「フッ」
「ほいっと」
ぶつかる木刀によって周囲に音が響き渡る。上段、中段、下段から振るわれるそれをいなし、時に力を込めて弾き飛ばす。
「どうした白哉。こんなもんか?」
「まだまだぁ!!」
今俺は朽木家の屋敷で銀嶺さんの孫の白哉の稽古をつけていた。副隊長になって久々になるが、本人も実力を上げてるみたいでこの間よりも腕は上がってる。この辺は夜一のお陰かね。
「どうしたどうした、こんなもんじゃあの猫に勝つなんて先の話だぞ」
「私の前で奴の話をするな!」
鍔迫り合いになって少し挑発すれば、顔に青筋を浮かべ怒る白哉。頭に血が上るのは相変わらずってことな。これじゃまだ先だわな。
怒りのせいで大降りになり振り下ろそうとする手元を叩き、弾き飛ばす。そのまま木刀の切っ先を首元に突きつける。
「そこまで!」
銀嶺さんの声に動きを止める俺。白哉は悔しそうな顔をしながらこちらを睨み付けている。この辺の感情をコントロールできてないのは、まだ子供ってことか。
「前やった時よりも強くはなってる。でも挑発に乗るのはよくねぇな」
「そうじゃな。夜一殿の名前を出した途端に動きが悪くなった」
「申し訳ありません、爺様」
銀嶺さんの言葉は素直に聞く白哉。アドバイスとかは任せるほうがいいかね、こいつ頑固だし。
「黒星殿もすまんのぉ。休日じゃというのに」
「いいっすよ、たまには教え子の成長みないと」
あまりいい顔をしない白哉だが、銀嶺さんの手前大きくは反論してこない。事実も含まれているのも自分で認識してるってことだろう。
白哉、というか朽木家と知り合ったのはまだ俺が五席のころ。夜一を探して霊圧を追いかけていたら朽木家の屋敷で見つけたんで捕まえたら、銀嶺さんと白哉も一緒にいたんで誤り倒したわけだ。同じ四大貴族とは言え、次期当主に無礼を働いたわけだし。
まぁその時夜一捕まえたことに驚かれて、白哉に打ち合い申し込まれて受けてボコボコにしてやったら銀嶺さんが時たま見てやってとのことで快諾。俺に時間があるときにこうして稽古をしているのだ。
「銀嶺さんこそ、毎回立ち会ってくれてありがとうございます。俺の言葉はこいつには届かないんで」
「こちらも頼んでおるのだから同然じゃよ。それに白哉の成長をこの目で確かめるのも楽しみじゃからのぉ」
あーあー、そんなこと言ったら白哉のテンション上がるじゃないっすか。早く次やらせろみたいになったし。相変わらずのお爺ちゃんっ子だことで。
「もう何本かやるとしますかね。それでいいか白哉?」
「今度こそは貴様に勝つ!」
威勢は結構結構。そうして俺と白哉は稽古を再開するのであった。
「半年ほどたったが、どうじゃ副隊長の責は」
「やっぱ重いですよ。それでもやるだけですよ」
その後何度か白哉と打ち合いをした後、俺は朽木家内でにある一室で銀嶺さんとお茶をのんで話をしていた。白哉は稽古を続けている。
「最近は第二と第三の隊長だけになったんで、その辺は楽になりましたね」
そう、俺の副隊長昇進後に色々と人事を回せるようになったので、警邏隊と檻理隊の隊長のみを務める形にした。第一、四、五の副長はそれぞれ席官に振り分け、中でも第一には三席に昇進した砕蜂をつけたので、大分肩の荷が降りた。
「夜一殿はいいのかの?」
「週一であいつに時間割いてるんで、それで何とか機嫌とってます」
つかなんだろう。銀嶺さんは俺と夜一に何かあるとでも思ってんのかな。その辺別に聞いてこないし、うざくもないから気にはしないけど。あいつが人を好きになるとか考えもしないしなぁ。
「前までは残務処理多かったんで半年ぶりでしたけど、これからは月一でこれそうですよ」
「それは何より。白哉も口ではああ言っとるがおぬしには感謝しているぞ」
「白哉が?」
「うむ。稽古をつけてもらう前よりも成長速度が上がっておるし、なにより楽しそうじゃからの」
そんな風には見えませんけどね。あいつの今の目標は、あくまでも俺じゃなくて夜一だ。俺なんて通過点にしか思ってないでしょ。
「平和、ですね」
「そうじゃのう」
空を見上げながらお茶をすする俺たち。爺臭いけど、こういう時間が一番だ。
「さて、そろそろ行きますね。また来ます、今度は茶菓子持って」
「それはうれしいのぉ。黒星殿の茶菓子は皆に評判がいいのでのぉ」
そう言ってもらえると嬉しいっすね。
「では、これで」
瞬歩でその場を後にする。できるだけ丁寧にやったから床とかに被害はないと思うけど。そうして俺は次の目的地に向かう。
