クーデレフェチと孤高の女王   作:ずぼらな無機物

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3話:あだ名の距離感

「軍事委託が完了したようだが……次は私にも行かせてくれないか?少し……好奇心がわくんだ」

「あいわかった、手配しておくよ。そうしたら……油田開発でも頼もうかな」

「恩に着る」

そういえばもうそんな時間だったか。時計を確認すると分針、秒針がともに丁度12時の辺りを指していた。彼女たちの帰還を確認したら俺も飯を食べることにしよう。答えはおおよそ想像できるが、一応彼女を誘ってみることにする。

「なぁ、委託の奴らが帰ってきたら一緒に飯でもどうだ?」

「あまり腹は空いていないな」

「……さいですか」

賭けは失敗。低いオッズに賭けた俺の心が少しだけ擦り減った。だがこの程度でへこたれてたらティルピッツは落とせないだろう。諦めないことが重要だ。……何となく、ギャンブルに依存する人間の心情が分かったような気がする。

また新たな知識を増やして一つ賢くなった(ような気がした)ところで、執務室にノックの音が鳴り響いた。

「委託が完了しました、がいちっ……ご主人様」

「あぁ、うん、お疲れさん、シェフィ」

「その呼び方で呼ぶのは虫唾が走るのでやめて頂けますか、がいちゅ……ゴミムシ様」

「言い方は違えど言い切ってるぞおい……別にいいだろ、ベルだってあだ名で呼んでるんだしよお」

俺のことは害虫呼ばわりするのに、いざ自分が別の呼び方をされると嫌がる我儘なメイドだ。……害虫、か。ああ気にしない、気にしてはいないとも。着任当時から呼び方は変わってないからな、うむ。

「人によって感受の仕方は変わってくるものだと、初等教育の辺りでしっかりと習われたはずですが……ご主人様にとっては理解をすることが難しい内容だったのでしょうね」

こうして相も変わらず、俺の新たな扉を開こうと日々奮励努力してくれているのはタウン級軽巡洋艦のシェフィールド。彼女もまた白痴美を持つ艦船だが、ティルピッツとはまた違ったものを持っている。

口数が少なく表情の変化に乏しいのは前提として。片方がブロンドの髪で隠された眠たげな瞳、まだ年端もゆかぬような見た目から飛び出すウィットに富んだ口撃。そして何より、

(メイドさんだ)

メイドさんだ。

素晴らしい。大事なことなので回数は問わず反芻する。もう正直これだけで平伏ものである。だがメイドらしさで言ったらベルファストのほうが上だ。以前ティルピッツが出撃をしていたときに替わりに秘書を頼んだが、いやはや素晴らしかった。あの凛とした声でご主人様、と呼ばれることがえもいわれぬ快感で、事ある彼女に話しかけていた。今思い返せば怪しい様だっただろう。

……ティルピッツがメイド服を着たらベストなのだが。

閑話休題。

それら一つ一つをとると一つの個性として成り立ち、何ら違和感はないのだが(毒舌なのは個々によって感想は変わるだろうが、俺は好きだ。いや決して、決してマゾヒストだというわけではない……と思う)、それらすべての要素を統合して完成された存在はアンバランスで、歪。それが彼女の持つ美しさ、もとい白痴美なのだろう。所謂ギャップ萌えというやつに当てはまるのだろうか。

「なんでしょうか、私は害虫に見つめられて喜ぶ趣味はございませんが……それともハムマン様のなさるように、通報をご所望でしょうか。でしたら見つめずとも速やかに……」

「ああ、いやすまんはいすみませんでしたよ……考え事をしてただけだっての」

余談だが、実際俺はハムマンには本気で通報されかけたことがある。ただ頭についているもふもふとした耳を眺めていただけなのにである。だが、羞恥心に震えるハムマンは可愛かったから良しとしている……本当は耳を触りたかったのだが。因みに俺の名誉のために言っておくが決して、幼女に興奮するような崇高な趣味(ロリータ・コンプレックス)持っている(こじらせている)訳ではない。多分。

「それでは、失礼します。がいちっ……ご主人様」

シェフィールドが出て行って数分後、何となく、シェフィをあだ名で呼んだように、彼女もあだ名で呼んでみることにする。

「なぁ、ティル」

……どうだ。

……

…………

………………賭けは失敗、負け続きだ。

「あー、何でもない。忘れてくれ」

「あ……いや、少し驚いただけだ。その、嫌というわけではないんだ」

「あ、ああ。そりゃ急にあだ名で呼ばれたらな、驚くよな、悪い」

「それもあるのだけれど、あだ名で呼ばれれることにはあまり慣れていないから、どう反応したらいいのかわからなかったんだ」

「なら、これからはそう呼んでいいか?」

「構わないわ」

「そうか……!なら改めてよろしくな、ティル」

「!……ああ、よろしく。ではまた明日」

気のせいだろうか、頬に朱が差していたような……気のせいだろう。

ばたん、と執務室のドアが閉じられる。

「……結局一緒に飯食えなかったな」

しかし一歩進展、彼女をあだ名で呼ぶことができた。これはシェフィールドに感謝をしなければ。感謝の気持ちを表すために、彼女もまたあだ名で呼ぶことにしよう。ひかぬ媚びぬ顧みぬ。通報なんて怖くはない。……一応憲兵に対する言い訳を用意しておくことにする。

「……今日はカレーにすっかな」

外の桜は少しづつ、春に向けて準備をしているようだ。相も変わらず冷え込んでいるが。日に日に暖かくなっていることは事実だろう。

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