仕組みはよく分かりませんが、「色々な人に見てもらえたんだろな」と解釈し、「みんな武部殿大好きなんだなぁ」と現実世界でのモテっぷりに感嘆しておりました。
というところで特に本編とは関係のない幕間のお話です。
大会の日程とかその辺は捏造です。
原作キャラ→オリ主への呼び方に揺れが発生していますが、そういう仕様()です。
パンフレット及び選手名鑑作成の御案内。
小学生でも理解できそうな簡潔さで、そう書かれた書類が神栖渡里の目の前にある。
これが届いたのはついさっきのことだった。大洗女子学園の生徒会長、角谷杏からポンと手渡されて、住処である旧用務員室でなんぞやと開封して出てきたのが、この数枚の書類であった。
渡里は茶を一口啜って、改めて書面に目を通す。
色々面倒なことが書かれているが、見るべきところは少ない。だから適当に流し読みしても問題ないだろう。なんたってこの書類は、大洗女子学園に届くことにこそ意味があるのだから。
「とりあえず、参加申し込みは完了か」
ひと段落した気分だった。まぁ、実質的には何も始まってないわけだが、それでも一つの門を潜ったことには間違いない。
全国高校戦車道大会の開催は七月。大会運営が諸々の準備に一ヶ月の時間を要するため、エントリーの開始は五月から開始される。
別に早いもの順というわけではないが、先延ばしにしていい事があるわけでもないので、渡里は早々に申込していた。
パンフレット及び選手名鑑の作成とは、大会に参加する学校を紹介するためのもの。そしてこの書類は、そこに載せるための写真やらプロフィールを送れ、という大会運営からのお達し。
これが来たということは、つまり大洗女子学園が大会への出場権を無事獲得し、その頂点へと続く果てしない道のりのスタートラインに立つことができたことを意味していた。
「必要なものは……チーム全員の集合写真とピンショット…あと保有戦車か。うーん面倒くさいな」
どうにもすぐに終わる感じじゃなさそうである。渡里は頭を掻いた。
今すぐに、そして片手間にできるものが、一つもない。仕方ないが、練習時間を削るしかないだろう。
ただ撮影はどうしたものか。かなり大多数の人間の目に触れるものだし、ちゃんとしたものを送らないといけないわけだが、そうなるとプロのカメラマンを呼んだ方がいいのだろうか。
「学園艦の航行ルート的にどうなんだろ……」
学園艦は、海の上を漂う街。ある意味では、完全に外部から切り離された孤島である。学園艦内にそういう業者がいてくれるならいいが、いない場合は陸地から呼んでこないといけない。となると、学園艦が大洗港に帰港するタイミングが一番いいわけだが……学園艦は
そんなに頻繁に帰港するわけじゃない。学園艦内で、生産と消費が賄えているからだ。
書類の提出が先延ばしにできない以上、もしつぎの帰港が結構先になるなら、カメラマンはヘリでもチャーターして空輸するしかない。ただそうなったら余計なお金がかかる。
薄々と角谷たちがお金のやりくりで苦労していることに気づいている渡里としては、その手はちょっと選びにくい。
「………角谷に聞いた方が早いな」
パソコンを起動し、渡里は一通のメールを角谷へと送った。
まぁそんな絶望的な話じゃない。学園艦の中にカメラマンがいればいいし、いなくても帰港が近ければいい。それがなくとも、角谷がどうにかできる話ならそれでいい。
まぁそんな大した問題じゃないな。
そんな風に考えていた自分を、渡里はすぐに後悔することになる。
◯
「というわけで事前に連絡があった通り、今日は写真撮影をしまーす」
なんであの人、ちょっとテンション低いんだろう。みほは首を傾げた。
今日も今日とて行われると思っていた練習は、いつも通りから離れたものだった。
回ってきた連絡網によると、どうやら大会運営に提出する用の写真を撮影するとのこと。それ自体は、別におかしな話ではなかった。黒森峰にいた時に、そういうことは経験していたから。
ただいろんな人に見られることになる、ということもあって、練習の時よりも気合いが入っている人が結構いる。
