ゴブリンスレイヤー外伝 暗殺者は冒険者になれますか?   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントです♪
いやぁ、ついつい筆が乗り二話であります。しかし今回も会話メイン。お前の持ち味のバトルはどうした?(笑)
ではでは、どうぞー


第二話「装備を整えるのは基本。アイテムを買うのは常識」

「……ふぁ」

 

早朝、夏も過ぎれば日が昇るのも遅い。暗殺者が目を覚ましたのは、そんな薄暗い時間だった。

久しぶりのゴブリン退治を行ったのは昨日。流石に夜更けに帰る訳にもいかず、村で一泊したのである。ゴブリンに拐われた娘は今は療養中、後はどうなるかはそれこそ分からない。出家するか、はたまた――考えてもせんない事かと頭を振って、服を着込む。本業を行っている時から使ってる戦闘服だ。特殊な獣皮と耐刃繊維を織り込んだこの服は刃物に滅法強い防御力を有していた。変わりに打撃には弱いのだが、そこはそれ、動きやすさ重視である。元より暗殺者が全身鎧なんぞを着る事はまぁあるまい(一部例外を除く)。

そしてマスクを引き上げ、ターバンと額当てを取り付けたヘルムを被ればいつもの装備である。暗器の類は回収もしていないので、いくつかは買い直す必要がある。そして黒色の短剣と、一本だけ飾りが付けられたショートソードを確かめて腰に取り付けた。これから一日掛けて西の街まで戻らねばならないが、道中何があるか分かったものでもない。そう、戻らなくてはならない――弟子を連れて。

 

「……はぁ」

 

何故こうなったし、とは思うものの後悔は先に立たぬものである。完全に勢いに負けてしまってつい頷いたのが運の尽きだ。

 

(俺、こんなに押しに弱かったっけ?)

 

そうは思うが、最早後の祭りだ。再び嘆息すると、村長から借りた納屋から出る。すると入り口には彼女が居た。女武闘家だ。

 

「おはようございます! お師さま!」

「…………おはよ。あと、なんだお師さまて」

「師匠のことです。これからはそう呼ばせて貰おうかと……ダメでした?」

 

最初の勢いは何だったのかとばかりに尻すぼみとなる女武闘家に、別に構わないと無言でひらひらと手を振ってやる。躁鬱が激しいと言うか……彼女は一気に押したかと思えば、急に引く所があった。元からこうだった訳ではあるまい。ぱぁっと表情を明るくする彼女に小さくため息を吐いて歩きだした。

 

「お師さま。これからどこに行くんです?」

「西の街に戻る。ギルドに報告しなきゃだしな」

「西の街――」

 

と、ぴたりと女武闘家の足が止まる。振り向くと表情が固まっていた。それをじっと見て、ややあって告げてやる。

 

「ギルド、行きたくないのか?」

「そう言う訳じゃ……ないんです」

 

視線を落とし、言いにくそうにする女武闘家を暗殺者は見つめる。西の街、おそらく彼女が冒険者登録をした所だ。当然、思う所がある筈だった。

無言の時間が続き、仕方ないかと暗殺者は肩を竦めてメモを投げ渡す。

 

「これは……?」

「俺がねぐらにしてた宿屋の地図だ。俺の名前出したら分かってくれんだろ。そこで待ってろ。一階は酒場だしな」

 

ギルドには俺だけで行くと言葉に出さずに言ってやり、さっさと歩いて行く。早く出発しないと帰る頃には日が暮れる。しばらくじっとメモを見つめ、女武闘家は頭を下げた。

 

「ありがとう、ございます」

「……ああ。けど、いつかはお前も来いよ? 報告もいるし、何より依頼を俺の判断だけで請ける事になる。いちいちお前に確認なんぞしてられんしな」

「はい。いつか、必ず」

 

いつかは――そう、女武闘家は繰り返す。それは果たしていつになるのか。一人前になったら? 等級が上がったら? いや、違う。その、いつかは。

 

「彼女に、会えるように、なったら、必ず」

「…………」

 

彼女とは誰なのか、それは敢えて聞かず、暗殺者はさっさと進む。村長や村民に挨拶もせず、村を出て行くのだった。

 

 

 

 

運良く道中で行商人の馬車に相乗りさせて貰える事となり、昼を過ぎた頃に西の街へと到着する事が出来た。女武闘家を宿へと一足先に向かわせ――彼女が持つ白磁の認識表だけ借りたが、ともあれ向かわせ、暗殺者はギルドに向かった。

変わらない重い扉を開いてギルドへと入る。もう依頼も捌けたのか、冒険者達もまばらだ。

 

「あ、帰ってきたんですね。銀等級になってからの初仕事お疲れ様です」

「ああ、ありがとう。早速だけど報告いいか?」

「はい、お願いします」

 

羊皮紙を取り出しニコニコとペンを走らせる受付嬢にゴブリン退治のあらましを話していく。当然、女武闘家の事も話し、彼女の認識表を見せる。覚えがあったのか顔を少し曇らせた。

