クーデレフェチと孤高の女王   作:ずぼらな無機物

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後編含めて一応の最終話です。もしかしたら、ちょくちょく投稿するかもしれません。


7話:あたたかい距離感(前編)

「あら指揮官、これからお昼かしら?」

「ああ。一緒に食うか?」

「指揮官からのお誘いなんて珍しいわね」

「嫌だったか?」

「いいえ?ま、いいわよ。一緒に食べましょう」

執務の休憩がてら昼食を取ろうとして食堂に赴き、最初にエンカウントしたのはオイゲンだった。白銀の髪の毛にある赤い一房の髪に、唇に当てた人差し指がトレードマークと言えるだろう。彼女もまたティル同様に笑顔を見せることは滅多にない、というかない。だが共通点と言ったらそれくらいで、それ以外は全く別の美しさが彼女を成り立たせている。

まず、ティルとの相違点で最も強い印象を与えるのはその色香だろう。言葉から仕草に至るまでの全てが無意識のうちに男を誘惑し、魅了している。だが人差し指を唇に当てる癖だとか、上手く俺をからかえたときに見せる笑顔といい、少し幼い面も持ち合わせており

「指揮官?突っ立ってないで食事を取りに行かない?」

「はっ……ああ、悪い悪い」

「また仕事のことを考えていたの?働きすぎは良くないわ。死・ぬ・わ・よ?」

「気を付ける」

実際は色欲に駆られて目の前の彼女の事を考えていただけなのだが。上手く勘違いしてくれた様で助かった。実際は考え事だけでなく、右の胸から見えるほくろに視線を向けていたりしたが、彼女が仕事のことを考えていると言っていたのでそれもなかったことになる……はずだ。

それから適当に空いているテーブル席を見繕って、対面で座って昼食を取り始めた。

「ところであんた、ティルとは何か進展はないの?」

どうやら最近母港の艦船たち、特に鉄血の間で俺がティルにアプローチをかけていることが少し話題になっているようだ。何故だろう、彼女たちの前でティルにはあまり話しかけたりしていないのだが。因みに余談だが、俺がティルのことをそう呼ぶようになってからは、鉄血の連中に限らず母港の殆どの艦船たちにそう呼ばれているようだ。同じ場所で戦う仲間同士、距離が縮まるのは喜ばしい限りだ。……俺との距離もそうして縮まっているといいのだが。

「どうして俺がティルにアプローチをかけているって分かるんだよ、本当に」

「女の勘ってやつよ。指揮官の様子とかから、何となくわかるわ」

「……なんつーか、座学には少し自信はあるが、女心のことは死んでもわかりそうにないな」

「そんなんじゃティルは落とせないわよ?で、どうなの?」

女心の筆記テストをしたら赤点どころか〇点をとりそうなまである俺でも一つだけ、分かることがある。

(なんでこんなに色恋沙汰に関する話が好きなんだろうなぁ)

分かっていてもその原因、真相は闇の中にあるのだが。

「……まぁ、ぼちぼちだな。前よりかは確実に仲良くなってると思うんだが……酒の誘いは全て断られちまってる」

そういえば、初めて誘ってからもう4ヶ月くらいになる……が、依然として結果は全敗であった。もう木々は色づき始めているのに、俺の青い春はまだまだこなさそうだ。

「あら、ティルはお酒飲めないわよ?」

……嘘だろう?

「……もう少し早く知っておけばよかった」

だから彼女は今の今まで俺の誘いを断っていたのか。俺と酒を飲みたくないのだろうと半ば確信めいた念を抱いていたがよかった、まだ希望はありそうだ。

「ん?だけど酒が苦手なだけで断ったりしないよな……やっぱ俺ってあんま好かれてないのか……」

そう考えると段々と気分がブルーになっていった。深く考えすぎだとは自分でも思うが、彼女のこととなると気が気でいられなくなってしまう。男の俺には似つかわしくない言葉だとは思うが、恋の病とはよく言ったものである。

