クーデレフェチと孤高の女王   作:ずぼらな無機物

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1話:冷たい距離感

白痴美、という言葉を知っているだろうか。一見すると人を罵る言葉に見えなくもないが、れっきとした誉め言葉であり、「表情に乏しい女の、一種の美しさ」という意味を持つ(広辞苑より引用させていただいた)。

俺はこの白痴美を持つ女性に魅力を感じる。

一種の美しさ。そう書き記されているのは、その色のない表情から感受できる美しさが多種多様であり、それらをあまり認識できていないからなのではないだろうかと、俺は勝手な想像をする。人と(俺の場合は、多くは艦船なのだが)関わり、その把握できる人物像というのは大きく限られている。それが更に無表情によって隠される。言わば神秘のベールであり、ブラックボックスである。美しくも虚ろな面影に隠された内面を見たいと思うのは、至極当たり前のことだろう。

さて、改めて。俺は白痴美を持つ女性が好きだ。その憂いを含んだ、影の差した表情が好きだ。時折表面に雪解けが起き、様々な色が見えるのが好きだ。

そして、傍らには、その言葉がよく似合う秘書艦が座って俺の執務を手伝っている。

「指揮官、この書類の確認はしておいた」

女性にしては低めで、凛とした透明感のある声の持ち主が俺を呼び掛けた。

白く艶のある、ショートカットの髪。切れ長でやや釣り目気味の、サファイアをはめ込んだような美しい瞳。小さく整った鼻に、真一文字に結ばれた唇。純白の軍帽から差す影は彼女の憂いを含んだ表情をより強調し、深みを与えているよう。手のひらに当たると溶けてなくなってしまいそうな儚さも、その表情から感受できる。

「ああ、ありがとう、ティルピッツ」

俺は、彼女が好きだ。

建造してひと月とたっていないが、俺は彼女にすっかりと心を奪われてしまった。

「ああ」

相変わらず、平常運転な彼女のよそよそしい冷たい態度。色を見せるは愚か、雪解けすらこなさそうなまである。先ほどの文を訂正しよう、様々な彼女の色を見ることが俺のささやかな夢だ。

業務的なやり取りが会話のほとんどを占めるような距離感。彼女の距離を置いた態度は、それはそれで居心地がいいものなのだが、やはり男の性には逆らえない。彼女のことをもっと知りたいし、親密になりたい。あわよくば恋仲になりたいものだ。そのためにあれこれと手を尽くして、こうして秘書官の任についてもらっている。最高に不純な動機だが、恋心には勝てなかった。

「あとやることは何かあったか?」

「特にはない」

……その恋心は負けてしまいそうだが……いや俺は諦めない。彼女は出会ったときから少し冷たかったのだ、これから少しずつ、距離を縮めていけばいいだろう。

「じゃあ少し会話でもしないか?」

「仕事以外の貴方との会話は、あまり弾まないのでな」

……千里の道も一歩から、という諺があるように諦めずにこつこつとやっていけばいい話だ。が、少しだけ足を速めてみよう。こんなチタン合金より堅物な彼女でも、酒が入れば少しは態度も軟化するだろう。さて、年末最後の運試しと行こう。吉と出るか、凶と出るか。

「なら、酒でも呑みながら話をすれば、少しは弾むかもな。丁度友人からビールを貰ってさ、そいつを」

「これから鉄血のほうで定例会議がある。すまないが、他をあたってくれ」

結果は凶だったようだ。年が明けたら厄払いにでも行くことにする。ふむ、鉄血は定例会議を行っているのか……殊勝なことだ。決して、決して彼女が今咄嗟に考えた俺から逃げるための言い訳ではないはずだ。実際に定例会議とやらは行われていて、そこではしっかりと話し合いが行われているはずだ……そう思いたい。

「……さいですかい」

ばたん、と執務室のドアが閉じられる。

いや、結果は何となく想像できてはいたのだが、どうしても衝動には勝てなかった。普段はリスクヘッジを心がけて指揮をしているのだが、彼女の前だとどうしてもその思考判断力が落ちてしまうようで。

「寒いなあ……」

寂しさが募ったのか、ふとそう独り言ちていた。

だが実際今の季節は冬であり、気温も一桁になることが多々ある。そんな中で寒いというのは至極当たり前のことだ、俺のこの淋しさは周囲の気温によってもみ消されて、誰にも気づかれずに済むだろう。最も、彼女には気付いてほしいのだが。

「……帰るか」

今日も一人酒をする羽目になりそうだ。外の桜は、まだまだ寒々しい姿をしていた。

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