誤字報告ありがとうございます。
斬魄刀。それは死神に与えられる刀であり、持ち主の魂のあり方を写す鏡のようなものである。
すべての死神は、真央霊術院で浅打という名のない斬魄刀を手にし、そこに魂の形写し、自らの斬魄刀とする。そして対話と同調を通じて、名を聞き入れることでそれを解放することができる。
このことを始解といい、その先に卍解というものがあるがこの際それは置いておこう。ここで重要なのは、始解をした斬魄刀には何らかの変化が見えるということだ。形状的に変化するものあれば、特殊な能力が見えるものと様々だが、一見すればその変化が見えるものなのである。
「堕とせ、影星」
解号と共に解放させる、黒星キリツグの斬魄刀。しかし、それは相対する志波海燕のそれと比べえしまえば、いや他のどの斬魄刀と比べても、異質なものにみえる。
「なんすか、それ…?」
海燕の口から言葉が漏れる。これは回りにいる隊士たちも同じ思いを感じているはずだ。
「なにって、オレの斬魄刀だよ」
「ふざけてんすか? 何も変わってないじゃないですか!」
そう、変化が見られない。確かに霊圧は上がってる。しかしこれは、彼が自らのギアを上げたと言えば納得してしまうこと。自分の捩花と比べ、変わりのないそれを見てそんな言葉が出ても可笑しくはないのかもしれない。
「変わってんだろ。全体的にちょっと黒っぽくなってんだろ」
刀を見せて説明するキリツグだが、海燕は信じられないように顔をしかめる。周囲の隊士たちも、あの二番隊服隊長が、斬魄刀の始解もできないのかと口々に話始める。しかし、そのなかで浮竹十四郎だけが静かに瞳を細めて観察していた。
「まぁ最初はその反応なのはわかってたよ。でもいいのか?」
「何がっすか」
「気を抜いて、だよ」
その場から消えるキリツグ。瞬歩で背後に回り込み切りつけるが、これを槍になった獲物で弾き飛ばす海燕。その顔には冷や汗が流れていた。
「そうでしたね、ならこっちからも行きますよ!」
片手で回し槍先に水を集めて振るう。水そのものも鋭い刃のようになり、地面に傷をつけている。軽く打ち合ってしまえば、負傷は免れないだろう。
「遅ぇよ」
しかしそんな事はお構い無しに、瞬歩で周囲に移動し撹乱するキリツグ。その速度は徐々に増しているようで、掠りもせず空を切る槍を振るいながら打開策を探す海燕。
「破道の三十一、
至近距離で爆裂する赤い球体を槍で弾けば、熱と水がぶつかり水蒸気が発生する。あたりを覆いつくすほどに広がり視界を白く染める。その間も周囲を飛び交う霊圧に惑わされまいと、風圧で水蒸気を吹き飛ばそうとする海燕だったが、行動を起こす前に動きを止められることになる。
「いけ、椿」
聞こえる声に振り替えれば、何かに引っ張られてしまう。手首に巻き付くそれを払うように捩花を当てるも、弾き返されてしまう。
「んだよこれ! うぉぉ!?」
引かれる先にはキリツグが立っていた。自分の手首を掴むこれは、彼の影から伸びていることを目で確認する。
「寄せ切り」
「なんの!」
引き寄せることで相手を切り倒す技であるそれを、捩花で弾く。しかし、刃が交わり火花が散ったその時手首の影が広がり、そのまま両方の斬魄刀を包み込んでいく。咄嗟の判断が間に合わず捕まってしまうが、影の中で水を暴れさせて振り解こうと試みるが、
「そこまで!」
響く浮竹の声。海燕の脇腹にはキリツグの拳が軽く当てられていた。一瞬、海燕の動きが止まったことを見逃さず、斬魄刀を捨て懐に潜り込んで拳を放っていたのだ。
死神にとって斬魄刀は、戦闘で必ず使うもの。それこそ開放したものなど自分の分身のようなもの。それゆえ、簡単に手放すことはできない代物である。それを簡単に手放し白打に切り替える彼の判断に、海燕は驚いていた。
「そこで、斬魄刀離します普通?」
「そういう作戦だからな、一瞬の判断だよ」
得意げな顔をして答えるキリツグを見て、笑ってしまう海燕。自分より先をいく副隊長の背中は遠くに感じられた。
「あー、負けた負けた。俺の負けっすよ」
その場に倒れこむ海燕。すでに手首の拘束は外れていた。
「影、ですか」
「そうだよ。俺自身の影の中に、意思を持つ影を存在させる。それが影星の能力だ」
キリツグの影から現れる黒い蛇のようなもの。これが海燕の手首や斬魄刀などを包みこんでいたものの正体だ。
「二人とも、素晴らしい戦いだったよ。でも今回は黒星君の勝ちのようだ」
