ゴブリンスレイヤー外伝 暗殺者は冒険者になれますか?   作:ラナ・テスタメント

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はい、どうもどうもテスタメントです。今日のゴブリンスレイヤーもまた面白かった……(ダイマ)
シトナイが引けなかった悲しみが癒えるようだよわたくしごとですみません(笑)
では第一話ですどぞー♪


第一話「再会と出会い」

一年ぶりか――久しぶりの街に入り、暗殺者は苦笑する。首から下を全て隠す特殊な獣皮と耐刃繊維を織り込んだ服に口元を覆うマスク、兜はターバンと額当てをつけたもの。全て黒色だ。何故黒色かと言うと暗殺者だから、ではなく単純に趣味だからである。いくら暗殺者でも、いや暗殺者だからこそ街中で黒一色とか言う目立ち過ぎる格好はしない。

じろじろとこちらに向けられる視線を無視して向かうは冒険者ギルドだ。今は朝方、そろそろ依頼張り出しの時間だろう。となると年がら年中ゴブリンのみを殺して回る奴も来ている頃合いだ……生きているならば、だが。

 

(まぁ、無駄な心配か)

 

いつ野垂れ死んでもおかしくはないが、逆に簡単に死ぬイメージが全く湧かない野郎である。今日も今日とてゴブリンだ、と言ってるに違いあるまい。それに苦笑しつつしっかりとした作りの扉を開いた。

冒険者ギルドだ。中は久しぶりの喧騒に満ちていた。おや? とこちらを見る顔もあれば、見ない顔もある。

……いなくなった者も、勿論いた。

 

「で、俺の槍が――」

 

受付には槍使いの男が受付嬢に活躍を話している最中で ある。こいつらも懐かしいなと肩を竦め、ギルドの端へと視線を向ける。しかし、いつもならそこにいる筈の奴の姿はなかった。と言う事は。

 

「ゴブリン退治の最中かね」

「死んだ、とは、思わない、のね?」

 

久しぶり、と前置きしながら話し掛けて来るのは魔女だ。胸元に銀の認識表が揺れている。三角帽子にローブ、露出の激しい服装――と、こいつも変わらないと暗殺者は首を振った。

 

「他の奴らなら心配もするけど、あいつがどうにかなると思えないんだよな……」

「そう、ね。でも、どうにかは、なったかも?」

「うん?」

「彼、ね。最近パーティー、組んだの」

「……あいつが?」

 

これには本気で驚き目を丸くする暗殺者に、にっこりと魔女は笑う。否定の言葉はない。とすると本当らしい。

いや別に奴は単独(ソロ)にこだわっていた訳ではないけども。

 

「元パーティーメンバーとして、ちょっと、複雑?」

「パーティーっつても、俺はゴブリン専門じゃないし、お互い都合良かったら組んでただけだしな」

 

ちょっと言い訳じみてるなと自分でも思いながら暗殺者は罰が悪そうな顔となる。そもそも一年前に自分の都合で西から都、東へと拠点を移していたのである。その間に奴とていろいろ変わる事もある筈だった。しかし――。

 

「あいつがなぁー」

 

くすくすとそんな様子を見て笑う魔女に憮然となる。何がそんなにおかしいんだちくせうめ、等とは言わない。分かりきった答えが帰って来るのは目に見えていたから。

 

「はい♪ 存じております。お見事でしたね――あら?」

「ん? おお?」

 

と、そんなやり取りをしているとカウンターの二人の目がこちらに向く。それに手をひらひらとしてやると、槍使いがニヤリと笑って手招きした。来いと言うことか。

 

「行って、あげなさい、な?」

「えー……?」

「こういった、稼業、だもの。久しい、顔と言うのは、嬉しい、ものよ」

 

それは、まぁ確かに。自分でも久しぶりの連中を見てそう思ったのだ。あの人懐っこい槍使いならば、それも一際だろう。

 

「ほ、ら」

「はいはい」

 

促され、仕方なくそちらに向かって歩く。カウンターに付くなり、槍使いから肩を回された。

 

「よう! 久しぶりじゃねぇか。一年ぶりか? 帰ってくるなり、人様のパーティーとよろしくやるだなんざ、お前さんもやるねぇ?」

「お前それ絶対魔女の前で言うなよ絶対だぞ」

「あん? なんで」

 

燃やされても知らんぞ馬鹿野郎と相変わらずの槍使いに呆れながらもカウンターの向こうに座る受付嬢にも久しぶり、と声を掛ける。彼女は微笑んで頷いた。

 

