「ん?ここは、何処なんだ?」
強烈な腐臭から、俺の意識は覚醒した。目を開くと周りは暗く、何も見えないが徐々に目が慣れていく。そして、ここで初めて目にしたものは巨大な蛇のような化け物だった。
「ッ!!?」
思わず悲鳴をあげそうになったが、なんとか押さえ込む。悲鳴をあげて目の前の化け物を刺激する事にならなくて良かった。
場所を確認すると、見たところ下水道だった。だが、下水道だというのにまるで人が生活しているように小綺麗なのだ。部屋の奥にはあの時の汚い子らしき姿が見えるが、何時もと姿が違う。
黒いレインコートを来ているが前ははだけ、黒いビキニの水着らしきものが見える。
俺にはその姿は見覚えがある。というか、見覚えしかない。忘れたかったと言うべきだ、トラウマ的な意味で。
「ヤット目ガ覚メタンダ。」
どうやらあの子は起きていたようで、俺に声をかけてきた。あの子が声をかけると同時に、俺の近くにいた巨大な蛇があの子の元へと這って行く。
「ここは?」
「コノ場所ハ、オ前達ノ町ノ旧下水道ダヨ。」
俺の質問に答えたあの子は、俺に向かって歩いてくる。そして、俺の腕を掴むと腕の様子を見る。俺の腕は青白くなり、腫れ上がっていた。それを見た瞬間、腕が痛み出した。恐怖で痛みを感じられなかったらしい。
「直スネ。」
彼女はそう言うと、掴んでいた俺の腕を舐め出した。俺は腕を引こうにも、捕まれた腕はびくともしない。小さな舌が腕を這っていくと何故だろうか、腕の痛みが引いてきたのだ。
「後ハ、骨ダケ。チョット失礼。」
彼女はそう言うと、俺の口に唇を重ねた。彼女の唾液が俺の口の中にながれこんでくる。突然の事に混乱する俺だが、彼女の舌が焦れったいとでも言うかの如く俺の口の中に入り込み唾液を口の中に流し込む。
呼吸が出来なくなり、俺は唾液を飲み込んでしまった。俺が唾液を飲み込んだのが分かると、彼女は唇を離す。離れた唇からは涎が糸を引いている。そして、直ぐに変化は訪れる。折れていた腕が熱を帯び始め、少しすると完全に痛みがなくなった。
「腕が治ってる、嘘だろ!?」
『当たり前だ、艦娘の入渠のオリジナルの効果だ。直ぐに治らない筈がない。』
「誰だ?」
後ろから声がしたので振り返ると、そこには巨大な蛇しかいない。
『どうした?』
「もしかして、今喋ったのって.....。」
『この場には、お前と私達しかおらぬだろう。』
キャアァァァァシャベッタァァァァ!!?落ち着け俺、深海棲艦がいる世界だ。蛇が話しても可笑しくはない筈だ。先ずは、今さっき起きたことを教えて貰おう。
「艦娘の入渠のオリジナルって、まるで俺が艦娘みたいですね。」
『嫌、お前は人間だ。艦娘が我々の力を使っているだけだからな。』
「えっと、どういう意味でしょう?」
『理解出来なかったのか?ならば分かりやすく答えてやろう。艦娘とは、我々深海棲艦の力を使って産み出されているのだ。』
巨大な蛇がそう言うと、長い昔話を始めた。
それは、三年ほど前に起こった。一人の少女が一匹の深海棲艦と結ばれ、子を身籠った。
少女は妊娠して一ヶ月で子を産んだ。元気な赤ん坊が産まれた。あまりにも早いその出産に、国は少女と赤ん坊を拘束し徹底的に調べた。
産まれた赤ん坊は、僅か一年で母親の少女と同じくらいに成長した。成長した彼女は二年もの間、徹底的に検査を受けさせられた。彼女の検査により艦娘が生まれ、国は彼女の処分を決定した。
彼女は最初、処分を受け入れた。処分を受ける前に最後に母親に会いたいと願った。研究者達は、彼女の母親を運んできた。そして、研究者はこう言った。
「彼女は深海棲艦の母体となった貴重なサンプルだ。こうして解体して保管してある。お前も母親と同じように我々のサンプルとして処理する。これからは母親と一緒にいられるぞ、良かったな。」
彼女の中の何かが切れた。気が付いた時には研究所は破壊され、何も残ってはいなかった。彼女は人間に復讐しようと考え、深海棲艦達の元へとやって来た。しかし、人間との間で産まれた彼女を受け入れる深海悽艦は存在しなかった。
彼女の父である巨大な蛇は彼女を受け入れるが、この世界には彼女の居場所は存在しなかった。人間、深海棲艦共に受け入れてもらえない彼女は、さ迷い続けた。
そして、俺と出会ったのだと。
『これまで彼女が出会ってきた者達は、自分の事ばかり考える人間や狂人、相手を滅ぼすことしか考えていない艦娘や深海棲艦だけだった。そこにお前が現れた。お前は、間違ったことをしていると彼女を叱り、彼女の為に自らが損をする行動に出た。あの時の狂人に襲われてもそうだ。その生き方に、彼女は魅了されてしまったのだ。』
蛇はそう言って、俺に向かって頼み事をしてきた。
『頼みがある、彼女を人間として育ててくれ。頼みを聞いてくれるのならば、私はそれに見合う見返りをお前に与えよう。』
そんな無理難題を頼んできた。断ったら殺されそうだなぁと思いながら、俺は睨み付ける巨大な蛇に頷くしかなかった。