親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

11 / 51
言い訳はしません。

今日が25日です。


ツワモノ共は店の中

 

 

 本日は快晴なり。されど我が心に光差すことなし。野外のイベントともすれば、天気の良し悪しがもたらす影響は無視できない。だが正直、今の自分にそれを気にする余裕は無い。

 

 開会式。負担でしかなかった観艦式は無事進行中。あれだけ練りに練ったスピーチ原稿は、その直前まで手放せなかった。照りつける太陽を弾き返す、汚れを知らない純白の服装と軍帽で、人の群れを見下ろした。

 あくまで普通に、あくまで自然と。聴衆一人ひとりに目を這わせながらの語り口は、彼が指導者足る存在であることを嫌でも理解させる。

 とめどなく(あふ)れる手汗をお尻で拭う。知人を見つけ一瞬渋い顔をする。そう言った、いかにも人間らしい行動に気付いた人は、一体どれほどいただろう。壇上を去る提督を盛大な拍手が追い越した。やり切った達成感と引き換えに、執務仕事とはまた違う消耗を受け取る。

 

 奥へと引っ込む彼を、今度は高貴な拍手が出迎えた。普段ならばまず無いであろう、各々の賛美(さんび)を丁重に扱いつつ、提督はゆっくりとその場を離れて行った。

 提督のお仕事は現刻を持って終了。あの苦労に見合っているのかはあんまり考えたく無いが、本会場は提督不在でも事が運ぶようになっている。細かなスケジュール、組織化された彼女達ならば、大きな問題にならないだろう。

 

 

「ハー」

 

 

 無造作に置かれたパイプ椅子にどっかりと腰を下ろすと、吐息が漏れた。帽子を取り、クシャクシャと頭の熱気を逃がしてやれば、やっと落ち着ける。

 鎮守府近海で予行演習が始まる時間か。大井と北上には、出来れば演習組に移ってほしかった。二人の魚雷攻撃は強力で見栄えも良いからな。料理ができる人員が少なかったから、結果的に屋台組志願に文句は言わなかった。

 朝昼晩は食堂で美味しいご飯が食べれるし、夜は居酒屋が空いている。料理を趣味にでもしてない限り、必要性が薄いのだろう。

 

 ここでふと、一抹の不安が脳内を過る。大井、ちゃんとやれてるかな。主にと言うか全てなのだが、北上のことで客と揉めてなきゃ良いが......。接客向きの北上に近付く、老若男女問わずに噛み付く様が、容易に想像出来てしまった。

 

 こりゃー....ダメかなー。

 

 『出歩くな』と事前に釘を刺されてはいるものの、 気になってしまった以上、おちおち休んでもいられない。それに、堅苦しい肩書きをお持ちの方々は、随分と機嫌が良さそうに高笑いをしていらっしゃる。

 何時もならコネ作りに邁進するのだが、今はそんな気分じゃない、流石に今日は疲れた。今この瞬間、あのテンションで鎮守府の案内をしろ! なんて言われた日には、あの良く肥太った頬っぺたをパチパチ拍手する自信がある。

 出歩くな。出歩くな、ね。ちゃんと予防線が貼られている以上、『知りませんでした』じゃ済まされない。だが問題が起きてたら非常にマズイ。上層部の顔に泥を塗るのはもちろんのこと、海軍全体の沽券に、最悪管理不届きで降格も有り得る。

 

 

 ..........。

 

 

 提督はすぐにでも飛び出して自らを安心させたかったが、そこを理性でなんとか押し留める。何かいい手は無いものかと、顎を触りながら、頭を戦闘指揮ばりにフル回転させるのだった。

 

 

──────

────────────

──────────────────────

 

 

 花より団子と言う(ことわざ)がある。美しいもので心満たされるより、腹を満たす方が断然良い。そんな心が幼い者に向けた、ある種、蔑視(べっし)の言葉である。

 

 だが、花=艦娘・団子=屋台と置き換えた時、いったい何が起きるか。

 かき氷を持つ手は傾き、容器から飛び出して自由落下しそうだ。焼きそばを口に(くわ)えたまま時が止まり、目で追ってるのに気付かれ、パートナーに耳を引っ張られている。ナンパしようと声を掛けて困らせれば、艦装を身に付けた見回りに肩を掴まれ顔を強張らせる。ナンパは目標を切り替え、振り返って手を握れば、今度は胸倉を掴まれ高い高い。

 昔の人は上手い事考えて短く諺と言う形で現代にその教訓を伝えるが、この場所には相応しく無いようだ。二度あることは三度ある、三度目の正直。矛盾するような言葉もあるが、花より団子の反対なんてあったかな?