「はい、お久しぶりです。いつこちらに?」

「ついさっきだよ。拠点、またこっちに変えるつもりだからさ」

「まぁ、そうなんですか。ならまた彼と?」

「いや、どうなんだろうな」

 

あいつも今やパーティーを組んでいると聞いた。なら今さら自分がノコノコと入るのは筋違いであろう。暗殺者のマスク越しの表情に察したのか、受付嬢はふふと笑う。

 

「彼は多分気にしませんよ」

「間違いなく、『そうか、で来るのか?』て言うよなあいつ」

 

彼女に釣られて笑いながらあの鉄面皮(リアル)を思い出す。一度見たら忘れられぬあの鉄兜は今も変わっていまい。この奴の話しをしたら嬉しそうにする受付嬢の顔を見て面白くなさそうな顔となる槍使いと同じく、だ。

 

「向こうじゃパーティー組んでなかったのか?」

「パーティーと言うか何と言うか、な」

 

都や東では冒険はしていなかったのだ。仲間はいたが冒険者ではなかった。それに自分達がやっていたのは”本業“だ。

 

「まぁ、今は特にパーティーは組んでないぞ」

「そうかそうか、んじゃ、俺達と組まないか?」

「うん? 何を?」

「パーティーをだよ。腕のいい斥候(スカウト)も欲しかったんだよな」

 

ああ、と苦笑し、暗殺者はちらりと魔女を見る。彼女は優しく、優しく笑っていた。しかし瞳の奥はどうなっているのやら、想像したくない。気にしなくていいと言いそうだが、こちらは気にする。

 

「折角だけど、やめとくよ」

「そうか、誰かと組む予定でもあんのか?」

「いや、単独。ちょっと勘を取り戻したいし」

「勘?」

 

訝しげに聞いて来る槍使いに苦笑いで誤魔化す。まさか【祈らぬもの(ノンプレイヤーキャラ)】との戦いの勘を取り戻したいとは言えない。つまるところ、彼は一年間、【祈るもの(プレイヤーキャラクター)】を相手し続けたのだから。

 

「ま、そんな訳で。また頼むよ」

「ふーん、ま、いいか。気が変わったらいつでも声掛けろよ」

「ああ。そっちはこれから?」

「ああ、冒険(デート)さ。マンティコアをいっちょな」

 

にやりと獰猛な笑みを浮かべる槍使い。その胸元には銀だ。辺境最強は伊達ではない。かの魔獣を相手するのに余裕の表情だった。

 

「人喰い鬼(オーガ)に比べればちょろい相手か?」

「そうでもねぇ、て何でお前それ知ってんだ」

「いや、吟遊詩人が歌ってるから。あいつも――」

 

首で示す先には女騎士と掲示板を見ている重戦士がいた。こちらの視線に気付き、にやりと笑って手を振ってくる。辺境最高、それが彼らの異名だった。

 

「あいつもな」

「え、奴もか!?」

 

知らなかったのか、びっくりする槍使いに辺境最優と呼ばれていると告げてやると、マジか……と唸り始める。

まぁ、こちらでは雑魚専と呼ばれたり、あの異様な風体のせいもある。気持ちはちょっと分かった。自分もつい聞いた時吹き出したのだから。

 

「ほ、ら。どうした、の? 冒険、行くん、でしょ?」

「あ、ああ。それじゃまたな」

「おお、またなー」

 

あいつがなぁ、とまだ言ってる槍使いに手を振って、さてと受付嬢に向き直る。彼女はニコニコとこちらを待っていた。

 

「彼以外とはパーティーを組みたくない、とかですか?」

「まさか。んな気色悪い男になった積もりはないよ」

 

しかしはいはいと受付嬢は取り合わない。そして改めてこちらを、と。あるものを差し出した。

 

「この間、東のギルドから届けられました。銀に昇格おめでとうございます」

「は?」

 

それは銀の認識表だった。在野最上を示すもの。だが、暗殺者はそれをぽかんと見ていた。一年間、自分は依頼も何も請けていない筈だ。それが何故?

 

「なんかの間違いじゃないのか? 俺等級審査とか何も受けてないんだけど」

「え? そうなんですか? でも、これ貴方の名前ですし」

 

確かに、間違いなく認識表には名前があった。と言う事はこの認識表は自分のものだと言う事――しかし何故?

