親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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ヒャッハー! もう我慢できねぇ!

15日だけど投稿するぜヒャッハー!



最近刺激足りてる?

 

 今日も無事、仕事を終えることが出来た。一人ボッチの執務室で、天井を貫く力強い伸びをする。今の時間は....嘘だろ、もう日を(また)いでやがる。

 

 殺人的な仕事量だった。だが、この時のために秘書艦を固定せずに回していた。予定の空いている子達に恥も外聞も捨て頼み込んで回る。いきなりの事、そして当然、彼女達の休日を拘束してしまう。なかなか人数集めには苦労したが、なんとか乗り切った。もうこの案件は二度と受けたく無い、近い内、御礼参りしないとな。

 振替休日にするのはもちろん。それだけでは悪いと思い、俺の激辛コレクションを半泣きで差し出したら、全力で拒否られた。解せぬ。

 

 ウチの鎮守府で開かれることとなった、第48回観艦式(かんかんしき)。と言っても、そこまで堅苦しいものでは無く、寧ろ民間人が主役に据えられている。厄介事がとうとう回って来た、それだけの話だ。当日ともなれば出店が立ち並び、施設の見学、懇談会、記念撮影に出し物、艦娘が走って跳ねてぶっ放す。よくもまあ面倒ごとをこれでもかと詰め込んでくれたなあ、おい、な楽しいお祭りだ。

 来賓として、この国のお偉いさんが集結する事から拒否権は無いのと同義。力の入れ具合が半端じゃないのが伺い知れるだろう。

 目的は民間人へ向けた戦争協力、特に人材面での勧誘が大きい。前大戦のトラウマだな。そこの所を上層部もよく理解しているらしく、開戦当時から片手で深海棲艦を殴り、もう一方で国民にゴマを擦るといった器用な事をしていた。深海棲艦とドンパチするのと観艦式は同格の扱いなのだ。

 人材についての問題は依然深刻。深海棲艦との本格的な戦闘が始まった段階から、早々に動き出していたみたいだが、現段階では黄色信号が点滅している。

 

 あー小難しいことはやめだやめ、明日も早いし寝よう寝よう。さっさと着替え布団に潜る提督だったが、10分経ち寝返りを打つ。20分経ち目元に手をやる。30分を過ぎるあたりで唸り始めた。

 

 

「眠れない」

 

 

 呟いたその一言は、静寂の鎮守府に反響し、虚しく消えた。最近はまた一段と忙しくなり、生活リズムがしっちゃかめっちゃかになった。観艦式のスピーチ原稿は全くと言っていいほど筆が進んでいない。元々大勢の前で話す事に慣れていないこと、その他諸々不安の激増もあいまって、提督の体は不安定そのものだった。

 このまま横になっていても、眠れないストレスで返って眠りが浅くなる。見回りにでも行くか。

 

 むくりと起き上がった提督は肌寒さを感じ、上着を羽織って外へ出る。

 いや待て、確かこの辺りに。ドアノブから手を離し、暗所に置かれた箱を(おもむろ)に持ち上げた。開封すると、中からウイスキーのボトルが顔を出す。酒はあまり飲まないと、やんわりと受け取りを拒否した代物だが、酒飲みの同期に半ば強引に握らされた物だ。

 上等な箱と、黒の下地に白い異国の文字が乗るラベル。なんかすごく高そうだ(小並感)。それ単体でも重量があるであろう瓶には、琥珀(こはく)色の液体がトップリと月明かりを溶かし込み、水面を優しく光らせていた。

 酒飲み用のグラスは生憎(あいにく)と持ち合わせがなかったので、応急処置として寒色系のマグカップでの飲酒を試みる。右手にボトル、左手にマグカップを引っ提げて、浮浪者()んだくれスタイルを確立すれば、提督は深夜の鎮守府に繰り出すのだった。

 

 

「誰もいないな」

 

 

 当たり前だが任務のある者以外、皆眠りについている。街灯が地面に光の輪を(つら)ね、それに都度、照らされながらベストポジションを探す。ふと、視線の先に木作りのベンチを見た。半分を光に焼かれたそれは、疲れた提督を吸い込むように迎え入れる。暗がりで()す人影に気付かぬままに。

 

 

「「あ」」

 

 

 頭脳労働で消耗し、意識が希薄(きはく)だった提督は遅ればせながら間抜けな声を上げた。それは相手の方も同じだったらしく、何よりこの時間、この静けさ。自分以外が絶滅したような、普段味わう事の無い体験に、物想いに(ふけ)るのも訳無し。

