クーデレフェチと孤高の女王   作:ずぼらな無機物

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風邪であることを表現するために地の文を少なくしました。さぼりとか、そういう訳では決してございません。


4話:病人との距離感

……今日もホットコーヒーが美味しい。外が寒いからな。それにしても、今日もティルは可愛い。

「指揮官、ペンが止まっている」

あぁ、なんだか体が熱いな。とうとう彼女に対する思いが体外に熱という形で放出されたというのだろうか。愛の放射線、ティル可愛い。

「指揮官」

「!ああ、すまない、ティル」

執務を再開するが、頭に靄がかかってうまく書類を処理できない。脈絡のない思考が頭をよぎっては消え、よぎっては消えてを繰り返している。同じことばかり考えているでもない。

……ティルは毎日可愛いなあ、本当に。一家に一台ティルピッツ、税込み俺の愛万円。絶対に買えないであろう強気な価格設定である。これには殿様商売をしている某半導体メーカーもビックリだ。

「指揮官、少し」

「ティル……?」

……そういった彼女は手袋を外して、掌を俺の額に当てた。ひんやりしていて気持ちがいい。掌が冷たい人は優しく、温かい人だという俗説ですらない迷信があるが、それを信じたくなってしまう。

「ん、気持ちいいな、ティルの手。もっとこうしていてくれないか?」

「指揮官、凄く熱が出ている。今日のところは執務を終えよう。あとは私がやっておくわ」

「いや……ティルに無理をさせられんよ」

「だからといって指揮官が無理をしていい理由にはならないだろう。貴方が倒れると艦隊の士気に関わるわ」

「なるさ、無理をするに値する理由に、なるさ」

……彼女たちは、命を懸けて戦場で戦っているのに。定めとはいえ、血で血を洗うことを強いられているのに。対する俺は俺は執務程度で音を上げているなんて、情けないったりゃ、ありはしない。

「ティルは分かるだろう、何もできないことの恐怖が。ただ、見ていることしかできない自己への嫌悪が」

結局のところ、俺のエゴな訳だが。

「……」

「そういうこった。頼む……少しくらい、無理をさせてくれ」

「……分かった」

それから、普段よりも遥かに時間をかけて、ゆっくりと書類を片付けた。その間ティルは何も言わずに、ただ俺の隣に座ってくれていた。傍にいてくれた。それがただただ、嬉しかった。理解をしてもらえたような感覚が、安心感があった。

「あぁ……終わったよ。今日は、書類が少なくて、助かったな――」

「ああ。今日は早めに休むと……指揮官!」

ティルの、温かさが、いい匂いがする。彼女が、抱き留めてくれたのか……あたたかい。彼女は、自身を冷たい女と、評していたが、そんなことは、ぜんぜんなく

――――――――――――

――――――――――

――――――――

――――――夢か。夢だろうな。向こうとは違ってどこか白みがかっていて、ふわふわしている。なによりティルが俺の隣で寄り添っていて、薄っすらとだが笑みを浮かべていて。そして極めつけに左手の薬指に指輪が嵌まっている。向こうだと指輪は愚か、笑顔を見せたことはないはずだ。

彼女は満ち足りているようで、幸せそうで。畜生可愛いなあ。現実でも笑った顔、見てみたいのだがな……

――――

――

「あー……やっぱ夢、だよなぁ」

軽く辺りを見回す。ここは執務室に隣接された仮眠室だった。大方ティルが俺のことを抱えて運んだのだろう。

(もっと、ああして抱きしめて欲しかった)

