「お待たせー!、はあはあ」
「やったじゃんサキ、今日はギリギリセーフだよ。はい席取っておいたよ」
「はあはあ、ありがと……」
昨日の今日で遅刻するわけには行かないと咲には珍しく全力ダッシュしたおかげでどうにか間に合ったようだ。
今日は入学二日目。学部ごとのオリエンテーションが開催される。一年間の大まかな予定や授業の取り方、部活やサークルなどあらゆる大学の説明が行われる予定だ。因みに二人が入学したのは文学部である。もちろん咲の希望に淡が付いて来た形だ。
「オリエンテーションだって何やるのかな!?」
「そんな目をキラキラさせてても。多分事務的な説明がほとんどじゃないかな」
「大学だよ大学!もっと面白そうなことやるでしょ」
「淡ちゃんは大学を何だと思ってるの?」
「高校までとは違うんでしょ!?」
「そうだけど……」
確かに高校までと違い自分でやることが多いが、その分説明を聞かなければならないことも当然多い。最初こそ目を輝かせて聞いていた淡だが、事務手続き等の話が続き、淡のテンションはみるみるうちに底まで落ちていた。
「……サキ、終わった?」
「朝の元気はどこ行ったの?まだ半分くらいだよ。ちゃんと聞いてた?」
「……聞いてたよ、覚えては無いけど」
机に伏せながらも堂々と答える淡に咲は軽く目眩を覚える。
「後で聞いても教えないよ?」
「えー!私はサキに道を教える、サキは私に学校の事を教えるこれでWINWINでしょ」
「うっ!?それを言われると……分かったよ。でも始めから諦めるのは無し」
提案する淡も淡だが、簡単に受け入れる咲も咲である。
「はーい」
「それにここからは部活とかサークルとかの話みたいだよ」
「ホントに!?やった!早く始まらないかなー」
(でも大半は手続きとかの話なんじゃないかな?言わないけど)
咲の予想通りだった。初めの内は部活紹介など淡もよく聞いていたが、それが終ると書類の種類や提出期限などの話が始まり淡のテンションは再び底まで落ちていた。
「だいがくってむずかしいんだね」
「淡ちゃんが簡単に考えすぎなんだよ」
今にも頭から煙を吹きそうな淡だったがここでテンションを回復することがあった。
「ではこれから各部活の代表に部活動紹介をしてもらう。なおサークルは後日別に行うので興味のある者はそちらにも参加するように。では麻雀部からどうぞ」
「んん?まーじゃん?……麻雀!?」
「さすがの反応だね、淡ちゃん」
机から一気に起き上がる淡、その目は元の輝きを取り戻している。どんな状況でも麻雀に反応する辺りさすがである。咲も冷静にしてはいるが内心は期待に溢れていた。
(大学の麻雀部……入るかは分からないけど、私もやっぱり楽しみだな)
*****
「どうも麻雀部の代表です。では早速麻雀部の紹介を始めますね。まずは……」
始めに行われたのは実績の紹介などの大まかな部の説明だった。咲や淡は入学前に麻雀部について調べていたので事前に知っていた内容だった。なので二人が興味を引かれたのはその後に始まったスライドショーである。
「ここからは普段の練習や先週行った練習試合の様子を撮った写真になります。うーん、あまり特徴は無いですかね、名門って訳でも無いですし……強いて言うならこの方はとっても強いですよ」
部長の言う通りごく普通の部活の様子が写真には写っていた。だが清澄という小規模な高校で麻雀を打ってきた咲にはそれが新鮮に写る。
(部活の仲間がたくさん。あれだけの人と一緒に打てるんだ)
対して淡にも写真は新鮮に写っていた。白糸台という名門で打ち、さらには部内にチーム制度のある白糸台では自ずと他チームとの関係は難しくなる。チームメートというよりもライバルに近い関係だった。
(別に仲が悪かった訳じゃ無いけど。こんな風にみんなで和気藹々と打つのもいいかもね)
((やっぱり入りたくなってきちゃったな))
