ありがとう平成!
よろしく令和!
【ケトス・ミュケーナイ】
カ・ディンギル跡地。かつての特機二課研究者にしてシンフォギアシステムの第一人者である桜井了子ことフィーネの崩れ散った悲願の地を月明かりが照らしている。その崩落したカ・ディンギルの瓦礫に隠れてる俺、そこから少し離れた場所にウェルがソロモンの杖でノイズを呼び出して二課装者を待つ。二課装者が現れたところをノイズを使って分断したところを俺とネフィリムが襲撃してシンフォギアを奪取する作戦だった。
作戦は上手い具合に進み、目論見通り二課装者の連携を断ち各個撃破に持ち込んでいた時だった。アメノハバキリに砕かれたナイフの予備を抜き放とうとした時、横から視界が一瞬ブラックアウトするぐらい強い衝撃を受けて倒れこむ。
『ケトス!?』
ふいの一撃だったため倒れたがすぐさま体を起こし、衝撃を受けた方へと視線を向ける。暗く見えにくいがあの見慣れた姿は・・・
「翼さん!後ろ!!」
響ちゃんの叫び声に反応した翼が飛び退くと同時に激しい銃声と共に銃弾の嵐が翼のいた場所を通り過ぎた。
「大丈夫ですか翼さん!」
「すまん助かった立花!」
「ぼさっとするな!!囲まれてるぞ!!」
周囲を見渡せばいつの間に現れたのか俺たちを多方向から囲むように20人前後の兵士たち銃を構えていた。
「こいつらは一体・・・」
「アメリカだ」
「「「!!??」」」
守るべき人間から銃を向けられるという緊急事態に焦っている装者たちへ俺が答えを告げる。彼らの装備は多少重装備気味になっているが昼間に俺たちのアジト(仮)を襲撃した米兵さんたちに酷似していた。無論、彼らの顔はゴーグルとマスクで見られないため断言は出来るわけではないのだが、かと言ってあの米国兵士と同じような装備を別な国やテロリストが用意できるとも考え付かねぇ。
「厳密にはお前らみたいな政府お抱えの機密部隊だ。主に暗殺を主任務に置く部隊だ」
「なぜそんな奴らがここにいるんだ!?」
ここにいる理由はおそらく二課をおびき出したノイズ反応をあっちも探知してきたんだろう。だがそんなことよりもこのタイミングで奴らが現れるなんて原作には無かったはずだ。それだけは覚えている。なのになぜ奴らがここにいるか。何かしらのイレギュラーがあったのだろう。つまりは
「狙いは我々の所有してる完全聖遺物ですね」
いつの間にかそばに来ていたウェルの言う通りネフィリムにソロモンの杖。あちら側に渡れば強大な戦力となりえる完全聖遺物がこの場にそろっている。それは日本政府に今もなお日本で米国機密部隊が活動しているということがバレてでも取りに行くべきものとあちらの上が判断したんだろう。
「撃ってくるぞ!!」
クリスちゃんの警告と同時にあらゆる方向から銃弾が降ってきた。咄嗟に彼女たちの前に出て魔術詠唱。展開された魔力障壁が銃弾をはじいた。
『ケトス!今からヘリでそちらへ行くわ!それまで耐え』
「来るな!!撃墜されたらそれこそ一巻の終わりだ!!ウェル!ノイズを奴らにぶつけろ!!」
「既にやってます!ですが・・・」
ウェルの言葉が途切れた理由はすぐにわかった。
「ノイズに対抗できているのか!?」
「ノイズにはシンフォギアでしか対抗できないはず・・・!」
「一体どんなからくりがあるってんだ!?」
「まさか、RN式?」
「ケトスさんそれって?」
RN式回天特機装束
かつて特機二課の若き天才櫻井了子が開発したシンフォギアシステムと呼称されるFG式回天特機装束。そのプロトタイプとも言うべき対ノイズ装束。聖遺物を歌ではなく着用者の精神力、戦意によって強制起動状態にし、全身にノイズ相手の戦闘に必要最低限のバリアコーティングが生成される。
「ってやつだ。ちなみに俺がお前たちのシンフォギアに対抗できるのもそれを使ってるからだ」
「櫻井女史がそんなものを・・・」
「まあ、知らねぇのも無理はないだろう。なんせ十数年前に米国で開発され凍結された欠陥品だからな」
「凍結?なんでだ?」