沙織なんかはその筆頭である。昼休みに化粧室に飛び込み、昼休みが終わる頃にバッチリメイクして帰ってきた彼女は、今も手鏡を片手に髪型や顔のチェックを入念に行なっている。沙織ほどではないが、そういう意味でいつもと違う人は何人もいる。
逆に、マイペースな人たちもいる。麻子はその筆頭である。今日も眠たげな目と雰囲気を隠そうともせず、ぼーっとしている。
他にはアヒルさんチームが、バレー部のユニフォームとパンツァー・ジャケットを組み合わせた独特のファッションを貫いて撮影に臨もうとしている。
カバさんチームも同じである。
本気であの格好で取るつもりなのだろうか、とみほは危惧した。大洗女子学園がイロモノチームとして見られる未来は、遠くないかもしれない。
いや、別に個性だからいいとは思うけれども。
「最初にピンショットを撮る。順番にあそこの椅子に座れ。終わった奴から靴に履き替えて外へ。集合写真用の足場が戦車を格納してる倉庫の前に組んであるから、そこら辺で待機してるように」
見かけのテンションとは裏腹に、兄の指示はテキパキとしている。
撮影用の機材が並べられている中で、ポツンと置かれた質素なパイプ椅子をみほは見た。
ちょうど一年振りになるだろうか。昨年は黒森峰の選手として、黒のパンツァー・ジャケットに袖を通して選手名鑑に名前を載せた。戦車道の名門、西住流の次女という看板を背負って。
しかし今年は違う。
新調された大洗女子学園のパンツァー・ジャケット、濃紺色のジャケットと白のスカートに身を包み、西住みほは大洗女子学園の隊長として大会に出る。
思うところがないわけじゃない。かつてのチームメイトは、自分のことをどう思うだろうか。黒森峰から逃げて、別の学校でのうのうと戦車道をやっている自分を。
「―――み」
いや、見るのはチームメイトだけじゃない。
姉や、母だってきっと………失望するだろうか。それとも、怒るだろうか。西住流から逃げ出して、それでも戦車道を続けるみほのことを。
「――ずみ」
それがどうした、と言ってやれたなら、どれほど楽だったか。
でも今は無理でも、そう遠くない先の未来で、みほはそう言えるようにならないといけない。
自分の意思を貫く通せるだけの、強さを持てるようにならないといけないのだ。
それはきっと、簡単なことではない。それができるのなら、みほは黒森峰から逃げ出し、大洗女子へとくることなかっただろう。
「西住!!」
垂れた頭が、喝を入れるような声によって跳ねあげられる。
慌てて辺りを見渡し、やがて視線が正面に向いた時、みほの両目は呆れたような顔をした兄の姿を捉えた。
「何ぼーっとしてんだ。お前から撮るから、さっさと座れ」
指で示された先には、無人のパイプ椅子。
周囲から刺さる視線。
みほは自分の頰が熱を持つのが分かった。
(うぅ……)
また余計なことを考えてしまった、とみほは自省した。
誰がどう思うとか、自分がどうするとか、そんなこと今考えたってどうしようもない。
今は、目の前のこと一つ一つに全力で取り組むしかないんだから。
なので、
「……表情固い。もうちょい柔らかく」
「西住ちゃーん。大洗女子の顔としてパンフに載るんだから、もっと笑顔じゃないと」
大洗女子学園戦車道のトップと、大洗女子学園のトップ二人からのダメ出し&要望にも、みほは全力で答えないといけないわけである。
「こ、こうですか…?」
「固いって」
「もっと自然な感じにならない?」
「うぅ……」
笑顔ってどうやるんだっけ、とみほは目を回した。
自分では結構笑ってるつもりなのだが、どうにも向こうの二人には伝わってないらしい。
というか、
「あの、なんで渡里先生がカメラマンに……」
「本職の人が税関に引っかかった」
どういう状況それ、とみほは三脚に固定されたカメラの後ろに立つ兄を微妙な目で見た。
密輸しようとしたの、お兄ちゃん。
「いやーどうしても向こうの人と都合がつかなくてさーまぁパンフの写真くらいなら素人でも大丈夫でしょってことで、渡里さんにお願いしたってわけ」
「シャッター切るだけだしな」
別に試合の結果に関わることでもないし何でもいいや、と渡里は面倒くさげにため息を吐いた。戦車道以外となると、途端にやる気がなくなるのが神栖渡里という人間である。
