自然休戦状態となったトウキョウ租界を後にした俺を含む黒の騎士団は洋上で待機している斑鳩艦隊と合流した。
端的に言って今の騎士団はフレイヤの威力にショックを受けている状態だ。
もしあれが上空ではなく、自分たちに向けられたとしたら、そう考えて怯えてしまっているのだ。
無理もないことだ。臨界状態でリミッターを解除してあるフレイヤの対処法はフレイヤ・エリミネーターを用いるか、自爆覚悟で弾頭を炸裂させる以外に直接的な方法で止めることは出来ない。
無論、一発だけなら迎撃は容易だが、物量に圧倒されればそれも難しい。
悩むのはこれくらいにしてそろそろ蜃気楼から降りるか。
見れば不安そうな顔の団員が周りに集まって来ていた。
どれ、仮面を被ってと…む? 端末に着信か。誰だこんな時に…シャーリーだと!?
おいおいおい!? どういう事だ? 幽霊か? 幽霊なのか?
震える指で応答ボタンを押すと懐かしい声が端末から響いた。
『あっ、ルル! ルルなの!?』
あ、ああ、ルルーシュだ。ところで君は…?
『誰って…私よ、シャーリー!』
シャーリー、生きていたのか…でも、どうして?
『生きていたって言うか、生き返ったって言うか…ううん。そんな事はどうでも良いの! ルル、今すぐ会えない!?』
生き返った…? シャーリー、君はもしかして…
『…うん。ルルと…その、覚えてるよ。花畑で…』
ごめん。ちょっと待ってくれ。嬉しくて涙が止まらない。
『ルル、泣いているの? どこか怪我しているの!?』
いや、違うんだ。君ともう一度会えた事が嬉しくて涙が止まらないんだ。
『も、もう! ルルったら!』
フッ、俺としたことが情けない。すまないが今すぐには会えない。だけど、後で必ず会いに行く。待っていてくれるかい?
『…うん。分かった。絶対だよ?』
ああ、約束だ。必ず行くよ。ごめん、そろそろ切らないと。
『あっ、待って! 最後に一つだけ言わせて!』
ん? なんだい?
『その、今度こそ私をお嫁さんにしてね。それだけ! じゃあね!』
それを最後に通話は終わった。端末をポケットにしまい、座席に座り直す。
可愛い。シャーリー可愛い。最高に可愛い。ヤバくない?お嫁さんだって。下品なこと言うと息子が起き上がってしまったぞ!
…いや、これは不味いぞ。
ゼロの衣装はピッチリとまでは言わないがかなり身体のラインが出ている。そんな衣装で我が息子がオッキしてしまえば…
フハハ! まるでまり◯っこりのようではないか!
違う、笑っている場合か。このまま蜃気楼から降りて姿を見せれば…
『おい! ゼロの股間が!』
『キャー! ピッチリタイツの変態よ!』
『おお! ゼロォォォ! あなたはやはりカオスの権化だ!』
ってな感じになってしまうではないか! まずい、非常にまずい。おのれぇ! まさかこんな事でピンチを迎えるとは…
『ゼロ? 大丈夫ですか?』
むっ! ああ、カレンか。ちょっと待ってくれ。我が息子が落ち着くまでは。
っておい! 強制的にハッチを開けるな! まてまて降りる! 降りるから!
ええい、全く強引な女だがそこが良い…ではない! このまり◯っこりをカレンに見られれば一貫の終わりではないか!
くそっ! 少し前のめりになりながら降りて誤魔化せるか? いや、難しいな。そもそもそんな体勢で自室まで辿り着く自信がない。
かくなる上は…どうするか。下半身を上手く隠せる物となると…そうだ! マントがあったではないか! これでこう、上手い具合に前を…よし!
我が息子のおいたが露見しないよう慎重に蜃気楼から降りるとどこを向いても不安そうな顔をした団員ばかりでなんだか申し訳なくなるがそれはそれ。
私は自室に戻る。各員も落ち着いて休息をとれ。
これくらいで良いか。本当ならばもう少し気の効いた台詞を言っておきたいが我が息子の狼藉をこれ以上許す訳にはいかない。早急に自室に戻る必要があるのだ。
さて、それでは失礼。
「ちょっと待ちなよ、ゼロ」
颯爽と自室に向かおうとする俺を呼び止める声…朝比奈か。あれ? お前生きて…ああ、フレイヤに巻き込まれていないからか。フッ、生還した感謝の言葉かな? 気にするな。
「あの新兵器。あれにどうやって対処するつもりだい?」
違うのかよ。て言うか今聞かなくても別に良いだろ! まぁ、聞かれたからには答えるが世の情け。答えてやるか。
対処法は幾つかある。あれだけの威力の兵器だ。そうそう自領を含めた戦場で使うのは難しいだろう。そこに付け入る隙がある。
「へぇ、なるほどね」
むむっ、なんだか態度が悪い眼鏡だな。そう言えばこいつは俺に対して不信感を持っていたんだったな。そうなればこの態度も当然と言えば当然、なのか?
