18歳編、はじまりです!
「ふぁーっ、今日もよく働いた!」
「私ちゃんと教えられたことメモできてるかな?家に帰って確認してみよう」
「純那ちゃんなら大丈夫だよ!私もちゃんと復習しなきゃ」
「舞台って…決してわたしたちだけで作っているものじゃないのね」
今日は新卒の職員が集められ、簡単な劇場の案内が行われた。
来月から10月まで、私たちはレセプショニストとして会場に来られたお客様をお迎えをしたり、チケットのもぎりをしたり、客席内で案内をするという業務内容。
今日は音響操作室や舞台袖の音響設備などを見せてもらい、
専門のスタッフさんに従いながら簡単に説明をしてもらった。
私たち4人がこういった設備に関わることはまだまだ先だと思うけれど、
私たちが演じていた舞台は多くの方々に支えられていたということを実感できる機会になった。
「裏方さんのお仕事はなんとなく座学で教わったけれど、
こんなに大変なことだったなんて!知らなかった!」
「私達舞台少女もそれぞれのキラめきを持っているけれど、
B組のみなさんもその道を突き進むプロフェッショナルだったのね」
「第100回の時は無理言って何から何まで直してもらって、申し訳なかったー」
「その分、素晴らしい舞台が出来上がったことには間違いないわ」
私たちは今日起こったさまざまなことを語りながら、帰り道を歩いている。
この辺りは東京湾を望めるこじんまりとした港町。
初夏のさわやかさとともに、私たちの間を通り抜ける潮風。
目の前に停まっている遊覧船は、おそらく今日最後の便。
橋げたの間には小さく、
海の香りを感じる中で、私は九十九期生の仲間たちのことを思い出す。
この場所を歩いたあの夜は、みんなと演じる最後の舞台を公演した日だった。
9人の言葉、まなざし、足音、影。
あんなに一緒だったのに。半年経った今は、
それぞれの輝ける場所に散らばってしまった。
仕方ないこととはわかっているけれど。
舞台の上に立っているときは、この瞬間は永遠に続くと信じていた。
胸の奥に隠していた寂しさが、わたしの一気に胸の中に押し寄せてきた。
「ポジション・ゼロッ」
寂しい気持ちを振り払って、私はひかりちゃんの手を取る。
そして、勢いよく目の前にある階段を踏み出す。
「わっ、華恋っ」
ひかりちゃんは突然の出来事に驚いていたが、私たちが今までに培ってきた体感はブレず。
ステップを踏んだように、背筋をきれいに伸ばしたまま着地する。
「みんなをスタァライトしちゃいますッ」
「……華恋」
きっとその言葉に、ひかりちゃんも私たちが舞台に立っていたころを思い出したのだろう。
私たちが学園を卒業したのはつい数か月前なのに、遠い昔のように思ってしまう。
その思いがひかりちゃんにも伝わったようなのか、眉間を少し狭めて寂しげな表情をみせる。
私は彼女の大きな瞳を見つめたまま、繋いだ手を強く握り返す。
ついついふたりの世界の中に入ってしまい、その間に、進んでいくふたつの足音。
「ちょっと、じゅんじゅん!知らない人のふりして歩くのやめてよーっ」
「もう夜なんだし、はしゃぎすぎるのはやめて。
なんとなく似ているけどここは舞台ではないし、今の私たちは舞台少女ではないのよ」
「ごめんなさい、反省します」
「まぁまぁ。そんなに怒らないでって、純那ちゃん」
怒るじゅんじゅんをばなながどうにか丸め込んでくれたけれど、
私の胸の奥にじゅんじゅんの「今の私たちは舞台少女ではない」という言葉がちくり、と刺さったような気がした。
皆と一緒に舞台を作り上げて。ひかりちゃんと一緒にトップスタァになって。
いつまでもいつまでもこの時が続いていくような気がしたけど。
今の私たちは、あの頃のような舞台少女ではなくて。
ただのどこにでもいる普通の新米社会人。
「私達、いつまで一緒にいれるかなあ」
「華恋……」
私がそう言いだすと、ひかりちゃんの表情が少し不安にこわばったようにも見えた。
「ううんっ、ずっと一緒だよ?私たちは」
「舞台を知ろうとする限り。表現しようとする限り。ずっとずっと……」
ばななが大きなビルとビルの間にひとりぼっちで輝く、一番星に手を伸ばす。
下を向いていたじゅんじゅんも立ち止まって、ばななと同じ星に手をかざして。
「そうだよね、ひかりちゃん」
「うん……きっとそうだよね。華恋」
私たちも、真っ暗な都会の夜空の中で、唯一輝いている同じ星を見上げる。
仲間全員が夢を追って必死に戦っていたあの日々を思い出す。
☆☆☆
こんな日々がずっと続いていくと、19歳の私は思っていた。
ひとつだった星は砕け、それぞれの居場所に砕け散る。
それでも、共に舞台に立つ日を信じていれば。
私たちは繋がっていける――――――――――。
それは確かであって、確かではないと。
これから大人になっていく私たちは知っていくことになる。
公演から結構時間が過ぎたはずなのに、まだ余韻に浸っています。
4人が働く劇場のモデルは、もちろんあの会場周辺です。