「仕事をしているときの指揮官は様になっているのに、色恋沙汰となるとてんでダメなのね」

「うるせぇ」

士官学校という色とは一切縁のない(一部はそんな中でも薔薇色を探していた人間はいたが)場所で青春時代を過ごしたのだ、色恋沙汰において優秀だったら逆におかしいだろう。

「あら、そう気を悪くしないで。お詫びにもう一つティルのお酒事情を教えてあげるわ。あいつ、酒癖が悪いのよ。それをあんたに見られたくないから誘いを全て断ってるんじゃない?」

「そうなのか……その、ティルが酔ったらどんなふうになるんだ?」

「それはヒ・ミ・ツ。ティルの名誉のために黙っておくわ」

そう言われると俄然気になってしまう。それも好きな人のことだから猶更だ。因みに、この禁止されるとかえってそのことをしたくなる現象をカリギュラ効果と言うらしい。明日使えるかどうかも怪しい豆知識だ。

それにしても、ティルが酔った姿か。素面があれだから想像が膨らむ。……ティルといえば、今日は彼女が演習に出る日だったような……

「ってやべっ、もう少しで演習が始まっちまう……急いで食わねぇと」

「誰かさんがいるから絶対に見逃せないものね」

「うるふぁいな、ふぃるらけがもくてきやなくて、せんじゅつろかれーたにかんふるあれこれふぉかがあうあらみのあせらいんらよ(うるさいな、ティルだけが目的じゃなくて、戦術とかデータに関するあれこれがあるから見逃せないんだよ)」

「あら、ティルを見るってとこは否定しないのね。それと食べるのか喋るのかはっきりしなさい」

彼女の勧めに従い、黙々と飯を食べ終えて演習場に向かった。

 

X X X

 

「うん、今日も問題なくやれてそうだな」

今日の演習はいつものような俺の母港の内の面子同士の演習ではなく、最寄りの母港の艦隊との合同演習という形で執り行われていた。

「相変わらず強いねぇ、あんたんとこの艦隊は」

対戦相手の母港の特筆すべき点として挙げられるのは、やはり隣でともに演習の様子を傍観している彼女の存在だろう。どうやら女性で指揮官になるということは異例らしく、着任したときは同期の間でその話題で持ちきりになった。

(ま、そりゃ話題にもなるよな)

彼女はこの血生臭い戦場に似つかわしいほどの美人で、その上あっさりとした性格をしているため色々な人間、艦船とコミュニケーションを円滑にこなすことができる。指揮官の間ではちょっとしたファンクラブができているほどには人気のようだ。そんな雲の上の存在が隣にいる……この優越感は言葉にしがたい。そして何より

(おぅ、目線がついつい行ってしまう……)

胸が、大変ボリューミーだ。彼女の艦隊にいる高雄と同等くらいだろうか……軍服にギリギリ収まっている、このはちきれんばかりのボリューム感は男を惹きつける魔性を宿しているのだろう。現に俺はその魔性にギリギリのところで惹きつけられてしまった。そこは自分を律するところだろうが、どうしてもオスの本能には逆らえなかった。男性諸君はきっと、俺の気持ちを理解してくれることだろうと信じている。そうだろう?

誰が答えるわけでもない虚しい問いかけをしていたら、彼女から声が掛かった。

「そういえばあんたってさ、今付き合ってる子とかっているの?」

プリンツといい、女性は本当にこの手の話題が好きなんだろうな。性というやつだろうか。

「いやまぁ、今はいないんだがな……」

「お?その反応はもしや……好きなコはいるんだろ~?」

そして今日はもう一つ身をもって体験したことがある。女の勘は鋭い。巷でよく聞く話だが粗方間違ってはいないのだろう。

「まぁ、いなくはないが……あー、この話はもういいだろう?」

「んもう照れ屋だなぁ、ほれどうなのよ、ゲロっちゃいなさいよ、ウリウリ」

「おい、ちょっと……」

やめて頂きたい。貴女のたわわに実った二つの巨峰が俺の体を刺激してやまないのだ。なのにそれに俺から触れることは許されないジレンマが俺の健全な男子の心を蝕んでいる。これは忌むべきことである。だがそれ以上にまずいこととして挙げられることが一つある。健全な男性諸君ならよくわかるあの現象が……つまりこのままでは演習中の彼女たちの対空砲のように俺の砲の射角が最大になってしまう。……砲なんて呼べるような立派なものでもない気がするが。