質問はそれだけだな? よし、じゃあそういうことで。
今度こそ自室に向かう俺と三々五々に散る団員達。藤堂、千葉、朝比奈が何か話しているのが気になると言えば気になるが今は我が息子を慰める方が先だ。
「ゼロ!」
カレン!? 一体なんの用だ? 正直、君のパイロットスーツは股間に悪いのだが…
「ルルーシュ、あなたどこか怪我をしたの?」
小声で俺に囁くカレンは俺に身体が触れるのも構わずに接してくる。その感触にドキッとしてしまうが、俺も既に非童貞。この程度でどうという事は…ちょっとあるな。
いや、どこも怪我をしていないがどうしてそう思うんだ?
「だって、あなたの歩き方が何か変なのよ。少し前屈みって言うかお腹の辺りを庇っているみたいな」
すっ、鋭い! 何という観察眼か! やはりあのスザクと正面からやりあえるだけの事はある。フッ、カレン…君には驚かされてばかりだな。
「部屋まで送って行くわ」
いやいやいや、良いって。悪いから。
「何を遠慮しているの? やっぱりどこか怪我をしたのを隠しているんでしょう!」
違う! 察しろ! 男が前屈みになってたら大抵はそういう事だ!
しかし、やはり強引なところがあるカレンは俺に肩を貸しながらゼロの私室まで連れて行く。て言うか力強くない?
半分引きずられるようにしてカレンと共にゼロの私室まで辿り着くことが出来た俺だが状況は全く好転していない。
我が息子は依然としてその力を維持。それどころかカレンの身体に触れたせいか更に力を増している始末。唯一の救いはカレンが救急箱を取りに出ていってくれた事だがそれは戦線の一時的な膠着に過ぎない。
って違ぁぁぁう! 冷静に考察口調で考えている場合か!
早く、早くどうにかしなければ…ん? そう言えばC.C.の姿がどこにも見えないな。確かこの頃のあいつは記憶喪失で…はぅあ! すっかり忘れていた! そうだ! あいつは記憶喪失。しかも俺の事をご主人様と呼ぶ始末…ヤれる、ではなくヤりたい!
どこだ! C.C.はどこだ! 獣欲を滾らせた俺は本能のまま魔女を探すとベッドで寝ているあいつを発見した。
おい、C.C.! 起きろ! ご主人様だぞ! おーい!
…起きないんだが。ちっ、ピザでも持ってこないと起きないのかコイツは!
仕方ない。とりあえず悔しいが放置してトイレで自分を慰めるとするか…うぉ!?
「聞こえていたよ、ルルーシュ。お前の呼ぶ声が」
お、おお。起きていたのか。む? ところで今ルルーシュって言わなかったか?
「ああ、覚えているよ。今度は私を一人にしてくれるなよ」
潤んだ瞳で俺を見つめながらゆっくりと唇を近付けてくるC.C.。その顔は何度か見たことのある優しげな顔付きであった。
C.C.! 性欲三割感動七割の気持ちでC.C.を抱き締めると俺の背中に腕を回して抱き締め返してくれる。フッ、可愛い女だ。
「なんだ、勃っているじゃないか?」
はぅっ! お、おい、急に触るなよ! いや、しかしコイツの手つきは何とも心地良い…もうこのまま発射してしまっても…いやいや待てよ。すっかり獣欲に流されて忘れていたがカレンが直ぐに戻って来るはずだ。
ストップだC.C.! 今イジェクトするとまずい!
「そう言うな。このままでは何処にも行けまい?」
それはそうだが…あっ、ヤバい! 過去の俺は耐性が無さすぎて直ぐに…うっ!
「おいおい、早すぎじゃないか。そんなに私の手が良かったのか?」
黙れ魔女! おのれ、覚えていろよ。少し時間が出来ればひぃひぃ泣かせてやるぞ!
「楽しみにしているよ」
口の減らない女だ…まぁ良いか。それでこそC.Cだ。と言うかこのズボンとパンツどうすれば…
「着替えれば良いだろう?」
分かっているっ! そうではなく匂いなどをどうするのだと言っているんだ!