「俺のは開発者本人に別口のエネルギー源を確保できるよう改造を施してもらったやつだが、そいつは致命的な弱点として着用者の精神力の消耗は激しく並の兵士では数秒で限界を迎えてしまうはずなんだ」
いくら開発凍結直後から改修され始めたといえど、フィーネが手の施しようがなかった問題を十数年で解決できるわけがねぇ。だとすれば弄ったのはRN式の方じゃなくて人間の方か。
「まあ、今保ってるって事実だけあればそんなことはどうでもいい。それよりも立花響、お前たちは離脱しろ。それぐらいなら援護してやる」
「な、なにを言って・・・」
「奴らの狙いが俺たちなのは理解しただろ。ここにいたら容赦なくまた撃たれるぞ」
「・・・・・・」
「それにだ。お前たちは自分の身を守るためだからって人にその力を向けられるのか」
「それは・・・」
「別にその覚悟や責任が出来ねぇからあーだこーだ文句言うつもりはない。逆にすぐに決めて人にその力を向けるほうがおかしいんだからな。後に奴らに敵対するにしろしないにしろ今ここで決める必要はない」
彼女たちの口が堅く閉ざされる。彼女たちが今までシンフォギアを纏って戦ってこれたのは人を守るためという理由があった。だがその守るべき人に銃口を向けられ自分の身を守るために力を振るう。第3期で立花響がぶつかった壁が半年も早く現れた。ほかの二人はどうかはわからないが確実に立花響は動けなくなる。
「・・・不承不承ながらも了承した」
「!翼さん・・・」
「雪音!全力で走るぞ!ついて来れるか!?」
「へっ、愚問だ!」
「話はまとまったようだな。ウェル!英雄さんたちのために体張るぞ!!」
「フッ・・・それでこそ我々です。ほぉーらノイズの出血大サービスだぁ!」
「よし!行けっ!!」
懐から小銃を取り出し発砲する。装填されている弾には遠隔操作で魔術が発動するように術を書き込んであり、それが地面に着弾。点々とながらも魔力障壁を展開する。その後ろを翼を先頭に響ちゃん、クリスちゃんと続いて走っていく。それに伴い奴らの銃口が彼女らを追っていく。その隙に目の前の魔力障壁を解除。今度はこちらから距離を詰める。
接近に気づいた奴らが再度こちらに銃口を向ける形となったがこれで彼女らは確実に離脱出来る。再度魔力障壁を展開してふとここで頭から抜けていたことを思い出していた。
「ウェル!ネフィリムはどうした!?」
「奴らの襲撃時に一度ゲージに戻しましたよ。奴らに放ちますか?」
「そうだな。ノイズが対抗される以上そこまで人数差を埋められない。ネフィリムも出してさっさとこれを終わらせるぞ!」
【立花 響】
あれからしばらく走り続けたのち二課のヘリとの合流地点までやってこれた私たちは息を切らしながらヘリがくるのを待っていた。
『あと4分ほどでヘリが到着する。もう少し待っていてくれ』
「了解しました」
ケトスさんに言われるがままに逃げてきた私はケトスさんに言われたことを思い返していた。確かに私はノイズを倒すためにシンフォギアを纏って戦うと決めた。でも今日、守るためだからこの力を人にも向けなくちゃいけない場合もあるってことを知った。そのことに怖くなって何も考えられなくなって気づいたら動けなくなってた。ケトスさんがバリアを作り出してくれなかったら私はたぶんあの人たちに撃たれた。そしてそのことを見抜かれてた。私は・・・・どうすればよかったんだろう・・・・。
『皆、ヘリが到着した。すぐに搭乗を・・・』
『司令!これを!!』
『どうした!!』
『カディンギル跡地でネフィリムが暴走!アメリカ機密部隊、F.I.S双方の被害甚大!!』
「!!」
「!?立花!?」
それを聞いた途端、私の足は無我夢中で走ってきた方向へと走り出した。
【ケトス・ミュケーナイ】
「ガンド!!」
指先から放たれた黒い塊がネフィリムの体に直撃し動きを止める。だがすぐさま動き出し、安易に接近してきた米兵の一人を悲鳴を上げさせる間もなく喰らった。それでもお構いなく俺たちに銃撃していく米兵たち。
「くそが!!」