「なんだ、それともいないの?だったら私がもらっちゃおっかな~」

「そういう態度に俺は騙されたことがあるからやめてくれ」

実際に俺は士官学校に入る前、中学生の時に騙されている。告白して玉砕したあの日以来、俺は女性のこうした態度に少し懐疑的になってしまった。今でもたまに思い出して頭を抱えたくなる時があるくらいにはトラウマだ。

「あはは、ごめんごめん」

「分かってくれたようでなによりだ」

こうして彼女と会話をしながら、演習の様子を一部始終眺めていた。結果は……俺の艦隊の勝ちだった。今日はティルの動きが良かったな。

「あちゃ~……惜しくも負けちゃったなぁ」

「だけど、前やった時よりかは確実に強くなっているんじゃないか?」

「勿論!毎日の訓練は大事だからね……っと、早く迎えに行こうよ」

「そうしよう」

 

X X X

 

「うっし、お疲れさん」

「今日も勝っちゃいました!指揮官、ジャベリンは凄いでしょう?」

「おう、よく頑張ったなぁ、よしよし」

「子ども扱いしないでくださいよぅ」

わしゃわしゃと彼女の頭を撫でると少しの抗議の声は聞こえたが、甘んじて受け入れられたようだ。

「ティル、その、MVPおめで――」

「ああ」

とう、と言い切る前に途中でぶった切られてそのまま向こうまで歩いて行ってしまった……すごく、傷ついた。何故だろう、何が彼女を不機嫌にさせてしまったのだろうか。MVPをとる活躍をしているのに不機嫌な理由はなんだろうか……俺なのだろうか?

「うわっ、指揮官が目に見えて落ち込んでる……」

どうやら隠しきれないほど俺は落ち込んでいるらしい。そりゃあ無理もないだろう、惚れた女性にああも無下に扱われて傷つかない男はそういないと思う。

「なあジャベリン……なんであいつ、あんな怒ってんの?」

彼女と4ヶ月もいると、たとえ無表情だとしても何となく感情を読み取ることはできる。だからこそ言えることなのだが、今日のティルは結構、いやかなり不機嫌かもしれない。少なくとも執務室であれほど不機嫌になったところを俺は今までで一度も見たことがない。

「それは……うーん、怒っているのはジャベリンも何となくわかりますけど、理由までは……」

「そっか……はぁ、俺がなんかしたのかねぇ」

「あんた、本当に自覚ないの?」

と、オイゲンから声がかかる。どうやら彼女は何かしらの心当たりがあるようだ。

「え……ああ。今考えてみては、いるんだがなぁ」

やはり女心というのは難しいもので。どう考えても、何度考えてもそれらしい解は見つけられずにいた。

「はぁ……仕方ないわね、今回は特別にヒントを教えてあげるわ。ただその代わりに答えはあんたがちゃんと見つけて、しっかりとティルの機嫌をとってらっしゃい……ティルが不機嫌になると少し面倒くさいのよ」

「本当か、恩に着るぞ!」

最後にぼそりとその不純な動機が垣間見えたが、ここは素知らぬふりをしておこう。

「あんたって本当に一途ね……まぁいいわ。ティルが怒ってる原因はまず間違いなくあんたにある、これは確実よ」

同じ女だからなのか、分かっていらっしゃる。

「そっか……それで、その肝心の原因ってのは?」

「あんた、ティルがMVPをとる活躍をしていた時にあの女と仲良さそうに話していたでしょう?それとジャベリンに対してした行動ね」

「え……まぁ仲良くってのはともかくとして確かに話はしていたが……それだけだとよくわからないな」

どうして俺が彼女と話をしていたら怒るのだろうか。というかそもそも、戦闘に集中していたら俺のほうを見ることはないと思うのだが。考えれば考えるほど、俺が思考の沼に嵌まっていくのが分かる。

