クーデレフェチと孤高の女王   作:ずぼらな無機物

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2話:年明けの距離感

「なあ、ティルピッツ、昨日の誘いなんだけどよ」

「すまない、今日も用事がある」

本日は晴天なり。冬空は今日も高く、澄んだ景色を窓越しに提供してくれる。正し、俺の心は晴れやかで澄み渡っているとは言っていない。寧ろその対極の天気にあると言っても過言ではないだろう。

「……まだ何も言っていないだろう」

「せめてその書類の山を片付けてからおしゃべりをしたらどうだ?」

彼女もまた、晴れとは対極の天気らしい。例えるならば大雪が降る冬のシベリア。そんなシベリアに丸裸で放り出されたような寒さと冷たさが、俺の皮膚から心に浸透して確実にダメージを与えてゆく。彼女の冷たさは某ポケットのモンスターのぜったいれいどが成功するレベルなまである……そんな冷たさがまたいいのだが。そして酒の件は地味にはぐらかされた。そんなに俺と酒を呑むのが嫌なのか、それとも単に酒が苦手なのか。願わくば後者であってほしい。切に願う。

「なら、仕事が終わったら少しは雑談に付き合う程度はしてくれるか?」

「……少しは、な」

酒がだめならせめてもと、ダメ元で彼女を雑談に誘ったが運よく成功したようだ。もしかしたら先日の厄除けが功をなしたのかもしれない。新年早々運がいいのだか、悪いのだか。

目標があるならば、俄然やる気というものは内から湧き出てくる。それも、恋慕の情を抱いている彼女との雑談が目標であり、報酬だ。やる気が出ないほうがおかしいであろう。

「じゃ、仕事を再開するとしますかねえ」

それから執務室にかりかり、という万年筆が書面にインクをつける小気味良い音だけが暫くなっていた。時折ちらりと彼女を見やると、いつも通りすましたような、だがどこか陰りのある表情で椅子に座って俺の仕事が終わるのを待っていた。……相変わらず綺麗な顔立ちをしている。その横顔を見ているだけで俺の気持ちが[[rb:昂 > たかぶ]]るのが

「指揮官、私の顔を見ていないで書面を見ろ」

「あ、わ、悪いな」

気づくと俺は彼女の顔を見つめていたようだ。綺麗なバラには棘がある、とはよく言ったものだ。いや、この場合は用法がまるで違うのだが。大体言いたいことは伝わるだろう。……もう少しだけ、見ていたかった。

 

それから数十分後、あっという間に書類の山は彼女の机に移され、またその移された書類は彼女によってその全てがファイリングされていた。執務はいつもの2割増しくらい早いペースで終わった。これも報酬ありきのことなのだろう。

「よし、終わったなぁ」

「ああ」

声色こそ冷たいものの、そこから微かに感じ取れる労いの念。それを受け取るだけで気持ちが何か温かいもので満たされていく。

「おう、ありがとうな。じゃ、約束通り雑談をしよう、そうしよう」

「だが私のような女と話して、何か面白いことでもあるのか?」

「いるだけで楽しいんだ、話していても楽しいに決まっているさ」

「……好事家だな」

彼女が少しだけ目をそらした。照れているのだろうか、とても可愛い。彼女がデレた(かもしれない)から、今日という日はティルピッツ記念日。国民の休日にしても遜色ないまであるほど重要な日だ、カレンダーにマルでも付けておこうか。

それから本当に少しだけ、彼女と雑談をした。相変わらず彼女は不愛想で笑顔を見せることはなったが、それでも会話のキャッチボールはしっかりとしてくれた。日々のたわいない出来事を会話するだけでも不思議と気分が弾む。彼女もそうなってくれるといいのだが……そうなる日はいつになるかはわからない、というよりそうなること自体が怪しい。

「またな、ティルピッツ」

「ああ」

ばたん、と執務室のドアが閉じられる。

「相変わらずだなぁ」

あの冷たさが、また惚れた理由の一端なのだが。ずうっと冷たくされるのが好きだというわけでは決してない……わけでもないが、やはりちょっとはデレて欲しいというのが本音である。勿論そのデレは普段の冷たい態度ありきのデレがいい。そのデレは俺が独占したい。照れながらデレて欲しい。

「……帰るか」

今日もまだ、外の桜には蕾は一つもついていない。くしゃみを一つしてから執務室を出た。

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