始まりの塔。俺もコマチも、義勇兵となる者たちは眼前に聳える古びた塔の中で目覚める。そこには案内人がいてオカマ野郎のもとまで案内されるまでがチュートリアルだ。それ以降は各々の采配で全てが決まっていく。自由であると同時に一つの決断がそのまま死に直結するというのだから厳しい世界過ぎて泣きたくなった。なんなら号泣して三日間自宅警備員になるまである。
「一体こんな茂み隠れて何をするのかしら」
ユキノは不機嫌な様子で俺に小声で質問ならぬ詰問をしてくる。その質問と不機嫌になるのはユキノだけではなく、同じく気配を消しながら身を岩陰に潜める俺以外の皆も同じ気持ちなのだろう。一様に返答を催促するような訝しげな目線を向けてくる。
「お前ら、最初にあの中で気がついて何をした」
「? 私はえーと、とりあえず助けを呼んだ、かな」
「俺はまず周りを確認して、人の声が聞こえたから呼びかけた」
「私は頭の中を整理していたわ。俘虜の事態ではあったけれど、そういった場合でこそ冷静になるべきだもの」
「コマチはとりあえず誰かいますかーって叫んだと思う」
「そうか。皆どう行動したか多種多様だが、たどり着く先は決まっている。あの中に案内人が必ず現れ、オカマ野郎の処まで案内されるってことだ」
「ええ、そうね。それがここでコソコソと隠れている理由に関係しているとは思えないのだけれど」
「焦るな、ユイとハヤト、コマチはあの中ですぐに周りとの連携を図った訳だが、ユキノはそうしなかった。ちなみに俺もユキノと同じく静観。そのまま案内されることになった訳だが、お前らとユキノが行ったアクションで決定的な差がある」
「……多数になるか、一人になるか」
「そうだ。案内されてオカマ野郎から説明を受けたあと、何処で何時あるのかは誤差があるものの、チームを組むことになるはずだ。そこでボッチだった奴は大方残されやすい。ソースは俺。コマチは例外だ、誘いを断っていたからな。結論をいえばだ、そのぼっちを仲間にしてやるから戦士になるように言えば問題は解決する」
「ハチマンそれは……」
「お兄ちゃん……」
「ハチマンなんか気持ち悪い……」
「やり方が貴方らしいといえばそれまでだけれど。貴方のプランでいえば、コミュニティ内に入らなかった者はあぶれるという考えは間違えよ。ソースは私。現にチームを組んだもの」
確かに。それはつまり、俺だからチームに誘われる事なく一人ぼっちになったってことか。こんな処で気づきたくなかった。
「母数が少ない。確率でいえば半々。プラン通りいく、異論はあるか」
「まぁ、特に案も思いつかないしそれでいいけど」
ユイが苦虫を噛み潰した様な顔で同意すると、それを真似して皆同じ顔で頷く。
多少の問題もあったが、当初の予定通りプランを遂行する事になったと同時に、塔から案内人を先頭として未来の義勇兵が現れる。
「……いたぞ、カモが」
「カモって、なんか私達悪いことしてるみたいじゃん!」
「黙れビッチ、ばれる」
「またビッチっていった! まじキモい!」
ユイがキャンキャンと喚いているのを聞き流しながら、一人の男をロックオンした。最後尾で、顔をうつ向かせながら一人で歩いている。
中肉中背、幼なくも、整った顔立ちに意志の強そうな黒瞳は目を惹かれる。
「行くぞ。十中八九、あいつはあぶれる」
「そうかしら。貴方と違って腐ってなさそうだけれど」
「別に俺と同じ腐った奴を探してる訳じゃねーよ。もし見つかったらドッペルゲンガーになっちまうだろうが」
何よりも、あいつは俺と同じ匂いがするからな。
場所を移してオカマの本拠地前。ゾロゾロと説明を受け終えた新人一行が出てくる。やはりその中にはあの男は一行の中にはいない。待つこと十分程度。カモは歩いてきた。