 

「そうですか、彼女が……大丈夫、なんですか?」

「さてね。ゴブリンを七匹潰しちゃいたが、かなり興奮してた。足が竦むて事はないかもだが」

 

ホブの事を聞いただけで吐き出していた。彼女が冒険者になったのは半年前と聞く。半年しか経っていないのか、半年は経ったと言うべきなのか。

 

「当面は俺が面倒見るよ。後は彼女次第だな。ものになるか、潰れるかは賽子の出目に期待だ」

「そうですか。なら彼女とはパーティーを?」

「単独で勘を取り戻すつもりだったけど、まぁ、ついでだついで。奴の真似ごとじゃあるまいが、しばらくはゴブリン退治をメインに請けるさ」

「ゴブリン退治を、ですか?」

「ああ。意外かもだが、ゴブリン退治は冒険者が心得る事の教科書みたいなもんだから」

 

曰く、モンスターもまた思考する。

曰く、準備を怠るべからず。

曰く、どのようなモンスターであれ死は隣り合わせ。

曰く、賽子の出目は気紛れなれど、フォロー出来ない訳ではない。

 

ゴブリン退治はその全てを習えるとも言えた。いや、どっかの鉄兜みたいな奴もいるけれども。

そう言えば、と毎度奴がいる隅のテーブルを見やり、そこにいない――まぁ、昼過ぎだから当たり前――姿を確認して、暗殺者は振り向いた。

 

「あいつはまた?」

「ええ。けど、今回はちょっと長くなるかもしれません。水の街での依頼だったんですが……」

 

もう5日も帰って来ていない、と受付嬢は目を細める。しかも槍使いに依頼を出したらしい。なんでも小麦粉を持って来て欲しいのだとか。

 

「小麦粉ぉ? 何に使うん……いや、待った、あいつまさか……」

「どうかしました?」

「ああ、うん。いや、前一緒に鉱山夫に聞いた話を試したりしないかなってな。……使ったら文句来そうだから、覚悟しといた方がいいよ」

「な、何を? ゴブリンスレイヤーさんは何をしでかすつもりなんです!?」

「どかーん」

「どかーん!?」

 

どかーんて何ですかー! と聞いて来る受付嬢に同情しつつ報酬を受け取る。相変わらずゴブリン退治は安いがそれは仕方ない。んじゃお疲れー頑張ってーと、受付嬢に言ってやりつつ、ギルドを出た。

さてと、と向かうは宿屋兼酒場である。とりあえず飯でも食べながら女武闘家とこれからについて話す積もりだった。彼女を弟子にはとったが、何にも聞いてないも同然なのだから。しかし――。

 

「初弟子が女とか、師匠連中やら姐さんに知られたらからかわれるじゃすまんな……」

 

当分内緒にしとこうと心に決めて、暗殺者は足を早めるのだった。

 

 

 

「いらっしゃいませー! あ、お久しぶり!」

「よう」

 

酒場では獣人給仕が耳をぴこぴこさせてこちらを出迎えてくれた。冒険者御用達の店である。二階は宿屋となっており、暗殺者はここをねぐらにしていた。見渡すと早くも依頼を終えたか、そもそも依頼を受けなかったか、何人かの冒険者が早速酒杯を傾けている。その中で一人ぽつねんと佇む女武闘家を見つけた。

 

(初冒険で、だったな。だったらここに来る事もなかったか)

「待たせたな」

「あ……! いえ、その、すみません」

 

不安気な顔がこちらを見るなり緩み、しかしすぐに申し訳なさそうな顔に変わった。居心地悪そうにしているのは気のせいではあるまい。対面に座ると一年前の記憶からメニューを思い出し、適当に注文。改めて彼女に向き直った。

 

「とりあえずお疲れ。これ、お前の分な」

「え?」

 

ほい、とテーブルの上に借りた認識表と数枚の銀貨を置く。ゴブリン七匹分の報酬だ。

 

「本来なら本人が報酬を受け取らなきゃならんが、事情話して特例で許して貰えた。けど、ギルド行けるようになったらちゃんと自分で受けとれよ?」

「え、そうじゃなくて……! あたし受けとれません!」

 

ぶんぶんと首を振って拒否する。しかし暗殺者はじとっと、彼女を睨み付けた。

 

「報酬の分配はキチンとギルドで定められてる。俺を不法分配で白磁にでも落としたいんなら無理にとは言わねえよ」

「そ、そうじゃなくて、て言うかそんなのあるんですか!?」

「冒険者の等級は何も実力だけじゃないんだよ。人格やらも審査対象だ。んで報酬を独り占めとか間違いなく降格案件だな」

 

それがいかなる事情であれ、だ。ただでさえ銀等級はそれなりの振る舞いを求められる(一部例外あり)。不法行為への目は当然厳しいものがあった。

そこまで聞いてようやく観念したのか、はぁと生返事をして女武闘家は報酬を受け取った。それを見ながらマスクを下げ、獣人給仕が出してくれた水で唇を湿らせた。

 

