ダンジョンに赤龍帝がいるのは間違っているだろうか   作:Wbook

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書かないわけにもいかない原作のちょっとした改変回。
面白みはないが飛ばすわけにもいかない……。


デート

「おはよう、ベル君。待たせちゃったかな?」

「い、いえ、僕も今来たところです! おはようございます、エイナさん!」

 

 

 『豊穣の女主人』で祝杯をあげた翌朝。先日約束した通り、ベルとエイナはオラリオ北部、大通りに面する広場で待ち合わせていた。

 もちろんベルは今どころか一時間は前にここに着いていた。だが、いくら彼でもそんなことを自ら主張することはないし、第一まだ約束した時間には十分も早いのだ。

 時間より早く来ていたのはお互い様で、ベルの方の期待感が少し優っていただけのことだろう。

 

 

「ところで——昨日のこと、聞いたわよベル君」

「ひぇっ!?」

 

 

 もっともその期待も、割りとぞんざいに打ち砕かれてしまったが。

 

 

「ガネーシャから逃げ出したシルバーバックを相手に、素手で殴り合いをしたとか……」

「そ、その……それは、ですね……」

「へぇ、言い訳するの?」

「いえ!? 申し訳ありませんでしたっっ!!!」

 

 

 実際、客観的に見れば悪いのはベルで間違いないと彼自身分かってはいたが……勝ったんだから良いじゃないか、という心の声も。

 しかし、そんなことを面と向かってエイナに言う度胸はベルには無かった。彼女に向ける牙も爪も、既に折れている。

 

 

「まあ、私も状況はいくらか聞いてるけど。だからって、ちょっと無茶しすぎじゃないかしら?」

「す、すみません……ついカッとなって……」

「何処かの暴漢みたいな言い訳しないの。無事だったから良かったようなものを……」

 

 

 ムスッとした顔で、エイナが。

 

 

「せっかく楽しみにしてたのに……」

「うっ……。ほ、本当にすみません。無茶しました……」

 

 

 などと言われてしまえば、ベルのような初心な少年には素直に謝る以外の選択肢はないだろう。

 そして、こういう時の女性に対しては大抵それがもっとも正しい答えであるのもまた然り。半端に知恵をつけ経験を積んだ男はここで間違えて痛い目を見るものだが、今回は未経験(チェリーボーイ)なのが幸いした。

 

 

「もういいわ。全く……あんまり心配かけないでよね」

「は、はい……」

「それで、ベル君。何か言うことは?」

 

 

 と、上目遣いでベルに尋ねる訳だが。

 

 

「えっ。え、えっと……」

 

 

 まあ、当然分かるわけもなく。エイナのちょっとあざといポーズと上目遣いにドキドキする程度であった。

 望んだ答えは帰ってこなかったものの、ベルの分かりやすいリアクションにエイナはご満足したらしく、機嫌の方は良くなっている。

 

 

「私、今日は私服なんだけどなぁ?」

「あっ! そ、その……と、とても可愛いですっ!」

 

 

 最近妙に思い切りがいいベルは、思ったことをそのまま口に出した。

 

着飾った言葉、多くの賛美、素朴な一言……求める物は女性によって千差万別だ。飾り過ぎれば軽薄と罵られ、多くを重ねてもまとを射抜けるかは不確かで、シンプルな言葉はそれだけか?と切り捨てられるのが世の常であり、数多くの男性の悩みとも言える。

 

 だが、どうやらエイナに対しては、幸運なことにこれが正解だったようで、彼女の機嫌はますます良くなった。

 

 

「はい、良く出来ました! じゃあ行こっか、ベル君?」

 

 

 笑顔でベルの腕を取るエイナ。

 彼女の柔らかな感触につい顔を赤くしてしまったベルは、せめて鼻の下が伸びないようにするのが精一杯であった。おかげで、周囲にいた“お一人様”の男性から飛んできた突き殺すかのような鋭い殺気と、ヤクザ者と張り合えそうなガン付けには気づかずに済んだ。

 

 

「今日は装備品を買いに行くんですよね? 何処まで行くんですか?」

「バベルよ」

「えっ、バベル……ですか?」

 

 

 バベルとはダンジョンの上に立つギルド所有の建物で、シャワールームやら公共施設やらがあるところ……というのが、ベルの理解だ。

 

 

「ちょっと勉強不足ね、ベル君。バベルの空きスペースを、ギルドは商業用のテナントとして貸し出してるの。今日の目的地はそこね」

「あ、なるほど。バベルにあるお店なら、当然装備品を扱うところもありますよね」

「その通り。今日はベル君も知ってるくらい大手のファミリア——【ヘファイストス・ファミリア】に行くのよ」

「……えっ?」

 

