USJ編~前編~
side:パチュリー
マスコミ騒動の翌日、再びヒーロー基礎学の時間がやってきた。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。」
昨日のことがあったからか、今回は流石に人数を増やしている。三人体制の中にオールマイトを入れたのは少し心配だ。
何せ今の彼のマッスルフォームでの活動時間は短くなってきている。それに加えて彼のことだから出勤時にも何か事件が起こればすぐに向かっていくだろう。それだけ体に負担を抱えていたら治るどころか力の衰えに加えて活動時間のさらなる減少が発生する。恐らく彼が引退するまでの時間も残り少ないだろう。
もし、先日の様なことがエスカレートしたら?もし、そこで彼が倒れたら?
もし、
(…少なくとも、こちらの異変の犯人捜しどころじゃなくなってくるでしょうね。)
混乱に乗じて“こちら”に悪いものが来たらマズイ。こちらの事件をまずひと段落付けてから犯人捜しを始めましょう。
「何するんですか?」
「災難水難何でもござれ。
そう言って先生は“RESCUE”と書かれたプレートを取り出す。
「レスキューかぁ。今回も大変そう」
「バッカお前これこそヒーローの本分だぜ!鳴るぜ腕が!」
ヒーローという職業はヴィランとの戦闘が目立つが、“人を助ける”のが主な目的のため救助なども仕事の一つ。忘れられがちではあるけれど、人命がかかっている分こちらの方がむしろ重要なこと。一部例外を除いてサポートや治癒系統の個性のヒーローの独断場であり、またパワー系の個性も力仕事の方面で活躍のできる仕事…でも、それだけ救助というものは幅が広い。頭脳と力量、そして柔軟性が求められる仕事。
「今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定する物もあるだろうからな。」
コスチュームは個性でも届かない範囲を少しでもカバーしたり、自らの個性を伸ばすための物。救助であれば自分の個性を最大限に活用するのが一番。だけど、それ故に活動が限定されてかえって狭まってしまうものがある。だから一部にとって使いどころが難しいのよねえ。
「訓練所は少し離れた場所にあるからバスに乗って行く。以上、準備開始!」
敷地内をバスで移動しなければならないレベル‥‥‥試験の時にも思ったけれど この学校些か広すぎじゃないかしら?さすがは国立高校といったところね。
いつもの様に先生の言葉にすぐ反応し、着替えのために移動するクラスメイト達。彼らの表情の中には期待、緊張、不安があった。
私の中にある感情は何なのだろうか?
期待?私はやるべきことを行うだけ。救助は臨機応変さが試される。その場の判断一つが命とり。それに期待はあまりしていない。
緊張?確かに昨日のこととこいしの情報のことがあって警戒はしているが、さすがに警備体制が高まっている中で潜入するほど彼らは馬鹿では無いでしょう。
不安?不安‥‥‥このまま私がこの道に進んでいっていいのか。そんなことを何度も思うことはあった。けれども紫やアリスにも『相手のことを探るのならば、ヒーロー側にいたほうがいい。』と言われている。きっかけがあの日のことだったとしても、この判断は良かったのか。この先どうなっていくのか‥‥‥。
けれども、これは救助訓練とはまた違う。それに当てはめるのであれば不安でもないだろう。
じゃあ――
「…ちゃん、パチェちゃん!」
「―――っ!」
俯いた顔を上げると目の前にお茶子の顔があった。どこか驚いた様子で、そのぱっちりとした目が少し見開かれている。‥‥‥顔にでてしまったのかしら?
「どしたん?なんか考え事?でもはよ移動せんと怒られるよ。」
「‥‥‥そうね。ありがとうお茶子。」
少し声が上ずってしまった。不審がられるだろうか?