「それに自分らでやった方が金と時間かからないし。お蔭で練習時間削らなくて済んだ」
それは……まぁ確かにそうなんだろうけども。みほもプロの人と兄、どっちが自分の前に立っていて緊張しないかと訊かれれば、それは間違いなく後者だし。
「というわけで、さっさと終わらせるぞ。はい、笑え」
「もう少し笑わせる努力して!?」
どんな無茶振りだ、とみほは悲鳴を上げた。
結局OKサインが出たのは、16回目のシャッターが切られた時だった。
○
「はぁ~~今日も疲れたぁ」
「でも最初の頃に比べると全然余裕がありますね!」
「ようやく身体が慣れてきた、ということだろう」
「それに今日は、写真撮影で少し練習時間が短かったですし」
練習終わりの日課である戦車の清掃を終えたあんこうチームは、せっせと掃除用具の後片付けに勤しんでいた。毎日毎日頑張ってくれている戦車は、その分だけしっかりと汚れていく。整備自体は兄と自動車部がしてくれているが、だからこそ付いた汚れはみほ達が落とさないといけない。しんどいことではあるが、絶対にしないといけない作業だ。
でもみほは結構、この時間が好きだったりする。戦車の汚れは、それだけ自分たちが頑張った証だから見ると嬉しいし、ピカピカに磨いた戦車を見るのも、やっぱり嬉しい気持ちになる。一粒で二度美味しいのが、この掃除の時間である。
「写真かぁー私ちゃんと綺麗に取れてるといいけど。後で確認とかさせてくれないかな?」
「神栖殿はデジカメで撮ってましたし、頼めば見せてくれるんじゃないですか?」
「でももう椅子とかは片づけてしまいましたし……」
「変な所があっても撮り直しはできないぞ」
それもそっか、と沙織は大して気にしてない様子で頷いた。
正直、あの気合の入れ方なら変なところなんてないと思う。撮る方がよっぽどの下手っぴでもない限り。
「そういえば、なんか渡里さん写真撮影終わった後もデジカメ持ってなかった?」
「あ、確かに。練習終わるまでずっと持ってたかも」
「他に撮る物でもあったのでしょうか?」
「でもパンフレットに必要なのは集合写真と個人写真と戦車だけですよ?ちゃんと全部撮ってましたけど……」
戦車道の練習なんて何があるか分からないし、用が無いならさっさとしまっておくべきだろう。特にカメラなんて、すぐに壊れそうだし。
それに大会運営本部に提出するデータなのだから、その辺の事務作業もあるはず。となるとますます、持ちっぱなしでいる意味がない。
「………気になるなら見てみるか」
「見てみるって……わざわざ渡里さんのとこに行ってもまだ持ってるとは限らないじゃん。それに、別にそこまで気になるわけじゃないし」
「だが手元にカメラがあったなら見たいだろ」
「えぇ……?まぁそりゃ、見たいけど」
沙織は困惑した様子で頷いた。
みほも沙織と同じ気持ちだった。どちらかと言うと消極的なタイプの麻子が、まさかここまでの食いつきを見せるとは思わなかった。
その理由を、みほ達は直ぐに知ることになる。
ポン、と何気なく麻子はそれを四号の上に置いた。
全員の視線がそこに集中する。
そして五秒ほどの沈黙が辺りを支配し、ようやく全員が事態を理解した。
「――――デジカメあるじゃん!?」
沙織が麻子以外の三人の気持ちを代弁するように絶叫した。
飾り気のないシンプルなデザインをしたそのデジカメは、紛れもなく渡里が持っていたものだった。
「えー!?なんで冷泉殿が持ってるんですか!?」
「ちょっと麻子!まさかくすねてきたんじゃないよね!?」
「人聞きの悪いことを言うな」
心外そうに麻子はため息を吐いた。
そして指で背後を示した。
「そこの作業台に置いてあった。おそらく渡里さんが忘れていったんだろ」
その作業台にはドライバーやらスパナやらが雑に置かれており、みほは一目で兄の痕跡を見抜いた。麻子の言うことは、おそらく正しい。
「どうします?折角ですし見てみましょうか?」
「五十鈴殿!言いながら操作を始めないでください!」
「気になってたんだ……華さん」
