戦車道素人集団を優勝へ導く138の方法   作:ススキト

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本作には、その道に詳しい人なら我慢できないような描写や知識がかなりあります。
そういう人は見ない方がいいかもしれません。でも見てほしい(ジレンマ)

ようやく投稿できた練習試合後半戦。

萌えと燃えのバランスがガルパンの魅力のはずなのに、本作では萌えが息をしていない現状。




第10話 「練習試合をしましょう③」

「………追撃の様子はなし。振り切れたみたいだね」

 

戦車から身を出し、後方を目視で確認したみほは、安堵の息を吐いた。

その言葉は四号戦車の車内へと伝播し、そして通信手武部によって更に全車両へと伝えられた。

瞬間、無線越しに歓喜と驚嘆の声が大勢木霊した。ヘッドフォンから響く喧騒にみほは耳がキーンとなってしまったが、それも仕方ないと苦笑しながら四号の車長席に座った。

 

「やったじゃんみほ!聖グロリアーナってすっごい強いとこなんでしょ!?そんなとこの戦車一両やっつけるなんてやっぱすごいって!」

「正確には履帯を破壊しただけで、やっつけてはないがな」

「で、でも作戦は成功しましたし、良かったですよね!」

「みほさんのお蔭ですね」

「そ、そんな……みんなの力があったからだよ」

 

面映ゆくなってみほは少し身をよじらせた。どうにもみほは褒められ慣れてないので、こういう時どんな顔をすればいいか分からなくなってしまう。

ましてやそれが、ほとんど偶然と運に拠った、実力以外のとこから出てきた結果への賞賛となると尚更である。

 

(………ほんとに運が良かった)

 

大洗女子学園は、聖グロリアーナの追撃をかわし、なんなら一杯食わせてやって見事に市街地までの後退を成し遂げたわけだが、それは決してみほ自身の力によるものではない。

七割が運、二割五分が磯辺達やエルヴィン達のお蔭。みほの戦術や作戦指揮が役立ったのは、残りの五分くらいとみほは本気で思っていた。秋山には自信あり気に「大丈夫、作戦はある」なんて言ったが、内心は結構ドキドキしていたのだ。

 

後退の出足が鈍ったことと、エンジンや足回りに特別な改造がなされていることが明らかな聖グロリアーナの戦車から、市街地まで後退する途中で追いつかれることは容易に想像できた。ゆえにどこかしらで時間を稼がなければならなかったわけだが、問題はどうやってその時間を稼ぐかである。

一番はこちらの機動力が上がることだが、そんな極短時間で操縦技術は向上しないし、もし上がったとしてもそれは微量なもの。となると必然的に、聖グロリアーナの脚を止めるしかないわけだが、これが難題であった。

 

聖グロリアーナの得意とする戦術は浸透強襲戦術。硬い装甲を活かしてじわじわと相手を圧していくというスタイルだが、それはつまり生半可なことでは足を止めないということ。多少の攻撃なんてものともせずにガンガン攻めてくる。

そんな戦術に慣れた戦車乗りが集まっている以上、聖グロリアーナは精神的な理由では止まらない。強豪校というプライドと、初心者集団を相手にしているという認識が、彼女たちの脚を一層勇ましいものにしているのだ。

 

じゃあどうするか、と考えた時、みほの答えはシンプルだった。

 

―――精神的に止まらないなら、物理的にその脚を折るしかない。

 

誘い込むのは、複数の隘路が重なり合ったような場所。狭く、視界が悪く、戦闘には適さないような場所だが、みほの作戦を実行するにはピッタリの場所であった。

 

みほ達四号戦車と、チームで一番動きが良かった八九式戦車の二両で、迂回する形で反転し、待ち伏せの体勢を作る。そして聖グロリアーナが踏み込んできたところに間髪を入れず砲撃を浴びせ、『待ち伏せされた』という認識を植え付ける。