お茶子は首をコテンと傾げ、「そっか。」と言い、少し振り返ってから彼女は歩き出す。‥‥‥なにも詮索は無し、か。有り難いわね。
立ち止まった足を動かし、私はお茶子とともに更衣室へと向かった。
‥‥‥今日という日に、少しの引っ掛かりを感じながら。
◇◆◇
●○●
第三者視点
一行を乗せ、バスは訓練所へと向かう。
その行きのバスの中は喋り声や暖かな雰囲気で満ち満ちていた。少しずつ交流が深まって互いに興味も出てきたところ。彼らが会話に花を咲かせるのはごく自然のことだ。
しかし彼女――パチュリー・ノーレッジはそこに混ざらず視線を輝く目ではなく本に落とし、目に映る小さな文字の羅列をじっくりと追っている。
今の彼女にとって会話よりも自分ののファミリーネームであるノー
尤も。彼女が会話行動を嫌っているというわけではない。昔から時間を忘れて研究や本を読むことに勤しんでいたため染みついたある種の
とはいえ、それは彼女が話しかけられない前提のことだが。
「やっぱ!派手で強いつったら、ノーレッジと轟と爆豪だよな!」
そんな大きな声を上げたのは切島だ。個性把握テストや戦闘訓練にて個性を知る機会が増えたためか、やはり群を抜いて目立つを個性を持つ彼らに話題は広がった。氷、爆発、魔法。実際に影響を及ぼす、或いは出現させる発動型の個性の中でも“良個性”に分類される彼らの個性は、見た目の派手さはトップクラスの物だ。
“ヒーロー向き”だと世間ではよく謳われる。
(‥‥だから他者とのレベルの違いを早くから認識して、すこしばかり自分を大きく見る傾向があるのかしら。)
大人たちの言葉は子供に深く根差す。子供に大きく影響を及ぼす“すごい”の言葉。
自分自身を見られないということに気づくのには時間がかかる。‥‥無論、ここにいるほとんどの者は自覚している。
「爆豪ちゃんはキレてばかりだから人気出ないと思うわ。」
「んだとコラ!出すわ!!」
「ほら。」
幼馴染の噛みつく声を聞いてため息をついた少女は読書するのを一旦やめてゆるりと前を見る。見てみれば案の定、爆発したような髪が印象的な彼―――爆豪勝己がこれでもかというくらい目を吊り上がらせ、鎖につながれた獣の様に言葉で威嚇していた。火をつけたら今にも爆発しそうで・・
「この付き合いの浅さでクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ。」
「てめぇのそのボキャブラリーは何だこの殺すぞ!?」
・・・いや、常時爆発しているといった方が正しいだろう。彼の形相は鬼の様ではあるが、イジラれキャラとして定着しつつあるその発言はたいして意味をなさない。どころか、彼等のノリは火に油を注いだように勢いを増していく。
すぐに噛みつくのだからイジラれるのだというのに。
そんな様子を見た彼女は、本を閉じてポツリと言葉を漏らす。
「‥‥確かに的を得ているわね。」
「あア゛!?どういう意味だよ紫もやしィ!」
「あなたは人から見てそういう人間ってことよ白金チワワ。」
「「ブフッ」」
「チワワじゃねえ!笑うなぶっ殺すぞクソがっ!!」
「ちょ、ぱ、パチェちゃん、かっちゃんも怒ってるから、そのへんで、‥クッ、や、やめといた方が‥フフッ」
「テメェも笑ってんじゃねえクソデク!」
その形相を見ても先程の単語のおかげで爆豪の顔をまともに見ることが出来ない数名。だが彼の「ぜってぇ殺す・・」という呟きでシンとおとなしくなった。
しかし少しずつざわめきを大きくながら何事もなかったかのように雑談をし始める生徒達。パチュリーはまた別の本を取り出して読み始める。
「もう付くぞ。いい加減にしろお前達。」
「「「「「はい!」」」」」
○●○
バスが止まり、相澤が「着いたぞ。」と一声かける。ワクワクした表情で彼らは速やかに彼の後ろへと続き、歩きつつ、前の人物の頭の横から、そして見上げるようにその建物を見た。
外観はドーム型で、その真ん前には一人の人?と思わしき人物が立っている。
「皆さん、待ってましたよ。」
全員を確認するように見回すと、言葉をかけて一行を出迎えた。それは真っ白な宇宙服を着た人物で、彼も雄英の職員ということからほとんどは彼を期待のまなざしで見つめている。
「うわぁ〜!スペースヒーロー《13号》だ!!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」
「私好きなのっ!13号!」
そしてヒーローに会えたという興奮で解説を述べる
「早速中に入りましょう。」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
13号に先導され、真剣というよりもこの先にあるものに対する期待に胸を膨らませる生徒達。対してパチュリー、爆豪、轟の三名はいつも通りの表情で足を進める。
どっちにしろ授業であることには変わりはない。ならばまず冷静に見つめることだと他の何名かも真剣な表情になった。
入り口から下に向けて伸びる長い階段をざわめき一つ起こさずに下り続ける。それぞれの足音が宙に響いていっぱいになるころには、全員が最後の一段を下り終えた。
その先にあったのは、大きな噴水広場。そして、噴水の広場を中心にして様々な建物が彼らの目の前に広がっていた。
「すっげぇー!USJかよ!!」
そんな切島の声に続いて、何人かの生徒が驚きの声を上げる。
(USJってこんな建物なのね。よく知らないけど。)
隣にいる麗日、緑谷が声を上げている中、パチュリー一人だけはそんなことを心の中で呟いていた。彼女はUSJなどのテーマパークに何ら興味関心が無い。知っているものは両親が昔連れて行ったものだけだ。
「水難事故、土砂災害、火災、暴風、
その名も、ウソの災害や事故ルーム!略してUSJ!」
(((本当にUSJだった・・・!)))