俺は小銃のトリガーを引き、米兵の一人にこれでもかと銃弾を叩き付ける。しかしRN式のバリアコーティングに弾かれ体には届くはずのない。そんなことは知っている。銃弾に仕込んだ魔術が発動し、銃弾が派手な爆発を引き起こし視界を奪う。その隙に接近、強化魔術を腕とナイフに通し力いっぱい突き刺した。バリアコーティングが音を立てて破壊され、そいつの左胸から鮮血が噴き出ると同時にRN式は機能停止する。
「ケトス!後ろです!!」
ウェルの警告に合わせ、ノールックで後ろにガンドを乱射。後ろから俺を喰らおうとしていたネフィリムにそのすべてが着弾。動きを止めた隙に距離を取る。再び動き出したネフィリムは俺との距離を縮めようとして銃弾の嵐に邪魔をされる。気がそちらへと誘導され、今しがた自分に撃った米兵を喰らおうと襲い掛かる。
「あと何人だ!?」
「まだ10人はいますね・・・」
「まじクソゲーかよ」
響ちゃんたちを逃がしたあと、人数不利を覆そうとネフィリムを放った。そこまではいい。だがそれが俺たちのコントロール下を離れて暴走すると誰が予想した。ウェルが言うにはRN式という聖遺物を使ったものがこの場にいくつも存在するがゆえに本能が刺激され結果、誰彼構わず襲うようになったのではと。運が悪いにもほどがあんだろ。唯一運が良いといえるのは対空兵装を所持した米兵が表立ってネフィリムを攻撃したことで真っ先に食われたこと。
『ケトス!ドクター!現在全速力でそちらへと向かってます。もう少しだけ耐えてください!』
ヘリがこちらの救援に来れるようになったことだ。だがその到着にはもう少しだけ時間がかかるようだ。捕捉されないようにと少し遠くへ待機させたのがあだとなった形だが、俺個人としてはこのまま到着しないでほしいというのが本音だった。彼女たちにはこれ以上何かを背負わせるわけにはいかないという俺のわがままだけどな。
「ネフィリム来ますよぉ!」
「くっ、俺がネフィリムを相手にする!米兵にちょっかい出させるな!」
口から鮮血を垂らしながら迫ってくるネフィリムを小銃の残弾全部使ってけん制しつつ右手に強化魔術を重ねがける。けん制の爆炎から姿を現したネフィリムの顔面を思いっきり殴り飛ばした。地面に強くたたきつけられる形で吹っ飛んだネフィリムだが、ピンピンした姿で立ち上がった。それには俺の精神的疲労がたまる。俺の攻撃が緩んだことで反撃の隙を得たネフィリムは猛スピードで俺に突撃してくる。それを迎え撃とうとしてブツンと何かが切れた音がしたと思うと俺のRN式が機能を停止する。酷使しすぎて機械の方が先に果てたらしい。
と同時に足から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
「ケトス!?」
『ケトス!!!!』
「くそが、ここでRN式が・・・」
その間にもネフィリムは俺との距離を詰め、大きく口を開けてとびかかり・・・
「ケトスさん!!」
この場から既にいなくなったはずの少女の声と体が突き飛ばされた。
「――――――え」
「―――立花ぁぁぁ!!!!」
声のした方へ顔を向けるとそこにはネフィリムに左腕を持ってかれた響ちゃんの姿があって――――
―――――それをおいしそうに咀嚼するネフィリムの姿があった。
「う、うがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
直後、立花響のとてつもない叫び声が響き渡り、そして、それが引き金となりガングニールの暴走が始まった。響ちゃんの体を闇が包み込む。その姿はまさに悪魔とも言える存在。その圧倒的な威圧感は知っていた俺やウェル、響ちゃんのあと追ってきたとされる翼とクリスちゃん、米兵、そしてネフィリムさえも動きを止めた。
暴走した響ちゃんはエネルギーを形成して左腕にし、ネフィリムへと襲い掛かる。横腹を殴りつけ、顎を蹴り飛ばし、体当たりでその身を地面に鎮める。その体にのしかかり拳を突き刺し、肉をまき散らす。その戦い方はまるで獣の如く。悲鳴を上げるネフィリムの姿にウェルは意気消沈。ほかの装者二人は唖然とし、俺はそれを倒れたまま見続ける。そして右腕に収束させたエネルギーをアームドギアに変え、それをネフィリムに突き刺し、爆発した。爆発のエネルギーは光となって、周辺の者すべてを吹き飛ばした。ノイズ、米兵、装者、人・・・みんな吹っ飛ばした。