 

 一流の装備を扱う【ヘファイストス・ファミリア】。当然ながらそこで売られている商品は桁違いのお値段が付けられている。ベルは自身の財布事情を鑑みつつ、顔を青くした。……が、結論から言えば、その心配は杞憂に終わる。

 

 よくよく考えれば、如何に大手ファミリアであっても、新人というものは存在する。他のファミリアでは未熟な職人の商品が店頭に並ぶことはないのだが、この【ヘファイストス・ファミリア】は違う。

 末端は末端なりの値段をつけ売り出し、それを鍛治の腕のプラスにしていこう……という考えらしい。確かに聞けば聞くほどベルとしても納得がいった。

 新米鍛治師は自分の作品を通して自分の名を売り、新米冒険者は寂しい懐でも装備を整えられる。尚且つ、店側も底辺の冒険者にまで顧客を広げられるため、誰も損はしないという仕組みだ。

 

 そうして他にもお勉強を交えつつ人波を掻き分けていくうちに、目的地である【ヘファイストス・ファミリア】へと到着した。

 

 

「ところでベル君。軍資金は幾らぐらい?」

「えっと……籠手も買っちゃいましたし、8000……いや、ギリギリ10000……」

 

 

 最近味を覚えた酒をしばらくやめれば、10000である。ここに来てドワーフもかくやというほどの酒好きであることが判明したベルにとっては少々辛いが、背に腹は変えられない。

 

 

「じゃあ、その範囲ね。二手に分かれて見て回りましょう、そうした方が掘り出し物も見つかりやすいはずよっ!」

「はい、エイナさん!」

 

 

 装備品のこととはいえ、どうやら買い物好きらしいエイナはむしろベルよりもやる気に溢れていて、早足で売り場に繰り出していく。

 ベルはベルで、彼女の様子に苦笑いしつつもちょっとワクワクしながら遅れて店内に入った。

 

 

「……そういえば拳闘士って、どんな防具つけるのかな?」

 

 

 ベルのイメージでは裸一貫に近い格好で己の肉体を武器に戦う、というのがそうだ。

 しかし、当然そんなものは闘技場なんかで活躍する者達だけに限られる。ダンジョンで求められる強さとは、少し違うだろう。

 

 

(やっぱり動きやすいように軽装……? でもある意味一番危険な距離で戦うわけだし、防御力も必要かな……?)

 

 

 などと考えているうちに、決められないまま店の奥まで来てしまった。

 なお、先程までのベルの思考もあながち間違いではない。だが、全てを補うというのは中々難しいもので、どうしても取捨選択というのが必要になってくる。

 例えば革鎧は動作性に優れ、フルプレートは防御力に優れる。もし両方兼ね備える装備があるなら、誰だってそれを選ぶに決まっているが、現実はそうもいかない。だから選ぶ必要がある。

 

 

「ん……?」

 

 

 この辺りの防具は目立つところに展示されているものと違って箱に詰められ、山積みにされている。どうやら粗悪品や不良品の類のようだ。

 ベルの目から見ても粗が目立つものが多い。

 

 

「……でも、これなんて結構いいと思うんだけどな?」

 

 

 箱詰めにされた作品の中でも、何故だか目に留まった一つを持ち上げてみる。多少の重量はあるが、種族としての強さと【ステイタス】の補正を受けた今のベルからすれば、なんという事もない。

 

 

「……ライトアーマーかな?」

 

 

 しかしそれにしては造りが頑健というか、厳ついというか。鉄そのものといった彩色皆無な点も相まって、独特の迫力を醸し出している。

 ライトアーマーというカテゴリをギリギリ逸せず、動きを阻害しない範囲でできる限りの装甲が配されていて、特に肩回りと籠手の部分がかなり強い。

 装甲が大きな鱗状に折り重なるような構造になっており、それが実に特徴的だ。どうやら、稼働範囲を広げつつ装甲の隙間を突かれにくくするための仕組みらしく、引っ張ると少しだけ伸びた。

 重量があるのはこの仕掛けと強度を両立させるためで、金属自体は軽いようだ。

 

 変則的だが、明らかにラフファイト(荒っぽい戦い)を想定した装備で……正直言って、気に入った。

 それに、この籠手なら今使っているものより上等だ。買ったばかりで少し勿体無いが、予備として持っておけばいいだろう。

 

 

「良い物だと思うんだけどなぁ、なんでこんなところに置かれてるんだろ。製作者は……ヴェルフ・クロッゾか」

 

 

 エイナはここで良い職人を見つけ、つながりを作るのも大事だと言っていた。この鍛治師(スミス)の名は、覚えておくべきだろう。

 値段は10000ヴァリスと、ガチで有り金全部はたかなければならないが……。

 