*―――――――*
「言っときますけど、俺は副隊長にはなりませんよ」
「そう言うなよ、海燕」
十三番隊隊舎、浮竹十四郎が
「何回も言わせないでくださいよ。俺よりも」
「隊長格にふさわしいのは他にいる、だろ?」
そうっす。と言って茶をすする海燕。つか浮竹隊長、まだ諦めてないのか。まぁそうじゃないと俺が来た意味もないしな。
「そう言うと思って、今日は説得してくれる人を連れてきたんだ」
「誰が来ても同じですよ。俺は」
「それは俺でもか?」
「キリツグ‥」
出てきた俺を見て言葉を詰まらせる海燕。出来るだけ霊圧押さえてきたから気づけなかったんだろうな。浮竹隊長は事前に言ってたからわかってたんだけど。
「俺の言葉だと平行線だと思ったから、黒星君に説得を頼んだんだ」
「なんつー面倒なことを」
本人目の前にして嫌そうな顔すんなあ。そうなるとは思ってたけどよ。
「そういうことだ。海燕、副隊長なれ」
「なんで命令なんすか、嫌ですよあんたの頼みでも」
帰れと言わんばかりに、シッシッと手を払う海燕を見て苦笑いする浮竹隊長。それでいいのか十三番隊。
「やっぱこうなるか。なら海燕、俺と決闘しろ」
「はぁ!? それこそ嫌に決まってるでしょ」
「まぁ聞けよ。やった場合、俺が勝てば副隊長やってもらう。でも俺が負けたときは、お前の命令3つまで聞いてやるよ」
俺の言葉を聞いて驚き、考え始める海燕。こいつとは真央霊術院の時からの付き合いだが、こういう風に誘ってやれば十中八九食いついてくる。それに今回は俺自身を餌として蒔いたからな。
「その言葉に嘘はないっすよね?」
「もちろん。二番隊副隊長として約束は守るさ」
「‥‥いいっすよ、やりましょうか」
ほら乗ってきた。こうなりゃこっちのもんだ。その後、いくつかのルールを決めた。
浮竹隊長が立会人となって行うこと、鬼道の使用可能、相手が降参するか、立会人が止めに入るまで続けること。大まかなルールはこんな感じだ。事前に考えてきたことだったが、向こうからの反論もなかったからこれでいいだろう。
場所は十三番隊隊舎の敷地内。話を聞きつけた複数の隊士が見学に来ていた。
「確認ですけど、負けたらなんでもやってくれんすよね?」
「そう言ってるだろ。その代わり、お前も負けたら副隊長だからな」
「わかってますよ。まぁ負ける気なんてないっすけどね!」
斬魄刀を握り霊力を高め始める海燕。本気になってくれてるなら結構結構。こっちもそれ相応に対応しますかねっと!!
俺たちの高まる霊圧に周囲から声は消え、ただその時をまつ。そして、
「始め!!」
「はぁああ!!」
合図と同時に踏み込み、突っ込んでくる海燕。刀を低く構えたまま、振り上げながら懐に入ろうとするのを許すまいと、俺は一歩引き、刀を振り下ろす。金属音が響き、周囲に衝撃が走る。
それを皮切りに怒涛の攻めを見せる海燕。瞬歩を応用しながらこちらに切りかかってくる。それを俺は時にはよけ、時にいなしていく。カウンター気味に攻撃を仕掛けるもこちらの
動きを見て咄嗟に回避する向こうも流石だ。
「どうしたんすか、そんなもんすか!」
「んな訳ないだろ、そろそろ上げてくぞ!」
「!?」
鍔迫り合いをしている最中に、俺が消えたように感じたのだろう。一瞬硬直する海燕の背後から切りつけるが、間一髪瞬歩で避ける。だがこっちも瞬歩で追いかける。
「おいおい、今どうなってる!?」
「わかんねぇよ、早すぎる!」
周囲は俺と海燕の瞬歩に目がついていかないようだ。見えてるのは浮竹隊長くらいだろうか。そんな瞬歩合戦も終わりが見えないため終わらせて、距離をとる。
「今の瞬歩、本気じゃないでしょ。舐めやがって」
「気持ちとしては本気だよ。ただ全力ってわけじゃないだけだ」
気に食わないといった顔をする向こうに対して俺はにこやかに見えるだろう。わざとそうしてるんだし。だがただの斬だけでは、決定打にはならないだろうな。
「そろそろ本気で行きますよ! 水天逆巻け『
その決定打を得るために斬魄刀を開放する海燕。こいつの捩花は見た目は三又の槍だが、その能力は、水を操る流水系だ。
「流石にそいつにこのままで対抗はきついか。こっちもいくぜ」
そういや、人前で始解するのは久々だよな。基本夜一と喜助との修行でしか使わなかったし。いい機会だし、見せてやるか。
「堕とせ『
そう言って俺も斬魄刀を開放する。第二ラウンドの開始に周囲が息をのむ。決着は先だが、しかし着実に近づいているのであった。