「あ、お師さまの顔、そんなんだったんですね」

「うん? ああ、そういやお前には見せてなかったか」

 

何せゴブリンひしめく洞窟で出会い、そこで弟子入りだ。当たり前だが、顔を見せる暇もなかったのである。ついでにヘルムを外して床に置いた。

 

「お師さま、それは……?」

「ああ、これか」

 

マスクを外した時から気になっていたのだろう。左頬にまるで傷痕のように刻まれた刺青を撫でて暗殺者は苦笑する。翼が生えた剣に絡みつく鎖、と言う見た事もない紋様だ。気にもなろうと言うものだろう。しかし、暗殺者は肩を竦めるだけだった。

 

「ま、ただのまじないだまじない」

「まじない、ですか?」

「ああ、気にすんな」

 

そう言われては曖昧に頷くしかない。女武闘家は、はぁと再び生返事をし、暗殺者は笑ってやる。そして料理を待つ間に聞くべき事を聞く事にした。

 

「とりあえずは確認と行こう。お前、装備やアイテムも無しに今回のゴブリン退治に向かったそうだな。なんでだ?」

「……えっと、話さなきゃダメですか?」

「ダメに決まってんだろ」

 

うぐっと睨まれて女武闘家は呻く。しかし容赦してやるつもりはなかった。見れば、女武闘家の装備はただの旅服だ。防御能力は皆無に等しい。いくら武闘家が軽快さを求められるものと言っても限度があった。……いやまぁ、向こうで騒ぐ銅等級の女戦士の如くビキニアーマー装備と言うのもいる事はいるのだが、駆け出しがやる事ではない。

 

「その、……友達だったんです、あたしの」

「知ってる」

 

村長から直接聞いた話だ。だから、急いでいた。焦っていた――自分のようにあわせたくないから――言い訳だ。

 

「……死ぬつもりだったのか?」

「ちがっ! ちがいます!」

 

ばんっ! とテーブルを叩いて立ち上がる。そのせいで視線が集中し、彼女は顔を赤らめた。しゅんとなりながら座る。

 

「違います。死ぬとかどうとか考えていませんでした。ただ、ただ、あたしは」

 

奴らが許せなかった――。

 

消えいるような声。暗殺者は息を吐く。ゴブリンになぶられた記憶、それが一気に爆発したのか。勿論、友達を助けたい気持ちもあったのだろうが。

 

「んで、準備もろくにせず、か」

「……はい」

「先にこれだけは言っとくぞ。どんな依頼であれだ。準備もろくにしない冒険者なんぞは死にに行くようなもんだ。それこそ大黒虫やらジャイアントラット相手でもポーションと解毒剤は必須だ」

 

頷く。それを見ながら視線を厨房に移した。料理が来るまであともうちょいか。それまでに説教は終わらせよう。

 

「ましてやゴブリンは悪知恵は働く、すばしっこい、数はやたらにいる、だ。上位種は当たり前にいるしな」

「あの、ホブとかですか……?」

「あんなん序ノ口だ」

「序ノ口……!?」

「シャーマンとかの呪文遣いはいるし、ロード、チャンピオンとかになると銀等級でも厄介な奴らだ。他にも出る事もあんだろうな」

 

絶句する女武闘家。ゴブリン、たかがゴブリンと思っていた。だが、そんなゴブリンにもピンからキリまで居て、自分がやられた奴は最強でもない。しかも、そんなゴブリンが可愛く見える手合が山と居るのである。

冒険者がどれだけ過酷なものか触りだけでも思い知らされ、震えた。

 

「だから、準備は大切なんだ。装備を整え、アイテムを揃える。高い買い物に見えるだろうが、命には替えられんだろ?」

「はい……」

「分かればよし。さ、ちょうど飯だ。食べ終わったらいろいろ聞く事もある。パーティー組むんだから、何が出来るか聞いときたいしな」

「え……あの、パーティー、組んでくれるんですか……?」

「弟子を単独で冒険させるかよ。お前さんが一人前になるまでは面倒見てやる。後は好きにしろ」

 

そこまで言ってやると、お待ちどうさまーと、獣人給仕が料理を運んで来た。羊肉の麦酒煮込みに牛肉と香草を牛乳で煮込んだ汁物、キノコと玉葱のスープに麦パンが並ぶ。久しぶりだなぁと暗殺者は顔を綻ばせ、神に祈りを捧げる仕草をする。慌てて女武闘家もそれに倣い、二人は料理に手を伸ばしたのだった。

 

 

 

(第三話に続く)




はい、第二話でした。女武闘家ちゃんはまだまだ不安定だよと言う話。そらまぁ、簡単にふっきれはしませんがな
令嬢剣士も早くはありましたが紆余曲折の果てに漸くでしたしなー
ちなみに原作で言う所の二巻途中が現在の時間軸であります。今頃ゴブスレさんはデートの真っ最中です(冒険のデートではない)(笑)
でわでわ次は冒険に出られると思います。お楽しみにー
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