その日は雨が降っていた。コンビニバイトが終わり家に帰宅する時、それらは現れた。初めは今日は傘を差す人が少ないなと思ったが、家に近くなるに連れてその人数は増していく。
もうすぐ家だと思ったその時、誰かに腕を捕まれた。その人物には見覚えがある、あの時の汚い子だった。そして気づく、俺を取り囲む人達が全て汚い子と同じ位の背丈だということに。
「ナンデ?ネェ、ナンデ?」
その子は俺の腕を強く掴む。その力は、まるで万力のように強くなっていく。フードの奥の瞳が俺を見ている。それに共鳴するように周りの人達が復唱する。
「「「「「「ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ」」」」」」
そして、俺の腕を掴んでいる子は俺に言った。
「ドウシテ、ナニモシナイノ?」
その言葉を聞いて、俺は布団から目を覚ました。
またこの夢か、そう思いながら汗を拭う。あの日から同じ夢を見てしまう。あの日から一ヶ月過ぎたが、あの日以来あの汚い子を見ていない。なのに何故こんな悪夢を見ているのだろう?
今日もバイトなのでニュースで天気予報を確認する。どうやら今日は晴れのようだ。
バイトに来ると、店長が顔を青くして店の向かい側に立っていた。俺は気になって店長のいる場所に近付くと、そこには鈍器で殴られたような姿のボロボロな男の死体だった。
「店長、これは?」
「ああ君か、また強盗だよ。今月で三人目だよ。」
ボロボロな男のいた場所は、直ぐに警察がやって来て立ち入り禁止の黄色いテープをしきりにしていく。それを見ながら俺は仕事を始めた。
バイトが終わり、家に帰ろうとすると店長が話しかけてきた。
「君、帰りも気を付けるんだよ。今回の強盗は、殺人をしているんだから。それと、雨降ってるみたいだからこの傘を使いな。」
店長が俺にそう言って、傘を渡してきた。ニュースで晴れと言っていたので傘を置いてきたが助かった。俺は弁当を買って家に帰る。
家に帰る途中、誰かにつけられている気がした。俺が早足になると、ついてくる足音も早足になる。ストーカーかと思ったが、冴えない男をストーカーする物好きはいないと思い俺は後ろを振り返った。
振り返ると、目の前には金属バットを振りかぶる男の姿があった。俺は咄嗟に傘を男に向けると、傘は鈍い音をたてながら弾け飛ぶ。雨が降り視界が悪いが、その男が持つ金属バットには血が付いていた。
俺は弁当を落として路地裏へと逃げ出す。狭い路地裏ならバットみたいな長い道具を振り回せないと思ったからだ。男は追いかけてくるので、俺は路地にあるゴミ箱を倒しながら逃げるが、その路地の先は行き止まりだった。
「ちょっと待って!お金は出すから見逃してくれない?誰にも言わないから、ね!」
「心配するな、金は自分で回収する。お前は俺に殺されればいいんだ。それに、人を殴った感触が気持ちいいんだよ。」
いや、そんな感触知らないですし知りたくもない。男はそう言うと、俺に向かって飛びかかる。俺は咄嗟に腕で頭を庇うが、腕に鋭い痛みが走る。その隙に男の脇を抜けて、俺は逃げようとする。
だが、そんな俺の目の前にあの時の汚い子が立っていた。男は振り返り、俺とその汚い子を確認するとこう言った。
「的が増えたけど、殴りごたえなさそうだなぁ。」
俺はその言葉を聞いて、目の前の子を守るように抱き締めた。その瞬間、後頭部を殴られたのか体に力が入らなくなる。
倒れた俺の目に写ったのは、巨大な蛇のような化け物に頭を噛み砕かれる男の姿だった。動けない俺の体を誰かが引きずっていく。
金属が地面に擦れる音が聞こえると、胴体を巨大な何かに捕まれるような感触がした。俺の体は、何処かの穴に入れられその穴にあの子が入ったと思うと、穴の出口を金属の丸い蓋で閉じられた。
それが俺の意識がある時に見た最後の光だった。