「あんたって本当に……いえ、何でもないわ。ヒントはこれでおしまいよ、あとはあんたが考えてあんたがどうにかしなさい」

「……分かった、ありがとうな」

本当のところはもう少しだけヒントが欲しいところだが、これ以上欲張るのもよくはないだろう。彼女の言う通り、あとは俺自身の力で何とかしてみよう。幸いなことに明日の日付は3月14日、本来であればお礼に渡すものに謝罪の意を含ませても問題はないだろう。

「……明石のとこに寄って行くか」

 

X X X

 

「この書類、確認しといてくれ」

「……」

……。

「なぁ、今日は天気が――」

「仕事をしてくれ」

「……はい」

すがすがしい外とはうってかわって、ここの空気はどんよりと重かった。

昨日の一件がまだ尾を引いているようで、彼女は非常にそっけない、というか刺々しい態度をとっていた。

「なぁ、昨日は……いや、なんでもない」

彼女に冷めた目で睨まれた。そんなに怒るようなことだったのだろうか……。

あれからというもの、オイゲンにヒントを貰い最終的な彼女の機嫌を取る方法は考えたが、肝心の彼女が不機嫌である原因が究明できていないため、機嫌を取ることができずにいた。

……とりあえず今は仕事を最優先でやるべきだ。それが現段階で俺にできる最善の選択だろう。

今日は一段と静かで、集中するには持ってこいなはずのここでする仕事は捗らなかった。

 

X X X

 

「今日は何を食おうかねぇ」

仕事の休憩も兼ねて、俺は食堂に赴いたが……胃の調子が悪いせいか食欲はあまりなかった。……実のところ休憩というのは建前で、あの空気に耐え切れずに逃げ出してきたというのが本音な訳だが。

憂鬱な気分のままトレーを運んでいたらオイゲンを見かけた。……あとは自分でどうにかするといった手前情けないが、もう一度彼女を頼ることにしよう。

「オイゲン、相談事がある」

「……まぁ、こうなることは何となく分かってたけどね」

「助かる」

「私はまだ何も言っていないわよ?……まぁいいけど。とりあえず食事を済ませましょう?」

「分かった」

それから20分ほどだろうか、お互いに食事を済ませたのを確認して俺は口を開いた。

「率直に聞くけどさ……俺、どうしたらいいんだ?」

「はぁ……どうしてこんなに単純なことに気づかないのかしらね」

「む……俺だって昨日から真剣に考えたさ。それでもよ……どうしたらいいか分かんねぇんだよ」

真剣に考えた結果が今日の戦果だ。彼女と仲直りをすることは愚か、話しかけることさえもできてはいなかった。もう正直手詰まりだ、これ以上打開策が思い浮かばない。肝心のホワイトデーに渡すものもこのままでは渡せずじまいになるだろう。

「いい?あんたはティルが好きなのよね?」

「いきなり……ああ、好きだ」

突拍子もない質問に対してその意図を聞きたくなる衝動をぐっとこらえて、ここは一つ素直に彼女の質問に答えていくことにした。頼っているのは俺のほうなのだから、文句を言えた立場ではない。それに、今の状況で彼女が意味のない冗談を言うとも思えなかった。

「なら、もう答えは見えているじゃない」

「えぇ……?」

と意気込んだ矢先、彼女の質問は終わったようだ。一体先ほどの問答にはなんの意味があったのだろうか。

「あんたって本っっ当に朴念仁ね……。いい?昨日ティルはあんたがお・ん・なと、仲良く話していたことに対して腹を立てているのよ?殆ど感情の波を立てないティルが怒っているのよ?ここまで言えばいくら鈍いあんたでも気づくでしょう?」

「……それって、つまり」

「今度こそ自分の力で何とかしてみなさい」

「……分かった」

彼女には、今度個人的に礼をすることにしよう。お陰で(くすぶ)っていたものはスッキリした。あとはずっと喉につかえていた想いを、彼女に伝えるだけだ。軍人にも関わらず臆病風に吹かれてずうっと伝えられずにいたが、もうくよくよなよなよするのはやめだ。今日で白黒ハッキリつけることにしよう。

……それともう一つだけ、渡すものが増えたな。

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