ペニーワイズがパワプロドリームカップをオススメするようです 作:いのかしら
天候は雨。かといって出歩くのを徒らに躊躇うほどではない。外で遊びたがりの子供にとっては、仮に近所の知り合いが吸血鬼を助けたという話があっても、レインコートさえ手に入れてしまえばこれほどの天候を気にすることがないのはおろか、その雨をも遊び道具に変えてしまう。
路上の雨はその僅かな湾曲を伝って、道の端に臨時の川を生み出す。この少年ジョージもその御多分に洩れず、ワジの親戚に小さなこけしを流し、それを眺めつつ走って遊んでいた。車は殆ど走っていない。滑って転ぶのさえ気をつければ、別に問題ない部分もある。
ところがこの世はワジを永遠に流し続けるほど寛容ではない。その流れるものに注目していた彼は、それが急に側溝に吸い込まれる様に対し、何も対処できなかった。
「あぁっ!俺の船が……」
そもそもそんな床の間に飾っておいたほうが適当なモノを流して遊ぶな、と思ったそこの君。いや、よく考えたら流してしかるべきものだったわ。この文章がコピペの使い回しのせいだな。
まぁとにかく、水が絡むもので下から上に移動するのは、温泉か噴水か毛細管現象、と相場が決まっている。そして側溝の穴はそのいずれにも含まれない。逆に噴き出してきたら問題になる。
そう、どんなに奥を除いても。
浮かび上がってくるはずもなく、どこかに引っかかる代物でもなかった。最早どうにもならない。ジョージは諦めて引き下がるしかなかった。
家からほぼ勝手に持ち出してきたものだけに、兄になんと言って家に帰ればいいのやら。次に向けた不安さえ湧き起こっていた。
「ハァイ、ジョージィ」
だからこそ周りに誰と見当たらない状況で、どこからか聞こえた声には、それをもかき消す大きな不安を呼び起こした。
どこだ。
少し周りを探して、音源に近いと思われるところ、その側溝の穴を覗くと、見るからに怪しいピエロらしき外見の者が、こちらに妖しい笑顔を見せていた。
「風船はいるかい?」
首を左右に振る。
「パパから知らない人から物はもらうなって言われてる」
「じゃあボクはピエロのペニーワイズ、君はジョージ。ほら、ボク達は知らない人間じゃなくなった。こうしたら貰ってくれるだろう?」
面倒な輩がいる。
「だけど風船なんていらない」
「Oh……そうかい。それは残念だ。それでジョージィ、物語シリーズチームって知ってる?」
何か言ってきたが、そんなものは知らない。本日2回目の首振りでそれを示す。
そもそもいきなり知らない人間に話しかけるか?まぁこいつが人間かは知らないが。
「Oh……本当に知らないかい?ニコニコ動画におーい汚水氏によって投稿されてるパワプロドリームカップIIにおける人気チームの一つだぞ?その戦いぶりはみんなの注目の的なんだ。本家は西尾維新の小説で5部構成、アニメ化だってされてるし、何より今新作映画が公開中さ」
そのピエロが見せてきたスマホの画像には、その大会の開会式らしきものが写っている。
物語シリーズ、それならニコニコ大百科で見たり、ツイッターで関連する話を見かけたことがある。
あ、あれかぁ……
「いや、物語シリーズって先発2人のコントロールは低めだし、打線だってパワーがあるわけじゃないし、むしろ低めだろ!阿良々木さんがありゃりゃぎさんになる未来しかないだろ!
