親しくなってからぶっ壊れるまで   作:おおきなかぎは すぐわかりそう

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かくして役者は揃った


都会へGO!!

「貴方に指令書が届いてるわ」

 

 

 痛々しい包帯は赤黒く染まって。

 

 頭・手首・太もも、計三箇所に処置を施した彼女。長門型戦艦、陸奥は敬礼の後、ある人物に語り掛けた。呆然としていた男は意識を取り戻すと、ゆっくりと陸奥の姿を確認。再度、差し出された封筒を震える手で受け取り、封を切った。恐る恐る紙を広げ、読み進めていくうち、クシャリと両手に力が加わっていた。

 

 

「何で。何で僕が」

 

 

 その内容は任命書だった。本土防衛隊の一つ、その指揮官に、この瞬間彼はなったのだ。

 

 

「臨時編成のため数こそ少ないですが、全力を尽くします。ご命令を提督」

 

 

「ま、待って下さい! ぼ、僕はまだ、全過程を終了していない一候補生ですよ! それなのにいきなり指揮をしろだなんて。余りに横暴ですよ!!」

 

 

 狼狽える提督を静かに見つめる陸奥は、居た堪れず目を逸らす。そして、まるで自分に言い聞かせるように、粛々とした口調で発言する。

 

 

「その横暴がまかり通ってしまうくらいに、残念だけど状況は逼迫しているの。あなたも知ってるでしょう、日米の連合艦隊が太平洋上で全滅したって。両政府は太平洋戦線の放棄を正式に発表した。現在、各地では時間稼ぎを目的とした遅滞戦術を展開し、来るべき本土決戦に向けて全力を挙げているわ」

 

 

「だからって、だからって」

 

 

 任命書を両手で押しつぶして、その身を頑なに丸め、いきなり降って湧いた重圧に目一杯の反抗心を持って応える。時代の流れと言う圧倒的な力の前では、いくら個人が頑強に抵抗しても、化け物みたいな力で何もかも巻き込み最後には何も残さない。土砂のように濁った水流は、有り余る凶暴性をただただ振りまきながら、前座として男に飛沫を弾く。次の瞬間には....。

 

 

 

 

ドドッタン

 

 

 

 

 定期的に揺れ響く車輪の音。

 

 車窓からは刺すような鋭い朝日。

 

 その両方が寝惚けた頭に刺激を渡す。

 

 どうやらベットから転げ落ちてしまったようだ。息できない、助けて。

 

 ひっくり返ったゴキブリのように手足をバタつかせ、絶命に至る所であったが、肺に空気が供給された事でそんな事態は免れた。ドタドタドタと徐々に喧しい足音が近付き、ドカーンと勢い良く扉が開け放たれると。開けた本人とバッチシ目が合う。今の状況を客観的に語るなら、良い歳した大人が掛け布団を引き連れて尻餅をついている。

 念のため、周囲に目を向けながら接近してくる者に、片手で謝りながら異常がないことを告げる。最後にグルリと周囲を見渡すと、張り詰めた顔を緩め、退出していった。

 下らないことで呼び込んでしまった、自分が考えるに最悪の目覚めである。打ち付けた頭と背中を庇いながら、イデデと起き上がると、対岸のベットには微睡む大井が。顔をこっちに寄越して、長髪を振り撒いて。なんとも無防備に体を晒す辺り、なんと言えば良いのか男として認知されていない説が浮上する。

 

 いや別に気にしてないけど、大井には北上が居るからね、ウンウンウン。

 

 誰にアピールしてるのか知らないが、大井は護衛兼付き添いなので、そんな騒ぎ立てるようなものではない。それに旅のお供は彼女の他にも居る、部屋は違うが。悲鳴の一つでも上げれば、さっきの様に飛び込んで来て即刻豚箱有罪判決だ。

 特に何も考えずジーッと眺めていると、唸り声で喉を鳴らし、ショボショボと重たげに瞼を上げ空気を揺らし息を漏らす。車窓から入り込む朝日から逃げるように寝返りを打つと、直後ガバッと起き上がり、首を潜望鏡さながらにグルグル回し始めるのだった。思わずビクッと驚くのを目敏く感知して、俺の顔面を注視すると、目頭を揉み込みこちらにもハッキリ聞こえる声で独り言を呟くのだった。