仄かに漂う特徴的な匂いはいくらカレンがそっち方面に疎いと言っても何らかの不信感を持たれてしまう可能性がある。それを考えれば直ちに手を打たねば…ファ◯リーズはどこだ。リ◯ッシュでも構わん!
「私に任せておけ」
ほう、自信満々だな。どれ、お前に任せてみよう。上手い具合に頼むぞ。
「なに、簡単な事だ。こうすれば良い」
そう言ってC.C.がどこからか持って来たのはピザの箱。奴は徐に箱を開けてピザを食べ始める。
「ふぉれでふぉいひぇひゅひゃ(これで解決だ)」
すまない。何が? ただピザを食べているだけで…はっ!辺りに漂うイカ臭い匂いがピザのチーズやらなんやらの匂いで上書きされてしまったではないか! なんという…流石は我が共犯者。恐ろしい女だ。
まぁどちらにしろ俺は着替えなければいけないのだが。
全く面倒な。しかし抜いてもらわなければ部屋から出れなかったことも事実。やはり感謝しておくか…むっ、電話か。C.C.、出てくれ。
「嫌だ。面倒だ」
なっ!? 知ってたとは言え、なんという不精な女だ。頼む。後でピザ三枚だ。
「五枚だな。お前の手作りで」
ぬぅぅ…面倒だが仕方あるまい。分かった、それで手を打とう。
まったくピザが無ければ動かんとは…パンツもズボンも洗濯しないと駄目だな。
「ルルーシュ! 戻ったわよ!」
ちっ! カレンか!? 急いでズボンを履いて…よし、どうにか人前に出られるな。
「さぁ、怪我しているところを見せてちょうだい」
いや、大丈夫だ。さっきは少し腹痛でな。今は直ったから問題無い。
「本当? たしかに今はどこも痛そうじゃないけど…」
本当だ。カレンに嘘は吐かない。それよりも君こそ平気か?
「え? 私?」
そうだ。救出が遅れたことはすまないと思っている。捕虜生活でどこか怪我をしたりは?
「ううん、平気よ。ナナリーちゃんが色々と気を使ってくれたから…」
そうか。それなら良いんだ。ところでカレン、俺は君に…「おい」って何だC.C.! これからカレンを口説こうとして…じゃなくて色々と話そうとしているというのに!
は? 電話の相手?
「千葉だ。なんでもシュナイゼルがナイトオブシックス、トゥエルブを連れて会談を望んでいるらしい」
何だと、シュナイゼルが? ああ、そう言えば前回はナナリーが死んだと思ったショックで会談に出なかったんだったな。ここで我が兄が色々と暴露してくれたおかげで俺は黒の騎士団を追われる訳だが…フッ既に策は打ってある。
ロロとジェレミアがどこにいるのか秘匿した俺の勝ちだ。
──俺はこの時、失念していた。なぜ皇帝の直掩に付いている筈のナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーがシュナイゼルと共に来ているのかを。
良し、会おう。千葉に直ぐ行くと伝えてくれ。
「本気? シュナイゼルが何を企んでいるか…」
心配してくれるのかカレン。フッ、例えシュナイゼルが何を言おうと俺のすべき事は変わらない。あのクソオヤジを殺り、ラグナレクの接続を阻止するだけだ。そして皇帝となりシャーリーやC.C.、そしてカレンと愛に満ちた日々を送るのだ!
さぁ、そうとなれば早速行くぞ! C.C.、お前は蜃気楼で待機していてくれ。ピンチになったら助けに来いよ。
「分かった。任せておけ」
格納庫に向かって行くC.C.を見送りながら、こと命を預けるのであればコイツ以上に信頼出来る奴は居ないとあらためて思うのであった…。
カレン、君も会議室まで一緒に来てくれ。
「ええ、勿論。でもピンチってどういうこと?」
決まっている。シュナイゼルは俺の正体をバラして黒の騎士団を分裂させようとする可能性がある。その時は騎士団を離脱する。
「シュナイゼルが!? それに分裂って…」
可能性の話しだ。だから念のために手を打つのさ。その場合、君は…どうしようか? 下手にカレンに庇わせると彼女の立場が危うくなる可能性も…
「私はあなたに付いて行くわ」
ファッ!? なんだ、どういうことだ?何故この時点でもカレンが俺に…既にこの時点でフラグは立っていたとでも言うのか!?