機動力が売りといっても、進撃とかストパンみたいになるのがオチさ!それに抑えが寸前×というどうしようもない状況だろ!騙されんぞ!」
「いや、確かに先発2人のコントロールは良くはない。コントロールがEとDという点はそうだし、さらに抑えの斧乃木が寸前×なのもその通りさ。
でもな、このチームには最強捕手の忍野メメがいる。球界の頭脳を持ったね。これは司馬兄やMAJORの佐藤も持ってる優秀な捕手の証さ。その力はコントロール+20、スタミナ+10!コントロールは場合によっては2レベル上がったりもするのさ。それに抑えが悪いとはいえど、中継ぎの月火や忍も悪くないし、むしろ良い。投手陣はこれだけで十分って並びさ」
なるほど、思ったより悪くはなさそうだ。だが自分にはもっと面白そうに見えるものがある。
「確かに悪くないね。じゃあ俺、その映画の『続・終物語』見てくるから」
「待てや!」
カードは本当に諦めて帰ろうとしたところで、ピエロが辺りに響くほどではないが大きな声で呼び止めた。
「これが……分かるか?」
なんかいろいろ見せてくるピエロが次に取り出したのは、見たことがある、いやさっきまで見ていたもの。
「俺の船!」
「Ex-Actlly!これは君のものだ。君にお返しするよ」
だが顔には無償で、とは書いてない。
「これを返す代わりに、物語チームを応援しろ……か」
「物分かりがいい子は嫌いじゃないよ、ジョージィ。なに、安い要求じゃないか」
けけけ、と変な笑い声を出しながらでもピエロが肯定する。だが物語シリーズチームの応援、船がそれに引き換えられるのか、兄の顔も交えて浮かぶ。
「返して欲しくないのかい?確かに打線だって最強だってわけじゃないし、投手陣は良いとはいえ抑えとか隙がないわけじゃない。特に2番手火燐は初戦の相手がハルヒだったこともあり、読めない部分も大きい。
でもな、それだけでなんとかなるわけでもないけど、機動力はあるのとないのじゃ大違いだぞ?守備範囲は広がるし、内野安打は多くなるし、とにかく先の塁に進みやすい。
それにジョージィ、ここのチームはミートが高めの選手が多いのさ。5番まで全員ミートはD以上。つまり出塁しやすくかつ機動力がある。この恐ろしさは想像つくだろう?」
「ま、まぁ……」
「そう。塁に出れば引っ掻き回せる人材揃いってことさ。1番の駿河や3番のひたぎ、7番の貝木、9番の千石辺りなら十分盗塁可能さ。こんだけいたら気が休まったもんじゃない。
そこに4番で影縫さんがいらっしゃる。パワーAの強振多用。塁に出てたらみんな纏めてホームランで一掃さ。
8番忍野メメも打撃ステータス高めだし、9番の千石はステータスから想像もつかないほどの活躍を見せている。そして地味に貝木が一発撃ってたりする。
守備は外野は悪くないし、内野も二遊間のヴァルハラコンビが有能さ。そしてキャッチャーはさっき話した通り。バックか十分に支えてくれるさ。
どうだ、面白そうだろう?」
あれ、これ面白いんじゃね?このピエロの話を聞いているとそう思えてきてしまう。
「じゃあ控えの八九寺も代打として活躍できるの?」
「えっ……ああ、うん。可能性はゼロじゃないさ」
顔が一瞬歪んだが、それも気にならなくなるほどに、ジョージは物語チームへの入り口ににじり寄っていた。手がすでに穴の中に入っていたのである。
「物語チームはいいぞ……深いぞ……」
ピエロが再び笑った。その目を見ていると、どんどん引き寄せられていく。そしてその目からも目線が外せない。
「物語チームが気に入ったら……」
その時だった。ピエロの手がジョージの手首を捉えた。力強く握り締められ、もはや抜ける気配もない。
「お前は『ピエロに睨まれた少年』になるんだよッ!」
「ギャァァァァァァァァ!」
ジョージは死んだ。いや、これは社会から見た論理に過ぎない。本当に死んだかどうかはわからない。どこかの下水道で、彼自身が風船片手に誰かを待ちわびているのかもしれない。私はキメ顔でそう言った。
ジ「何で俺また死んでんの?」
ペ「物語が変わったら生き返ってんじゃないかい?」