上空から見れば五対二の状況だが、実際は違う。道幅と高低差によって、聖グロリアーナは四号と八九式を攻撃しようとすると、三両が遊兵化する。

聖グロリアーナの隊長なら、おそらくそんな愚は犯さない。かならず他の道を使って、みほ達を囲い込もうとしてくる。それがその場において、最も合理的な選択だからだ。

 

狙いは、そこ。縦隊を組まなければ進めないような道を使わせることが、みほの思惑だった。

大洗女子学園の戦車は全体的に砲性能が低く、攻撃力に欠けていたが、実は一両だけ聖グロリアーナ相手にも通用する戦車が存在していたのだ。

 

それが三号突撃砲。歴女チームが乗っている、大洗女子の最大火力であった。

 

聖グロリアーナが迂回するであろう道に三突をあらかじめ伏せておき、目の前に現れたところを一撃で撃ち抜く。狙いは縦隊を組んだ聖グロリアーナの、先頭車。それも撃破判定が出やすい車両側面ではなく、履帯部分。背面以上に脆く、そして損傷すれば撃破判定にはならなくとも、しばらくの間走行不能になって戦闘に参加できなくなるという、戦車における弁慶の泣き所。

 

ここを、先頭車が走行不能になると後続車がそれ以上前進できないポイントで、撃ち抜く。そうすれば、聖グロリアーナの進撃は止められる。

 

そしてそれは幸いなことに成功した。それも自チームの損害がゼロという、奇跡的な結果で。

『そう何度も待ち伏せはしてこないだろう』という心理的な隙を突いた作戦だったが、実際上手くいくかどうかは五分五分で、何か一つ歯車が狂えば結果は正反対になっていただろう。本当に運が良かったとしか言いようがなかった。……武部達は、みほのお蔭と褒めてくれるが。

 

『西住隊長!聖グロを振り切れたのはいいが、これからどうする?』

 

不意に無線から聞こえてきた声に、みほは我に返った。三号突撃砲の車長、エルヴィンからの通信である。

 

『我々は確かに窮地を脱したが、現状は以前不利だ。やはり聖グロは強い。真っ向から勝負を挑んでも勝ち目はないぞ』

『そうだぞ西住!!なぜ履帯を破壊した時に攻撃を続行しなかった!?戦力差がある以上、撃破できる時には撃破しておくべきだろう!?』

 

ついでに河嶋の声も入ってきた。

 

『というかなぜ私たちとDチームは市街地まで先に後退させられたんだ!?』

 

しかもクレーム付きである。みほはヒートアップしている河嶋を、できるだけ刺激しないように言葉を選んだ。

 

「えと、あの場所では五両全部は展開できませんし、そもそも私たちの目的が後退である以上、不必要に攻撃するべきじゃないと思います。あくまで「後退するまでの時間稼ぎ」としての攻撃に留めるべきであって、それが達成できたのなら当初の目的通りに動いたほうがいいんです」

 

作戦とは、『とある目的を達成するため』に行われるものであって。その目的が状況状況でコロコロ変わってしまっては、部隊の統率はできないし、寧ろ余計な被害を受けることもある。進むべき時に退き、退くべき時に進むようでは、戦車道は勝てない。

基本は『ブレない、迷わない、欲かかない』である。

 

ちなみに河嶋達38tと一年生チームのM3リーを先に行かせた理由は、単純に動きが悪かったからである。当然初心者である以上、責められることではないが、決して口には出せないみほであった。

この場合、初陣かつ敵の追撃を受けているというのに、みほの指示を正確に理解して正しく動いたバレー部チームと歴女チームのほうが特殊な例と言えた。彼女たちは今日が模擬戦以来の約二週間ぶり二回目の操縦ということをわかっているのだろうか。

 

『む……まぁ確かに一理あるか。それで、市街地まで後退してどうするんだ?』

「ひとまず履帯が直るまでは、相手は市街地まで進んでこれません。道を変えて、四両で進行してくる可能性もありますが、それでも時間は充分にあります。私たちが市街地についたら、一度全員集まって作戦会議をしましょう」

『作戦会議だと?』

 