 

 

「あぁ、最悪の目覚めです」

 

 

「おい、ちょっとは躊躇しろ」

 

 

「夢の中で提督が北上さんの犬になってました。悪夢以外の何物でもありませんよ」

 

 

「ちょっと何言ってるかわからないんですけど」

 

 

「北上さんにお手をしていたら、ケージに入れられた提督が現れて、あろうことか可愛がられてたんですよ!! もう、最悪ですよ、どう責任を取ってくれるんですか! ああ、もう、思い出しただけで悪寒が走ります!」

 

 

「それ俺が悪いの?」

 

 

「当たり前じゃないですか!! あ〜正夢になりそうで怖いです。もし北上さんに近付こうものなら張り倒しますよ!」

 

 

「いや、提督の立場でどうしろと」

 

 

 両手を胸の前でワキワキさせて、嫌悪感をベットで遊ばせる。一体俺は大井からどんな認識をされているのだろうか。いやだが北上が絡まなければ大丈夫なんだよな? 嫌われている訳じゃないんだもんな? いやいや北上の事を詳しく聞きたいから今回の付き人を頼んだのに、それ聞けなかったら意味ないじゃん。ハイパーズの前で北上の事を大井に聞くのもなんか変だしなぁ。ここは話を逸らしてでも大井を落ち着けるべきか?

 

 

「と言うかいつまでこっち見てるんですか、女性の寝起き姿をまじまじ見つめるなんて、とんだ変態ですね」

 

 

「実は俺も、なんだか怖い様な懐かしい様なそんな夢を見ていた気がするんだが、??? あれ、どんな夢見てたんだっけ?」

 

 

「そんなこと私に聞かないで下さい、北上さんのペットになった夢なんじゃないんですか」

 

 

「人のこと、そんな安直にペットにしないでいただけますかね大井さん」

 

 

 上手く話しを逸らす事には成功したものの、よほどインパクトが強いのか、謎の北上ペット押しにたじろぐ。今は良いが、北上の事を聞き出す時にちょっと骨が折れそうだ。

 

 

「あの、その。寝起きで恥ずかしいので....部屋から出てもらって良いですか?」

 

 

「....わかった、列車観光にでも行ってくる。10分、いや15分で戻る」

 

 

「わかりました」

 

 

 一応、俺にも羞恥心は対応しているのか、北上専用の特殊機能では無かったようだ。落ち着いたのか、ほんのりと頬を染めて掛け布団を口元に引っ張り、目線を明後日に向かわせる大井に気を使いさっさと出て行く。

 まだ違和感がする胸の辺りをさすって、本日出席する中央会議に思いを馳せた。北方方面での深海棲艦の妙な動き。ロシアとアメリカの間、ベーリング海を越え、カムチャッカ半島とアラスカを進んだその先に、決して無視できない量の深海棲艦が姿を消していると資料にはあった。前回の東南アジアルート安定を目的に実施された、南方地域殲滅作戦からめっきり動きが鈍化していると思われたが、どうやらそんな生温い相手では無いらしい。

 一体何が目的で何を企んでいるのか、ここでその狙いを好き放題決めつけるのは早計だろう。いや、そんな事は本当はどうでもよくて、彼女の事を考えるキッカケに過ぎないのかも知れない。少数精鋭を掲げる北方方面軍、そこに在籍する陸奥が今の姿を見たら、一体どんな言葉をかけてくれるだろう。何にせよ、俺が戦う理由が彼女にある。浅い意味でも、深い意味でも。

 

 

 

 

 

 豪華絢爛とは言い難い、重苦しいコンクリートが幾重にも流し込まれた、要塞の風貌を漂わせる建物の中に俺達はいた。

 

 元々は日本の名が知れた港であったこの場所は、拡張工事を繰り返し、周辺からは住民の喧噪が消えた対深海棲艦の総本山となっていた。

 

 建造物を海に面しながら、日本で最も安全な場所と言わしめるだけの軍事力を保持するここは、さぞかし重要な会議に打って付けだろう。会場に入ると、同期に酒のお礼を言ったり、軽い世間話をして時間まで過ごした。