「別に悪いことをするわけじゃない。見つかっても怒られることはないだろ」
「そ、そうだねっ!それにもし中のデータとか壊れてたらダメだしね!確認だよ確認!」
そんな誰にしてるのか分からない沙織の言い訳を最後に、一同はデジカメの小さな画面を覗いた。
結局全員見るんだ……とみほは心の中で苦笑した。自分だって見るけども。
機械的な起動音がした後、すぐにカメラマン渡里の本日の成果が姿を現した。
「これは……個人写真の方ですね」
「トップバッターの西住殿が写ってますよ」
「やたらに撮り直しさせられてたやつだな」
「うぅ……ほんとにキツかった……」
「でもちゃんと撮れてるよ。良かったじゃん」
画面の向こうにいる自分に、みほは同情するような視線を送った。
十六回もリテイクされては、どんなスーパーモデルだってげんなりするだろう。
沙織の言う通り、変に写ってないことだけが不幸中の幸いだった。
「麻子……選手名鑑に載るんだからもっとシャキッとしなよ」
「いつも眠そうですもんね、麻子さん」
「最近は低血圧がマシになってきたって言ってませんでした?」
「眠いものは眠い」
目が半分くらいしか開いてない麻子を見て、みほは少し笑った。
彼女の目がぱっちりと開くのは、きっとケーキを差し出された時とかだろう。
「華さんって姿勢が綺麗だよね」
「あ、分かります!こう、立ってても座っても真っ直ぐと言いますか、気品があります!」
「そんな……照れてしまいます」
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、というやつだな」
頬を染めた華は、まさに可憐だった。
写真の中の彼女はこんなにも凛々しいのに……これがギャップ萌えだろうか。
「優花里……意外と写真映りいいんだね」
「そうですか?こういった機会はあんまりなかったので、自分では分かりませんけど……」
「綺麗に撮れてますね」
「変なところはないな」
自然な笑み、というのはこういうことを言うんだろうな、とみほは思った。
優花里は確か一発OKだったはずだし、自分もこんな笑い方が最初から出来たら良かったのに。
「これは……なんと言いますか……」
「沙織さん、気合が入りすぎです」
「朝から化粧室に篭ってたからな……まぁこうなる」
「なによ、当たり前でしょ?誰が見るか分からないんだから」
普通こういった証明写真のようなものは、実物よりマイナス補正がかかって見える、と言われている。有り体に言うと可愛くは写らず、いいとこ75パーセントくらい出れば十分とされてるわけだが……沙織の写真は余裕で120パーセントは出てる。正直、お見合い写真にもそのまま使えるくらいだった。武部沙織、恐るべし。
「うーん……他の子も結構ちゃんと撮れてるね。渡里さんが巧いのかな?」
「いやカメラの性能が良いんだよ」
「即答ですね、みほさん……」
あの兄にそんな技能はない、とみほは断言できる。
写真と言ってもそれは立派な芸術の一つ。兄はその分野においてはポンコツ以下である。似顔絵なんて書かせた日には、それはもう目も当てらないことになるのだ。
「あ、集合写真です!」
「他の学校と比べるとかなり少ないが……こうして並んでみれば壮観だな」
「パンツァー・ジャケットを着ているから尚更そう感じますね」
「そう!このジャケット結構可愛いよね!」
沙織はその場でくるりと一回転した。それに合わせて短い丈のスカートがふわりと舞う。
「私はどちらかと言うとカッコいいと思います!」
「確かにいい服ではある。丈夫だし汚れにくいし」
「誰がデザインしたんでしょうか……?」
「うーん……?」
兄ではないことは確かである。濃紺色を基調とするジャケットと純白のスカート、この二つが生み出すコントラストは間違いなく芸術音痴の兄からは生まれない。百年に一度レベルの奇跡が起きれば、中に着ている緑のタンクトップの発想くらいは出てくるかもしれないが、まぁ多分ない。
となると残りの候補は……
「生徒会の人、かなぁ。多分発注したのもそうだろうし……」
「そういえば角谷会長はご実家が塗装会社と聞いたことがあります。戦車のマークを作ってくれたのも角谷会長ですし、もしかすると……」