 

「おーい、ベル君! あっちで良いの見つけたよ……って。ベル君、それ……」

「はい、僕これが良いです。これに決めました!」

「これ……確かに良い出来ね? 防御力も有りそうだし、とてもボックスで叩き売りされるようなものには見えないわ」

「ですよね、これ気に入っちゃって!」

 

 

 でも、とエイナはここで一度ストップをかけた。

 

 

「この出来で店頭に並べてもらえないのは、何か問題があるからだと思うの。一度店員に聞いてみるのもいいと思うのだけど……」

 

 

 確かに……それはベルとしてもおかしいと思っていた。なので、教えてくれるかは分からないが、早速店員に聞いてみると。

 

 

「えぇっと……お客様? 失礼ですが、その作品の名前はご覧になりましたか?」

「名前……?」

 

 

 言われて気づいた。そういえば出来栄えに目を向けてばかりで気にしていなかったが、名前くらいはあるだろう。

 ベルは側面に貼られた紙を見つけ、記してある作品名(タイトル)に初めて目を向けた。

 

 ——《兎竜(ウサゴン)2nd》というその名に。

 

 

「…………」

「その、性能の評価は高いんですけど……如何せん……」

「べ、ベル君……どうする?」

「……はっ!? い、いえ、買います……決めちゃいましたし……!」

 

 

 名前以外に問題はないらしく、店員から性能は良いとまでお墨付きをもらえたほどだ。名前はともかく。

 店員に何とも言えない顔をされつつ、ベルはその場で《兎竜2nd》を購入した。

 

 

「ねえ、ベル君」

「はい?」

 

 

 振り抜くと、エイナはベルの頭に突然何かを被せた。

 

 

「これ、私からプレゼントよ」

「えっ? えっ、だ……ダメですよ、頂けません!?」

 

 

 装備品とは決してやすい買い物ではない。だというのに、そんなものを年上の女性に貢がれるのは何処と無く悪いことのように思えてしまう。

 

 

「いいの、受け取って? これは君の身を守ってくれるものなんだから……私じゃなくて、自分のためにね。」

「僕の……」

「そう、君の」

 

 

 エイナに被せられたのは、革製のヘッドギアであった。脱いでみると、額部分に鉢金が付いているオーソドックスな作りだ。

 

 

「冒険者なんていつ死ぬか分からない職業。私もね、何人も戻って来なかった冒険者を知っているわ。……だけどね、ベル君には死んでほしくないもの」

「エイナさん……」

 

 

 そう言って、じっとベルの目を見つめてくるのだから、断りきれない。ベルは、エイナよりずっと高くなった身長で顔を背け、赤くなったのを知られないように隠した。

 

 

「それにね。この前……ベル君がまだ小さかった時、大好きって言ってくれたでしょ?——あれ、とっても嬉しかったんだ」

 

 

 正直この時は、クラッと来た。彼女に泣かされる男は、きっとすごく多いのだろう。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

【ベル・クラネル】

所属:【ヘスティア・ファミリア】

種族:ドラゴニュート

職業:冒険者

到達階層:六階層

武器 《兎竜(ウサゴン)2nd》の籠手

所持金:0ヴァリス

 

【ステイタス】

Lv.1

 

力:C686 耐久:D577 器用:G289 敏捷:F408 魔力:I76

《魔法》

【ドラゴンブレス】

・吐息魔法

・収束可能

《スキル》

【赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア】

・二天龍『赤龍帝』の魂と接続。

・種族『ドラゴン』としての特性を獲得。

・十秒毎に自身の能力が倍加。

 

【装備】

《兎竜2nd》

・【ヘファイストス・ファミリア】所属ヴェルフ・クロッゾ作、防具シリーズ第二弾。

・作品名の酷さによりボックス行きとなった。第一弾は同じ理由により死蔵入りした。こちらは1度目で経営陣が慣らされたおかげで初めからボックス行きで済まされた。

・材料はドロップアイテムである『メタルラビットの毛皮』を使用。素材自体は非常に軽いのだが、装甲の厚さや構造の問題でそれなりの重量がある。

・フルプレートに近いほどの頑健さにも関わらず、軽装に近い動きやすさを保持しているため、経営陣からの評価は高い。難点は重量のみ。

 

《アイアン・ギア》

・価格7000ヴァリス。

・エイナからの贈り物。

・額に鉢金のついた革製のヘッドギア。視界は邪魔せず、しかし致命的な一撃でも一度は防げる防御力。




なお、現在のベルの通常時の戦闘力は原作と大差ありません。
《神様のナイフ》が無いことによる攻撃力の低下は力で補い、敏捷は耐久で補います。
結果、プラマイゼロくらいです。
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