 

「あ、ちょっと、これ。忘れてたわ」

 

ゴメン、と受付嬢の同僚が手紙を渡して来る。どうやら認識表と一緒に送られたらしい。彼女と顔を見合わせると、とりあえず読んでみるかと開き――そして床に叩き付けた。

 

「ちょ!? どうしたんです!?」

「ああ、いや何でもない何でもない。ただとても腹立つ見出しだったから」

「はぁ」

 

曖昧に頷く受付嬢に愛想笑いで誤魔化しつつ、中身を改めて読んでいく。そして頭を抱えた。何故、自分が銀となったのか、ようやく分かったから。

 

「あの年寄りどもめ……」

「あの、大丈夫です?」

「ああ、大丈夫大丈夫。事情分かったから。やっぱそれ俺のらしい」

「そうなんですか? えっと、改めておめでとうございます?」

「うん、ありがとう」

 

微妙な表情で認識表を受け取り、首に掛けていた銅の認識表を渡す。これで自分は銀等級と言う訳だ。甚だ不本意ではあるが、是非もなし。

 

「ああー、まぁ、とりあえず依頼だ依頼。何かある?」

「えっと、もう大体は皆さん請けられてしまいまして。あるのは、そのー」

 

言いにくそうにする受付嬢にああと事情を察する。残っている依頼と言ったら大体はアレと相場は決まっていた。初依頼もそうだったなと苦笑して、ちょっとした悪戯心を表した。どうせなら、奴の真似をするかねと。つまり――。

 

「ゴブリンだ。だろ?」

 

ゴブリンスレイヤーに倣い、久しぶりにゴブリン退治を請ける事にしたのだった。

 

 

 

やはりゴブリンスレイヤーは一党(パーティー)を率いてゴブリン退治に行ったらしい。それを聞きつつ彼が請けた依頼とは全く別の依頼を請け、暗殺者は準備を整えて依頼した村へと向かっていた。既に娘が一人拐われており、他には家畜がいくつか、そこそこの規模の巣であるのは容易に想像がついた。シャーマンかホブのどちらか、あるいはどちらもいると見ていい。

 

(ロードやチャンピオンは――大丈夫か)

 

もしいたら村は小鬼禍にあう可能性大だ。しかし、そこまでの規模ではあるまいとゴブリンスレイヤーから教わった知識を元に判断を付ける。勿論油断なぞもっての他だが。

丸一日掛けて歩き通し、ようやく村についた時には日が暮れかけていた。すると、村の入り口に老人が佇んでいる。その顔には見るからに焦燥が張り付いていた。

 

「あ、あの冒険者の方ですかの?」

「ああ……何かあった?」

「それが……」

 

彼は村長だったらしい。確か拐われた娘の祖父だったか。ゴブリンに拐われた以上、孫娘は哀れな事になっているだろう。だが、村長の表情の理由はそれだけではなかった。

 

「孫には友達の娘がおりましての。その娘が、助ける、とゴブリンの巣に……!」

「一人でか!?」

 

必死に村長や村民は止めたらしい。しかし彼女はまるで憑かれたように巣に向かってしまったとの事だった。自分は冒険者だから、と。

 

「武器や装備、ポーションは?」

「な、何も……」

 

無謀過ぎる。自殺志願者か何かか。いや、まさかそうではあるまい。村長は彼女の様子がおかしいと言っていた。

 

「あの子は、つい数ヶ月前に冒険者になりました。しかし、すぐ帰ってきて、引きこもってしまって……」

 

冒険者成り立て、しかしすぐに帰って引きこもり――ああ、と暗殺者はため息を吐く。大体の事情を察した、察せれてしまった。それは、よくある事だから。

 

「……ゴブリンか」

「おそらく。何も、聞いてはおりませんが」

 

つまりこうだ。友達が拐われた。しかも自分をああしたゴブリンに。助けなきゃ、あんな目に遭わせられない。

あるいは自暴自棄もあったかも知れない。自殺を考えるのもまた十分にあり得る話しだから。

本当なら休養を取り、十分に情報を集めてゴブリンスレイヤー仕込みの奇襲を行う。それが元々の作戦だった。ただでさえ自分は単独だ。無理は出来ない――が。

 

(見捨てるのは違うよな)

 

あのゴブリンスレイヤーならどうしただろう。そう考えると苦笑した。奴なら情報をそれこそ集めながら即座に向かう。そう言う奴だ。

 

「夕方か。タイミングもいい」

「で、では?」

「ああ、今から行く。巣の場所は分かるか?」

 