みほは短く返事した。

当初はあの荒野地帯で試合を終えるつもりだったため、市街地に戦場を移した場合のことは考えられていなかった。普通は様々なケースを想定して作戦を立てなければならないが、大洗女子にそんな余裕はなかった。よってこれから先のスケジュールは白紙である。

 

(お兄ちゃんも黙ってたしね……)

 

本当は分かってたはずなのに、性格の悪い兄である。『自由にやれ』という指示に忠実なだけかもしれないが。

とにかくもう一度、崩れた方針を組み直して、新しい作戦を立てなければならない。

そのためには無線越しでやるより、昨日のように直接顔を合わせながらやったほうがいいだろう。そうすれば、ついでに浮足立ったチームの雰囲気も払拭できる。

そう判断してみほは、地図上のとある場所を示した。

 

「大洗磯前神社で全車合流、お願いします」

 

 

 

県立大洗女子学園が聖グロリアーナ女学院に勝っている所とは何か。

 

大洗磯前神社に続く長い上り坂の麓、みほの何十倍もある大きな石の鳥居の前にて開催された作戦会議は、そんなみほの第一声から始まった。

 

戦いとは、いかに相手の弱みを突き、こちらの強みを押し付けるか。畢竟、そこに尽きる。

 

聖グロリアーナ相手に、装甲の硬さ比べを挑んでは勝ち目がないし、そもそもあの装甲とまともに戦うこと自体、最早避けるべきことである。

そうなると、聖グロリアーナの弱い所に、大洗女子の強い所をぶつけなければ勝機はないということになるが、それらは一体なんなのか。

攻守にわたって隙がないように思える聖グロリアーナと、攻守にわたって隙しかないように思える大洗女子だが、確かに前者には弱点が、後者には長所が存在している。

 

聖グロリアーナの弱みとは、戦車のスペックから来る機動力の低さである。マチルダⅡは確かに尋常ではない防御力を誇るが、設計され実践投入されたのは1936年。ドイツが造った整地で時速40キロくらい出る三号戦車や四号戦車と大体同級生だが、イギリスの戦車年表だと中期らへんになる。つまり、あんまり戦車設計の技術やら思想やらが洗練されていないときに造られたので、歴代のイギリス戦車の中では結構低スペックに分類される。

その際とくに目立つのが、機動力である。他国の同級生の戦車と比べると、最大速度は時速24キロとダブルスコアで負けている。

 

これはマチルダより後に造られたチャーチルでも解決しておらず、あちらに一両だけいるチャーチルMK.Ⅶもマックスで時速21キロ。洗練された防御力を得た代わりに更に足が遅くなっている。

一応イギリス戦車には、ちょうどマチルダと正反対の性能をした戦車があり、また戦争後期には快速かつ装甲の厚い戦車も造られていたため、イギリス戦車=鈍足というわけではない。

あちらが戦車のエンジンや駆動系に手を加えて、カタログスペック以上のスピードを得ていることは既に知っているが、それにしたって弱点でなくなるほどの強化ではない。

マチルダ&チャーチルという組み合わせなら、どうしたって弱点は機動力。

 

ならば大洗女子の強みとはなにか。

保有戦車は揃って旧式。しかもどれも癖のある戦車で、汎用性があるのは四号戦車くらい。後は運用が限られていて、オールマイティに活躍できるわけではない。

防御面はどれも平均値くらいで、大体が50㎜以下。M3リーのみ最大装甲厚が51㎜だが、側面は頼りない。更に大洗女子の中で最も古い戦車である八九式にいたっては、最大でも17㎜と最早紙。正面からでも余裕で貫かれる。

 

そして攻撃面。言わずもがな、三号突撃砲以外はマチルダの側面、場合によっては背面しか通用しないほどの貧弱な火力。その頼みの綱である三号突撃砲も、砲塔が回転しないというこれまた厄介な仕様のお蔭で伏撃や狙撃には強いが、何も考えずに運用できる戦車ではないため最大火力が常に発揮できるわけではない。

大変残念だが、攻守の両面において、大洗女子は聖グロには逆立ちしても勝てない。

 