「‥‥わかりましたよ、副隊長、やりますよ」
声をかけてきた浮竹をみて、約束を思い返しそう口にする海燕だったが、
「別に今すぐなれとは言わねぇよ。てめぇで納得ついてからでよ」
「はぁ!?」
驚く海燕をみて、やりたかったのか? と声をかけるキリツグ。
「いやそうじゃなくて、やれって話だったじゃないすか」
「今すぐとか言ったか俺? やろうと思えば隊長命令で副隊長なんて昇進させれんだ。それを浮竹隊長がしないってことは今すぐじゃなくていいってことだよ」
ですよねという言葉に浮竹は、バレてたかと苦笑いをしながら答える。そのやり取りをみて盛大にため息をつく海燕。それを見て笑うキリツグ。
「納得行くまで考えろよ。そんで腹くくってから副隊長やればいい」
「‥‥うす」
すべてに納得してわけではないが、どこか気持ちを整理できたようですっきりとした顔をする海燕。
「またお前ん家行くから、夜一でも連れてよ。一つはそれだろ、俺への命令」
「そりゃそうですけど。夜一は勘弁してくださいよ、うっさいんで」
違いないわ、といって笑い合う二人を見てにこやかにしている浮竹。
「これで依頼は完了でいいっすよね、浮竹隊長」
「あぁ。ありがとう黒星君」
「じゃあ帰りますんで、では」
そう言ってその場を後にするキリツグ。一瞬で消える瞬歩にため息吐く海燕。
「やっぱり本気なんて出してねぇ、食えねぇ人だよ」
「そうだな。でもそれが隠密機動に必要なスキルなのかもしれないぞ?」
「なら俺は無理っすね。浮竹隊長は入れそうっすけど」
「おいおい、それはどういう意味だよ」
そうして話を続ける二人。この光景が遠くない未来で隊長と副隊長のやり取りになっているのであった。
*―――――――*
今はすでに夜。海燕との決闘の後、まっすぐ帰るつもりが急に呼び出されて瀞霊廷内でのもめ事を終わらせて帰ってきて今に至る。これで入ってた予定は消化できたかな。また明日から仕事だけどって、海燕の家また行かないといけないのか。そこはまたあいつと話して決めるか。
二番隊隊舎にある自室に戻ってきたわけだが、まだ休めないようですね、はぁ。
「なんの用だよ、夜一」
「ワシがおったら悪いのかキリツグ?」
部屋の真ん中で鎮座していたのはいつもの隊長様でした。いや、わるかねぇけど。なんでいるの?
「‥‥‥‥からじゃ」
「聞こえねぇよ、なんだって?」
「おぬしが最近、他の隊にかまけて、ワシのことを構わんからじゃ!」
うぉ、びっくりさせんな! いきなりでかい声出すなっての。てか構わないからって言われてもなぁ。夜一の隣に座って話をすることにした。
「そうはいっても、副隊長になって色々としないといけないだろうが。それに、週一で時間とってんだろ?」
「その程度では足りぬ、おぬしはワシの右腕の自覚がないのぉ」
そう言われましてもお嬢様。たまに出る寂しがり屋モードだなこりゃ。ここ最近なかったから安心してたんだけどな。
「はいはい、わかりましたよ。とりあえず何時ものですか?」
「わかっておるの」
正座をする俺の膝に頭を乗せる夜一。その頭を優しく撫でる俺。何時ものとは膝枕のことです。隊長が副隊長に甘えてるってどうなんだろとも思ったが、八番隊も同じようなものかと勝手に納得する。撫でていると手に顔を摺り寄せるように動く夜一。こう見てると、ほんと猫だよな。
「もう少し軽くじゃ」
「へいへい」
「うむ」
要望に沿って手を動かしていく。ご満悦のようでいい笑顔だよ本当に。でもこうなるってことは相当だな。またどっかで息抜きさせねぇとな。
「次の休みは全部お前にやるよ、それでいいか?」
「よいのか、おぬしにも」
「いいんだよ、たまにゃ右腕らしくあんたの傍にいないとな」
あ、喜んでるんだろうな。全身の毛が逆立ってるように見える。この辺まで猫なのかよ。
「よし、なら存分にこき使ってやるからの! まずはこのまま撫でるのを続けろ」
「今からかよ」
文句垂れながらも続けてる俺って、なんやかんやこいつのこと嫌いじゃないんだろうな。
そうして夜は更けていく。猫を可愛がる飼い主か、はたまた人間で遊ぶ野良猫か。どちらともいえないが、二人はじゃれ合い同じ時間を過ごすのであった。
「あ、また海燕の家に行くことになってるから「ワシも行くぞ」そうだと思った」
俺が副隊長になって初めての大事はこうして幕を閉じたのだった。
斬魄刀のモデルはソウルイーターの妖刀です。まぁ主人公の名字で分かる人はわかっていたと思いますが。