「だとすると、あの独特なセンスからよくこのパンツァー・ジャケットが生まれたな」
「た、確かに……」
ウサギさん、カメさん、アヒルさんチーム辺りはまだマシなデザインだと思う。普通に「まぁ可愛いんじゃない?」の範疇に収まる。ただ残りの二つはどうかと思う。カバさんチームはマ○バオーみたいなカバがお尻をこっちに向けているし、あんこうチームはもう何というか覇気を感じない。隊長車なのに。いや別に文句があるわけじゃないけど。
「後は……戦車の写真で終わりかな―――――ん?あれ、まだ写真が入ってる」
初めて出会った頃と比べて遥かに綺麗になった戦車達の姿が四、五枚ほど流れてきてもなお、カメラはまだ次のスクロールを表示していた。
みほは首を傾げた。提出する予定のデータは、戦車の写真で最後のはず。ならこの次に出てくる写真は一体なんなのか。
ほんの一瞬だけ逡巡した後、みほはカメラを操作してページをめくった。
「これは………」
「ん?なになに?」
「あれ?なんの写真でしょうかこれ」
「写ってるのは……澤さんとカエサルさんとみほさんですね」
それはみほの記憶にない写真だった。
いや、この場面自体は覚えがある。
今日の夕方、澤とカエサルの二人と少し戦車の連携について話していた、その一幕だろう。
最初はカエサルが話しかけてきて、そこに後から澤が混じって、そこから三人で30分くらい話して、という風に経緯まで覚えている。
みほの中にないのは、その場面を撮られた記憶だった。
―――――――いつの間に。
みほは目を丸くしてカメラの操作を続けた。
「まだあるな。これは……通信手組か」
「武部殿が何やら必死にもがいてますね……」
「ちがうよ!?ジェスチャーだよ!これも立派な練習なの!」
まぁそうなのだろうけども、とみほは視線を写真に注いだ。
写真を見て浮かんだ題名は「荒れ狂う海に投げ出されて溺れそうな人」、だった。
ピンショットであれだけ気合を入れていた武部が、こんな姿を自分から披露するわけがない。やはり、カメラで撮られていることに気づいていなかったのだろう。
「あ、私の写真もあります。これは確か……ウサギさんチームに砲撃のコツを教えている時ですね」
「これは私か。そういえばアヒルさんチームにアドバイスを訊かれたな」
そして次々に写真が捲られていく。
砲弾を担いでいる優花里の姿。戦車の上で本を読む麻子の姿。
何やら作戦会議をしている様子のカバさんチーム。
八九式の横でバレーに勤しむアヒルさんチーム。
森の中を元気に駆け回るウサギさんチーム。
椅子に座ってのんびりする角谷の世話を焼く河嶋と小山。
戦車を弄る自動車部。
そして―――キューポラから身を乗り出して指示を飛ばすみほの姿。
写真はまだまだ出てくる。しかしそのどれもが、他愛のない普通の姿を写したもの。
大洗女子学園戦車道の、練習風景を切り取ったもの。
みほ達の、日常を収めたものだった。
「こんなの撮ってたんだ……」
「全然気づかなかったですね」
「凄いですね渡里さん。探偵とか向いてそうです」
「普通に盗撮だがな」
辛辣な言葉とは裏腹に、麻子の語調には柔らかさがあった。
麻子だけではない。沙織も、優花里も、華も無許可で撮られたにも拘わらず、その口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。
そして、それはみほも同じだった。
「―――――――皆、楽しそうだね」
隠しきれない嬉しさを滲ませながら、みほはそう言った。
始まりは、きっと皆バラバラだった。
今までの自分とは違う自分を見つけたくて。
今よりも立派な乙女になりたくて。
単位が欲しくて。
友達が欲しくて。
他の皆も、それぞれ違う想いを持って道を歩きはじめた。
そして今は、皆同じ場所にいる。
バラバラに始まった線は、一つの場所で重なり、交わっている。
それはとても素敵なことなんだと、みほは思う。
当たり前の日常のように見えるこれらの写真は、きっと奇跡のような日々の記録。
七十億いる世界の、一億人にいる日本の、三百万人いる茨城県の、二万人いる学園艦で起きた、一期一会。
