灰と幻想のハチマンガル   作:ぜの

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開幕
原点


朝起きたら一階から両親が怒鳴りあっている。

いつのもの事だ。一時間たっても怒鳴り声はやまない。1ヶ月間前からの日常だ。隣から物音がしなくなったのにも慣れた。支度をして階段を降りて玄関に向かう。外に出ればなんてことはない。

もう学校にいかなければならない。とはいえ、もう誰かを途中まで送る事は無くなった。少しはゆっくりでもいいが、家にいるのも苦痛なため、自転車ではなく歩いて高校に向かう。

 

ピカピカと光る信号。赤色に光るそれに苛立ちを覚えながら大人しく待つ。あの光を見ていると何故だか、頭がぐらぐらする。

 

青になった、いこう。

 

横断歩道に足を踏み入れた時だった。左側から突風を感じ、目を向けると信じがたいものが目にはいる。

 

トラクターが突っ込んできたのだ。

 

クラクションの音で体は萎縮し、固まってしまった。動けないとなればトラクターがとまるのに期待したが殺意満々で突っ込んでくる。まるで将棋だな。瀕死の中、聞こえたは叫び声と親の怒鳴り声。見えるのは赤信号と妹の姿。鼻孔を擽る血の匂いとシャンプーの臭い。

 

 

この光景はあの時と似ていて経緯は違えど、しっかりトラクターは過ぎ去っていく。前と同じ男がひき笑いをしながら去っていくのをみて、意識は遠退いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

空が青い。

青いのは当たり前だ。そんなことはわかってる。でも、途方もなく、満遍なく、青いのだ。

 

「お兄ちゃん何してるの? 早くいくよ」

 

アホ毛。あざと可愛い挙動。八重歯。目の前の女子は俺を兄と呼ぶ。

 

「俺、お前の兄なの?」

 

「はぁ? 違うよ」

 

「じゃあなんでお兄ちゃんなんだよ」

 

「それは……なんでだろう」

 

「俺はハチマンだ」

 

「…別にいいじゃん、なんでも」

 

「…いいか」

 

何回したかも忘れたこのやり取り。

 

両手に短刀。腰にはベルト。鼻のところまで覆うフード。

今日も、今日とて小鬼狩は続く。

 

広がる森林。聞こえる悲鳴。

 

「おにいちゃん…どっかで囲まれてる」

 

「だな」

 

「どうする?」

 

現地に向かうのか、向かわないのか。俺は盗賊で、コマチは狩人。どちらも隠蔽スキルはある。助けて見返りがあるのか、俺達でどうにかなるのか。

現地に向かって助かるか、助けないかを決めるのがいい。

 

「高みの見物といこうかね」

 

「性格悪っ」

 

「褒め言葉ありがとうございますはい」

 

極力気配を消して叫び声がした方に進む。俺達の戦闘プランは影からこっそり。一人ずつ。殺していく。これがデフォルトであり、逆にいえば面と向かってやりあえばゴブリンにすら負ける可能性がある。仮にここでゴブリンに察知されれば、襲われている方々には悪いが犠牲になってもらうしかない。

だが、ぼっち気質の二人だからこそ、気配を消して近づくのは得意だ。ぼっちじゃなければあの時あの塔を出て、オカマ野郎の部屋で取り残されなかった。どちらともなんとなく、余り物同士組んだペア。いつか別れるだろうと思っていたが存外長く続き、あった当初から兄と呼ばれ、1ヶ月は共に行動した。1ヶ月も衣食住共にすればお互いやりたいことがなんとなく、わかってくる。例えば、今目の前にいるゴブリンを直ぐに殺そうと思った俺に対してコマチは弓を既に放っている。

 

「ギッ!?」

 

突然突き刺さった弓で怯んだ隙に胴体に足を組ませて瞬時に首を斬る。

そしてまた影に隠れる。一時たてばまた移動を開始する。この繰り返しをしていると、遂に現地に到着した。

 

小型ゴブリン五匹に大型ゴブリン一匹。

やつらに囲まれている女性が二人と男性が一人。

魔法使いと思わしき黒髪の女性は息を切らしている。それを支えるように神官なのだろうか、ヒールを唱えるピンク色の女性。二人を庇うようにして立つ聖騎士装備のイケメン。

 

現状は悲惨だった。

 

使い物にならない魔法使い一人。

まともに回復も行えない神官が一人。

満身創痍の聖騎士が一人。

 

それに対して小型ゴブリン五匹に加えて大型ゴブリンと来たもんだ。これは打開できる訳がない。

 

「コマチ。引き返すぞ」

 

「…やだ」

 

「おい。おにーちゃんの言うことききなさい」

 

「リスクあるけどなんとかできるよ。それなのに見殺しはやだ」

 

「駄目だ」

 

「いいよ。一人でやるから」

 

「ばっ! お前っ」

 

コマチは勇猛果敢にもゴブリンの群れに突撃する。構えていた弓で三匹の小型ゴブリンの目を潰し、大型ゴブリンに向かって弓を構えるが、無傷の小型ゴブリンに襲撃された。

謎の女性の乱入二より、活路を見いだしたのか、聖騎士は大型ゴブリンに向かって剣をふる。

なるほど、大型ゴブリンは聖騎士が担当し、小型をコマチに任せたか。

だが、それでは解決しない。本来、狩人は前衛でも戦えるパワーはあるが、コマチは弓をメインとした後衛型だ。小型ゴブリン二匹を相手どりながら他を牽制する動きなどできる訳がない。このままでは、コマチの戦闘スタイルを知らない聖騎士が立てたプランは瓦解するだろう。

 

息を殺す。できるだけ音を消して、腕を降った。

縫う様にしてコマチを襲っている小型ゴブリンの首に短刀を投げ込んだ結果、二匹は絶命し、既にコマチは再度弓を構えていた。

 

あのやろう…投げ込むのわかってたな。

 

聖騎士はどうにか踏ん張り、大型ゴブリンの殴打を受け流していたが、ついには流しきれず倒れてしまう。と、同時に大型ゴブリンの左目に弓が刺さる。奇襲に驚き、対戦を崩している間に俺は短刀を二本、抜きさって残った三匹のゴブリンを殺した。両目とも視界がやられているのだ、首を斬るは造作でもない。

 

暴れる大型ゴブリンに的確な射撃で右目も潰すコマチ。体格がでかければタンク役にはなれるが、ではタンク役が強いのかと言われれば違う。それだけ動きが緩慢で、図体がでかければでかいほど狙える箇所が多いということだ。

 

手首に深く刃を入れ斬る。そのまま足の

ケンを断つ。片足では支えられないその巨体は倒れ、俺のもとまで首を差し出した。

 

 

「コマチ、後でお説教だばか野郎」

 

「それでも助けてくれるお兄ちゃん、コマチ的にポイント高いっ」

 

あ、もう笑顔可愛い許しちゃう。

 

 

 

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