「でも、一つだけ条件があるわ」
ああ、何でも言ってくれ。既にフラグが立っているのであれば何も戸惑うことはない。
「あなたにとって、私は何?」
カレンが俺の正面から真っ直ぐな視線で見つめてくる。その顔を見た俺は悟る。これ絶対に間違えちゃ駄目なやつだ、と。
カレン、君は俺にとって大切な存在だ。だからあえて言おう。生きてくれ。例えシュナイゼルが俺を糾弾しようと絶対に庇うな。
フッ、少し格好付け過ぎたかな? まぁ、これくらい言えば正解のルートは選べこと…てべゃ!?
「バカ! あんた死ぬ気!?」
ちょっと待ってくれ。君のビンタで既に死にそうなんだが。
「どうしてそんな事を言うの! 私にもあんたを庇わせなさいよ!」
待って待って。分かったから襟を掴んで揺さぶらないでくれ!
「良いわね! あんたが私に生きろって言ったんだからあんたも私と一緒に生きるのよ!」
分かった! 分かりました! カレンと生きるからガクガクするのやめてくれ! 何か出てしまう! 脳みそが出てくる!
俺の答えにようやく満足したのか襟を離すカレンは涙目であった。本当だったらキスの一つでもしてくれると予想していたのだが…まさか力任せに揺すってくるとは。
「さぁ、会議室に行くわよ! シュナイゼルが何だって言うの! いつもみたいに口八丁で丸め込みなさい!」
お、おう。フッ、流石はカレン。再び引きずられるようにして会議室へ向かうのだが、相変わらず何とも言えない柔らかいながらも芯のある肉付きだ。どういう鍛え方をしたらこうなるのか…。
と言うか口八丁で丸め込むにしても何も思い付いていないぞ! 会議室から格納庫までの経路ならば策定済みなのだが…などと考えている間に会議室へ辿り着いてしまった。
「カレンです。ゼロをお連れしました」
カレェェェン! まだ何も考えていないと言って…はいないが! しかし! 考える猶予をくれても良いだろうが!
無情にも開かれる会議室の扉。中には藤堂、千葉、朝比奈、ディートハルトといった幹部と何故か玉城。
ブリタニア側はシュナイゼルと側近のカノン、コーネリアに…モニカ、だと?
何故モニカ・クルシェフスキーがここに居る? 相変わらず美人…ではなくて
おかしい。確か彼女はロイヤルガードとして皇帝と共に居るはず。それがシュナイゼルと共に斑鳩に乗り込んでくるとは…シュナイゼルめ、何を企んでいる!
「やぁ、ゼロ。よく来てくれたね」
宰相閣下が特使として訪れて来たとなればお出迎えしない訳にもいけません。
「元気そうで良かったよ。トウキョウ租界では枢木卿の警告を聞いて軍を下げてくれたことに感謝しよう」
なに、枢木卿と私の間には浅からぬ因縁があるのでね。彼はありもしない兵器で脅しをかけられるほど器用な男ではない。
などとシュナイゼル相手に腹の探りあいのような会話を続けている間、モニカがこちらを凝視しているのが非常に気になる。何だ? 俺がシュナイゼルやコーネリアを害しないように見張っているのならば納得がいくが、どちらかと言うとまるで探るような目付きなのが…
「ゼロ、私の話を聞いているのかな?」
あ、ああ。聞いているとも。それで何の用件で来たのか教えて頂きたいものですが。
「ふむ。その前にクルシェフスキー卿がどうしても確認しなければならない事があるそうでね。私も内容は知らないんだ」
クルシェフスキー卿が確認したいこと? ほぉ、一体何でしょうか? 答えられる範囲でお答えしよう。
この時、俺の本能が、いや、魂が叫んでいたのを無理やり押さえ付ける。
魂はただ叫び続けていた。
"逃げろ"と。
「クルシェフスキー卿、君の確認したいことをゼロに問うと良い」
「はい。シュナイゼル殿下、私の我が儘を聞いて下さり、ありがとうごさいます」
シュナイゼルに促されたモニカは直立不動のまま、俺の仮面越しにひたりと目線を合わせ、静かな声でシュナイゼルに感謝した。しかし俺には分かる。この声は俺の首を締めて来た時と同じ声だと。
「ゼロ。"貴方"は私が知っている"貴方"なのでしょう」
◇◇
ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーがゼロに問うとゼロは露骨なほどに身体を跳ねさせ、その衝撃で椅子は大きな音をたて、静かな会議室に反響した。