 

 祭り特有の、ソース物が香る屋台通り。流石、手塩に掛けて開催されているだけあって本格的だ。どれもかれも、書類上で存在を知っているつもりだったが、こうして屋台の列を見ると圧巻だな。

 

 頭を貧弱な両手で支えながら、怪異の目を向けられるその物体は、およそマスコットと呼んで良いのかすら危うい。無理くり艦娘の相棒である妖精さんを着ぐるみにしたのであろう、ギリギリ理解に及ぶ姿形は、アンバランスが度を過ぎて支えがなければ中身がこぼれ出てしまう。いや正確に言うのならもう出ている、頭より下は提督剥き出だ。

 

 小さくトテトテとした愛らしい妖精さんの生首を、着ぐるみ製作にあたって、二頭身に近付けるべく巨大化した物だった。作った張本人は頭の処遇(しょぐう)に一体何を思い、ただただ周囲を威圧させ、子どもを泣き叫ばせる代物を作り出してしまったのだろう、是非ともご教授頂きたい。とは言え、小さくするべきか大きくするべきかと問われれば、あながち間違った選択でもなかったのかも知れない。

 

 この正しく間違えた、いや違う。発想段階からすでにコケている欠陥品を両手で支えながら、提督はお目当のお店へと難なくにじり寄っていくのだった。通路では邪魔にしかならないであろう障害物だが、ご丁寧にセルフモーゼが発動。進む先には道が切り開かれて行く。

 

 そして、ようやく見覚えのある看板を視界に捉えた。ビッグヘッド内部は視認性が悪く、頭を持ち上げる要領で、それがなんのお店なのか確認しなければならず、非常にかったるい。

 看板には、アメリカンホットドックの文字がデカデカと、その存在感を主張していた。その周囲には彼女らご自慢の魚雷が串に貫かれ、右端に描かれた妖精は両手をサムズアップさせていた。そこから伸びた吹き出しには、『ウマイゼ!』の文字が。

 かつての敵国を冠する食べ物に抵抗は無いのだろうか? と素朴な疑問を内に秘め、エプロンと三角巾を装備した二人に近付いて行く。接客をする大井は、こちらの存在に気付きギョッとする。頭以外は生身なので、そこに注目して目を細め、恐る恐ると話し掛けてきた。

 

 

「......もしかして、提督ですか?」

 

 

 (うなず)きたいところだが、何分身体の6割程を頭に支配されているため、頭から手を離して両手でいいねポーズを決めた。直後、頭部が傾いたのでポーズを解いて抑え込む。それでも大井には伝わったらしく、お客万来の前だと言うのに振り返り、その体を小刻みに震わせ始めた。調理をしていた北上が異変を察知し、被り物の姿を認める。

 

 

「あれー、提督じゃん。何してんの? 罰ゲーム?」

 

 

 一発で看破された、顔を隠していたのになぜばれたのだろう。

 

 

「営業妨害ですよ。ちょっとどころじゃなく明確に邪魔なので退()いてください」

 

 

 やり取りの間で復帰した大井が、ハッキリとお前邪魔宣言したので、お暇させ貰おう。ゆっくりと背後を振り返る提督だったが、側に飾られた九三式魚雷を正面に停止する。

 

 

「魚雷は信管抜いてありますよ、ただの飾りです」

 

 

 大井の返答にまたゆっくりと向かい合う。

 

 

「良い加減にしてください、憲兵隊を呼びますよ」

 

 

 今度こそ、ゆっくりと方向転換。そしてのっそのっそと二人の店の前から遠ざかって行った。なんだ、心配するほどの事じゃなかったな。大井が接客をして北上が調理、逆の発想で来たか。

 ふー、これで心置き無く休めるぞ、まだ片付けとか残ってるけどしばらく横になろうそうしよう。騒ぎをゆっくり移動させながら、いかにも場違いな着ぐるみは自らの任務を終える。騒ぎを聞きつけた憲兵に取り囲まれるまで後少し。

 

 

──────

────────────

──────────────────────

 

 

 フラフラした足取りで執務室の窓から、日が沈み行く鎮守府を眺める。もう一ミリだって動きたくない。憔悴しきった老人のように、白け切った背中で現実逃避する。机に盛り上がった書類。たとえ祭りがあろうとも、深海棲艦は攻撃の手を緩めはしない。

 最低の最低からマシになったとは言え、マシになってなきゃ人類終わってたでしょ?  でも、やらないと終わらないからね。駄々を捏ねるのはそれまで、窓から映る後片付けする彼女達を見ていたらサボってるのが忍びなくなって来る。心を無にして取り掛かろう。

 

 

 コンコン。

 

 

「失礼しまーす」

 

 

 許可を出す前に入室して来たのは大井。最近、俺に対する遠慮が消失しつつあるような気がする。片手に細長い包装紙を持ち、こっちに歩いて来る。

 

 

「観艦式終わったのにまだ仕事あるんですか。(あわ)れですね。私はまだやる事あるので手伝いませんよ。....はいどうぞ、差し入れです」

 

 

 差し出された手には、ひたすら雑用させられた記憶に新しい、アメリカンドックの姿があった。クシャリと差し出された包装紙を受け取る。用は済んだと背を向ける大井に礼を言うと、短い返答の後、扉が開き再び閉まった。

 

 仄かな熱を帯びているブツにかぶり付けば、ポロポロと胡麻がこぼれ落ちた。慌てて紙で受けを作りながら、味を噛み締める。

 生地にこれでもかってほど黒胡麻が練り込まれており、それで魚雷の雰囲気を出している。味の方は言っちゃ失礼だろうが、至って普通だ。最近活動を再開したコンビニで買うような庶民的な味。

 甘いホットケーキミックスがベースの生地、胡麻の奥深い香り、二口目にアクセントを加えるソーセージのしょっぱさ。リズム良くパクつき詰め込んで、リスのような頬袋を作る。ゆっくり味わう余裕を端に追いやり、残った串を紙で包み机の端に寄せると、流れるように仕事に取り掛かるのだった。

 

 




3978
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。