もともと麻雀が大好きな二人だ。ある意味当たり前の反応である。ただ二人とも写真と思い出に浸っていて、部長の話は殆ど聞いていなかった。さらには部長が自分たちを見ていた事にも気づいてはいなかった。
「うちの大学の麻雀サークルほど伝統のある部では無いですし、大学から麻雀を始めた部員もいます。みんなで楽しくやっていますのでどなたでも気軽に来てくださいね」
「ありがとう。では次は……」
その後も部活紹介は続いていたが二人の頭は麻雀部の事でいっぱいで、終わってみればどんな部活があったのかさえ二人とも覚えていなかった。
「いやーいつの間にか終わっちゃったね」
「うん、私も麻雀部以外あんまり覚えてないや」
「まあ私とサキだからね。しょうがないよ麻雀大好きだもん」
「その通りなんだけど淡ちゃんと一緒とは……私としたことが……」
「それはどういう意味かな?んん?」
「さっ学食でお昼でも食べよ」
「サキ、誤魔化さないで!?」
二人は他愛のない話をしながら他の学生に続いてオリエンテーションが行われていた講堂を出る。そこに大きな声が響く。
「例の二人が来たぞ!!」
講堂の外は入った時とは全く別の光景が広がっていた。石畳の道と植木の綺麗な空間は今人で埋め尽くされていた。一年生の通り道の両脇を上級生が固め、何やらビラを配っているのだ。
今日は一年生の初登校日であり全員参加のオリエンテーションがある。要は絶好の勧誘日和なのである。あらゆる部活、サークルが工夫を凝らしたビラを手に集まっていたのだ。咲と淡は知らないことだが毎年恒例の光景である。
「なにコレ!?」
「淡ちゃん……逃げよう」
「私だって逃げたいけど……どこに逃げ道があるの?」
ただでさえ盛り上がる勧誘合戦の中に今年最注目の二人が現れたのだ。逃げ道などあるはずが無かった。
「私にはみなさんの目が光って見えるよ」
「サキも?私にも燃えてるように見える」
二人は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。目に炎を宿した上級生による勧誘の始まりだ。
「大星さん、宮永さん是非うちの麻雀サークルに!!」
「あんなとこよりこっちは女子限定の麻雀サークルで安心だよ!!」
「たまには麻雀以外もどう!?将棋サークル宜しく!!」
「落研おすすめ……」
「漫研で魔法少女になるんはどや!?」
カオスだった。唖然としている二人の手にはあっと言う間にビラが積み重なっていく。貰った覚えの無い物まで積み重なっていく始末。このまま嵐が過ぎ去るのを待つしかないのかと二人は心の中で涙した。待つしかないはずだった。
「……さん……す」
「ん?」
咲の耳に僅かに声が届く。どこかで聞いたような声だ。それと同時に裾も引っ張られている。
「嶺上さんこっちっす!」
「えっ何で!?ちょっ……」
今度は確かに聞こえた。咲ははっきりと気付く、それと同時に強引に引っ張られる。
「きゃっ」
短い悲鳴と共に咲はその場から忽然と姿を消した。淡を一人残して。
「えっ……サキ?」
「……あれ……サキ?」
「……サキーーーーーーーー!!!」
咲が消えた事で獲物が一人に絞られた。今までの倍の勢いで勧誘を受ける淡は怒声とも悲鳴とも聞こえる声をあげ、勧誘の波に飲まれて行った。
*****
その頃咲たちは学食で静かに席を取っていた。
「今何か悲痛な声が聞こえたような……」
「何言ってるんすか?それよりここ空いてるっすよ」
「ありがと」
「気にしないでくださいっす」
「ううん、あの場から連れ出してくれてありがとう。……本当にありがとう、モモちゃん」
「そんなにっすか!?」
咲両手を確りと握り、心の底から感謝を伝える。咲を助けたのは東横桃子。鶴賀学園の卒業生で長野で3年間咲と戦ったライバルであり、今では仲の良い友達である。
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