「というわけで、私たちはこれから機動力を最大限に使って戦います」

 

みほがそう言うと、四人のチームリーダーたちはポカンとした表情になった。

あれ、とみほは少しだけ狼狽えた。結構分かりやすく説明したはずだけど、こんな表情をされると伝わらなかったような気がして、ちょっぴり不安になる。

何か言葉足らずだったのだろうか、と視線を泳がせたところで、口を開いたのは、赤いマフラーが特徴的な三号突撃砲装填手、カエサルだった。

ちなみに三号突撃砲の車長は軍服コートに軍帽のエルヴィンなのだが、こういった作戦会議には装填手であるカエサルの方が出席している。詳しい事情はみほも知らないが。

 

「西住隊長。ということは、我々が聖グロに勝っている点というのは、機動力というだろうか」

「あ、はい」

 

あまり言いたくないが、本当にそれくらいしかない。しかし四号戦車、38t、M3リー、三号突撃砲が大体時速40キロ前後くらい出ることを考えると、大洗女子は機動力に関しては優れている。聖グロリアーナ相手と比較して、唯一勝っていると断言できる点である。

ただ一両、八九式だけは時速20キロ前後くらいしか出ない……はずなのだが、なぜかはわからないがあの戦車余裕で四号戦車と同じくらい出てる。

長く戦車道をしてきたみほが、思わず「え?はや」と呟いてしまうくらいのスピードである。

まことに不可解だが、そういえば生徒会長が「八九式だけ貰い物」と言っていたし、そのあたりが関係しているのかもしれない。

 

「それで西住、具体的にはどう戦うんだ?」

「基本的な動きとしては火力の低さを補うために、相手の側面や背面に回り込むようにします。そのためには絶えず動き続けて攪乱する必要がありますが……」

 

みほは兄からこっそり拝借してきた、ミニホワイトボードを取り出して、作戦を図示した。

 

「マリンタワーやフェリーターミナルがある海岸沿い、サンビーチ通りは道が広く見通しもいい、戦車が戦いやすい場所ですが、ここでは交戦しないようにしましょう」

 

片側二車線もある道なんて、戦車も余裕で並ぶ。大洗女子がこんなところに躍り出たら、あっという間に撃破されてしまうだろう。

 

「主に戦うのは、住宅街や商店街がある場所。ここは全体的にやや碁盤上の地形をしていて、大きな道、小さな道がたくさんありますが、必ずどこかと連結しています。なので右左折を繰り返せば、相手を振り切ることも回り込むことも容易にできるはずです」

「なるほど。そのためには道を良く知っている必要があるが、ここは我々のホームグラウンド」

「裏道から近道まで何でも知っています!」

 

腑に落ちたようなカエサルと元気の良い磯辺の言葉に、みほも静かに頷いた。

この作戦に必要なのは、土地勘である。どれだけ道を熟知しているかが、成功を左右するといっても過言ではない。いや、戦車道の試合とは須らく、地形への深い理解が求められる。事前に地図を見ないで試合に臨む学校など、全国大会に出場するレベルならありはしない。

 

戦車道の試合では公平を期すために事前に両チームに地図が配布されるが、この練習試合でも同様の措置が取られている。なので聖グロリアーナも当然、大洗町の地形をまったく知らないというわけではない。

だがそれでも有利なのはホームアドバンテージのある大洗女子だとみほは思う。

一分一秒を争う機動力勝負では、地図を見ながらよりも暗記しているほうが絶対に強い。どちらも暗記している状態なら、実際に走った経験のある方が強い。

 

この場所に限って言えば、地の利は大洗女子にある。

 

「だが西住、ここでは先ほどと同じく全員が固まって動くことはできないだろう。動き続けるというのなら尚更だ」

「はい。なので全員分散して動きます」

「え!?ぶ、分散ってことは、一両一両バラバラになるってことですよね…?」

「それは大丈夫なのか?各個撃破の危険が高いと思うのだが。戦史上、兵を徒に割いて勝った例はない」

 

確かに、とみほは頷いた。実力で勝る相手にそんなことをすれば、鎧袖一触。あっけなく撃ち倒されてしまうだろう。

 