「行くぞ。ハヤト、お前が誘え。その方が捕れる確率が高い」
「ハハ……、わかったよ」
いきなり現れた俺たちに警戒心のこもった視線を向けてくるが、そこはハヤトのコミュ力でカバーしてもらう。
「いきなりすまない。僕はハヤト、聖騎士をしている」
「俺は……俺はキリト。さっきの人が言ってた役職だよな。俺は戦士になる……予定だ」
ほう。カモはネギを背負ってきたらしい。
「それで、何か用か」
「……あ、ああ。いきなりですまないと思うが、僕たちは今戦士を探しているんだ。よかったら僕たちとチームを組まないか?先輩義勇兵として教えられる事は多いと思う」
「なるほど。それは嬉しい相談だが、なんで初心者、それもまだ役職すらもってない俺を誘うんだ。慈善活動って訳でもないはずだ」
「それは」
「それもアンタたち、あの塔の処で俺たちを見張ってただろ。悪いが、俺からすれば不信感しかない。それに初心者を誘うくらいならソロの戦士をどっかで勧誘すればいいこと。それをしないのはなんでだ」
こいつ。やれる奴だな。知らない処で目を覚まして記憶も曖昧。不安なはずだ。それでも自分が置かれている状況を俯瞰してみれている。そういったセンスをもっている奴は生き残れる。
「俺達はある問題を抱えている。それで問題の解決に動く必要があるんだが、既存の戦士を誘っても断られるから初心者を誘っている。ハヤトがいった通り、俺たちはこれでも先輩だ。お前には情報を惜しみなく提供してやるかわりに、俺たちと一定期間チームを組め。お互い利益がないと思えば切っていく。お前が使えない戦士だったら邪魔だからな」
「ハチマンそんな言い方しなくても」
そんな言い方じゃ仲間になってくれない、ってか。違うな。こういうタイプはこれが正解だ。
「変に嘘をつかないのは好印象だ。オーケー、チームを組ませもらう、宜しく、先輩方」
キリトは笑みを浮かべて手を差し出してくる。
ギブアンドテイク。合理主義な奴にはプランを提示して判断させること。別にとって喰おうとしている訳じゃない。冷静に考えれば、この条件を飲むことが、キリトにとってメリットがあるとわかる。それを理解する事ができる奴だ。
ハヤトはキリトの手をとり、ユキノ達はそれぞれ自己紹介を始めていく。それをぼんやりと見つめながら今後の事に思考を巡らせる。
「ハチマン、だっけ」
「あ、ああ。ハチマンだ。盗賊をしている」
「あー、ぽいな。それで、俺は戦士になるためにギルドに行けばいいんだよな」
「そうだ。さっさと戦士になってこい。一週間後の明朝、またここで落ち合おう」
「わかった」
キリトは頷くと、戦士ギルドの方へ歩いていった。
「キリトくん、大丈夫かな」
「んー、コマチは話してみた感じ良さげだと思いますよ」
「一度話しただけ。彼が言っていた通り、使えなければ切ればいい」
「ユキノさんの意見は極端だけど、そうだね。それでいくつもりだ」
「ま、ひとまず問題の一つは解決した。あとは俺たちだ」
「俺たち?」
「ハヤト、俺も含めてだが、大前提として奴とまともに戦えるだけの戦闘力がない。精神面に関しては自分で区切りをつくればいいが、戦闘スキルに関しては心の持ちようで変わるなんてことはない。手っ取り早く強くなる方法の一つ、俺たちもギルドに行けばいい」
戦士を仲間にして戦闘スタイルの補完はできた。だが、それだけで勝てるはずもない。仮にハヤト達が恐怖を克服したとしても戦闘技術が不足している。俺自身、戦士が加わったとしてもアタックスキルが必要だ。今後のことも考えれば尚更。
「そう、だな。うん、それでいこう」
「各々ギルドに行って技術を磨いてもらう。それで一週間後、キリトくんを含めて落ち合おう」
「ええ」
「わかった!」
「りょーかいです!」
俺たちはそれぞれの目的地に向かって足をすすめた。