第二海堡鎮守部   作:語部屋

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激動の時代の終わりと始まり

 1960年代頃から世界中の船乗りは都市伝説染みた話を毎日のように耳にしていた。

 誰かはシーサーペントを見た。別の人は海に浮かぶ人を見た。中には、ヒトガタやニンゲンを見た、という人もいる。

 全員が何かを見た、ということが共通し、そのどれもが今までに見たことのない海洋生物であることだった。

 時が経つにつれ、目撃証言は多くなり、70年代には全世界の人がその噂を耳にし、誰もが「どうせ存在しない。長い航海で船乗りは頭がおかしくなってしまったのだろう」などと笑いものにした。面白半分にテレビの特番が組まれ、一時期UMAブームに乗っかり誰もが知ってるような話になったのだが、ブームが過ぎ去り忘れ去られようとしていた80年代に事態は急変する。

 

 

 船の沈没事故が多発した。漁船、輸送船、軍艦、艦種は区別なく。

 どうにか生き残ることが出来た者の証言は、シーサーペントが船を襲った、ということが共通していた。

 事態を重く見た全世界の政府、及び国連は調査に乗り出す。

 沈没事故が続く中80年代後半、国連による調査結果が公開された。

 初めは引き揚げた沈没船の外傷調査結果。

 艦砲射撃と思われる貫通痕や爆発跡、他に喫水線下の衝突跡。

 艦砲射撃ということは何処かの国の軍艦によるもの、と考えられたが、海軍を有する国は何隻かの軍艦が沈められていた。水面下による多国籍の水上戦闘、というのも世界規模で起きていることから可能性が無いに等しいと考えられた。

 このことについては保留され、衛星写真に何か映っていないか考えられたが、影らしきものは映っているが、性能がそれほど良くなく鮮明ではないため、何かがいる、程度にしか分からず仕舞い。

 最後に報告されたのが、囮の船による事故再現である。

 

 これですべて明らかになった。

 

 艦船への攻撃習性を持つ、未知の生命体の存在である。

 魚のようにも見えるが、巨大な口の中には砲塔と言っても差し支えない器官が存在している。それによる砲撃により、引き揚げた沈没船の艦砲射撃の跡が残っていたのだ。

 大半は魚のような形をしているが、中には半分人の形を成しているものもいた。盾のようなものを持ち、その盾に砲塔が存在する。

 60年代頃に世界中の船乗りが話していた都市伝説染みた話の正体はこの生命体だった。

 相手が生物であるのなら、保護をするべきという声が上がるが、艦船を攻撃されては海上輸送の安全性が問われる。

 海洋生物へは害をもたらさず、なぜか艦船のみに限定された攻撃習性は、研究者を悩ませることになった。

 そもそも人類と海の歴史の中で、このような自然生態系を無視して人類に対してだけ攻撃性を持つ生命体は初めてであり、前例が無ければ、標本もない。何をどう研究すればいいのか分からない状態だった。

 ただひとつ言えることは、60年代には都市伝説染みたことが、約20年経った80年代には世界中で見かけるようになったこと。これが示すのは、数を急速的に増やしていることである。

 

 もし、このまま数が増えれば、船の航行は不可能となってしまうことだ。

 

 島で形成される、多数の国は海上輸送路を絶たれてしまっては甚大な被害が出ると考え、とある一国は未知の生命体を“人類に敵対的な深海に棲息する疑似艦艇生物”通称“深海棲艦”と呼称することとし、早急な対策を練ることになる。

 

 

 

 90年代初頭、とある国は反対派を押し切り、深海棲艦を攻撃するも、艦砲射撃や誘導弾、魚雷の誘爆、様々な攻撃方法を試した。その結果は再び世界を震撼させることになる。

 当時最新鋭の兵器すべてが、深海棲艦に対し、全くの無力だったことである。

 傷をつけることが出来ず、出撃した艦船は壊滅。数十隻の艦艇は海の底に沈み、数千の命は藻屑となってしまった。

 深海棲艦に対する攻撃は、現在に至るまでその一国しか行われていない。

 世界各国が情報を交換し合い、議論を重ね、いつの間にか民主主義か共産主義か東西を分けた冷戦は終結し、世界地図は人類史上初めて安定した時代を迎えた。

 