 大井と言えば、色恋の話題に巻き込まれた時に、ススーと横にスライドしながら遠ざり心情を示す。すると、お前も大変だなガッハッハ、などと言われ肩をビシバシ叩かれた。痛えっての。

 時間になると着席し、北方方面軍の席次を眺めて見るが空席だ。北方方面軍は、日本海へ接近してきた深海棲艦対処のため、大陸シーレーン防衛のために欠席であると説明を受けると、ちょっぴり残念な気持ちになった。そんな中でも会議は続く。大井との間に、席一個分の距離を空けられながら。....もちょっとこっち来なさいよ大井さん。

 

 

 

 会議をまとめると、深海棲艦の狙いは北極の基地化ではないか、と結論が出た。

 

 もしも太平洋・大西洋間の移動が容易になれば、決まった本拠地を持たない深海棲艦側は大挙して襲い掛かるだろう。

 

 この結論に日本とイギリスが悲鳴を上げることになる。開戦よりシーレーンはズタボロにされ、ようやく安定供給が見込めると安堵した矢先にこれだ。なまじ苦労をしたもの同士、通ずる所があったのか、無言の握手が交わされ共同作戦が決定。その他にも協力を申し出たアメリカ、微力ながらフランス・ドイツ・イタリア・ロシア等々が支援に加わり、史上最大の合同作戦に至るのであった。

 

 激しい抵抗が予想されるこの作戦、唯一の救いとなるのが、相手は基地を0(ゼロ)から建造する点だ。

 

 深海棲艦は元々、人類側の基地を占領・改築・拡張することで版図を広げてきた。ハワイ・オワフ島がその良い例で、現在では太平洋全域に絶えず異形の者達を供給し続ける、一大拠点と化している。北極では人類の手が届かぬゆえに、抵抗もなく作業を行えていただろうが、狙いがほぼほぼ確定している今ならば放っておく訳にもいかない。基地として稼働する前に徹底的に叩かなければならない。

 この結論を受け、方面軍制は一時廃止。連合艦隊を各所から募り、北極作戦に向けて全力を注ぐ方針となった。

 

 『詳細は後日、書類にて』の言葉でこの場はお開きになる。席を立つ人々を背景に、提督は座ったまま顎を撫で、人選を頭でこねくり回していた。

 

 

バサ

 

 

「何やってるんですか提督、考え事なんか後でして下さい。さっさとここから出ますよ」

 

 

「ん、そうだな帰ろうか」

 

 

「いえ、北上さんにお土産を頼まれているので、それを買ってから帰りましょう」

 

 

「いや、俺いま機密書類持ってるんだが」

 

 

「大丈夫ですよ着替えれば、提督は制服着てないと地味ですし。誰も重要な書類持ってる男だなんて思いませんよ」

 

 

「着替えなんて今持ってないんだが」

 

 

「そこら辺の売店で売ってるんじゃないですか? 」

 

 

 書類で頭を叩かれたと思ったら、無礼千万の応酬で寄り道を提案してきた。

 

 持参したカバンに荷物をまとめながら問題点を指摘していくが、大井は淀むことなく答えていく。

 

 それでも心配が勝り考え込めば、大井は顔を渋くして、ちょっとイライラしてますよと腕を組む。

 

 

「私の護衛がそんなに信用ならないですか?」

 

 

「護衛に関しては心配してない。ただ、ちょっと北上のことで話さないか?」

 

 

「うわ、なんですか本格的に北上さんのペットになる気じゃないですか、キモくてキモすぎてキモいです」

 

 

「北上の安全にも関わることなんだ、頼む」

 

 

 今朝の一方的なやり取りが尾を引いてか、全く話す気の無い大井に必死になって頼み込む。こう言われれば流石に話をせざる終えないだろう。

 

 

「はぁー、わかりました。その代わり北上さんへの伝言は私が引き受けます、それで良いですね?」

 

 

「ああ、それで良い。そういえば大井は着替えあるのかって成る程、準備がよろしいようで」

 

 

 深く意味を考えずに了承の返事をすると、制服のままの大井に替えはあるのか尋ねる。得意げな顔と、トランクケース一杯の荷物を預けていた事を思い出し自己解決するのだった。二人は出口に向かって歩を進める。俺も、なにか数で誤魔化せるお土産でも買っておこうか。