この写真はそんなことを教えてくれる。
なら、断じて隠し撮りを許容するわけじゃないけど、まぁしょうがないから許してあげてもいいかもしれない。
「あーーーーっ!?なにこれ!?こんなの撮ってたの!?」
みほは苦笑した。
その眼前には、隠し撮りの犯人がいた。
バレーのユニフォームの上からパンツァー・ジャケットを着たアヒルさんチーム四人の真ん中に、すっぽりと収められて両腕を掴まれた、呆れたように笑う兄が。
「アヒルさんチームと渡里さん、仲良いですもんね」
「『コーチ』って呼ばれた時は、すごい変な顔してたがな」
「でも時々いっしょにバレーしてるところを見たことがありますよ!」
神栖渡里を訪れるランキングがあれば、ベスト5入りが固いのがアヒルさんチームである。
元が体育会系な彼女達にとって、容赦なく厳しい練習を投げてくる渡里は寧ろ好ましい存在のようで、チーム単位で見ればおそらく最も早く渡里と打ち解けていた。
渡里は渡里で、根っこが素直で向上心と根性があるアヒルさんチームは可愛がり甲斐があるようでよく気にかけている。
畢竟、華の言う通り仲がとても良いのがアヒルさんチームと渡里である。
故にこの写真のアヒルさんチームは、みんな笑顔。その表情から、マイナスなものは微塵も感じられない。
………感じられるのは、寧ろ兄の方であった。
なんとなくみほは、この写真を撮るに至った経緯を察した。
おそらく隠し撮りがバレて、の流れだろう。
腕を掴まれ、振り払おうにもアヒルさんチームの笑顔が眩しくて、それができずにズルズルと引きずられてカメラの前へ連れてこられた兄の姿が、みほには容易に想像できた。
そして、この後の展開も。
「アヒルさんチームだけじゃないな。カバさん、ウサギさん、カメさんも渡里さんと一緒に撮ってる」
ほらね、とみほは笑った。一チームだけ撮るなんて器用な真似、できるわけないんだから。
「渡里さん、カバさんチームに何か着せられていますね。これはなんでしょう?」
「この横に広い扇形の帽子、海軍の軍服、それに右目と右腕を隠したポーズ……うーんもしかして」
「しかしコスプレさせられているにも関わらずノリノリだな」
「目が笑ってないけどね」
一般的な20代前半の成人男性の精神なら、とんでもない辱めだろうなとみほは兄に同情した。周りが周りだけに、それほど変に見えないのが不幸中の幸いだろうか。
まぁカエサルたちがとても楽し気な表情をしていることに比べれば、兄の気持ちなんて些細なことである。
「ウサギさんチームもすっかり渡里さんと打ち解けてるね。最初はすっごい怯えてたけど」
「怯えるというか、緊張してたんだろ」
「いつも遠巻きに見てましたしね」
それが今や、取り囲んでピースサインである。
みほはウサギさんチームに群がられている兄を見て、微笑ましい気持ちになると同時に、少しだけ昔の自分を思い出した。
幼い頃の自分も、きっとあんな感じだったに違いない。……多分、ウサギさんよりもっとやんちゃだったけど。
「か、神栖殿……明後日の方を向いてますね……」
「なんでこんなことになる」
「カメさんチームの方々はとても決まってらっしゃるんですけど」
「うーんカメさんと渡里さんの関係ってよくわかんないよね」
一見仲良さげには見えるが、実際のところは沙織の言う通りである。
決して関係が悪いというわけじゃない。でもそういった仲の良し悪しじゃなく、もっと別のもので繋がっているというか……他の誰にもない独特の関係がそこにはある気がした。
それが何なのか、みほにはさっぱり分からないけれど。
「えーいいないいなー!ねぇ、私たちも撮ろうよ!」
保存されていた写真全てを見終わり、カメラの電源を落とした後沙織はそんな風に言った。
「撮るって……写真をですか?」
「そう!私たちも、渡里さんと一緒に!」
「それはいいですけど……肝心の渡里さんがいらっしゃらないと……」
「わざわざ呼びに行くのは面倒だぞ」
「どっちにしろこのデジカメ届けに行くでしょ、そのついでだよ!」
果たしてどっちがついでなのだろうか、とみほは思った。