「何を…何を言っているか分かりませんね。クルシェフスキー卿」
「嘘ね」
ゼロの言葉を嘘と切って捨てたモニカは一歩だけゼロに向かって歩を進めた。
「私に貴方の嘘は通用しないわ。貴方は私の知っている貴方なのでしょう」
更に一歩、モニカはゼロへ向かって歩を進める。
「どうして貴方が私の知っている貴方なのか教えてあげましょうか? 分かるのよ。貴方と私は確かに結びついている。だから私には分かる、分かってしまう」
更にもう一歩、モニカは歩を進める。
彼女の言葉はゼロであるルルーシュ以外には要領を得ない。
しかし彼女が本気でゼロが自分の知っている人物であると思っている事は分かる。
何故ならば彼女の目付きも動きも、あくまでも正常な人間のそれであったからだ。
これでもし、モニカの目付きや顔付きが正常な人間のそれで無かったのであれば、精神異常者の戯言と誰も相手にしないだろう。
しかし、それを彼女はその社会的地位と実際の言葉と動きで否定する。
「貴方のやろうとしている事もその手段も私は知っているわ。そして、それがどういう意味を持つのかも」
また一歩、モニカは歩を進める。ゼロまでほんの数歩の距離まで彼女は近付いていた。
「答えてくれるわね?」
じっと、ただ真っ直ぐな瞳でゼロを見つめるモニカには確信があった。
このゼロは自分の知っているルルーシュだと。
自分の中の何かがただ彼を求めて止まないのだ。
彼はCの世界で愛し合った彼に間違いない。そう自分の中で何かが叫び続けていた。
「私は貴方と契約を交わした筈よね? 私だけには何があっても嘘を吐かない。その代わり私は貴方の全てを受け入れる。そういう契約を」
それはCの世界で半ば強引にモニカが交わさせた契約。彼に女の影が見え隠れしていることは分かっていた。
自分以外に愛の言葉を囁いていることも。
けれど自分がその女より後であることも彼女は知っていた。
だからモニカはルルーシュに契約させたのだ。
自分には嘘を吐かないことを。
そしてモニカはルルーシュの全てを受け入れることを。
他の女に囁いた愛の言葉も行為も全て隠さない代わりにモニカは別の女を受け入れた。
それは嫉妬に狂ってしまいそうな自分を止める為の手段でもあったのだ。
この場合、どう考えても一番の被害者はシャーリーであることに疑いの余地は無い。
「さぁ、答えて」
会議室の誰もが沈黙していた。あまりにもモニカが異質だったからだ。
目付きも顔付きも動きも全ては常人のそれ。
しかし彼女の纏う空気は狂人などという領域を越えていた。
「クルシェフスキー卿、貴女は何を…」
シュナイゼルの側近であるカノンが声を掛けてもモニカはゼロから視線を一切反らさない。
最早、それしか見えていないかのように。
沈黙が支配する会議室の中でゼロはようやく声を放った。
「クルシェフスキー卿、もし…もしもクルシェフスキー卿の知っている貴方が私で無かった場合、貴女はどうするつもりだ?」
心なしか変声器越しでも震えているように感じるゼロの言葉にモニカは意外そうな顔で答えた。
「それは嘘ではなく質問ね。そうね、もしも私の知っている貴方がゼロで無いのならば謝罪するわ。それこそ私の命を差し出してでも誠心誠意、心を込めて謝りましょう」
「クルシェフスキー卿!」
コーネリアが声を荒らげてもモニカに変化は無い。ただ、ゼロの仮面を見つめていた。
「…ではクルシェフスキー卿の知っている貴方が嘘を吐いたのならば、貴女はどうする?」
「その時は貴方を殺しましょう。あの時、あの場所で貴方の首を締めたように。貴方に嘘を吐かれるなんて私は耐えられない。でも安心して? 私も死んで貴方を追い掛けるわ」
「ゼロ!」
殺すという言葉に反応したカレンは素早くモニカとゼロの間に入り、身を挺してゼロを庇う。
「貴女は…そう、そう言うこと」
「ゼロから離れな!」
カレンの声に他の幹部も漸く反応し、ゼロを外へ避難させようとした時、変声器越しの声が会議室に響いた。
「良い。カレンも離れろ」
「だけど!」
「良いんだ。大丈夫、私を信じろ」
カレンは渋々といった様子でモニカから離れた。
だが、もしもの時は直ぐにモニカを止められるように自分が一瞬で距離を詰められる間合いからは決して動かない。
「クルシェフスキー卿、貴女の質問にお答えしよう」
なんかちょっとしつこくなっちゃったかな?