(もっとほかの名前無かったのかしら。)
本来ものを知っているかどうかで変わってくる名前の認識。彼女はなぜ同じようにしたのかと疑問を抱いた。
13号は各々の反応を見た後、建物を指しながら話し始める。
「オールマイトは?ここで待ち合わせのはずだが」
「先輩それが……」
教師二人は生徒から少し離れて話し合う。パチュリーは少し聞き耳を立てて内容を聞いていた。
どうやらオールマイトが通勤中に人助けを行ってマッスルフォームが維持できなくなっているらしい。彼女と相澤はそれを聞いてこう思った。
((不合理極まりない。))
そして同時にため息をつく。ちなみにどちらも目が死んでいる。
ヒーローとしては素晴らしい行動ではある。予想はしていたが、自分が今ヒーローとしての活動が短くなってきている上に、教師としてその行動はどーよ。と、パチュリーは思った。
「先に始めましょう」という13号の言葉とともに、イライラとした表情で一度ため息をつく相澤。
「それでは始める前にお小言を1つ2つ、……3つ4つ5つ6つ…。」
(((増える…!)))
「皆さんご存知かと思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
その言葉に「ええ。」と返し、
「しかし、人を簡単に殺せる個性でもあります。」
と続けた。“人を簡単に殺せる。”その言葉に反応してか、生徒全員の顔が引き締まる。
「人を殺せてしまう個性……みなさんの中にもそういう個性を持った人はいると思います。
超人社会は個性使用を資格制度の下厳しく管理し規制することで一見成り立っているようには見えます。
しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる危険な個性を個々が持っている、そのことを忘れないでください」
13号はぐるりと生徒らを見回す。ある生徒は自分の手のひらを開いたり閉じたりしながら、ある生徒は拳をギュッと握りしめて目を瞑りながら、各々その言葉を心の中に刻み込んでいた。
「相澤先生の体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体感したかと思います。
この授業では心機一転!人命のための個性の活用法について学んでいきましょう。君たちのその個性は人を傷付けるためにあるのでは無い。人を助けるために在るのだと心得てくださいな。
───以上。ご清聴ありがとうございました」
「素敵〜!」
「ブラボー!」
個性というものは人を容易く殺せてしまう。
パチュリーの個性が良い例だ。『魔法使い』という個性は一見便利なように見えるが、それとは裏腹に危険性を含んでいる。彼女が扱っている七曜の魔法は、その圧倒的な威力によって敵を倒すのに最適だ。
力加減を間違えてしまえばどうなるかは想像に難くないだろう。
それらの困難を超えてこそ、ヒーロー。
13号の個性でもそうだ。どんなものでも塵に変えられてしまう危険なもの。しかし彼はそれを人助けのために使っている。
だからこそ、彼がこの訓練の講師として適任なのだろう。
(ブラックホール…。危険な個性をよく制御できるわねぇ。)
パチュリーは先生の話を頭の中に入れる。
――――瞬間、彼女は背筋に凍てつくような寒気を感じた。
(‥‥!?何!?これは、一体…?)
急いで周囲確認を行うパチュリー。彼女が
それは、不自然な黒い
「―――っ、
「――――――なんだっ……一かたまりになって動くな!13号、生徒を守れ!」
指示は早かった。13号はいつでも個性が発動できるよう構え、パチュリーは本を取り出して開く。
視界のど真ん中に、それは現れた。
「先日頂いた教員カリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが」
黒いモヤモヤとした人物と、手の様なオブジェクトを顔に着けた人物。
(侵入者ね。セキュリティが機能していないところを見ると妨害かワープ系。恐らく後者。人数にもよるけど、このタイミングは増援を遅らせるために狙ったものね。プロヒーローの教師陣が居るのに何も考えず襲撃なんてよっぽどの阿呆じゃないと出来ない。つまり彼等には何か勝てる見込みがる。そして、狙ったのならこちらの時間を把握する術があるということ。…味方の中に悪いのが入り込んでる可能性もあるわ。一応警戒しましょう。
探知魔法の結果は…、何よこれ!?)