その真意は沙織にしか分からないだろうけれど……どちらにせよそんな必要はなかった。
コツ、と床を叩く音が一つ。振り返ればそこには、
「あれ?なんでお前達がそのカメラ持ってんだ?」
デジカメの届け先がいたから。
深い色合いの髪と瞳を持った彼は、驚いたように目を丸くしていた。
「お兄ちゃんが忘れていったのを見つけたの。作業台に上に置きっぱなしだったよ」
「あーやっぱここだったか。もうここが最後の希望だったんだが……見つかってよかった」
疲れたように兄はため息を吐いた。
その様子から察するに、色々なところを歩き回ったのだろう。片づけ下手な兄は、同じレベルで探し物も下手だから。
「中のデータとか大丈夫だったか?消えることなんて早々ないと思うけど」
「ちゃんと残ってたよ。ピンショットも、集合写真も戦車の写真も……お兄ちゃんの隠し撮りもね」
咎めるような視線を込めてみほは言った。ちょっとした悪戯だった。
勿論、この程度で狼狽える兄ではない。
「アレは角谷の頼みだよ。卒業アルバムに載せる写真がいくつか欲しかったんだとさ。今年から復活した戦車道は一枚も写真ないからな」
「あ、そういうこと」
話を聞いていた沙織たちも、みほと同じように得心がいった様子だった。
まぁそういう事情がなければ、兄もそんなことしないだろう。まさか本気で、みほ達に日常の尊さを教えようとしたわけでもあるまいし。みほはそう受け取ったけど。
「結構楽しかったぜ。まぁ途中で磯辺たちに見つかって、エライ目に遭ったけど」
乾いた笑みを兄は浮かべた。
お疲れ様、とみほは心の中で兄を労わった。それじゃついでに、もう一枚宜しいですか?
「あの渡里さん!私たちとも写真撮ってもらってもいいですか!?」
「えっ」
ガシっ、とみほは兄の腕を掴んだ。
普段は鋭い目が、この時ばかりは丸みを帯びて、みほと視線を交わす。
そしてにっこりと、みほは微笑んだ。
すると兄は、ゆっくりと大きなため息を吐いた。
「わーったよ、いいよ」
みほは渡里の、この諦めたように笑う顔が好きだった。
だってこの顔をする兄はいつだって、どんなワガママでも受け入れてくれるから。
そして状況はトントン拍子で進んでいく。
みほはきっと、何十年経とうともこの日のことを忘れることがないだろう。
「場所はどうします?」
「渡里さんは真ん中ですね」
「私はどこでもいい」
「私は西住殿の横にします!」
「みほさんは渡里さんの横ですね」
「え」
「カメラセットしたよーって……渡里さんの横空いてないじゃん……」
「早い者勝ちですよ、沙織さん」
「むむむ……じゃあ麻子と華の間に入ろっと」
「俺の真ん前に来てもいいぞ」
「流石にセクハラだよお兄ちゃん」
「マジか」
ハイ、チーズ。
「………おい、アレはいつ撮るんだ」
「あれーおっかしいなータイマーは十秒にしたはずなんだけど」
「間違って押しちゃったのかな?」
「あのカメラのタイマー、十秒の次は三十秒だぞ。あと二十秒くらいどうすんだ、これ」
「沙織さんったら……」
「こうしてるとなんだかこの前撮った写真のことを思い出しますね!」
「沙織が派手にコケたやつか」
「そ、それは忘れて!」
「つーか腹減った。アレ食べたいな、海鮮丼」
「お兄ちゃんそれ今言うことじゃ―――――――――」
「………あの西住殿、聞き間違いじゃなければ今お腹の音が」
「ししししてないよ!?」
「アッハッハ!!!」
「笑いすぎだよお兄ちゃん!!皆も!!」
「きゅ~ってまた可愛い音だなお前、子どもの頃から変わってねー!」
「―――――――もうっ!」
パシャ。
○
「会長?何見てるんですか?」
「んー?ほら、この間渡里さんにお願いした卒アル用の写真。最後の方に面白いのがあってさー」
「これは……ふふっ、渡里先生とあんこうチームですね」
「うん、皆――――すっごい良い笑顔だなって」
6/15(土)に最終章第2話を観てきました。
ネタバレになるので感想は一切言いませんが、一つだけ。
もしこの先自分が世界で一番面白いガルパン二次を書くことができたとしても、きっと原作の面白さには及ばないだろうな、と思いました。
すごいね、あのアニメ。