 人類は初めて、人類に敵対的行動を持つ生命体を前にして、ひとつになったのである。

 

 が、2003年。突如として情報交換に使われていた人工衛星は使えなくなってしまった。世界中の学者が恐れていた事態、太陽フレアによる人工衛星の基盤損傷であった。

 代わりの人工衛星を打ち上げようとするが、ロケットを発射するも、謎の丸い物体の衝突により、ロケットは爆発。どの国でも同じ事が起こった。

 さらに通信の電波状況は世界的に不安定な状況に陥る、謎の現象が起こることとなり、無線通信の存在しない第1次大戦前の世界が訪れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 1989年1月7日

 昭和天皇が崩御された。

 2度の大戦を行い、敗戦という焼け野原から摩天楼を築き上げ、様々な出来事、事件が起こった激動の時代がひとつ幕を下ろした。

 そして同時に、新たな時代の幕開けとなる。

 

「新たな元号は"修文"であります」

 

 次の元号発表の記者会見により、新たな元号は全国民に知れ渡り、1月8日より交付された。

 

 

 

 

 誰もが知っている通り、我が国は島国である。大陸から地続きの場所は存在せず、他国への移動は海か空を使っていた。

 先の大戦で敗北を喫したにも関わらず、たった数十年で世界に追いつき、その技術力や品質等においてはどの国にも追随を許さず、無駄に変態とも言えるような職人気質の製品を作り上げ世に送り出していた。

 敗戦から立ち上がった島国は、数十年もの間、不戦を貫いてきた。他国からの侵入や攻撃にさらされることなく、自国の平和と独立を守るために。

 島国という特性上、四方を海に囲まれており、攻めることが難しい天然の要塞ともいえるものであるが、逆に危険な部分も存在していた。

 四方を囲まれてしまえば、不戦を貫いている限り、戦うことが出来ずに籠城戦となってしまう。食料を自ら賄えることが出来るのならばいくらでも続けることが出来るが、我が国の食料自給率は先進国としては極めて低い。食料の半分以上を輸入に頼り切り、そのほぼすべてを海上輸送で行っている。海上を封鎖されれば、同時に空路も封鎖されるのも同義である。

 補給物資の望めない籠城戦は、いずれ飢餓する。そうなってしまえば不戦を貫くなんて言っていられない。

 国民の感情が爆発するのは時間の問題となる。

 そうして、アジア極東の島国“日本国”は海上輸送路確保という名目で戦後初及び、創設初となる“海上防衛軍”による一部火器使用許可、状況により全火器許可がされた防衛出動を発動した。

 

 

 

 

 修文17年・西暦2005年

 海上防衛軍創立初となる海上輸送路確保のための、日本国の存亡をかけた防衛出動が発動された。

 翌日、防衛軍地上通信回線による全国放送により、防衛軍最高指揮官、つまり首相による演説が行われた。

 簡潔に内容を語るとすると、

 

「日夜訓練に励む皆には敬意を表する。深海棲艦と呼称する生命体に対し、日本を防衛するとして軍人となった諸君等は、何も出来ないことに苦い思いをしてきたことだと思う。そして今、日本は存亡の危機に立たされ、一日でも早く、海上輸送路の確保が最優先である。そのための作戦だが、数年前のある国の深海棲艦反攻作戦により、当時の兵器では傷を付けることが敵わなかった。考えたくはないが、考えなければならない。現在の兵器をもってしても、深海棲艦に傷を付けることが敵わないかもしれない。そうなってしまえば、述べなくても理解できるだろう。この防衛出動は、片道しか許されていないのかもしれない。よって、これは志願者のみによる作戦とする。拒否をしても処分の対象とはならない。現部隊に残り作戦遂行するその勇気も、後方支援部隊に回るその英断も私は称賛しよう。諸君等は私の誇りである」

 

 誰もが言葉にしなかったことを首相は口にした。

 片道しか許されていない。

 先の大戦に行われた、神風特別攻撃隊、通称神風特攻隊のように。否、特攻隊のように傷を与えることが出来ないかもしれない。単にエサになりに行くだけかもしれない、今回の防衛出動。

 すべてを理解して、それでも、船を降りる人は誰一人としていなかったのである。

 

 

 

