど古い時代の出来事であり、今を生きる子供(人間)達には関係のないこと……。

 

 

「だった……はず、なんだけどなぁ〜」

 

 

 ヘスティアは、敢えて用紙に書き写さず、ベルには見せなかったスキルスロットの項目を思い出し、大きな溜め息をついた。

 

 

《スキル》

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

・二天龍『赤龍帝』の魂と接続。

・種族『ドラゴン』としての特性を獲得。

・十秒毎に自身の能力が倍加。

 

 

 

「このスキル、本当に『神の恩恵(ファルナ)』と呼んでいいものなのかな……」

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