パチュリーは目を見開いた。彼女の持っている本にはUSJ内の地図と人が丸いマークで表されていた。
マークはこのエリアだけではなく、他のエリアにも表示されている。
この大人数をセキュリティ妨害だけ連れてくるには無理がある。恐らくワープ系もだと彼女は確信した。
「どこだよ?せっかくこんな大衆引き連れて来たのにさ。
……子どもを殺せば来るのかな?」
その言葉は、ゲームを行う子供のようだった。悪意を見せ、たくさんの手の様なオブジェの下の
「何だアリャ?また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」
状況を飲み込めていない切島。他の何人かもまだ混乱していて判断が出来ていない。
ざわつく彼ら。状況整理が出来ているのはたった数人。
――――危険だ。
「違う、これはもう訓練なんかじゃないわ。アイツらは、」
「動くな、あれは」
「「ヴィラン
その言葉に呆気にとられるも、すぐさま行動できるものがいるところは流石と言えよう。
一部反応できていないものもいるが、これならば避難は出来そうだ、と彼女は思った。
「侵入者用のセンサーは!?」
「センサーが反応しねぇならそういう妨害の個性持ちが向こうにいるんだろ。
校舎と離された隔離空間。そこにクラスが入る時間割。バカだがアホじゃねぇ。……これはなんらかの目的のために用意周到に画策された奇襲だ」
轟が冷静に分析する。推薦を受け合格した一人だからか、他の生徒よりも現段階で判断力は少し上回っている。
「イレイザーヘッド、他エリアにも大勢紛れ込んでいるわ。」
「‥‥どうやってそれを?」
「この本のおかげよ。」
彼女はそう言って本を手で少し持ち上げて見せる。
「…そうか。本当そっくりだな。
―――――お前と上鳴は個性で連絡試せ。」
「了解。」
そう返事をした彼女は、早速目を閉じてブツブツと何かを唱える。俗にいうテレパシーだ。
(…——‥‥————おかしいわね。)
テレパシーを使ってみるも、彼女の脳内にはノイズ音が響くだけ。どこにも繋がらない。仕方なしにと転移魔法を試してみるが何かに阻まれているのか転移することが出来ない。
彼女は目を大きく見開いた。まさか相澤の視界に入っているんじゃないかと彼の方向を見るが、彼はヴィランの動きを見ているだけで、こちらには向いていない。
それが意味するものは‥‥
「上鳴、繋がった!?」
「……いや、ダメだ!」
「やっぱり…!」
「そっちは?」
「ダメ。使える手段は使ってみたけど、全然繋がらないわ。」
「マジかよ!?」
驚くも思考をフルに回転させ、彼女は何かまだ使える物が無いか画策する。
(テレパシーと転移魔法が使えない。つまりは魔法的な何かも遮る個性を持っている奴がいるってこと。
‥‥こうなったらコレを使うしかないわね‥‥)
彼女は羽織っているローブの右腕の袖に左手を突っ込んである物体を取り出した。
それは、彼女が幼いころに賢者から貰った連絡用具―――陰陽玉。
魔力を込めればスキマ空間を経由して対応している玉全部に繋がらせることが出来る便利な連絡道具。一つは賢者、もう一つは彼女の自宅にいるアリスが所有している。
(とりあえず、外との連絡をとらなk「おやおや、それを使われると少し面倒なんですよねぇ。」‥‥‥!?)
彼女は突然聞こえてきたその声に驚き、陰陽玉を手から落としてしまった。
カーンと甲高い音を響かせて転がるそれに、焦ってパチュリーは手を伸ばそうとする。
「と、いうわけで。少しの間こちらに来ていただきますよ?ちなみに貴女に拒否権は有りませんのでご容赦ください。」
瞬間、強い眠気が彼女を襲う。立ち上がろうとするも、前のめりでバランスを取ることのできなかった彼女の視界はぐらりと揺らぎ、バタリと倒れてしまった。
霧に包まれたようにぼんやりと、彼女の思考が思考が低下する。視界が白み、体はもう動かすこともままならない。ついに彼女の意識は、彼女自身から放棄された。
そして、
深く、深く、更なる深みへと彼女は落ちていく。沈むように。水の中へと潜っていくような浮遊感と心地のよさを感じながら。
ふと、彼女の耳に誰かの呼ばれる声が聞こえた気がした。
To be continued...
ちょっと長くなってきたので分けました。
悩みどころがひと段落着いたので、すこしペースが上がるかもしれません。
余談ですが、チワワの画像を調べてたら何故かかっちゃんに見えてきた不思議。
どっちもかわいいですね(?)
ツッコミや感想、誤字報告待ってまーっす!