 各総監部に最低限の艦艇のみを残し、ほぼ全ての護衛艦はヨコスカ港へと集結。

 補給を行い約1カ月の停泊の後、集結した艦艇及びヨコスカ港を母港とする艦艇全ては出港した。

 ボウソウ半島沖合

 30隻を超える護衛艦隊。これが平時であるならば、きっと観艦式のように見えるはずだ。

 深海棲艦は生態のほぼすべてが謎に包まれており、水上及び水中レーダーには映らず、パッシブ・アクティブ問わずソーナーは役に立たない。しかも、衛星が使えず、GPSが役に立たない状態である。艦船に対する攻撃時のみ、海面に浮上し姿を見せるため、艦橋の監視員は休む暇もなく目を光らせ続けた。

 ヨコスカ港を出港し3日目の深夜2時過ぎ。

 突如として船内に警報が鳴り響くと同時に艦橋より号令が入る。

 

「対水上戦闘用意!」

 

 ついに来た。

 誰もが緊張した面持ちで戦闘服装に着替え、鉄ヘル、カポックを装備。

 訓練通り防火防水のための道具一式が壁に配置されていたものを通路に置き、戦闘部署発動による防水扉の封鎖。

 総員が所定の場所へ着くのに10分と掛からなかったが同時に深海棲艦は艦砲射撃を行い、艦艇の周りに水柱が立つ。

 絶え間なく水柱が立ち、船体が揺れる。

 ハープーンが複数隻から発射され、深海棲艦を襲う。

 

 全弾直撃。

 

 深海棲艦、存命――無傷。

 

 それを確認したのと同時に、艦隊司令が発しなくとも、艦長は独自に判断し、全火器使用の許可が下される。

 主砲、魚雷、ミサイル、機関銃、その他持てるすべての火器を使用し、目の前の深海棲艦を沈めようとする。

 煙で深海棲艦が見えなくなっても尚、初撃のハープーンに対して無傷であった光景から、どれだけ攻撃しても不安は拭い去れない。

 1匹の深海棲艦が煙の中から現れて、汎用護衛艦目掛けて突撃する。その姿に傷らしい傷は見えず、今の全力攻撃でさえも無意味だった。

 突撃する深海棲艦に機銃掃射しても、まるでそれを邪魔な羽虫だと言うかのようにただ身をよじるだけで勢いは治まらず、そのまま汎用護衛艦の側面へ激突した。

 最も魚の形に近い深海棲艦で大きさは4~5メートルはあり、人の形を成した深海棲艦は通常の人間と同じほどの大きさを持つが、盾のようなものを持っていたりと本来の大きさよりも大きく見える特徴を持つ。

 今突撃したのは最も魚の形に近い深海棲艦で、現行兵器で傷を付けられない硬さを持つものに体当たりを受ければ、今の当たらないことを想定した厚さ数センチの装甲は紙にも等しく、すぐに浸水は始まる。さらに、深海棲艦は宿主の体の中を食い荒らす寄生虫かのように、汎用護衛艦の中を暴れ回る。防水扉を閉めても、すぐに破られて浸水は治まることを知らない。

 ものの数分でたった1匹の深海棲艦により、突撃を食らった汎用護衛艦は航行不能状態へと陥り、総員退艦が命ぜられた。

 それを皮切りに、深海棲艦の猛攻は始まる。

 魚の形をした深海棲艦の突撃、人型深海棲艦の主砲一斉射撃。

 水柱は絶えることなく、弾薬庫への直撃による爆発、深海棲艦の対空砲火により損傷を受けたヘリコプターの落下。

 甲板に乗り込んできた人型深海棲艦に小火器射撃を浴びせても、傷を与えることはできない。

 人型であるとしても、人間ではないと悟ることのできる、その無表情さ。ただ人の形を保っているだけの、別の生物であると、対峙した乗組員は知る。だが、その次の瞬間には海に沈んでしまう。

 護衛艦から漏れ出した燃料が引火し、海は赤く燃え上がる。

 汎用護衛艦、イージス艦、ヘリ搭載型護衛艦に加え、水中で撃沈された潜水艦。防衛軍創設以来、最初の防衛出動は戦闘開始から1時間足らずで終わりを迎え、数十隻の及ぶ大艦隊は全てが轟沈し、乗組員は全員殉職、深海棲艦に対する人類2度目の作戦は敗北で終わることとなった。




pixivに投稿していた作品のお引越しです。
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