 

 

「こんな時間に何やってんですか提督」

 

 

「それはこっちの台詞だ。大井だったのか、一瞬誰かと思ったわ」

 

 

 大井の質問に答えるべく、右手の酒に視線を合わせ、「眠れなくてな、こいつを一杯引っ掛けようとしてた所」。と説明すれば、「寝酒は体に悪いですよ」。と批判の視線をその身に受けた。

 

 

 「その辺は大丈夫だ、なんたって普段酒なんて飲まないから」

 

 

 カッカッカと快活に笑う提督。大井はいつの日だったか、祝いの席で、顔をひきつらせてお酌を受けていた男を思い出していた。そんな姿が唐突に頭を駆け抜け、決壊したように笑いがこみ上げる。プークスクスと堪える大井。

 

 

「そんなに笑わないでおくれよ大井さん」

 

 

 提督にも覚えがあり、恥ずかしそうに顔を背けた。

 

 

「大井はどうしたんだこんな時間に、もしかして同じ口か?」

 

 

 空気を切り替えるために、早口で捲し立てられる言葉。

 

 

「いえ、その、えっと」

 

 

 どこか後ろめたいことでもあるのか、視線を左右に行き来して、言いづらそうに口籠っている。

 

 

「いや、言いたく無いなら別にいいんだよ」

 

 

 踏み込むべき話題ではなかったか。空気の流れに深刻な物を察知し、「それじゃあ」。と焦ったように別れを告げる。下手に詮索しようものなら、地雷を踏み抜く可能性だってある、そっとしておくべきだ。

 

 

「ま、待ってください」

 

 

 大井の一声で、提督の戦略的撤退の足が止まる。話を聴いて欲しいのかも知れない、それとももっと暗いナニカか。ここで振り返れば、最後まで付き合う事が確定する。暫し熟考した後、意を決して向かい合う。再び対面する二人。

 

 

「あの、ですね」

 

 

 大井から様々な葛藤が見える、これは相当深刻な問題かも知れない。せめてこの場で答えれる物であってくれ。と意味もなく祈っていると、ゆっくりと正確に、何度も言いたく無いとした口調で言葉が練られた。

 

 

「北上さんの寝込みを、襲おうとしてました」

 

 

 途端モジモジと体をくねらせて、朱に染まっていく大井の顔。それを見ていた提督は、縁側で寛ぎポケーとしている北上から、感情を引き算したような表情を浮かべた。ピストルを向けられ手を挙げたら、銃口から一輪の花が飛び出してきた気分だ。

 思考停止から立ち直り、カウンターパンチが飛んでこないことを確認すると、なるほど大井にとっては確かに深刻だとひどく納得する。次の瞬間には、あれだけ悩んでいた自分がばからしくなって大笑いしていた、今度は立場が逆だ。キッと鋭くなった視線を確認すると、大井に失礼だと喉を鳴らし、無理やり深呼吸してなんとか気持ちを落ち着ける。

 ひとしきり笑った満足で顔面を程よく埋めると、平静を取り繕い語りかけた。

 

 

「そうか、時間を潰していたのか。それだったらどうだ、大井も一杯」

 

 

 冗談めかしく言ってみれば、「遠慮しときます」。と薄く笑って断られた。まあ当たり前だな。隣いいかと聞きながら座り、溜息をつかれるが、拒否の言葉もないのでお許しは出たのかな?

 光の中に腰を落とし、開け方に暫し戸惑いながらも(せん)コルクを無事開け、トクトクトクと液体をカップへ注ぎ込む。

 

 

「ストレートで飲むんですか?」

 

 

 大井の驚きを(はら)んだ声に生返事で応える。

 

 

「映画とかで見ないか? どっちが先に酔い潰れるか、度数の高い酒を小ちゃいグラスで(あお)るシーン。いやでもロックとか水割りとかそう言うのもあるか」

 

 

「お酒完全ド素人じゃないですか」

 

 

「いやーね、俺は断ったんですよー大井さん。でも、いいからいいからって気付いたら小脇に抱えてるんだもの。無理やり返すのも失礼でしょ? 時限爆弾じゃあるまいし」

 

 

 弁明を試みるが、大井には今ひとつ響いてない。

 

 

「業務に支障が出ても知りませんよ」

 

 

 呆れを感じさせるジト目で、暗がりからこちらを見ていた。マグカップを口の前に留め置き、話は進む。「まあでも、大井との楽しいお喋りを肴にして、この酒はゆっくり楽しむこととするよ」言った途端、大井は口をアーチ状にヒン曲げたと思いきや、腕を(さす)る動作を始める。