「でもこちらが固まってしまうと、相手もむやみには戦力を割くことはしないと思います。聖グロリアーナにまとまって動かれては、それこそ勝ち目がありません。市街地まで引きずり込めれば、相手も同じように分散せざるを得ないはず。賭けですが、やるしかありません」

「で、でも!そうなると相手と戦う時は一対一ですよね…?ちょ、ちょっと自信ないんですけど……相手も強いですし…」

 

おずおず、と口を開いたのは一年生チームの車長、澤梓だった。

精神的に成熟している三年生や、肝が据わっている二年生、運動部出身のバレー部たちと比べると、一年生チームはまだ色々な意味で幼い。味方と一緒に行動するならともかく、単騎で動くとなると不安になっても仕方ない。何度も言うが、責められることではないのだ。

 

みほは莞爾と微笑んで、言葉を紡いだ。

 

「大丈夫だよ。最初から一対一で戦うつもりはなかったから」

 

へ?と間の抜けた声を出した澤。みほはミニホワイトボードを使って作戦を説明した。

 

「やることはそう難しいことではありません。練習でやったことと同じです。全員バラバラに動きながら偵察をして、とりあえず相手を見つけましょう。そうしたら、後は全員でそれを追いかけるんです」

 

ホワイトボードに書いたものは、何かに酷似していた。それを見ていた四人の内、磯部がはっとしたように声を上げた。

 

「―――――あ!これ鬼ごっこですか!?」

 

みほは頷いた。その言葉に他のみんなも得心がいったようだった。

 

「基本は鬼ごっことおんなじです。誰かが鬼を見つけたら、即座に情報を伝達。お互いの位置関係を共有して、相補的に動きます。近すぎず遠すぎず、ちょうどいい距離を保ちながらいつでも連携が取れるようなポジションを取る。そのためには無線でのやり取りをしっかりやらないとですが……」

「我々は神栖先生のお蔭で無線での意思疎通はできる。できなくはない作戦だな」

「発見した車両はできるだけ味方の多い所に相手を誘導するようにして、他の車両で一気に囲い込みます。できるだけ速やかに相手を撃破して、また散開して隠れるを繰り返していきましょう」

 

戦力の慢性的な分散と瞬間的な集中を繰り返すという難しい作戦。初心者集団には手に余るかもしれないが、みほは不可能ではないと考えている。

磯辺が言っている通り、やっていることは練習でやった鬼ごっこと同じ。規模を個人レベルから戦車一両レベルに拡大しただけだから、まるっきり違うことをするわけではない。

 

「なるほど……奇襲と隠密を繰り返して相手を混乱させるゲリラ戦か。ナポレオン戦争のスペインを思わせるな」

「よくわからないけど根性で頑張ります!」

「が、がんばります!!」

「他に作戦もないし、この際仕方ない。それでいくぞ」

 

作戦は決まった。これにより大洗女子は、一貫した行動をとることができる。

みほは立ち上がり、最後に告げるべきことがあるのを思い出した。

 

「お互いの位置を常に把握することは簡単ではありません。できるだけ分かりやすく簡潔な言葉で、正確に伝えるようにしてください」

「その辺はあの目隠ししてやったサッカーとおんなじですね!わかりました!」

 

磯辺は意気揚々と八九式の下へと去っていった。それに続くように、各々も自分の戦車へと戻っていく。まもなくすれば、彼女たちから乗員へとみほの作戦が伝えられるだろう。

最後に残ったみほは、その場に立ち尽くして磯辺の言葉を咀嚼していた。

練習とおんなじ。それは果たして、偶然なのだろうか。あの兄はこれまでの練習を、戦車に乗るための練習と言っていた。みほはそれを、実践とかそれ以前の領域の話だと漠然と思っていたが……

 

「全部狙い通り、なのかなぁ」

 

ここまでのことを全部予見して、あの練習をやらせていたとは思わない。

そこまで自分の兄が人間を止めていたとは思いたくないから。

だがあの人は、時々全てを見透かしているような行動をすることがある。もしかしたら……

 

