『QUEENS of MUSIC』会場。関係者以外立ち入り禁止区域の入り口で警備員が二人、警備していた。彼らは世界的な歌姫二人の舞台を陰ながら守るために選ばれたとても優秀な人材であり、その佇まいや眼光はこのコンサートを絶対に守るという強い意志を感じられる。
「ケトスさん、ここから先はあなたでも・・・」
「交代です」
前準備の時点で既に顔を合わせているため、少し砕けたような口調で警告しようとするのにかぶせるように要件を述べる。彼らは疑問を浮かべながら俺の顔をじっと見つめてくれている。とても好都合だ。
「もうコンサートも終わりが近づいてきました。これから何かしてやろうと考える変な輩はもういないでしょう。ここは大丈夫なので観客用出入り口の警備に合流してください」
同時に魔術回路を起動、暗示をかける。するとみるみるうちに彼らの鋭い眼光は徐々に穏やかなものになっていき、やがて暗示が効いたのか持ち場を離れ、偽りの持ち場へと向かっていく。それを見届けてから手に持っていた通信機に一言、セレナと声をかける。それから少しして一人の少女が歩いてきた。
「ケトス兄さん」
少し大きめのボストンバックを抱えて歩いてきた少女、セレナは俺に声をかける。無事にここまでこれたことに安堵しつつ、もう一度通信機を操作しようとして少し視界がぶれた。足から力が抜け、倒れる、ってところでセレナに支えられた。
「ケトス兄さん!大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっとさっきまでずっと座ってたから血が回ってないだけだ。すぐ治る」
あんまり納得していない風な顔をしているセレナを尻目に改めて通信機を操作して回線をつなげる。
「こちらケトス。無事セレナと禁止区域に侵入した」
『了解しました。ですが少し遅れているようですが』
「マリアとコネを作りたい連中に時間を取られた。それだけで察してくれ」
『わかりました。あと10分ほどで行動を開始しますのでお早めに』
「了解」
セレナが抱えたボストンバックには色々とこれからのための布石として用意した物が入っている。そんなものを少女に持たせるなよと言われるかもしれないが暗示はかける直前にどれだけ相手に警戒させないかが大事でな。誰だってこの場にいないはずの人間が大きなボストンバックをもって現れたら警戒するだろ。ましてや中身はやばいもんだから警戒を解く手段はない。まあ、それでもなんとかできるんだけどな・・・彼女が俺の役に立ちたいと立候補してな・・・。そんな彼女の表情を見るとね・・・・とても断るなんてできないんだ・・・ってことでこうなった。
人に注意しつつ、目的地についた俺たちはバックの中身を取り出し、工作作業に入った。
作業が終わったころには既に事が始まっていた。
『私は・・・私たちはフィーネ!』
俺がマネージャーとしてサポートしていた女性、マリアが高らかに宣言する。歌姫であった自分を捨てて国を相手に戦うことを。それをテレビ端末で見届けた俺たちは気を引き締めて次の行動に取り掛かるために動き始める。マムやきりしらの二人には伝えず俺たち二人だけに伝えていたこれからの流れを。通信機からマリアの行動に対するマムの驚く声が聞こえる。俺はマリアの行動をフォローする旨を告げると通信機を切り、セレナといたずらが成功したような笑みを浮かべつつ歩き出す。
「さて、本職始めますとしますか」
ケトス・ミュケーナイ 19歳
米国聖遺物研究機関F.I.S所属→武装組織フィーネ後方支援担当兼魔術師