力強く頷きながら踵を返すのだった。

 

 

 

果たして、暗殺者はその娘を何とか助ける事に成功した。入れ違いだったのだろう。体中に切り傷を負ってはいるが毒も受けていない。危ういところだったが、間一髪だったか。

ついでこちらへと走ってくる――本業のおかげで夜目が効くように訓練した――ホブを見て取って大振りのスローイングダガーを取り出した。剣先の芯に鉛を仕込んであり、若干重い。しかしこの重さが投擲に速度と威力を生んでくれる。

ボッと、空気を突破するような速度で放たれたスローイングダガーは頭を出したホブの喉に容赦なく食い込んだ。剣先が半ばまで刺さっている。致命的一撃(クリティカル)だ。

 

「GuGORB!? GOBB!」

 

激しく吹き出す血と痛みで暴れだすホブに巻き込まれ、共に来ていた二匹のゴブリンが潰された。労せず二匹だ。そしてホブももう助からない。今投げたスローイングダガーには毒を塗ってある。やがて呼吸も出来なくなり、ホブの巨体は崩れた。

 

「田舎者(ホブ)だ」

「え?」

 

きょとん、とこちらの言葉に顔を上げる気配を感じながら暗殺者は向き直る。元々は活発な娘だったのだろう。意思の強さが伺える。腕前もなかなかのものだった筈だ。入り口からここまで七匹のゴブリンの死体があったから。

そんな素質がある娘でさえも、油断、慢心、そして出目が悪ければ敗北する。そして敗北した先にあるのは地獄だ。

 

「でかいのが一匹な。来てた」

「でかい、の……っ!?」

 

愕然と問い直し、そして彼女は蹲って吐き出した。何を思い出してか等と聞くまでもなく、またどうにも出来なかった。これは、彼女の傷だ。その痛みは彼女しか分からない。

やがて吐き出す彼女を置いて暗殺者は前に進む。入り口にトーテムはなかった。ならここの長はこいつと言う事だ。なら後居るのは――。

 

「娘は、生きてるか」

 

全裸で目は虚ろ。体中痣だらけだが生きている――生きて、この先どうなるのかまでは分からない。自分にはどうしようも出来ないから。だから、せめて。

 

「奴曰く、ゴブリンは恨みを忘れない、か」

 

慣れないな、と思いながら迷いなく奥に向かう。そこにはゴブリンの子供達がいた。ふるふる震え、怯えながらこちらを見ている。しかし手の中にある石を見て暗殺者は頭を振った。

 

「迷うなよ」

 

それだけを言って、一匹ずつ引きずりだし、殺していく。ゴブリンは皆殺しだ――奴の言葉を思い出し、頷く。そう、ゴブリンは皆殺しにしなければならない。それこそ、人の為を思うならば。

やがて全部殺し終わると背嚢から布を引っ張り出し、娘に掛けて抱えた。これで依頼は達成だ。

ゴブリン退治に達成感などはない。いや、普通ならあるかもしれないが、そう思うには知りすぎた。助け出した娘達の末路。そして生き地獄を味わわされ、死んだ犠牲者。そう言ったものを知る限り、ゴブリン退治否、ゴブリン“駆除”に達成感など求められまい。

ゴブリンの死体を尻目に出口へと向かう。その途中に先ほどの彼女がいた。ぼんやりとこちらを見ている。彼女もまた、この先どうなるのか。どうしようも出来ないと首を振り、彼女を置いていく。そう、自分には何も出来ない――。

 

「待って、下さい」

 

だが声が掛けられた。胃液でしゃがれ、焼けた声。しかしぞっとする程強い声だった。思わず、立ち止まってしまうほどに。

振り向くと、彼女は立ち上がっていた。一人で。ふらふらになりながらも、一人で。そしてこちらを見る目が爛々と輝いていた。強い意思、怒りの光に。そして。

 

「わたしを、弟子にして下さい!」

 

この時、暗殺者は自分が何と答えたか覚えはいない。だが、結果として、彼女――武闘家の娘は自分の弟子となり、パーティーを組む事になったのだった。

 

 

(第2話に続く)

 

 




はい、第一話でした。ちなみに暗殺者君が一年間何をしていたのかは後々分かるのでお楽しみにですよー
新キャラも後に出ます。またお分かりの通り、武闘家さん再起の話でもあります。なのでそこらもお楽しみにですよー
ちなみに女神官ちゃんはちゃんと原作通りなのでご安心を
でわでわ
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