 

 

「いや、素直に気持ち悪いです」

 

 

 その声を聞きながら香り高い液体を喉に流し込むと、暫し咳き込んでクツクツと笑った。

 

 

「その笑い方も辞めてもらえませんか、直訴しますよ」

 

 

 「善処するよ」。と善処しない宣言をして、会話はそこで途切れた。

 喉と鼻腔を抜ける感覚を楽しみながら、お酒初心者は思考に浸る。成る程、確かに一口二口飲む分なら大して問題ないが、これが何杯も続くようなら流石にくどくなるな。口の中甘ったるくした状態でまた甘いもの食べるみたいな、定期的に口の中リセットしないと最後まで楽しめないパターンだなこれ。

 自分のリサーチ不足を知ってか知らずか、新たな発見に心躍らせ、また一つ成長できたと得意げにカップを傾けた。

 

 

「大井はいつ部屋に戻る気なんだ、もういい頃合いじゃないのか?」

 

 

 空になったカップへウイスキーを注ぎながら話しを振る。

 

 

「もし私がこの場を離れた後、提督が草むらか庭木に頭を突っ込んだまま誰にも見つからずに死んだとしたら、一番最後に会っていた私が罰せられる事になるんですよ。そう言うのめんどくさいので。提督がちゃんと部屋に戻って死ぬまで付いて行きますから」

 

 

「それ結局俺死んでね?」

 

 

 意地でも提督を殺したい。そんな大井の思考が現実となることは無いだろうが、なんやかんや言いつつも心配はしてくれているようだ。大井との付き合いも長くなるな。お酒を舌で転がしながら、最近はすっかり落ち着いた彼女を見て、自分の判断は間違っていなかったと確信する。

 

 

「大井には今日手伝って貰った恩もあるからな」

 

 

「その代わり、わかってますよね?」

 

 

「ああ、もちろんだとも」

 

 

 

 時間は暫し(さかのぼ)る。

 

 

 北上が巡回任務で外れており、非番である大井に応援の話をすると、条件付きでの了承を得る事に成功した。その内容は以下の二つ。

 一つ、お祭り当日に北上と大井、二人で出店を構える許可。

 二つ、前日の下準備に時間が掛かるのでその手伝い。

 おまけで提督ご自慢の激辛コレクションの一つを()っ払って行った。「や、約束が違うぞ」。とちょっとばかし焦って詰め寄ると、大井は振り返って手を差し出すよう促してきた。疑問を浮かべながらも手を差し出すと、互いの小指が絡まっていく。

 「指切りげんまん嘘ついたら''デスソース鼻から飲ます''、指切った」。と終始満面の笑みで(ちぎ)りが結ばれるのだった。針千本より生々しく現実味があり、本物の罰ゲーム臭がプンプンする辺り、大井はよく分かっている。

 俺はその発言に顔をヒクつかせながら、あまりにぶっ飛んだ計画は却下するぞ。と一様付け加えると、大井の笑みは消え、そんなの分かってます。そう口を尖らせて小言を吐いたのだった。

 

 

 時間を現実に戻そう。

 

 

 

 提督が残りを勢い良く飲み干すと、お別れの合図だ。

 

 

「よし! (とこ)に就いたら丁度眠くなるだろう。大井もそろそろ帰りなさい、あまり遅くまで起きてると睡眠薬が手放せなくなるぞ」

 

 

「そろそろ頃合ですかね。提督は部屋まで戻れるんですか?」

 

 

「大丈夫さ、ほらこの通り」

 

 

 ダンスを踊ったこともない提督の華麗なステップが炸裂すると、もういいです。と呆れながら手を振られた。

 

 

「玄関まではどうせ一緒なんだ、さあ行こう」

 

 

 肩を並べた二人は暗影(あんえい)へと向かう。

 

 

出店(しゅってん)計画の方は心配しなくて良いんだよな?」

 

 

「ええ、抜かりありません。九三式魚雷をこう展示して」

 

 

「それ大丈夫なんだよな?」

 

 

 月明かりで弱々しく照らされた人影へ、今度こそ光は届かない。二つの足音と声色は、静寂の鎮守府に、ただただ響くばかりであった。

 

 

 

 

 




あい、我慢できずに投稿してしまいました、内容薄くてゴメンネ。

もち、25日も投稿しますよ?

余裕ありすぎてサボってるとかそんなんじゃないですよ?

ケツ引っ叩かないと書けないとかじゃないですよ?

ホントだよ?

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