人の夢と書いて儚いと読む。

暫くぼうっとしていたら、聞きなれたノックの音がした。

「おう、起きてるぞ」

そう短く返事をすると、見慣れた美貌が見えた。

「指揮官、もう大丈夫か?」

「……まだ頭がガンガンなる。どんくらい経ったんだ?」

「2時間くらいだ」

「……そうか」

彼女には、迷惑をかけてしまった、情けない。

「ベルファストが貴方のために食事を作ってくれたようだ、食べるといい」

彼女の手には錠剤が入った瓶とソーセージが入ったシチュー、少なめのパン、そしてスープが乗ったトレーがあった。

「ん、わざわざありがとうな」

「気にするな」

それからティルが持ってきた料理をゆっくりと食べた。

「ふー、美味かった。風邪引いたときのオニオンスープは美味いな」

「……そうか。トレーは私が片付けておこう。今度こそ、ゆっくりと――」

「あ、待ってくれ」

気が付くと、彼女の手を握って引き留めている自分がいた。この状況をどう弁解しようか、その前にとりあえず手を離そう。

「……あー、いや……これはそのだなぁ、そう!風邪の時ってどうしても寂しくなっちまうだろう?だからよ……少しだけ」

全く弁解になっていないどころか、本音をさらけ出してしまっていた。本格的に熱にやられているらしい。

「……分かった。暫くはこうしていよう」

そう彼女が呟くと、手袋を外して俺の手を握って、ベッドに腰かけた。……ん?

(ティルが、俺の手を……)

熱のせいで俺はとうとう幻覚を見るようになってしまったのだろうか。だが彼女の手の感触は確かに感じられる。柔らかくて少し冷やっこい、女性らしい手から、握っているうちにじんわりとした熱が伝わってくるのが分かる。

「ティル……」

ただ、たまらなく嬉しかった。出会って今まで確実な距離感を感じていたが、それが少しは埋まったような気がして。

彼女の事が少しだけ、分かったような気がして。

「……」

彼女は顔こそ背けてはいるが、何も言わずにただ手を握ってくれている。

安心する。

本当に、ずっとこうしていたいけど、いずれ終わりがくるんだろう。せめて、終わるまで、このあたたかさを、かのじょを…………。

「お休みなさい、指揮官」

 

X X X

 

翌朝、俺はすっかり回復していた。窓の外を見ると綺麗な朝焼けが少し霧のかかった朝の母港を照らしていた。

シャワーを浴び、歯を磨いてから軍服に着替えて仕事の準備をする。

(そういえば、ベルファストに礼をしないとな)

あの料理は美味かった。俺自身あまり舌が肥えているほうではないが手間、そして愛情(これは希望的観測だが)がかかっているのは何となく分かった。朝食をとるついでにベルファストを捕まえて礼を言うことにしよう。

暫くして、俺は食堂についた。幸いベルファストは入り口に近い位置でロイヤルの面子と食事をとっていたため、すぐにその姿を確認することができた。

「おはよう、ベル」

「お早うございます、ご主人様」

「昨日はありがとうな、美味かったぞ」

「?何のことでしょうか」

……ふむ?昨日確かティルはベルファストが作ってたって言った筈だ……ああ、間違いはないだろう。ぼんやりとだが、しっかりと俺の海馬にはその情報がある。まだ20と少しで、その上指揮官をやっている。痴呆症になってたまるものか。もしなりでもしたらシェフィールドに本格的に害虫扱いをされてしまうかもしれない。今でも害虫扱いをされていることからは目を背けることにする。

「あー……なんでもない、忘れてくれ。それじゃ、今日もよろしく頼むぜ」

「かしこまりました。不肖ベルファスト、本日も努めさせていただきます」

嗚呼、やはりメイドは至高である。このベルファストの少し固い、主人と従者という距離をしっかりと守ったような距離感はメイドの手本といったところか。……うむ、メイド萌えは正義だ。今日もその事実は揺るぎない。Q.E.D

それからつつがなく朝食を取り終えてから、執務室に向かって仕事を始めた。

窓の外の木々は少しずつ、活気づいているように見えた。どこからともなく、春の足音が聞こえる。

 

X X X

 

万年筆を握る手をいったん休めて、休憩がてら今朝から気になっていたことをティルに問いかける。

「なぁティル、昨日の飯って誰が作ったものなんだ?」

「ベルファストが作ったと言った筈だが」

「いやさ、気になってさっきベルに確認したら違うって言われてよ?だから気になってさ」

「……指揮官、早く仕事を終わらせよう」

「釣れないなぁ」

……まさか、な?

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