灰と幻想のハチマンガル   作:ぜの

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序章

「おにいちゃんさー、もーちょっと人と話す努力しようよ」

「話しただろ。少し」

 

「あの言い方もどうかと思うし…。でも、減額したのはコマチ的にポイント高かったよ!」

 

「さいですか」

 

夜も更け、夜ご飯を食べながら話すこの時間は嫌いじゃない。

コマチと話すのはどちらかといえば楽しいし、あとは風呂はいって寝るだけ。宿も最底辺から二つほどランクが上がっているから居心地がいい。それでいて愛嬌を武装したコマチが宿主と交渉して安くしてもらっているというのだから尚更いい。持つべきはあざとい妹。

 

「じゃ、コマチはお風呂入って寝るからまた明日ね」

 

「あいよ」

 

食器を片付け、風呂場へと消えていくコマチをみてから、俺は外に出た。

 

風は冷たく、肌寒い。

フードを深くかぶりながら、俺は酒場へと向かった。

 

 

「いらっしゃい! 今日もMAXコーヒー割り?」

 

「はい」

 

「よくこんなの飲めるねー、私は無理だけどな」

 

「メグリさんは既に甘さ一杯ですもんね」

 

「?」

 

「なんでもないです」

 

人気繁盛店の酒場 メグリッシュ。店長であるメグリが男女問わず癒してくれるため、この店には心身ともに疲れた者達、多くの義勇兵が集まる。それだけ集まればこの酒場で落とされる情報量は多い。

コミュ障だから話せる相手いないだろと思われるかもしれないが、話す必要はない。耳を研ぎ澄ませばつまらない情報、使える情報が自ずと入ってくるものだ。

明日からは新たな狩場、鉱山にいく。有名なデットスポット。斑の情報が聞ければ御の字なのだが。

 

「あ、ハチマンじゃない?」

 

いらない情報は遮断する。

 

「ちょ、なんで無視するし!」

 

「喧しい。静かにできんのか」

 

「ユイさん、ゾンビに話しかけても通じないわ、諦めなさい」

 

「それは俺がゾンビだといいたいのか? あいにくゾンビは酒場で酒は飲まんぞ」

 

「あら、聞こえたのたね。いるじゃない、私の目の前に」

 

なるほど、確かに。俺がゾンビだと意地でも通すならそうだな。

 

「命の恩人に対してその態度とはあっぱれだ」

 

「その件についてはちゃんと謝礼を払ったはずよ」

 

「もう少し優しく接するとかは」

 

「ないわね」

 

「あそう…」

 

カウンターの両隣に女性が座る。ユキノと、ユイ。なんで挟まれなきゃいけないんだよ。もう出ていこう、そうしよう。

 

「注文したものを飲まずにいくのはマナー違反よ、ハチマン」

 

「わーったよ、わかりましたよ。で、なんだよ」

 

たまたまあったから話そう。なんてのはそこそこ関わりがあって、そこそこ仲がいい奴同士だからだ。コミュ力お化けは例外だが、こいつらに限ってそれはない。いや、片方のお花畑はそれに当てはまるか。

 

「そうね。単刀直入にいいます。私達とチームを組まないかしら」

 

「断る」

 

言われて考える時間は必要ない。

 

「なんで…?」

 

ユイは悲しそうな顔で問うが、なんでもなにもない。

 

「なんで? なんでに対して何故だ。此方のメリットが見えない」

 

「魔法使い、聖騎士、神官がメンバーに、盗賊と狩人。理想なパーティーじゃないかしら」

 

「そうだな。理想なパーティーだ。まともならな」

 

俺の挑発に近い発言にユキノは顔をしかめる。

 

「それは私達がまともじゃないと?」

 

「あのな、こっちはあんた達がゴブリンにやられて、それも実はニュービーでもなく三ヶ月目の義勇兵だという情報しかない。全部マイナスだ、プラスをどうやってみつけろと?」

 

言われた内容は間違っていない。間違っていないからこそ腹が立つだろう。それでいい。もう消えくれ。

 

「わかりました。確かに、私達が貴方に落とした情報からは不良品といわれても致し方がないわ。だから、一日。一日、私達とパーティーを組んでほしい。それでダメなら引き下がるわ」

 

「だから一日付き合う必要がどかに」

 

「ハチマンくん、私からもお願い」

 

Maxコーヒー割りを持ってきたメグリが俺に向かって頭を下げる。

 

「なんでメグリさんが頼むんすか」

 

「この子達ね、その、色々あったの。本当はゴブリンにだって負けてなかった。だから…」

 

色々あった。

 

それなら俺だって色々あった。初めてゴブリンと対峙した時は足が震えてまともに攻撃もできず、逃げ帰った。

コマチが死にそうになって死に物狂いにもなった。

質の悪い義勇兵とも揉めたし、あの塔から出て、なにもないやつの方がめずらしい。それでも誰も助けてくれてないから、自分で。自分達で解決した。

 

精神面と技術面で師匠から再度叩き直してもらった。

コマチを助けるために隠してたスキルを使った。

質の悪い奴には更に質の悪い奴をぶつけた。

 

色々あったから助けろなんていうのは、甘えだ。

 

でも。

「…わかりましたよ。でも、一日だけだ。あと、コマチが行かないと言えば俺一人だけ。これで了承しろ」

 

甘えだが、こんな苦すぎる世の中だから、甘えを一つくらい見逃してもいい。

メグリさんの頼みを断ればこの酒場に行きづらくなる。行きづらくなれば、今後得られる情報が乏しくなる。情報が乏しくなれば、いつか死に直結する。

メグリさんなだけに、巡り巡ってここを断れば己の首を絞めることになるのは間違えない。

 

「ええ」

 

「うん!」

 

さっきまでのしかめっ面は消えて、安堵した様に肩の力が抜けいる様だった。

 

「じゃ、俺は帰る。明日の明朝、西之門で待っとくから」

 

出されたMaxコーヒー割りを一気に飲み干し、席を立つ。うん、やっぱり旨い。

 

「あの」

 

「あ?」

 

「ありがとう」

 

「…おう」

 

外に出る、肌寒い風がまだ唸っている。今はそれが心地いい。

 

 

 

 

 

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