みほの思考はそこで止まった。これ以上考えても意味はないことだし、今は他に頭を使わなければならないことがある。

 

みほは軽やかに四号戦車の車長席に戻った。すると複数の視線が自分に集まっている気がした。武部や秋山が、こちらをじっと見つめていたのだ。それも同じような感情を込めて。

 

「な、なに?」

「いやぁ、やっぱ戦車道をしてる時のみほってカッコいいなぁって」

「ふぇ、」

 

唐突な褒め言葉に、みほの頬が一瞬で朱に染まる。じんわりとした熱がほっぺたから広がっていって、思考をほんの少しふやかしていく。

 

「普段はあわあわぽわわな感じなのに、あんなにテキパキと指示しちゃって。アレだね、ギャップ萌えってやつ!」

「そ、そうかな……?」

「そうです!凛々しくて凄いカッコよかったです!!」

「あ、ぅぅ……」

 

急に暑くなってきたみほであった。

意識しているわけではないが、周りから見たらそんなに違うのだろうか。確かに戦車道をしているときは、いつもより頭がすっきりしている感じで、言葉もすらすら出てくるけども。

 

(お兄ちゃんの影響かな……)

 

普段はぐうたらでダメ人間を絵に描いて額に入れたような人間だが、戦車道のこととなると兄は輝いて見えた。それもとびっきりである。そういう時みほは「あぁもう全然違う」と思ったものだが、それと同じ感情が秋山達にもあるのだろうか。

自分でも話し方とかは、結構兄の影響を受けている気がするけど。

 

「と、とにかくこれからは市街地で戦います。冷泉さん、かなり操縦が難しくなりますが、よろしくお願いします」

「問題ない。指示があればどんなところにだって連れて行ってやる」

 

………カッコいいと言うなら、冷泉のほうがよっぽどではないかと思うみほであった。

 

「でもみほ、確かに私たちは大洗町のこと詳しいけど、みほは大丈夫なの?今日初めて来るじゃん」

「そういえばそうですね。みほさん、転校してきてからまだ半月ですし……」

「西住殿も条件的には聖グロの人と同じですよね…」

「あぁ、それなら大丈夫」

 

武部たちの心配は最もだったが、みほはにこやかに否定した。

大丈夫、と言い切るだけの根拠がみほにはあったのだ。

 

「昔から地図を読むと、なんとなく立体図が見えるの。こう、二次元が三次元に見えてくるっていうか……大体どんな地形してるかっていうのが直感的にわかるっていう感じ。ここに来る途中もほとんどイメージ通りだったし、問題ないと思う」

「へぇーじゃあ大丈夫だね!」

 

この時武部は、みほの言葉を軽く流していた。それは秋山や五十鈴、冷泉も同様で。

その反応は、彼女たちが戦車道素人だったことが理由だった。もし武部たちがほんの少しでも戦車道を経験していたら、こう感じたはずである。

 

――――それは普通のことではない。異常な才能だ、と。

 

『おい西住、こちらは準備完了だが……一つ言い忘れていたことがある』

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

河嶋からの突然の通信に、みほは慌てて答えた。

その前置きは不穏な雰囲気がする前置きである。そこはかとなく嫌な予感がするみほであった。

 

『作戦名はどうする?』

 

ほらね。

 

「………あの、それ必要ですか、河嶋先輩」

『何を言ってる。大事だろう』

 

そうですか、とみほは力なく答えた。作戦名なんて言われても、特に考えていなかったのでどうしたものか。『包囲殲滅陣大作戦』みたいにやけに漢字ばかり並ぶようなものよりは、できるだけ端的かつ一目でわかるような作戦名の方がいいと思うが……

 

「じゃあ―――――『こそこそ作戦』で」

 

審議――――多数決により改名申請。隊長権限により却下。

―――――こそこそ作戦、始動。

 

 




投稿できなかった二週間強の間に、本作を忘れてしまった人もいると思うので、また思い出してもらえるように小まめに投稿していきます。

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