爆発の余波から目を覚ますとそこにはネフィリムの姿はなく、暴走した響ちゃんだけが立っていた。
「立花・・・・」
「なんだってんだ・・・?」
「グウウウゥゥゥゥガアアアアアアアアアアアア!!!!!」
吠える。もはやそこに人は非ず、ただ獣のみ・・・。
「フゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・フゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・!?」
銃撃音。元をたどれば
「立花!!止まれ!!」
翼が響ちゃんを制止させようとするが、距離があり過ぎた。ゆっくり歩を進める響ちゃんが米兵を叩き潰す方が早い。そんなことはダメだ。例え暴走が止まっても人殺しをやらせたら、彼女はもう戦えなくなる。本当ならそれがいい。理由がどうであれ少女が命を懸けて戦うということは異常であることに変わりはないが、彼女の明確に人を殺したという事実はいずれ彼女の命を奪う。そんなことはさせない。たとえそれが偽善であってもそれが俺の・・・正義だ。
「ウェル、あとは頼んだ」
ウェルが何か言おうとしたが俺はただひたすらに地を蹴った。
響ちゃんの腕が再びエネルギーを束ね、アームドギアに変えて振りぬく。まさに必殺の一撃。いくらRN式でバリアコーティングされているからと言ってもそんな程度のもので耐えきれるはずがなく、米兵は塵一つ残さず消し飛ばされ・・・・
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
魔術で限界まで引き上げた俺の肉体は響ちゃんの目の前に滑り込んだ。次の瞬間、鋭く重い一撃が腹に突き刺さる。何かこみ上げてくるものを感じこらえ切れず吐き出せば、口の中が鉄っぽい味で満たされる。視界を下にやれば俺の腹から真っ黒な響ちゃんの腕が生えていて、それに鮮血が滴っていた。
軽く見積もっても重症。臓器もいくつか消し飛んでるだろう。だが殺させてはいない。彼女の手を汚させてはいない。その安堵感で力が抜けそうになるが今出せる限界以上の強化魔術を重ねがけし、響ちゃんに抱き着いてでも動きを止める。前からは暴走響ちゃんを受け止めつつ、後ろから空気を読まねぇ米兵の銃撃に襲われるが、そんなことに注意を向けてはいられない。そのまま響ちゃんを押し返し、投げ飛ばした。響ちゃんは綺麗に受け身を取って俺と相対する。
あっちは長時間の暴走状態にこっちは魔力暴走加えて腹に風穴が開いている状態。これ以上はお互いが持たないと判断した俺は一撃で終わらせるために手を握りしめる。俺の殺気を感じたのか確実に俺の息の根を止めようと地面をける。俺はそれに合わせるように足を踏みしめる。お互い右手に必殺の一撃を込めて振りかぶり、そして振りぬいた。先に当たったのは響ちゃんの拳だ。響ちゃんの一撃は俺の左上半身を消し飛ばした。強い衝撃が俺の体中を駆け巡り、俺の体の全てが止まるような感覚に襲われる。そのまま俺の体は地に倒れ
「まだだ」
こむことなく踏ん張り、右手をその隙だらけの胸に叩き込んだ。
「戻ってこい、立花響ぃぃぃぃ!!!!」
叩き込むと同時に響ちゃんの体は光に包まれ、光が消えるとそこにはギアを解除した姿で五体満足の立花響の姿があった。
「よか・・・・った・・・・」
それを認識すると同時に今度こそ俺の体から力が抜け、地面に倒れる。響ちゃんの体は駆けつけた翼とクリスちゃんがしっかりと抱きしめたのを確認し、その意識を閉ざした。
平成最後の投稿にするはずが令和最初の投稿になった件について
この話が終わった時点での主人公の状態。
腹部貫通、魔力暴走による魔術回路の損傷、左半身消し炭。
書き終わって思うなにこの動く死体。なんで生きてるん・・・?いや、一応理由はあるのよ理由は