転生者は歌姫を守るためにがんばるようです   作:葉っぱの妖怪

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転生者は死んで生まれ変わったようです

【ケトス・ミュケーナイ】

 

 俺には別の記憶がある。簡単に言ってしまえば前世の記憶だ。ノイズなんかいない、魔術なんて実在しない世界で学生として生きていた記憶が。

 だが、とある何の変哲もない時期からプツンと記憶が途切れている。色々と思い出そうとしてみたが何も思い浮かばなかったのでその直後に何かしらの理由で即死したんだろうと断定した。

 

 そんな俺は東ヨーロッパのとある地域で生まれた。かなり若い父親に同年代ほどの母親の一人息子として生まれた俺はケトスと名付けられ、それは可愛がられた。赤ん坊のころから意識ははっきりとしていたのでちょっと色々と精神的にキツイことが多々あったが無事成長できていた。

 俺が魔術の世界に入ったのは6歳のころ。頃合いを見て魔術を教える予定だった両親は予定通り、俺に魔術を教えていった。まずは魔術回路を開く修行から行い、一通りの魔術を学び、一番しっくり来た強化と錬金術を主に身に着けていった。前世では学ぶことがなかったことに正直心が踊った。まあ、その時にはここが型月系というのはわかっていたから将来何かに巻き込まれるのかなと思いつつも両親との平穏な日々を過ごしていた。それがすぐそばまで迫っていたのに。

 

 この世界での俺の住んでいた東ヨーロッパ、つまりは東欧諸国では民族同士の争いが問題視されていた。その火種は時間をかけて徐々に燃え上がりそして今から10年近く前、ついに爆発した。民族紛争の始まりだ。俺たち一家も近所の家族みんな荷物をもって名残惜しい我が家を捨ててでも戦火から逃れようとした。だが、遅かった。戦火は容赦なく避難する人たちに襲い掛かった。俺たち一家もそれに巻き込まれた。多くの人たちが一斉にパニックに陥りあらゆる方向から人が押し寄せた。そして突然熱風と衝撃が襲い、俺は意識を失った。

 

 目が覚めたとき、俺は瓦礫の山と化した廃墟で目を覚ました。また転生したんじゃないかと思ってそれは違うと認識した。その場所は俺が意識を失う直前に見た光景に似ていたし、肉が焦げる匂い、飛んできた瓦礫片で裂けたと思われる傷の痛みが俺は死んでないと教えてくれている。周りを見渡すと俺以外に生存者はおらず、そこまで離れてない場所にクレーターが出来ていた。たぶん、榴弾砲か迫撃砲が俺たちの方に流れ弾したんだろう。それを中心に命だったものが辺り一面に広がっていた。俺が生きているのはおそらく運よくほかの人やその荷物が肉壁となって熱線や炸裂片を防いだのだろう。衝撃は体の小ささから踏ん張り切れずに吹っ飛んだんだろう。そこまで考えてからようやく両親の存在を思い出した。立っていた場所から考えて両親は俺よりも爆心地に近かった。

 

 ということは・・・・。

 

「死んだのか・・・」

 

 ふと頬を水滴が伝うのを感じた。頬に手をやりその水滴が目から流れてきていることを自覚した瞬間、すべてが決壊した。

 

「ぅあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 精神が体に引っ張られているとは感じていたがここまで泣くとは思えないぐらいに泣いた。魔術を教えてくれた父親も料理を作ってくれた母親ももういなくなってしまった。そう思ったらより多くの涙が流れ俺は泣き崩れた。この世の終わりを体現しているようなそんな感じに。数秒、数分、数時間泣いたのかはわからない。だって俺の世界を形成していた存在がいなくなった。ならば俺に生きる意味なんかあるのか?こんな場所で誰一人いない場所でただ一人だけ・・・。今の俺に生きている意味なんか・・・

 

「だいじょうぶ?」

 

 頭の上から声がかけられた。ゆっくりと顔を上げるとそこには二人の少女がいた。姉妹だろうか、桃色の髪の女の子の後ろに橙色の髪の女の子が立っていた。二人とも煤汚れた顔に汚れた服を着ていて、心配そうに俺を見ていた。話しかけてきたのは桃色の姉のほうか。

 

「ひとりなの?」

 

 静かに頷く。

 

「どこかいたいの?」

 

 首を振る。

 

「どこかに行くの?」

 

 何もしない。

 

「・・・行く場所ないの?」

 

 少し間を置いてから口を開く。

 

「じゃあ、私たちと一緒に行こ!!」

 

 俺はその言葉と共に差し伸べられた手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてF.I.Sにマリアたちともども連れてかれ、なんやかんやあってたった今宣言した武装組織フィーネの構成員としてここにいる。ちなみに今現在の状況は調ちゃんによる響ちゃんのメンタルフルボッコタイム終了してマムから撤退の合図が出たところだ。舞台裏で待機していた俺たちは待ってましたと言わんばかりにスイッチを入れた。天井が爆破され客席に落ちてくる。たったこれだけだ。二課装者の意識をマリアたちからそらす。()()()()()()()

 そのタイミングで巨大な分裂増殖型ノイズがマリアたちのすぐそばに召喚される。それと同時にセレナがステージ上に躍り出る。

 

「もう一人装者がいやがったのか!?」

 

 マリアとセレナがアームドギアを展開し、エネルギーを溜める。マリアの槍が紫電を纏い、セレナの短剣が白く輝きながら空を舞う。そしてそれを同時にノイズへ放った。

 

HORIZON†SPEAR

 

FAIRIAL†TRICK

 

 セレナの二振りの短剣がノイズをバラバラに斬り裂き、マリアの砲撃で吹き飛ばす。そして

 

「ここで撤退だと!?」

 

 二課の装者に背を向け、撤退を始めたマリアたち。あとを追おうとするも吹き飛ぶノイズに邪魔され思うように動けない。

 そのすきにマリアたちは会場から撤収。ステージ前には二課の装者、そして増殖し形を形成しだしたノイズが残される。思惑通りにノイズを排除することを優先した二課の装者たちは手を繋ぎ、《絶唱》を歌う。三人分の絶唱七色に輝く光となってノイズを飲み込んでいく。その光を融合症例である立花響が自身の拳に束ねて放つ渾身の一撃はノイズを跡形の無く消し飛ばしその爆発的なフォニックゲインの余波は七色の竜巻となって天高くまで伸びていった。

 

 戦いが終わり、辺りに静けさは戻ったころ、変身を解いた響は膝から力が抜けるように座り込む。よほど調に偽善者と言われたのが堪えたのかその目からは涙を流していた。

 

「ケトス」

 

 会場通路の影からDr.ウェルがソロモンの杖を持って現れる。この会場での最後の任務がウェルの護衛。万が一があったときのために俺は最後までこの場に残っていた。

 

「装者たちは動かないようなのでそろそろお暇としましょうか」

 

「了解した。さっさと戻らないとな」

 

 そう言って俺たちは撤収する。ステージ前ではいまだに響の泣き声が響いていた。

 

 


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