 

 

 

 

 

「なんですか、そのダッサイ服は」

 

 

「いやこれしかなかったんだって」

 

 

 集合場所の駅前で、のっけから毒を吐かれた。スペースの限られた売店にセンスの良さを期待する方が間違っている、気がする。

 

 対する大井はどこか誇らしげにその場でクルリと回ってみせた。ロングスカートを翻して、感想を求める期待した眼差しに、なんと言葉をかけるべきか迷ってしまう。深窓の令嬢を思わせる開口一番との真逆の服装にたじろぎ、口を開こうとして、やめた。

 口元を触って悩んでいると、いつもとは系統が違う事に気付く。やけに乗り気な大井を再び見て、もしやと思い恐る恐る言葉にする。

 

 

「もしかして、これ北上に選んでもらったやつ?」

 

 

「はいそうです! どうです? 似合いますよね?」

 

 

 やっぱり。黙っていれば儚くおしとやかな印象を受けるだろうが、握り拳のせいですべてが台無しだ、などと言ったら怒ること間違い無し。いや、これは正しく脅迫だろう。

 

 

「あぁ、(黙ってれば)似合ってるぞ」

 

 

「変な間があった気がするんですけど、殴られたいんですか?」

 

 

 褒めちぎりの言葉を散りばめて、なんとか機嫌を取り戻した大井だったが、今度は北上の素晴らしさを主張する北上演説が始まった。小一時間続きそうだったので、大井の背中を押して改札口へ急いだ。

 

 

 

 

 

 普通列車の下り線に揺られながら、最近の出来事について話す。

 

 大井は北上関連、俺は秘書関連で8対2の会話が続き、足して十割北上の事しか話してない。ちょっとどころか、かなりマズイ気がするが、大井の表情を見いているとそんな気持ちも失せてくる。それだけ一緒にいてケンカしないのだろうか? 今度北上に聞いてみよう。

 その後も熱心に語る、ほぼ一方的なお喋りにも終わりが近付いてきた。目的の駅で扉が開くも、大井はどこか喋り足りないのか、口をマゴマゴとさせながら駅に降り立つのだった。

 

 目的地は駅近のデパート、ここ限定のスイーツが食べたかったようだ。

 

 

「俺も買い物したくなったから、ここらで一旦別れようか」

 

 

「そうですね、集合場所を決めましょう」

 

 

「そう言えばお昼まだだったよな? あそこのレストラン前に集まろう」

 

 

「わかりました。言っておきますけど、あんまり深く踏み込んだり長くなるようなら、遠慮なく帰らせていただきますからね?」

 

 

 デパート入り口の近く、洋食レストランで再度集まることとなった、二人はここで二手に別れ行動をする。一方は大人数に配れる適当なお菓子を探しに、もう一方は北上に頼まれたスイーツを確保するために。

 大井はエスカレーターへ向かった。デパ地下の列に並び、ショーウィンドー越しに覗く、順当に並ぶスイーツの列に感嘆する。艶かしい苺ソースの光沢、嗅覚を刺激するブルーベリーの甘酸っぱい匂い、しっとりとしたスポンジケーキが仄かな甘味を伴って口に消えてゆく感覚。目を輝かせる大井を感じ取れば、スイーツにひれ伏したくなる気持ちも、片鱗ながら伝わるだろう。

 そんなどうしようもなく乙女な思考を振り払って、お目当ての品を探す。看板商品なのか、キャッチーでポップな甘味の芸術が姿を表すと、捌けた列に大井が躍り出る。定員に指差しと呪文で指示すると、扉を開けより一層鼻腔をくすぐられた。小さなケーキ箱にそっと詰められると、会計を済ませ、列を離れた。

 

 

 

 

「遅いですよ、もう。あと少し遅れてたら帰っちゃうところでした」

 

 

「悪い悪い。中々選ぶのに手間取っちゃって」

 

 

「しっかりして下さいよ、スイーツが痛んじゃうじゃないですか」

 

 

 レストランの席に着く二人はメニューをパラパラとめくり、大井はオムライス、提督はカレーを注文した。料理が出てくるまでの間で、北上について聞いてみる。手を組んで勿体振るように語り出す大井に、提督は聞き入るのであった。

 

 

 

 




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